JP3629486B2 - 締結体の弛み止め機構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、ボルトとナットとを用いた締結体の弛み止め機構に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
実開昭57−83911号公報
【0003】
従来より、ボルトとナットとを用いた締結体の弛み止め機構については種々の提案がなされている。これらには、大きく分けてボルトとナットとの間の摩擦抵抗を利用するものと、別個の部材を取り付けることにより、メカニカルな弛み止めを行なうものが存在する。
【0004】
上記のうち、後者の弛み止め機構の一例として割りピンを用いるものがある。これは、ボルトの軸部に径方向に貫通穴を設けておき、ナットには端面にピン用溝を設けておく。そして、このボルトとナットとを締結した後、ナットのピン用溝に割りピンを配位した状態となるように貫通穴に割りピンを通し、割りピンの先端部を広げて固定する。このようにしてピン用溝に割りピンを配位した状態で固定することにより、ナットをボルトに固定し、ナットが弛むことを防止できる。
【0005】
しかし、この割りピンを用いた弛み止め機構においては、ボルトの貫通穴とナットのピン用溝が直線状に並ぶようにナットの締結位置を調整する必要がある。このために、貫通穴とピン用溝を共に目視しながら作業可能な工具である、モンキーレンチやメガネレンチを使用する必要があった。また、割りピンを広げるための工具も別に必要であり、作業性に問題があった。
【0006】
また、他の一例としてキャップを用いるものがある。これは、特許文献1(実開昭57−83911号公報)に記載のものがその一例としてあげられる。
これは、ボルトの軸部の先端に、軸部よりも小断面であって、断面が多角形形状や外周部分に溝を形成した突出部を形成したものである。この特許文献1に記載の考案においては、軸部の先端部をカットして、対向する平面を形成したものとしている。そして、キャップはナットの外周面とボルトの突出部にそれぞれ係合させるものであり、ナット及びボルトをキャップで覆うようにして止めることにより、ナットが弛むことを防止するものである。
【0007】
しかし、このキャップを用いた弛み止め機構においても、上記の割りピンを用いたものと同様に、キャップの形状に合わせるために、ナットの締結位置を調整して、キャップを取り付ける必要があった。
【0008】
上記のように、ナットの締結位置を調整するためにナットを締めたり緩めたりすることは、わずらわしい作業を必要とするものであって作業性に問題があった。
また、締結体の締め付け力の管理が重要なことは周知のことであるが、上記のようにナットを締めたり緩めたりすることで締結体の締め付け力がばらつくために正確な管理が不可能であり、この点においても好ましいものではなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記の問題に鑑み、本願発明は、ナットの締結位置を調整することなく、ボルトに対してナットを締結したそのままの状態で取り付け可能であり、効果的にナットの弛みや脱落を防止できる、キャップを用いた締結体の弛み止め機構を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、ボルト1とナット2とキャップ3とを備えた締結体10の弛み止め機構であって、ボルト1には、ねじ山を有する軸部11の先端に突出部12が設けられ、この突出部12の外周部分には、キャップ3と係合するための係合部12aが形成されたものであり、キャップ3は、少なくとも上記の突出部12の一部と係合するボルト配位部31と、少なくともナット2の外周部分の一部と係合するナット配位部32とを有し、ボルト1に対してナット2を締結したそのままの状態で、ボルト1及びナット2にキャップ3を取り付けできるように、キャップ3にボルト配位部31とナット配位部32とを形成したものであり、ボルト1の、軸中心Zと係合部分12aの中央部とを結ぶ仮想線をボルト側仮想線X1とし、ナット2の、軸中心Zと頂点部分2aとを結ぶ仮想線X2a、並びに前記仮想線X2a,X2a同士の間を所定の割合で等分した仮想線X2bと、からなる仮想線をナット側仮想線X2とし、ボルト配位部31には、突出部12の係合部分12aと係合するために、中央部がボルト側仮想線X1上となるようにキャップ側ボルト係合部31aが、ナット配位部32には、ナット2の頂点部分2aと係合するために、中央部がナット側仮想線X2上となるようにキャップ側ナット係合部32aが、それぞれ形成されており、ボルト1にナット2を締結した際の、ボルト側仮想線X1とナット側仮想線X2の位置のずれのうちで最小のものよりも、ボルト1にキャップ3を係合させた状態における、ボルト1の係合部分12aの中央部とキャップ3のキャップ側ボルト係合部31aとの間の遊びと、ナット2にキャップ3を係合させた状態における、ナット2の頂点2aとキャップ3のキャップ側ナット係合部32aとの間の遊びとのそれぞれの和の方が大きくなるように、ボルト配位部31とナット配位部32とを形成したものであり、上記の遊びの和が±5°未満とされたことを特徴とする締結体の弛み止め機構を提供する。
【0011】
また、本願の請求項2に記載の発明は、ボルト1とナット2とキャップ3とを備えた締結体10の弛み止め機構であって、ボルト1には、ねじ山を有する軸部11の先端に突出部12が設けられ、この突出部12の外周部分には、キャップ3と係合するための係合部12aが形成されたものであり、キャップ3は、少なくとも上記の突出部12の一部と係合するボルト配位部31と、少なくともナット2の外周部分の一部と係合するナット配位部32とを有し、ボルト1に対してナット2を締結したそのままの状態で、ボルト1及びナット2にキャップ3を取り付けできるように、キャップ3にボルト配位部31とナット配位部32とを形成したものであり、ボルト1の、軸中心Zと係合部分12aの中央部とを結ぶ仮想線をボルト側仮想線X1とし、ナット2の、軸中心Zと頂点部分2aとを結ぶ仮想線X2a、並びに前記仮想線X2a,X2a同士の間を所定の割合で等分した仮想線X2bと、からなる仮想線をナット側仮想線X2とし、ボルト配位部31には、突出部12の係合部分12aと係合するために、中央部がボルト側仮想線X1上となるようにキャップ側ボルト係合部31aが、ナット配位部32には、ナット2の頂点部分2aと係合するために、中央部がナット側仮想線X2上となるようにキャップ側ナット係合部32aが、それぞれ形成されており、ボルト1にナット2を締結した際の、ボルト側仮想線X1とナット側仮想線X2の位置のずれのうちで最小のものよりも、ボルト1にキャップ3を係合させた状態における、ボルト1の係合部分12aの中央部とキャップ3のキャップ側ボルト係合部31aとの間の遊びと、ナット2にキャップ3を係合させた状態における、ナット2の頂点2aとキャップ3のキャップ側ナット係合部32aとの間の遊びとのそれぞれの和の方が大きくなるような、上記の各仮想線X1,X2の組み合わせが、360°の範囲内で少なくとも1組存在するように、ボルト1の係合部分12aが形成されたものであり、上記の遊びの和が±5°未満とされたことを特徴とする締結体の弛み止め機構を提供する。
【0012】
また、本願の請求項3に記載の発明は、六角形状のナット2を用いたものであって、キャップ3は、外観が袋ナット状であって、内部が空洞になっており、この空洞と連通するようにして下部に開放された部分であるナット配位部32と、上部に形成された貫通穴であるボルト配位部31とを有するものであり、キャップ3のボルト配位部31には、周方向にY個のキャップ側ボルト係合部31aが形成され、キャップ3のナット配位部32には、周方向にX個のキャップ側ナット係合部32aが形成され、このキャップ側ナット係合部32aは、ナット2の頂点部分2aの形状に一致する三角形状の溝とされたものであり、キャップ側各係合部31a,32aは、360°毎にZ個が、θ°以内のずれ角となるように形成されたものであって、X,Y,Z,θが下記 (i) 〜 (x) のうち、いずれかの組み合わせであることを特徴とする、請求項1または2に記載の締結体の弛み止め機構を提供する。
(i) X=6、Y=7、Z=1、θ=4.3
(ii) X=6、Y=11、Z=1、θ=2.7
(iii) X=12、Y=5、Z=1、θ=3
(iv) X=12、Y=7、Z=1、θ=2.1
(v) X=12、Y=10、Z=2、θ=3
(vi) X=12、Y=11、Z=1、θ=1.3
(vii) X=18、Y=5、Z=1、θ=2
(viii) X=18、Y=8、Z=2、θ=2.5
(ix) X=18、Y=10、Z=2、θ=2
(x) X=18、Y=11、Z=1、θ=0.9
【0013】
また、本願の請求項4に記載の発明は、ナット2の上部に形成された、略円筒状の突起21の側面を一周するようにキャップ保持溝22が形成され、キャップ3のナット配位部32の上方には、上記のキャップ保持溝22に対して嵌合するキャップ保持用爪33が形成されたことにより、ナット2にキャップ3を取り付けた際において、キャップ3が、ナット2と、ナット2が締結されたボルト1とから脱落することを防止することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の締結体の弛み止め機構を提供する。
【0014】
本願発明に係る締結体の弛み止め機構は、メカニカルな構造であることより、信頼性の高い締結体10を提供することができる。また、従来必要であったナットの締結位置の調整が必要なく、ボルト1に対してナット2を締結したそのままの状態でキャップ3を取り付け可能であるため、締め付け力を確実に管理でき、効果的にナット2の弛みや脱落を防止できる。
また、ナット2の形状を特殊形状としない限り、一般工具のみで締結可能であるため、組み付け時間を大幅に短縮でき、作業効率を向上できる。
また、ボルト1の先端部がキャップ3で覆われるため、ボルト1の先端部に引っ掛かることによる怪我などを防止できる。また、いたずらでナット2を取り外されることなども防止できる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面と共に、本願発明の実施の一例を取り上げて説明する。図1は本例におけるボルト、図2は同ナット、図3は同キャップを示す説明図であり、図4は本例のボルトに、ナットとキャップを取り付けた状態を示す説明図である。
【0016】
本例のボルト1は図1に示すようなものであり、軸部11にはナット2と同一ピッチであるねじが切られている(図示省略)。本例においては外径、ねじ径、ねじのピッチなどの主要な寸法はJISで規定されている規格寸法にて形成しているが、特殊な寸法で形成しても良い。
軸部11において、図1(B)の図示上方側の先端には突出部12が形成されている。突出部12は、本例においては、軸部11よりも断面積が小さく形成された筒状の突起である。また、この突出部12の外周部分には、軸方向と平行であって、周方向に10個の突起である係合部分12aが等間隔(36°毎)に形成されている。本例においては、係合部分12aの断面形状が、図1(A)に示すように三角形であるスプライン軸として形成されているが、半円形など他の形状の突起を形成したものでも良いし、本例とは逆に外周面に溝を形成し、凹部を係合部分12aとしても良い。また、図7(F)(G)に示すような、五角形などの多角形形状を有するものとしても良い。また、係合部分12aの数についても、本例のように10個に限られるものではなく、種々の数で実施できる。
なお、図1(A)に示すように、軸中心Zと係合部分12aの中央部とを結ぶ仮想線をボルト側仮想線X1とする。
また、本願発明に係るボルト1において、図1(B)に図示していない側(図示下方側)の先端については、通常の六角ボルトと同様に、六角形状の頭部を設けたものとしても良いし、他の形状の頭部を設けたものであっても良い。また、寸切ボルトとしても良いし、シャフト等と一体化したものであっても良く、多種多様な形状で実施が可能である。つまり、軸部11にナット2を締結するための螺旋状のねじを形成したものであれば、種々の形態で実施して良い。
【0017】
本例のナット2は、図2に示すようなものである。本例では六角ナットの上部を変形した形状としているが、その他の部分は市販されているナットと同様である。また、工具と係合する部分の外形寸法や、ねじのピッチなど主要な寸法は、JISで規定されている規格寸法にて形成しているが、ボルト1と同様、特殊な寸法で形成しても良い。
本例においては、六角形状の頂点部分2aが、後述するキャップ3のナット配位部32に対して引っ掛かることによりナット2の回動を防止する。なお、本願発明における頂点部分2aの形状は、多角形状の頂点はもとより、突起や溝など、種々の形態での実施が可能である。
【0018】
そして、本例のナット2においては、上部に略円筒状の突起21が形成されており、この突起21の側面を一周するようにキャップ保持溝22が形成されている。このキャップ保持溝22は、図4に示すように、ナット2にキャップ3を取り付けた際において、キャップ3の内面に形成されたキャップ保持用爪33と組み合わせてキャップ保持手段として機能するものであり、キャップ保持溝22がキャップ保持用爪33に対して嵌合することにより、キャップ3が、ナット2と、ナット2が締結されたボルト1とから脱落することを防止するものである。
【0019】
このキャップ保持手段は、ナット2からキャップ3が脱落することを防止できるものであれば良く、本例の形態に限定されるものではない。例えば、ナット2の側にキャップ保持用爪を設け、キャップ3の側にキャップ保持溝を設けても良いし、ポイント的に凹凸を形成しても良い。また、ピンなどの別個の部材をナット2とキャップ3を貫通するように設けても良い。更には、ナット2とキャップ3との間には直接キャップ保持手段を設けず、ボルト1とキャップ3との間に設けることによりキャップ3を保持するものとしても良く、種々の形態で実施が可能である。
【0020】
なお、図7(D)(E)に示すように、ナット2として一般的な六角ナットを使用する場合には、キャップ保持溝22などのキャップ保持手段の形成を省略しても良い。また、特殊な用途の締結体においては、四角形や八角形などの多角形形状や、円筒状で、表面に工具を引掛けるための平面や穴を形成したものとしても良い。
【0021】
また、本例においては、ナット2の上面、具体的には突起21にキャップ3との位置合わせを容易にするためのマーキング23がなされている。このマーキング23は、キャップ3の下部に形成されるナット配位部32の形状に合わせて付けられるものであり、本例においては、ナット配位部32のキャップ側ナット係合部32aが、周方向に等間隔に12箇所設けられていることに対応して、ナット2におけるマーキングは、ナット2の軸中心Zから頂点部分2aを結ぶ仮想線X2aと、これら仮想線X2a,X2a同士の間を二等分した仮想線X2bとからなる、ナット側仮想線X2上に計12本設けられている。よって、このマーキング23は、キャップ側ナット係合部32aを6箇所形成した場合は6本、18箇所形成した場合は18本というように、キャップ側ナット係合部32aを形成した数に合わせて設けられている。つまり、ナット2が六角形状の場合は6の倍数のマーキング23が形成されている。なお、本願発明においては、このマーキング23の形成は必須のものではなく、省略しても良い。
【0022】
本例のキャップ3は図3に示すようなものである。本例においては合成樹脂製であり、外観は袋ナット状である。
このキャップ3は内部が空洞になっており、この空洞と連通するようにして下部が開放されている。また、上部にも貫通穴が形成されている。この下部の開放された部分がナット配位部32であり、上部の貫通穴がボルト配位部31となる。
【0023】
ボルト配位部31は、図4に示すように、ボルト配位部31の内周面がボルト1の突出部12と係合することにより、キャップ3の上部がボルト1に取り付けられる。
ボルト配位部31の内周面にはキャップ側ボルト係合部31aが形成されている。本例においては、ボルト1の係合部12aの形状に一致する三角形状の溝が、等間隔に10個形成されている。ここで本例においては、キャップ側ボルト係合部31aと、ボルト1の突出部12における係合部分12aの形状が一致しているため、後述するナット配位部32とは異なり、キャップ側ボルト係合部31aに一対一の対応で、ボルト1の係合部分12aが配位される。
なお、図3(A)に示すように、軸中心Zとキャップ側ボルト係合部31aの溝の底部である中央部とを結ぶ仮想線は、ボルト1とキャップ3との間における取付時の遊びを考えない場合、ボルト1におけるボルト側仮想線X1と一致している。
【0024】
ナット配位部32も、ボルト配位部31とほぼ同様のものであり、本例においては、図4に示すように、ナット配位部32の内周面がナット2と係合することにより、キャップ3の下部がナット2に取り付けられる。
ナット配位部32の内周面にはキャップ側ナット係合部32aが形成されている。本例においては、キャップ側ボルト係合部31aと同様であり、ナット2の頂点部分2aの形状に一致する三角形状の溝が、等間隔に12個形成されている。キャップ3がナット2に取り付けられた際においては、ナット2の外形が六角形状であることより、キャップ側ナット係合部32aの1つおきに、ナット2の頂点部分2aが配位される。
なお、図3(C)に示すように、軸中心Zとキャップ側ナット係合部32aの溝の底部である中央部とを結ぶ仮想線は、ナット2とキャップ3との間における取付時の遊びを考えない場合、ナット2におけるナット側仮想線X2と一致している。
【0025】
ここで、ボルト配位部31及びナット配位部32については、本例のように、ボルト1の突出部12とナット2の全周に係合するものに限られるものではなく、少なくとも一部に係合するものであれば良く、本例以外の種々の形態で実施し得る。
【0026】
また、本例においては、キャップ3の内面におけるナット配位部32の上方に、ナット2のキャップ保持溝22に対して嵌合するキャップ保持用爪33が対角に2箇所形成されている。ナット2にキャップ3を取り付けた際において、ナット2のキャップ保持溝22に対してキャップ3のキャップ保持用爪33が嵌合する。この嵌合により、キャップ3に外力がかかった場合でも容易には脱落しない。
また、本例のキャップ3は合成樹脂製であるため、キャップ3に力を加え、ナット2のキャップ保持溝22とキャップ3のキャップ保持用爪33との嵌合を解除することにより、キャップ3をボルト1及びナット2から取り外すことができる。よって、キャップ3の繰り返し使用が可能であり、従来のように、2〜3回程度しか繰り返し使用できなかった割りピン方式よりも再使用性に優れている。このキャップ保持溝22とキャップ保持用爪33のそれぞれの形状は、種々に変更が可能であり、例えば上下方向に非対称な形状とすることにより、取り付け時に必要な力を比較的小さくしてキャップ3を容易に取り付けできるようにし、逆に、取り外し時に必要な力を比較的大きくしてキャップ3の取り外しを困難なものとするなど、作業性の向上や、取り付け後のいたずら防止などの観点から最適なものとできる。
なお、図7に示すように、キャップ保持溝22とキャップ3のキャップ保持用爪33のようなキャップ保持手段を一切設けないものとしても良い。
【0027】
本例においては、キャップ3の側面に窓部34が対角に2箇所形成されており、キャップ3の内部の空洞と連通している。この窓部34を通して、組み付け状態を目視で確認することができる。また、図6に示すようなキャップ取り外し工具4を用いる際に、引掛爪41を窓部34に引掛けるために用いる。
このキャップ取り外し工具4の使用方法について述べる。まず、図6に示すように、キャップ3の窓部34に引掛爪41を引掛けた上で、螺合により回動可能に取り付けられたハンドル42を用いて、押込部43を下方に押込んでいく。そして、この押込部43がボルト1の突出部12に当接した後は、ハンドル42の回動を続けるにつれ、引掛爪41が上方に引き上げられ、それに伴い、キャップ3も上方に引っ張られる。これにより、ナット2のキャップ保持溝22とキャップ3のキャップ保持用爪33との嵌合が外れ、キャップ3を取り外すことができる。
【0028】
ここで、キャップ3は、上部と下部とが一体となっているため、上部に位置するボルト配位部31と下部に位置するナット配位部32の位置関係は常に一定である。
しかし、ボルト1に対しナット2を締結した場合においては、当然ながら、ナット2とボルト1の突出部12の間の位置関係はランダムとなる。そのため、従来においては、キャップ3に合わせるために、ナット2を締めたり緩めたりして両者の位置関係を調整する必要があった。
【0029】
ナット2のねじ込みを調整することなくキャップ3を取り付けるためには、ボルト1にナット2を締結した際における、ナット2の頂点部分2aとボルト1の係合部12aとの位置(角度)のずれに対して、ボルト1及びナット2にキャップ3を取り付けた際の、ボルト1の係合部12aとキャップ3のキャップ側ボルト係合部31aの遊びと、ナット2の頂点部分2aに対するキャップ3のキャップ側ナット係合部32aの遊びとのそれぞれの和の方が大きくなるように、キャップ3のボルト配位部31とナット配位部32とを、遊びを持たせた形状に形成すれば良い。
【0030】
ここで、キャップ3におけるボルト配位部31のキャップ側ボルト係合部31aと、ナット配位部32のキャップ側ナット係合部32aとのそれぞれの位置関係について、図5と共に述べる。
本例におけるボルト配位部31は、既に述べたように、三角形状の溝であるキャップ側ボルト係合部31aが設けられている。このキャップ側ボルト係合部31aは周方向に10個設けられている。
ナット配位部32についても、ボルト配位部31と同様に、三角形状の溝であるキャップ側ナット係合部32aが周方向に12個設けられている。よって、ナット2にキャップ3を取り付けた場合には、キャップ側ナット係合部32aの一つおきに、外形が六角形状であるナット2の頂点部分2aが配位される。
そして、キャップ側ナット係合部32aはキャップ側ボルト係合部31aに対し、180°毎、つまり全周(360°)において2箇所で一致するように形成されている。
【0031】
一方、ボルト1の係合部12aは周方向に等間隔(36°毎)に10個設けられており、これはキャップ3のキャップ側ボルト係合部31aと一致するものである。
そして、ナット2については、形状が六角形のため、頂点部分2aが60°毎に存在する。ただ、上記のように、キャップ3のキャップ側ナット係合部32aは30°毎に設けられており、キャップ側ナット係合部32aに一致させてナット2の頂点部分2aを配位可能であることを考えると、30°毎に調整可能となる。
よって、両者の調整可能な角度の差は6°となる。そして、ボルト1にナット2を締結した際においては、両者の関係は、図5(A)に示す状態から図5(C)に示す状態にかけての状態となる。
【0032】
具体的に述べると、図5(A)に示す状態は、ナット2の側の位置aとボルト1の側の位置Aとが重なった状態であり、この時のずれ角は0°である。また、図5(B)に示す状態は、図5(A)に示す状態から図5(C)に示す状態までの間のちょうど中間を示すものであり、ナット2の側の位置aとボルト1の側の位置A、そしてナット2の側の位置bとボルト1の側の位置Bとがどちらも3°ずれている。また、図5(C)に示す状態は、ナット2の側の位置bとボルト1の側の位置Bとが重なった状態であり、この時のずれ角は0°である。
本例においては、半周(180°)分の範囲内において、図5(A)に示す状態から図5(C)に示す状態までの間の状態が1箇所必ず存在する。つまり、ずれ角が3°以下となるポイントが180°毎に存在する。
よって、ナット2の頂点部分2aとキャップ3のキャップ側ナット係合部32aとの間の遊び角度と、ボルト1の係合部12aとキャップ3のキャップ側ボルト係合部31aとの間の遊び角度のそれぞれの和が3°以上になるようにキャップ3のボルト配位部31とナット配位部32とを形成することにより、ボルト1にナット2を締結した状態のままでキャップ3を取り付けることが可能となる。
【0033】
本例においては、ボルト1の係合部12a(キャップ3のキャップ側ボルト係合部31aと一致)が周方向に10個設けられている。そして、キャップ3のキャップ側ナット係合部32aが周方向に12個設けられており、この場合における、ボルト1とナット2の間でのずれ角は、既に述べた通り±3°となる。また、この場合では全周(360°)において、ボルト1の係合部12aとキャップ側ナット係合部32aとは2箇所で一致している。
ここで既に述べた通り、キャップ側ナット係合部32aの形成数(X)、係合部12a(キャップ側ボルト係合部31a)の形成数(Y)については、本例以外に種々に変更できる。その例のいくつかについての、X、Y、Z(全周(360°)における、係合部12aとキャップ側ナット係合部32aの一致箇所の数)、ボルト1とナット2の間でのずれ角を下記に示す。
(1)X=6の場合
Y=7(Z=1、ずれ角±4.3°)、Y=11(Z=1、ずれ角±2.7°)
(2)X=12の場合
Y=5(Z=1、ずれ角±3°)、Y=7(Z=1、ずれ角±2.1°)、Y=11(Z=1、ずれ角±1.3°)
(3)X=18の場合
Y=5(Z=1、ずれ角±2°)、Y=8(Z=2、ずれ角±2.5°)、Y=10(Z=2、ずれ角±2°)、Y=11(Z=1、ずれ角±0.9°)
【0034】
ちなみに、上記の各数値の算出方法について述べると、Xはナット2の頂点数(六角ナットでは6)の整数倍、Yは任意の数、ZはXとYとの最大公約数、ずれ角は180をXとYの最小公倍数で割った数値である。
ずれ角については、あまり大きくなると、キャップ3がずれ角を基準とした遊び角度を有するものであるため、キャップ3の弛み止めの作用が甘くなる。よって、具体的には±5°未満とすることが望ましく、±3°以下とすることがより望ましい。
また、係合部12aとキャップ側ボルト係合部31aの形成数(Y)が多い方が、ずれ角を小さくできるために、弛み止めの作用から見て好ましいが、これに伴い係合部12aなどの加工が困難となるため、具体的にはYを12以下とすることが望ましい。
なお、上記の基準は一般的な締結体に関するものであって、特殊な締結体に関しては、用途などに応じて最も適した形態に形成すれば良い。
【0035】
次に、本例の締結体10を用いて行なった試験について示す。比較用試験体はJISに規定される、呼びがM12の六角ボルトと六角ナットの組み合わせであり、本願試験体は、図7に示すボルト1とナット2とキャップ3の組み合わせとし、比較用試験体と同径のものとした。
なお、比較用試験体及び本願試験体のボルト及びナットは冷間圧造用炭素鋼からなるものとし、表面処理として電気亜鉛メッキを施したものとした。
【0036】
まず、米国航空機規格(NAS3350)に従った振動衝撃試験を行った。これは、各試験体のボルトとナットとを締結し、軸直角方向に振動衝撃を与え、弛みの有無及び進行を検証する試験である。
比較用試験体の場合、振動衝撃2000サイクル未満でボルトからナットが脱落したのに対し、本願試験体の場合、NAS3350の規格条件である振動衝撃30000サイクルでもナット2の脱落は発生しなかった。なお、この際のボルト1に対するナット2の弛みは、振動衝撃2000サイクル未満で、キャップ3のセット時に生じる弛み方向の遊び角度分(弛み方向のキャップ3とナット2の遊び角度と、弛み方向のキャップ3とボルト1の遊び角度のそれぞれの和)は発生したが、それ以上の弛みの進行は、その後30000サイクルまでなかった。更には、NAS3350の規格条件を超えた振動衝撃100000サイクルを加えた試験も行ったが、本願試験体においてはナット2の脱落はなく、弛みに関しても、上記の30000サイクルの状態からの進行は見られなかった。
【0037】
次に、ユンカー式ねじ弛み試験を実施した。これは、各試験体のボルトとナットとを締結し、ナットの座面が接する座面板に対し、軸直角方向に強制的変位として±1.2mmを200サイクル/分で与え、弛みの有無及び進行を検証する試験である。
比較用試験体の場合は、試験開始直後から弛みが発生し、時間の経過と共に弛みが進行して約3分で締め付け力がなくなった。これに対し、本願試験体の場合は、試験開始から30秒間で、キャップ3のセット時に生じる弛み方向の遊び角度分の弛みが生じたものの、その後、試験終了時間までの5分間で弛みの進行はなかった。
【0038】
上記の各試験により、本願発明に係る締結体10が従来の締結体に対して、顕著な弛み止め効果を有することが確認できた。
【0039】
【発明の効果】
本願発明に係る締結体の弛み止め機構は、メカニカルな構造であることより、信頼性の高い締結体を提供することができる。また、従来必要であったナットの締結位置の調整が必要なく、ボルトに対してナットを締結したそのままの状態でキャップを取り付け可能であるため、締め付け力を確実に管理でき、効果的にナットの弛みや脱落を防止できる。
また、ナットの形状を特殊形状としない限り、一般工具のみで締結可能であるため、組み付け時間を大幅に短縮でき、作業効率を向上できる。
また、ボルトの先端部がキャップで覆われるため、ボルトの先端部に引っ掛かることによる怪我などを防止できる。また、いたずらでナットを取り外されることなども防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の実施の一例におけるボルトの要部を示し、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図2】本例のナットを示し、(A)は平面図、(B)は半断面の正面図である。
【図3】本例のキャップを示し、(A)は平面図、(B)は(A)のI−I断面図、(C)は底面図である。
【図4】本例におけるボルトに、ナットとキャップを取り付けた状態を示す断面視の説明図である。
【図5】(A)〜(C)共、本例のボルトにナットを締結した状態を示す、平面視の説明図である。
【図6】キャップ取り外し工具4の使用方法を示す参考図である。
【図7】本願発明の実施の他の例を示す説明図であり、(A)はキャップを示す正面図、(B)は(A)のII−II断面図、(C)はキャップを示す背面図、(D)はナットを示す正面図、(E)は同側面図、(F)はボルトを示す正面図、(G)は同側面図である。
【符号の説明】
10 締結体
1 ボルト
11 軸部
12 突出部
12a 係合部
2 ナット
3 キャップ
31 ボルト配位部
31a キャップ側ボルト係合部
32 ナット配位部
32a キャップ側ナット係合部
X1 ボルト側仮想線
X2 ナット側仮想線
Z 軸中心
Claims (4)
- ボルト(1)とナット(2)とキャップ(3)とを備えた締結体(10)の弛み止め機構であって、
ボルト(1)には、ねじ山を有する軸部(11)の先端に突出部(12)が設けられ、
この突出部(12)の外周部分には、キャップ(3)と係合するための係合部(12a)が形成されたものであり、
キャップ(3)は、少なくとも上記の突出部(12)の一部と係合するボルト配位部(31)と、少なくともナット(2)の外周部分の一部と係合するナット配位部(32)とを有し、
ボルト(1)に対してナット(2)を締結したそのままの状態で、ボルト(1)及びナット(2)にキャップ(3)を取り付けできるように、キャップ(3)にボルト配位部(31)とナット配位部(32)とを形成したものであり、
ボルト(1)の、軸中心(Z)と係合部分(12a)の中央部とを結ぶ仮想線をボルト側仮想線(X1)とし、
ナット(2)の、軸中心(Z)と頂点部分(2a)とを結ぶ仮想線(X2a)、並びに前記仮想線(X2a,X2a)同士の間を所定の割合で等分した仮想線(X2b)と、からなる仮想線をナット側仮想線(X2)とし、
ボルト配位部(31)には、突出部(12)の係合部分(12a)と係合するために、中央部がボルト側仮想線(X1)上となるようにキャップ側ボルト係合部(31a)が、
ナット配位部(32)には、ナット(2)の頂点部分(2a)と係合するために、中央部がナット側仮想線(X2)上となるようにキャップ側ナット係合部(32a)が、それぞれ形成されており、
ボルト(1)にナット(2)を締結した際の、ボルト側仮想線(X1)とナット側仮想線(X2)の位置のずれのうちで最小のものよりも、
ボルト(1)にキャップ(3)を係合させた状態における、ボルト(1)の係合部分(12a)の中央部とキャップ(3)のキャップ側ボルト係合部(31a)との間の遊びと、
ナット(2)にキャップ(3)を係合させた状態における、ナット(2)の頂点(2a)とキャップ(3)のキャップ側ナット係合部(32a)との間の遊びとのそれぞれの和の方が大きくなるように、
ボルト配位部(31)とナット配位部(32)とを形成したものであり、上記の遊びの和が±5°未満とされたことを特徴とする締結体の弛み止め機構。 - ボルト(1)とナット(2)とキャップ(3)とを備えた締結体(10)の弛み止め機構であって、
ボルト(1)には、ねじ山を有する軸部(11)の先端に突出部(12)が設けられ、
この突出部(12)の外周部分には、キャップ(3)と係合するための係合部(12a)が形成されたものであり、
キャップ(3)は、少なくとも上記の突出部(12)の一部と係合するボルト配位部(31)と、少なくともナット(2)の外周部分の一部と係合するナット配位部(32)とを有し、
ボルト(1)に対してナット(2)を締結したそのままの状態で、ボルト(1)及びナット(2)にキャップ(3)を取り付けできるように、キャップ(3)にボルト配位部(31)とナット配位部(32)とを形成したものであり、
ボルト(1)の、軸中心(Z)と係合部分(12a)の中央部とを結ぶ仮想線をボルト側仮想線(X1)とし、
ナット(2)の、軸中心(Z)と頂点部分(2a)とを結ぶ仮想線(X2a)、並びに前記仮想線(X2a,X2a)同士の間を所定の割合で等分した仮想線(X2b)と、からなる仮想線をナット側仮想線(X2)とし、
ボルト配位部(31)には、突出部(12)の係合部分(12a)と係合するために、中央部がボルト側仮想線(X1)上となるようにキャップ側ボルト係合部(31a)が、
ナット配位部(32)には、ナット(2)の頂点部分(2a)と係合するために、中央部がナット側仮想線(X2)上となるようにキャップ側ナット係合部(32a)が、それぞれ形成されており、
ボルト(1)にナット(2)を締結した際の、ボルト側仮想線(X1)とナット側仮想線(X2)の位置のずれのうちで最小のものよりも、
ボルト(1)にキャップ(3)を係合させた状態における、ボルト(1)の係合部分(12a)の中央部とキャップ(3)のキャップ側ボルト係合部(31a)との間の遊びと、
ナット(2)にキャップ(3)を係合させた状態における、ナット(2)の頂点(2a)とキャップ(3)のキャップ側ナット係合部(32a)との間の遊びとのそれぞれの和の方が大きくなるような、
上記の各仮想線(X1,X2)の組み合わせが、360°の範囲内で少なくとも1組存在するように、ボルト(1)の係合部分(12a)が形成されたものであり、上記の遊びの和が±5°未満とされたことを特徴とする締結体の弛み止め機構。 - 六角形状のナット(2)を用いたものであって、
キャップ(3)は、外観が袋ナット状であって、内部が空洞になっており、この空洞と連通するようにして下部に開放された部分であるナット配位部(32)と、上部に形成された貫通穴であるボルト配位部(31)とを有するものであり、
キャップ(3)のボルト配位部(31)には、周方向にY個のキャップ側ボルト係合部(31a)が形成され、
キャップ(3)のナット配位部(32)には、周方向にX個のキャップ側ナット係合部(32a)が形成され、
このキャップ側ナット係合部(32a)は、ナット(2)の頂点部分(2a)の形状に一致する三角形状の溝とされたものであり、
キャップ側各係合部(31a,32a)は、360°毎にZ個が、θ°以内のずれ角となるように形成されたものであって、
X,Y,Z,θが下記 (i) 〜 (x) のうち、いずれかの組み合わせであることを特徴とする、請求項1または2に記載の締結体の弛み止め機構。
(i) X=6、Y=7、Z=1、θ=4.3
(ii) X=6、Y=11、Z=1、θ=2.7
(iii) X=12、Y=5、Z=1、θ=3
(iv) X=12、Y=7、Z=1、θ=2.1
(v) X=12、Y=10、Z=2、θ=3
(vi) X=12、Y=11、Z=1、θ=1.3
(vii) X=18、Y=5、Z=1、θ=2
(viii) X=18、Y=8、Z=2、θ=2.5
(ix) X=18、Y=10、Z=2、θ=2
(x) X=18、Y=11、Z=1、θ=0.9 - ナット(2)の上部に形成された、略円筒状の突起(21)の側面を一周するようにキャップ保持溝(22)が形成され、
キャップ(3)のナット配位部(32)の上方には、上記のキャップ保持溝(22)に対して嵌合するキャップ保持用爪(33)が形成されたことにより、
ナット(2)にキャップ(3)を取り付けた際において、キャップ(3)が、ナット(2)と、ナット(2)が締結されたボルト(1)とから脱落することを防止することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の締結体の弛み止め機構。
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