JP3626982B2 - タンパク質分解酵素阻害物質の測定方法およびそれに用いる測定キット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タンパク質分解酵素阻害物質の測定方法およびそれに用いる測定キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、尿中トリプシンインヒビター(UTI)が、生体の状態を表す指標として注目され、臨床医学の分野において様々な研究がされている。UTIは、例えば、生体が炎症や外科手術等の内的外的ストレスに晒された場合や感染症に罹った場合に尿中に出現することが知られている(「尿中トリプシンインヒビターの臨床的意義」 桑島士郎ら、JAPANESE JOURNAL OF INFLAMMATION REVIEW ARTICLE,VOL9,NO.3,MAY 1989) 。
【0003】
しかしながら、このような有用性を指摘されながら、従来のUTIの測定方法は、感度が十分でないため、UTIを臨床医学などの分野において十分に活用できていなかった。
【0004】
すなわち、UTIは、その量に応じてトリプシン活性を阻害するため、その測定はトリプシン活性の阻害程度を測定することにより行われる。この測定としては、例えば、尿試料、トリプシンを含有する酵素液および緩衝液を混合し、これに基質溶液を添加して酵素反応を測定する方法があげられる。また、この測定の際に、通常、トリプシン活性化剤であるカルシウムが使用され、通常、カルシウムは前記緩衝液中に配合される。
【0005】
この測定において、基質として、ベンゾイル−アルギニン−p−ニトロアニリド(BAPNA)が広く使用されている。この基質はトリプシンにより切断されると発色し、これを吸光度の変化量として分光光度計で測定することにより、トリプシンの活性が測定されるのである。しかし、この合成基質は難溶性であり1.0g/L以上の濃度の基質溶液を調製することは困難であるため、酵素活性は基質濃度に依存し、トリプシンの活性を向上させることが難しかった。一方、UTIは極めて少量でトリプシンを阻害する。前述のようにUTIの測定は、トリプシン活性の阻害程度の測定であるから、トリプシン活性が高感度で測定できなければ、UTIの測定も高感度で行うことはできない。
【0006】
この問題を解決するために、BAPNAを極性有機溶媒に溶解し、これを水で約2倍に希釈して基質溶液が調製されていた。しかし、これらの有機溶媒の使用により、前記測定方法の自動分析機への適用が難しくなり、また前記有機溶媒によって、自動分析装置一般に使用されるプラスチックセルを傷めるおそれもある。さらに、前記有機溶媒が、トリプシン等のタンパク質分解酵素の活性を阻害する可能もある。この他、前記有機溶媒を使用して基質溶液を調製したとしても、これを長期間保存したり冷蔵保存すると、前記基質が結晶析出するおそれがある。このため、従来の測定方法では、BAPNA等の難溶性基質を前記有機溶媒を用いて溶解する場合、測定毎に基質溶液を調製し、その後直ちに測定する必要があった。また、有機溶媒を用いて基質溶液を調製したとしても、UTIの測定感度は十分ではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、極性有機溶媒を用いることなく高感度でタンパク質分解酵素阻害物質を簡便かつ迅速に測定できる測定方法を提供することである。
【0008】
前記目的を達成するために、本発明者らは、下記に示す第1番目の測定方法、第2番目の測定方法および第3番目の測定方法を開発した。
【0009】
すなわち、第1番目の測定方法は、試料、タンパク質分解酵素および基質を液中で混合し、前記酵素の活性を測定することにより前記試料中のタンパク質分解酵素阻害物質を測定する方法であって、前記基質として、基質中のアミノ酸残基がL型のみである基質を溶解した基質溶液を用いる方法である。
【0010】
すなわち、一般に、タンパク質分解酵素の活性の測定において用いられる合成基質は、D,L複合体であるが、この合成基質に対し、アミノ酸残基がL型のみである基質は、溶解性に優れ、有機溶媒を用いることなく水やお湯で十分量を溶解できる。この原因は明らかでないが、この事実は、本発明者らが確認したものである。例えば、D,L−BAPNAは温水を用いても1g/L以上の濃度で溶解させることは困難であるが、L−BAPNAは、温水に10g/Lの高濃度で溶解させることができる。さらに、アミノ酸残基がL型のみである基質を用いることで、タンパク質分解酵素の活性を向上することもできる。この原因も明らかではないが、本発明者らは、酵素反応に寄与しないD型が排除されることによりL型の濃度が相対的に増加したという理由だけでなく、D型アミノ酸残基の酵素阻害も排除されたためと推察している。
【0011】
つぎに、本発明の第2番目の測定方法は、試料、タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を液中で混合し、前記酵素の酵素活性を測定することにより前記試料中のタンパク質分解酵素阻害物質を測定する方法であって、前記界面活性剤が前記液中への配合前において前記基質と共存しないという方法である。
【0012】
すなわち、この測定方法では、界面活性剤を用いることによりタンパク質分解酵素活性を向上させ、この結果、その阻害物質の測定感度を向上させる。ただし、酵素反応液調製前において、界面活性剤を基質溶液中に配合するなどして基質と共存させてはいけない。したがって、界面活性剤は、緩衝液若しくは酵素液等の基質溶液とは別の試薬液に配合するか、または別個に酵素反応液に配合する必要がある。このような態様で界面活性剤を配合することでタンパク質分解酵素の活性が向上する理由は、明らかでないが、その向上は顕著である。
【0013】
なお、本発明において、酵素反応液とは、酵素および基質が存在し、酵素反応が生起する液をいう。したがって、酵素および基質が共存しても、pH等の調整により酵素反応が生じない液は、酵素反応液とはいわない。
【0014】
つぎに、本発明の第3番目の測定方法は、試料、タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を液中で混合し、前記酵素の酵素活性を測定することにより前記試料中のタンパク質分解酵素阻害物質を測定する方法であって、前記基質として、アミノ酸残基がL型のみである基質を溶解した基質溶液を用い、前記界面活性剤が前記液中への配合前において前記基質溶液中には存在しない測定方法である。
【0015】
すなわち、この第3番目の測定方法は、前記第1番目の測定方法と前記第2番目の測定方法とを組み合わせた方法であり、測定感度が極めて高い方法である。
【0016】
本発明の測定方法において、界面活性剤の酵素反応液中の濃度は0.01〜2%であることが好ましく、さらに好ましくは、0.05〜0.5%である。
【0017】
本発明の測定方法において、前記基質は、前記の式(化1)で表される基質であることが好ましい。この基質としては、α−ベンゾイル−L−アルギニン−p−ニトロアニリドが好ましい。
【0018】
本発明の測定方法において、界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(30)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(40)オクチルフェニルエーテル、1−O−n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、スクロースモノラウレート、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−プロパンスルホン酸、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ハイドロキシプロパンスルホン酸、臭化セチルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムからなる群から選択された少なくとも一つであることが好ましい。
【0019】
本発明の測定方法において、タンパク質分解酵素がトリプシンであり、試料が尿であり、タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であり、カルシウム存在下で酵素活性を測定することが好ましい。
【0020】
つぎに、本発明のタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットは、前記3種類の本発明の測定方法に対応して、以下に示す第1番目、第2番目および第3番目の3種類の測定キットがある。
【0021】
まず、前記第1番目の測定キットは、タンパク質分解酵素および基質を備えたタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、前記基質が、アミノ酸残基がL型のみである基質を溶解した基質溶液である。
【0022】
また、前記第2番目の測定キットは、タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を備えたタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、前記3試薬の混合前において前記界面活性剤が前記基質と共存していない。
【0023】
そして、前記第3番目の測定キットは、タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を備えたタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、前記基質は、光学活性がL型のアミノ酸残基のみからなる基質を溶解した基質溶液であり、前記界面活性剤が前記基質溶液中に存在していない。
【0024】
このような本発明の測定キットを使用することにより、タンパク質分解酵素阻害物質を迅速かつ簡便に高感度で測定できる。
【0025】
本発明の測定キットにおいて、緩衝液(R1)、タンパク質分解酵素液(R2)、基質溶液(R3)を備えた、タンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、緩衝液(R1)およびタンパク質分解酵素液(R2)の少なくとも一方の液中に界面活性剤が含有されていることが好ましい。
【0026】
この測定キットにおいて、前記R1、R2およびR3は、それぞれ独立していてもよく、前記三種類の液のうちいずれか二種類の液の混合液と他の一種の液との組み合わせであってもよい。具体的には下記の三通りの組み合わせがある。
(1) R1とR2との混合液+R3
(2) R1とR3との混合液+R2
(3) R2とR3との混合液+R1
【0027】
なお、上記組み合わせ(3)において、例えば、pHの調整等により酵素反応を制御すれば、酵素と基質とを混合することができる。
【0028】
本発明の測定キットにおいて、界面活性剤の濃度が、酵素反応液中で0.01〜2%の濃度範囲となるように調整されていることが好ましい。さらに、0.05〜0.5%に調整されていることが好ましい。
【0029】
本発明の測定キットにおいて、好ましい基質および界面活性剤は、本発明の測定方法の箇所で述べたものと同じである。
【0030】
本発明の測定キットにおいて、さらにカルシウムを備え、測定対象試料が尿であり、タンパク質分解酵素がトリプシンであり、タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であることが好ましい。このキットにより、UTIの測定を迅速かつ簡便に高感度で行うことが可能になる。
【0031】
【発明の実施の形態】
つぎに、本発明を詳しく説明する。
【0032】
本発明のタンパク質分解酵素阻害物質の測定方法は、例えば、タンパク質分解酵素液と、アミノ酸残基がL型のみの基質を用いた基質溶液と、緩衝液とを用いて実施できる。
【0033】
前記酵素としては、例えば、トリプシンがあげられる。このトリプシンは、特に限定するものでなく、例えば、牛膵臓由来のトリプシン、ブタ膵臓由来のトリプシンがあげられる。また、トリプシン濃度は、その比活性等により適宜決定されるが、酵素液全体に対し、通常、1〜500mg/L、好ましくは10〜100mg/Lである。また、この酵素液は、トリプシンの自己消化を防止する目的で、塩酸または緩衝液によりpH2.0〜3.5に調整してもよい。
【0034】
なお、トリプシン以外のタンパク質分解酵素としては、例えば、キモトリプシンがあげられる。そして、キモトリプシンに使用する基質としては、例えば、ベンゾイル−L−チロシン−p−ニトロアニリドがあげられる。
【0035】
基質溶液は、アミノ酸残基がL型の基質の溶液である。前記基質の好ましいものは、先に述べたとおりであるが、この他に、例えば、Z−グリシン−グリシン−L−ロイシン−p−ニトロアニリド、サクシニル−L−アラニン−L−アラニン−L−アラニン−p−ニトロアニリドがあげられる。このような、アミノ酸残基がL型のみの合成基質は、一般に市販されており(例えば、シグマ社から市販のもの)、またD,L複合体を光学活性クロマトグラフィー等で分割することによっても得ることできる。基質濃度は、通常、1〜10g/Lの範囲である。また、この基質溶液の調製に用いる溶媒は、通常、水(精製水等)であるが、後述する緩衝液でもよい。また、基質溶液は、例えば、水等の前記溶媒を加温し、これに基質を加えることにより調製できる。
【0036】
つぎに、前記緩衝液は、特に制限するものではなく、例えば、トリエタノールアミン塩酸塩緩衝液、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、グッド緩衝液等があげられる。この緩衝液は、常法により調製される。この緩衝液のpHは、これを用いる酵素の最適pHにより決定されるが、例えば、トリプシンに使用する場合、pH7〜8が好ましい。また、トリプシンインヒビターを測定する場合は、通常、カルシウムを緩衝液中に配合する。その割合は、通常、0.01〜0.5重量%である。
【0037】
そして、本発明では、界面活性剤を使用することが一つの特徴であるが、その種類は問わず、イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。また、その使用量も界面活性剤の種類により最適範囲が適宜決定される。
【0038】
前記イオン性界面活性剤としては、例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムがあげられる。この使用量は、通常、0.01〜2重量%である。
【0039】
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(40)オクチルフェニルエーテル(例えば、TRITON X−405、ナカライテスク社製)、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(例えば、TRITON X−100、ナカライテスク社製)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例えば、Tween 20、ナカライテスク社製)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(例えば、Tween80、ナカライテスク社製)があげられる。この使用量は、通常、0.01〜2重量%である。
【0040】
前記両性界面活性剤としては、例えば、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−プロパンスルホン酸(例えば、CHAPS、同仁化学社製)、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ハイドロキシプロパンスルホン酸(例えば、CHAPSO、同仁化学社製)があげられる。この使用量は、通常、0.01〜2重量%である。
【0041】
この界面活性剤は、通常、緩衝液中に配合されるが、これに限定されず、酵素液に配合されたり、若しくは界面活性剤溶液として単独で酵素反応液に配合される場合もある。但し、基質溶液に配合することはできない。基質溶液に配合して酵素反応液調製前に基質と共存させると、タンパク質分解酵素の活性を向上させることができないからである。
【0042】
つぎに、本発明の測定方法は、例えば、UTIを測定対象とした場合、つぎのようにして行われる。
【0043】
すなわち、まず、尿試料、緩衝液および酵素液の三者を混合する。この割合(体積比)は、通常、尿試料:緩衝液:酵素液=1:5〜20:2〜10の範囲に設定される。ついで、これをインキュベーションする。このインキュベーションの条件は、通常、25〜37℃で1〜5分間である。そして、これに、前記基質溶液を配合し、前記酵素と基質を反応させる。この配合割合は、通常、全反応液に対し、体積比5〜30%の範囲である。この反応条件は、通常、25〜37℃で1〜20分間である。また、このときの反応液のpHは、酵素の種類等により異なるが、この例のトリプシンの場合、pH7〜8が好ましい。そして、所定の方法により、酵素反応を検出し、酵素活性を測定する。この反応において、前記尿試料中のUTIの量に応じ、酵素反応が阻害される。したがって、予め、既知のUTIを用いて検量線を作成しておけば、酵素活性の測定により、UTIの量を測定することができる。前記酵素反応の検出方法としては、例えば、BAPNA等のような基質として酵素反応により発色するものを用いた場合は、この発色の程度を分光光度計等により測定する方法があげられる。この他に、反応生成物の濃度を測定することにより、酵素活性を測定することもできる。
【0044】
つぎに、本発明の測定キットは、例えば、前記R1の緩衝液、前記R2の酵素液および前記R3の基質溶液を備えるものがあげられる。これらの試薬(R1,R2,R3)の調製は、本発明の測定方法の説明において述べた方法により行うことができ、また各組成およびその割合等は、測定方法の箇所で述べたとおりである。この測定キットを用いることにより、UTI等のタンパク質分解酵素阻害物質の測定を簡便にかつ迅速に行うことができる。
【0045】
つぎに、実施例について説明する。
【0046】
(実施例1)
緩衝液(R1)、酵素液(R2)および基質溶液(R3)を前述の方法により調製した。その組成を下記に示す。
【0047】
(緩衝液R1:pH8.1)
トリエタノールアミン塩酸塩 0.5mol/L
CaCl2・2H2O 150mg/L
【0048】
(酵素液R2)
トリプシン(シグマ社製) 50mg/L
HCl 1mmol/L
【0049】
(基質液R3)
約70℃に加温した水に、1g/Lの割合でL−BAPNA(ペプチド研究所製、以下同じ)を溶解することにより調製した。
【0050】
(操作方法)
生理食塩水(0.85%)を試料とし、L−BAPNA、D,L−BAPNAの反応タイムコースを比較した。前記試料20μl、緩衝液(R1)200μlおよび酵素液(R2)100μlを混合し、37℃で5分間保温した後、前記基質溶液(R3)100μlを添加して、反応を開始した。そして、37℃に保温して2分間の吸光度(405nm)変化を自動分析装置で測定し、相対吸光度(△O.D.)を求めた。この結果を、図1のグラフに示す。また、D,L−BAPNA(シグマ社製、以下同じ)を用いた他は、前記と同一の条件および操作により測定を行った。この結果も、図1のグラフに示す。
【0051】
図1のグラフから、L−BAPNAを用いると、D,L−BAPNAを用いた場合より測定感度が向上することがわかる。
【0052】
(実施例2)
下記に示すように、4種類の界面活性剤(TRITON X−405、TRITON X−100、Tween20、CHAPSの4種類)を用いてUTIの測定をそれぞれ行った。以下に試薬(R1、R2、R3)の組成および操作方法を示す。
【0053】
(緩衝液R1:pH8.1)
トリエタノールアミン塩酸塩 0.5mol/L
CaCl2・2H2O 150mg/L
界面活性剤 0.1、0.4重量%
但し、界面活性剤の酵素反応液中の濃度(最終濃度)は、前記濃度の1/2となる。また、対照(Ref)として界面活性剤濃度0重量%の緩衝液も調製し実験に供した。
【0054】
(酵素液R2:pH3.0)
トリプシン 50mg/L
HCl 1mmol/L
【0055】
(基質液R3)
約70℃に加温した水に、4.0g/Lの割合でL−BAPNAを溶解することにより調製した。
【0056】
(操作方法)
UTI(ミラクリッド、持田製薬社製、以下同じ)の生理食塩水溶液として、0U/ml、5U/ml、10U/mlおよび20U/mlの4種類の濃度のものを用意し、これを試料とした。つぎに、前記試料20μl、緩衝液(R1)200μlおよび酵素液(R2)100μlを混合し、37℃で5分間保温した後、前記基質溶液(R3)100μlを添加して、反応を開始した。そして、37℃に保温して2分間の吸光度(405nm)変化を自動分析装置で測定し、相対吸光度(△O.D.)を求めた。この結果を、各界面活性剤ごとに図2の4つのグラフに示す。
【0057】
図2の4つのグラフに示すように、界面活性剤を緩衝液中に配合して使用すると、UTIの測定感度が向上することが分かる。また、一般に、界面活性剤の濃度を上げればUTI測定感度も向上する傾向が確認できた。
【0058】
(実施例3)
下記に示すように、界面活性剤を添加する試薬の種類を変えて、UTIの測定を行った。
【0059】
処方A:緩衝液R1に界面活性剤を添加
(緩衝液R1:pH8.1)
トリエタノールアミン塩酸塩 0.5mol/L
CaCl2・2H2O 150mg/L
TRITON X−405 2g/L
但し、界面活性剤の酵素反応液中の濃度(最終濃度)は、前記濃度は0.1重量%となる。以下の処方Bおよび処方Cも同じである。
(酵素液R2:pH3.0)
トリプシン 50mg/L
HCl 1mmol/L
(基質液R3)
約70℃に加温した水に、4.0g/Lの割合でL−BAPNAを溶解することにより調製した。
【0060】
処方B:酵素液R2に界面活性剤を添加
(緩衝液R1:pH8.1)
トリエタノールアミン塩酸塩 0.5mol/L
CaCl2・2H2O 150mg/L
(酵素液R2:pH3.0)
トリプシン 50mg/L
HCl 1mmol/L
TRITON X−405 4g/L
(基質液R3)
約70℃に加温した水に、4.0g/Lの割合でL−BAPNAを溶解することにより調製した。
【0061】
処方C:基質溶液R3に界面活性剤を添加
(緩衝液R1:pH8.1)
トリエタノールアミン塩酸塩 0.5mol/L
CaCl2・2H2O 150mg/L
(酵素液R2:pH3.0)
トリプシン 50mg/L
HCl 1mmol/L
(基質液R3)
約70℃に加温した水に、L−BAPNA(4.0g/L)およびTRITON X−405(4g/L)を溶解することにより調製した。
【0062】
処方D:界面活性剤無添加
(緩衝液R1:pH8.1)
トリエタノールアミン塩酸塩 0.5mol/L
CaCl2・2H2O 150mg/L
(酵素液R2:pH3.0)
トリプシン 50mg/L
HCl 1mmol/L
(基質液R3)
約70℃に加温した水に、L−BAPNA(4.0g/L)を溶解することにより調製した。
【0063】
(操作方法)
UTIの生理食塩水溶液として、0U/ml、5U/ml、10U/ml、および20U/mlの4種類の濃度のものを用意し、これを試料とした。つぎに、前記試料20μl、緩衝液(R1)200μlおよび酵素液(R2)100μlを混合し、37℃で5分間保温した後、前記基質溶液(R3)100μlを添加して、反応を開始した。そして、37℃に保温して2分間の吸光度(405nm)変化を自動分析装置で測定し、相対吸光度(△O.D.)を求めた。この結果を、図3のグラフに示す。
【0064】
図3のグラフに示すように、緩衝液R1および酵素液R2に添加した処方A,Bでは、無添加の処方Dに比べ、UTIの測定感度が向上したことが分かる。しかし、基質溶液R3に添加した処方Cでは、無添加の処方Dに比べ、UTIの測定感度が低下した。このことから、酵素反応液調製前において基質と共存させなければ、界面活性剤を添加するとUTIの測定感度は向上するといえる。
【0065】
(実施例4)
下記に示すように、基質溶液R3の組成を変えてUTIの測定を行った。また、緩衝液R1および酵素液R2の組成も下記に示す。
【0066】
(緩衝液R1:pH8.1)
トリエタノールアミン塩酸塩 0.5mol/L
CaCl2・2H2O 150mg/L
【0067】
(酵素液R2:pH3.0)
トリプシン 50mg/L
HCl 1mmol/L
【0068】
(基質液R3)
・処方(0)
約70℃に加温した水に、D,L−BAPNA(1.0g/L)を溶解することにより調製した。
・処方(1)
まず、D,L−BAPNAをDMSOに溶解し、これを界面活性剤(CHAPSO)水溶液で希釈することにより調製した。なお、前記各成分の溶液中の最終濃度は、D,L−BAPNAが4g/L、DMSOが10重量%、CHAPSOが1重量%である。
・処方(2)
D,L−BAPNAに代えてL−BAPNAを用いた他は、処方(1)と同様に調製した。
・処方(3)
D,L−BAPNAに代えてL−BAPNAを4g/Lの割合で用いた他は、処方(0)と同様に調製した。
・処方(4)
約70℃に加温した水に、L−BAPNA(4.0g/L)を溶解することにより調製した。そして、この処方(4)では、CHAPSOを緩衝液R1に0.5重量%の割合で添加した。
【0069】
(操作方法)
UTIの生理食塩水溶液として、0U/ml、6.25U/ml、12.5U/ml、25U/ml、50U/mlおよび100U/mlの6種類の濃度のものを用意し、これを試料とした。つぎに、前記試料20μl、緩衝液(R1)200μlおよび酵素液(R2)100μlを混合し、37℃で5分間保温した後、前記基質溶液(R3)100μlを添加して、反応を開始した。そして、37℃に保温して2分間の吸光度(405nm)変化を自動分析装置で測定し、相対吸光度(△O.D.)を求めた。この結果を、図4のグラフに示す。
【0070】
図4のグラフAは、5つの処方(0、1、2、3、4)の結果を全て示したグラフであり、同図グラフBは処方(1)および処方(4)を示したグラフである。これらから分かるように、従来法である3つの処方(0、1、2)に比較して、本発明の処方である処方(3)および処方(4)によったUTI測定感度は高かった。特に、L−BAPNAを用い、界面活性剤を緩衝液R1に配合した処方(4)のUTI測定感度は極めて高かった。
【0071】
【発明の効果】
以上のように、本発明のタンパク質分解酵素阻害物質の測定方法によれば、DMSO等の有機溶媒を用いる以上に基質濃度を高めることができ、また測定感度も向上することができる。このため、本発明の測定方法の適用により、タンパク質分解酵素阻害物質を迅速かつ簡便に高感度で測定できるため、例えば、感染症等の有用な指標となりうるUTIを臨床医療等の分野で十分に活用することが可能となる。また、前述のように、本発明の測定方法は、有機溶媒を用いることがないため基質溶液の調製工程の簡略化ができ、またプラスチックセルの損傷も生じず、さらに有機溶媒を用いないことは材料コストの低減にもつながる。このため、本発明の測定方法は、自動分析機を用いた検査等に容易にしかも低コストで適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の測定方法の一実施例において、L−BAPNAおよびD,L−BAPNAを用いて感度比較を行った結果を示すグラフである。
【図2】本発明の測定方法のその他の実施例において、各種界面活性剤を用いてUTIの測定を行った結果を示すグラフである。
【図3】本発明の測定方法のさらにその他の実施例において、界面活性剤を添加する試薬の種類を変えてUTIの測定を行った結果を示すグラフである。
【図4】グラフAおよびグラフBは、本発明の測定方法の一実施例において、基質溶液を5種類の処方で調製してUTIの測定を行った結果を示すグラフである。
Claims (19)
- 試料、タンパク質分解酵素および基質を液中で混合し、前記酵素の活性を測定することにより前記試料中のタンパク質分解酵素阻害物質を測定する方法であって、前記タンパク質分解酵素がトリプシンであり、前記タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であり、前記基質として、基質中のアミノ酸残基がL型のみである基質を溶解した基質溶液を用いるタンパク質分解酵素阻害物質の測定方法。
- 試料、タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を液中で混合し、前記酵素の酵素活性を測定することにより前記試料中のタンパク質分解酵素阻害物質を測定する方法であって、前記タンパク質分解酵素がトリプシンであり、前記タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であり、前記界面活性剤が前記液中への配合前において前記基質と共存しないタンパク質分解酵素阻害物質の測定方法。
- 試料、タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を液中で混合し、前記酵素の活性を測定することにより前記試料中のタンパク質分解酵素阻害物質を測定する方法であって、前記タンパク質分解酵素がトリプシンであり、前記タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であり、前記基質として、基質中のアミノ酸残基がL型のみである基質を溶解した基質溶液を用い、前記界面活性剤が前記液中への配合前において前記基質溶液中には存在しないタンパク質分解酵素阻害物質の測定方法。
- 界面活性剤の酵素反応液中の濃度が0.01〜2%である請求項2または3記載の測定方法。
- 基質が、下記の式(化1)で表される基質である請求項1または3記載の測定方法。
(化1)
保護基−(L型アミノ酸残基)n−p-ニトロアニリド
[前記式において、nは1〜5の整数である。] - 基質が、α-ベンゾイル−L-アルギニン−p-ニトロアニリド である請求項5記載の測定方法。
- 界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(30)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(40)オクチルフェニルエーテル、1−O−n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、スクロースモノラウレート、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−プロパンスルホン酸、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ハイドロキシプロパンスルホン酸、臭化セチルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムからなる群から選択された少なくとも一つである請求項2〜4のいずれか一項に記載の測定方法。
- 試料が尿である請求項1〜7のいずれか一項に記載の測定方法。
- タンパク質分解酵素および基質を備えたタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、前記タンパク質分解酵素がトリプシンであり、前記タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であり、前記基質が、基質中のアミノ酸残基がL型のみである基質を溶解した基質溶液であるタンパク質分解酵素阻害物質の測定キット。
- タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を備えたタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、前記タンパク質分解酵素がトリプシンであり、前記タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であり、前記3試薬の混合前において前記界面活性剤が前記基質と共存しないタンパク質分解酵素阻害物質の測定キット。
- タンパク質分解酵素、基質および界面活性剤を備えたタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、前記タンパク質分解酵素がトリプシンであり、前記 タンパク質分解酵素阻害物質が尿中トリプシンインヒビター(UTI)であり、前記基質は、基質中のアミノ酸残基がL型のみである基質を溶解した基質溶液であり、前記界面活性剤が前記基質溶液中に存在しないタンパク質分解酵素阻害物質の測定キット。
- 緩衝液(R1)、タンパク質分解酵素液(R2)、基質溶液(R3)を備えたタンパク質分解酵素阻害物質の測定キットであって、前記緩衝液(R1)およびタンパク質分解酵素液(R2)の少なくとも一方の液中に界面活性剤が含有されている請求項10または11記載の測定キット。
- 界面活性剤の濃度が、酵素反応液中で0.01〜2%の濃度範囲となるように調整されている請求項10〜12のいずれか一項に記載の測定キット。
- 基質が、下記の式(化1)で表される基質である請求項9または11記載の測定キット。
(化1)
保護基−(L型アミノ酸残基)n−p-ニトロアニリド
[前記式において、nは1〜5の整数である。] - 基質が、α-ベンゾイル−L-アルギニン−p-ニトロアニリ ドである請求項14記載の測定キット。
- 界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(30)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(40)オクチルフェニルエーテル、1−O−n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、スクロースモノラウレート、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−プロパンスルホン酸、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ハイドロキシプロパンスルホン酸、臭化セチルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムからなる群から選択された少なくとも一つである請求項10〜13のいずれか一項に記載の測定キット。
- 測定対象試料が尿である請求項9〜16のいずれか一項に記載の測定キット。
- カルシウムをさらに備える請求項9〜17のいずれか一項に記載の測定キット。
- カルシウム存在下で酵素活性を測定する請求項1〜8のいずれか一項に記載の測定方法。
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