JP3623656B2 - 微細粒組織を有する鋼とその製造方法 - Google Patents

微細粒組織を有する鋼とその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多量の合金元素を含まず、しかも、延性に優れ、かつ高靱性の高強度鋼、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼の強化方法としては、従来、特定元素を固溶させる方法、冷間にて加工し加工歪みを与える方法、熱処理により強度の高い組織に変態させる方法、AlN(窒化アルミニウム)やTiC(炭化チタン)などの微細な粒子を析出させる方法、または結晶粒を細かくする方法などが知られている。これらの強化方法は、それぞれ利点と欠点とを併せ持ち、実用鋼では、これらの強化方法を組み合わせて必要とする鋼の性能を得ている。
【0003】
固溶による強化は、鋼の場合、通常は多量の合金元素、例えばSiなどを含有させることにより得られる。このため、表面性状の変化や耐食性の劣化など、強度以外の面に添加元素の影響が強く現れる。また、添加する合金元素は鋼より高価なものが多く、この効果により強度を上昇させようとすれば鋼は必然的に高価になり、安くて強度があるという鋼本来の特質が失われてしまう。
【0004】
加工歪みを与える方法は、冷間加工などにより歪みを加えることにより硬くなる効果を利用するものであるが、強度上昇とともに延性が急激に低下し、靱性も大きく劣化して、材料が脆くなる難点があり、その上形状が限定される。
【0005】
鋼の変態を利用する方法としては、一般には焼入れ−焼戻し処理が行われる。焼入れでは、900℃前後の高温から水冷や油冷などにより急冷し、マルテンサイト相やベーナイト相などの準安定相を形成させる。これらの極めて硬度の高い相とするには、被処理鋼のサイズに基づき、その化学組成を十分に選定する必要があるが、この焼入れ−焼戻しの調質によりすぐれた性質の鋼を得ることができる。しかし、この熱処理のための余分の工程が必要であり、加熱炉や急冷装置が必要となる。そこで、近年は、熱間加工直後にその高温の状態のまま焼入れをおこなうなど、工程を短縮する手段が種々講じられている。
【0006】
微細粒子の析出による硬化は、Ti、Nb、Vなど炭化物や窒化物を形成する元素を少量添加し、これらの元素が固溶状態になっている熱間で加工した後、冷却過程にて微細に析出させるものである。少量の添加元素で大きな硬化が得られる利点があるが、靱性が劣化する傾向があり、添加量を厳密に調整する必要がある。また、上記のような合金元素の添加が必要なことから、鋼材の価格も高くなる。
【0007】
結晶粒を細かくすると、一般に延性を低下させることなく強度、とくに降伏点が向上し、さらに靭性も向上する。通常の鋼の場合、強度を高くすると靭性が低下する傾向があるが、結晶粒を微細にすることにより、靭性の改善すなわち靭性−脆性遷移温度を低くすることができる。結晶粒を微細にすることは、プレス成形に用いる薄鋼板のように加工性を強く要求される場合とか、高温でのクリープ強度が重要である場合を除き、通常は鋼の性能向上に好ましい結果をもたらす。このため、上記の各種の鋼の強化方法には、いずれも結晶粒の微細化が組み合わされて適用される。
【0008】
通常の低炭素のフェライト相を主とする鋼においては、結晶粒の微細化は、基本的には加工変形を加えて素材の粗大結晶を破壊し細かくする方法、またはオーステナイト−フェライトの変態を利用し細かくする方法によっておこなわれる。Alなど非鉄金属では溶湯中に微細な析出核生成元素を添加し、凝固組織から細粒化させる方法もあるが、鋼では凝固組織は通常粗大である。しかし、通常は最終製品形状に至るまでに様々な加工が施されるので、その過程である程度の細粒化が進行する。
【0009】
鋼板の場合を例にとれば、連続鋳造法による200mm前後の厚さの鋳片は、熱間にて圧延加工されて、鋼の変形とともに粗大な凝固組織は破壊され圧延変形組織になる。そして高温であるため、圧延ロールから離れた直後から圧延変形組織の中に加工の歪みのない新たな再結晶粒が発生し、これが成長して鋼全体が速やかに再結晶粒の組織となる。その場合、圧延の加工度が大きいほど数多くの再結晶粒が発生し、細粒組織になる傾向がある。また、より大きく厚さを減ずるためにこの圧延加工がくりかえされると、組織の破壊と再結晶がその都度おこなわれ、より細粒化が進む。熱間加工は通常オーステナイト相の領域で行われ、加工後の冷却でフェライト相に変態する。この変態の際にもオーステナイト相の結晶組織の中からフェライト相の結晶粒が発生し、やがては鋼全体がフェライト粒組織となる。しかし、このように単に高温のオーステナイト相から低温のフェライト相に変態する場合、一般にはオーステナイト相における組織の結晶粒径とほぼ同じ結晶粒径のフェライト相組織になる。
【0010】
上記のように、加工と再結晶の繰り返しにより、結晶粒を細かくすることができるが、結晶が細かくなってくると今度は結晶粒どうしが合体し、成長しやすくなってくる。これは、結晶粒内よりも粒界の持つエネルギーの方が大きく、エネルギーを放出して安定化する方向に進むため、結晶粒が細かいほどその傾向が強いからである。このため、単なる加工と再結晶だけでは、細粒化に限界がある。これに対し、AlやTi、Nb、Vなど、窒化物や炭窒化物形成元素を少量添加することにより微細な析出物を形成させ、それによって結晶粒界の移動を抑止し、結晶粒の成長を阻止して、鋼の組織を細粒化する方法がある。実用的な低コストの細粒化鋼はこのような炭窒化物形成元素の添加によって得られている。
【0011】
しかしながら、鋼の性能に対する要求がますます厳しくなり、より強度が高くより靭性のすぐれたものが要望され、加工熱処理または制御圧延、あるいはTMCP(Thermo Mechanical Control Process)といわれる手法が開発され、実用化されるようになった。これは鋼組成を規制し、圧延など熱間加工の過程で加工温度や加工度を制御して、より高靭性の高強度鋼にしようとするものである。鋼組成としては、通常、従来の焼入れ−焼戻しを適用する場合よりも低炭素とし、Ti、Nb、Vなどが添加される。ことにNbの添加はオーステナイト域での再結晶を遅らせる効果があり、より低温での圧延と繰り返し圧延による加工歪みの蓄積増大が可能となるので、好んで用いられる。そして、熱間加工をオーステナイト域だけでなく、オーステナイト+フェライトの二相域にまでも拡大して、加工変形を温度変化とともに生じる再結晶、析出、変態等の進行に組み合わせる。それによって、変態強化および析出強化に細粒化が加わり、強度が向上し、靭性がよりいっそう改善される。
【0012】
このように加工熱処理法では、とくに結晶粒の微細化による強度上昇と靭性改善の効果が大きい。結晶粒の微細化は、上記の再結晶を遅らせ微細析出物を形成する元素の添加により、加工後再結晶前の歪みエネルギーが増加し、そのエネルギー解放に基づく再結晶核の生成頻度が増して細粒化するとともに、微細析出物の結晶粒界移動阻止により粒成長が抑止されることによる。これは加工温度が通常より低めに設定されることにより一層助長される。さらに、オーステナイト+フェライトの二相域でも加工することにより、変態のエネルギーも核生成頻度を高め、相界面の粒界移動阻止による粒成長抑止効果も加わってくると考えられる。
【0013】
加工熱処理は、素材の加熱後の熱間加工の過程にて、温度低下に伴う金属組織的変化に、加工を組み合わせたものであるが、その加工の途中で急冷や再加熱がおこなわれることもある。また、冷却して得られた変態組織を冷間または温間にて加工し、昇温して変態(逆変態)させ、結晶粒を微細化する方法も高合金鋼で実施されている。これは、現在のところ最も結晶粒が微細化された例であるが、高合金鋼の準安定オーステナイト鋼にて、室温で加工し加工誘起変態させてマルテンサイト相とし、これを加熱してオーステナイト相に変態させるもので、超微細粒組織が得られている。
【0014】
上記のように、鋼の強度向上とその性能向上のため、結晶粒微細化が種々検討され、実用的にもその改善効果が認められてきた。しかし、超微細粒の鋼については、高合金鋼においてはある程度実現されているものの、低炭素鋼ないしは低合金鋼においては、まだ十分なものは得られていない。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
前記のように、低炭素鋼または低合金鋼においても、結晶粒をさらに微細にすれば、より性能のすぐれた低コストの鋼が得られることが期待される。本発明の目的は、低炭素鋼または低炭素低合金鋼であって、平均結晶粒径が極めて小さく、強度と靱性および延性がすぐれた鋼、およびその鋼の製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
結晶粒を微細にすれば、鋼の強度を上昇させるばかりでなく、靱性や延性を同時に向上させることができる。すなわち他の鋼の強化方法のように、強度の上昇にともなって靱性が劣化したり、加工性が悪くなるという問題点がなく、鋼の強化方法としては理想的なものと考えられる。
【0017】
低炭素鋼ないしは低炭素低合金鋼の結晶粒微細化方法として、加工熱処理方法は種々検討され、微細結晶組織の鋼が得られている。これらの方法は、前述のように加工により素地組織ないしは結晶粒を破砕細分化し、その加工組織から発生した再結晶粒の成長をできるだけ抑止し、細粒鋼を得るもので、この手法による限界に近いところまで微細粒化が実現されていて、これ以上の細粒化は困難であると思われる。加工のままの組織では歪みが多すぎ、靱性も延性も極めて劣った状態にあり、これらを回復するには必ず歪みを解放しなければならず、歪みの解放の過程で、再結晶と粒成長が進むためである。また、高合金鋼におけるような逆変態は、低炭素低合金鋼の場合、冷間での加工度を如何に大きくしてもフェライト相以外のものにはならず、これを加熱すると、フェライト相の温度域で加工歪みが解放され、再結晶核生成、粒成長が進んでしまい、逆変態する時にはすでにかなり成長した粒になっていて、これも結晶粒微細化には利用できない。
【0018】
そこで、本発明者らは、低炭素鋼または低炭素低合金鋼の微細粒化をより一層促進させる手段として、加工による破砕と粒成長抑止の手法に変態を組み合わせる方法を検討した。
【0019】
Ac点以上に加熱されオーステナイト相とした鋼を急冷すると、通常、Ar点以下に過冷された状態のオーステナイト相となり、その温度に保持するか、またはさらに冷却を続ければ変態して、鋼組成やその際の冷却条件によって、フェライト相、マルテンサイト相あるいはベイナイト相となる。この変態直前の過冷状態にて加工を加えると、フェライトを主体とする組織に急速に変化する。これは加工により変態が誘起されるためと考えられる。その際に、加工温度および加工率を変えることにより、歪みが解放されたフェライト相で、しかも極めて結晶粒径の小さい組織が得られることを見出したのである。
【0020】
この細粒のフェライト相を主体とする組織が得られる条件をさらに調査した結果、加工を加える温度が高すぎると、結晶粒が微細にならず、変形量ないしは圧下率を十分大きくしなければ、フェライト相の比率が低下して、マルテンサイト相やベイナイト相が増加することがわかった。さらに加工後、できるだけ速く冷却しなければ結晶粒が大きくなることも明らかになった。すなわち、低温相への変態直前に強加工を加えることにより、フェライトの変態再結晶核が急速かつ高密度に生成して変態が急速に進み、それと同時にその加工歪みが解放されると推定された。この場合、加工による変形が大きいほど、それによって誘起される変態にともなう加工歪みの放出が、十分におこなわれると考えられるのである。加工度が不十分であれば、結晶粒の細粒化が不十分になるばかりでなく、歪みの解放も不十分となってしまう。そして、加工により誘起された変態によって極めて微細なフェライト結晶組織となるが、変態後はできるだけ急冷しなければ、変態後にも粒成長が進行することもわかった。
【0021】
このようにして、鋼の化学組成、冷却条件、加工の温度範囲、加工度、等の限界条件を明確にし、本発明を完成させた。本発明の要旨は次のとおりである。
【0022】
(1)重量%にて、C:0.05〜0.3%とMn:0.5〜3%を含み、残部が実質的にFeからなり、オーステナイトの低温変態によって生成したフェライトが80%以上を占め、かつ平均結晶粒径が3μm以下である金属組織を有することを特徴とする鋼。
【0023】
(2)重量%にて、C:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜3%、Si:0.01〜0.3%、Nb:0〜0.05%、Ti:0〜0.05%、V:0〜0.08%、Cr:0〜1%およびMo:0〜1%を含み、残部が実質的にFeからなり、オーステナイトの低温変態によって生成したフェライトが80%以上を占め、かつ平均結晶粒径が3μm以下である金属組織を有することを特徴とする鋼。
【0024】
(3)上記(1)または(2)の組成を持つ鋼をAc点以上の温度から、5℃/s以上100℃/s未満の冷却速度にて冷却する過程において、フェライト相、ベイナイト相、またはマルテンサイト相のような低温相が析出を開始する温度より高く、かつ650℃以下の温度域で断面積減少率にて60%以上の加工をおこない、その後40℃/s以上の冷却速度にて350℃以下の温度にまで冷却することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の鋼の製造方法。
【0025】
なお、ここでオーステナイトの低温変態によって生成したフェライトというのは、結晶組織が微細なため通常の光学顕微鏡観察では観察が困難であるが、鋼から採取した薄膜試料により、透過型電子顕微鏡で直接観察して見出すことのできる歪みの少ない結晶粒からなるフェライト組織のことである。上記(1)および(2)の本発明の鋼は、この組織が断面観察の面積率で80%以上を占めるものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明において、鋼の化学組成を限定した理由は次のとおりである。なお、成分元素の含有量はすべて重量%である。
【0027】
Cは、本発明鋼の基本成分である。その含有量が0.05%より少ないと、Ac点以上のオーステナイト相とした後に、急冷しても高温で変態を開始してしまうので、低温の過冷された状態のオーステナイト相での強加工が不可能となり、微細粒の鋼が得られなくなる。一方、Cが0.3%を超えると、変形抵抗が増大し、低温での強加工が困難となってくる。したがってCの含有量は0.05〜0.3%の範囲とする。
【0028】
Mnは、Ac点以上のオーステナイト相から急冷する際、フェライト相、ベイナイト相、またはマルテンサイト相等の低温相が析出を開始する温度を十分低下させるために必要である。すなわち、Mnは、低温の過冷された状態のオーステナイト相を安定して実現させるために重要である。その量が少ない場合は過冷状態のオーステナイト相の安定化が困難になるので、0.5%以上の含有が必要である。しかし、Mnの含有量が3%を超えると、変形抵抗が増大して強加工が困難となり、その上得られた鋼は極めて発錆しやすくなる。従って、Mnの含有量は0.5〜3%に限定する。
【0029】
本発明の一つは、上記のCおよびMn以外に特殊な合金成分を含まない、いわゆる低炭素鋼である。即ち、CおよびMn以外の残部は実質的にFeである。なお「実質的にFeである」というのは、鋼の製造上、不可避的に混入する不純物の存在は許される、という意味である。不可避的不純物としては、P、S、O、Nなどがあるが、これらはできるだけ少ないことが望ましい。
【0030】
なお、Al(アルミニウム)は、細粒組織を得る目的には特には必要ないが、鋳造の際、欠陥のない健全な鋳片を得るための溶鋼の脱酸に必須の元素である。上記の不可避不純物の中には、十分な溶鋼脱酸をおこなうために添加したAlの残留分(0.01%以上が望ましい)も含まれる。ただし、Alの多量の添加は効果が飽和するため無意味であり、鋼の価格を上げることになるので、多くても0.1%以下に止めておくのがよい。
【0031】
本発明鋼のもう一つは、CおよびMnの外に、超微細な細粒組織を安定して得るのに寄与するSi、Nb、Ti、V、CrおよびMoの各元素を一種以上、以下に示す範囲で含有する、いわゆる低炭素低合金鋼である。なお、これらの元素の含有量を0〜X%というように表記したが、それは、その元素が積極的に添加されなくてもよく、添加される場合にはその含有量の上限をX%にするという意味である。
【0032】
Siを含有させるとC量が比較的少ない場合でも安定して微細粒を得ることができる。その効果は0.01%以下では、ほとんど認められないので、添加する場合はその含有量を0.01%以上とするのがよい。一方、Siの含有量が0.3%を超えると、変形抵抗が増して強加工が困難になるので、添加する場合でも、その含有の上限は0.3%とする。
【0033】
NbまたはTiを含有させると、低温相が析出を開始する温度から多少離れた高めの温度で加工を加えても、十分安定して微細組織にすることができる。これは微細な炭窒化物の析出により変態後の結晶粒の成長が抑止されるためと考えられる。この効果を十分得るためには、Nbでは0.005%以上、Tiでは0.005%以上含有させることが望ましい。ただし、これらの元素が過剰になると靱性が低下してくるので、Nbでは0.05%以下、Tiも0.05%以下とすべきである。すなわち含有させる場合、Nbは0.005〜0.05%、Tiは0.005〜0.05%の範囲とするのがよい。
【0034】
V、CrおよびMoも含有させることにより、微細粒組織を安定して得ることができるようになる。これらの元素は炭化物を形成し、その析出物は、NbまたはTiの場合と同様結晶粒の成長を抑止する作用があるが、その効果は大きくない。それよりは、これらの元素は変態を遅らせる作用が強く、低温相の析出をより低温にするとともに、その析出時期を遅くし、過冷状態の低温でのオーステナイトとなる範囲を拡大できるので、微細粒組織の生成を容易にする効果がある。このような効果を得るためには、それぞれVでは0.008%以上、Crでは0.05%以上、Moでは0.05%以上含有していることが望ましい。しかし、むやみに含有量を多くしても、その効果は飽和し、いたずらにコストを増すだけとなるので、Vでは0.08%以下、CrとMoではそれぞれ1%以下とするのがよい。すなわち含有させる場合の含有量は、Vでは0.008〜0.08%、Crでは0.05〜1%、Moでは0.05〜1%とするのが望ましい。
【0035】
本発明鋼は、上記の組成を有し、その金属組織は、オーステナイトの低温変態によって生成したフェライト(以下、低温生成フェライトと記す)が全体の80%以上を占め、かつその平均結晶粒径が3μm以下の鋼である。低温生成フェライトとは、前記のように、薄膜試料により、透過型電子顕微鏡の手法で直接観察できるものであるが、転位密度が小さく、明らかに変態により生じた再結晶粒を言う。
【0036】
フェライト結晶粒には、高温生成による粗大な粒、加工により転位網に取り囲まれた粒、冷間の加工組織から発生した再結晶粒などがあるが、3μm以下の歪みの少ない結晶粒が集まった状態で、透過型の電子顕微鏡にて観察できるのは低温生成フェライトだけである。この低温生成フェライト組織が全体の80%を下回る場合は、靱性のすぐれた鋼にはならない。これは低温生成フェライト組織以外の部分が、マルテンサイト相やベイナイト相となり、強度は高くても靱性の劣る鋼となるか、またはフェライト相でも歪みの多い加工組織の鋼や、粗大結晶粒のフェライト相で強度と靱性が劣る鋼となるからである。また、平均結晶粒径が3μmを超えると、これもまた強度および靱性が劣った鋼となる。
【0037】
本発明の鋼の製造方法は、上記の組成範囲の鋼素材を用い、Ac点以上の温度から5〜100℃/sの冷却速度にて、650℃以下でフェライト相、ベイナイト相、またはマルテンサイト相等の低温相が析出を開始する温度以上の温度範囲に冷却し、断面積の減少率が60%以上の強加工を施す。
【0038】
Ac点以上の温度からの冷却速度を5〜100℃/sとするのは、5℃/sを下回る冷却速度の場合、過冷のオーステナイト状態を650℃以下にまで持ち来すことが困難であり、フェライト結晶粒が粗大化するからである。また、100℃/sを超える急激な冷却速度とすると、被冷却材の温度分布が悪くなり、場所による不均一を招くことに加え、低温相が析出する温度以下にまで低下してしまうおそれがある。
【0039】
この冷却開始以前の素材は、常温から加熱炉にてAc点以上の温度に加熱されたものでもよいが、素材を加熱し、粗鍛造、粗圧延など所要形状にAc点以上の温度にて加工された状態であってもよく、その前歴は問わない。
【0040】
650℃以下にまで冷却するのは、650℃を上回る温度にて加工を加えると、加工変形直後の再結晶により十分な微細組織が得られなくなるからである。また、変態が始まってしまってから加工がおこなわれると、均質な微細組織が得られなくなり、加工歪みが残存してしまうばかりでなく、変形抵抗が増加するので強加工を加えることが困難になる。したがって加工は、650℃以下でかつ低温相が析出するまでの温度範囲において行わなければならない。そして、その場合の加工は、断面積の減少率にて60%以上であることが必要である。60%を下回る変形量では、変形が不十分で十分な微細粒組織とはならず、しかも、変態による加工歪みの放出が不十分になる傾向がある。板圧延の場合は幅方向の変形がほとんど無いので、断面積の減少率は板厚減少率と実質的に同じである。この加工度は、60%以上であればいくら大きくても同様な効果が得られるが、変形に要するエネルギーの増大や温度降下のため、通常90%程度までが限度である。
【0041】
強加工後ないしはそれにともなう変態直後は、350℃以下の温度にまで40℃/s以上の冷却速度にて冷却する。これは変態直後は極めて細粒であるため、変態直後の温度に保持されるか40℃/sを下回るゆっくりした速度で冷却されると粒成長が進み、平均粒径が3μmを超える結晶粒になってしまうおそれがあるからである。変態時点で加工歪みは十分解放されているので、冷却速度は速くてもかまわないが、水冷などその採用できる冷却手段により、その速度には自ずから限界がある。
【0042】
【実施例】
表1に示す組成の鋼を、50kgの高周波真空溶解炉にて溶解し、鋳塊を鍛造して幅150mm、厚さ50mmのスラブとし、1200℃に加熱して圧延し、厚さ20mmの素板とした。この素板を1000℃に加熱してオーステナイト化させた後、噴霧冷却により冷却速度を変え、その冷却速度にて冷却すれば、低温相が析出し始める温度、すなわち変態を開始する温度の直上の温度で圧延をおこない、圧延後直ちに冷却した。
【0043】
【表1】
Figure 0003623656
【0044】
これらの圧延に供した鋼番号それぞれの圧延条件を表2に示す。得られた圧延試片から任意の位置にて採取した10ヶ所の板厚中心部の薄膜試験片にて、透過型電子顕微鏡を用いて7000倍の写真を撮りフェライト粒径を測定し、2000倍の写真にてフェライト組織の比率を求めた。また圧延試片からJIS5号の引張り試験片を切り出して引張り強さを測定し、幅2.5mmのJIS4号サブサイズ試験片により衝撃試験をおこない、破面遷移温度を求めた。
【0045】
【表2】
Figure 0003623656
【0046】
フェライトの平均結晶粒径、フェライト組織の占有率、強度および靱性の試験結果をまとめて表2に併記した。その結果から明らかなように、本発明の低温生成フェライトが全体の80%以上を占め、かつその平均結晶粒径が3μm以下の鋼は、その強度に対する靱性がすぐれた鋼であることがわかる。またこのような超微細粒の鋼を製造するには、本発明にて定めるように、オーステナイトから加工までの冷却速度、加工温度、加工度および加工後の冷却速度を規制する必要のあることが明らかである。
【0047】
【発明の効果】
本発明の鋼は、合金組成の含有量の少ない鋼であるにもかかわらず、高強度でしかも靱性が極めてすぐれている。これは、低温変態により生成したフェライトが80%以上を占め、かつその平均結晶粒が3μm以下と微細であることによる。そして、本発明方法によれば、過冷のオーステナイトの大歪み加工により極めて微細なフェライト組織が得られ、低炭素低合金鋼でも、強度および靱性のすぐれた鋼を得ることができる。

Claims (3)

  1. 重量%にて、C:0.05〜0.3%とMn:0.5〜3%を含み、残部が実質的にFeからなり、オーステナイトの低温変態によって生成したフェライトが80%以上を占め、かつ平均結晶粒径が3μm以下である金属組織を有することを特徴とする鋼。
  2. 重量%にて、C:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜3%、Si:0.01〜0.3%、Nb:0〜0.05%、Ti:0〜0.05%、V:0〜0.08%、Cr:0〜1%およびMo:0〜1%を含み、残部が実質的にFeからなり、オーステナイトの低温変態によって生成したフェライトが80%以上を占め、かつ平均結晶粒径が3μm以下である金属組織を有することを特徴とする鋼。
  3. 請求項1または請求項2に記載の組成を持つ鋼をAc点以上の温度から、5℃/s以上100℃/s未満の冷却速度にて冷却する過程において、フェライト相、ベイナイト相、またはマルテンサイト相のような低温相が析出を開始する温度より高く、かつ650℃以下の温度域で断面積減少率にて60%以上の加工をおこない、その後40℃/s以上の冷却速度にて350℃以下の温度にまで冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼の製造方法。
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