JP3623007B2 - 人工臓器およびその滅菌方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電子線照射により滅菌された医療用具、特に血液濾過装置・血液透析装置に関するものである。更に詳しく述べると本発明は電子線照射の分布を大きくすることなく滅菌された医療用具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、医療分野において、腎機能を失った腎臓病患者が行う血液透析は、いわゆる人工腎臓の代名詞となっている。従来実用化されている人工腎臓用透析装置の滅菌方法は、エチレンオキサイドガス等によるガス滅菌法、高圧蒸気によるオートクレーブ法、γ線照射法の3種類が主流である。このうち、エチレンオキサイド法は、エチレンオキサイドガスの残留が問題であり、毒性を及ぼさない様に十分なる脱ガスを必要とする。更に、加圧と減圧を繰り返し処理するため処理時間が長く、材質によっては性能変化を起こす場合もあった。
【0003】
オートクレーブ法及びγ線照射法は、透析装置を構成する材料の性質に左右される。前者のオートクレーブ法は、中空糸の湿潤状態の耐熱性が問題となり、材質によっては、その性能を著しく低下させ、オートクレーブ法を使用できない場合がある。後者のγ線照射法は、滅菌効果が優れ、ガス滅菌法のような残留エチレンオキサイドガスの問題もなく優れた滅菌法である。しかし、材料に破壊的影響を与えるため性能、溶出物、強度物性等に問題を示す場合が多く、材料の選択・開発を行うことを必要とされてきた。また、γ線照射時の照射方法として特公昭55−26620号、特公平3−10343号に記載されてるように、透析装置内に不活性ガスや水等を充填し、劣化を防止しつつ滅菌する方法が、考案されていた。
【0004】
一方、近年電子線照射は、その加速電圧を大きくすることで、医療用具等を滅菌可能な方法となり、注目されている。電子線照射による滅菌法の特徴は、エチレンオキサイドガス法のような残留毒性の心配がなく、オートクレーブ法・エチレンオキサドガス法・γ線照射法のように滅菌処理時間が長くなく短時間で処理が可能である。また、電源を切れば、瞬時に照射を停止し、γ線の照射施設のような放射性物質の保管に関する配慮は不要で環境上の安全性が高く、コスト面からも安価である。更に、γ線との大きな違いは、材料劣化が小さいことである。このため、材料選択の範囲が広い利点がある。
【0005】
しかし、電子線照射の欠点はγ線照射と異なり透過力が小さくその透過距離は照射される物質の面比重に依存されると言われている。従って、現在での電子線照射法は両面より2回照射する方法、製品形状に対する照射方向を工夫する方法または加速電圧を大きくする方法によりこの問題点を解決してきた。しかしこれまで電子線照射法を滅菌法として採用したほとんどの製品は、手術用手袋、手術用シート、手術着、縫合糸、等の比較的形状が均一で単一部材からなり、比較的容易に照射可能であった。しかしながら、中空糸からなる人工透析装置や人工肺などの人工臓器と呼ばれる医療用具は、多くの部材と複雑な形状を有している。従って、電子線照射時に部材の比重の違いから一製品中の照射量の分布が大きく生じていた。ここでの照射分布とは、最大照射量と最小照射量との比であり、その値が大きいほど、安全性、製品管理、性能等に問題を生じていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は透析装置等の複雑なる形態を有する医療用具の電子線照射滅菌において、できるだけ電子線照射分布を小さくし、製品としての安全性を向上させることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記問題点は、下記の本発明により解決される。
【0008】
(1)電子線照射滅菌の際、ケミカルインジケータを用いて測定した照射量において、シールド材を用いて電子線の最大照射量と最小照射量との比が小さくされてなることを特徴とする中空糸からなる人工臓器。
(2)シールド材が、金属粉や造影剤等の比重の大きい無機物または化合物を含むポリマーシートからなる上記(1)の中空糸からなる人工臓器。
(3)電子線照射滅菌の際、金属粉や造影剤等の比重の大きい無機物または化合物を含むポリマーシートからなるシールド材を用いて、ケミカルインジケータを用いて測定した照射量において、電子線の最大照射量と最小照射量の比を小さくすることを特徴とする中空糸からなる人工臓器の滅菌方法。
また、電子線照射滅菌された医療用具において、シールド材を用いて電子線照射分布を小さくした医療用具であってもよい。
【0009】
以下、本発明の実施態様に基づき、より詳細に説明する。
【0010】
多くの部材と複雑な形状を有する製品として、中空糸からなる人工透析装置を中心に説明する。
【0011】
まず、通常の電子線照射を行い、人工透析装置内の照射量分布をケミカルインジケーターを用いて測定する。この時、最低照射量が滅菌可能であることが最低条件となるため必要照射量に満たないときには、ビーム電流、コンベア速度、パス回数等を検討し、滅菌可能な条件にする必要がある。この時、照射方向を反転させて、2回照射しても良い。又、人工透析装置に対し照射する電子線の方向が異なると照射量が全く異なる。たとえば、中空糸の方向(血液の流れる方向)に対し平行に照射した時、中空糸部分が最低照射量を示しポッティングウレタン部分が最大照射量を示すが、中空糸に対し垂直に照射した時、逆に中空糸の部分が最大照射量を示しポッティングウレタン部分が最小照射量を示す。従って、中空糸の方向に対し平行に照射した時にはウレタン部分をシールド材を用いて遮蔽し、中空糸に対し垂直に照射した時中空糸の部分をシールド材で遮蔽することとなる。どちらの方法を用いてもかまわないが、照射するときに遮蔽しやすい方向に設定すべきである。又、人工透析装置に最大照射量と最小照射量の間を示す照射量に対してはその遮蔽量をコントロールすることにより照射の均一性を持たせることも可能である。
【0012】
作製された透析装置をポリエチレン等の包材で包装する。この時、不活性ガスの充填や真空又は脱酸素剤等を用い無酸素状態にすることは、特に限定しないが、材料の劣化等に対応する必要がある場合には有力な手段である。作製された人工透析装置を10〜12本単位で箱に詰め、電子線を照射する。
【0013】
シールド材は、箱詰めにした箱の内側または、外側どちらに設定してもかまわないが、電子線照射方向に対し垂直となるように設置する。又、設置したシールド材が遮蔽される部位を正確に位置するように注意する。
【0014】
シールド材の材質は、金属シート及び金属粉や造影剤等の比重の大きい無機物、化合物を含むポリマーシートが考えられる。このとき、金属の種類は特に限定はない。
【0015】
又、造影剤ではタングステン、酸化ビスマス、硫酸バリュウム、等の一般の造影剤として使用されている化合物であれば問題ではないが、ポリマーとの相溶性や、造影性が高い造影剤が有効と考えられる。ポリマーの種類にも特に限定しない。
【0016】
又、これらの造影剤と相溶すればポリマー以外の物質でもかまわない。また、造影剤の添加量及びシールド材の厚さは、電子線を遮蔽する割合に比例して調整する。
【0017】
例えば、シールド材を用いずに電子線照射し、照射量の等高線を示すマップを作製し、そのマップに比例するようにシールド材の厚みを調節する。
【0018】
又、本発明のシールド材は、材料の劣化がない限り再利用することが可能である。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0020】
(実施例1)
PTMG−Ny.BI製中空糸膜からなる透析装置内に数個のケミカルインジケーターを図1に示すとおり設置する。一方、シールド材は、塩化ビニル100重量部に対し可塑剤52重量部添加した軟質塩化ビニルにタングステンを50wt%となるように添加し、混練後ロール及びプレス化し厚み2mmの均一なるシートを得た。これを照射量過多な部分(比較例1参照)に合うように切り取りとる。次に、このシート3枚を透析装置の外側の照射量過多の部分(比較例1参照、B、C、D、Eの位置)に固定し、ポリエチレン包材で包装する。これを12本単位で箱詰めにし、電子線を中空糸方向に対し垂直となるように照射した。照射の条件は、加速電圧:5MeV,ビーム電流:10mA,コンベア速度5.6m/minで、透析ポートの方向で上下反転させ2回照射した。この時の図1に示すインジケーターから求めた各部位での照射量を表1に示す。最大照射量と最小照射量の比(照射分布)は1.40であった。
【0021】
PTMG :ポリテトラメチレンオキサイド
Ny.BI:1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(B)、イソフタル酸(I)から成るポリアミド
【0022】
(実施例2)
PTMG−Ny.BI製中空糸膜からなる透析装置内に、指標菌としてBacillus Pumilus(ATCC27142)を1×10個塗布し、実施例1と同条件で電子線を照射した。電子線照射後の菌は検出されず、滅菌効果を確認した。
【0023】
(比較例1)
実施例1に於いてシールド材を使用しないこと以外の条件はすべて同一とする。この時の実施例1と同位置のインジケーターから求めた照射量を表2に示す。最大照射量と最小照射量の比(照射分布)は3.05であった。
【0024】
(実施例3)
ポリプロピレン製多孔質中空糸膜からなる人工肺に実施例1と同様に数個のケミカルインジケーターを図2の位置に設置する。一方、シールド材は、実施例1と同様なタングステン入り軟質塩化ビニルシートを使用した。これを照射量過多な部分(比較例2参照)に合うように切り取りとる。次に、ポリエチレン包装、箱詰めにし、シート11枚を人工肺の照射量過多の部分に対応するように箱の外側に固定する(比較例2参照、G,I,N,Pに対応する位置に3枚,J,Lに対応する位置に各4枚)。これに電子線をファイバー方向に対し垂直となるように照射した。照射の条件は、加速電圧:5MeV,ビーム電流:10mA,コンベア速度3.5m/minで、血液ポートの方向で上下反転させ2回照射した。この時の図2に示すインジケーターから求めた各部位での照射量を表3に示す。最大照射量と最小照射量の比(照射分布)は1.43であった。
【0025】
(比較例2)
実施例3に於いてシールド材を使用しないこと以外の条件はすべて同一とする。この時の実施例3と同位置のインジケーターから求めた照射量を表4に示す。最大照射量と最小照射量の比(照射分布)は4.50であった。
【0026】
【表1】
Figure 0003623007
【0027】
【表2】
Figure 0003623007
【0028】
【表3】
Figure 0003623007
【0029】
【表4】
Figure 0003623007
【0030】
【発明の効果】
本発明の人工臓器は、シールド材を用いて電子線照射滅菌をすることにより照射分布を小さくし、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る透析装置の部分断面図。
【図2】本発明の一実施例に係る人工肺の部分断面図。
【符号の説明】
10 透析装置
11 血液ポート
12 ポッティングウレタン部分
13 透析ポート
14 中空糸
15 人工肺
16 血液ポート
17 ガス交換器部
18 熱交換器部
19 中空糸
20 水ポート
21 ガスポート
22 ステンレスパイプ

Claims (3)

  1. 電子線照射滅菌の際、ケミカルインジケータを用いて測定した照射量において、シールド材を用いて電子線の最大照射量と最小照射量との比が小さくされてなることを特徴とする中空糸からなる人工臓器。
  2. 上記シールド材が、金属粉や造影剤等の比重の大きい無機物または化合物を含むポリマーシートからなる請求項1の中空糸からなる人工臓器。
  3. 電子線照射滅菌の際、金属粉や造影剤等の比重の大きい無機物または化合物を含むポリマーシートからなるシールド材を用いて、ケミカルインジケータを用いて測定した照射量において、電子線の最大照射量と最小照射量の比を小さくすることを特徴とする中空糸からなる人工臓器の滅菌方法。
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