JP3620463B2 - スポット溶接のモニタリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種鋼板などの被溶接材を接合するスポット溶接において、その溶接状態の良否をインプロセスにて判定するのに用いるスポット溶接のモニタリング装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、鋼板を使用する種々の製品において、鋼板の溶接にはスポット溶接が広く利用されている。これらの製品において、従来では、被溶接材として軟鋼板を用いていたため、溶接不良も少なく、所定の溶接条件を管理することにより溶接品質を比較的安定して保つことが可能であった。ところが、近年では、被溶接材として、防錆性能を高めた溶融合金化亜鉛めっき鋼板などの難溶接材が主に用いられるようになり、これに伴ってスポット溶接機の電極チップの摩耗などに起因する溶接不良が発生することから、溶接品質の管理が難しいという問題が生じている。そのため、スポット溶接に際しては、単に溶接条件を一定に管理するだけでなく、打点毎のナゲットの品質をも高精度で管理する必要が生じていた。
【0003】
そこで、ナゲットの品質を管理するために様々なモニタリング装置が提案されており、例えば、とくに製造ラインにおいて要求の高い全溶接打点のインプロセスモニタリングに適応するものとして、溶接時の金属溶融状況に起因する振動現象に着目してスポット溶接の良否判定を行うモニタリング装置があった。(特開2001−25881号)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、溶接中に発生する振動に基づいてスポット溶接の良否判定を行うスポット溶接のモニタリング装置では、スポット溶接機の形式や構造によっては、金属溶融状況に起因する振動がスポット溶接機の機械振動に埋もれて良否判定が困難になることがある。例えば、一般にC型ガンと呼ばれる鉤状のアームを備えたスポット溶接機では、アーム剛性が低いことから、通電に伴ってアーム部や電極チップへ作用する電磁力により引き起こされる機械振動の振幅が大きくなる。この機械振動は通電電流周波数の2倍の周波数に同期した減衰を伴う断続的な振動となる。このため、良否判定の評価対象となる振動すなわち金属溶融状況に起因する振動がスポット溶接機の機械的な断続的振動に埋もれて良否判定が困難になることがあるという問題点があり、このような問題点を解決することが課題となっていた
【0005】
【発明の目的】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、溶接中に発生する振動に基づいてスポット溶接の良否判定を行うスポット溶接のモニタリング装置において、例えばC型ガンのような低剛性の交流スポット溶接機であっても、安定したスポット溶接の良否判定を行うことができるスポット溶接のモニタリング装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、溶接中に発生する振動に基づいてスポット溶接の良否判定を行うスポット溶接のモニタリング装置において、交流溶接電流を通電したときに電磁力を加振源として発生するスポット溶接機の電極部分の断続的機械減衰振動と交流溶接電流の位相差(遅れ時間)を検出する振動位相差検出手段と、良否判定の基準値を設定する良否判定基準値設定手段と、振動位相差検出手段で検出した振動位相差(遅れ時間)と良否判定基準値設定手段からの基準値を比較してスポット溶接の良否判定を行う溶接良否判定手段を備えた構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
このスポット溶接のモニタリング装置は、重ね合わせた被溶接材(鋼板)同士を一対の電極チップで加圧しつつ両電極チップに交流溶接電流を通電し、抵抗加熱により両被溶接材同士を溶接するスポット溶接において、電極チップあるいはその近傍のガンアームに振動センサを備え、この振動センサにより溶接中に発生する断続的機械減衰振動を検出する。
【0008】
本発明の請求項2に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、振動位相差検出手段が、断続的機械減衰振動の位相差を一溶接当りに複数回検出する振動位相差標本化手段と、検出した振動位相差の標本データから散り発生時などの過大振動や予熱通電時などの過小振動に対応した異常データを削除する標本データ適正化手段と、最頻値(モード)、算術平均および幾何平均のいずれかを用いて適正化された標本データの代表値を求める判定パラメータ決定手段を備えていることを特徴としている。
【0009】
このスポット溶接のモニタリング装置は、信頼性の高い良否判定を安定して行うために、振動位相差標本化手段において、一溶接当りに複数回の振動位相差の標本データを検出し、標本データ適正化手段において、先に検出した標本データから、偶発的な散り振動やその他の振動あるいは振動現象の『ゆらぎ』といったデータすなわち正しい良否判定の阻害要因となる異常データの排除を行って、標本データを適正化する。そして、判定パラメータ決定手段において、先に適正化した標本データから、良否判定基準値と比較するための代表値を算出する。
【0010】
本発明の請求項3に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、良否判定基準値設定手段が、複数の良否判定基準値を設定する手段であり、溶接良否判定手段が、振動位相差が基準値に対して以下、以上および所定範囲内のいずれかであるときに『溶接良好』と判定する手段であることを特徴としている。
【0011】
このスポット溶接のモニタリング装置は、誤判定をすることなくスポット溶接の良否判定をするために良否判定基準値を複数設けており、溶接良否判定手段において、判定パラメータ決定手段で得た代表値が良否判定基準値の間にあるか否かを判定する。
【0012】
本発明の請求項4に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、良否判定基準値設定手段が、良否判定基準値の上限値として電極チップの加圧力不足および摩耗のいずれかによる溶接不良発生時に対応した振動位相差を設定し、且つ良否判定基準値の下限値として電流不足による溶接不良発生時に対応した振動位相差を設定する手段であり、溶接良否判定手段が、振動位相差が上限値と下限値の間にあるときに『溶接良好』と判定する手段であることを特徴としている。
【0013】
このスポット溶接のモニタリング装置は、良否判定基準値設定手段において、例えば、想定される電極チップの加圧力不足により大きくなる振動位相差、および電極チップの摩耗により大きくなる振動位相差のうちの小さい方の値を上限値として設定すると共に、許容される溶接電流の下限値に相当する振動位相差を下限値として設定する。
【0014】
本発明に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、請求項5として、良否判定基準値設定手段が、溶接良好時の振動位相差の量に予め求めた所定の係数を乗じた値を良否判定基準値とする手段であることを特徴としており、請求項6として、良否判定基準値設定手段が、電極間電圧より算出した電流推定値に予め求めた所定の係数を乗じた値を良否判定基準値とする手段であることを特徴としており、請求項7として、良否判定基準値設定手段が、外部より入力される被溶接材の板厚信号に基づき予め設定した板厚対良否判定基準値マップを参照して良否判定基準値を選択設定する手段であることを特徴としている。
【0015】
これらのスポット溶接のモニタリング装置は、操作性を向上させると共に、入力間違いを防止するために良否判定基準値の設定の簡素化を図ったものであり、請求項5のスポット溶接のモニタリング装置は、電極チップが新しい時などのように良好な溶接が行っている時の振動位相差をスイッチ操作により記憶し、記憶した振動位相差に予め求めておいた係数として例えば1.5を乗じ、これを良否判定基準値として出力する。なお、この係数例では、良好な溶接が行われているときの振動位相差が50%大きくなった場合に溶接不良が発生すると判定されることになる。
【0016】
また、請求項6のスポット溶接のモニタリング装置は、溶接電流と振動位相差との特性に着目し、予め溶接電流と良否判定基準値との比例乗数を求めておき、その比例定数を係数として設定する。そして、電極間電圧から算出した溶接電流値に比例定数を乗じ、これを良否判定基準値として出力する。
【0017】
さらに、請求項7のスポット溶接のモニタリング装置は、被溶接材の板厚と振動位相差との特性に着目し、予め板厚と良否判定基準値との対応表を求め、この対応表を板厚対良否判定基準値マップとして設定する。そして、外部より入力される板厚信号で板厚対良否判定基準値マップを参照して対応する良否判定基準値を出力する。
【0018】
本発明の請求項8に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、振動位相差検出手段の検出結果と所定の電極整形時期判定基準値を比較して電極チップの整形時期を検出し且つ警報を出力する電極整形時期検出手段を備えたことを特徴としている。
【0019】
このスポット溶接のモニタリング装置は、電極チップの摩耗が進んでその先端径が増大すると、その大きさに応じて振動位相差が大きくなる特性に着目し、溶接不良が発生する少し前の先端径になったときの振動位相差を予め求めておき、その値を電極整形時期判定基準値に設定する。そして、スポット溶接の良否判定と平行して振動位相差と電極整形時期判定基準値とを比較し、双方が一致したときに電極チップが整形時期に到達したことを知らせる警報を出力する。
【0020】
本発明に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、請求項9として、サイクル毎の振動位相差の変化と所定の変化パターンを比較して被溶接材に対する溶接設定条件の適合可否を判定する設定条件不適合検出手段を備えたことを特徴としており、請求項10として、所定の振幅レベル以上の振動が電流波形の半周期にわたって継続していることを検出して散りと判定する散り検出手段と、散りを検出した通電サイクル値を出力する散り発生サイクル出力手段を備えたことを特徴としており、請求項11として、電極間電圧より検出した通電角が適正値にあり且つ振動振幅が所定の振幅以下にあることを検出して電極チップ溶着と判定する電極チップ溶着検出手段を備えたことを特徴としており、請求項12として、電極間電圧より検出した通電角を振動振幅で割った結果が所定の値以上となった場合に通電不良と判定して警報を出力する電流通電不良検出手段を備えたことを特徴としており、請求項13として、電流通電不良検出手段により通電不良と判定されない場合に、検出した振動位相差とその移動平均値の差分が所定の値以上となった場合に分流電流と判定して警報を出力する分流検出手段を備えたことを特徴としている。
【0021】
これらのスポット溶接のモニタリング装置は、スポット溶接の良否に関連した溶接不具合を知らせるための警報を出力するものであり、請求項9のスポット溶接のモニタリング装置は、溶接条件を共通化可能な不特定の被溶接材に対して、同一の溶接条件で溶接を行うような場合に、設定した溶接条件の適合範囲を逸脱する被溶接材を誤って溶接したことを検出し、それ以降の溶接不良の続発を防止するために、設定条件不適合検出手段において、良好な溶接時におけるサイクル毎の振動位相差の変化パターンを予め求めて適合判定基準値として設定し、標本データ適正化手段の出力データと適合判定基準値とをサイクル毎に比較し、所定の変動範囲より外れたことを検出した場合には、溶接設定条件が不適合であることを知らせる警報を出力する。
【0022】
請求項10のスポット溶接のモニタリング装置は、溶接の強度的な良否判定に加えて、仕上がり外観上の品質向上および省電力化のために散りの発生サイクルを出力するものであり、散り検出手段において、散りが発生したときの大振幅で且つ低減衰率の散り振動を予め設定した散り検出用のしきい値で検出し、散り振幅の検出が溶接電流の半周期の間継続した場合に『散り発生』を検出する。そして、散り発生サイクル出力手段において、散り発生タイミングを通電サイクルで測り、散りの発生を通電サイクル数で出力する。
【0023】
請求項11のスポット溶接のモニタリング装置は、電極チップが溶着したときに振動振幅が極端に小さくなることに着目し、予め電極チップ溶着時の振動振幅を元に電極チップ溶着検出用のしきい値を設定しておき、通電が適正値にありながら振動振幅がしきい値以下になった場合に『電極チップ溶着』と判定する。
【0024】
請求項12のスポット溶接のモニタリング装置は、溶接電流と振動振幅が比例関係にあることに着目し、予め正常に通電されている場合の溶接電流と振動振幅の平均値との比を設定しておき、溶接毎に電極間電圧から求めた電流推定値と振動振幅の平均値との比が設定値より大きい場合に『通電不良』と判定して警報信号を出力する。
【0025】
請求項13のスポット溶接のモニタリング装置は、電極間電圧より検出される電流推定値が適正範囲であり、且つ振動位相差の前回までの移動平均値が良否判定基準値あるいは電極チップ整形時期判定基準値に達していない条件を満たしているときに、検出された振動位相差と移動平均値の差分が予め設定した分流判定基準値を超す場合に『分流電流』を判定して警報信号を出力する。
【0026】
本発明の請求項14に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、設定条件不適合検出手段、電極チップ溶着検出手段、電流通電不良検出手段および分流検出手段のいずれかにおいて不良が検出された場合に溶接良否判定手段へ溶接不良警報信号を出力する溶接不良警報手段を備え、溶接良否判定手段が、溶接不良警報を入力した場合に振動位相差による良否判定の結果によらず『溶接不良』を出力する手段であることを特徴としている。
【0027】
このスポット溶接のモニタリング装置は、請求項9〜13に記載のいずれかの溶接条件不良の警報が出力された場合には、溶接部分のナゲット形成に悪影響を及ぼしていることが考えられるため、請求項9〜13に記載の警報出力の論理和を溶接不良警報信号として溶接良否判定手段に入力する。
【0028】
本発明の請求項15に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、振動位相差検出手段が、判定パラメータ決定手段で求めた標本化データの代表値と、通電開始から予め定めた検出しきい値以上の振動を最初に検出した時刻までの時間とを切替えて出力する手段であり、良否判定基準値設定手段が、溶接良好時の振動位相差の量に予め求めた所定の係数を乗じた値である良否判定基準値と、電極間電圧より算出した電流推定値に予め求めた所定の係数を乗じた値である良否判定基準値と、外部より入力される被溶接材の板厚信号に基づき予め設定した板厚対良否判定基準値マップを参照して選択設定した良否判定基準値と、母材より低融点の表面コーティング層を有する鋼板における溶接不良判定時の良否判定基準値とを切替えて出力する手段であり、取付け対象のスポット溶接機および被溶接材のいずれかに応じて、振動位相差検出手段と良否判定基準値設定手段の出力の切り替えを選択する良否判定モード切替手段を備えたことを特徴としている。
【0029】
このスポット溶接のモニタリング装置は、取付け対象のスポット溶接機または被溶接材の適合範囲を拡大するために上記構成を備えている。
【0030】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、溶接中に発生する振動に基づいてスポット溶接の良否判定を行うスポット溶接のモニタリング装置において、例えば、低剛性の交流スポット溶接機などにおいてナゲット形成状況に対応した金属溶融振動がスポット溶接機の機械振動に埋もれて容易に検出できない場合であっても、通電時の電磁力を加振源とした大振幅の断続的機械減衰振動を検出対象としていることから、金属溶融振動を容易に信号検出することができ、スポット溶接の良否判定を確実に行うことができる。また、検出対象の振動振幅が大きいことから、信号検出に高度な信号抽出技術を用いる必要が無く、さらに、様々な被溶接材のスポット溶接に適合させることが可能であって、従来のモニタリング装置に比べてより広範囲の溶接条件に適合し得るとともに良否判定の信頼性をより一層向上させることができる。
【0031】
本発明の請求項2に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1と同様の効果を得ることができるうえに、良否判定パラメータを得るために、一溶接当り複数回の振動位相差の標本データを検出し、異常データを排除して最頻値(モード)屋平均値を求めることから、偶発的な散り振動やその他の振動あるいは振動現象の『ゆらぎ』などの影響を減少させて、信頼性の高い良否判定を安定して行うことができる。
【0032】
本発明の請求項3に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1および2と同様の効果を得ることができるうえに、良否判定基準値を複数設けることにより、振動を検出するセンサ類の故障や断線などによる信号検出不良、外乱ノイズによる振動位相差データのドリフト、あるいは溶接条件の変動による誤判定を防止することができる。
【0033】
本発明の請求項4に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項3と同様の効果を得ることができるうえに、電極チップの加圧源や溶接電源の偶発的な変動によって加圧力や溶接電流が低下することによる誤判定を防止することができる。
【0034】
本発明の請求項5に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1および2と同様の効果を得ることができるうえに、良好な溶接が行われているときの振動位相差を記憶するように操作するだけで、簡単に良否判定基準値を設定することができ、操作性の向上や入力間違いを防止することができる。
【0035】
本発明の請求項6に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1および2と同様の効果を得ることができるうえに、予め溶接電流と良否判定基準値の比例定数を求めてその値を設定してくことにより、溶接電流に応じた良否判定基準値を自動的に設定し得るので、操作性をさらに向上させることができ、また、被溶接材に応じて溶接電流を加減する場合にも適応することができる。
【0036】
本発明の請求項7に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1および2と同様の効果を得ることができるうえに、予め被溶接材の板厚と良否判定基準値の対応マップを入力しておくことにより、板圧信号を入力するだけで良否判定基準値を自動的に設定することができ、異なる板厚の被溶接材を続けてスポット溶接する際の操作性を向上させることができる。
【0037】
本発明の請求項8に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1〜7と同様の効果を得ることができるうえに、振動位相差を所定の電極整形時期判定基準値と比較判定することにより、適切な電極チップ整形時期を検出することができ、また、電極チップの整形時期を知らせる警報信号を自動電極チップ整形装置(オートチップドレッサー)に入力することで、電極チップを効率良く自動整形することができる。
【0038】
本発明の請求項9に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1〜8と同様の効果を得ることができるうえに、とくに不特定の被溶接材に対して同一の溶接条件にてスポット溶接を行うような場合に、設定した溶接条件の適応範囲を超す被溶接材をスポット溶接したことを検出し得ることから、溶接不良の続発を防止することができると共に、作業者に対して溶接条件の再調整を促すことができる。
【0039】
本発明の請求項10に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1〜9と同様の効果を得ることができるうえに、散りの発生を検出することができるため、溶接品質の向上や省電力化を図る際の参照データを得ることができる。また、散りの発生サイクルが出力されることから、そのデータを溶接制御装置に入力し、高頻度の散り発生サイクルに対して通電を停止するクール制御を行うことにより散りの抑止を行わせることができる。
【0040】
本発明の請求項11に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1〜10と同様の効果を得ることができるうえに、被溶接材への電極チップの溶着を検出することができ、とくに自動溶接装置のように無人でスポット溶接を行う際に電極チップ溶着の即時発見を可能にし、電極チップ溶着に伴う不具合の発生を最小限に止めることができる。
【0041】
本発明の請求項12に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項1〜11と同様の効果を得ることができるうえに、高価な電流センサを用いることなく溶接電流の通電不良を検出することができる。
【0042】
本発明の請求項13に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項12と同様の効果を得ることができるうえに、溶接電流が加圧部以外の通電経路へ分流したことを推定して分流電流発生の警報を出力し得ることから、分流電流の発生に伴う溶接不良の見逃し防止を図ることができる。
【0043】
本発明の請求項14に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項9〜13と同様の効果を得ることができるうえに、各手段の判定内容に基づいて多角的な溶接不良の判定が成されることとなり、より厳密な溶接不良の見逃し防止を図ることができる。
【0044】
本発明の請求項15に係わるスポット溶接のモニタリング装置によれば、請求項2〜14と同様の効果を得ることができるうえに、取付け対象のスポット溶接機または被溶接材に応じて良否判定モードを切替えることにより、直流溶接機による表面コーティング層を有する鋼板の溶接のように金属溶融振動が相対的に大きい場合にも即座に対応することができる。
【0045】
【実施例】
溶接中に発生する振動に基づいてスポット溶接の良否判定を行うスポット溶接のモニタリングとしては、図2や図3に示すものがある。
【0046】
図2(a)は、通電開始時刻からの溶接振動中の特定周波数の振動信号An(t)SIN2πfn(tg)tを示すものであり、図2(b)は、図2(a)における振動信号の振幅拡大開始時刻trまでの経過時間Trとナゲット径との関係を示すものである。図2(b)に示すように、上記関係が指数曲線で近似できる実験結果を得たことに着目すると、溶接時に得られる振幅拡大開始時刻trと予備実験で得た合格ナゲット形成時の経過時間Trとを比較することでナゲット形成が完了するよりも前にナゲット形成状態の良否判定ができる。また、近似式を求めておくことで振幅拡大開始時刻trの時点においてナゲット径の推定ができる。
【0047】
また、図3(a)は、母材より低融点の表面コーティング層を有する鋼板のスポット溶接において、通電開始時刻からの事件経過と振動信号との関係を示すものであり、図3(b)は、通電開始後の溶接初期に電極チップ部分で検出される衝撃的振動発生時刻tbまでの経過時間Tbとナゲット径との関係を示すものである。図3(b)に示すように、上記関係が指数曲線で近似できる実験結果を得たことに着目すると、溶接時に得られる衝撃的振動発生時刻tbと予備実験で得た合格ナゲット形成時の経過時間Tbとを比較することでナゲット形成が完了するより前にナゲット形成状態の良否判定ができる。また、近似式を求めておくことで振幅拡大開始時刻tbの時点においてナゲット径の推定ができる。
【0048】
これらの方法は、いずれもナゲットの形成が完了するよりも前に良否判定が行われるので、その即時性から、判定結果に基づいて溶接電流等を最適値に制御するインプロセス制御に好適な良否判定方法あるいはモニタリング方法である。
【0049】
次に、本発明による良否判定の基本原理について説明する。図1(a)は、本発明に係わるスポット溶接のモニタリング装置の基本構成と、通電時に検出される電極チップ部分の振動波形の一例を示すものである。同図において、符号10はスポット溶接機、11は溶接制御装置、12は溶接トランスである。溶接電流波形Iwに対して検出される機械振動Vsは、振動位相差(遅れ時間)dθを有していることがわかる。さらに、振動位相差dθを同一電極チップにて溶接不良が発生するまで連続溶接したときの推移で見てみると、図1(b)に示すように、最小合格ナゲット径Dnに初めて至る約1100回までに単調増加する特性が観察された。
【0050】
本発明は、この特性に着目したものであって、溶接電流波形Iwに対する電極チップ部分の機械振動Vsの振動位相差dθを監視することで、溶接不良が発生するタイミングを未然に検出するものである。なお、図1(a)の振動位相差dθの軸の指標は、振動位相差角(deg)を溶接電流の2乗波の一周期(360deg)で正規化したものである。
【0051】
ここで、振動位相差dθのメカニズムについて考察すると、図4は溶接状態が『良』のときと『不良』のときの電極チップ部分の物理現象の変化を整理したものである。実際の物理現象を正確に表すことはかなり複雑になり、且つ不規則性要素が多分に含まれているため、ここでは理想的な単純なモデルにてマクロ的な物理現象を考える。
【0052】
溶接時に電極チップ部分に作用する力学要素を簡単に説明すると、電極チップ15には加圧シリンダによる加圧力Fpが強く作用している。この電極チップ15には、溶接電流Iwの通電によって誘導される電磁力が加振源となって、電極チップ15の軸線に直交するX軸方向(Fmx)と軸線に沿うZ軸方向(Fmz)に溶接電流Iwの2倍の周波数で脈動的な力が加わる。そして、抵抗加熱により被溶接材Wpの内部にナゲット径(溶融径)Dnの溶融池が形成される。また、電極チップ15は、加圧力Fpにより被溶接材Wp食い込み、被溶接材Wpの剛性と溶融池の内圧の合成力と加圧力Fpの釣り合う状態を継続する。
【0053】
そこで、上記の釣り合い状態が溶接不良時にはどのように変化するかを電極チップ部分の代表的な機械力学パラメータで見てみると、まず、溶接不良時の形状変化は、電極チップ15の摩耗によりその先端径Deが増大し、先端形状はドームの球面から平面になる。また、被溶接材Wpの金属成分や付着物が焼結して、先端面が平滑になる(表面平滑度Se)。その結果、被溶接材Wpへの食い込み量である圧痕深さieは、先端径Deが大きくなるのに対して加圧力Fpが一定であることから浅くなる(減少)。また、加圧面の摩擦係数μeも低下する。さらに、形成されるナゲット径Dn’は、電極チップ15の先端径De’の増大に伴う電流密度の低下により、金属溶融が促進されずに小径となる。材料力学的には、ナゲット形成部の粘性摩擦係数cは、ナゲット径Dn’が小径で且つ発熱温度Twも低いために低下する。しかし、ナゲット形成部のばね定数kは逆に増加する。
【0054】
以上、溶接の良否による物理現象の変化を説明したが、図4中の各パラメータの括弧内に記載したように、マクロ的に見ても各パラメータには多くの相互関係があり、これらが溶接良否判定の実現の大きな障害となっている。なお、図4中の各パラメータの括弧内は当該パラメータの主要変化因子であり、図4中において、Paは空気圧、Peは溶接電源電圧、Lzはスポット溶接機のZ軸方向のアーム長(Z軸)、Lxはスポット溶接機のX軸方向のアーム長、cmは被溶接材の標準粘性摩擦係数、kmは被溶接材のばね定数、およびtpは被溶接材の総板厚である。
【0055】
また、本発明では、個別監視や制御が可能な加圧力Fp、溶接電流Iw、および電磁力Fmx,Fmzよりも、監視や制御ができていない被溶接材Wpおよび電極チップ15の経時変化の検出が解決課題であるため、加圧力Fp、溶接電流Iw、および電磁力Fmx,Fmzが一定として説明したが、実際の溶接現場では偶発的な加圧源(空気圧)Paや溶接電流Iwの低下があり、その変動要素も無視できない。その影響の出力を図5に示す。
【0056】
一般的には減圧する方向を考慮すれば良く、図5(a)に示すように、加圧源Paが低下すると振動位相差dθが増加する傾向にある。また、図5(b)に示すように、溶接電流Iwが低下すると振動位相差dθが減少する傾向にある。さらに、図5(c)に示すように、同一溶接条件にて異なる板厚の被溶接材をスポット溶接した場合も板厚に比例して振動位相差dθが増加する傾向にある。
【0057】
したがって、単に振動位相差dθを所定の良否判定基準値と比較判定するだけでなく、先の変動要素を考慮した良否判定方法とする必要がある。本発明では、変動要素に対して良否判定基準値の設定の仕方を工夫することで誤判定を防止するようにしている。
【0058】
これらの関係を踏まえて図6に基づいて溶接不良時の振動位相差の増加をメカニズムを考えると、電極チップ15は、アームの固定端に対して加圧力Fpの力で押し当てられ、その先端は先端径Deの円と摩擦係数μeから成る固体摩擦力が作用している。加えて電極チップ15の軸線に直交するX軸方向には電磁力Fmxの力が作用し、これに伴いナゲット形成部の粘性摩擦力が生じ、先の固体摩擦力とともに電磁力Fmxに対する抵抗力Rが作用する。また、ナット形成部のばね定数による復元力Sが作用するといったモデルが考えられる。
【0059】
このモデルの運動方程式は次の式1となり、X軸方向の振動と外力(電磁力)との位相差は次の式2となる。
【0060】
【数1】
Figure 0003620463
【0061】
【数2】
Figure 0003620463
【0062】
また、抵抗力Rと復元力Sは、次の式3および式4となる。
【0063】
【数3】
Figure 0003620463
【0064】
【数4】
Figure 0003620463
【0065】
したがって、運動方程式の等価粘性摩擦係数Cと等価ばね定数Kは、先の式3および式4から、次の式5および式6に示すパラメータの関数であることが予想される。
【0066】
【数5】
Figure 0003620463
【0067】
【数6】
Figure 0003620463
【0068】
そして、先の式5および式6の各パラメータを溶接良否を想定して増減を評価すると、以下の表1のようになる。
【0069】
【表1】
Figure 0003620463
【0070】
この検討から、溶接不良が発生する場合に、電極チップ先端での等価粘性摩擦係数および等価ばね定数は、いずれも良好な溶接時よりも大きくなることが理解できる。これが先の図1(a)に示した振動位相差dθの増加の理由である。なお、表1において、評価項目から被溶接材の標準粘性摩擦係数cm、被溶接材のばね定数km、および圧痕深さieを外している理由は、標準粘性摩擦係数cmおよびばね定数kmは溶接良否で変化しないパラメータであるからであり、圧痕深さieは加圧力Fpおよび先端径Deと重複しているからである。
【0071】
図7に示すスポット溶接機は、シリンダロッドに加圧軸17を一体的に設けたエアシリンダ19と、溶接ガンアーム18が電機絶縁体14を介して結合され、加圧軸17と溶接ガンアーム18には、対向する電極チップ15,16を備えており、図示しない重ね合わせた2枚の被溶接材を前記電極チップ15,16で挟んで加圧し、通電による抵抗加熱で両被溶接材を溶着させるものである。加圧軸17はエアシリンダ19により空気圧で加圧駆動されるようになっており、他方のガンアーム18は、少なくとも溶接時において固定状態となっている。
【0072】
上記スポット溶接機は、両電極チップ15,16に対する溶接電流、通電時間(サイクル数)および通電角が、溶接制御装置11で制御され、その出力である1次電流を溶接トランス12において溶接胃必要な電流Iwまで増幅させる。この溶接電流Iwは、加圧軸17と溶接ガンアーム18、両電極チップ15,16および図示しない被溶接材で溶接電流回路が構成される。なお、電極チップ15,16の断続的機械減衰振動を検出するための振動センサ20は、例えば圧電素子を用いた加速度センサを適用し、溶接する際に被溶接材と干渉せず、且つ電極チップ部分の振動を適切な感度で検出可能な位置にブラケットを用いるか、または直接接着して取付ける。
【0073】
上記のスポット溶接機を用いて行うスポット溶接のモニタリング装置21は、概略として、通電角検出回路(通電角検出手段)211、電流値推定回路(電流値推定手段)212、振動検出回路(振動検出手段)213、振動位相差検出回路(振動位相差検出手段)214、良否判定基準値設定回路(良否判定基準値設定手段)215、溶接不良警報回路(溶接不良警報手段)216、溶接良否判定回路(溶接良否判定手段)217、電極チップ整形時期検出回路(電極チップ整形時期検出手段)218、および散り検出回路(散り検出手段)219を備えている。
【0074】
通電角検出回路211は、電極間電圧Veを入力して通電電流を推定するために用いる通電角信号φiと、電流波形と検出振動波との位相差を計測するために用いる通電タイミング信号φcを生成する。電流値推定回路212は、通電角信号φiから通電電流推定値Ieを算出する。振動検出回路213は、スポット溶接機に取付けた振動センサ20の検出信号Vsを入力し、この検出信号Vsから不必要な周波数成分の除去を行うと共に、同検出信号Vsを後段の回路に適正な信号レベルまで増幅させ、検出振動信号Vmを出力する。
【0075】
振動位相差検出回路214は、通電タイミング信号φcと振動検出回路213の検出振動信号Vmとを入力し、両信号φc,Vmの位相差dθを計測し、振動位相差信号(判定パラメータ)Jpとして出力する。良否判定基準値設定回路215は、スポット溶接の良否判定の際に用いる良否判定基準値Jrを設定出力する。溶接不良警報回路216は、電流値推定回路212が出力する電流推定値Ieと、検出振動信号Vmと、振動位相差検出回路214が出力する振動位相差信号Jpとを入力し、各種溶接不良警報Wo,We,Wi,Wbを出力する。
【0076】
溶接良否判定回路217は、振動位相差信号Jpと、良否判定基準値設定回路215が出力する良否判定基準値Jrとを比較し、溶接良否を判定し、さらに溶接不良警報回路216が出力する警報信号Swが全て警報無しの場合には良否判定結果を出力し、警報有りの場合には良否判定に関係なく『溶接不良』の判定信号Sjを出力する。電極チップ整形時期検出回路218は、振動位相差信号Jpと、外部より入力される電極チップ整形時期判定基準値Seとを比較して、電極チップ15,16が整形時期に到達したことを判定して電極チップ整形信号Sdを出力する。散り検出回路219は、検出振動信号Vmと通電タイミング信号φcを入力し、検出振動信号Vmが通電タイミングφcの1周期間にわたって継続して入力された場合に散り発生を検出し、そのときの通電サイクル数を散りの発生サイクル信号Ssとして出力する。
【0077】
上記モニタリング装置21の基本処理手順を図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0078】
ステップS1において、良否判定モードに応じて良否判定基準の形態および値Jrを選択設定し、ステップS2において、通電タイミング信号φcを読み込んで通電電流推定値Ie〔n〕を測定し、ステップS3において、通電タイミング信号φcと検出振動信号Vmを読み込んで双方の振動位相差dθ〔n〕を測定する。なお、配列変数nは、通電サイクル指標を示す。
【0079】
次に、ステップS4において、通電電流推定値Ie〔n〕と検出振動信号Vmと振動位相差dθ〔n〕の情報から、『設定条件不適合』の合否、『電極チップ溶着』の有無、『電流通電不良』の有無、および『分流電流』の有無を検出し、これらの結果に応じて溶接不良警報の判定を行なう。そして、ステップS5において、良否判定基準値Jrと振動位相差dθ〔n〕を比較して良否判定を開始する。このステップS5では、良否判定基準の形態および値Jrに対応した判定処理が施される。
【0080】
次に、ステップS6において、ステップS4の溶接不良警報の判定で警報項目が検出されたか否かを判定し、いずれも不良警報無しと判定した場合(Yes)は、ステップS7において、スポット溶接が良好であるか否かを判定し、良好であると判定した場合(Yes)は、ステップS8において、溶接良好の判定結果を出力する。また、ステップS6において不良警報有りと判定した場合(No)あるいはステップS7において溶接良好でないと判定した場合(No)には、ステップS9において、溶接不良の判定結果を出力し、該当する警報項目の警報を出力する。
【0081】
次に、ステップS10において、振動位相差dθ〔n〕と電極チップ整形時期判定基準値Seとを比較する電極チップ整形時期の判定を開始し、ステップS11において、電極チップ整形時期か否かすなわち振動位相差dθ〔n〕が電極チップ整形時期判定基準値Seに達しているか否かを判定し、整形時期に達していると判定した場合(Yes)には、ステップS12において、電極チップ整形の警報を出力する。また、ステップS11で整形時期に達していないと判定した場合(No)およびステップS12の警報出力後には、ステップS13において、検出振動信号Vmの振幅レベルから散りの有無を検出すると共に、通電タイミング信号φcから散りの発生サイクルを検出して出力する。
【0082】
以上で一回の溶接における良否判定処理を完了する。なお、続けて次の溶接に備えるために、ステップS13からステップS2に戻って待機状態となる。それ以降は、ソフトウエアが停止されるまで処理を継続する。
【0083】
ここで、通電角検出回路211と電流値推定回路212について説明する。電極間電圧Veは、図19のタイミングチャートにおける(2)に示すように、スポット溶接機10の通電経路のインダクタンスにより溶接電流Iw(1)を微分した波形として検出される。本実施例では、時間分解能に優れた電極間電圧Veを検出し、その急峻な電圧変化点のみで細いパルス信号が出力されるように処理して通電タイミング信号φcを出力している。なお、細いパルス信号の発生にはハイパスフィルタが適用できる。
【0084】
このようにして得られた細いパルス信号は、始めの信号Poが通電開始時期(以下『点弧』とする)に対応し、次の信号Pcが通電停止信号(以下『消弧』とする)に対応し、後段の処理回路の動作タイミング信号として用いられる。
【0085】
次に、通電角φiには通電タイミング信号φcを用い、最初の信号Poでハイレベル、次の信号Pcでローレベルとなるように交互にレベル変化させることで通電角φiに相当するパルス幅を有する信号(4)としている。 なお、このパルス信号の生成には、フリップフロップ素子が適用できる。このようにして、通電角信号φiと通電タイミング信号φcが通電角検出回路211から出力される。
【0086】
次に、電流値推定回路212では、通電電流の半周期毎に更新される通電角信号φiを受けてそのパルス幅を測定し、順次溶接電流推定値Ieを更新して出力する(5)。なお、この処理では、パルス幅の測定にミラー積分回路(時間積分)が用いられ、溶接電流推定値信号Ieの生成には、消弧のタイミングで動作するサンプル・アンド・ホールド回路が用いられる。
【0087】
また、ソフトウエアでは、図16に示すように、ステップS21において、点弧時刻の信号Poを検出し、ステップS22において、消弧時刻の信号Pcを検出し、ステップS23において、消弧時刻から点弧時刻を減算することで溶接電流推定値Ieに対応した情報を得ることができる。さらに、検出した減算値に溶接電流変換係数Ifを乗じることで物理値に変換した溶接電流推定値Ieを出力できる。このときの変換係数は以下の式7により求める。
【0088】
【数7】
Figure 0003620463
【0089】
また、上記の処理は、一回の溶接におて通電の半サイクル毎に繰り返され、ステップS24において、次の点弧までの待ち時間Phを測定し、ステップS25において、通電終了か否かを判定する。このステップS25では、例えば通電が3サイクル以上時となった場合に通電終了と判定するようにし、通電終了と判定した場合(Yes)には、計測した点弧時刻および消弧時刻と通電量情報をもって図13のメインルーチンに戻る。なお、通電終了ではないと判定した場合(No)にはステップS21に戻る。なお、点弧時刻までの待ち時間Phは、設定されるクールサイクル値の最大値以上に設定すれば、クールサイクルのある溶接時でも途中でメインルーチンへ戻ることがない。
【0090】
次に、先の図19および図17のフローチャートに基づいて振動位相差検出回路214を説明する。図17のステップS31において、振動位相差測定の前に良否判定モードSmに応じて処理手順を選択する。これが良否判定モード切替手段に相当する。
【0091】
検出振動対象が断続的機械減衰振動Vmである場合には、処理手順はステップS31から振動位相差検出手順へ進み、ステップS32において、通電タイミング信号φcの点弧時刻Poを検出し、ステップS33において、断続的機械減衰振動Vmの振幅が検出しきい値Ath以上であるか否かを判定する。このとき、断続的機械減衰振動Vmが検出しきい値Athよりも大きいと判定した場合(Yes)には、ステップS34において、その検出時刻Tvを検出する。そして、ステップS35において、振動検出時刻Tvから点弧時刻Poを減算して振動位相差dθ〔n〕を求める。このときの検出タイミングの一例を図19の(7)のdθ〔1.5〕に示す。図19(7)では振幅が位相差に対応しており、その大きさは通電電流半周期を一周期として正規化してある。
【0092】
これに対して、先のステップS33において、断続的機械減衰振動Vmが検出しきい値Athよりも小さいと判定した場合(No)には、ステップS36において、点弧時刻Poの検出からの経過時間が通電電流半周期に達したか否かを判定し、通電電流半周期に達していないと判定した場合(No)には、ステップS33に戻って振動の検出待ちとなり、通電電流半周期に達したと判定した場合(Yes)には、ステップS37において、検出サイクルは振動検出不可能として、振動位相差dθ〔n〕に正規化の最大値1を代入する。
【0093】
以上の処理は、一回の溶接において、通電終了を検出するまで通電の半サイクル毎に繰り返される。この振動位相差dθ〔n〕の配列変数は半サイクル毎に更新され、通電終了時には通電サイクル総数の2倍の数の位相差データが検出される。これが振動位相差標本化手段である。
【0094】
そして、ステップS38において、点弧時刻Poの待ち時間Phを測定し、ステップS39において、通電終了か否かを判定し、通電終了と判定した場合(Yes)には、ステップS310に進んで異常データの排除を行い、通電終了ではないと判定した場合(No)には、ステップS32へ戻る。
【0095】
ここで、異常データとは、図19(7)の振動位相差dθ〔0.5〕やdθ〔1.0〕に示すように、断続的機械減衰振動Vmの振幅が小さくて振動検出不能となったときにdθ〔n〕に代入されたデータ〔1〕や、図20(4)の振動位相差dθ〔3.5〕やdθ〔4.0〕に示すように、散りなどにより点弧後に直ちに振動が検出されてdθ〔n〕が〔0〕に近い値となったデータであり、平均的な検出位相差に対して大きく乖離したデータを示す。そこで、ステップS310において、異常データを標本データ(母集団)から取り除く処理を行う。これが標本データ適正化手段である。
【0096】
そして、ステップS311において、最後に残った標本データから代表値を算出して判定パラメータJpとする。このとき、判定パラメータJpを求める手段としては、計算時間で有利な算術平均のほかに、低頻度で大偏差のノイズ的な標本データの影響を受けずに実行値的な代表値が得られる幾何平均または最頻値(モード)が有効である。これが判定パラメータ決定手段である。
【0097】
次に、検出振動対象が図3(a)に示す如き金属溶融振動である場合には、処理手順はステップS31から金属溶融時間処理手順に進み、ステップS312において、通電タイミング信号φcの点弧時刻Poを検出し、ステップS313において、金属溶融振動の振幅値が検出しきい値Ath以上になった時刻Tvを検出し、ステップS314において、金属溶融検出時刻Tvから点弧時刻Poを減算して通電開始から振動第1波検出までの時間Tbを求め、これを判定パラメータとする。このようにして得た判定パラメータをもって図13のメインルーチンへ戻る。
【0098】
次に、図8および図9には、振動位相差検出回路214の他の実施例としてハードウエアで構成した場合のブロック図を示す。
図8に示す実施例において、振動位相差標本化回路214aは、図17中のステップS32〜S38に相当し、通電タイミング信号φcの点弧時刻Poカウントを開始し、断続的機械減衰振動Vmが検出しきい値Ath以上になった時刻でカウントを停止する時間カウンタである。また、この時間カウンタは、通電電流の半サイクル毎に実行して振動位相差の標本データを得る。それ以降、標本データ適正化回路214bは、図17のステップS310と同等の論理にて判定パラメータを求め、判定パラメータ決定回路214cは、図17のステップS311と同等の論理にて判定パラメータを求める。
【0099】
また、検出振動対象を金属溶融振動とした時の判定パラメータを求めるバースト波検出時刻検出回路214dは、図17のステップS312〜S314に相当し、最初の通電タイミング信号φcの点弧時刻Poでカウントを開始し、金属溶融振動が検出しきい値Ath以上になった時点でカウントを停止する時間カウンタであり、これにより振動第1波検出までの時間Tbを得る。最後に、良否判定モードSmに応じて、断続的機械減衰振動よる判定パラメータか金属溶融振動による判定パラメータかを判定し、判定モード切替えスイッチ214eにて切替えて出力する。
【0100】
図9に示す実施例において、相互相関演算回路214fは、通電タイミング信号φcと断続的機械減衰振動Vmの相互相関の時間軸推移(Rxy(t))を算出し、最初に相関係数が最大ピークとなる時間tcを求め、その時間tcW振動位相差dθ〔n〕rとする。この処理を通電電流の半サイクル毎に実行し、振動位相差の標本データを得る。なお、相互相関の計算時間幅τは、通電電流の半サイクルとし、基準時刻は点弧時刻Poにとり、断続的機械減衰振動Vmは包絡線波形とすると明瞭な相関係数のピークが得やすい。
【0101】
また、金属溶融振動による判定パラメータtbは、バースト波検出時刻検出回路214gにおいて、相互相関演算回路214fで得た標本データの中から最初に1以下になった振動位相差dθ〔n〕を抽出し、その振動位相差dθ〔n〕が抽出される以前のサイクル数分の周期時間を加算して求める。
【0102】
次に、図14のフローチャートに基づいて良否判定基準値設定手段の実施例を説明する。
【0103】
ステップS110において、基準値の設定モードを選択する。ここでは、良否判定基準値を固定的に設定する固定モードと、検出量に予め設定しておいた調整係数Skを乗じて良否判定基準値を自動設定する自動設定モードと、外部からの入力信号に応じて予め設定しておいた基準値マップから良否判定基準値を検索して設定する外部入力モードとを用途に合わせて選択し得るものとなっている。
【0104】
固定モードでは、ステップS111において、良否判定モードSmに応じて処理手順を選択する。これは振動位相差検出回路214の良否判定モード選択と連動して切替えるもので、良否判定モード切替え手段に相当する。そして、良否判定対象を断続的機械減衰振動Vmの位相差Jpとした場合では、ステップS112において、良否判定基準値の下限の良否判定基準値Jr(L)を読み込む。このときの下限値の設定には、溶接電流の許容下限値の時の振動位相差dθを目安にする。また、図5(b)に基づいて既に説明したように、溶接電流値が不足すると、その時に検出される振動位相差dθも小さくなる。したがって、電流不足の許容下限値電流において良好な溶接が行われる時の振動位相差dθが『溶接良好』と判定するための下限値となる。この時の振動位相差dθを予め求めておき、良否判定基準の下限値に設定する。
【0105】
次に、ステップS113において、上限の良否判定基準値を読み込む。この時の上限値の設定には、電極チップの加圧力の許容下限力時の振動位相差dθ、およびお電極チップ連続使用限界時の振動位相差dθのうちの小さい方を目安にする。これは図5(a)に基づいて既に説明した通り、加圧力が不足すると振動位相差dθが大きくなる関係にあり、また、電極チップの摩耗による連続使用限界時にも振動位相差dθが大きくなる。したがって、加圧力の許容下限または電極チップの連続使用限界時の振動位相差dθが『溶接良好』と判定するための上限値となる。この時の振動位相差dθを予め求めておき、良否判定基準の上限値に設定する。これにより、図22に示すように上限値Jr(U)と下限値Jr(L)
の二つの良否判定基準値が設定される。
【0106】
また、良否判定モードSmで金属溶融振動を良否判定対象とした場合には、電流不足によっても振動位相差dθが大きくなって下限値設定が不要に成るため、下限値の読み込みを省略している。これにより図21に示すように、1つの良否判定基準値が設定される。
【0107】
自動設定モードでは、用途に応じて良否判定基準値算出の参照パラメータを位相差と電流値とで選択できるようしている。まず、位相差を参照パラメータに選択した場合では、ステップS115において、予め求めておいた調整係数Skを読み込む。この調整係数Skは、良好な溶接が行われている時の振動位相差と、不良判定にしたい振動位相差との比で次の式8を目安に設定する。
【0108】
【数8】
Figure 0003620463
【0109】
続いて、ステップS116において、良好な溶接が行われている時の振動位相差(判定パラメータJp)を読み込む。この読み込みには予め記憶しておいた振動位相差を呼び出しても良いが、溶接ガンにスイッチを設けておき、電極チップの交換後等で溶接条件が良好な状態にある時に、そのスイッチを押すことで読み込まれるようにしておけば、電極チップ交換毎に変動する振動位相差におういて良否判定基準値を適応させることができるようになる。そして、ステップS117において、読み込まれた調整係数Skと振動位相差を乗じて良否判定基準値Jrを次の式9で算出して出力する。この設定の様子として図23に溶接回数と位相差の関係を示す。
【0110】
【数9】
Figure 0003620463
【0111】
また、溶接電流を参照パラメータに選択した場合には、ステップS118において、予め求めておいた調整係数Sk’を読み込む。この調整係数Sk’は、設定した溶接電流値と不良判定したい振動位相差との比で、次の式10を目安にして設定する。
【0112】
【数10】
Figure 0003620463
【0113】
そして、ステップS119において、良好な溶接が行われている時の振動位相差(判定パラメータJp)を読み込む。この読み込みは、予め記憶しておいた振動位相差を呼び出しても良いが、溶接良否判定の度に検出される溶接電流Ieを用いれば、電流変動による振動位相差dθ(i)に応じて良否判定基準値Jr(i)を適応させることができる。そして、ステップS120において、読み込まれた調整係数Sk’と振動位相差Jp(i)を乗じて良否判定基準値Jr(i)を次の式11で算出して出力する。この設定の様子として図24に溶接回数および通電電流と位相差との関係を示す。
【0114】
【数11】
Figure 0003620463
【0115】
外部入力モードでは、ステップS121において、外部より入力される板圧信号を読み込み、ステップS122において、予め設定しておいた板厚対良否判定基準値マップを参照して読み込んだ板厚を検索し、ステップS123において、対応する良否判定基準値を読み出す。この際、マップには、図15に示すような板厚対良否判定基準値マップが設定してあり、例えば外部より入力された板厚が2.0mmであったとすると、これに対応した良否判定基準値Jr=0.5が設定される。
【0116】
なお、図14のフローチャートには記載していないが、被溶接材の板厚と振動位相差は図4(c)に示すように比例関係にあることから、板厚対良否判定基準値マップの代わりに調整係数Sk’’を用い、溶接電流による自動設定モードと同様に良否判定基準値を設定しても良い。この設定の様子として図25に溶接回数および板厚と位相差との関係を示す。
【0117】
次に、図12に基づいて溶接不良警報手段の実施例を説明する。まず、溶接不良警報手段に関わる設定条件不適合手段の実施例を説明すると、図26のdθ〔n〕は、設定条件に適合した溶接時における振動位相差の通電サイクル推移を示す。そして、Ln〔n〕とLl〔n〕はそれぞれ適合判定基準値の上限位相差および下限位相差を示す。したがって、検出される振動位相差dθ〔n〕が夫々の通電サイクルにおいてLn〔n〕とLl〔n〕の範囲内にある場合は、その時の被溶接材は設定条件に適合していると判定する。これに対して、検出される振動位相差dθ〔n〕が夫々の通電サイクルにおいてLn〔n〕とLl〔n〕の範囲外にある場合は、不適合と判定して設定条件不適合警報Woを出力する。
【0118】
この実施例では、適合判定基準値を通電サイクル進行に合わせて比較器216bへ順次送り出すためにシフトレジスタ216aを用いている。予め通電サイクル毎の適合判定基準値を設定しておき、これを通電開始の信号t0によりそれぞれシフトレジスタ216aにセットする。比較時には通電タイミング信号φcの点弧時刻Poをシフトロックとして用い、振動位相差dθ〔n〕に対応した通電サイクルの適合判定基準値Ln〔n〕とLl〔n〕が比較器216bに送られ、振動dθ〔n〕が適合判定基準値Ln〔n〕とLl〔n〕の範囲外にないかを比較判定する。
【0119】
次に、電極チップ溶着検出手段の実施例を説明する。電極チップ溶着時は、適正な通電が成されているにもかかわらず、断続的機械減衰振動Vmの振幅が極端に小さくなる。したがって、断続的機械減衰振動Vmをダイオード216cに通して整流した後、ローパスフィルタ216dにより振幅平均値を抽出し、電圧比較器216eにおいて電極チップ溶着検出しきい値Athと比較する。また、通電電流値も電極間電圧から求めた電流推定値Ieと適正通電値Viを電圧比較器216fで比較し、論理積素子216gにおいて、振幅平均値が電極チップ溶着検出しきい値Athよりも小さく且つ通電電流が適正値以上の場合を抽出して電極チップ溶着警報Weを出力させる。
【0120】
次に、電流通電不良検出手段の実施例を説明する。図27は通電電流と比例関係にある通電角を振動振幅の平均値で割った値の溶接回数における推移を示している。通常、通電電流値は溶接制御装置11において一定に制御されるが、振動振幅は溶接回数の増加に伴って大きくなる。そのため図27では右下がりの推移を示している。ところが、電源電圧の低下や被溶接材の電気抵抗の増加が生じると、予定の通電量が得られなくなるので、溶接制御装置11は通電角を増大させる。その結果、通電不良の場合は、図27に示すように、通電角の増大と通電不足による振動振幅の減衰により、通電角を振動振幅で割った値は大きくなる。この通電不良を検出するために、除算器216hにおいて電極間電圧より求めた電流推定値Ieを振動振幅の平均値で割り、電圧比較器216fにて予め設定した比較電圧Viと比較し、大きい場合には『通電不良』と判定して警報信号Wiを出力する。
【0121】
次に、分流検出手段の実施例について説明する。図28は振動位相差から振動位相差の過去の平均値を差し引いた値の溶接回数における推移を示している。通常、電極チップ先端の劣化に伴い溶接回数の増加に応じて振動位相角は右上がりの推移を示す。ところが、既に溶接した箇所への通電電流の分流が発生した場合、溶接制御装置11から見た通電電流値は適正範囲にあるが、加圧部の通電電流は近傍への溶接点への分流により減少する。その結果、分流発生時には加圧部のナゲット形成が促進されないため、図28に示すように振動位相差が急に大きくなる。
【0122】
したがって、この分流を検出するために、まず過去の振動位相差の移動平均値を移動平均回路216iにて求め、減算器216jにて現在の振動位相差(判定パラメータJr)から移動平均値を差し引き、今回の振動位相差の変化量の絶対値を算出する。次に、その変化量が予め設定しておいた分流判定基準値Vbより大きいか否かを電圧比較器16kにて判定する。そして、他の変動要因との区別をつけるために、通電量が適正値にあることと良否判定基準値あるいは電極チップ整形時期判定基準値に達していないことを論理積素子216mで総合判断して、今回の振動位相差が分流判定基準値Vbより大きい場合に、分流電流発生と判定して警報信号Wbを出力する。
【0123】
また、溶接不良警報手段の実施例では、論理和素子216nを用い、設定条件不適合検出手段、電極チップ溶着検出手段、電流通電不良検出手段および分流検出手段の各警報出力の論理和を溶接不良警報Swとして出力する。さらに、この溶接不良警報Swは、図13に示すように、溶接良否判定(ステップS5)の前に実行されるようになっており、溶接不良警報Swが出力された時には、溶接良否判定を実行しないものとしている。したがって、この時の溶接良否判定は、強制的に溶接不良と判定して警報と共に出力する(ステップS9)。
【0124】
次に、電極チップ整形時期検出手段の実施例について説明する。既に説明したように、図13のフローチャートにおいて、振動位相差dθ〔n〕の代表値である判定パラメータJpが電極チップ整形時期判定基準値Seに達したか否かを比較判定し、電極チップ整形時期に達している場合は電極チップ整形警報を出力する。また、この手段をハードウエアで構成した場合の実施例を図10に示す。ここで、移動平均回路218aは、電極チップ整形時期の判定パラメータの大きな変動を少なくし、比較器218bにおける電極チップ整形時期判定基準値Seとの比較を安定させるために設けてある。なお、自動電極チップ整形装置(オートチップドレッサー)を使用している場合は、この電極チップ整形警報出力を整形実行のイベント信号として入力することで効率の良い電極チップ整形が実施できる。
【0125】
次に、図18および図20に基づいて、散りサイクル出力手段の実施例について説明する。まず、ステップS130において、通電タイミング信号φcの点弧時刻Poを検出し、ステップS131において、散り発生サイクル検出用のカウンタに0.5を加算sする。これは散りの発生を溶接電流サイクルの半周期毎に行っているためである。次に、ステップS132において、断続的機械減衰振動Vmの振幅が検出しきい値Ath以上であるか否かを判定し、この際、断続的機械減衰振動Vmの振幅が検出しきい値Athよりも大きいと判定した場合(Yes)には、ステップS133において振動検出時刻Tvを検出する。
【0126】
続いて、ステップS134において、記憶した振動検出時刻Tvから点弧時刻Poを減算した結果が0であるか否かを判定し、結果が0であると判定した場合(Yes)には、ステップS135において、その時の散り発生サイクルカウンタの値を記憶する。この散りの検出タイミングの一例を図20(4)のdθ〔3.5〕に示す。また、図20(3)は、断続的機械減衰振動Vmを整流した後に検出しきい値Athと比較した結果を示し、ハイレベルがVm>Athの状態を示す。したがって、点弧時刻Poの検出時点でハイレベルとなっている期間3.5〜4.5サイクルでは、点弧時刻Poと振動検出時刻Tvの差はdθ〔n〕は0となる。
【0127】
これに対して、ハイレベルがVm<Athである場合は、ステップS136において、点弧時刻Poの検出からの経過時間が通電電流半周期に達したか否かを判定する。ここで、達していないと判定した場合(No)には、ステップS132に戻って振動の検出待ちとなる。また、通電電流半周期に達したと判定した場合(Yes)には、ステップS137において、検出サイクルは振動検出不可能として、振動位相差dθ〔n〕に正規化の最大値1を代入する。以上の処理は、一回の溶接において通電終了を検出するまで通電の半サイクル毎に繰り返される。これは図16で説明した通電電流推定回路212のフローチャートと同様の手順で処理を行っている。
【0128】
そして、ステップS138において、点弧待ち時間Phを測定し、ステップS139において、通電終了か否かを判定し、この際,通電終了ではないと判定した場合(No)には、ステップs130に戻り、通電終了と判断した場合(Yes)には、ステップS140において、散りを検出したか否かを判定し、散りが発生した場合にはステップS141において散り発生サイクルカウンタの値を出力し、その後、図13に示すメインルーチンへ戻る。
【0129】
また、散り検出回路219をハードウエアで構成した場合の実施例を図11に示す。ここでは、散り検出回路219aにて図18中のステップS130〜S139と同等の論理により散りの検出を行ない、カウンタ219bにて散り発生サイクルのカウントを行っている。なお、カウンタ219bは、通電開始t0から通電タイミング信号φcの点弧時刻Poをカウントし、散り検出回路219aの散り検出信号にてカウントを停止するようにしてある。つまり、カウントが停止したサイクルが散り発生サイクルSsとして出力される。
【0130】
なお、本発明に係わるスポット溶接のモニタリング装置は、その構成が上記各実施例のみに限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わるスポット溶接の原理を示す説明図(a)および溶接回数と振動位相差との関係を示すグラフ(b)である
【図2】振動振幅の拡大開始時期に基づく溶接不良判定方法を説明する図である。
【図3】低融点めっき鋼板にいて観測される初期振動に基づく溶接不良判定方法を説明する図である。
【図4】溶接部分における物理現象を説明する図である。
【図5】変動要因の特性として加圧力と振動位相差との関係を示すグラフ(a)、溶接電流と振動位相差との関係を示すグラフ(b)および板厚と振動位相差との関係を示すグラフ(c)である。
【図6】本発明の原理検証を説明する図である。
【図7】本発明に係わるスポット溶接のモニタリング装置の一実施例を説明する基本ブロック図である。
【図8】振動位相差検出手段の実施例を説明するブロック図である。
【図9】振動位相差検出手段の他の実施例を説明するブロック図である。
【図10】電極チップ整形時期検出手段の実施例を説明するブロック図である。
【図11】散り検出手段の実施例を説明するブロック図である。
【図12】溶接不良警報手段の実施例を説明するブロック図である。
【図13】本発明に係わるスポット溶接のモニタリング装置による基本的な処理手順を説明するフローチャートである。
【図14】良否判定基準値を設定する際の処理手順を説明するフローチャートである。
【図15】板厚対良否判定基準値マップの一例を示す図である。
【図16】通電量測定の処理手順を説明するフローチャートである。
【図17】振動位相差を測定する処理手順を説明するフローチャートである。
【図18】散りサイクル出力の処理手順を説明するフローチャートである。
【図19】電流推定値と振動位相差の検出手順を説明するタイミングチャートである。
【図20】電極チップ溶着と散りの検出手順を説明するタイミングチャートである。
【図21】良否判定基準値の設定として溶接回数と振動位相差との関係を示すグラフである。
【図22】良否判定基準値の上下限値の設定として溶接回数と位相差との関係を示すグラフである。
【図23】振動位相差から良否判定基準値を設定する方法を説明する図として、溶接回数と振動位相差との関係を示すグラフである。
【図24】通電電流から良否判定基準値を設定する方法を説明する図として、溶接回数および通電電流と振動位相差との関係を示すグラフである。
【図25】板厚から良否判定基準値を設定する方法を説明する図として、溶接回数および板厚と振動位相差との関係を示すグラフである。
【図26】設定条件不適合の検出方法を説明する図として、通電サイクルと振動位相差との関係を示すグラフである。
【図27】通電不良の検出方法を説明する図として、溶接回数と通電角/振動振幅との関係を示すグラフである。
【図28】分流の検出方法を説明する図として、溶接回数と振動位相差−平均位相差との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 スポット溶接機
21 モニタリング装置
214 振動位相差検出回路(振動位相差検出手段)
214a 振動位相差標本化回路(振動位相差標本化手段)
214b 標本データ適正化回路(標本データ適正化手段)
214c 判定パラメータ決定回路(判定パラメータ決定手段)
214e 良否判定モード切替スイッチ(良否判定モード切替手段)
215 良否判定基準値設定回路(良否判定基準値設定手段)
217 溶接良否判定回路(溶接良否判定手段)
218 電極チップ整形時期検出回路(電極チップ整形時期検出手段)
219 散り検出回路(散り検出手段)

Claims (15)

  1. 溶接中に発生する振動に基づいてスポット溶接の良否判定を行うスポット溶接のモニタリング装置において、交流溶接電流を通電したときに電磁力を加振源として発生するスポット溶接機の電極部分の断続的機械減衰振動と交流溶接電流の位相差を検出する振動位相差検出手段と、良否判定の基準値を設定する良否判定基準値設定手段と、振動位相差検出手段で検出した振動位相差と良否判定基準値設定手段からの基準値を比較してスポット溶接の良否判定を行う溶接良否判定手段を備えたことを特徴とするスポット溶接のモニタリング装置。
  2. 振動位相差検出手段が、断続的機械減衰振動の位相差を一溶接当りに複数回検出する振動位相差標本化手段と、検出した振動位相差の標本データから散り発生時などの過大振動や予熱通電時などの過小振動に対応した異常データを削除する標本データ適正化手段と、最頻値、算術平均および幾何平均のいずれかを用いて適正化された標本データの代表値を求める判定パラメータ決定手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  3. 良否判定基準値設定手段が、複数の良否判定基準値を設定する手段であり、溶接良否判定手段が、振動位相差が基準値に対して以下、以上および所定範囲内のいずれかであるときに『溶接良好』と判定する手段であることを特徴とする請求項1または2に記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  4. 良否判定基準値設定手段が、良否判定基準値の上限値として電極チップの加圧力不足および摩耗のいずれかによる溶接不良発生時に対応した振動位相差を設定し、且つ良否判定基準値の下限値として電流不足による溶接不良発生時に対応した振動位相差を設定する手段であり、溶接良否判定手段が、振動位相差が上限値と下限値の間にあるときに『溶接良好』と判定する手段であることを特徴とする請求項3に記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  5. 良否判定基準値設定手段が、溶接良好時の振動位相差の量に予め求めた所定の係数を乗じた値を良否判定基準値とする手段であることを特徴とする請求項1または2に記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  6. 良否判定基準値設定手段が、電極間電圧より算出した電流推定値に予め求めた所定の係数を乗じた値を良否判定基準値とする手段であることを特徴とする請求項1または2に記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  7. 良否判定基準値設定手段が、外部より入力される被溶接材の板厚信号に基づき予め設定した板厚対良否判定基準値マップを参照して良否判定基準値を選択設定する手段であることを特徴とする1または2に記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  8. 振動位相差検出手段の検出結果と所定の電極整形時期判定基準値を比較して電極チップの整形時期を検出し且つ警報を出力する電極整形時期検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  9. サイクル毎の振動位相差の変化と所定の変化パターンを比較して被溶接材に対する溶接設定条件の適合可否を判定する設定条件不適合検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  10. 所定の振幅レベル以上の振動が電流波形の半周期にわたって継続していることを検出して散りと判定する散り検出手段と、散りを検出した通電サイクル値を出力する散り発生サイクル出力手段を備えたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  11. 電極間電圧より検出した通電角が適正値にあり且つ振動振幅が所定の振幅以下にあることを検出して電極チップ溶着と判定する電極チップ溶着検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  12. 電極間電圧より検出した通電角を振動振幅で割った結果が所定の値以上となった場合に通電不良と判定して警報を出力する電流通電不良検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  13. 電流通電不良検出手段により通電不良と判定されない場合に、検出した振動位相差とその移動平均値の差分が所定の値以上となった場合に分流電流と判定して警報を出力する分流検出手段を備えたことを特徴とする請求項12に記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  14. 設定条件不適合検出手段、電極チップ溶着検出手段、電流通電不良検出手段および分流検出手段のいずれかにおいて不良が検出された場合に溶接良否判定手段へ溶接不良警報信号を出力する溶接不良警報手段を備え、溶接良否判定手段が、溶接不良警報を入力した場合に振動位相差による良否判定の結果によらず『溶接不良』を出力する手段であることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載のスポット溶接のモニタリング装置。
  15. 振動位相差検出手段が、判定パラメータ決定手段で求めた標本化データの代表値と、通電開始から予め定めた検出しきい値以上の振動を最初に検出した時刻までの時間とを切替えて出力する手段であり、
    良否判定基準値設定手段が、溶接良好時の振動位相差の量に予め求めた所定の係数を乗じた値である良否判定基準値と、電極間電圧より算出した電流推定値に予め求めた所定の係数を乗じた値である良否判定基準値と、外部より入力される被溶接材の板厚信号に基づき予め設定した板厚対良否判定基準値マップを参照して選択設定した良否判定基準値と、母材より低融点の表面コーティング層を有する鋼板における溶接不良判定時の良否判定基準値とを切替えて出力する手段であり、
    取付け対象のスポット溶接機および被溶接材のいずれかに応じて、振動位相差検出手段と良否判定基準値設定手段の出力の切り替えを選択する良否判定モード切替手段を備えたことを特徴とする請求項2〜14のいずれかに記載のスポット溶接のモニタリング装置。
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