JP3619936B2 - ヒト遺伝子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒトの疾患の予防、診断及び治療の指針として有用な遺伝子、より詳しくはラット、マウス、酵母、線虫やヒト遺伝子などと類似性を有する新規なヒト遺伝子に関し、該遺伝子のcDNA解析、cDNA染色体へのマッピング及びcDNAの機能解析により、該遺伝子を用いた遺伝子診断並びに新しい治療法の開発に利用可能な新規なヒト遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
生物の遺伝情報は、細胞の核内に存在するA、C、G及びTの4種の塩基の列び(DNA)として蓄積され、この遺伝情報は個々の生物の系統維持と個体発生のために保存されている。
【0003】
ヒトの場合、その塩基数は約30億(3x109)といわれ、その中に5−10万の遺伝子があると推測されている。これらの遺伝情報は遺伝子(DNA)からmRNAが転写され、次に蛋白質に翻訳されるという流れに沿い、調節蛋白質、構造蛋白質あるいは酵素が作られ、生命現象を維持している。上記遺伝子から蛋白質翻訳までの流れの異常は、細胞の増殖・分化などの生命維持システムの異常を惹起し、各種疾患の原因となるとされている。
【0004】
これまでの遺伝子解析の結果から、インスリン受容体やLDL受容体などの各種受容体や細胞の増殖・分化に関わるもの、プロテアーゼ、ATPase、スーパーオキシドディスムターゼのような代謝酵素などの医薬品開発にとって有用な素材となると思われる遺伝子が多く見つかっている。
【0005】
しかしながら、ヒト遺伝子の解析とそれら解析された遺伝子の機能及び解析遺伝子と各種疾患との係わりについての研究は、まだ始まったばかりであり、不明な点が多く、更なる新しい遺伝子の解析、それらの遺伝子の機能の解析、解析された遺伝子と疾患の係わりの研究、惹いては解析された遺伝子の利用による遺伝子診断、該遺伝子の医薬用途への応用研究などが当業界で望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記新たなヒト遺伝子が提供できれば、各細胞での発現レベルやその構造及び機能を解析でき、またその発現物の解析などにより、これらの関与する疾患、例えば遺伝子病、癌などの病態解明や診断、治療などが可能となると考えられ、本発明は、かかる新たなヒトの遺伝子を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記目的より鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明者らは、ヒト胎児脳、成人血管、胎盤などの各種組織より抽出したmRNAよりcDNAを合成し、これをベクターに組込んでライブラリーを構築し、該ライブラリーでトランスフォームした大腸菌コロニーを寒天培地上に形成させ、該コロニーをランダムにピックアップして96ウェルマイクロプレートに移し、ヒト遺伝子を含む多数の大腸菌クローンを登録した。
【0009】
登録した各クローンは、少量培養後、DNAを抽出精製し、抽出したcDNAを鋳型としてデオキシターミネーター法により4種の塩基特異的に停止する伸長反応を行ない、自動DNAシークエンサーにより、遺伝子の5’末端から約400塩基配列を決定した。かくして得られた塩基配列情報について、公知のバクテリアから酵母、線虫、マウス及びヒトなどの動植物種に類似性を有する新規なファミリー遺伝子を検索した。
【0010】
上記cDNA解析方法については、本発明者のひとりである藤原らによって細述されている(藤原 力, 細胞工学, 14, 645−654(1995))。
【0011】
このグループの中には新しいレセプター、DNA結合ドメインを有する転写調節因子やシグナル伝達系因子、代謝酵素などがあり、遺伝子解析によって得られた本発明の新規な遺伝子と類似性ある遺伝子との相同性から、およそのその遺伝子産物、即ち蛋白質がどのような機能を有するか類推することが可能である。更に、その候補遺伝子を発現ベクターに組込み、リコンビナントを作製し、酵素活性や結合活性などの機能を調べることができる。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、配列番号:1、:4、:7、:10、:13、:16、:19、:22、:25、:28、:31、:34、:37及び:40で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むことを特徴とする新規なヒト遺伝子、前記各アミノ酸をコードする配列番号:2、:5、:8、:11、:14、:17、:20、:23、:26、:29、:32、:35、:38及び:41で示される塩基配列を含むことを特徴とするヒト遺伝子、並びに配列番号:3、:6、:9、:12、:15、:18、:21、:24、:27、:30、:33、:36、:39及び:42で示される塩基配列であることを特徴とする新規なヒト遺伝子が提供される。
【0013】
以下、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸などの略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書などの作成のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0014】
かかる本発明遺伝子の一具体例としては、後述する実施例1〜11に示される「GEN−501D08」、「GEN−080G01」、「GEN−025F07」、「GEN−076C09」、「GEN−331G07」、「GEN−163D09」、「GEN−078D05TA13」、「GEN−423A12」、「GEN−092E10」、「GEN−428B12」、「GEN−073E07」、「GEN−093E05」及び「GEN−077A09」とそれぞれ名付けられた各クローンの有するDNA配列から演繹されるものを挙げることができ、それらの各塩基配列は、配列表に示される通りである。
【0015】
また、これら各クローンは、同配列表に示される各アミノ酸でコードされるヌクレオチド(核酸)のオープンリーディングフレームを有しており、それぞれ後記実施例に示される分子量を有していると計算された。従って、本発明の各ヒト遺伝子を、以下後記実施例1〜11に示される通りにいうことがある。
【0016】
【発明の実施の態様】
以下、本発明ヒト遺伝子につき詳述する。
【0017】
上述の如く、本発明ヒト遺伝子のそれぞれは、ラット、マウス、酵母、線虫及び公知のヒト遺伝子などと類似性を有し、それら類似性ある遺伝子の情報に基づくヒト遺伝子の解析とそれら解析された遺伝子の機能及び解析遺伝子と各種疾患との係わりについての研究に利用でき、遺伝子と関係ある疾患への遺伝子診断並びに該遺伝子の医薬用途への応用研究に用いることが可能である。
【0018】
本発明遺伝子は、例えば配列番号:2に示されるように、一本鎖DNA配列で表されるが、本発明はかかる一本鎖DNA配列に相補的なDNA配列やこれらの両者を含むコンポーネントもまた包含する。尚、配列番号:3n−1(n=1〜14の整数)に示す本発明遺伝子の配列は、これによりコードされる各アミノ酸残基を示すコドンの一つの組合わせ例であり、本発明遺伝子はこれに限らず、各アミノ酸残基に対して任意のコドンを組合わせ選択したDNA塩基配列を有することも勿論可能である。該コドンの選択は常法に従うことができ、例えば利用する宿主のコドン使用頻度を考慮することができる〔Ncl.Acids Res., 9, 43−74 (1981)〕。
【0019】
更に本発明遺伝子には、上記で示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸乃至アミノ酸配列を置換、欠失、付加などにより改変してなり、同様の機能を有する同効物をコードするDNA配列もまた包含される。これらポリペプチドの製造、改変(変異)などは天然に生じることもあり、また翻訳後の修飾により、或は遺伝子工学的手法により天然の遺伝子(本発明遺伝子)を、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシス〔Methods in Enzymology, 154, p350, 367−382 (1987);同100, p468 (1983) ;Nucleic Acids Research, 12, p9441 (1984);続生化学実験講座1「遺伝子研究法II」、日本生化学会編, p105 (1986) 〕などの方法により改変したり、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段〔J. Am. Chem. Soc., 89, p4801 (1967);同91, p3350 (1969);Science, 150, p178 (1968) ;Tetrahedron Lett., 22, p1859 (1981);同24, p245 (1983)〕により変異させたDNAを合成したり、それらの組合せにより収得することができる。
【0020】
本発明遺伝子は、これを利用して、即ち例えばこれを微生物のベクターに組込み、形質転換された微生物を培養することによって、上記各遺伝子によりコードされる蛋白を容易にかつ安定して発現できる。
【0021】
また本発明の遺伝子を利用して得られる各蛋白は、これを用いて、特異抗体を作成することもできる。ここで抗原として用いられるコンポーネントは、上記遺伝子工学的手法に従って大量に産生される蛋白を用いることができ、得られる抗体はポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれでもよく、これら抗体はそれぞれの蛋白の精製、測定、識別などに有利に利用できる。
【0022】
本発明遺伝子の製造は、本発明によって開示された本発明遺伝子についての配列情報によれば、一般的遺伝子工学的手法により容易に実施できる〔Molecular Cloning 2nd Ed, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編 (1986) など参照〕。
【0023】
これは、例えばヒトcDNAライブラリー(各遺伝子の発現される適当な起源細胞より常法に従い調製されたもの)から、本発明遺伝子に特有の適当なプローブや抗体を用いて所望クローンを選択することにより実施できる〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 6613 (1981) ; Science, 222, 778 (1983)など〕。
【0024】
上記方法において、起源細胞としては、目的の遺伝子を発現する各種の細胞、組織やこれらに由来する培養細胞などが例示され、これからの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAへの変換(合成)とそのクローニングなどはいずれも常法に従い実施できる。また、cDNAライブラリーは市販されてもおり、本発明においてはそれらcDNAライブラリー、例えばクローンテック社(Clontech Lab. Inc.)より市販の各種cDNAライブラリーなどを用いることもできる。
【0025】
cDNAライブラリーからの本発明遺伝子のスクリーニングは、前記通常の方法に従い実施することができる。該スクリーニング方法としては、例えばcDNAの産生する蛋白質に対して、該蛋白質特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより、対応するcDNAクローンを選択する方法、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーションなどやこれらの組合せを例示できる。ここで用いられるプローブとしては、本発明遺伝子のDNA配列に関する情報をもとにして化学合成されたDNA配列などを用いるのが一般的であり、勿論既に取得された本発明遺伝子やその断片もかかるプローブとして利用できる。
【0026】
更に各細胞、組織より抽出、単離精製された天然抽出物の部分アミノ酸配列情報に基づき、センス・プライマー、アンチセンス・プライマーをスクリーニング用プローブとして用いることもできる。
【0027】
また、本発明遺伝子の取得に際しては、PCR法〔Science, 230, 1350−1354 (1985)〕によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。殊にライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合に、レース法(RACE:Rapid amplification of cDNA ends;実験医学、12(6), 35−38 (1994))、殊に5′レース(5′RACE)法(Frohman,M.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 8, 8998−9002(1988))の採用が好適である。かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、既に本発明によって明らかにされた本発明遺伝子の配列情報に基づいて適宜設定することができ、これは常法に従い合成することができる。
【0028】
尚、増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法などによればよい。
【0029】
上記で得られる本発明遺伝子或は各種DNA断片などの塩基配列の決定も、常法に従うことができ、例えばジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463−5467 (1977)〕やマキサム−ギルバート法〔Method in Enzymology, 65, 499 (1980)〕などにより行なうことができる。かかる塩基配列の決定は、市販のシークエンスキットなどを用いても容易に行ない得る。
【0030】
本発明遺伝子の利用によれば、通常の遺伝子組換え技術〔例えば、Science, 224, p1431 (1984) ; Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, p692 (1985) ;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80, p5990 (1983)及び前記引用文献など参照〕に従うことにより、各組換え体蛋白を得ることができる。該蛋白の製造は、より詳細には、本発明遺伝子が宿主細胞中で発現できる組換えDNAを作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養することにより行なわれる。
【0031】
ここで宿主細胞としては、真核生物及び原核生物のいずれも用いることができる。該真核生物の細胞には、脊椎動物、酵母などの細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞〔Cell, 23, 175−182 (1981)〕やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞及びそのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216−4220 (1980)〕などがよく用いられているが、これらに限定される訳ではない。
【0032】
脊椎動物の発現ベクターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列などを保有するものを使用でき、これは更に必要により複製起点を有していてもよい。該発現ベクターの例としては、例えば、SV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr〔Mol. Cell. Biol., 1, 854 (1981)〕などを例示できる。また、真核微生物としては、酵母が一般によく用いられ、中でもサッカロミセス属酵母を有利に利用できる。該酵母などの真核微生物の発現ベクターとしては、例えば酸性ホスフアターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80, 1−5 (1983)〕などを利用できる。
【0033】
また、本発明遺伝子の発現ベクターとしては、原核生物遺伝子融合ベクターを好ましく利用することができ、該ベクターの具体例としては、例えば分子量26000のGSTドメイン(S.japonicum 由来)を有するpGEX−2TKやpGEX−4T−2などを例示することができる。
【0034】
原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌が一般によく用いられる。これらを宿主とする場合、本発明では、例えば該宿主菌中で複製可能なプラスミドベクターを用い、このベクター中に本発明遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD(シヤイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを利用するのが好ましい。上記宿主としての大腸菌としては、エシエリヒア・コリ(Escherichia coli)K12株などがよく用いられ、ベクターとしては一般にpBR322及びその改良ベクターがよく用いられるが、これらに限定されず公知の各種の菌株及びベクターをも利用できる。プロモーターとしては、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、PL/PRプロモーターなどを使用できる。
【0035】
かくして得られる所望の組換えDNAの宿主細胞への導入方法及びこれによる形質転換方法としては、一般的な各種方法を採用できる。また得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により本発明遺伝子によりコードされる目的の蛋白が生産、発現される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、その培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
【0036】
上記により、形質転換体の細胞内、細胞外乃至は細胞膜上に目的とする組換え蛋白が発現、生産、蓄積乃至分泌される。
【0037】
各組換え蛋白は、所望により、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175−1259 頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274−8277 (1986); Eur. J. Biochem., 163, 313−321 (1987) など参照〕により分離、精製できる。該方法としては、具体的には例えば通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せなどを例示でき、特に好ましい上記方法としては所望の蛋白を結合させたカラムを利用したアフィニティクロマトグラフィーを例示できる。
【0038】
また、本発明によって明らかにされた本発明遺伝子の配列情報を基にすれば、例えば該遺伝子の一部又は全部の塩基配列を利用することにより、各種ヒト組織における本発明遺伝子の発現の検出を行なうことができる。これは常法に従って行なうことができ、例えばRT−PCR(Reverse transcribed−Polymerase chain reaction)(Kawasaki, E.S., et al., Amplification of RNA. In PCR Protocol, A Guide to methods and applications, Academic Press, Inc., SanDiego, 21−27(1991))によるRNA増幅により、またノーザンブロッティング解析(Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory(1989))などにより、いずれも良好に実施し得る。
【0039】
尚、前記PCR法を採用する場合において、用いられるプライマーは、本発明遺伝子のみを特異的に増幅できる本発明遺伝子に特有のものである限りなんら限定はなく、本発明遺伝情報に基いてその配列を適宜設定することができる。通常これは常法に従って20〜30ヌクレオチド程度の部分配列を有するものとすることができる。その好適な例は、後記実施例1−11に示すとおりである。
【0040】
しかして、本発明はかかる新規なヒト遺伝子に特有の検出に有用なプライマー及び/又はプローブをも提供するものである。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、新規なヒト遺伝子が提供され、該遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、その構造及び機能を解析でき、また、該遺伝子でコードされるヒト蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、その発現物の解析などや、これらの関与する疾患、例えば遺伝子病、癌などの病態解明や診断、治療などが可能となる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げる。
【0043】
【実施例1】
GDP解離促進蛋白遺伝子
(1)GDP解離促進蛋白遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
ヒト胎児脳、成人血管、胎盤の各組織より抽出したmRNAをクローンテック社より購入し、出発材料とした。
【0044】
上記各mRNAよりcDNAを合成し、ベクターλZAPII(ストラタジーン社製)に挿入し、cDNAライブラリーを構築した(大塚GENリサーチ・インスティチュート、大塚製薬株式会社)。
【0045】
インビボ・エキシジョン法(in vivo excision : Short, J. M., et al., Nucleic Acids Res., 16, 7583−7600 (1988))によって、寒天培地上にヒト遺伝子を含む大腸菌コロニーを形成させ、ランダムにそのコロニーをピックアップし、96ウエルマイクロプレートにヒト遺伝子を含む大腸菌クローンを登録した。登録されたクローンは、−80℃にて保存した。
【0046】
次に登録した各クローンを1.5mlのLB培地で一昼夜培養し、プラスミド自動抽出装置PI−100(クラボウ社製)を用いてDNAを抽出精製した。尚、コンタミした大腸菌のRNAは、RNase処理により分解除去した。最終的に30μlに溶解し、2μlは、ミニゲルによりおおまかにDNAのサイズ、量をチェックし、7μlをシークエンス反応用に用い、残りの21μlは、プラスミドDNAとして4℃に保存した。
【0047】
この方法によれば、若干のプログラム変更によって、後記各実施例で示されるFISH(fluoresence in situ hybridization)のプローブ用としても使用可能なコスミドを抽出することができる。
【0048】
続いて、T3、T7或は合成オリゴヌクレオチド・プライマーを用いるサンガーらのジデオキシターミネーター法(Sanger, F., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 74, 5463−5467 (1977))或はジデオキシターミネーター法にPCR法を加味した方法であるサイクルシークエンス法(Carothers, A.M., et al., Bio. Techniques, 7, 494−499 (1989))を実施した。これらは、少量のプラスミドDNA(およそ0.1−0.5μg)をテンプレート(鋳型)として4種の塩基特異的に停止する伸長反応させる方法である。
【0049】
シークエンスプライマーとしては、FITC(fluorescein isothiocyanate)の蛍光標識したものを使用し、Taqポリメラーゼにより通常約25サイクル反応させた。そのPCR産物はポリアクリルアミド・尿素ゲルで分離し、蛍光標識したDNA断片を自動DNAシークエンサー、ALFTMDNAシークエンサー(ファルマシア社製)によりcDNAの5’末端側から約400塩基の配列を決定した。
【0050】
また、3’非翻訳領域は各遺伝子のヘテロジェナイティ(heterogeneity)が高く、個々の遺伝子を区別するには適しているので、場合によっては、3’側のシークエンスも行なった。
【0051】
DNAシークエンサーで得られた膨大な塩基配列情報は、64ビットのコンピューターDEC3400に転送し、コンピューターによるホモロジー解析に用いた。ホモロジー解析には、UWGCGのFASTAプログラム(Pearson, W.R. and Lipman, D. J., Proc.Natl.Acad.Sci., USA., 85, 2444−2448(1988))によるデーターベース(GenBank, EMBL)検索により行なった。
【0052】
上記方法によって任意に選択し、cDNAの配列解析により、GEN−501D08と名付けた0.8キロベースの挿入を持つ一つのクローンがヒトRalGDP解離促進蛋白(RalGDS: Ral guanine nucleotide dissociation stimulator)の遺伝子のC末端領域に対して高い相同性を示した。RalGDSは、シグナルの伝達経路になんらかの役割を演ずると考えられるので、更にそのヒト相同物を提供するcDNA挿入部の完全塩基配列を決定した。
【0053】
低分子GTPアーゼは、細胞の増殖、分化、転写を含む多くの細胞の機能に対してシグナルを送ることにおいて重大な役割を演じている(Bourne, H. R., et al., Nature, 348, 125−132 (1990); Bourne et al., Nature, 349, 117−127 (1991))。
【0054】
それらの間で、ras遺伝子ファミリーによってコードされた蛋白は、分子スィッチとして機能すること、即ち、ras遺伝子ファミリーの機能が生物学的に非活性なGDP結合蛋白或は活性GDP結合蛋白などの結合蛋白の異なる条件下によって調整されること、これら2つの条件がGTPアーゼ活性化蛋白(GAPs)或はGDSによって誘導されることがよく知られている。前者の酵素は結合GTPの加水分解を刺激することによってGDP結合を誘導し、後者の酵素は、結合GDPを遊離することによって定められたGTP結合を誘導する(Bogusuki, M.S. and McCormick, F., Nature, 366, 643−654 (1993))。
【0055】
RalGDSは、形質転換活性のないras遺伝子ファミリーのメンバーの一つとして、RASに対する特異的なGDP解離促進蛋白として、最初に見つけられた(Chardin, P. and Tavitian, A., EMBO J., 5, 2203−2208(1986); Albright, C. F., et al., EMBO J., 12, 339−347 (1993))。
【0056】
Ralに加えて、RalGDSは、これらの蛋白との相互作用によってN−ras,H−ras,K−ras,Rapのエフェクター分子として機能することが見つけ出された(Spaargaren, M. and Bischoff, J. R., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 91, 12609−12613 (1994))。
【0057】
配列番号:3にGEN−501D08と命名されたcDNAクローンの核酸配列、配列番号:2にそのクローンのコードディング領域の核酸配列並びに配列番号:1に該核酸配列でコードされるアミノ酸配列を示す。
【0058】
このcDNAは、842塩基からなり、122アミノ酸をコードする366塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいた。転写開始コドンは28番目の核酸残基に位置していた。
【0059】
一般のデータ・ベース中において知られているRalGDS蛋白とこのcDNAによって推定されたアミノ酸配列を比較した結果、このcDNAをコードする蛋白は、ヒトのRalGDSのC末端領域に対する相同物であることが明らかとなった。この新規な遺伝子でコードされるアミノ酸配列は、rasに結合するために必要であると考えられているRalGDSのC末端領域に対して39.5%の同一性を持っていた。
【0060】
従って前述のごとく、この遺伝子産物がrasファミリー蛋白と相互作用をしているかもしれないこと、或はras介在シグナル変換経路に影響を与えるかもしれないと考えられる。しかしながら、この新規な遺伝子は、GDS活性領域をコードする領域を含んでおらず、GDS蛋白と異なる機能を有しているようである。しかして、本発明者らはこの遺伝子をヒトRalGDSと名付けた。
(2)ノーザンブロット分析
正常ヒト組織におけるRalGDS蛋白のmRNAの発現をランダム・オリゴヌクレオチド・プライミング法によって標識したヒトcDNAクローンをプローブとするノーザンブロットにより評価した。
【0061】
ノーザンブロット分析は、製品使用法に従い、ヒトMTNブロット(Human Multiple Tissue Nothern blot ; クローンテック社製、パロ・アルト、カリフォルニア、米国)を用いて実施した。
【0062】
即ち、上記GEN−501D08クローンのPCR増幅産物を〔32P〕−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識してプローブとした。
【0063】
ブロッティングは、42℃で一晩、50%ホルムアミド/5×SSC/50×デンハルツ溶液/0.1%SDS溶液(100μg/ml変性サケ精子DNA含有)の溶液中でハイブリダイズした。2×SSC/0.01%SDSにて室温下にて2回洗浄後、次いで0.1×SSC/0.05%SDSにて50℃下に40分間で3回洗浄した。フィルターは−70℃下に18時間、X線フィルム(コダック社製)に対して露光した。
【0064】
その結果、900塩基の転写体が、試験した全てのヒト組織内に発現していることが明らかとなった。加えて、3.2キロ転写体が心臓と骨格筋内に特異的に観察された。これらの異なるサイズを有する転写体の発現は、二者択一的なスプライシングに負うか或は相同遺伝子に対するクロス−ハイブリダイゼーションに負うのかもしれない。
(3)FISHによるコスミド・クローンと染色体の局在
FISHは、コスミド・ベクターpWE15中にクローン化されたヒト染色体のライブラリーをcDNAクローンの0.8キロ塩基挿入部をプローブとしてスクリーニングすることにより実施した(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning, 2nd Ed., pp.3.1−3.58, Cold Spring Harbor Laboratory Press. Cold Spring Harbor, New York(1989))。
【0065】
染色体の座位決定のためのFISHは、Gバンドパターンを比較することによって確認するイナザワらの方法と同様に実施した(Inazawa, J.. et al., Genomics, 17, 153−162 (1993))。
【0066】
染色体のスクリーニングから得られたGEN−501D08に対応するコスミドDNA0.5μgをニック・トランスレーションによってビオチン16dUTPで標識し、プローブとした。
【0067】
また、反復配列に起因するバック・グラウンド・ノイズを取り除くために、超音波処理したヒト胎盤DNA(10mg/ml)の0.5μlをプローブ液の9.5μlに加えた。混合液は80℃で5分間変性させ、20%デキストラン硫酸を含む4xSSCの等量を混合した。ついでハイブリダイゼーション混合液を、変性したスライド上に播種し、パラフィンで覆った後、37℃で16−18時間、湿箱内にてインキュベートした。50%ホルムアミド/2xSSCで37℃で15分間洗浄後、2xSSCで15分間、更に1xSSCで15分間それぞれ洗浄を行なった。
【0068】
ついでスライドは、アビジン−FITC(5μg/ml)を含む商品名「1%BlockAce」(大日本製薬社製)を加えた4xSSC中で37℃、40分間インキュベートした。その後、スライドは4xSSC、0.05%トリトンX−100を含む4xSSCで各々10分間洗浄し、1%DABCO(PBS(−):グリセロールを1:9(v:v)に1%DABCO、シグマ社製)を含む抗除色液PPD液(PPD(和光カタログNo.164−015321)100mg及びPBS(−)(pH7.4)10mlを0.5M Na2CO3/0.5MNaHCO3(9:1,v/v)の緩衝液(pH9.0)でpHを8.0に調整した後、グリセリンを追加し、総容量を100mlとしたもの)中に浸して、DAPI(4,6−ジアミノ−2−フェニルインドール:シグマ社製)で対比染色した。
【0069】
試験した100以上の分裂中期の細胞から、他の染色体上のシグナルがない特異的なハイブリダイゼーションシグナルを染色体バンド6p21.3上に観察し、RalGDS遺伝子が染色体6p21.3に座位していることを確認した。
【0070】
この実施例で得られた本発明の新規なヒトRalGDS関連遺伝子の利用によれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトRalGDS蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、発現蛋白とras介在のシグナルの形質導入経路への役割の研究やこれらの関与する疾患、例えば癌などの病態解明や診断、治療などが可能となると考えられるほか、本発明RalGDS蛋白遺伝子の染色体の転座を同じくする強直性脊椎炎、心房中隔欠損症、色素性網膜症、失読症などの各種疾患の発生と進展との係わりを研究することが可能となる。
【0071】
【実施例2】
細胞骨格関連蛋白2遺伝子(CKAP2遺伝子)
(1)細胞骨格関連蛋白2遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析により、ヒト細胞骨格関連蛋白遺伝子(cytoskeleton−associated protein : CAP)のCAP−グリシン領域を含有するいくつかのCAPファミリー遺伝子と相同性の高い塩基配列を有するクローンを見いだし、これをGEN−080G01と名付けた。
【0072】
ところで、細胞骨格は真核生物の細胞の細胞質や細胞膜のすぐ内側に存在し、線維状物質が複雑に絡み合った網目状の構造体である。該細胞骨格は、チューブリンからなる微小官、アクチンからなる微小線維、デスミンやビメンチンからなる中間径線維などから構成されている。細胞骨格は細胞の骨組み的な役割を担うだけでなく、線維系の重合・脱重合により細胞の形態的変化を起こすなど動的な機能も果たしている。細胞骨格は、細胞内小器官や細胞膜の受容器、イオン・チャンネルと結合し、それらの細胞内での移動や局在性の保持に重要な役割を果たしているほか、活性の調節や相互の情報伝達の機能を有するとされ、細胞全体の生理活性の調節において、非常に重要な位置を占めていると推測される。特に癌細胞は、正常細胞と違った形態、認識反応応答を示すことから、細胞の癌化と細胞骨格の質的変化の関係が注目される。
【0073】
この細胞骨格の活性は、多くの細胞骨格関連蛋白(CAPs)によって調節されている。CAPsのひとつのグループは、微小官との関連に貢献していると推定されている高く保存されたグリシン・モチーフによって特徴付けられている(CAP−GLY領域: Riehemann K. and Song C., Trends Biochem. Sci., 18, 82−83(1993))。
【0074】
CAPsのこのグループのメンバーは、CLIP−170,150kDa DAP(dynein−associated protein, or dynactin)、D. melanogaster GLUED, S. cerevisiae BIK1,リスティン(restin: Bilbe G., et al., EMBO J., 11, 2103−2113 (1992); Hilliker C., et al., Cytogenet. Cell Genet., 65, 172−176(1994))とC. elegansの113.5kDa蛋白(Wilson R., et al., Nature, 368, 32−38(1994))を含んでおり、後者の2つの蛋白を除いて、それらは、微小官と相互作用を及ぼすことのできることが直接的或は間接的証拠によって提言されている。
【0075】
上記CLIP−170は、インビトロにおいて微小官に対する内分泌の小胞の結合にとって重要であり、内分泌細胞小器官とともに局在する(Rickard J.E. and Kreis T.E., J. Biol. Chem., 18, 82−83 (1990); Pierre P., et al., Cell, 70, 887−900 (1992))。
【0076】
上記ダイナクチンは、逆行性の小胞の輸送に働く(Schroer T.A. and Sheetz M.P., J. Cell Biol., 115, 1309−1318(1991))か或は多分、有糸分裂期間中の染色体の動きに働くとされる(Pfarr C.M., et al., Nature, 345, 263−265(1990); Steuer E.R., et al., Nature, 345, 266−268 (1990); Wordeman L., et al., J. Cell Biol., 114, 285−294(1991))細胞質のダイニン運動を構築している因子のひとつである。
【0077】
哺乳動物のダイナクチンの相同遺伝子のショウジョウバエ(Drosophila)GLUEDは、ほとんど全ての細胞の生存にとって重要であり、いくつかの神経細胞の形成にとって重要である(Swaroop A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 84, 6501−6505 (1987); Holzbaur E.L.F., et al., Nature, 351, 579−583 (1991))。
【0078】
BIK1は微小官と相互作用を示し、酵母の有糸分裂期間中のスピンドル形成に重要な役割を演じている(Trueheart J., et al., Mol. Cell. Biol., 7, 2316−2326 (1987); Berlin V., et al., J. Cell. Biol., 111, 2573−2586 (1990))。
【0079】
現在、これらの遺伝子は、CAPファミリー(CAPs)と分類されている。
【0080】
データ・ベースの検索の結果、463塩基(ポリAシグナルを除いて)の上記cDNAクローンは、レスティンとCLIP−170をコードする遺伝子と有意な核酸配列相同性を示した。しかしながら、レスティン遺伝子と比較した時、このクローンは5’部分を欠いていたので、この欠けているセグメントを単離するために5’レースの技術を用いた(Frohman M.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 8, 8998−9002 (1988))。
(2)5′レース法(5’RACE:5’rapid amplification of cDNA ends)
本発明遺伝子の5′部分を含むcDNAクローンの単離・解析は、製品使用プロトコールの一部修飾させ、市販キット(5’−Rapid AmpliFinder RACE Kit, クローンテック社)を用いた5′レース法により、以下の通り単離した。
【0081】
ここで用いた遺伝子特異的プライマーP1及びプライマーP2は常法に従い合成されたものであり、その塩基配列はそれぞれ配列番号:43(プライマーP1)及び44(プライマーP2)に示す通りである。またアンカー・プライマーは、市販キットに付属のものを用いた。
【0082】
ヒト胎児脳ポリ(A)+RNAの0.1μgを逆転写酵素(Superscript TMII RNase H Reverse Transcriptase, Life Technologies社)を用いたランダムヘキサマーにより逆転写してcDNAを得、これをP1プライマー及びアンカープライマーを用いた第1のPCRによるワタナベらの方法(Watanabe T., et al., Cell Genet., )により増幅させた。
【0083】
即ち、上記ポリ(A)+RNAの0.1μgに2.5mMdNTP/1xTaq緩衝液(宝酒造社製)/0.2μM P1プライマー、0.2μMアダプター・プライマー/ExTaq酵素(宝酒造社製)0.25単位を併せて全量を50μlとし、これにアンカー・プライマーを加えて室温で反応させた後、PCRに供した。即ち、94℃1分間、次いで94℃45秒、60℃45秒、72℃2分のサイクルを35サイクル行ない、72℃で5分間反応させた。
【0084】
その後、第1のPCR反応物50μl中の1μlを特異的ネスティッドP2プライマーとアンカー・プライマーを用いる第2のPCR反応により増幅させた。第2のPCR産物は、1.5%アガロース・ゲル電気泳動により分析した。
【0085】
アガロース・ゲル電気泳動により、およそ650塩基の大きさを示す単一のバンドを検出し、このバンドの産物をベクター(pT7Blue(R)T−Vector,ノバゲン(Novagen) 社)に挿入し、適当なサイズの挿入がみられる複数のクローンを選別した。
【0086】
PCR反応物から得られた5’レース・クローンの6つが同じ配列を有しているが、異なる長さであった。GEN−080G01とGEN−080G0149の2つの重なりを持つcDNAクローンをシークェンシングすることによって、蛋白質をコードしている配列と、5’と3’フランキング配列と全長1015塩基の配列を決定し、該遺伝子を細胞骨格関連蛋白2遺伝子(CKAP2遺伝子)と命名した。
【0087】
配列番号:6に上記GEN−080G01とGEN−080G0149の2つの重なっているcDNAクローンから得られた核酸配列、配列番号:5にそのクローンのコードディング領域の核酸配列、並びに配列番号:4に核酸配列によってコードされるアミノ酸配列をそれぞれ示す。
【0088】
CKAP2遺伝子は、配列番号:6で示されるように、その5’非コード領域が相対的にGC−リッチであり、(CAG)4(CGG)4(CTG)(CGG)の不完全なトリプレットが40−69塩基の位置に存在していた。
【0089】
その274−276塩基の位置のATGは、推定されるスタート・コドンである。ストップ・コドン(TGA)は、853−855塩基に位置していた。ポリアデニレーション・シグナル(ATTAAA)は、ポリ(A)スタートの前の16塩基にあった。推定されたオープン・リーディング・フレームは、21,800の計算された分子量を持つ193アミノ酸をコードする579塩基からなっている。
【0090】
更にRT−PCRによってコード領域を増幅し、得られた合成配列がcDNAのキメラであるという可能性を排除した。
(2)他のCRPsとCKAP2との類似性
CKAP2の配列は、レスティンとCLIP−170の配列との相同性を明らかにしたが、相同性領域は、CAP−GLYドメインの短い配列に限定されていた。アミノ酸レベルにおいて、推定されたCKAP2は、他の5つのCAPsとも高い相同性を示した。
【0091】
CKAP2は、アルファ−ヘリックス・ロッド、亜鉛フィンガー・モチーフのようないくつかのCAPsの特徴的な他のモチーフを保有していなかった。アルファ−ヘリックス・ロッドは、2量体形成や微小管結合能を増加させることに貢献していると思われた(Pierre P., et al., Cell, 70, 887−900, (1992))。アルファ−ヘリックス領域の欠失は、CKAP2がホモ−或はヘテロ−・ダイマー形成することのできないことを意味するかもしれない。
【0092】
これらの蛋白のCAP−GLY領域を並べると、グリシンの他に保存された残基もまたCKAP2中にあることが明らかとなった。また、CAP−GLY領域を持つCAPsは、細胞小器官の活動において、そして微小官とそれらの相互作用に関係すると考えられた。CKAP2は、上記の如くCAP−GLY領域を含んでいるので、これらのファミリーの中に位置付けされる。
【0093】
Gluedの変異体を用いた研究によれば、Glued産物は、ほとんど全ての細胞において重大な役割を演ずること(Swaroop A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 84, 6501−6505 (1987))及び神経細胞内において他の神経−特異的な機能を演じること(Meyerowizt E.M. and Kankel D.R., Dev. Biol., 62, 112−142 (1978))が明らかにされている。これらの微小官関連蛋白は、小胞輸送と有糸分裂に働くと思われている。故に、神経細胞における小胞輸送システムの重要性は、これらのコンポーネントの欠損が異常な神経細胞系に導くかもしれない。
【0094】
このようなことから、CKAP2は本質的な細胞機能と同様に特異的な神経細胞の機能に関係しているかもしれない。
(3)ノーザンブロット分析
正常ヒト組織におけるヒトCKAP2mRNAの発現を、実施例1−(2)と同様にしてGEN−080G01クローン(553−1015塩基に相当する)をプローブとするノーザンブロットにより評価した。
【0095】
その結果、試験したヒト心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓の8つの全ての組織において、CKAP2のcDNAのサイズに一致する1.0kbの転写体を検出した。該1.0kbの転写体は、試験した他の組織より、心臓、脳において有意に高いレベルで発現されていた。3.4kbと4.6kbの2つの弱いバントがそれぞれ全ての組織において検出された。
【0096】
ノーザン・ブロット分析によれば、上記3.4kbと4.6kbの転写体は、選択的スプライシングによって、CKAP2の1.0kb転写体をコードする同じ遺伝子から誘導されているか、もしくは、別の関連遺伝子から転写されたものである可能性も存在する。これらの転写体の特徴は、CKAP2が、CAP−GLY領域を有し、α−ヘリックスも有するような蛋白をもコードしているかもしれない。
(4)ダイレクト・R−バインディングFISHによるコスミド・クローンと染色体上の局在
CKAP2cDNAに対応する2つのコスミドを得た。それらの2つのコスミド・クローンを実施例1−(3)と同様にしてダイレクト・R−バインディングFISHによってCKAP2の染色体の座位のマッピングを行なった。
【0097】
また、反復配列によるバックグラウンドの抑制のために、リヒター(Lichter P. et al., Proc. Natl. Sci. U.S.A., 87, 6634−6638(1990))によって記載されたように20倍過剰のヒトCot−I DNA(BRL社製)を加えた。プロビア100フィルム(フジISO100;フジ・フィルム社製)を、顕微鏡写真撮影のために用いた。
【0098】
その結果、CKAP2は、染色体バンド19q13.11−q13.12上にマップされた。
【0099】
DNAマーカーD19S221とD19S222の間のCADASIL(大脳皮質梗塞及び大脳白質萎縮を持つ大脳の常染色体優性動脈疾患)とD19S215とD19S216の間のFHM(家族性片麻痺性偏頭痛)の2つの常染色体性の優性神経疾患が、連鎖分析によってこの領域に局在されている。これら2つの疾患は、同じ遺伝子の対立遺伝子による疾患であるかもしれない(Tournier−Lasserve E. et al., Nature Genet., 3, 256−259(1993); Joutel A. et al., Nature Genet., 5, 40−45(1993))。
【0100】
FHMと、或はCADASIL候補遺伝子としてCKAP2を支持するための証拠はないが、その変異体は、なんらかの神経細胞の疾患に導くかもしれないと考えられる。
【0101】
この実施例により得られる本発明の新規なヒトCKAP2遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトCKAP2の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、前述したように多様で且つ細胞に本質的な活動に深く関与しているヒトCKAP2システム乃至ヒトCKAP2の機能の解析や、これが関与する各種神経疾患、例えば家族性偏頭痛、などの診断などを行なうことができ、またこれらの治療及び予防薬のスクリーニングや評価などをも行なうことができる。
【0102】
【実施例3】
OTK27遺伝子
(1)OTK27遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、酵母核蛋白(Saccharomyces cerevisiae: Kolodrubetz, D. and Burgum, A., YEAST, 7, 79−90 (1991))、NHP2に対して高い相同性を有する蛋白をコードするcDNAクローン、GEN−025F07を見出し、OTK27と命名した。
【0103】
核蛋白質は、染色体、リボソームなどの細胞の基本構成成分であり、この核蛋白質は細胞増殖、生存能力に対して本質的な役割を演じていると考えられている。酵母の核蛋白質であるNHP2は、High−mobility group(HMG)−like proteinで、HMGと同様に細胞の生存能力に対して必須の機能を有していると報告されている(Kolodrubetz, D. and Burgum, A., YEAST, 7, 79−90 (1991))。
【0104】
上記酵母NHP2に高い相同性を有する本発明の新規なヒト遺伝子、OTK27遺伝子もまた同様な機能を有していると推測される。
【0105】
上記該GEN−025F07クローンの塩基配列は、配列番号:9で示されるように1493塩基からなり、配列番号:8で示される384塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでおり、これによりコードされるアミノ酸配列は、配列番号:7に示される通り128アミノ酸からなっていた。開始コドンは、配列番号:9の塩基配列番号の95−97番目から始まり、479−481番目が終始コドンを示していた。
【0106】
OTK27ペプチドは、NHP2とアミノ酸レベルにおいて38%の高い相同性を示した。また、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana: Newman, T., unpublished ; GENEMBL Accession No. T14197)からのcDNAの核酸配列から推定された蛋白に対して83%同一であった。
(2)ノーザンブロット分析
正常ヒト組織におけるヒトOTK27mRNAの発現を、OTK27cDNAクローンのインサート部分をPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、〔32P〕−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識してプローブとし、実施例1−(2)に準じてノーザンブロッティングを行なった。
【0107】
ノーザンブロット分析の結果、この遺伝子からの2つの可能性ある転写体を示しているおよそ1.6キロ塩基と0.7キロ塩基の位置に2つのバンドを検出した。両サイズの転写体が試験した全ての正常成人組織に発現されていたが、0.7キロ塩基の転写体の発現は脳において有意に減少し、試験した他の組織に比べて心臓、骨格筋、睾丸においてより多く発現されていた。
【0108】
これらの2つの転写体の更なる試験のために睾丸cDNAライブラリーから11のcDNAクローンを単離し、実施例1−(1)と同様にそれらDNA配列を決定した。
【0109】
その結果、6つのクローンにおいて、それらは0.7キロ塩基の転写体に一致しており、ポリA配列は600番目辺りの塩基に始まり、これらのクローンのうち2つのクローンにおいてポリA配列が598番目の塩基、3つのクローンが606番目の塩基、1つのクローンが613番目の塩基で始まっていた。
【0110】
これら6つのクローンにおいて、583−588番目の塩基で“TATAAA”配列が、ポリAシグナルとしておそらく認められた。また、この遺伝子の上流ポリAシグナル“TATAAA”は、脳においてほとんど影響せず、他の組織より上記した3つの組織においてより効果的であると認識され、各転写体の安定性は種々の組織間で異なっている可能性も考えられた。
【0111】
更に、ズー・ブロット分析の結果より、この遺伝子は他の脊椎動物においてもよく保存されていることが示された。この遺伝子は、正常成人組織のいたるところで発現されており、種間の広い範囲で保存されていたので、その遺伝子産物は重要な生理学的な役割を演じると考えられる。NHP2を欠いている酵母は生存できないことから、ヒトの相同物もまた細胞の生存能力に対して本質的であるかもしれないと提言され得る。
(3)ダイレクト・R−バィンディングFISHによるOKT27染色体の局在プローブとしてOTK27cDNAのインサートを用いてcDNA OTK27に対応する1つのコスミド・クローンを全ヒト染色体コスミド・ライブラリー(5ゲノムに相当)から単離し、実施例1−(3)に準じてダイレクト・R−バィンディングFISHを実施し、OTK27の染色体の局在を決定した。
【0112】
その結果、明瞭な2つのスポットが染色体12q24.3のバンド上に観察された。
【0113】
本発明OTK27遺伝子は、ヒト核蛋白質、OTK27蛋白の発現及び検出に利用でき、かくして該蛋白の関与する各種の疾患の診断、病態解明、例えば細胞増殖や分化に関わることからある種の癌の治療及び予防薬のスクリーニングや評価に利用できる。
【0114】
【実施例4】
OTK18遺伝子
(1)OTK18遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
亜鉛−フィンガー蛋白は、真核生物の転写調節を行なう蛋白の大きなファミリーと定義されており、進化的に保存された構造モチーフを含んでいる(Kadonaga, J. T., et al., Cell, 51, 1079−1090 (1987); Klung, A. and Rhodes, D., Trends Biol. Sci., 12, 464−469 (1987); Evans, R. M. and Hollenberg, S. M., Cell, 52, 1−3 (1988))。
【0115】
亜鉛イオンと、システィンとヒスチジンの2残基の相互作用によって形作られたループ様モチーフである亜鉛フィンガーは、RNA又はDNAに対する蛋白の特異的結合に関係している。亜鉛フィンガー・モチーフは当初、カエル(Xenopus)の転写因子IIIAのアミノ酸配列内において確認されていた(Miller, J., et al., EMBO J., 4, 1609−1614 (1986))。
【0116】
C2H2フィンガーモチーフは、通常いくつか繰り返され、その間には7或は8アミノ酸の介在配列が進化的に保存されている。この介在している広がりは、当初、ショウジョウバエのクルッペルセグメンテーション遺伝子において確認された(Rosenberg, U. B., et al., Nature, 319, 336−339 (1986))。それ以来、脊椎動物ゲノムは、数百のC2H2亜鉛フィンガー蛋白をコードする遺伝子が発見されている。
【0117】
実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、亜鉛フィンガー構造を含むいくつかのクローンを確認し、ここにクルッペル・タイプの亜鉛フィンガー構造をもつクローンを見い出した。
【0118】
このクローンは転写体の5’部分が欠けていたので、プローブとしてcDNAクローンの約1.8キロ塩基のインサートを使用し、胎児脳cDNAライブラリーをプラーク・ハイブリダイゼーションして、3つのクローンを単離し、実施例1−(1)と同様にそれらの塩基配列を決定した。
【0119】
この3つクローンのうちインサートの最も大きいクローンは、711アミノ酸をコードする2133塩基のオープン・リーデイング・フレームを持つ3754塩基長に及んでおり、該クローンは、ヒトZNF41とショウジョウバエのクルッペル遺伝子に対して、亜鉛フィンガー領域で高い類似性を有するペプチドをコードする新規なヒト遺伝子を含んでいた。この遺伝子をOTK18遺伝子(GEN−076C09クローン由来)と命名した。
【0120】
OTK18遺伝子のcDNAクローンの核酸配列は、配列番号:12で示され、またコード領域を含む塩基配列は、配列番号:11で示され、該OTK18遺伝子によりコードされる推定アミノ酸配列は、配列番号:10で示される通りである。
【0121】
尚、配列番号:12から、OTK18の推定されたペプチド配列は、その蛋白がそのカルボキシ側で13のフィンガー・モチーフを含んでいることが判明した。
(2)他の亜鉛フィンガー・モチーフを有する遺伝子との比較
OTK18、ヒトZNF41、ショウジョウバエのクルッペル遺伝子の比較により、各フィンガー・モチーフは、共通配列CXECGKAFXQKSXLX2HQRXHに対して大部分保存されていた。
【0122】
ヒトZNF41とショウジョウバエのクルッペル遺伝子に対するOTK18の亜鉛フィンガー・モチーフの共通配列の比較は、クルッペルタイプ・モチーフがOTK18遺伝子によりコードされた蛋白内によく保存されていた。しかしながら、配列の類似性は亜鉛フィンガー領域に限定されており、他の領域では有意なホモロジーは示さなかった。
【0123】
また、亜鉛フィンガー領域は、標的DNAと特異的相互作用し、約5塩基の配列を認識して、DNAのヘリックスと特異的に結合する(Rhodes, D. and Klug, A., Cell, 46, 123−132 (1986))。
【0124】
このことからマルチ・モデュール(亜鉛フィンガーがタンデムにつながっていること)は、DNAの広い範囲と相互作用することができるとする考えに基づいて、13の繰り返し単位を含んでいるこの遺伝子産物の標的DNAは、およそ65塩基長のひとつのDNA断片であることが推測される。
(3)ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1−(2)に準じて、正常ヒト組織におけるヒトOTK18mRNAの発現を、OTK18cDNAクローンのインサートをPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、〔32P〕−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識してプローブとしてMTNブロットを用いて実施した。
【0125】
ノーザンブロット分析の結果、OTK18の転写体がおよそ4.3キロ塩基の長さであることが明らかとなり、これは種々の正常成人組織内いたるところに発現されていた。しかしながら、肝臓と末梢血リンパ球における発現のレベルは試験した他の臓器においてより低いと思われた。
(4)ダイレクト・R−バィンディングFISHによるコスミド・クローンと染色体の局在
OTK18の染色体の局在を実施例1−(3)に準じて行なった。
【0126】
その結果、8サンプルで2つの完全なスポットが確認され、23サンプルはどちらか一方或は両方に不完全なシグナル又は2つのスポットを呈した。全てのシグナルは染色体19のq13.4バンドに現われた。他の染色体上には2つのスポットは観察されなかった。
【0127】
このようにFISHの結果、この遺伝子が染色体バンド19q13.4に局在することが判った。この領域は亜鉛フィンガー領域のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズする多くのDNAセグメントを含んでいることが知られている(Hoovers, J. M. N., et al., Genomics, 12, 254−263 (1992))。しかも、亜鉛フィンガー蛋白をコードする少なくとも一つの他の遺伝子は、この領域で見つけられている(Marine, J.−C., et al., Genomics, 21, 285−286 (1994))。
【0128】
このことから染色体19q13は、転写を調節する蛋白をコードする多くのマルチ遺伝子が集まっている部位であると推測される。
【0129】
この実施例により提供される新規なヒトOTK18遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトOTK18蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、前述したように多様で且つ細胞に基本的な活動に深く関与しているヒト転写調節蛋白質遺伝子システム乃至ヒト転写調節蛋白質の機能の解析や、これが関与する各種疾患、例えば発生分化異常の奇形や癌、或は神経系発生異常の精神、神経障害などの診断などを行なうことができ、またこれらの治療及び予防薬のスクリーニングや評価などをも行なうことができる。
【0130】
【実施例5】
ヒト26Sプロテアソーム構成成分P42蛋白質及びP27蛋白質遺伝子
(1)ヒト26Sプロテアソーム構成成分P42蛋白質及びP27蛋白質の各遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
多機能プロテアーゼであるプロテアソームは、酵母からヒトに至る真核生物に広く存在し、細胞内でエネルギー依存的にユビキチン結合蛋白質を分解する酵素である。該プロテアソームは、構造的には分子量21〜31キロダルトンの種々の構成成分からなる20Sプロテアソームと、30〜112キロダルトンの種々の構成成分からなる沈降係数22SのPA700制御蛋白質群とで構成され、全体として沈降係数26S、分子量約200万ダルトンの巨大分子を形成している〔Rechsteiner, M., et al., J.Biol.Chem., 268, 6065−6068 (1993)、Yoshimura, T., et al., J.Struct.Biol., 111, 200−211 (1993)、Tanaka, K., et al., New Biologist, 4, 173−187 (1992)〕。
【0131】
その構造的及び機械的な解析からも尚、該プロテアソームの全容は明らかになっていないが、主として酵母とマウスを用いた研究から、以下の機能が報告され、その機能は次第に明らかになりつつある。
【0132】
即ち、細胞内におけるエネルギー依存性の蛋白質分解機構は、ユビキチン結合による蛋白質の選別にはじまるが、ユビキチン化蛋白質を分解するATP依存的な活性は20Sプロテアソームにはなく、26Sプロテアソームにある〔Chu−Ping et al., J.Biol.Chem., 269, 3539−3547 (1994)〕。このことから、ヒト26Sプロテアソームは、エネルギー依存性の蛋白質分解機構の解明に有用であると考えられる。
【0133】
細胞周期の調節に関与する因子は、一般に半減期が短く、厳格な量的制御を受けている場合が多い。実際、癌遺伝子産物であるMos、Myc、Fosなどはエネルギー、ユビキチン依存的に26Sプロテアソームにより分解されることが明らかにされ〔Ishida, N., et al., FEBS Lett., 324, 345−348 (1993)、Hershko,A., and Ciechanover, A., Annu.Rev.Biochem., 61, 761−807 (1992)〕、細胞周期制御におけるプロテアソームの重要性が認識されつつある。
【0134】
また免疫系における重要性も指摘されており、クラスI主要組織適合複合体抗原提示において、プロテアソームが積極的に関与していることも示唆され〔Michalek MT., et al., Nature, 363, 552−554 (1993)〕、さらにアルツハイマー患者の脳内において、ユビキチン化蛋白質が異常に蓄積してるという現象〔Kitaguchi, N., et al., Nature, 361, 530−532 (1988)〕から、アルツハイマー病にもプロテアソームが関与していることが示唆されるなど、プロテアソームは多彩な機能を有するという点で、各種病態の診断や治療にその有用性が注目されてきている。
【0135】
また、26Sプロテアソームの主たる機能は、ユビキチン化蛋白質を分解する活性である。中でもc−Mycをはじめとする癌遺伝子産物やサイクリンのような細胞周期関連遺伝子産物の分解が、ユビキチン依存の経路で分解されることが判明している。また肝癌細胞、腎癌細胞、白血病細胞などにおいてプロテアソーム遺伝子は、正常細胞に比較して異常発現しており〔Kanayama, H., et al., Cancer Res., 51, 6677−6685 (1991)〕、腫瘍細胞核にプロテアソームが異常蓄積していることが観察されている。このことから、ヒトプロテアソームの構成成分はこれらの癌化のメカニズムの解明や癌の診断あるいは治療に有用となることが期待される。
【0136】
更に、プロテアソームの発現がインターフェロンγなどによって誘導され、細胞内での抗原提示に深く関与することが知られている〔Aki, M., et al., J.Biochem., 115, 257−269 (1994)〕。このことから、ヒトプロテアソームの構成成分は免疫系の抗原提示のメカニズムの解明や免疫制御剤の開発にも期待できる。
【0137】
加えて、プロテアソームはアルツハイマー患者の脳内に異常蓄積しているユビキチンとも深く関わっているとも考えられ、この点より、ヒトプロテアソームの構成成分は、アルツハイマー病の原因解明やその治療にもその有用性が示唆されている。
【0138】
このように、多機能が期待できるプロテアソームは、該酵素自体の利用以外にも、その各構成成分を抗原として抗体を作製すれば、かかる抗体が免疫測定法により各種病態の診断に用い得るとも考えられ、この診断分野での有用性も着目されている。
【0139】
ところで、ヒト26Sプロテアソームの特性を有する蛋白質については、例えば特開平5−292964号に開示があり、また、ラットプロテアソーム構成蛋白質については、特開平5−268957号及び特開平5−317059号に開示があるが、ヒト26Sプロテアソームの構成成分については知られていない。そこで本発明者らは、ヒト26Sプロテアソームの構成成分について更なる検索を行い2つの新たなヒト26Sプロテアソーム構成成分蛋白質であるヒト26Sプロテアソーム構成成分P42蛋白質及びヒト26Sプロテアソーム構成成分P27蛋白質を得、以下に示される方法にて該遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシングを行なった。
(1)ヒト26Sプロテアソーム構成成分P42蛋白質及びP27蛋白質の精製
新鮮なヒト腎臓約100gを用い、特開平5−292964号公報に記載されているヒトプロテアソームの精製法に従い、バイオゲルA−1.5m(5×90cm、バイオラッド製)、ハイドロキシアパタイト(1.5×15cm、バイオラッド製)、Q−セファロース(1.5×15cm、ファルマシア製)によるカラムクロマトグラフィー及びグリセロール密度勾配遠心法により、ヒトプロテアソームの精製を行なった。
【0140】
得られたヒトプロテアソームを、日立L6200型高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムより、逆相HPLCを行なった。カラムは、Shodex RS Pak D4−613(0.6×15cm、昭和電工製)を用い、以下の2液によるグラジエント溶出を行なった。
第1液:0.06%トリフルオロ酢酸
第2液:0.05%トリフルオロ酢酸、70%アセトニトリル
各溶出画分につき、その一部をジチオスレイトール還元下、8.5%SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行ない検出し、P42蛋白質及びP27蛋白質をそれぞれ単離精製した。
【0141】
精製したP42及びP27蛋白質について、それぞれ0.1Mトリス緩衝液(pH7.8)、2M尿素中、1μgのトリプシンにより37℃で8時間消化を行ない、得られた部分ペプチド断片を逆相HPLCで分離し、エドマン分解により配列を決定した。その結果は、それぞれ下記表1に示す通りであった。
【0142】
【表1】
【0143】
(2)cDNAライブラリーの検索、クローンの単離及びcDNA塩基配列の決定
本発明者らは、実施例1−(1)に示すように、ヒト胎児脳、血管動脈、胎盤cDNAライブラリーの大量DNA配列の決定から、約3万個のcDNAデーターを含むデーターベースを構築している。
【0144】
上記(1)で得られた各アミノ酸配列をもとにコンピューターによるFASTA検索(アミノ酸配列に対して、DNAデーターベースから推測されたアミノ酸配列とのホモロジー検索)を行なった結果、P42については、2つのアミノ酸配列(表2に示す(2)及び(7))が一致するクローン(GEN−331G07)を、またP27についても、2つのアミノ酸配列(表2に示す(1)及び(8))が一致するクローン(GEN−163D09)を見出した。
【0145】
これら各クローンにつき、実施例2−(2)と同様にして、5′RACE法により、5′側の配列を決定し、合わせて、それぞれの全配列を決定した。
【0146】
その結果、上記P42クローンであるGEN−331G07は、配列番号:15に示される1566塩基配列から構成され、その中に配列番号:14で示される1167塩基の翻訳領域を含み、これによってコードされるアミノ酸配列は、配列番号:13に示す389アミノ酸配列であることが明らかとなった。
【0147】
P42蛋白質は、コンピューターを用いたホモロジー検索の結果、AAA(ATPases associated with a variety of cellular activities)蛋白質ファミリー(例えば、P45、TBP1、TBP7、S4、MSS1など)と、有意なホモロジーを有することが認められ、このことからAAA蛋白質ファミリーの新しい一員であると示唆された。
【0148】
また、P27クローンであるGEN−163D09は、配列番号:18に示される1128塩基配列から構成され、その中に配列番号:17で示される669塩基の翻訳領域を含み、これによってコードされるアミノ酸配列は、配列番号:16に示す223アミノ酸配列であることが明らかとなった。
【0149】
P27蛋白質は、コンピューターを用いたホモロジー検索の結果、パブリックなデーターバンク内にホモロジーを示す遺伝子は認められず、未知の機能を持つ新規な遺伝子と考えられた。
【0150】
しかして、上記P42及びP27の両遺伝子産物は、もともとプロテアソーム複合体の調節サブユニット成分として精製されたものであり、これらは、いずれも蛋白質分解を介して種々の生体機能にとって重要な役割、例えばATP分解によるエネルギー供給のための役割を演じるていると考えられ、これらの点よりヒト26Sプロテアソームの機能解明のみならず、上記生体機能の低下などに起因する各種病態の診断、治療などに有用であると考えられる。
【0151】
【実施例6】
BNAP遺伝子
(1)BNAP遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
DNAとヒストンで構成されるヌクレオソームは、真核生物の細胞において染色体を構成する基本構造で、種を越えてよく保存されている。この構造は、DNAの複製過程と転写に強く関連している。しかしながら、ヌクレオソームの形成については、完全には理解されておらず、ヌクレオソーム構築(nucleosome assembly: NAPs)に係わるいくつかの特異的な因子が確認されているのみである。即ち、既に2つの酸性蛋白であるヌクレオプラスミン(nucleoplasmin)とN1が、ヌクレオソーム構築を容易にすることが確認されている(Kleinschmidt, J.A., et al., J. Biol. Chem., 260, 1166−1176 (1985): Dilworth, S. M., et al., Cell, 51, 1009−1018 (1987))。
【0152】
モノクローナル抗体を用いて、酵母NAP−Iの遺伝子が単離され、その組換え蛋白が、イン・ビトロにおいてヌクレオソーム構築活性を保有するかどうかが調べられた。
【0153】
更に近年、酵母のNAP−Iの哺乳動物相同物であるマウスのNAP−I遺伝子(Okuda, A.: registered in database as an accession number D12618)、マウスDN38遺伝子(Kato, K., Eur. J. Neurosci., 2, 704−711 (1990))及びヒトヌクレオソーム構築蛋白(human nucleosome assembly protein: hNRP)がそれぞれクローニングされ(Simon, H. U., et al., Biochem. J., 297, 389−397(1994))、hNRP遺伝子は、多くの組織において発現され、T−リンパ球の増殖に関連することが示された。
【0154】
本発明者らは、実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、1125塩基cDNAクローンのGEN−078D05(ポリAを含んでいない)が、ヌクレオソーム構築に関連しているヌクレオソーム構築蛋白(NAPs)の遺伝子であるマウスNAP−Iの遺伝子、マウスの部分cDNAクローンDN38及びhNRPと有意に高い相同性を有することを解明した。
【0155】
該GEN−078D05は、5’領域を欠いていたので、全体のコード領域を得るために、実施例2−(2)と同様の方法で5’レース法を行なった。この5’レース法のために、配列番号:45及び46に示す各塩基配列のプライマーP1及びP2を用いた。
【0156】
最初の5’レースの後、得られたものは配列長が1300塩基のシングルバンドであった。この産物をpT7Blue(R)T−Vecterに挿入し、適当なサイズのインサートを持ついくつかのクローンを選択した。
【0157】
2つの独立したPCR反応から得られた、5’レース・クローン、10クローンを配列決定し、最も長いクローンGEN−078D05TA13(およそ1300塩基長)を更に分析した。
【0158】
2つの重複しているcDNAクローンGEN−078D05とGEN−078D05TA13の両ストランドを配列決定することによって、2つのクローンがまだ全体のコード領域をカバーしていないことを確認したので、更なる第2の5’レース法を実施した。2回目の5’レース法には、配列番号:47及び48に示す各塩基配列のプライマーP3及びP4を用いた。
【0159】
2回目の5’レース法によって得られたクローンGEN−078D0508は、300塩基長であった。このクローンは推定の開始コドンと3つの先行するイン−フレーム停止コドンを含んでいた。これらの重複している3つのクローンから2636塩基からなる全体のコード配列が明らかとなり、この遺伝子を脳特異的ヌクレオソーム構築蛋白(Brain−specific Nucleosome Assembly Protein:BNAP)遺伝子と命名した。
【0160】
BNAP遺伝子は、配列番号:20で示される1518塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされるアミノ酸は、配列番号:19で示されるように506アミノ酸残基を有し、BNAPの全cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:21で示されるとおりである。
【0161】
配列番号:21で示されるように、該遺伝子の5’非コード領域は、総体的にGCリッチであった。開始コドンの候補配列は、塩基配列番号266−268番目、287−289番目及び329−331番目に見られた。これらの3つの配列は、すべて開始コドン周辺でよく保存されている配列を持っていた(Kozak, M., J. Biol. Chem., 266, 19867−19870 (1991))。
【0162】
スキャンニング・モデルに従えば、cDNAクローンの最初のATG(塩基配列番号266−268番目)が開始コドンであるかもしれない。停止コドンは、塩基配列番号1784−1786番目に位置していた。
【0163】
3’非コード領域は全体的にATリッチであり、2つのポリ・アデニレーション・シグナル(AATAAA)は、塩基配列番号2606−2611番目と2610−2615番目にそれぞれ位置していた。
【0164】
最も長いオープン・リーディング・フレームは、506のアミノ酸をコードしている1518塩基からなり、BNAP遺伝子産物の計算された分子量は、57,600ダルトンであった。
【0165】
親水性プロットは、BNAPが他のNAPsのように極めて親水性であることを示した。
【0166】
組換えBNAPの発現と精製、そしてBNAPの遺伝子配列が5’レースの段階によって3つのキメラのクローンを構成しているかもしれないと考えられる可能性を排除するために、センス・プライマーとして配列番号326−356番目の配列と、アンチ・センスプライマーとして配列番号1758−1786番目の配列とを用い、RT−PCRを実施した。
【0167】
その結果、単一の約1500塩基対の産物が得られ、該配列がキメラではなく、単一転写産物であることが確認された。
(2)BNAPとNAPsとの比較
BNAPの推定アミノ酸配列は、hNRPと46%の同一性と65%の類似性を示した。
【0168】
推定されたBNAP遺伝子産物は、既に報告されたNAPsにおいて見られたものとBNAPに特徴的なモチーフを持っていた。一般にC末端の半分はヒト及び酵母の間で強く、よく保存されていた。
【0169】
第1のモチーフ(ドメインI)は、KGIPDYWLI(309−317番目のアミノ酸残基に相当)で、これはhNRP(KGIPSFWLT)及び酵母NAP−I(KGIPEFWLT)においても認められた。
【0170】
第2のモチーフ(ドメインII)は、ASFFNFFSPP(437−446番目のアミノ酸残基に相当)で、これはhNRPにおいては、DSFFNFFAPPとして、酵母NAP−Iにおいては、ESFFNFFSPとして表わされた。
【0171】
これら2つのモチーフもまたマウスNAP−IとDN38の推定ペプチドにおいて保存されていた。両者の保存されたモチーフは、親水性のクラスターで、402番目のCysもまた保存されていた。
【0172】
N末端の半分は酵母から哺乳動物の種にいたるまで厳格に保存されたモチーフを有しておらず、一方では、哺乳動物種の間で保存されたモチーフが見つけられた。
【0173】
例えば、哺乳動物特異的機能に関係しているかもしれない、HDLERKYA(130−137番目のアミノ酸残基に相当)とIINAEYEPTEEECEW(150−164のアミノ酸残基に相当)は、厳格に保存されていた。
【0174】
NAPsは、ヒストン又は他の塩基性蛋白に結合し易いと信じられている酸性のストレッチを有していた。全てのNAPsは3つの酸性のストレッチを持っていたが、それらのストレッチの位置は保存されていなかった。
【0175】
BNAPはそのような3つの酸性ストレッチを有しておらず、代わりとして、98アミノ酸残基のうち41の酸性アミノ酸残基を含んでいるひとつの長い酸性のクラスターを有していた3つのくり返し配列(194−207番目、208−221番目及び222−235番目のアミノ酸残基に相当)があり、そのコンセンサスは、ExxKExPEVKxEEK(xは保存されておらず、たいていは疎水性残基である)であった。
【0176】
更に、BNAP配列は、いくつかのBNAP特異的モチーフを有していることが明らかとなった。即ち、49アミノ酸残基のうち33残基(67%)がセリンである極端にセリンーリッチ領域(24−72番目のアミノ酸残基に相当)がN末端部分に見られた。それは核酸レベルでは不完全なAGCくり返しとして見出された。
【0177】
このセリンーリッチ領域に続いて、19のうち10の塩基性アミノ酸残基を含んでいる塩基性領域(71−89番目のアミノ酸残基に相当)が現れた。
【0178】
BNAPは核に局在すると考えられ、2つの可能性のある核局在シグナルが見られた(NLSs)。第一のシグナルはBNAPの塩基性ドメインに見つけられ、その配列YRKKR(75−79番目のアミノ酸残基に相当)は、HIV−1のTatのNLS(GRKKR)に類似していた。第二のシグナルは、C末端に位置しており、その配列KKYRK(502−506番目のアミノ酸残基に相当)は、SV40のラージT抗原のNLS(KKKRK)に類似していた。これら2つの推定NLSsがあることから、BNAPは核に局在しているようであったが、他の塩基性クラスターがNLSsとして働くという可能性を排除できなかった。
【0179】
BNAPはいくつかのリン酸化部位を有しており、リン酸化によりBNAPの活性を調節するかもしれない。
(3)ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1−(2)に準じて、正常ヒト組織におけるBNAPmRNAの発現を、クローンGEN−078D05TA13(BNAP遺伝子の配列番号323から1558番目に相当する)をPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、[32P]−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識し、プローブとしてMTNブロットに用いて試験した。
【0180】
ノーザンブロット分析の結果、試験した8つのヒト成人組織、心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓及び膵臓のうち、脳においてBNAPの3.0キロの転写体が検出された(8時間露光)、そしてより長い露光(24時間露光)で同じサイズのぼんやりしたバンドが心臓において検出された。
【0181】
BNAPは試験した脳のいくつかの部位で等しく発現していたが、他の組織においては、72時間露光によってもいかなるシグナルも検出されなかった。hNRPmRNAは、試験したヒト組織においていたるところに発現されていたけれども、BNAPmRNAは組織特異的な手法で発現されていた。
(4)ラディエーション・ハイブリッド・マッピング(Radiation Hybrid Mapping)
ラディエーション・ハイブリッド・マッピングによって、BNAPのクローンの染色体マッピングを行なった(Cox, D.R., et al., Science, 250, 245−250 (1990))。
【0182】
即ち、全ヒト・ゲノムのラディエーション・ハイブリッド・クローン(G3RH)のパネルをリサーチ・ジェネティックス社(Research Genetics, Inc., AL, U.S.A.)より購入し、製品の使用説明書に従い、配列番号:49及び50に示す各塩基配列のA1プライマーとA2プライマーを用いて染色体マッピング分析のためのPCR反応を実施した。
【0183】
得られた結果をインターネット上で使用可能なソフトウェアによって分析した(Boehnke, M., et al., Am. J. Hum. Genet., 46, 581−586 (1991))。
【0184】
その結果、BNAP遺伝子はマーカーDXS990(LOD=1000,cR8000=−0.00)に強く連鎖していた。マーカーDXS990は、染色体上のXq21.3−q22に局在したマーカーであることから、BNAPは、いくつかのX染色体と連関する精神遅延が局在する染色体位置Xq21.3−q22に局在されていることが確認された。
【0185】
ヌクレオソームの構造真核生物に特徴的で基本的な染色体の構造単位だけでなく、遺伝子発現の調節単位である。いくつかの結果から、転写活性の高い遺伝子は、ヌクレアーゼ処理に感受性があり、転写活性により染色体の構造が変化することを示唆している(Elgin, S.C.R., J. Biol. Chem., 263, 19259−19262(1988))。
【0186】
NAP−Iは、酵母、マウス、ヒトにおいてクローニングされており、イン・ビトロにおいてヌクレオソーム構築を促進する能力を持つ因子の一つである。実施された配列に関する研究において、特異抗体4A8のエピトープを含んでいるNAPsがヒト、マウス、カエル、ショウジョウバエ、酵母(サッカロミセス・セレビシェ:S. cerevisiae)において検出された(Ishimi, Y., et al., Eur. J. Biochem., 162, 19−24 (1987))。
【0187】
これらの実験においてNAPsは、SDS−PAGE分析によって50−60kDaの間に電気泳動されたが、組換えBNAPは、およそ80kDaの位置にゆっくりと電気泳動された。4A8のエピトープは、2番目のよく保存された疎水性モチーフの中に局在されていることが示された。そして、FNFのトリプレットが、エピトープの一部として重要であることが同時に示された(Fujii−Nakata T., et al., J. Biol. Chem., 267, 20980−20986 (1992))。
【0188】
BNAPもまたこの一致モチーフをドメインIIに含んでいた。ドメインIIは、著しく疎水的である事実とドメインIIが免疫システムによって認識されることができる事実は、それがBNAP表面でおそらく提示され、蛋白−蛋白相互作用に関与する可能性を持つことが提言される。
【0189】
ドメインIもまた蛋白−蛋白相互作用に関与しているかもしれない。保存された領域の機能的な意味はいまだに不明であるが、これらのNAPs間の比較的低いが総体的に保存されていることを考えると、それらはヌクレオソーム構築のためには本質的であらねばならないと考えられる。
【0190】
hNRP遺伝子は、甲状腺、胃、腎臓、腸、白血病、肺癌、乳癌などに発現される(Simon, H. U., et al., Biochem. J., 297, 389−397 (1994))。一方、NAPsは、いたるところに発現されていて、基本的なヌクレオソーム形成において重要な役割を演じていると考えられる。
【0191】
BNAPは、脳特異的ヌクレオソーム形成に関与するかもしれず、その不全は、逸脱した神経細胞の機能の結果として神経学上の疾患や精神的な遅延を起こすかもしれない。
【0192】
BNAPは、いくつかのX染色体と連鎖した精神的な遅延が、局在されるX染色体q21.3−q22上のマーカーに対して強く連鎖していた。このX染色体の中心周囲領域は、α−サラセミアや精神的遅延(ATR−X)のような、精神的な遅延に対して責任ある遺伝子が多かった(Gibbons, R. J., et al., Cell, 80, 837−845 (1995))。ヌクレオソーム構造を調節すると思われるATR−X遺伝子の分析と同様に、本発明者らは、BNAPがX染色体と連鎖した精神遅延のあるタイプに関係しているかもしれないと考える。
【0193】
本実施例によれば、新規なBNAP遺伝子が提供され、該遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、BNAP蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、前述したように多様で且つ細胞に基本的な活動に深く関与している脳ヌクレオソーム形成の研究や脳神経細胞の機能の研究及びこれらが関与する各種神経学上の疾患や精神遅延の診断などを行なうことができ、これらの治療及び予防薬のスクリーニングや評価などをも行なうことができる。
【0194】
【実施例7】
ヒト骨格筋特異的ユビキチン結合酵素遺伝子(UBE2G遺伝子)
ユビキチン・システムは、細胞プロセスに必須の酵素グループのひとつであり、酵母からヒトにいたるまで保存されている。該システムは、ユビキチン活性酵素(ubiquitin−activating enzymes: UBAs)、ユビキチン結合酵素(ubiquitin−conjugating enzymes: UBCs)、ユビキチン蛋白リガーゼ(ubiquitin protein ligases: UBRs)及び26Sプロテアソーム粒子から構成されている。
【0195】
ユビキチンは、上記UBAから数種のUBCに移されて活性化される。UBCは、UBRの関与を受けるものと、もしくは受けないで、ユビキチンを目標蛋白にトランスファーする。これらユビキチン化された目標蛋白は、多くの細胞応答、例えば蛋白分解、蛋白修飾、蛋白輸送、DNA修復、細胞サイクル制御、複製制御、ストレス応答などや免疫応答を引き起こすとされている(Jentsch, S., et al., Biochim. Biophys. Acta, 1089, 127−139 (1991): Hershko, A. and Ciechanover, A., Annu. Rev. Biochem., 61, 761−807 (1992) : Jentsch, S., Annu. Rev. Genet., 26, 179−207 (1992): Ciechanover, A., Cell, 79, 13−21 (1994))。
【0196】
UBCsは、このシステムの重要な構成成分であり、異なる基質特異性を有し、異なった機能を調節すると思われる。例えば、サッカロミセス・セレビシェ(S. cerevisiae)のUBC7は、カドミウムによって誘導され、カドミウム中毒に対する抵抗性に関与していると思われる(Jungmann, J., et al., Nature, 361, 369−371 (1993))。MAT−α2の分解もまたUBC7とUBC6によって実行される(Chen, P., et al., Cell, 74, 357−369 (1993))。
【0197】
本実施例で得られた新規な遺伝子は、酵母細胞周期遺伝子UBC9とHus5に対して高い相同性を持っていて、ヒト骨格筋において強く発現するヒトUBC7様遺伝子であり、以下にそのクローニング及びDNAのシークェンシングについて述べる。
(1)ヒト骨格筋特異的ユビキチン結合酵素遺伝子(UBE2G遺伝子)のクローニング及びDNAシークエンシング
実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、GEN−423A12cDNAクローンが様々な種のユビキチン結合酵素(ubiquitin−conjugating enzymes: UBCs)をコードする遺伝子と有意に高い相同性を有する持つことが分かった。
【0198】
該GEN−423A12は、5’側が欠けていたので、全体のコード領域を得るために実施例2−(2)と同様の方法で5’レース法を行なった。
【0199】
5’レース法のために、配列番号:51及び52に示す各塩基配列のP1プライマー及びP2プライマーを用いた。
【0200】
5’レース産物をpT7Blue(R)T−Vecterに挿入し、適当なサイズのインサートを持ついくつかのクローンを選択した。
【0201】
2つの独立したPCR反応から得られ、5’レース・クローンの4つのクローンが同じ配列を持っているが異なった長さであった。
【0202】
上記クローン配列決定によって、新しい遺伝子の翻訳配列と隣接する5’−と3’−フランキング配列を決定した。
【0203】
その結果、全配列が617塩基の新しい遺伝子が明らかとなり、この遺伝子をヒト骨格筋特異的ユビキチン結合酵素遺伝子(UBE2G遺伝子)と命名した。
【0204】
また、この配列がキメラ・クローンである可能性を排除するために、ヒト胎児脳cDNAライブラリーから増幅するために前記実施例6−(1)に準じて、センス・プライマーを用いRT−PCRを実施した。その結果、単一のPCR産物が得られ、その配列がキメラでないことが確認された。
【0205】
UBE2G遺伝子は、配列番号:23で示される510塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされるアミノ酸は、配列番号:22で示されるように170アミノ酸残基を有し、UBE2Gの全cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:24で示されるとおりである。
【0206】
配列番号:24で示されるように推定された開始コドンは、cDNAクローンの最初のATGトリプレットである塩基配列番号19−21番目に位置していた。このATGに先行したイン・フレーム停止コドンがなかったので、このクローンは、以下の理由から全体のオープン・リーディング・フレームを含んでいると演繹した。
【0207】
即ち、(a)サッカロミセス・セレビシェ(S. cerevisiae)UBC7とアミノ酸配列の相同性が高く、酵母のUBC7の開始コドンと一致しておりこのATGを支持した。
(b)AGGATGAの配列は、開始コドン周辺のコンセンサス配列(A/G)CCATGG(Kozak, M., J. Biol. Chem., 266, 19867−19870 (1991))に類似していた。
(2)UBE2GとUBCsとのアミノ酸配列との比較
UBE2GとUBCsとのアミノ酸配列の比較から、ユビキチンに結合することができる活性部位システィンは、90番目のシスティン残基であるように思えた。これらの遺伝子でコードされるペプチドは、同じファミリーに属しているようである。
(3)ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1−(2)に準じて、正常ヒト組織におけるUBE2GmRNAの発現を、UBE2Gの全配列をPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、[32P]−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識し、プローブとして用い、メンブレンは、MTNブロットを用いて実施した。
【0208】
ノーザンブロット分析の結果、試験した16のヒト成人組織、心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、甲状腺、膀胱、睾丸、卵巣、小腸、大腸及び末梢血白血球において、18時間の露光の後、4.4キロ塩基対、2.4キロ塩基対、と1.6キロ塩基対の転写体が検出可能であった、そして骨格筋においてこれらの転写体の強い発現が観察された。
(4)ラディエーション・ハイブリッド・マッピング(Radiation Hybrid Mapping)
ラディエーション・ハイブリッド・マッピングによって前記実施例6−(4)と同様の方法でUBE2Gのクローンの染色体マッピングを行なった。
【0209】
尚、染色体マッピング分析のためにPCR反応のために用いたC1プライマー及びC4プライマーは、配列番号:24の配列の配列番号415−435番目及び配列番号509−528番目にそれぞれ相当しており、その塩基配列は配列番号:53及び54に示す通りである。
【0210】
その結果、UBE2G遺伝子はマーカーD1S446(LOD=12.52,cR8000=8.60)とD1S235(LOD=9.14,cR8000=22.46)に連鎖していた。これらのマーカーは、染色体バンドlq42.13−q42.3に局在した。
【0211】
UBE2Gは、骨格筋において強く発現し、試験した全ての組織において非常に弱く発現された。全ての他のUBCsは細胞サイクルの調節のような必須の細胞機能に関係しており、それらUBCsは組織のいたるところに発現している。しかしながら、UBE2Gの発現パターンは、筋肉特異的な役割が提言されるかもしれない。
【0212】
3つの異なるサイズの転写体が検出されたが、それらのどれがcDNAクローンに相当するものであるかを確認することはできなかった。UBE2G産物の主要な構造は、酵母のUBC7に対して強い相同性を示した。また、線虫類のUBC7は、一方では酵母UBC7に対して強い相同性を示した。それは、レプレッサーの分解に関連しており、更に酵母におけるカドミウムに対する抵抗を与える。これらの蛋白間の類似性から、それらが同じファミリーに属していることが提言される。
【0213】
UBE2Gは、筋特異的蛋白の分解に関与しており、該遺伝子の不全は、結果として筋ジストロフィーのような疾患になると考えられる。近年、別の蛋白質分解酵素、カルパイン3(Calpain3)が肢体筋ジストロフィー・タイプ2Aの原因であると証明された(Richard, I., et al.,Cell, 81, 27−40 (1995))。該遺伝子がUBE2Gの染色体の位置からいかなる遺伝性筋疾患とも現在のところ有意な関連はないが、今後のリンケージ解析から、該遺伝子との関係が見つかる可能性があると思われる。
【0214】
本実施例によれば、新規なUBE2G遺伝子が提供され、該遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、UBE2G蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、前述したように多様で且つ細胞に基本的な活動に深く関与している筋特異的蛋白分解の研究や骨格筋の機能の研究及びこれらが関与する各種筋疾患、例えば筋ジストロフィーの診断などを行なうことができ、これらの治療及び予防薬のスクリーニングや評価などをも行なうことができる。
【0215】
【実施例8】
TMP−2遺伝子
(1)TMP−2遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、膜蛋白遺伝子(transmembrane protein:アクセッションNo.;U19878)に相同性の高いcDNA配列を有するクローン(GEN−092E10)を見出した。
【0216】
しかして従来、膜蛋白遺伝子は、カエル(Xenopus laevis)とヒトにおいてクローニングされており、之等はフォリスタチン・モデュル(follistatin module)とEGF領域(epidermal growth factor domain)を有する細胞膜貫通型のタンパク質の遺伝子であると考えられる(アクセッションNo.;U19878)。
【0217】
上記タンパク質遺伝子の配列情報から、GEN−092E10クローンは、5’領域を欠いていたので、λgt10cDNAライブラリー(Human Fetal Brain 5’−STRETCH PLUS cDNA; クローンテック社製)を、GEN−092E10クローンをプローブとしてスクリーニングすることにより、さらに5’上流を含むcDNAクローンを単離した。
【0218】
このcDNAクローンの両ストランドを配列決定することによって、全体のコード領域をカバーしている配列が明らかになり、この遺伝子をTMP−2遺伝子と命名した。
【0219】
TMP−2遺伝子は、配列番号:26で示される1122塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされるアミノ酸は、配列番号:25で示されるように374アミノ酸残基を有し、TMP−2の全cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:27で示されるとおり、1721塩基からなっていた。
【0220】
配列番号:27で示されるように5’非コード領域は、総体的にGCリッチであった。開始コドンの候補配列は、いくつか存在したが、スキャンニング・モデルに従えば、cDNAクローンの5番目のATG(塩基配列番号368−370番目)が開始コドンと推定された。停止コドンは、塩基配列番号1490−1492番目に位置していた。ポリ・アデニレーション・シグナル(AATAAA)は、塩基配列番号1703−1708番目位置していた。TMP−2遺伝子産物の計算された分子量は、41,400ダルトンであった。
【0221】
上記したように膜蛋白遺伝子は、フォリスタチン・モデュルとEGF領域を有しているが、本発明の新規なヒト遺伝子においても、これらのモチーフが保存されていた。
【0222】
また、本発明のTMP−2遺伝子は、TGF−α(transforming growth factor−α; Derynck, R., et al., Cell, 38, 287−297 (1984))、beta−cellulin(Igarashi, K. and Folkman, J., Science, 259, 1604−1607 (1993))、ヘパリン結合EGF様成長因子(heparin−binding EGF−like growth factor; Higashiyama, S., et al., Science, 251, 936−939 (1991))及びシュワノマ誘導成長因子(Schwannoma−derived growth factor; Kimura, H., et al., Nature, 348, 257−260 (1990))と、EGF領域を超えてアミノ酸レベルで相同性を有することなどから、細胞の増殖や細胞間のコミュニケーションに重要な役割を果たすと考えられる。
(2)ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1−(2)に準じて、正常ヒト組織におけるTMP−2mRNAの発現を、クローンGEN−092E10をPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、[32P]−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識し、プローブとしてMTNブロットを用いて実施した。
【0223】
ノーザン分析の結果、脳と前立腺において高い発現が検出された。該TMP−2遺伝子のmRNAのサイズは、約2kbであった。
【0224】
本発明によれば、新規なヒトTMP−2遺伝子が提供され、該遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトTMP−2蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、前述したように細胞増殖や細胞間コミュニケーションに深く関与している脳腫瘍や前立腺癌の研究及びこれらの疾患の診断等を行なうことができ、これらの治療及び予防薬のスクリーニングや評価等をも行なうことができる。
【0225】
【実施例9】
ヒトNPIK遺伝子
(1)ヒトNPIK遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
実施例1及び2と同様の方法で、ヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、フォスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)3及び4キナーゼに保存されているアミノ酸配列をコードする遺伝子(Kunz, J., et al., Cell, 73, 585−596 (1993))に高い相同性を有する2つのcDNAクローンを得、これらをGEN−428B12c1及びGEN−428B12c2と命名し、これらの全配列を、前記各実施例に準じて決定した。
【0226】
その結果、GEN−428B12c1cDNAクローンとGEN−428B12c2クローンは、5’末端の12のアミノ酸残基のみが異なるコード配列を有することが判明し、GEN−428B12c1cDNAクローンが12アミノ酸残基長かった。
【0227】
ヒトNPIK遺伝子のGEN−428B12c1cDNA配列は、配列番号:32で示される2487塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされるアミノ酸は、配列番号:31で示されるように829アミノ酸残基を有し、全長cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:33で示されるとおり、3324塩基からなっていた。
【0228】
配列番号:33で示されるように推定された開始コドンは、cDNAクローンの2番目のATGトリプレットである塩基配列番号115−117番目に位置していた。また、停止コドンは塩基配列番号の2602−2604番目に位置していた。ポリ・アデニレーション・シグナル(AATAAA)は塩基配列番号3305−3310番目位置していた。
【0229】
一方、ヒトNPIK遺伝子のGEN−428B12c2cDNA配列は、配列番号:29で示される2451塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされるアミノ酸は、配列番号:28で示されるように817アミノ酸残基を有し、全長cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:30で示されるとおり、3602塩基からなっていた。
【0230】
配列番号:30で示されるように推定された開始コドンは、cDNAクローンの7番目のATGトリプレットである塩基配列番号429−431番目に位置していた。また、停止コドンは塩基配列番号の2880−2882番目に位置していた。ポリ・アデニレーション・シグナル(AATAAA)は塩基配列番号3583−3588番目位置していた。
(2)ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1−(2)に準じて、正常ヒト組織におけるヒトNPIKmRNAの発現を、ヒトNPIKの全配列をPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、[32P]−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識し、プローブとして用い、メンブレンは、MTNブロットを用いて実施した。
【0231】
ノーザン分析の結果、ヒトNPIK遺伝子は、試験した16のヒト成人組織の様々な臓器でその発現が認められ、約3.8kbと約5kbの転写体が検出可能であった。
【0232】
GEN−428B12c2cDNA配列の開始コドンを含む、配列番号:55及び56に示す塩基配列のプライマーAと終止コドンを含むプライマーBとを用いて、Human Fetal Brain Marathon−Ready cDNA(クロンテック社製)をテンプレートとしてPCRを行ない、該PCR産物の塩基配列を決定した。
【0233】
その結果、発現されたヒトNPIKmRNAには、GEN−428B12c1cDNA配列の配列番号:33の塩基配列番号1060−1104番目(アミノ酸残基の配列番号:31のアミノ酸配列番号316−330番目)を欠くもの及び配列番号:33の塩基配列番号1897−1911番目(アミノ酸残基の配列番号:31のアミノ酸配列番号595−599番目)を欠くものがあることが判明した。
【0234】
更にこの遺伝子には、GEN−428B12c1cDNA配列の配列番号:33の塩基配列番号1941−1966番目の領域に、下記表2に示されるポリモルフィズムが存在し(428B12c1.fasta)、これによりGEN−428B12c1アミノ酸残基の配列番号:31のアミノ酸配列番号610−618番目のIQDSCEITTがYKILVISAに変異した変異体タンパク質がコードされることが判明した。
【0235】
【表2】
【0236】
(3)FISHによるヒトNPIK遺伝子の染色体のマッピング
実施例1−(3)に準じてFISHによるヒトNPIK遺伝子の染色体のマッピングを行なった。
【0237】
その結果、ヒトNPIK遺伝子は、染色体の座位が1q21.1−q21.3の位置にあることが判明した。
【0238】
本発明の新規なヒト遺伝子であるヒトNPIK遺伝子は、上記したように、5’領域の異なる2つのcDNAが存在し、それらは、それぞれ829と817のアミノ酸をコードしうる領域を含んでいた。また、この遺伝子のmRNAに2つの欠失しうる部位が存在すること並びにGEN−428B12c1アミノ酸残基の配列番号:31のアミノ酸配列番号610−618番目に相当する特定領域にポリモルフィズムが存在し、変異タンパク質がコードされることから、ヒトNPIKには、いくつかの組合わせから成るヒトNPIK、ヒトNPIK欠失体、ヒトNPIK変異体及び/又はヒトNPIK変異・欠失体の存在することが考えられる。
【0239】
近年、上記PI3及び4キナーゼのファミリーに属する数種類のタンパク質に、タンパク質キナーゼ活性があることが示された(Dhand, R., et al., EMBO J., 13, 522−533 (1994): Stack, J. H. and Emr, S. D., J. Biol. Chem., 269, 31552−31562 (1994): Hartley, K. O., et al., Cell, 82, 849−856 (1995))。
【0240】
また、このファミリーに属するタンパク質がDNAの損傷の修復に関与していること(Hartley, K. o., et al., Cell, 82, 849−856 (1995))、アタキシア(運動失調症)の原因遺伝子であることが明らかとなった(Savitsky, K., et al., Science, 268, 1749−1753 (1995))。
【0241】
これらPIキナーゼのファミリーと高い相同性を有するヒトNPIK遺伝子でコードされるタンパク質は、脂質あるいはタンパク質をリン酸化する新しい酵素であることが予想できる。
【0242】
本実施例によれば、新規ヒトNPIK遺伝子が提供され、該遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトNPIK蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらにより、前述したように脂質あるいはタンパク質のリン酸化酵素の研究、DNAの修復の研究及びこれらが関与する疾患、例えば癌の研究や診断等を行なうことができ、これらのの治療及び予防薬のスクリーニングや評価等をも行なうことができる。
(4)融合蛋白発現ベクターの構築
まず、ヒトNPIK遺伝子(GEN−428B12c2)のコード領域をサブクローニングするために、上記(1)で得られたDNA配列情報を基に、配列番号57及び58に示す配列の2つのプライマー、C1プライマー及びC2プライマーを作製した。
【0243】
尚、上記C1及びC2プライマーは、共にBglIIサイトを含んでおり、C2プライマーはアンチセンスプライマーであった。
【0244】
上記各プライマーを利用して、ヒト胎児脳mRNAから誘導されたcDNAを用いてPCRを行ない、cDNAを増幅させて、およそ2500塩基長さの産物を得た。増幅させたcDNAをエタノール沈殿させた後、pT7BlueT−Vector(Novagen)社製に挿入し、サブクローニングした。この全配列を前記各実施例に準じて決定したところ、これは上記表9に示されるポリモルフィズムを有するものであった。
【0245】
該cDNAをBglIIにより切断し、切断された産物をアガロースゲル電気泳動後、アガロースゲルより切り出し、GENECLEAN II KIT (BIO 101社)を用いて、DNAを回収した。回収されたcDNAをpBlueBacHis2Bベクター(Invitrogen社)のBglII部位に挿入し、サブクローニングした。
【0246】
得られた融合ベクターは、BglII切断部位を有し、目的の遺伝子産物(およそ91kd)とpBlueBacHis2Bベクター由来のポリヒスチジン領域及びAnti−XpressTM抗体(Invitrogen社)の認識エピトープを含む38アミノ酸領域との融合蛋白を発現するベクターである。
(5)昆虫細胞Sf−9へのトランスフェクション
本遺伝子の発現は、バキュロウイルス発現系を用いて行なった。バキュロウイルスは、環状2本鎖の昆虫病原性ウイルスであり、昆虫の細胞の中で多角体と呼ばれる封入体を大量に作ることができる。本発現系は、その特徴を生かして開発されたInvitrogen社のBac−N−BlueTM Transfection Kitを用いて以下の通り行なった。
【0247】
より詳しくは、ヒトNPIKをコードする領域を含むpBlueBacHis2B4μgとBac−N−BlueTMDNA(Invitrogen社)1μgをInsectinTMLiposome(Invitrogen社)の存在下で、Sf−9細胞にコトランスフェクト(co−transfect)した。
【0248】
Bac−N−blueTMDNAには、LacZ遺伝子が、BlueBacHis2Bと相同組換えを起こしたときにのみ発現するように組み込んであり、寒天下で培養すれば、青のプラークを選択することによって目的遺伝子を発現するウイルスを簡単に選択できるようにデザインされている。
【0249】
青のプラークを寒天ごと切り出し、培地400μlに懸濁させてウイルスを培地に拡散させた。遠心してウイルスを含む上清を得た後、Sf−9細胞に再度感染させ、力価を上昇させ、また多量のウイルス感染液を得た。
(6)ヒトNPIKの調製
目的のヒトNPIKが発現しているか否かは、ウイルスを感染させてから3日後の細胞を用いて以下の通り確認した。即ち、細胞を回収してPBSで洗浄し、SDS−PAGEローディング緩衝液と共に5分間煮沸してSDS−PAGEを行なった後、Anti−Xpress抗体を用いたウエスタンブロッティング法によって、推定分子量位置に目的蛋白質を確認した。尚、ウイルス非感染の細胞を対照とした同試験では目的とするNPIKのバンドは認められなかった。
【0250】
より詳しくは、Sf−9細胞の70乃至80%集合した(semi−confluent)175cm2フラスコ15枚を用いて、大規模にウイルスを感染させて、目的蛋白質を発現させた。ウイルス感染3日後の細胞を回収し、PBSで洗浄後、細胞を緩衝液(20mMトリス/HCl(pH7.5)、1mM EDTA及び1mMDTT)に懸濁させ、4℃下、30秒間隔で30秒ずつ4回超音波処理して破壊溶解させ、得られる細胞破砕物を遠心分離後、上清を回収し、上清中の蛋白質をAnti−Xpress抗体を用いて免疫沈降させ、プロティンAセファロースビーズのスラリーとして得た。該スラリーをSDS−PAGEローディング緩衝液と共に5分間煮沸し、SDS−PAGEによってNPIKの回収の確認と定量を行なった。尚、上記スラリーはそのままアッセイ系に供した。
(7)PI4キナーゼ活性の確認
NPIKの予想される活性は、ホスファチジルイノシトール(PI)のイノシトール環の4位にリン酸を付加する活性、即ちPI4キナーゼ活性である。
【0251】
アッセイは、竹縄らの方法〔Yamakawa,A. and Takenawa,T., J.Biol.Chem., 263, 17555−17560 (1988)〕を用いて以下の通り検討した。即ち、NPIKスラリー10μl(20mMトリス/HCl(pH7.5)、1mM EDTA、1mM DTT及び50%プロテインAビーズ)、PI溶液(PI含有市販クロロホルム溶液5mgをガラス容器に入れ、窒素気流下で乾固させ、20mMトリス/HCl緩衝液(pH7.5)1mlに溶解させた後、超音波でミセル化したもの)10μl、反応用緩衝液(210mMトリス/HCl(pH7.5)、5mMEGTA及び100mM MgCl2)10μl及び蒸留水10μlを入れ、最後にATP溶液(500μM ATP5μl、蒸留水4.9μl及びγ−32PATP(6000Ci/mmol、NEN社)0.1μl)10μlを入れて、30℃にて反応を開始させた。反応は、2、5、10及び20分間行ない、後記アッセイにて、リン酸のPIへの取り込みが直線的に増加する領域にある10分をアッセイのインキュベーションタイムと設定した。
【0252】
反応終了後、PIを溶媒抽出法にて分画し、最終的にクロロホルムに再懸濁させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて展開し、反応生成物PI4Pの位置の放射活性をBio−Image analyzer(Fuji film社)を用いて定量化した。
【0253】
結果を図1に示す。図1は、上記TLCからの放射活性の定量結果を解析した図であり、右のレーン(2)はNPIKを含むウイルスを感染させたSf−9細胞の細胞質画分を、左のレーン(1)は感染していない同細胞質画分を示し、矢印のスポットがPI4Pを示す。
【0254】
また、上記において、反応系にトリトン−X100又はアデノシンの所定量を添加してNPIKのPI4キナーゼ活性に及ぼす之等の影響を同様にして調べた。得られた結果は図2に示す通りであり、NPIKは、トリトン−X100によって活性化され、該トリトン−X100によって活性化された活性がアデノシンによって阻害される、典型的なPI4キナーゼ活性を有することが判った。
【0255】
尚、図2において、(1)は無添加を、(2)はトリトン−X100の0.4%添加を、(3)はトリトン−X100の0.4%+アデノシンの25μM添加を、(4)はトリトン−X100の0.4%+アデノシンの50μM添加を、(5)はトリトン−X100の0.4%+アデノシンの100μM添加を、(6)はトリトン−X100の0.4%+アデノシンの200μM添加を、それぞれ示す。
【0256】
【実施例10】
nel関連蛋白タイプ1(NRP1)遺伝子及びnel関連蛋白タイプ2(NRP2)遺伝子
(1)NRP1遺伝子及びNRP2遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
EGF様反復配列は、多くの膜蛋白質において確認されており、成長調節と分化に関連する蛋白中において確認されている。このモチーフは蛋白間相互作用に関係しているように思われている。
【0257】
近年5つのEGF様反復配列を含んでいる新規なペプチド、nelをコードする遺伝子がニワトリ胚のcDNAライブラリーからクローニングされた(Matsuhashi, S., et al., Dev. Dynamics., 203, 212−222(1995))。この産物は、細胞外ドメインにそのEGF様反復配列を持っている膜分子であると考えられている。nelmRNAの4.5kbの転写体が胚期において様々な組織において発現され、生後は、脳と網膜にもっぱら発現されている。
【0258】
実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、上記nelと有意に相同性の高い2つのcDNAクローンを見出し、それぞれGEN−073E07とGEN−093E05と名付けた。
【0259】
両クローンとも5’領域を欠いていたので、全体のコード領域を得るために実施例2−(2)と同様の方法で5’レース法を行なった。
【0260】
5’レース法のためのプライマーを、上記クローンのcDNA配列から得た任意の配列を有するプライマーを合成し、アンカープライマーは市販のキットに付属のものをプライマーとして用いた。
【0261】
PCR反応から得られた5’レース・クローンのいくつかを配列決定し、全体のコード領域をカバーしていると思われる配列を明らかにし、この遺伝子をそれぞれnel関連蛋白1(nel−related protein type 1:NRP1)遺伝子とnel関連蛋白2(nel−related protein type 2:NRP2)遺伝子とそれぞれ命名した。
【0262】
NRP1遺伝子は、配列番号:35で示される2430塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされる推定アミノ酸は、配列番号:34で示されるように810アミノ酸残基を有しており、該NRP1遺伝子の全cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:36で示されるとおり2977塩基からなっている。
【0263】
一方、NRP2遺伝子は、配列番号:38で示される2448塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされる推定アミノ酸は、配列番号:37で示されるように816アミノ酸残基を有しており、該NRP2遺伝子の全cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:39で示されるとおり3198塩基からなっている。
【0264】
更にRT−PCRによってコード領域を増幅し、得られた配列がcDNAのキメラであるという可能性を排除した。
【0265】
推定されたNRP1とNRP2遺伝子産物の両者は、膜挿入のためのシグナル・ペプチドとして機能することができる高い疎水性のN末端を有していた。ニワトリ胚のnelと比較すると、どちらも疎水性の膜貫通ドメインを保有していないように見えた。NRP1、NRP2及びnel間の推定ペプチド配列を比較したところ、アミノ酸レベルでNRP2は80%の相同性を有しており、NRP1のそれの50%よりnelにより近い関連があった。システィン−リッチ・ドメインとEGF様反復配列内のシスティン残基は、完全に保存されていた。
【0266】
NRPsとニワトリ蛋白の最も目立つ差異は、ヒト相同物がnelの推定膜ドメインを欠いていることであったが、この欠けている領域においてもNRPsとnelの核酸配列は、大変類似していた。更に2つのNRPは、6つのEGF様反復配列を保有していたが、一方、nelは5つのみであった。
【0267】
マツハシらによって報告されたnelの他のユニークなモチーフ(Matsuhashi, S., et al., Dev. Dynamics., 203, 212−222(1995))は、同じ位置でNRPsにおいても見つけられた。上記したように2つのNRPの推定されたペプチドは、膜貫通タンパクではないことを示しており、NRPsは分泌された蛋白或は翻訳後修飾によって膜に対して固定された蛋白であるかもしれない。
【0268】
本発明者らはNRPsがEGFレセプターのような他の分子を刺激することによってリガンドとして機能するかもしれないと考えている。また本発明者らは、nelの膜ドメイン領域をフレーム−シフトすることによってnelに余分のEGF様反復配列がコードされることを見つけ出した。
【0269】
NRP2とnelを整列比較した時、このフレーム−シフトされた3アミノ酸配列は、NRP2とnel間の全領域で類似性を示した。このことは、NRP2がnelのヒトの対応物であるかもしれないことを提言している。対照的に、NRP1はヒトのnel対応遺伝子ではなく類似性遺伝子であると考えられる。
(2)ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1−(2)に準じて、正常ヒト組織におけるNRPsmRNAの発現を、両クローンしたcDNAsの全体の配列をPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、[32P]−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識し、2つのプローブとしてMTNブロットに用いて実施した。
【0270】
16の成人組織と4つのヒト胎児組織において2つのNRPsの発現パターンを評価した。
【0271】
ノーザン分析の結果、NRP1の3.5kbの転写体が、胎児と成人の脳と腎臓において弱く発現されていることが分かった。NRP2の3.6kbの転写体が、成人と胎児の脳においてのみ強く発現されたが、胎児の腎臓においてもわずかであるが発現されていた。
【0272】
このことからNRPsが成長調節のためのシグナル分子のような脳特異的役割を演ずることが提言される。加えて、これらの遺伝子は、腎臓において特別な機能を持っているかもしれない。
(3)FISHによるNRP1遺伝子及びNRP2遺伝子の染色体のマッピング
実施例1−(3)に準じてFISHによるNRP1遺伝子及びNRP2遺伝子の染色体のマッピングを行なった。
【0273】
その結果、NRP1遺伝子は、染色体の座位が11p15.1−p15.2に、NRP2遺伝子は、染色体の座位が12q13.11−q13.12の位置にそれぞれあることが判明した。
【0274】
本発明によれば、新規なヒトNRP1遺伝子及びNRP2遺伝子が提供され、該遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトNRP1及びNRP2蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、脳の神経伝達経路関する研究に利用でき、更に脳の神経伝達経路に関連する各種疾患の診断等を行なうことができ、これらのの治療及び予防薬のスクリーニングや評価等をも行なうことができる。また、EGFドメインを持つこれらNRPsは脳内に成長因子的に働いている可能性が示唆され、各種脳内腫瘍の診断や治療、更に退行性神経疾患における神経の再生に奏効すると考えられる。
【0275】
【実施例11】
GSPT1関連蛋白(GSPT1−TK)遺伝子
(1)GSPT1−TK遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
ヒトGSPT1遺伝子は、細胞サイクルのG1期からS期転位に重要なGTP結合蛋白をコードする酵母のGST1遺伝子のヒト相同遺伝子のひとつである。サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)の温度感受性gst1(G1−to−S転位)変異体を補って完全にすることができる蛋白として、最初に特定された酵母のGST1遺伝子は、酵母の染色体ライブラリーから単離された(Kikuchi,Y., Shimatake, H. and Kikuchi, A., EMBO J. 7, 1175−1182 (1988))、該遺伝子は、cAMP依存性蛋白キナーゼの標的部位とGTPaseドメインを持つ蛋白をコードしていた。
【0276】
ヒトGSPT1遺伝子は、酵母GST1遺伝子をプローブとして用いるハイブリダイゼーションによってKB細胞のcDNAライブラリーから単離された(Hoshino, S., Miyazawa, H., Enomoto, T., Hanaoka, F., Kikucho, Y., Kikuchi, a. and Ui, m., EMBO J. 8, 3807−3814 (1989))。該GSPT1遺伝子の推定蛋白もまた酵母GST1のそれと同様に、GTP結合領域とGTPase活性センター部位を有しており、細胞の増殖に重要な役割を演じている。
【0277】
更に、染色体の再配列に対する中断点は急性非リンパ性白血病(ANLL)を持つ患者のGSPT1遺伝子が染色体座位16p13.3に観察されている(Ozawa, K., Murakami, Y., Eki, T., Yokoyama, K., Soeda, E., Hoshino, S., Ui, M. and Hanaoka, F., Somatic Cell and Molecular Genet., Vol.18, 189−194 (1992))。
【0278】
実施例1−(1)と同様の方法でヒト胎児脳cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローンの配列解析とデータ・ベースの検索の結果、上記GSPT1に相同性の高い0.3kbのcDNA配列を有するクローンを見出し、GEN−077A09と名付けた。GEN−077A09クローンは、5’領域を欠いていると思われたので、全体のコード領域を得るために実施例2−(2)と同様の方法で5’RACE法を行なった。
【0279】
5’RACER法のために、上記cDNAクローンの分かっているcDNA配列から得た配列番号:59及び60に示す各塩基配列のP1プライマー及びP2プライマーを用い、また、アンカープライマーとしては市販のキットに付属のものをプライマーとして用いた。PCR反応は、94℃で45秒、58℃で45秒、72℃で2分を35サイクル行ない、、最後に72℃で7分間延長反応させた。
【0280】
PCR反応から得られた5’RACE・クローンのいくつかを配列決定し、この5’RACE・クローンとGEN−077A09クローンの2つの重複しているcDNAクローンの塩基配列を決定することによって、全体のコード領域をカバーしていると考えられる配列を明らかにし、これをGSPT1関連蛋白「GSPT1−TK遺伝子」と命名した。
【0281】
GSPT1−TK遺伝子は、配列番号:41で示される1497塩基のオープン・リーディング・フレームを含んでいて、これによってコードされる推定アミノ酸は、配列番号:40で示されるとおり499アミノ酸残基を有していた。
【0282】
GSPT1−TK遺伝子の全cDNAクローンの核酸配列は、配列番号:42で示されるとおり2057塩基からなり、計算された分子量は55,740ダルトンであった。
【0283】
オープン・リーディング・フレームの最初のメチオニン(ATG)は、イン−フレームに停止コドンが存在していなかったが、このATGは転写の開始に対するコザックの一致配列に類似する配列によって囲まれていたので、この配列番号144−146番目に位置するATGトリプレットを開始コドンと結論づけた。
【0284】
また、1つのポリアデニールシグナルAATAAAがポリアデニレーション部位から13塩基上流に認められた。
【0285】
ヒトGSPT1−TKは、N末端近くにグルタミン酸リッチ領域を含んでおり、GSPT1−TKのこの領域に存在する20のグルタミン酸のうち18が、保存されていて、ヒトGSPT1蛋白のそれと完全に整列している。GSPT1−TK蛋白は、ヒトGSPT1蛋白のそれらの領域と同様にグアニン核酸結合と水解を担うGTP結合蛋白のいくつかの領域(G1、G2、G3、G4及びG5)が保存されていた。
【0286】
よって、ヒトGSPT1−TKは、細胞サイクルのG1期からS期転位に重要な役割を演じると考えられるヒトGSPT1とDNA配列において89.4%、推定されたアミノ酸配列において92.4%の同一性を明らかにした。また、酵母のGST1とはアミノ酸配列において50.8%の同一性を示した。
(2)ノーザンブロット分析
ノーザンブロット分析は、実施例1−(2)に準じて、正常ヒト組織におけるGSPT1−TKmRNAの発現を、GEN−077A09cDNAクローンをPCRにより増幅し、該PCR産物を精製し、[32P]−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識し、プローブとしてMTNブロットに用いて実施した。
【0287】
ノーザン分析の結果、様々の組織において2.7kbの主要な転写体が検出された。ヒトGSPT1−TK発現レベルは、脳と睾丸において最も発現が高いように思われた。
(3)FISHによるGSPT1−TK遺伝子の染色体のマッピング
実施例1−(3)に準じてFISHによるGSPT1−TK遺伝子の染色体のマッピングを行なった。
【0288】
その結果、GSPT1−TK遺伝子は、染色体の座位が19p13.3の位置にあることが判明した。この染色体局在部位には急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia: ALL)と急性ミエロイド白血病(acute myeloid leukemia: AML)からの相互の座位が高くしばしば観察されている。加えて、急性非リンパ性白血病(acute nonlymphocytic leukemia: ANLL)がヒトGSPT1の領域を含んでいる再配列と関連されることが報告されている(Ozawa, K., Murakami, Y., Eki, T., Yokoyama, K., Soeda, E., Hoshino, S., Ui, M. and Hanaoka, F., Somatic Cell and Molecular Genet., Vol.18, 189−194 (1992))。
【0289】
これらのことからALLとAMLがこの遺伝子と関連している最も候補遺伝子であることが考えられる。
【0290】
本発明によれば、新規なヒトGSPT1−TK遺伝子が提供され、該遺伝子を用いれば、該遺伝子の各種組織での発現の検出や、ヒトGSPT1−TK蛋白の遺伝子工学的製造が可能となり、これらは、前述したように細胞増殖に関する研究に用いることが出来、この遺伝子の染色体の座位に関連する各種疾患、例えば急性骨髄性白血病等の診断等を行なうことも可能となる。即ち、これは、この遺伝子の転座により、GSPT1−TK遺伝子が破壊され、更にこの転座により発現される融合タンパクが之等の疾患の原因となっていると考えられるためである。
【0291】
更に、上記融合タンパクに対する抗体を作成し、細胞内局在を明らかにして、之等疾患に特異的な発現を調べることにより、その診断や治療も可能となると予想される。従って本発明遺伝子の利用によれば、これらの治療及び予防薬のスクリーニングや評価等をも行なうことができると考えられる。
【0292】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例9の(6)に従う蛋白発現試験における放射活性の定量結果を解析した図面である。
【図2】実施例9の(6)に従う蛋白発現試験において、トリトン−X100、アデノシンの添加が、発現蛋白の活性に及ぼす影響を調べたグラフである。
Claims (7)
- 以下の(a)または(b)からなるポリペプチド:
(a)配列番号:28または31のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号:28または31のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって且つPI4キナーゼ活性を有するポリペプチド。 - 以下の(c)または(d)であるDNA配列:
(c)配列番号:29または32のいずれかで示されるDNA配列、またはそれらの相補鎖、
(d)上記(c)のDNA配列と、0.1×SSC/0.05%SDS、50℃の洗浄条件でハイブリダイズし且つPI4キナーゼ活性を有するポリペプチドを発現可能なDNA配列。 - 請求項2に記載のDNA配列を含有する発現ベクター。
- 請求項3に記載の発現ベクターを含有する形質転換体。
- 請求項4に記載の形質転換体を培養し、PI4キナーゼ活性を有するポリペプチドを採取することを特徴とするヒトPI4キナーゼ活性を有するポリペプチドの製造方法。
- 請求項5に記載の製造方法によって得られる組換え体ポリペプチド。
- 請求項1に記載のポリペプチドまたは請求項6に記載の組換え体ポリペプチドに結合する抗体。
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