JP3619899B2 - ピロガロールから誘導される長鎖アルコキシ基を有するフェノール系酸化防止剤組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は乳化物の油層に対する様々な親和能力を有する新規なイオン性酸化防止剤を含む乳化物に関するものであり、乳化物の強力な酸化防止剤として作用するものに関するものである。さらに詳しくは長鎖アルコキシ基と親水基からなる構造を有し、フェノール性水酸基を持つ物質を酸化防止剤として使用した乳化物に関するものである。このものは乳化、分散、洗浄、起泡の目的時に酸化防止の目的で工業用、食品用、化粧品用、医薬品用などに利用できる。
【0002】
【従来の技術】
近年フェノール誘導体の酸化防止作用が明らかになりつつあり、たとえばピロガロールにはきわめて優れた酸化防止効果があることから各種油脂等へ応用されている。また油脂をエマルジョン系にするためにはtween20のような各種界面活性剤でその溶液を乳化してそれを安定化している。またその保存用としてα−トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)やブチルヒドロキシトルエン(BHT)のような酸化防止剤を別途添加する必要があり、その酸化防止能の調節には酸化防止剤の種類をかえて選定することや、その添加量の増減によって制御していた。(例としてJ.Am.Oil Chem.Soc.,74,1059(1997), J.Agric.Food Chem.,44,2619(1996), J.Agric.Food Chem.,45,3738(1997)等)しかしこの方法では酸化防止能の微妙な調節は不可能であり、このようなことから乳化物のための微妙な酸化防止能を調節できる機能を持つ物質の開発が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとしている課題】
本発明は一分子内に長鎖アルコキシ基を有し、かつフェノール性水酸基を持つことにより酸化防止剤として機能する物を用いて乳化物を得ることを目的とするものである。またこの物質の乳化物の油相に対する親和性を長鎖アルコキシ基の鎖長により制御することによって乳化物の酸化防止能を自由に制御できることを目的とする。これにより酸化防止剤の量やその種類を変える必要が無く、酸化防止剤を含む組成を変えることなくその酸化防止能を適切に制御できうる。これにより乳化、分散、洗浄、起泡の目的時に酸化防止の目的に使用しうる物質を提供することを目的とする。すなわち一般式(1)中R以外の芳香環構造を変えることなく、Rの鎖長を変えることによって酸化防止剤濃度に選らず自由にその酸化防止能を制御することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本研究者は、エーテル結合として長鎖炭化水素基を含むピロガロール誘導体がその鎖長により様々な乳化物の油相親和性を有すること、かつ酸化防止能を有し、その物質を使用した乳化物がBHAと同程度の強力な酸化防止能を有することや、その結果としてその鎖長の長さを制御することによってその疎水性の程度を制御でき、その鎖長の長さによって自由に酸化防止能が制御できることを見いだし、本発明にいたったものである。
【0005】
すなわち本発明は一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体および2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオン(式中RはC4からC100の直鎖アルキルを示す。)、及び上記本願物質を使用した乳化物に関するものである。また一般式(1)中R以外の芳香環構造を変えることなく、Rの鎖長を変えることによって酸化防止剤濃度によらず自由にその酸化防止能を制御することに関するものである。
すなわち、
1)一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体および2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオンを用いた乳化物(式中Rは直鎖アルキルあるいは分枝アルキル、置換基を有してもよいアルキル鎖を示す。アルキルの炭素数は4−100である。)に関するものである。
2)一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体および2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオン(式中Rは直鎖アルキルあるいは分枝アルキル、置換基を有してもよいアルキル鎖を示す。アルキルの炭素数は4−100である。)を用いて乳化物中で一般式(1)中R以外の芳香環構造を変えることなくRの鎖長を変えることによって自由にその酸化防止能を制御することに関するものである。
3)好ましくは一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノールおよび2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオン(式中Rは直鎖アルキルあるいは分枝アルキル、置換基を有してもよいアルキル鎖を示す。アルキルの炭素数は4−12である。)を用いた乳化物。
4)好ましくは一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノールおよび2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオン(式中Rは直鎖アルキルあるいは分枝アルキル、置換基を有してもよいアルキル鎖を示す。アルキルの炭素数は4−12である。)を用いて乳化物中で一般式(1)中R以外の芳香環構造を変えることなくRの鎖長を変えることによって自由にその酸化防止能を制御すること。
5)一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノールおよび2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオンの単一物または2種以上の混合物(式中Rは直鎖アルキルあるいは分枝アルキル、置換基を有してもよいアルキル鎖を示す。アルキルの炭素数は4−100である。)に関するものである。
6)好ましくは一般式(1)で示される4−アルコキシ−3、5−ジヒドロキシベンゾイックアシド、および3、4−ジアルコキシ−5−ヒドロキシベンゾイックアシド誘導体の単一物または2種以上の混合物(式中R1はC4からC12の直鎖アルキルを示す。)に関するものである。
7)一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体および2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオンを含む溶液(水、有機溶剤等)(式中Rは直鎖アルキルあるいは分枝アルキル、置換基を有してもよいアルキル鎖を示す。アルキルの炭素数は4−100である。)に関するものである。
8)好ましくは一般式(1)で示される2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノールおよび2−アルコキシ−3−ヒドロキシフェノール誘導体の単一物、2種以上の混合物またはそのイオン(式中Rは直鎖アルキルあるいは分枝アルキル、置換基を有してもよいアルキル鎖を示す。アルキルの炭素数は4−12である。)を含む溶液(水、有機溶剤等)。
9)一般に食品などの有機物や乳化物などの製品の保存においては酸化防止剤の量と種類の選定によって、その酸化防止に有効な酸化が進行するまでの誘導期間が決定され、この期間の長短でもって製品の有効保存期間を決めている。この本願物質を使用した乳化物中では一般式(1)中R以外の芳香環構造を変えることなくRの鎖長を変えることによって自由にその酸化防止能を制御することが可能になる。たとえば酸化防止剤として一般式(1)R=12物質を使用した乳化剤の約1/2の効率の乳化剤を得るためには一般式(1)R=8物質を使用すればよいことになる。すなわちその酸化防止能が酸化防止剤の量と種類の選定によらず正確に決定できる。
10)このことは本願物質を使用した乳化物を塗料などの製品として使用するとき硬化までの時間を正確に制御できることを示す。すなわち硬化時間が正確に設定できる機能性塗料の調製が可能であることからこの本願物質を使用する方法は産業界への応用の効果が大きい。このような方法は現在までには報告されていない新規な方法である。
【化1】
【0006】
本発明における式(1)で示されるこのフェノール誘導体の合成の方法には、何ら制約はないが、たとえば次のような方法がある。すなわち、
【0007】
エーテル化工程
この行程は没食子酸のヒドロキシ基をエーテル化する反応である。ここでは一般に使用されるエーテル化条件が適用できる。たとえば直鎖アルキルブロミドが使用できる。使用される反応溶媒としては特に限定はないがDMF(ジメチルホルムアミド)のような非プロトン性溶媒などが使用できる。また炭酸カリウムのような塩基を加える。反応温度は通常は室温から摂氏120度程度で反応時間は数時間を要する。このようにして得られた目的化合物は種々の方法を適宜組み合わせることによって採取、分離、精製することができる。たとえば反応液を水に注いだあと、塩酸酸性にしエーテルで抽出後、濃縮し蒸留あるいはクロマトグラフィーにより分離できる。
【0008】
本発明で用いるフェノール化合物は一般の酸化防止剤等に用いられるが、特にエマルジョンの酸化防止剤として優れた効果を有する。また芳香環及び長鎖炭化水素基を有することから油脂や樹脂に対して優れた相溶性を有する。すなわち水溶液や溶剤単独中でも優れた効果があり、使用することができる。
【0009】
このものは乳化、分散、洗浄、起泡の目的時に酸化防止の目的で工業用、食品用、化粧品用、医薬品用などに酸化防止剤として利用できる。このような適用の具体的な乳化物の例として乳液、乳化重合されたポリマー、潤滑油、グリース、切削油などがあげられる。また溶液の形としては潤滑油、切削油があげられ、水溶液としても利用できる。
【0010】
また本願式(1)物質のヒドロキシル基を他の置換基たとえばエステル化することによりさらに油溶性を増加させることも可能である。またOR基をアルキル基や他の置換基を有する炭化水素鎖に変えることもできる。
【0011】
【実施例】
以下、本願式(1)R=C8の物質の実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0012】
【実施例1】
エーテル化工程 ピロガロールから2−オクチロキシ−3−ヒドロキシフェノールの合成
還流冷却器をつけた50mlの三口フラスコにピロガロール2.04g(16.1mmol)をN、N−ジメチルホルムアミド25mlに溶かし無水炭酸カリウム7.28gを加えた。激しく撹拌しながら100℃に加熱したあとn−オクチルブロミド3.17g(16.4 mmol)を15分間で滴下した。
【0013】
さらに100℃で5時間保った後、固体を濾過し液相に水を加えた後エーテル抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮し、ついでシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で分取して下記式
【0014】
【化2】
【0015】
で示されるエーテル1.19g(5.00mmol 収率30.9%)を得た。
【0016】
(化2)で示されるエーテルのスペクトルデータ
無色液体 IR(neat、cm−1):3418、3059、3040、2955、2928、2856、1606、1512、1491、1477、1377、1323、1277、1178、1153、1062、1018、966、898、833、779、733、690、572、497。 1H NMR(400MHz、CDCl3)
δ0.89(t、3H、CH3)、1.28(m、8H、−CH2−)、1.45(m、2H、OCH2CH2CH2−)、1.79(m、2H、OCH2CH2−)、3.98(t、2H、OCH2−)、5.39(br、2H、OH)、6.50(m、2H、Ar)、6.85(m、1H、Ar) ; 13CNMR(100MHz、CDCl3) ppm 14.1、22.6、26.0、29.2、29.4、30.2、31.7、74.3、108.0、124.6、133.8、149.2。
【0017】
本発明における式(1)で示されるこのピロガロール誘導体を用いた乳化物の製法には、何ら制約はないが、たとえば次のような方法がある。すなわち、
【0018】
【実施例2】
本願物質を用いた乳化物及びその製法
式(1)で示されるフェノール誘導体のエタノール溶液2.0mlに油分として2.5%リノール酸含有エタノール溶液2.0mlと0.05Mリン酸緩衝液4.0ml(pH7.0)と水2mlを20mlのネジ口試験管に入れホモジナイザーで5分間分散させた。乳化物の安定性の結果を(表1)に示す。乳化物は6日後でも分離せず良好な安定性を有した。
【0019】
乳化物の安定性試験結果
【表1】
【0020】
これより本願物質を用いた乳化物は良好な分散をしていることは明らかである。またリノール酸のみならず他の油脂たとえば綿実油、機械油などにも同様な分散効果を得た。
【0021】
乳化物の製法としてはホモジナイザー撹拌、プロペラ撹拌などの機械撹拌の他、超音波など、他の撹拌手段を用いてもよい。乳化物組成としては溶剤/水系、水/溶剤系のどちらでもよく、混合する順序を問わない。油分としてはリノール酸を始め綿実油、鉱油など種類を問わない。またこの溶液に他の成分を添加し新たな機能を発現させることも可能である。
【0022】
【試験例1】
疎水性
本研究者は、本願式(1)物質であるエーテル結合として長鎖炭化水素基を含むピロガロール誘導体が、その鎖長により様々な乳化物の油相親和性を有することや、その結果としてその鎖長の長さを制御することによってその疎水性の程度を制御でき、自由に酸化防止能が制御できることを見いだした。この試験法としてこれら本願式(1)物質の規定濃度での水溶液を25℃においてウイルヘルミー法で表面張力を測定し、その値でもってその物質の疎水性の程度として評価した。次に各々の物質の疎水性(表面張力値)を(表2)に示す。
【0023】
疎水性
【表2】
【0024】
(表2)より本願式(1)物質がその鎖長によって様々な表面張力を有すること、すなわち様々な疎水性を有することは明らかである。このことは乳化物に対する様々な親和性を有することを示している。
【0025】
【試験例2】
酸化防止能試験法(抗酸化試験法)
抗酸化試験法はリノール酸ミセル中で生成する過酸化物を抑制する程度を評価する方法を用いた。即ち、被検物のエタノール溶液2.0mlに2.5%リノール酸含有エタノール溶液2.0mlと0.05Mリン酸緩衝液4.0ml(pH7.0)と水2mlを20mlのネジ口試験管に入れ40℃の恒温糟中に遮光保存した。この際ブランクとして試料溶媒を試料の代わりに添加したものを同条件下で保存した。なお被検物の最終濃度は0.005%にした。また比較物質としてα−トコフェロール、BHA、BHTについても検討した。保存期間中、反応液を経時的にサンプリングし、生成した過酸化物をイソチオシアネート法(ロダン鉄法)で定量した。
【0026】
測定結果
本願式(1)物質について抗酸化性の有無を調べた。1週間後における生成過酸化脂質量(500nmでの吸光度)の結果を(図1)に示した。縦軸は物質の種類、横軸は生成する過酸化物価(ペルオキシドバリュー)を示す。
【0027】
酸化防止能測定結果
(図1)
【0028】
これより本願式(1)物質はリノール酸に対する抗酸化作用が認められたが、特に側鎖の長いものはBHAに匹敵する強力な酸化防止剤であることがわかる。
【0029】
また図1と実施例2より本願式(1)物質を含む乳化物は安定であり、かつリノール酸に対する抗酸化作用が認められることは明らかである。
【0030】
また本願式(1)物質を含む有機溶媒、水溶液も同様な抗酸化作用を示し、その効果を利用できることが容易に考えられる。
【0031】
また(図1)から本願式(1)物質のR以外の芳香環構造を変えることなくRの鎖長のみを変えることにより、酸化防止剤の濃度を変えることなしにその酸化防止能を自由に制御することができることは明らかである。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、優れた酸化防止能を持つ物質を提供すること、すなわち安定な乳化、起泡、洗浄、分散時にBHAに匹敵するような強力な酸化防止作用が期待出きる。またそれを使用した乳化物はリノール酸のみならず他の油脂を含む系においても良好な乳化、分散とBHAに匹敵するような強力な酸化防止作用が期待出きる。また本願物質の鎖長を変えることによって自由に酸化防止能を制御することができることは明らかである。このことは従来の酸化防止剤では不可能であった新しい製品の製造も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明物質について抗酸化性の評価の図である。
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