JP3617129B2 - 半導体発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は半導体発光素子に関するもので、より詳細には活性層内に量子障壁層を設けた半導体発光素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体発光素子の高温域での光出力の低下を抑えるためには、例えば特開平4−18476号公報や、特公平6−66519号公報に開示されているように、活性層の上または下のクラッド層内に多重量子障壁を形成して、高エネルギー電子のクラッド層へのオーバーフローを抑制する構造が考えられている。
【0003】
図8は、このような従来の半導体発光素子のエネルギ―バンド図である。この場合、活性層の上側のp型クラッド層内に量子障壁層が形成されている。また、図9はp型クラッド層内に量子障壁を形成した場合の電子のエネルギーと反射率の関係を示した図、図10はp型クラッド層内に量子障壁を形成した場合のホールのエネルギーと反射率の関係を示した図である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来の構造では、図9に示されるように、活性層からp型クラッド層への電子に対しては多重量子障壁層によって電子のオーバーフローが抑制される。しかしながら、図10に示されるように、pクラッド層から活性層に注入されるホールに対しても、上記多重量子障壁層が障壁となって、ホールの注入効率を低下させているものであった。
【0005】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温動作に於いて電子が活性層からpクラッド層にオーバーフローすることを抑制する一方、pクラッド層から活性層へのホール注入効率を阻害することなく、高温での光出力低下を抑止した半導体発光素子を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわちこの発明は、活性層の一方の面及び他方の面が、異なる導電型の混晶層より成るクラッド層で挟持されて成るもので、上記活性層の活性領域内で起こる誘導放出を利用せしめ、該誘導放出により発生した光を上記活性領域内に帰還させる半導体発光素子に於いて、上記活性層は、GaAs層とAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層から成る量子井戸層で、内部に該活性層内に注入される高エネルギー電子を反射するAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層とAl x Ga 1-x As( x = 0.5 )層が、前記活性層の量子井戸層Al x Ga 1-x As層に近接して、それぞれ1層毎に交互に積層して、それぞれの総数がn層、n + 1層で構成される量子障壁層を備えることを特徴とする。
【0007】
またこの発明は、活性層の一方の面及び他方の面が、異なる導電型の混晶層より成るクラッド層で挟持されて成り、上記活性領域内で起こる誘導放出を利用せしめ、該誘導放出により発生した光が上記活性領域内に帰還しないように、上記活性領域の発光側端面の少なくとも一方に反射防止膜、及び上記活性層領域で発生した光を吸収せしめる光吸収領域の少なくとも何れか一方を備えた半導体発光素子に於いて、上記活性層は、GaAs層とAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層から成る量子井戸層で、内部に該活性層内に注入される高エネルギー電子を反射するAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層とAl x Ga 1-x As( x = 0.5 )層が、前記活性層の量子井戸層Al x Ga 1-x As層に近接して、それぞれ1層毎に交互に積層して、それぞれの総数がn層、n + 1層で構成される量子障壁層を備えることを特徴とする。
【0009】
高温動作時に於いて、n型クラッド層側から活性層内に注入された高エネルギー電子は、活性層中に設けられた量子障壁層によって反射される。また、p型クラッド層側から活性層に注入されるホールに対しては、障壁層が活性層とp型クラッド層の間に存在しないために、活性層内への注入効率は低下しない。更に、上記活性層内に設けられた量子障壁層は、極めて薄い層から構成されているために、活性層のn型クラッド層側に注入された電子は、同じn型クラッド層内のホールと発光再結合すると同時に、活性層内に形成された障壁層をトンネリングしてp型クラッド層側の活性層にも存在することになる。
【0010】
ここで、高温動作時に於ける高エネルギー電子に対しては、量子障壁層を構成する井戸層と障壁層のそれぞれの層厚、及び禁止帯幅を適切に設定することにより、注入される電子のエネルギーに応じた障壁層を形成することができる。また、低エネルギーの電子は、量子障壁層をトンネリングする。これは、図2に示されるように、電子のエネルギーと反射率の結果により、0.3eV以下の電子に対して反射率が低く量子障壁層をトンネリングすることからわかる。この電子は、p型クラッド層側に存在するホールと発光再結合して、発光に寄与する。
【0011】
このように、低エネルギー電子が量子障壁層をトンネリングするため、活性層内で空間的に偏った分布をしない。したがって、ホールとの空間的な分離がなく、発光再結合効率を低下することはない。
【0012】
そして、p型クラッド層と活性層の間のヘテロ障壁によって、p型クラッド層へのオーバーフローは阻止されることとなる。同様に、n型クラッド層から注入されるホールは、量子障壁をトンネリングして活性層内に於けるホールの分布はほぼ均一になる。このように、電子及びホールの空間分布が活性層内で均一になることによって、電子及びホールの発光再結合効率を低下させることはない。
【0013】
また、本構造によれば、量子障壁をp型クラッド層に形成した従来の構造で問題となった、クラッド層内の量子障壁層に電子がトンネリングしないように、活性層と量子障壁の間に形成した電子のトンネリング阻止層によって、p型クラッド層から注入されるホールが活性層内に注入されるのが阻害され、ホールが量子障壁層内に蓄積するという現象を避けることが可能となる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1はこの発明の第1の実施の形態を示すもので、図1(a)は半導体発光素子として、屈折率導波型リッジ構造のスーパールミネッセントダイオードの斜視図、図1(b)は図1(a)の活性層の積層構造を示す断面図である。
【0015】
このスーパールミネッセントダイオードの素子構造は、図1(a)及び(b)に示されるように構成される。すなわち、n型GaAs基板1上にn型GaAsバッファ層(0.5μm)2を成長させる。このn型GaAsバッファ層2上には、n型Al0.5 Ga0.5 As層(1μm)3をクラッド層として成長させ、更にこのn型クラッド層3上に活性層(Al0.2 Ga0.8 As層)4が成長される。そして、この活性層4上には、p型クラッド層5のAl0.5 Ga0.5 As層(1μm)、p型キャップ層6のGaAs層(1μm)及びSiO2 層7が、連続的に分子線エピタキシャル(MBE)法または有機金属を用いた気層成長(MOCVD)法にて成長される。
【0016】
上記活性層4は、次のように積層されている。すなわち、図1(b)に示されるように、n型クラッド3上に、Al0.2 Ga0.8 As障壁層(400オングストローム)4a11、アンドープのGaAs井戸層(100オングストローム)4b11、Al0.2 Ga0.8 As障壁層(60オングストローム)4a21、アンドープのGaAs井戸層(100オングストローム)4b12、Al0.2 Ga0.8 As障壁層(60オングストローム)4a22、アンドープのGaAs井戸層(100オングストローム)4b13、Al0.5 Ga0.5 As障壁層(30オングストローム)4a31、アンドープのGaAs井戸層(30オングストローム)4b21、Al0.5 Ga0.5 As障壁層(30オングストローム)4a32、アンドープのGaAs井戸層(30オングストローム)4b22、Al0.5 Ga0.5 As障壁層(30オングストローム)4a33、アンドープのGaAs井戸層(30オングストローム)4b23、Al0.5 Ga0.5 As障壁層(30オングストローム)4a34、アンドープのGaAs井戸層(30オングストローム)4b24、Al0.5 Ga0.5 As障壁層(30オングストローム)4a35、アンドープのGaAs井戸層(100オングストローム)4b31、Al0.2 Ga0.8 As障壁層(60オングストローム)4a23、アンドープのGaAs井戸層(100オングストローム)4b32、Al0.2 Ga0.8 As障壁層(60オングストローム)4a24、アンドープのGaAs井戸層(100オングストローム)4b33、Al0.2 Ga0.8 As障壁層(400オングストローム)4a12が、上述したように連続的にMBEまたはMOCVDにて成長される。これにより、極めて薄い活性層4を構成することができる。
【0017】
尚、上記に於いて、()内に示される数値は、各層の厚さを表している。
以上のエピタキシャル成長後、フォトプロセスによってスーパールミネッセントダイオードのリッジ領域10となる部分がパターニングされる。そして、パターニング後のエッチングによって、活性領域11側にリッジ領域10が形成される。
【0018】
その後、吸収領域12を有したスーパールミネッセントダイオードとするために、吸収領域12となる部分を残して、表面にp型電極8が形成される。
一方、n型GaAs基板1側にn型電極9が形成される。その後、基板の薄片化が行われる。これにより、n型GaAs基板1側にAuーSn合金層がn側電極9として形成され、pキャップ層6側にAuーZn合金層がp側電極8として形成される。更に、活性領域11及び吸収領域12の端面に、反射防止膜13が形成される。
【0019】
図3は、このように構成された発光素子の活性層のエネルギーバンド構造を示したものである。
すなわち、上記構成の発光素子では、活性層4の層の厚さ方向(同図に於いて左右方向)のほぼ中央部に、量子障壁層4aが設けられている。そして、活性層4のほぼ中央で、量子障壁層4aによって分割された部分に、量子井戸層4bが上記量子障壁層4aに接して形成される。
【0020】
このように、第1の実施の形態によれば、環境温度が高い条件での動作時に於いて、p型クラッド層5から活性層4内へのホールの注入を阻害することなく、活性層4内の電子がp型クラッド層5にオーバーフローすることを抑制することが可能になる。また、素子の駆動電流を増加した状態、すなわち、キャリア注入のレベルが高い状態に於いても、p型クラッド層5への電子のオーバーフローを抑制することが可能となる。
【0021】
尚、活性層のAlx Ga1−x Asの組成は、図1(b)に示される値に限られるものではない。
更に、量子障壁層及び量子井戸層の数及び厚さは、図1(b)に示されるものに限られない。
【0022】
次に、この発明の第2の実施の形態を説明する。
この第2の実施の形態に於ける基本的な構成は、上述した第1の実施の形態と同じであり、活性層の組成等を変化させることによりエネルギーバンド構造が異なっている。
【0023】
図4は、第2の実施の形態による発光素子の活性層のエネルギーバンド構造を示したものである。
第2の実施の形態による発光素子では、活性層4の層の厚さ方向(図4に於いて左右方向)のほぼ中央部に、量子障壁層4aが設けられている。そして、活性層4のほぼ中央で、量子障壁層4aによって分割された部分に、量子井戸層4bが上記量子障壁層4aと離れて形成される。
【0024】
このように半導体発光素子を構成しても、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
次に、この発明の第3の実施の形態について説明する。
【0025】
上述した第2の実施の形態では、エネルギーバンド構造に於いて、活性層4のほぼ中央部に量子障壁層4aが、更に量子障壁層4aと離れて量子井戸層4bが形成された構成となっていたが、第3の実施の形態では、図5に示されるようにエネルギ―バンドを構成している。
【0026】
すなわち、第3の実施の形態による発光素子では、活性層4の層の厚さ方向(図5に於いて左右方向)のほぼ中央部に、量子障壁層4aが設けられている。そして、量子井戸層4bがp型クラッド層5及びn型クラッド層3と、それぞれ接して形成される。
【0027】
また、この発明の第4の実施の形態として、図6に示されるように、発光素子の活性層のエネルギーバンド構造を得るようにしても良い。
図6に於いては、活性層4の略中央部に量子障壁層4aが形成されている。そして、この量子障壁層4aとp型クラッド層5の間、量子障壁層4aとn型クラッド層3の間に、量子井戸層は形成されない構造となっている。
【0028】
このように量子井戸層が形成されないエネルギーバンド構造としても、上述した第1乃至第3の実施の形態と同様に、環境温度が高い条件での動作時に於いて、p型クラッド層5から活性層4内へのホールの注入を阻害せず、活性層4内の電子がp型クラッド層5にオーバーフローすることを抑制することが可能になり、また、キャリア注入のレベルが高い状態に於いてもp型クラッド層5への電子のオーバーフローを抑制することが可能となる。
【0029】
図7は、この発明の第5の実施の形態に従った半導体発光素子としての屈折率導波型リッジ構造のスーパールミネッセントダイオードの構成を示す斜視図である。
【0030】
図7に於いて、n型GaAs基板1上に、n型GaAsバッファ層2、n型Al0.5 Ga0.5 As層3をクラッド層として成長させ、更にこのn型クラッド層3上に活性層(Al0.2 Ga0.8 As層)4が成長される。そして、この活性層4上に、p型クラッド層5のAl0.5 Ga0.5 As層、p型キャップ層6のGaAs層及びSiO2 層7が、連続的にMBE法またはMOCVD法にて成長される。
【0031】
その後、フォトプロセスによってスーパールミネッセントダイオードのリッジ領域10′となる部分がパターニングされ、パターニング後のエッチングによって、活性領域11′にリッジ領域10′が形成される。次いで、表面にp型電極8′が形成される。
【0032】
一方、n型GaAs基板1側にn型電極9が形成される。その後、基板の薄片化が行われる。更に、活性領域11′の両側端面に、反射防止膜13が形成される。
このように、吸収領域を持たない発光素子にも本発明は適用可能であり、図1の構成の発光素子と同様の効果を得ることができる。
【0033】
【発明の効果】
以上のようにこの発明によれば、高温動作に於いて電子が活性層からpクラッド層にオーバーフローすることを抑制する一方、pクラッド層から活性層へのホール注入効率を阻害することなく、高温での光出力低下を抑止した半導体発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施の形態を示すもので、(a)は半導体発光素子としての屈折率導波型リッジ構造のスーパールミネッセントダイオードの斜視図、(b)は同図(a)の活性層の積層構造を示す断面図である。
【図2】この発明の半導体発光素子による電子のエネルギーと反射率の関係を示した特性図である。
【図3】この発明の第1の実施の形態による発光素子の活性層のエネルギーバンド構造を示した図である。
【図4】この発明の第2の実施の形態による発光素子の活性層のエネルギーバンド構造を示した図である。
【図5】この発明の第3の実施の形態による発光素子の活性層のエネルギーバンド構造を示した図である。
【図6】この発明の第4の実施の形態による発光素子の活性層のエネルギーバンド構造を示した図である。
【図7】この発明の第5の実施の形態に従った半導体発光素子としての屈折率導波型リッジ構造のスーパールミネッセントダイオードの構成を示す斜視図である。
【図8】従来の半導体発光素子のエネルギ―バンド図である。
【図9】p型クラッド層内に量子障壁を形成した、従来の半導体発光素子に於ける電子のエネルギーと反射率の関係を示した特性図である。
【図10】p型クラッド層内に量子障壁を形成した、従来の半導体発光素子に於けるホールのエネルギーと反射率の関係を示した特性図である。
【符号の説明】
1…n型GaAs基板、2…n型GaAsバッファ層、3…n型クラッド層(n型Al0.5 Ga0.5 As層)、4…活性層(Al0.2 Ga0.8 As層)、4a…量子障壁層、4b…量子井戸層、5…p型クラッド層(Al0.5 Ga0.5 As層)、6…p型キャップ層(GaAs層)、7…SiO2 膜、8…p型電極、9…n型電極、10…リッジ領域、11…活性領域、12…吸収領域、13…反射防止膜。
Claims (6)
- 活性層の一方の面及び他方の面が、異なる導電型の混晶層より成るクラッド層で挟持されて成るもので、上記活性層の活性領域内で起こる誘導放出を利用せしめ、該誘導放出により発生した光を上記活性領域内に帰還させる半導体発光素子に於いて、
上記活性層は、GaAs層とAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層から成る量子井戸層で、内部に該活性層内に注入される高エネルギー電子を反射するAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層とAl x Ga 1-x As( x = 0.5 )層が、前記活性層の量子井戸層Al x Ga 1-x As層に近接して、それぞれ1層毎に交互に積層して、それぞれの総数がn層、n + 1層で構成される量子障壁層を備えることを特徴とする半導体発光素子。 - 上記量子障壁層は、上記Al x Ga 1-x As( x=0.2 )層と上記Al x Ga 1-x As( x = 0.5 )層が、それぞれ1層毎に交互に積層して成り、それぞれの総数が4層、5層から成ることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 上記Al x Ga 1-x As( x = 0.2 )層は30nmの厚さを有し、上記Al x Ga 1-x As( x = 0.5 )層は30nmの厚さを有して構成されることを特徴とする請求項2に記載の半導体発光素子。
- 活性層の一方の面及び他方の面が、異なる導電型の混晶層より成るクラッド層で挟持されて成り、上記活性領域内で起こる誘導放出を利用せしめ、該誘導放出により発生した光が上記活性領域内に帰還しないように、上記活性領域の発光側端面の少なくとも一方に反射防止膜、及び上記活性層領域で発生した光を吸収せしめる光吸収領域の少なくとも何れか一方を備えた半導体発光素子に於いて、
上記活性層は、GaAs層とAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層から成る量子井戸層で、内部に該活性層内に注入される高エネルギー電子を反射するAl x Ga 1-x As( x = 0.2 )層とAl x Ga 1-x As( x = 0.5 )層が、前記活性層の量子井戸層Al x Ga 1-x As層に近接して、それぞれ1層毎に交互に積層して、それぞれの総数がn層、n + 1層で構成される量子障壁層を備えることを特徴とする半導体発光素子。 - 上記量子障壁層は、上記Al x Ga 1-x As( x=0.2 )層と上記Al x Ga 1-x As( x = 0.5 )層が、それぞれ1層毎に交互に積層して成り、それぞれの総数が4層、5層から成ることを特徴とする請求項4に記載の半導体発光素子。
- 上記Al x Ga 1-x As( x = 0.2 )層は30nmの厚さを有し、上記Al x Ga 1-x As( x = 0.5 )層は30nmの厚さを有して構成されることを特徴とする請求項4に記載の半導体発光素子。
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