JP3611241B2 - 節水便器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、従来と比較して洗浄水量を大幅に低減可能な洋式便器、和式便器、簡易便器などの大便器や小便器に関する。
【0002】
【従来の技術】
便器の表面を衛生的に清浄に保つことは、便器が一般的に生活用品として広く使用されていることから必要とされる特性である。そのため、従来の便器では、ボール面の洗浄及び排便の除去のために、大便器では8〜10リットル、小便器では6リットルの洗浄水を流していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、上記洗浄水量を低減してもボール面の洗浄及び排便の除去が可能な節水便器を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明では上記課題を解決すべく、70℃に保持した5%水酸化ナトリウム水溶液に10時間浸漬後、便器の少なくともボ−ル面の表面粗さRaが触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)により、0.07μm未満であることで、油性汚れに対するセルフクリーニング機能が維持された構成とした。
ボール面に油性汚れに対するセルフクリーニング機能を付与することで、排便の主成分は油性汚れのオレイン酸なので、ボール面に排便等の汚れが固着しにくくなり、より少量の洗浄水でボール面の洗浄及び排便等の汚れの除去が可能となる。
【0005】
ここで、表面粗さRaは、触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)による測定により求めることができる。従来の大便器、小便器、便器のサナ、便器タンクなどの衛生陶器や洗面台の洗面器、手洗い器の場合、表面粗さがRaで0.07μm以上であり、それ未満のものはなかった。そのために排便が凹凸に固着して、洗浄水を多量に必要とする原因となっていた。本発明では、便器ボール面に従来にない平滑性を持たせることにより、排便等の汚れが強固に付着しにくくなり、その結果、付着した排便を水との接触により浮き上がらせることができ、浮き上がった排便等の汚れが少量の洗浄水で除去されるようになる。同時にボール面の洗浄が少量の洗浄水で可能となる。以下に詳述する。従来の便器のボール面では、陶器製の物でもその表面を覆う釉薬層の表面粗さRaは0.1μm前後であり、表面には大きな凹凸が存在する。一方、本発明による釉薬層表面は非常に平滑であり、僅かな凹凸しか存在しない。ここで、両表面に同じ種類かつ同じ大きさの汚れ(排便)が付着したと仮定する。この時、汚れと釉薬層表面の間の付着強さを比較すると、接触面積が大きい従来の便器ボール面の方が強く、本発明による平滑な便器ボール面では接触面積が小さいため弱いと考えられる。次に、この汚れ(排便)の全体が水で覆われた場合、表面状態に関係なく同じ大きさの汚れは同じ大きさの浮力を生じる。上述のように、付着強さが大きい従来の便器ボール面では汚れが浮き上がりにくく、本発明の平滑な表面の便器ボール面では汚れ(排便)が浮き上がり易い。従って、本発明では少量の洗浄水でボール面から排便が離脱し、便器外に除去されやすくなるとともに、便器ボール面が清浄化される。
【0006】
本発明の好ましい態様においては、便器の少なくともボール面は、非晶質からなるようにする。非晶質(ガラス)成分は、化学的に安定であり、平滑な面を形成しやすい。従って、ボール面に排便等の汚れが強固に付着しにくくなり、付着した排便等の汚れが水との接触により浮き上がらせることができ、浮き上がった排便等の汚れが少量の洗浄水で除去されるようになる。同時にボール面の洗浄が少量の洗浄水で可能となる。
【0007】
本発明の好ましい態様においては、便器の少なくともボール面は、釉薬により被覆されており、前記釉薬中には、原子価が1価の金属成分及び/又はポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分が含有されているようにする。原子価が1価の金属成分及び/又はポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分を釉薬層中に含有することにより、便器ボール面が付着汚れに対するセルフクリーニング機能を長期にわたり発揮するようになる。また、一度表面から離脱した汚れが再吸着するのが防止されるようになり、便器ボール面の洗浄及び排便等の汚れの除去が少量の洗浄水で可能となる。このことにつき、以下に詳述する。便器ボール面に齎される付着汚れは、例えば、大便器においては大便(オレイン酸と細菌を多く含む)や細菌、真菌等の微生物、水垢、小便器においては水垢、尿石、細菌等であり、主要な付着汚れはカルボキシル末端基を含有する油性汚れ、及び水垢である。例えば、カルボキシル末端基を含有する油性汚れが便器ボール面に齎される場合に、上記洗剤成分が存在すると、原子価が1価の金属成分及び/又はポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分が置換反応により優先的に上記油性汚れに付加され、或いは吸着される。それにより、上記汚れの水との親和性が向上し、汚れが低分子の場合には汚れが水溶性化(ケン化)される。それにより、上記汚れの陶器表面への親和性よりも水との親和性が高くなり、上記汚れが少量の洗浄水による水洗により容易に除去されるようになる。また、便器ボール面を主成分が非晶質(ガラス質)の材料からなる釉薬により形成することにより、上記成分は連続的に外部に放出される傾向を有する。それゆえ、長期にわたり付着汚れに対するセルフクリーニング機能を発揮するようになる。また、一度表面から離脱した汚れが再吸着するのが防止されるようになるのは、原子価が1価の金属成分及び/又はポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分のビルダーの作用(阿部芳郎著、「洗剤通論」、近代編集社、1985、第1章、1〜102ページ)による。
【0008】
本発明の好ましい態様においては、便器の少なくともボール面には、抗菌性金属が含有されているようにする。抗菌性金属が含有されていることにより、抗菌性も同時に発揮するようになるので、ピンクスライム等の発生を抑制できる。
【0009】
本発明の好ましい態様においては、前記ボール面のゼータ電位は負であるようにする。ゼータ電位を負にすることにより、ボール面に除菌効果を持たせることができる。このことにつき、以下に詳述する。大腸菌等の菌類は、一般的に水中において負に帯電していることが知られている。従って、衛生陶器表面のゼータ電位を負にすることによって、水を接触させた状態では衛生陶器表面と菌類とが電気的に反発し、菌類の付着を防止することができる。
【0010】
本発明の好ましい態様においては、前記防汚性便器は陶器製であるようにする。便器を陶器製にすることにより、Si成分の多い実質的に非晶質からなる釉薬を便器に被覆することができる。
【0011】
本発明の好ましい態様においては、前記便器は陶器製便器であって、かつ前記ボール面は、釉薬により被覆されており、前記釉薬中には、ナトリウム成分が釉薬中の全金属成分に対して酸化物換算量で2.6重量%以上含有されているようにする。ナトリウム成分を2.6重量%以上と多量に含有させることにより、同成分のビルダー作用が増強され、便器ボール面が付着汚れに対するセルフクリーニング機能を長期にわたりよりよく発揮するようになる。また、一度表面から離脱した汚れが再吸着するのが防止されるようになる。従って、便器ボール面の洗浄及び排便の除去が少量の洗浄水で可能となる。
【0012】
本発明の好ましい態様においては、前記便器は陶器製便器であって、かつ前記ボール面は、釉薬により被覆されており、前記釉薬中には、カリウム成分が釉薬中の全金属成分に対して酸化物換算量で4.1重量%以上含有されているようにする。カリウム成分を4.1重量%以上と多量に含有させることにより、同成分のビルダー作用が増強され、便器ボール面が付着汚れに対するセルフクリーニング機能を長期にわたりよりよく発揮するようになる。また、一度表面から離脱した汚れが再吸着するのが防止されるようになる。従って、便器ボール面の洗浄及び排便の除去が少量の洗浄水で可能となる。
【0013】
本発明の好ましい態様においては、前記ボール面は、ふっ素化処理されているようにする。ふっ素化処理されていると、便器表面ははつ油性を呈するようになり、油性汚れが付着しにくくなる。従って、従って、便器ボール面の洗浄及び排便の除去が少量の洗浄水で可能となる。
【0014】
本発明の好ましい態様においては、前記ボール面は、ふっ素系樹脂又はシリコーン樹脂により被覆されているようにする。ふっ素系樹脂又はシリコーン樹脂により被覆されているようにすると、便器表面ははつ油性を呈するようになり、油性汚れが付着しにくくなる。従って、便器ボール面の洗浄及び排便の除去が少量の洗浄水で可能となる。
【0015】
本発明の好ましい態様においては、前記吐水口は、スプレッダー方式の吐水口であるようにする。スプレッダー方式の吐水口にすることにより、ボール面を通過する流水力が増大し、その効果によって汚れ除去性能はさらに向上する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施態様について、図に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施態様を示すものであり、洋式大便器の周縁部に存在するリム部の裏面に多数の吐水口(リム孔)1が穿たれている。洗浄水は吐水口であるリム孔1から吐水されるようになっている。リム孔1から吐水される洗浄水はボール面2又は3を経由して溜水部4に流れる。さらに、ボール面2,3は、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するように表面改質されている。ここにおいて、ボール面2又は3の形状は図示したように吐水口の直下部であるリム孔1から溜水部4の喫水部近傍まで連続的に0または負の勾配のみの傾斜面にしてもよい。
【0017】
図2は、本発明の他の実施態様を示すものであり、いわゆる「オープンリム式」の洋式大便器である。洗浄水は吐水口11からボール面13を経由するか、或いは旋回してリム通水路15からボール面12を経由して溜水部14に流れる。さらに、ボール面12は、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するように表面改質されている。ここにおいて、ボール面12又は13の形状は図示したように、洗浄水の通過における上流部である吐水口11の直下部或いはリム通水路15から、洗浄水の通過における下流部である溜水部14の喫水部近傍まで連続的に0または負の勾配のみの傾斜面にしてもよい。
【0018】
図3は、本発明の他の実施態様を示すものであり、和式大便器の周縁部に存在するリム部の裏面に多数の吐水口(リム孔)21が穿たれている。洗浄水は吐水口であるリム孔21から吐水されるようになっている。リム孔21から吐水される洗浄水はボール面22又は23を経由して溜水部24に流れる。さらに、ボール面22又は23は、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するように表面改質されている。ここにおいて、ボール面22又は23の形状は図示したように吐水口の直下部であるリム孔21から溜水部24の喫水部近傍まで連続的に0または負の勾配のみの傾斜面にしてもよい。
【0019】
図4は、本発明の他の実施態様を示すものであり、和式便器の溜水部34とは長手方向に対して反対側に位置する部分に吐水口31が穿たれている。洗浄水は吐水口31から吐水されるようになっている。吐水口31から吐水される洗浄水はボール面32を経由して溜水部34に流れる。さらに、ボール面32は、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するように表面改質されている。ここにおいて、ボール面32の形状はその一部を図示したように吐水口31から溜水部34の喫水部近傍まで連続的に0または負の勾配のみの傾斜面にしてもよい。
【0020】
図5は、本発明の他の実施態様を示すものであり、吐水口として多数の孔を穿ったいわゆる「淀掛け式」の小便器である。洗浄水は吐水口41から吐水されるようになっている。吐水口41から吐水される洗浄水はボール面42を経由して目皿46から溜水部44に流れる。さらに、ボール面42は、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するように表面改質されている。ここにおいて、ボール面42の形状は図示したように、洗浄水の通過における上流部である吐水口41から、洗浄水の通過における下流部である目皿46のまで連続的に垂直面および0または負の勾配のみの傾斜面にしてもよい。
【0021】
図6は、本発明の他の実施態様を示すものであり、スプレッダーノズルを吐水口としたいわゆる「スプレッダー式」の小便器である。洗浄水は吐水口51から吐水されるようになっている。吐水口51から吐水される洗浄水はボール面52を経由して目皿56から溜水部54に流れる。さらに、ボール面52は、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するように表面改質されている。ここにおいて、ボール面52の形状は図示したように、洗浄水の通過における上流部である吐水口51から、洗浄水の通過における下流部である目皿56のまで連続的に垂直面および0または負の勾配のみの傾斜面にしてもよい。
【0022】
図7は、本発明の他の実施態様を示すものであり、溜水部のない簡易型便器である。便器の周縁部に吐水口61が穿たれており、洗浄水が吐水されるようになっている。吐水された洗浄水はボール面62又は63を経由して排水口67流れる。さらに、ボール面62,63は、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するように表面改質されている。ここにおいて、ボール面62又は63の形状は図示したように吐水口61から排水口67で連続的に0または負の勾配のみの傾斜面にしてもよい。
【0023】
また、ボール面を油性汚れに対するセルフクリーニング機能を有するようにするには、例えば、
(1)釉薬層を表面に形成し、釉薬層の表面に従来にない平滑性を持たせるようにする。
(2)釉薬層を表面に形成し、釉薬層の表面に原子価が1価の金属成分及び/又はポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分を多く含有させる。のいずれか、又はその双方を行わせる方法や、
(3)表面をふっ素化処理する。
(4)表面をふっ素系樹脂又はシリコーン樹脂で被覆する方法が考えられる。(1)、(2)の方法は、使用環境下におけるセルフクリーニング機能の持続性の観点において、(3)、(4)よりも優れている。一方、(3)、(4)の方法は、現場に施行済の便器にも後加工によりセルフクリーニング機能を付与することができるという意味での利点を有する方法である。双方の長所を活用する観点から(1)、(2)および(3)、(4)の方法を併用してもよい。
【0024】
ボール面における釉薬層の表面に従来にない平滑性(Ra<70nm)を持たせるようにするには、まず、釉薬原料として、(A)レーザー回折法による粒度分布測定での50%平均粒径(D50)が1.5μm以下の原料を使用する。または、(B)予めガラス化された釉薬原料(フリット)を使用する。または、(C)予めガラス化された釉薬原料と従来使用されている釉薬原料(レーザー回折法による粒度分布測定での50%平均粒径(D50)が6μm程度の釉薬原料)の混合物を使用する。若しくは、(D)予めガラス化された釉薬原料と従来より微粒の釉薬原料の混合物を使用する。これらいずれかの釉薬原料を準備して、ボール面の陶器(成形)素地に塗布した後に、1000〜1300℃の温度で焼成する。
【0025】
(A)D50が1.5μm以下の微粒釉薬原料は、釉薬原料粉体をボールミル、シリンダミル、振動ミル等により粉砕することで準備できる。ここで、釉薬原料の50%平均粒径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
(B)ガラス化されたフリット状の釉薬原料は、釉薬原料粉体を1300度以上の高温で溶融させることにより得ることができる。
(C)ガラス化された釉薬原料と従来使用されている釉薬原料の混合物は、上記(B)の方法で得たガラス化された釉薬原料と従来使用されている釉薬原料を混合することにより得ることができる。
(D)予めガラス化された釉薬原料と従来より微粒の釉薬原料の混合物は、上記(A)の方法で得たD50が1.5μm以下の微粒釉薬原料と、上記(B)の方法で得たガラス化された釉薬原料を混合することにより得ることができる。
【0026】
また、上記釉薬原料粉体中のうちの少なくともシリカ粒子(例えば、天然原料ではケイ砂)はD50が6μm以下、好ましくは4μm以下にするのがよい。こうすることにより、焼成後に未反応で表面に残留するシリカ粒子を低減することができ、便器のようにアルカリ水(アンモニア含有水)に晒される環境で使用される場合でもシリカ粒子近傍の優先的劣化に伴う表面平滑性の低下を防止することができる。この理由は、焼成後の釉薬表面の凹凸を形成する未溶解物(シリカ、ジルコン)の周囲は、上記アルカリ環境下において、2ヶ月程度の極めて短期間で優先的に溶解が起こるためである。
【0027】
ボール面の陶器(成形)素地に上記釉薬原料を塗布する方法には、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、刷毛塗り等の一般的な方法が利用できる。また、焼成は、トンネル窯、ローラーハースキルン、固定焼成炉(バッチ炉)のいずれを用いることも可能である。
【0028】
また、ボール面における釉薬層の表面に従来にない平滑性(Ra<70nm)を持たせるようにする構成として、陶器素地表面に着色釉薬層を形成し、さらに前記着色釉薬層の表面には透明釉薬層を形成する、いわゆる多層釉薬構造にさせてもよい。陶磁器表面に従来にない平滑性を持たせることにより、汚れが強固に付着しにくくなり、その結果、たとえ付着しても水との接触により浮き上がらせることができ、浮き上がった汚れが流水程度で除去されるようになる。また、表面に通常陶磁器に被覆する釉薬厚み(0.1mm以上2mm以下)よりも薄く透明釉薬層を形成し、薄い透明釉薬層に上記平滑性能を担わせることにより、陶磁器の製造コストを低減するために陶磁器成形素地に釉薬原料を塗布後一度で焼成を済ませる方法を用いた場合に、成形素地の焼成時に生成する気体が成形素地の焼成収縮に伴い外部に開放されやすくなり、釉薬層中に前記気体が残留することによる外観不良の発生が防止される。
【0029】
上記構成において、ボール面は水との接触角が30゜未満、好ましくは25゜以下、より好ましくは20゜以下の親水性表面になるようにするとよい。従来の陶磁器表面は水との接触角が高く、汚れと釉薬層表面の界面に毛細管現象により水が侵入しにくい。一方、親水性表面を持った陶磁器では、同界面に毛細管現象により水が容易に侵入し、汚れを浮き上がらせることが出来る。さらに、水が流れていく場合、親水性表面では水膜を形成し、水中に浮き上がった汚れが再び表面に付着するのを防止し、流れやすくする効果がある。
【0030】
便器ボール面において、釉薬層を表面に形成し、釉薬層の表面に原子価が1価の金属成分及び/又はポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分を多く含有させることによっても、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を付与できる。ここで、原子価が1価の金属成分としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Ag、Cu、Au等が好適に利用できる。また、ポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Ba、Sr等が好適に利用できる。Naを用いる場合には、釉薬の全金属成分に対して酸化物換算量で2.6重量%以上、好ましくは3重量%以上添加する。Kの場合は、釉薬の全金属成分に対して酸化物換算量で4.1重量%以上、好ましくは5重量%以上添加する。さらに、上記金属成分のうち、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属成分に関しては、上記釉薬を構成する金属成分全体に対して酸化物換算量で20重量%未満、好ましくは15重量%以下にするのが製造上好ましい。
【0031】
便器ボール面を、ふっ素系樹脂又はシリコーン樹脂で被覆することによっても、油性汚れに対するセルフクリーニング機能を付与できる。ここで、ふっ素系樹脂としては、ポリ弗化ビニル、ポリ弗化ビニリデン、ポリ塩化三弗化エチレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ四弗化エチレンー六弗化プロピレンコポリマー、エチレンー四弗化エチレンコポリマー、エチレンーポリ塩化三弗化エチレンコポリマー、四弗化エチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、パーフルオロシクロポリマー、ビニルエーテルーフルオロオレフィンコポリマー、ビニルエステルーフルオロオレフィンコポリマー等が好適に利用できる。シリコーン樹脂としては、2官能加水分解性シラン、3官能加水分解性シラン、4官能加水分解性シランの脱水縮重合体からなるシロキサン樹脂、シロキサン架橋以外に有機架橋を有する有機ー無機ハイブリッド樹脂などが好適に利用できる。特にシロキサン架橋以外にアクリル基の縮重合に基づく有機架橋があると、便器使用環境下であるアンモニア塩基に対する強い耐性を示すので好ましい。
【0032】
釉薬層中に、釉薬以外の添加物を添加することにより付加機能を持たせるようにしてもよい。ここで、釉薬中へ添加する添加物は、焼成中に釉薬や雰囲気との反応により化合物が形成されるものが好ましい。例えば、銀、銅、亜鉛又はその化合物、固溶体等の抗菌金属や酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化第二鉄、三酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、三酸化二ビスマス等の光触媒を添加すると抗菌効果が発揮される。また、上記光触媒の存在により親水性が助長される光還元性を有する等の効果も得られる。
【0033】
【実施例】
(比較例1)
【0034】
【表1】
【0035】
表1の組成から成る釉薬原料2kgと水1kg及び球石4kgを、容積6リットルの陶器製ポット中に入れ、ボールミルにより約18時間粉砕した。ここで得られた釉薬スラリーを、釉薬Aとする。レーザー回折式粒度分布計を用いて、粉砕後に得られた釉薬Aの粒径を測定したところ、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が6.2μmであった。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×150mmの板状成形体及び東陶機器製洋式大便器C780(洗浄方式はサイホン式である)に相当する成形体を作製した。この板状成形体及びC780成形体上に釉薬Aをスプレーコーティングした後、1100〜1200℃で焼成することにより板状試料及び大便器試験体を得た。さらに、5%水酸化ナトリウム水溶液を用意し、板状試料についてはその全体を水溶液に浸漬し、C780大便器試験体についてはボール面一杯に水溶液を満たし、全体を70℃に加熱し10時間放置後、試料及び試験体を流水で洗浄した。これにより、釉薬層表面は実使用における約10年に相当する浸食を受けたことになる。上記の如くして得られた板状試料を用いて、アルカリ水溶液浸浸前後における釉薬層の表面粗さ測定を行い、C780大便器試験体を用いて、アルカリ水溶液浸漬後における疑似汚れによる洗浄性試験を行った。釉薬層の表面粗さは、触針式表面粗さ測定器(JIS−B0651)を用い、中心線表面粗さRaを測定した。その結果、アルカリ水溶液浸漬前がRa=0.10μm、浸漬後がRa=0.25μmであった。疑似汚れによる洗浄性試験は、初めに、オレイン酸100重量部、カーボンブラック0.5重量部を混合・撹拌して油系成分(A液)と、水100重量部、インクブルー0.5重量部、炭酸ナトリウム2重量部を混合・撹拌して水系成分(B液)を作製した。ここで、オレイン酸は大便中の主要成分、カーボンブラックとインクブルーは汚れが目視で見えやすいようにするための添加剤である。次に、A液とB液を1:1の割合で混合・撹拌し、刷毛を用いてこの混合液をC780試験体のボール面に塗布した。C780大便器試験体には、東陶機器製便器タンクS791を取り付け、タンク内に水道水を溜めた後、レバー操作によりボール面に水を流し、洗浄操作を行った。なお、この洗浄操作1回で使用する水量は10リットルである。その結果、1回の洗浄では疑似汚れがほとんど取れず、2回の洗浄でも大部分の疑似汚れがボール面に残存していた。
【0036】
(実施例1)表1から乳濁剤であるZrO2と顔料を除いた組成から成る釉薬基材を、電気炉を用いて1300〜1400℃にて溶融し、水中で急冷してガラスフリットを得た。これを、スタンプミルにより粉砕し、得られた粉末1.8kgと水1.2kg及びアルミナボール3kgを、容積6リットルの陶器製ポット中に入れ、ボールミルにより約24時間粉砕した。ここで得られた釉薬スラリーを、釉薬Bとする。レーザー回折式粒度分布計を用いて、粉砕後に得られた釉薬Bの粒径を測定したところ、10μm以下が68%、50%平均粒径(D50)が6.0μmであった。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×150mmの板状成形体及び東陶機器製洋式大便器C780に相当する成形体を作製した。この板状成形体及びC780成形体上に下層として釉薬Aをスプレーコーティングし、続いて、上層として釉薬Bをスプレーコーティングした後、1100〜1200℃で焼成することにより板状試料及び大便器試験体を得た。比較例1と同様に板状試料を用いて、アルカリ水溶液浸漬前後における釉薬層の表面粗さ測定を行い、C780大便器試験体を用いて、アルカリ水溶液浸漬後における疑似汚れによる洗浄性試験を行った。表面粗さ測定結果は、アルカリ水溶液浸漬前がRa=0.02μm、アルカリ水溶液浸漬後がRa=0.04μmであった。疑似汚れによる洗浄性試験は、比較例1と同様にC780試験体とS791タンクとの組み合わせにより行った。その結果、1回の洗浄で疑似汚れはほぼ完全に洗い流されていた。
【0037】
このように、10年使用後に相当する便器においては、比較例1の態様の釉薬面と比較して実施例1の態様の釉薬面の方が、洗浄回数が少なくて済むので洗浄水量を低減できることが確認できた。従来の便器及びタンクの組み合わせでは、比較例1で見られたように洗浄性が悪くなることを想定して、ある程度の安全率を見込んで洗浄水量が設定されているので、多くの水を必要とする。これに対して、本発明の態様に適した便器及びタンクの組み合わせに設計し直すことにより、さらに大幅な節水が可能であると考えられる。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、洗浄水量を低減してもボール面の洗浄及び排便の除去が可能な節水便器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施態様を示す図。
【図2】本発明の他の実施態様を示す図。
【図3】本発明の他の実施態様を示す図。
【図4】本発明の他の実施態様を示す図。
【図5】本発明の他の実施態様を示す図。
【図6】本発明の他の実施態様を示す図。
【図7】本発明の他の実施態様を示す図。
【符号の説明】
1、11、21、31、41、51、61…吐水口、
2、3、12,13、22、23、32、42、52、62、63…ボール面、
4、14、24、34、44、54…溜水部、
15…リム通水路、 46、56…目皿、 67…排水口。
Claims (11)
- 70℃に保持した5%水酸化ナトリウム水溶液に10時間浸漬後、便器の少なくともボ−ル面の表面粗さRaが触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)により、0.07μm未満であることで、油性汚れに対するセルフクリーニング機能が維持されていることを特徴とする節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面は、非晶質からなることを特徴とする請求項1に記載の節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面は、釉薬により被覆されており、前記釉薬中には、原子価が1価の金属成分及び/又はポーリングの電気陰性度の尺度が1以下の金属成分が含有されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面には、抗菌性金属が含有されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面のゼータ電位は負であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の節水便器。
- 前記節水便器は陶器製であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面は、釉薬により被覆されており、前記釉薬中には、ナトリウム成分が釉薬中の全金属成分に対して酸化物換算量で2.6重量%以上含有されていることを特徴とする請求項6に記載の節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面は、釉薬により被覆されており、前記釉薬中には、カリウム成分が釉薬中の全金属成分に対して酸化物換算量で4.1重量%以上含有されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面は、ふっ素化処理されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の節水便器。
- 前記便器の少なくともボール面は、ふっ素系樹脂又はシリコーン樹脂により被覆されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の節水便器。
- 前記便器の洗浄水吐水口は、スプレッダー方式の吐水口であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の節水便器。
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