JP3607904B2 - フジツボ類の付着防除方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、フジツボ類が海中構築物に対して付着することによる被害を防除する方法に関し、特にフジツボ類の付着を種別に防除できるフジツボ類の付着防除方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水中の岩やコンクリート壁などの基盤に固着または付着している生物は、付着生物(汚損生物と呼ばれる場合もある。)と呼ばれるが、甲殻綱、まん脚亜綱に属する節足動物であるフジツボ類は代表的な海産付着生物である。
【0003】
フジツボ類は、内湾性の種から外洋性の種まで多くの種からなり、海域の環境条件や基盤によって種特有の生息場所を持つことが知られている。
【0004】
フジツボ類の生活史のうち、繁殖に関わるステージの概略は、以下のとおりである。すなわち、付着成体間で交尾し受精後、浮遊期であるノープリウス幼生を孵出し、このノープリウス幼生が脱皮を繰り返した後、付着期であるキプリス幼生となり、さらにキプリス幼生が基盤に付着し、幼フジツボへと変態する。この繁殖時期は、各種に特有のものである。
【0005】
因みにキプリス幼生は、図1に示すように、左右に側扁した紡錘形の透明の甲皮(殻)1をもった幼生であり、腹面前方には一対の第1触角2、腹面後半部には6対の胸肢3が甲皮1の内部から伸びている。
【0006】
第1触角2は、付着のために先端が吸盤状となった器官であり、セメント腺4からセメント管5を経て分泌される接着物質(キノン架橋結合蛋白質)は付着器官の表面に分泌されて基盤と固着する。なお、キプリス幼生は、基盤への接近と離脱を繰り返しながら基盤との適性を調べ、その間、離脱可能な一時付着をした後、最終的に決定された定着地点に永久固着する。なお、図中の符号6は油細胞、7は複眼、8は胸部を示している。
【0007】
このようなフジツボ類が、様々な海洋構造物や船底、発電所などの海水取水施設の熱交換器や復水器などの配水管内に大量に付着することにより、流体抵抗増加、船速低下・燃費増大、取水ポンプ負荷の増大、冷却効率低下、細管閉塞等の様々な被害を及ぼす場合がある。
【0008】
その場合、フジツボ種毎の出現状況を把握し、対象海域で被害の大きいフジツボ種に絞って駆除すれば、すなわち、その特定のフジツボ種の繁殖時期のみに付着防除対策を集中させることができれば、より効率よく被害を回避できると考えられる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、フジツボ類の付着期幼生であるキプリス幼生の種の判別は、種間の形態が酷似しているために、形態分類学の手法に基づいて顕微鏡下で丹念にその外部形状や特徴部分の形態を観察することによる種判別に困難性があり、熟練を要しない簡単な手段が無かった。
【0010】
このような長時間を要する顕微鏡観察による種の判別では、効果的な防除対策を行なうための判断をサンプル採取とほぼ同時に行なうことはできない。
【0011】
したがって、海水利用プラント等の施設では、被害の大きな特定種のフジツボ類の付着期を限定せずに通年連続して海水に薬品を注入するか、または定期的に熱交換器の細管内面清掃用のスポンジ状ボールを細管に投入するという所謂「ボール洗浄対策」および運転停止状態でのブラシ洗浄などの清掃作業を実施しており、このようなメンテナンスには多大な費用を要すると共に設備運休のための稼動効率の低下を招いていた。
【0012】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、利用する海水中に特定種の幼生の出現があるか否かを、検査が必要な時に速やかに検出し、さらに周知の防除手段を適用してフジツボ類キプリス幼生の付着を防除することであり、すなわち特定の被害の大きなフジツボを随時に特定し、そのフジツボ類キプリス幼生に対して効果的な付着前の防除対策を集中的かつ効率的に行なうことである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願の発明者らは、人工飼育によって得られる各種フジツボ類のキプリス幼生に対し、各波長域の励起光照射下での幼生の蛍光自家発光性、発光形状、及び幼生の蛍光染色処理による検出等の検討を行なった結果、フジツボ類キプリス幼生を即時に検出し、かつその種類を判定できる方法を開発し、この発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、上記の課題を解決するため、本願の発明では、所定量の海水から採集されたフジツボ類の付着期幼生に対して励起光を照射し、発光した各個体の蛍光分布パターンをデジタル画像情報としてコンピュータに入力し、この情報を前記コンピュータに予め登録しておいた種に固有の体内蛍光分布パターン認識情報と比較し、これらの蛍光分布パターンがマッチングしたフジツボ類の種とその種の前記海水の単位容積当りの個体数から防除対象種を決定し、この防除対象種に対して所要期間の付着防除処理を行なうことからなるフジツボ類の付着防除方法としたのである。
【0015】
上記方法において、励起光を照射する工程の前処理として、蛍光標識化レクチンによるフジツボ類の付着期幼生の糖鎖蛍光標識染色工程を有する方法を採用することもできる。
【0016】
この発明のフジツボ類の付着防除方法は、各種フジツボ類キプリス幼生に対して励起光を照射し、その際に幼生の特異的蛍光発光部位及び発光形状を新たに発見した分類学的特徴として用い、幼生の即時検出及びその種類の判定を簡便かつ確実に行なうことができる。
【0017】
すなわち、各種フジツボ類キプリス幼生に対して励起光を照射すると、種固有の体内蛍光分布パターンをもって発光することが判明した。
【0018】
通常、プランクトン類においては体内で自家蛍光のあるものは多いが、種の判別に役立つ場合は少ない。しかし、フジツボ類キプリス幼生は、明確に種を識別可能なパターンを有する特異的な蛍光を発し、しかもそのような蛍光部位や発光形状のパターンに個体差が少なく、識別標識として充分に活用できる。
【0019】
また、励起光を照射する前に、予め、幼生の体表面の糖鎖を蛍光標識化レクチンで染色し蛍光標識をつけることもできる。
【0020】
具体的には、フジツボ類の付着期幼生に対して照射される励起光の波長の好ましい範囲は400〜440nmであり、かつ発光する蛍光の受容波長が475nm以上であることが好ましい。
【0021】
このようにすると、フジツボ類以外の殆どの生物に蛍光発光が発生しないか、極微弱に過ぎなくなるので、他のプランクトンの発するノイズ的な蛍光を排除して、フジツボ類の種の区別を確実に行なえる。また、発光の強弱の区別、発光部位としてキプリス幼生の頭部、後部または体全体の区別、また発光単位として斑点状またはそれより小さな細粒状、粒のない体全体の発光などのパターンに区別でき、これらの特徴の組み合わせによって種の識別ができる。
【0022】
特に、フジツボ類が、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ、オオアカフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボおよびヨーロッパフジツボを含むフジツボ類から選ばれる2種以上のフジツボ類である場合には、より確実に種を識別することができる。
【0023】
客観的に評価される基準によって主観的な誤差なく種類判定を行なうには、コンピュータを用いて画像解析し、これを自動的に識別する必要がある。その際には、蛍光分布パターンをデジタル画像情報としてコンピュータに取り込み、この情報を前記コンピュータに予め登録していた種に固有の蛍光分布パターン認識情報と比較する。その際、汎用の画像解析ソフトウェアを利用できる。例えば、米国立衛生研究所製 NIH Image、三谷商事社製 Mac ScopeまたはWin ROOFなどである。
【0024】
蛍光分布パターンの比較は、コンピュータに予め登録していた種固有の体内蛍光分布パターン認識情報と、検査用のデジタル画像の蛍光分布パターンとを比較することによって行なうが、両パターンがどの程度の確率でマッチングするかによってフジツボ類の種とその種の単位海水容積当りの個体数が算出される。この結果から測定者は、一般的な知見または独自の経験則に基づいて防除対象種を決定し、この種に対する効果的な所要期間だけフジツボ類に対して効果的な付着防除処理を行なうことができる。
【0025】
この発明では、従来技術における通常波長光による顕微鏡観察では即時の対応が不可能であったフジツボ類キプリス幼生の種判定及び生物量予測の画像解析による自動識別化が可能になり、フジツボ類の繁殖(付着)時期に絞った防除対策の効率化や、さらには対象の海域で最も被害の大きい特定種の繁殖時期にだけ集中した防除対策を確実に行える。
【0026】
【発明の実施の形態】
この発明のフジツボ類キプリス幼生の即時検出及び種類判定手法の実施形態について、添付図面を用いながら以下に詳細に説明する。
【0027】
図1に示すように、フジツボ類(図面はチシマフジツボである。)の付着期幼生は、キプリス幼生と呼ばれるものであり、サンプルは棲息密度(単位海水量当りの個体数)を知るために、所定量の海水から採取する。
【0028】
採取は、濾水計付きのプランクトンネットまたは海水を汲み上げたポンプから一定量の海水をネットで濾過することによって行なうことができる。また、自動採取方法としては、汲み上げた海水の流路中にガラス製のセルからなる窓を設け、このセルにキプリス幼生を一時的に付着させることにより、キプリス幼生を採取し、またはセルを撮影して画像データとして記録することもできる。
【0029】
上記何れの採取法でもセルまたはプランクトンネットに採取されたフジツボ類の付着期幼生に対して、必要に応じて糖鎖蛍光標識染色を行ない、次いで励起光を照射し、発光した蛍光分布パターンをクールドCCDカメラやデジタルカメラなどを用いて撮影し、これをデジタル画像情報としてコンピュータに入力する。
【0030】
励起光を照射するには、例えば落射蛍光実体顕微鏡を用いることが好ましく、具体的には各励起フィルタやスキャナーを用いて海水を満たしたガラス容器内に所定波長の励起光を照射し、所定の吸収フィルタを介して落射蛍光実体顕微鏡に取り付けたクールドCCDビデオカメラなどで記録すればよい。
【0031】
フジツボ類の付着期幼生に対して照射される励起光の波長は400〜440nmであることが好ましい。
【0032】
発光する蛍光の波長が475nm以上であるものを観察することにより、フジツボ類以外の生物が発する蛍光は殆どなく、フジツボの種を明瞭に区別できる蛍光のみを認識できる。
【0033】
発光した蛍光分布パターンの情報は、コンピュータに予め登録していた種固有の蛍光分布パターン認識情報と比較する。実際に得られる特徴的な蛍光分布パターンは、以下の説明、図2〜4に示す通りである。
(a)タテジマフジツボ幼生:図2(a)に示すように幼生頭部及び後部が斑点状に強く発光する。
(b)アメリカフジツボ幼生:図2(b)に示すように頭部及び後端が広範囲に強く発光する。
(c)サンカクフジツボ幼生:図2(c)に示すように体部全体が発光し、さらに頭部が微細粒状に発光する。
(d)アカフジツボ幼生:図2(d)に示すように体部全体が発光する。
(e)オオアカフジツボ幼生:図3(a)に示すように体部全体が弱く発光すると共に体下縁部が斑状に発光する。
(f)サラサフジツボ幼生:図3(b)に示すように頭部及び尾部が網目状に強く発光する。
(g)イワフジツボ幼生:図4(a)に示すように体部前方全体が塊状に発光する。
(h)シロスジフジツボ幼生:図4(b)に示すように体部前縁および後縁が縁取り状に発光する。
(i)ヨーロッパフジツボ幼生:図4(c)に示すように体部前縁および後端にある小さい楕円盤が発光する。
【0034】
これらの蛍光分布パターンがマッチングしたフジツボ類の種とその種の単位海水容積当りの個体数から防除対象種を決定する。
【0035】
以上の種固有の蛍光分布パターンに関する認識情報を予めコンピュータに登録しておくことによって、被検海水中に存在する蛍光分布パターンがマッチングしたフジツボ類の種とその種の単位海水容積当りの個体数を求めることができる。
【0036】
このような情報から最も優占している種を防除対象種とするか、または余り被害の大きくない種が優占する場合に、これを無視して特定の被害の大きい種を防除対象種とするかは、管理者の経験則に基づいて決めればよい。
【0037】
このようにして決定された防除対象種が優占する海水に対し、所要期間の付着防除処理を行なう。付着防除処理は、付着生物に対して慣用されている方法その他の適当な防除方法を採用すればよく、一般的には海水中に次亜塩素酸ナトリウム溶液等の防除用薬液を投入することである。
【0038】
因みに、フジツボ類の種類と海流系に応じた一般的な付着時期の例をまとめて以下の表1に示す。なお、暖流系のフジツボ類については、関西地方における主な付着時期の例であり、寒流系のフジツボ類については東北地方における主な付着時期の例である。
【0039】
【表1】
【0040】
【実施例】
〔フジツボ類の種に固有の体内蛍光分布パターンの検出〕
1−1)試験生物
人工飼育によって得られた各種フジツボ類キプリス幼生を、高濃度マグネシウムイオン海水に暴露し、一時的に幼生の動きを止めた後、その海水とともにシャーレに収容した。
1−2)幼生の自家蛍光の観察
落射蛍光実体顕微鏡を用いて、シャーレ内の幼生に各波長の励起光を照射し、各吸収フィルタを介して各種幼生の蛍光の自家発光性や発光形状の観察を行なった。照射した光線の励起フィルタ波長及び吸収フィルタ透過波長は、以下の通りである。
▲1▼ 励起フィルタ波長330−385nm、吸収フィルタ透過波長420nm以上
▲2▼ 励起フィルタ波長400−440nm、吸収フィルタ透過波長475nm以上
▲3▼ 励起フィルタ波長400−440nm、吸収フィルタ透過波長470−495nm
▲4▼ 励起フィルタ波長460−490nm、吸収フィルタ透過波長510−550nm
▲5▼ 励起フィルタ波長510−550nm、吸収フィルタ透過波長590nm以上
1−3)結果
▲1▼ フジツボ類キプリス幼生は、励起フィルタ波長400−440nm、吸収フィルタ透過波長475nm以上の励起光照射・蛍光受容条件下で特異的な自家発光が観察され、他波長域特に460nm以上の励起波長域では発光は全く認められなかった。
▲2▼ 幼生の自家発光形状は、図2a,b,c,d、図3a、b、図4a,b,cに示されるようにフジツボ各種について特有の形態を示した。
【0041】
図2(a)に示すように、タテジマフジツボ幼生は、幼生頭部及び後部が斑点状に強く発光した。
【0042】
図2(b)に示すように、アメリカフジツボ幼生は、頭部及び後端が広範囲に強く発光した。
【0043】
図2(c)に示すように、サンカクフジツボ幼生は、体部全体が発光し、さらに頭部が微細粒状に発光した。
【0044】
図2(d)に示すように、アカフジツボ幼生は、体部全体が発光した。
【0045】
図3(a)に示すように、オオアカフジツボ幼生は、体部全体が弱く発光すると共に体下縁部が斑状に発光した。
【0046】
図3(b)に示すように、サラサフジツボ幼生は、頭部及び尾部が網目状に強く発光した。
【0047】
図4(a)に示すように、イワフジツボ幼生は、体部前方全体が塊状に発光した。
【0048】
図4(b)に示すように、シロスジフジツボ幼生は、体部前縁および後縁が縁取り状に発光した。
【0049】
図4(c)に示すように、ヨーロッパフジツボは、体部前縁および後端にある小さい楕円盤が発光した。
【0050】
すなわち、特定波長の励起光照射下での幼生の特異的な自家蛍光発光を利用することによって、通常光による形態観察のみでは不可能であったフジツボ類幼生の即時検出及び種類判定が可能であった。また、画像解析による自動識別化も可能となる。
【0051】
〔蛍光標識染色による検出〕
2−1)試験生物
底面にカバーグラスを貼り付けたプラスチックシャーレ内に、タテジマフジツボキプリス幼生を海水とともに入れ、数時間静置し、カバーグラス上に幼生を一次付着させた。
2−2)蛍光標識染色及び観察
カバーグラス上に一次付着したキプリス幼生を固定するか、または無固定のまま、蛍光標識レクチン(LCA−FITC)を用いた直接染色を行なった。染色条件は、濃度:100−1000倍TBS希釈、時間:10分〜4時間とし、染色後の幼生を落射蛍光顕微鏡(励起光波長460−490nm、吸収フィルタ透過波長510nm以上)下で観察した。
2−3)結果
▲1▼ LCA−FITC染色の場合、濃度1/1000×10分間染色でも、キプリス幼生の体部、付着器官部全体の発光が確認された。
▲2▼ また同時に、カバーグラス表面の有機物等、様々な付着物の非特異的な発光が確認されたが、キプリス幼生の発光はサイズ・形状とも非常に特徴的であり、他種付着物や生物群との識別化は充分に可能であった。
【0052】
すなわち、特定の蛍光標識染色後の蛍光観察によっても、フジツボ類キプリス幼生の即時検出が可能であった。従って、自家蛍光の場合と同様に画像解析によるキプリス幼生の自動識別化も可能である。
【0053】
〔実施例〕
臨海プラント(関西地方)の冷却用海水取水口付近の海域にサンプル海水の取水管を設置し、ポンプで汲み上げた海水を定期的に1000リットル採取し、これを動物プランクトン採取用ネット(網目0.1mm)で濾過・捕集し、これを200mMMg2+海水に暴露して、一時的に幼生の遊泳を停止させ、この幼生含有のサンプルをシャーレに海水と一緒に収容した。
【0054】
採集されたフジツボ類の付着期幼生を含む試料に、落射蛍光実体顕微鏡(オリンパス社製)を用いて波長400〜440nmの励起光を照射し、波長475nm以上の蛍光を透過する吸収フィルタを介して得られる蛍光発光デジタル画像をパーソナルコンピュータの画像解析ソフトウェア(NIH Image)にデータとして取り込んだ。
【0055】
また、この画像データ取り込みに先立って、前記した実験によって得られた種に固有の蛍光分布パターン(すなわち、タテジマフジツボ幼生は、幼生頭部及び後部が斑点状に強く発光する。アメリカフジツボ幼生は、頭部及び後端が広範囲に強く発光する。サンカクフジツボ幼生は、体部全体が発光し、さらに頭部が微細粒状に発光する。アカフジツボ幼生は、体部全体が発光する。オオアカフジツボ幼生は、体部全体が弱く発光すると共に体下縁部が斑状に発光する。サラサフジツボ幼生は、頭部及び尾部が網目状に強く発光する。イワフジツボ幼生は、体部前方全体が塊状に発光する。シロスジフジツボ幼生は、体部前縁および後縁が縁取り状に発光する。ヨーロッパフジツボは、体部前縁および後端にある小さい楕円盤が発光する。)から画像解析ソフトウェア(NIH Image)によってフジツボ類付着期幼生の特異的検出及び種類識別化に必要な認識情報を、予め前記パーソナルコンピュータに登録しておいた。
【0056】
認識情報は、画像解析ソフトウェア(NIH Image)のプラグラムに従って行なわれる処理で得られる情報であり、具体的には濃度諧調処理、平滑化処理、鮮鋭化処理、マスキングなどを必要に応じて行ない、さらに画像の二値化処理を行なうと共に、適宜に目的とする領域以外のノイズを除去し、計数目的領域の画像パターンを認識する。
【0057】
コンピュータに登録された認識情報は、計数対象の一種以上の種の認識情報を指定しておくと、サンプルのデジタル発光画像から指定した一種以上のフジツボ類付着期幼生の海水単位容積当りの個体数を自動的に計測することができる。
【0058】
画像処理工程と自動計数例を図5および図6(両図とも顕微鏡写真をパソコンにイメージデータとして取り込んだものをトレースした図)に示した。
【0059】
図5aは、採取されたサンプルを通常光下で撮影した顕微鏡写真をトレースした図であり、矢印部分の先にフジツボ類のキプリス幼生が認められた。次に、図5bに示すようにBV励起光照射によりアメリカフジツボのキプリス幼生に特異的な発光が認められた。図5cに示すように、画像解析ソフトウェア(NIH Image)を使用した画像処理および解析により、アメリカフジツボのキプリス幼生が自動計数された。
【0060】
また、図6aは、サンプルに対し、BV励起光を照射して観察した各種フジツボ類が混在する蛍光発光画像(グレースケール)である。このサンプルに対し、図6bに示すように画像解析ソフトウェア(NIH Image)を使用した画像処理を行ない、濃度分布範囲設定を行って(図面では発光領域は点の集合、すなわち粗または密の程度で示した。なお、参考資料の写真では赤色の表示である。)発光領域のパターンを調べた。そして、図6cに示すように、白黒の二値化処理を行なって体部全体が発光するアカフジツボのキプリス幼生が特異的に認識されたので、これを自動計数した。
【0061】
上記の例では、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ、アカフジツボおよびサンカクフジツボが検出されたが、このうち海中構築物に強固に付着し、被害の主要原因種となるアカフジツボおよびサンカクフジツボを防除対象種に決定した。この防除対象種の付着期幼生の高密度検出時期が、5月下旬から7月上旬および11月中旬から12月中旬であるため、これらの時期に集中的に前記した定法の付着防除処理を行ない、その他の時期にはそのような付着防除処理を控えるという対応で効率化を計ったところ、付着防除効果が有効であることが確認された。
【0062】
【発明の効果】
この発明は、以上説明したように、海水含有サンプル中のフジツボ類キプリス幼生の体内蛍光パターンをコンピュータで認識させ、その種類を即時に判定して防除対象種を決定するようにしたので、防除対処水域において被害の大きなフジツボを経時的な変化を考慮しながら速やかに判定できるようになり、その結果、フジツボ類キプリス幼生に対して周知の手段を適用し、特定のフジツボ類キプリス幼生の付着行動を所定期間だけ集中的に効率よく防除し、それらの付着による海水抵抗や取水ポンプ負荷の増大、冷却効率低下、細管閉塞等といった海水利用効率の低下を確実に防止できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】フジツボ類のキプリス幼生の器官の配置を説明する側面図
【図2】(a)励起光照射によるタテジマフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
(b)励起光照射によるアメリカフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
(c)励起光照射によるサンカクフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
(d)励起光照射によるアカフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
【図3】(a)励起光照射によるオオアカフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
(b)励起光照射によるサラサフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
【図4】(a)励起光照射によるイワフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
(b)励起光照射によるシロスジフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
(c)励起光照射によるヨーロッパフジツボのキプリス幼生の蛍光発光パターンを示す模式図
【図5】(a)通常光下で顕微鏡観察した各種プランクトン混在サンプルの説明図
(b)励起光を照射して顕微鏡観察したフジツボ類のキプリス幼生の蛍光発光を示す説明図
(c)アメリカフジツボのキプリス幼生を認識し自動計数するコンピュータ画面の説明図
【図6】(a)励起光を照射して顕微鏡観察した各種フジツボ類幼生混在サンプルの説明図
(b)濃度分布範囲を設定した各種フジツボ類幼生混在サンプルのコンピュータ画面の説明図
(c)アカフジツボのキプリス幼生を認識し自動計数するコンピュータ画面の説明図
【符号の説明】
1 甲皮
2 第1触角
3 胸肢
4 セメント腺
5 セメント管
6 油細胞
7 複眼
8 胸部
Claims (4)
- 所定量の海水から採集されたフジツボ類の付着期幼生に対して励起光を照射し、発光した各個体の蛍光分布パターンをデジタル画像情報としてコンピュータに入力し、この情報を前記コンピュータに予め登録しておいた種に固有の体内蛍光分布パターン認識情報と比較し、これらの蛍光分布パターンがマッチングしたフジツボ類の種とその種の前記海水の単位容積当りの個体数から防除対象種を決定し、この防除対象種に対して所要期間の付着防除処理を行なうことからなるフジツボ類の付着防除方法。
- 励起光を照射する工程の前処理として、蛍光標識化レクチンによるフジツボ類の付着期幼生の糖鎖蛍光標識染色工程を有する請求項1に記載のフジツボ類の付着防除方法。
- フジツボ類の付着期幼生に対して照射される励起光の波長が400〜440nmであり、かつ発光した蛍光の受容波長が475nm以上である請求項1に記載のフジツボ類の付着防除方法。
- フジツボ類が、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ、オオアカフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボおよびヨーロッパフジツボを含むフジツボ類から選ばれる2種以上のフジツボ類である請求項1〜3のいずれかに記載のフジツボ類の付着防除方法。
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