JP3606127B2 - フェライト焼結体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト焼結体の製造方法、特に積層チップインダクタなどのインダクタ用として好適なフェライト焼結体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、各種フェライトが、その優れた磁気特性から磁心材料や積層チップインダクタなどのインダクタ材料として用いられている。
【0003】
積層チップインダクタの場合、一般に、フェライト層と導電体パターンを順次積層して、積層連結された導電体パターンからなるコイルがフェライト層間に形成された積層体を形成し、焼成した後、この焼結体に導電体パターンにつながる外部端子を各々形成して製造されている。そして、通常、積層チップインダクタのフェライト材料としてはNi−Cu−Zn系フェライト材料やNi−Zn系フェライト材料などが、また、導電体材料としては電気伝導度の大きいAgが用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
電子機器の小型化、高性能化、高信頼性化、多機能化が進んでおり、それに用いるフェライト部品などについて、小型化および特性の更なる向上が求められている。
【0005】
これに対応して、例えば、積層チップインダクタに用いるインダクタ材料の場合、フェライト原料にガラスを添加するなどして、特性を向上させる種々の試みがなされてきている。しかしながら、現在、μi(初透磁率)およびQなどのフェライトの特性を十分に向上させるまでには至っていない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高いμiおよびQを有し、積層チップインダクタなどのインダクタ用として好適なフェライト焼結体の製造方法を提供することにある。また、上記に加えて、体積抵抗率が高くかつ内部電極のマイグレーションなどによる絶縁抵抗の低下を防止することができる、積層チップインダクタなどのインダクタ用として好適なフェライト焼結体の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、フェライト焼結体の製造方法の製造方法は、フェライト原料に、10〜3000重量ppmのB4Cを添加して、焼成することを特徴とする。
【0008】
また、前記フェライト原料に、前記10〜3000重量ppmのB4Cに加えて、さらにMnまたはMn化合物を添加して焼成することを特徴とする。
【0010】
また、前記フェライト原料へのMnまたはMn化合物の添加量は、Mn2O3に換算して100〜5000重量ppmであることを特徴とする。
【0011】
また、前記フェライト原料は、Ni、CuおよびZnのうちの少なくとも2種以上の元素を含むことを特徴とする。
【0012】
また、前記フェライト原料の組成は、Fe2O3が45.0〜50.0モル%、ZnOが0〜50.0モル%、CuOが0〜20.0モル%、NiOが残部、であることを特徴とする。
【0013】
そして、前記フェライト焼結体はインダクタ用であることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、フェライト原料にB4C、または、B4Cに加えてさらにMnもしくはMn化合物を添加して焼成することを特徴とする、フェライト焼結体の製造方法である。
【0015】
フェライト原料にB4Cを添加することにより、低温焼結性が向上し、フェライト焼結体のμiおよびQを高めることができる。そして、B4Cの添加量としては、10〜3000重量ppmの範囲が好ましい。B4Cの添加量が10重量ppm未満の場合には低温焼結性の効果が不十分であり、3000重量ppmを超えると、μiおよびQの向上が望めない。
【0016】
また、フェライト原料にB4Cに加えて、さらにMnまたはMn化合物を添加することにより、さらに高いμiおよQを有するとともに、体積抵抗率が高く、かつ内部電極のマイグレーションなどによる絶縁抵抗の低下を防止することができる、積層チップインダクタなどのインダクタ用として好適なフェライト焼結体を得ることができる。そして、MnまたはMn化合物の添加量は、Mn2O3に換算して100〜5000重量ppmの範囲が好ましい。Mn2O3に換算した添加量が100重量部未満、または5000重量ppmを超えると、フェライト焼結体の体積抵抗率や耐マイグレーション性の向上が望めない。
【0017】
なお、B4Cを添加混合するときは、本焼成前であればよく、特に限定されないが、添加成分の蒸発による組成ずれを抑えるためには、フェライト原料を仮焼した後が好ましい。
【0018】
また、本発明のフェライト原料の組成は、特に限定されるものではない。目的・用途に応じて種々の組成のものを選択することができるが、Fe2O3が45.0〜50.0モル%(より好ましくは48.0〜49.8モル%)、ZnOが0〜50.0モル%(より好ましくは10.0〜34.0モル%)、CuOが0〜20.0モル%(より好ましくは6.0〜15.0モル%)、NiOが残部、であることが好ましい。さらに、具体的に、積層チップインダクタ用としては、上記組成範囲内のNi−Cu−Zn系のフェライト原料が好ましい。この組成範囲内とすることにより、内部導電体にAgを用いて850〜920℃で焼成する場合に、良好な焼結性が得られ、高いμiおよびQを有する積層チップインダクタを得ることができる。
【0019】
【実施例】
以下に実施例を示し、さらに詳細に説明する。
【0020】
(実施例1)
まず、フェライト原料として、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOの粉体を用意した。その後、Fe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOとなるように各原料を秤量し、これに表1に示すように、B4C粉体を0〜5000重量ppmの範囲で添加しボールミルにて湿式混合を行い、乾燥した後、700℃で仮焼した。その後、この仮焼済み原料をボールミルで湿式粉砕し、バインダーを加えてスラリー化し、ドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。
【0021】
次に、得られたグリーンシートを積層、圧着し、外径20mm、内径10mm、厚み2mmのトロイダルリングにカットした。その後、870℃で2時間焼成してフェライト焼結体を得た。
【0022】
次に、得られたフェライト焼結体について、インピーダンスアナライザにより、測定周波数100kHzの条件で、μiおよびQを測定した。その結果を表1に示す。なお、表1において、試料番号に*印を付したものは、本発明の範囲外のものである。
【0023】
【表1】
【0024】
表1から明らかなように、フェライト原料にB4Cを添加することにより、特に試料番号3〜8に示すようにB4Cの添加量を10〜3000重量ppmの範囲内とすることにより、μiが450以上、かつQが80以上の良好なフェライト特性が得られる。
【0025】
(実施例2)
まず、フェライト原料として、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOの粉体を用意した。その後、Fe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOとなるように各原料を秤量し、ボールミルにて湿式混合を行い、乾燥した後、700℃で仮焼した。この仮焼済み原料に表2に示すように、B4C粉体を0〜5000重量ppmの範囲で添加し、ボールミルにて湿式粉砕した。その後、バインダーを加えてスラリー化し、ドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。
【0026】
次に、得られたグリーンシートを積層、圧着し、外径20mm、内径10mm、厚み2mmのトロイダルリングにカットした。その後、870℃で2時間焼成してフェライト焼結体を得た。
【0027】
次に、得られたフェライト焼結体について、インピーダンスアナライザにより、測定周波数100kHzの条件で、μiおよびQを測定した。その結果を表2に示す。なお、表2において、試料番号に*印を付したものは、本発明の範囲外のものである。
【0028】
【表2】
【0029】
表2から明らかなように、フェライト原料にB4Cを添加することにより、特に試料番号13〜18に示すようにB4Cの添加量を10〜3000重量ppmの範囲内とすることにより、μiが455以上、かつQが82以上の良好なフェライト特性が得られる。
【0030】
(実施例3)
まず、フェライト原料として、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOの粉体を用意した。その後、Fe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOとなるように各原料を秤量し、ボールミルにて湿式混合を行い、乾燥した後、700℃で仮焼した。この仮焼済み原料をボールミルにて湿式粉砕した。その後、表3に示すように、B4C粉体を0〜5000重量ppmの範囲で添加しボールミルにて湿式混合を行い、バインダーを加えてスラリー化し、ドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。
【0031】
次に、得られたグリーンシートを積層、圧着し、外径20mm、内径10mm、厚み2mmのトロイダルリングにカットした。その後、870℃で2時間焼成してフェライト焼結体を得た。
【0032】
次に、得られたフェライト焼結体について、インピーダンスアナライザにより、測定周波数100kHzの条件で、μiおよびQを測定した。その結果を表3に示す。なお、表3において、試料番号に*印を付したものは、本発明の範囲外のものである。
【0033】
【表3】
【0034】
表3から明らかなように、フェライト原料にB4Cを添加することにより、特に試料番号23〜28に示すようにB4Cの添加量を10〜3000重量ppmの範囲内とすることにより、μiが452以上、かつQが81以上の良好なフェライト特性が得られる。
【0035】
上記実施例1〜3から明らかなように、Ni−Cu−Zn系フェライトに10〜3000重量ppmのB4Cを添加することにより、870℃焼成で、μiが450以上、かつ、Qが80以上の、インダクタ用として好適なフェライト焼結体が得られる。
【0036】
(実施例4)
まず、フェライト原料として、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOの粉体を用意した。その後、Fe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOとなるように各原料を秤量し、これに表4に示すように、B4C粉体を200〜1000重量ppm、さらにMn2O3、金属Mn、Mn(CH3COO)2をMn2O3換算で0〜7000重量ppmの範囲で添加しボールミルにて湿式混合を行い、乾燥した後、700℃で仮焼した。その後、この仮焼済み原料をボールミルで湿式粉砕し、バインダーを加えてスラリー化し、ドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。
【0037】
次に、得られたグリーンシートを積層、圧着し、外径20mm、内径10mm、厚み2mmのトロイダルリングにカットした。その後、870℃で2時間焼成してフェライト焼結体を得た。
【0038】
次に、得られたフェライト焼結体について、インピーダンスアナライザにより、測定周波数100kHzの条件で、μiおよびQを測定した。その結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
表4から明らかなように、フェライト原料にB4Cに加えて、さらにMnまたはMn化合物を添加することにより、特に試料番号32〜34、37〜39に示すようにMn2O3換算での添加量を100〜5000重量ppmの範囲内とすることにより、μiが705以上、かつQが92以上の良好なフェライト特性が得られる。
【0041】
(実施例5)
まず、フェライト原料として、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOの粉体を用意した。その後、Fe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOとなるように各原料を秤量し、これに表5に示すように、B4C粉体を1000重量ppm、Mn2O3を0〜7000重量ppmの範囲で添加しボールミルにて湿式混合を行い、乾燥した後、700℃で仮焼した。その後、この仮焼済み原料をボールミルで湿式粉砕し、バインダーを加えてスラリー化し、ドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。
【0042】
次に、得られたグリーンシートを積層、圧着し、外径20mm、内径10mm、厚み2mmのトロイダルリングにカットした。その後、870℃で2時間焼成してフェライト焼結体を得た。
【0043】
次に、得られたフェライト焼結体について、体積抵抗率logρ(Ω・cm)を測定した。その結果を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表5から明らかなように、フェライト原料にB4Cに加えて、さらにMn化合物の1種としてのMn2O3を添加することにより、特に試料番号43〜48に示すようにMn2O3添加量を100〜5000重量ppmの範囲内とすることにより、フェライト焼結体の体積抵抗率を向上させることができる。
【0046】
(実施例6)
まず、フェライト原料として、Fe2O3、ZnO、CuO及びNiOの粉体を用意した。その後、Fe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOとなるように各原料を秤量し、これに表6に示すように、B4C粉体を1000重量ppm、Mn2O3を0〜7000重量ppmの範囲で添加しボールミルにて湿式混合を行い、乾燥した後、700℃で仮焼した。その後、この仮焼済み原料をボールミルで湿式粉砕し、バインダーを加えてスラリー化し、ドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。
【0047】
次に、図1に示すように、得られたグリーンシート1に、Agペーストを用いて、インダクタアレイパターンとなる内部導体2、3、4および5を印刷により形成した。その後、内部導体を形成したグリーンシートの上下面に、内部導体の印刷されていないグリーンシートを複数枚積層し、圧着して積層体を得た。これを870℃で2時間焼成した。
【0048】
次に、図2に示すように、得られた焼結体6の外表面上であって、内部導体2〜5(図1参照)がそれぞれ引出されている各部分上に、Agペーストを塗布し、大気中800℃で30分間焼成し、外部導体7、8、9、10、11、12、13および14をそれぞれ形成した。
【0049】
このようにして得られたインダクタアレイ15(チップサイズ:3.2L×1.6W×1.0Tmm)について、耐湿負荷試験を行なった。結果を表6に示す。
【0050】
なお、耐湿負荷試験は、温度85℃、相対湿度85%の条件下で、外部導体7および8と外部導体9および10との間、並びに外部導体11および12と外部導体13および14との間に、50Vの直流電圧を2000時間連続印加した。そして、途中、外部導体7および8と外部導体9および10との間、または外部導体11および12と外部導体13および14との間に50Vの電圧を印加して絶縁抵抗を測定し、フェライト焼結体の抵抗値の変化を求めた。
【0051】
【表6】
【0052】
表6から明らかなように、フェライト原料にB4Cに加えて、さらにMn化合物の1種としてのMn2O3を添加することにより、特に試料番号52〜54に示すようにMn2O3添加量を100〜5000重量ppmの範囲内とすることにより、耐湿負荷試験でフェライト焼結体の絶縁抵抗が低下することのない、すなわちAg導体のフェライト焼結体へのマイグレーションが抑えられた、信頼性に優れたインダクタを得ることができる。
【0053】
なお、上記各実施例においては、フェライト原料組成が、Fe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOの場合について説明したが、本発明は、この組成に限定されるものではない。Ni−Cu−Zn系フェライトの他の組成や、例えば、Ni−Zn系フェライトなどの、Ni、CuおよびZnのうちの少なくとも2種以上の元素を含むフェライトにおいても、高いμiおよびQを得るという、同様の効果が得られる。
【0054】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の製造方法によれば、フェライト原料にB4Cを添加して焼成することにより、高いμiおよQを有するフェライト焼結体を得ることができる。
【0055】
特に、Ni−Cu−Zn系のフェライトにおいて、870℃焼成で、μiが450以上、かつ、Qが80以上の、インダクタ用として好適なフェライト焼結体を得ることができる。
【0056】
また、フェライト原料に前記B4Cに加えて、さらにMnまたはMn化合物を添加して焼成することにより、さらに高いμiおよQを有するとともに、体積抵抗率が高く、かつ内部電極のマイグレーションなどによる絶縁抵抗の低下を防止することができる、積層チップインダクタなどのインダクタ用として好適なフェライト焼結体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で作製されたグリーンシートを示す平面図である。
【図2】図1に示すグリーンシートを用いて製造されたインダクタアレイの外観を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 グリーンシート
2〜5 内部導体
6 焼結体
7〜14 外部導体
15 インダクタアレイ
Claims (6)
- フェライト原料に、10〜3000重量ppmのB 4 Cを添加して、焼成することを特徴とする、フェライト焼結体の製造方法。
- 前記フェライト原料に、前記10〜3000重量ppmのB4Cに加えて、さらにMnまたはMn化合物を添加して焼成することを特徴とする、請求項1に記載のフェライト焼結体の製造方法。
- 前記フェライト原料へのMnまたはMn化合物の添加量は、Mn2O3に換算して100〜5000重量ppmであることを特徴とする、請求項2に記載のフェライト焼結体の製造方法。
- 前記フェライト原料は、Ni、CuおよびZnのうちの少なくとも2種以上の元素を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のフェライト焼結体の製造方法。
- 前記フェライト原料の組成は、Fe2O3が45.0〜50.0モル%、ZnOが0〜50.0モル%、CuOが0〜20.0モル%、NiOが残部、であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のフェライト焼結体の製造方法。
- 前記フェライト焼結体はインダクタ用であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のフェライト焼結体の製造方法。
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