JP3604322B2 - 超音波流量計 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波のドップラ偏移を利用して流体の流量を測定する超音波流量計に関し、特に、例えば雨水排水や農業用水用あるいは工業用水や下水道水用として既に設置されている流体機械の保守管理などとしてなされる能力評価などのための流量測定に好適な超音波流量計に関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波のパルスを流体中に放射し、その流体中での散乱におけるドップラ偏移を利用して流体の流量を測定する流量検出装置(超音波流量計)については、例えば特開平10−239127号公報や特開平10−281832号公報に記載のもの、また特開平5−1929号公報や特開平10−246660号公報に記載のもの、あるいは「超音波パルスドップラー法における高精度流量算出に関する考察」(日本機械学会論文集,B編64巻622号:平成10年6月,白畑洋氏ほか3名共著)の148〜155ページに記載のものなどが知られている。
【0003】
これらで知られるパルスドップラ式の超音波流量計では、例えば排水ポンプの吐出管における流量を測定する場合であれば、その測定対象である流路(吐出管)の管壁外面に超音波送受波器を取り付け、この超音波送受波器から所定周波数の超音波のパルスをバースト状に発信する。そして管路を流れる排水中に混入している砂や気泡などの微小粒子で散乱された超音波を上記の送受波器で受信する。その受信波には微小粒子の移動速度、すなわち排水の流速に基づく周波数のドップラ偏移を受けた信号が入っている。したがって周波数分析によりドップラ偏移周波数を求め、下記の式(1)から流速Vを検出することができる。
V=CΔf/2f0cosθ (1)
ここに、Cは測定対象流体中での音速、f0 は送信超音波の周波数、Δfはドップラ偏移周波数、そしてθは超音波の進行方向と流路管壁とがなす角度である。
【0004】
この流速Vを流路の径方向にわたって複数位置で検出する。各検出位置Lは下記の式(2)により求められる。
L=C・t・sin θ/2 (2)
ここに、tは散乱超音波を受信するゲートタイミング時間である。この信号取り込のゲートタイミングに応じて検出位置を変えることができる。そしてこのようにゲート時間を変えることにより流路の径方向における流速分布が得られ、この流速分布を流路断面について積分することにより流量を求めることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような超音波流量計については、測定対象の流体とそれが流れる流路の管壁との音響インピーダンス(媒体の密度に音速を乗じた物性値)が大きく異なるため、その境界面で生じる超音波の反射波やその残響に起因する大きなノイズにより測定精度が低下してしまうという問題がある。すなわち流体と管壁の境界面で生じる超音波の反射波やこの反射波が減衰しにくいために生じる残響波が大きな振幅のノイズをもたらす。そしてこのノイズが微小な振幅のドップラ信号に対して信号対ノイズ比率を低下させ、その結果、測定が実際上不可能な領域を生じ、流量の測定精度を低下させ、また測定範囲を狭めてしまう。
【0006】
このような問題について、上記特開平10−281832号公報には一つの解決方法が示されている。この方法では、ノイズの大きい送受波器取付け管壁近傍については管壁近傍以外のデータを外挿することで測定精度を高めたり、広い測定範囲をとれるようにしている。この方法はそれなりに有効であるといえる。しかしそれで得られる改善程度では未だ不十分である。すなわち大きなノイズは送受波器取付け管壁近傍に集中するものの、送受波器取付け管壁の反対側の管壁による反射や残響によるノイズもかなりの程度でS/N比を低下させる。そのため高精度な測定を広い範囲で行なえるようにするには、これら送受波器取付け管壁近傍以外におけるノイズいついても対処が必要となる。
【0007】
ここで、送受波器取付け管壁の近傍における大きなノイズについては、送受波器を流路管壁の複数箇所に取り付けることで対処することが考えられる。すなわち例えば二つの送受波器を流路を挟んで対向するように設置すれば、それぞれの取付け管壁の近傍については対向する送受波器により低ノイズのデータを得ることができ、取付け管壁の近傍における大きなノイズの影響をなくすことができる。しかし例えば既設の雨水排水用ポンプ設備などの場合には、例えば曲管部分だけであるというように、その流路管が外部に露出している部分が非常に限られている。そしてその露出している曲管部分も送受波器を取り付けることのできる位置が限られており、送受波器の対向設置を行なえない場合が多い。つまり既設の流体機械についてその性能検査などのために行なう流量測定では、複数の送受波器を用いることでノイズの影響をなくす手法を用いることをできない場合が多いということである。
【0008】
またドップラ式の超音波流量計におけるノイズの低減に関しては、上記特開平5−1929号公報にフィルタを用いる方法が示され、上記特開平10−246660号公報に位相差を用いる方法が示されている。これらの方法はそれなりにノイズの低減を図れるものの、十分であるとは言えない。すなわちフィルタで除去できるノイズの範囲は狭いものであり、反射や残響によるノイズの除去にはそれほど有効でない。また位相差法も除去できるノイズの条件に制約がある。
【0009】
したがって本発明の目的は、測定に伴うノイズの影響をより効果的に低減することで、より高い精度で流路中の流体流量を計測することを可能とする超音波流量計を提供することにある。また本発明の目的は、既設の流体機械のように送受波器の取り付けに制限があるような条件での測定においも高精度な流量計測を可能とする超音波流量計を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、流体が流れる流路の管壁に取り付けた送信手段あるいは超音波送受波手段から放射される超音波が前記流体中で散乱されて生じる散乱波をゲート時間の制御により複数の測定位置ごとで受信し、この各測定位置ごとの受信散乱波に生じているドップラ偏移に基づいて前記流路における径方向での流体の流速分布を求め、この流速分布から前記流路における流体の流量を求めるようになっている超音波流量計において、超音波送信直後に発生する、前記流路管壁による超音波の反射及び残響に起因するノイズの信号波形を取り込んでキャンセル用ノイズ信号として記憶する記憶手段を備えるとともに、流速分布測定のための測定で得られる測定信号と前記記憶手段に記憶されているキャンセル用ノイズ信号との差分をとる演算手段を備えたことを特徴とする超音波流量計を開示する。
【0011】
更に本発明は、上記記憶手段に記憶するキャンセル用ノイズ信号は、静止流体状態で計測したものとする超音波流量計を開示する。
【0012】
更に本発明は、ノイズ信号の取り込みを複数回行い、これで得られた複数のノイズ信号を平均してキャンセル用ノイズ信号を形成するようにされている超音波流量計を開示する。
更に本発明は、超音波送受波手段が受信した測定信号からドップラ信号を取り出す周波数偏移検出手段と、この周波数偏移検出手段で取り出したドップラ信号とノイズ信号との差分をとる演算手段を含む処理系が2系統で設けられている超音波流量計を開示する。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1に第1の実施形態による超音波流量計の構成例を機能ブロック図で示す。図では超音波送受波器である超音波プローブを1個だけ用いる場合を示しているが、複数個の超音波プローブを用いる場合も基本的には同様である。以下では図1の超音波流量計を例えば既設の雨水排水用ポンプ設備における鋼鉄管や鋳鉄管で形成された流路1に流れる流体2の流量測定に用いる場合であり、この流路1における流量を測定することにより、既設の雨水排水用ポンプ設備の能力を検査する場合を例にとって説明する。
【0014】
超音波パルスの送受を行う超音波プローブ3は流路の管壁1wに取り付けられる。この超音波プローブ3には、流量計制御器14の制御の下に送信パルス発生器5で生成され、それから送信アンプ7で増幅された所定の周期、パルス数のバースト波状の電気信号が与えられる。超音波プローブ3は、この電気信号を超音波4に変換して流体2中に放射する。流体中に放射されるバースト波状の超音波4の一例を、その生成に用いられる電気信号、それに後述するゲート信号との関係とともに図2に示す。そのバースト波に含まれるパルス数は例えば256個であり、このパルス数に応じた回数で各測定点(各測定位置)における測定が繰り返される。つまり、流路1にその径方向でN個の測定点を設定したとすれば、このN個の測定点それぞれごとにパルス数に応じた測定が繰り返される。なお図2では一つのパルス中に超音波を3サイクルで描いてあるが実際には放射する超音波の周波数に応じたサイクルが含まれることになる。
【0015】
放射された超音波4は、流体2に含まれている微小な砂などの散乱性微粒子により散乱される。散乱超音波は、散乱性微粒子の移動速度つまり流体2の流速に応じたドップラ偏移を受ける。そしてこのドップラ偏移を受けた散乱超音波の一部が超音波プローブ3に入射して電気信号に変換されることで測定信号として受信される。超音波プローブ3からの出力信号は受信アンプ7で増幅される。受信アンプ7の出力は、送信パルス発生器5からのパルス信号(基準信号)とともに周波数偏移検出手段である平衡変調器8に入力し、そこで混合された後、ローパスフィルタ9を通過し、これにより超音波プローブ3の出力信号からドップラ偏移に関する情報が乗っている低周波の信号、つまりドップラ信号が取り出される。その信号の位相波形の例を図3に示す。ドップラ信号は、送信超音波のパルス周期に同期した波形がバースト波に含まれるパルス数に応じた数で連続したものとして得られる。図3に見られるように、パルス送信周期一周期期間の波形のA期間には大きな振幅をもつ波が発生している。これはパルスドップラ法による流量測定に伴う管壁と流路との境界面における反射波やその残響波などに起因するノイズ等によるものである。ノイズは、測定対象の流路の管壁の材質や構造も含めた測定系の条件に応じて固定的に生じるものであり、ほぼ一定の波形を示し、超音波プローブ3が取り付けられている管壁1wの近傍において特に大きくなる。そのためA部に大きな振幅の波を発生させる。ドップラ信号はこの大きな振幅のノイズ信号に重畳されている。したがってこれをそのまま処理しようとすると、後段のサンプリングホールド回路16などで振幅が飽和してしまうなどの問題から、求めるドップラ信号を得られなくなってしまう場合がある。
【0016】
ここで、ドップラ偏移成分の取得方法について図5と図6を参照して説明すると以下の通りである。図5は、図3と同様な図であるが、図3の場合よりも多くの周期を示してある。図6は、図5における▲1▼、▲2▼、▲3▼・・・等の各周期(受信信号の周期)について一定のゲートタイミング(ゲート位置)でゲート時間TG にて取り込んだ信号の各周期ごとの時間的変化として表示し直したものである。図に見られるように、各周期(図中に1、2、3、4、5の数字で示してある)においては、ドップラ偏移による位相変化を電圧で表したものであるドップラ信号位相電圧DSが変化しており、この変化の周波数が求めるドップラ偏移周波数である。すなわちドップラ偏移成分は、各周期(受信信号の周期)におけるゲートタイミング時の受信信号の振幅が測定位置における流体の流速(散乱微粒子の移動速度)に応じた周期で変動することに基づいて得られるものであり、その変動する振幅の周期間の差として得られるものである。
【0017】
次ぎに、本発明の理解の参考までに、図12に示す従来の超音波流量計におけるドップラ信号の処理について説明する。ローパスフィルタ9から出力されたドップラ信号は、ゲート回路15において位置に関する抽出を受ける。つまり送信パルス発生器5からの信号で制御されるゲート回路15によりゲートタイミングを設定することで特定の測定点についてのドップラ信号を取り込む。これにより生成された特定位置ドップラ信号は、抽出電圧保持用のサンプリングホールド回路16を経ることで当該測定点についての連続波に成形される。つまり上記のように一つのバースト波が256パルスで形成されているとすると、一つの測定点について256回の信号取り込みがあることになり、この256個の信号が当該測定点についての連続波に成形される。
【0018】
サンプリングホールド回路16で連続波化された特定位置ドップラ信号は、フィルタ17を経て周波数分析器17に入力する。例えばスペクトルアナライザやFFT(Fast Fourier Trasform)などが用いられる周波数分析器17は、特定位置ドップラ信号からその測定点におけるドップラ偏移周波数を求める。そしてこのドップラ偏移周波数から上記式(1)により、当該測定点における流速が流速・流量計算機19にて算出される。測定位置はゲートタイミングを変えることにより順次移動させることができ、これにより流路内における流速分布が求まるので、この流速分布を用いて、流速・流量計算機19が流量を算出する。
【0019】
上記のように受信信号には大きな振幅のノイズ信号が重なっている。そのため以上のような従来の超音波流量計における信号処理では、このノイズに影響されて目的とするドップラ信号を取り出すことができない場合がある。具体的には図3のA部におけるようにノイズの振幅が特に大きい部分ではドップラ信号を取り出すことが実際的に不可能である。本発明ではこの問題を解決するために、ノイズの波形を別個に取り込んでおき、測定信号の処理に際してこのノイズ波形を測定信号波形から差し引くことにより、測定信号からノイズ成分を除去するようにしている。このような処理を可能とするのは、上記のようにノイズが測定系の条件に応じた固定的なものであることによる。つまりノイズの波形が固定的なものであることから、別個に取り込んで保持しておいたノイズ波形と各ゲートタイミングごとの測定信号波形との差分をとることにより、ノイズ成分が除去されたドップラ信号を得ることが可能である。
【0020】
ノイズ波形の取り込みは、流量測定に先立って行なうのが通常であるが、例えば既設の流体機械の性能検査などのために行なう流量測定のようにリアルタイム性を必要としない場合には、流量測定のための測定信号を取り込んだ後に行なうことも可能である。またノイズ波形の取り込みは、流路に流体が流れていない状態でも行なえるし、流路に流体が流れている状態でも行なえる。流路に流体が流れている状態でもノイズキャンセル用のノイズ波形の取り込みを可能とする理由は、上記したようなドップラ偏移成分の取得方法に基づいている。すなわちドップラ偏移成分は、一つの測定点において所定回数繰り返される各測定ごとに異なる振幅値の差として得られるものであり、したがって上記の説明で用いた例であれば、例えば▲1▼の周期における測定信号を基準信号として記憶しておき、他の▲2▼、▲3▼、▲4▼・・・の各信号からこれを差し引くことにより、ノイズ成分をキャンセルしてなおドップラ偏移成分はそのまま得ることができる。
【0021】
以下では流量測定に先立って流路に流体が流れていない状態でノイズ波形の取り込みを行なう場合を例にとって本実施形態の超音波流量計(図1)における信号処理について説明する。まず流路1に水が流れていない状態で、流量計制御器14からの指令で一周期分の超音波パルスを流路1に放射する。放射された超音波パルスは、流路1の管壁1wでの反射やその反射波の繰り返しによる残響波を生じ、これらが主な原因となってノイズ波を発生させる。このノイズ波は超音波プローブ3に入射してノイズ信号として受信される。ノイズ信号は、上記における測定信号と同様に、受信アンプ7、平衡変調器8およびローパスフィルター9を経ることで、測定信号に対し、それに含まれるノイズ信号をキャンセルことを可能とする低周波信号(キャンセル用ノイズ信号)となって出力される。キャンセル用ノイズ信号は、アナログ信号を入力してディジタル信号を出力するA/D変換器11にてアナログ信号からディジタル信号に変換された後、半導体記憶素子例えばRAMなどが用いられる記憶回路11にその波形を記憶される。
【0022】
このようにしてノイズ波形の取り込みが終了したら、その後は上記したようにして流量測定用のバースト波の放射とそれが流体により散乱された散乱波の受信がなされ、これに応じてローパスフィルター9からはノイズ信号が重畳されたドップラ信号が出力される。本発明の場合にはこのドップラ信号は、演算手段である減算器13に入力し、記憶回路11から取り出されてディジタル信号を入力してアナログ信号を出力するD/A変換器12にてディジタル信号からアナログ信号に変換された後に同じく減算器13に入力するノイズ信号との間で差分を取られ、これによりノイズが除去された信号となる。このようにして図3の信号からノイズが除去されて得られる信号の例を図4に示す。図に見られるようにノイズ除去がなされた信号は微少なドップラ信号を効果的に取り出すのに十分な波形となっている。ノイズ除去がなされた以降の信号処理は上で説明した従来の超音波流量計におけるとれと同様である。
【0023】
ここで、以上の説明ではノイズ波形の取り込みを一周期の全体について行なうことを前提にしていたが、ノイズ信号の振幅が一定以上に大きい部分、具体的には図3のA部についてのみノイズ波形を取り込むようにしてもよい。すなわちノイズの影響が大きい部分についてだけノイズのキャンセルを行なうようにするものである。このようにすることで、記憶回路11の容量を節約することができる。また上記のように各測定位置ごとに測定を繰り返す場合には、各測定位置の近傍におけるノイズ波形だけを取り込み、この部分ノイズ波形で各測定位置ごとにノイズのキャンセルを行なうようにする方式も可能であり、この方式によっても記憶回路11の容量を節約することができる。さらにノイズ波形の取り込みに関しては、それを複数回行なう、つまり複数の周期(複数のパルス)についてノイズ信号を取り込み、その複数のノイズ信号から平均値として得られるノイズ信号をキャンセル用ノイズ信号として記憶するようにすることも好ましい形態である。このようにすることで、より効果的にノイズの低減を行なえるようになる。すなわち一つの周期だけで取り込んだ場合であると、その周期に特異的なノイズがある場合にはこの特異的なノイズにより、ノイズキャンセルを効果的に行なえなくなってしまう可能性があるが、平均値をとることにより、このような問題を避けることができる。
【0024】
以上のようにしてノイズをキャンセルすることで目的のドップラ信号をより効果的に取り出すことができるようになるが、以下のような処理をこれに付加することもできる。図7に示すのは図3と同様なローパスフィルター9からの出力信号の波形であるが、大きな振幅のノイズが重畳している区間Aが超音波プローブ3を取り付けた管壁1wの近傍の狭い範囲に限られる場合である。このようなことは管壁1wの材質や厚みなどの条件によりままあることである。このような場合には、パルス送信周期の全域を測定するのではなく、反射や残響ノイズが小なるBの区間のみ測定する。信号の取り込み範囲を区間Bに制限する制御は、流量計制御器14が行なう。つまり区間Aの幅を流量計制御器14で監視し、それが一定以下であった場合には区間Bについてのみ信号を取り込むようにする。
【0025】
このように信号の取り込み範囲(取り込み位置)を制限した場合には、信号の取り込みがなされなかった区間Aの処理の仕方として以下の二つの方法がある。一つは、区間Bの信号に基づいて区間Aを外挿する方法である。その例は特開平10−281832号公報に示されている。他の方法は、超音波プローブを対にして用いる方法である。すなわち流路を挟んで対向する位置のそれぞれに超音波プローブを取り付け、一方の超音波プローブでは信号の取り込みをなさなかった区間にいつては他方の超音波プローブで取り込むようにする。このような方法は測定対象の流体機械が超音波プローブの対使用を許す条件の場合にだけ用いることができるものであり、例えば既設の雨水排水ポンプ設備などでは流水管が曲管部分などでほんの一部を外部に露出させている場合が多く、このような条件では超音波プローブの対使用は一般に困難である。
【0026】
このように区間Aの幅が一定以下である条件で信号の取り込み区間を制限する方法は、実際の信号を得ることができない区間を一定以下に抑えることができ、それだけ測定精度を高めることができる。したがってこのような信号取り込み区間制限方式を上記ノイズキャンセル法に適宜組み合わせることで、より高精度な流量測定が可能となる。ただ条件によっては、ノイズキャンセル法を用いずに信号取り込み区間制限方式だけを用いても必要な精度で流量測定を行なえる場合もあり、そのような場合には信号取り込み区間制限方式だけで測定を行なうようにしてもよい。以上のような区間制限方式を用いる否かを決める区間Aの幅の程度は、必要な測定精度などの条件を考慮して適宜に選択することになる。
【0027】
以上のような信号の取り込み区間を制限する考え方は他の形態で用いることもできる。例えば図8に示すような位相波形の測定信号が得られる場合には、全体としてノイズ信号にドップラ信号が埋没している。しかしノイズ信号の振幅が小さい部分においてはドップラ信号を効果的に取り出すことが可能である。そこで、ノイズ信号の振幅が一定以下である微小区間(時間)P1、P2、P3・・Piを抽出し、その区間付近にのみゲート位置を設定して信号を取り込むようにする。これらの制御は、図1の構成例であれば、流量計制御器14が行なうことになる。この場合にも必要な測定精度などの条件を考慮して、振幅のレベルを適宜に選択することになる。
【0028】
図9に第2の実施形態による超音波流量計の構成例を機能ブロック図で示す。本実施形態による超音波流量計は流路中に逆流部分を生じている場合でも流量の測定を高精度で行なえるようにしたタイプである。例えば既設の雨水排水用ポンプ設備の能力を検査するなどの場合には、ポンプ設備の流路配管がその曲管の部分だけで露出しているだけであり、この曲管部分で流量測定を行なわざるを得ないような場合がある。そして曲管部分においては流速の不均一性が大きくなり、負の流速つまり逆流も生じる場合がある。そのためこの逆流の流速も測定することができないと高精度な流量測定を行なえなくなる。本実施形態による超音波流量計はこのような要求にも応えることができる。
【0029】
そのために本実施形態による超音波流量計では、受信アンプ7から周波数分析器18まで至る信号処理回路が実部用と虚部用として2系統で設けられている。2系統の各信号処理回路は、それぞれ実部ドップラ信号と虚部ドップラ信号を検出する。そして周波数分析器18は、実部信号と虚部信号とによる複素信号を入力として周波数分析を行い、これにより正流と逆流の識別分析を可能としている。
【0030】
以下、本実施形態における信号処理について説明する。流量計制御器14からの送信パルス制御信号26により送信パルス発生器5では、送信パルス信号22を生成して出力するとともに、2系統の信号処理回路における各平衡変調器8に出力する変調信号23、24を生成する。送信アンプ6は、送信パルス信号22を増幅して超音波プローブ送・受信信号20として出力する。超音波プローブ3は、超音波プローブ送・受信信号20に対応した超音波を流路1中に放射する。この放射された超音波が流路1を流れる流体2中で散乱されて発生する散乱波の一部が超音波プローブ3に入射して電気信号に変換されることで測定信号として受信される。超音波プローブ3からの出力信号は受信アンプ7で増幅され、受信アンプ出力信号21となる。受信アンプ出力信号21は各平衡変調器8に被変調信号として入力される。各平衡変調器8は、被変調信号21を変調信号23、24により変調し、実部変調出力27ないし虚部変調出力28を出力する。ここで変調信号23、24は、繰返し周波数が送信パルスの繰返し周波数と同じで、それぞれの位相が90度異なった信号である。
【0031】
各ローパスフイルタ9は、実部変調出力27と虚部変調出力28のそれぞれから低域成分のみを通過させ、実部ローパスフイルタ出力信号29ないし虚部ローパスフイルタ出力信号30を出力する。これらの実部ローパスフイルタ出力信号29と虚部ローパスフイルタ出力信号30はそれぞれの系統の記憶回路(差分処理回路)25に、流量計制御器14からの記憶回路制御信号31ないし32とともに入力する。各差分処理回路25は、上述したようにして予め取り込んであるノイズ信号の波形を記憶しており、このノイズ信号とローパスフイルタ出力信号29ないし30との差分をとることにより、実部差分出力信号33ないし虚部差分出力信号34を出力する。各ゲート回路15は、実部差分出力信号33ないし虚部差分出力信号34とゲート信号31ないし32を入力とし、上述したような位置に関する抽出を行ない、実部ゲート出力信号37ないし虚部ゲート出力信号38を出力する。各サンプリングホールド回路16は、実部ゲート出力信号37ないし虚部ゲート出力信号38と流量計制御器14からのサンプリング信号41ないし42を入力とし、実部サンプリングホールド出力信号39ないし虚部サンプリングホールド出力信号40を出力する。各フイルタ回路17は、実部サンプリングホールド出力信号39ないし虚部サンプリングホールド出力信号40を入力とし、実部フイルタ出力信号43ないし虚部フイルタ出力信号44を出力する。この実部フイルタ出力信号43と虚部フイルタ出力信号44は何れも周波数分析器18に入力する。周波数分析器18は、これら実部フイルタ出力信号43と虚部フイルタ出力信号44に対して周波数分析を行い、周波数分析出力信号45を出力する。そして流速・流量計算機19がこの周波数分析出力信号45から流速と流量を算出する。算出結果は、図外のディスプレイなどに表示するのが通常である。
【0032】
図10に図9の記憶回路25の具体的な構成例を示す。第一の低域濾波器46は、ローパスフイルタ出力(29、30)を入力とし、アナログディジタル変換回路48の標本化周波数及び差分処理成分の帯域により決定される成分を通過するように設定された遮断周波数以下の成分のみを通過させ、第一の低域濾波出力信号58を出力する。サンプリングホールド回路47は、第一の低域濾波出力信号58と記憶制御回路53からのサンプリングホールド信号54を入力とし、サンプリングホールド出力59を出力する。アナログディジタル変換回路48は、サンプリングホールド出力59と記憶制御回路53からのアナログディジタル変換制御信号55を入力とし、アナログディジタル変換出力信号60を出力する。ここでアナログディジタル変換回路48のサンプリング周期及び量子化ビット数は、上記のようなノイズを低減するために効果のある周波数帯域及びダイナミックレンジが得られる値に設定する。またサンプリング周期は送信パルスの繰返し周期(t)及び送信周期(Ts)と同期が取れる値に設定する。
【0033】
記憶素子49は、アナログディジタル変換出力信号60と記憶制御回路53からの記憶素子制御信号56を入力とし、アナログディジタル変換出力信号60の予め定められた期間分の信号をキャンセル用ノイズ信号として記憶する。記憶した信号は必要時に記憶素子制御信号56により記憶出力信号61として出力される。ラッチ回路50は、記憶素子出力信号61のタイミングを揃えるためのもので、記憶出力信号61とラッチ制御信号57を入力とし、ラッチ出力信号62を出力する。ディジタルアナログ変換回路51は、ラッチ出力信号62を入力とし、ディジタルアナログ変換出力信号63を出力する。第2の低域濾波器52は、ディジタルアナログ変換出力信号63を入力とし、第2の低域濾波器出力信号64を出力する。ここで第2の低域濾波器52の遮断周波数としては例えば第1の低域濾波器46の遮断周波数と同じ値に設定する。演算手段である差分回路66は、第2の低域濾波器出力信号64とローパスフイルタ出力(29、30)を入力とし、両入力信号の差信号である差分出力信号34を出力する。ここで差分回路66は、低減すべきノイズ成分をできるだけ除去できるように両信号の振幅または利得などにより設定する。記憶制御回路回路53は、流量計制御器14から出力される記憶タイモング制御信号、差分タイミング制御信号及び記憶素子記録・読み出し制御用クロック信号からなる記憶回路制御信号群32を入力とし、上記の制御信号54、55、56及び57を生成し出力する。以上のように本実施形態では、記憶素子49の構成要素として、半導体メモリなどのディジタルメモリを用いた回路構成としていたが、これに代えてアナログメモリを用いても同様の処理が可能である。その場合にはアナログディジタル変換器48やディジタルアナログ変換機51及び関連回路が不要となるなどの利点がある。
【0034】
図11に、上記した複数の周期についての平均としてノイズキャンセル信号を記憶する場合の図10における記憶素子49の構成例を示す。加算回路67は、アナログディジタル変換出力信号60と記憶素子出力信号61を入力としてこれらを加算し、加算回路出力信号65を出力する。この加算回路67は、予めアナログディジタル変換出力信号60の平均値サンプル数で除して加算することにより、平均値としてノイズキャンセル信号(加算回路出力信号65)を得ることが出来る。メモリ68は、加算回路出力信号65と制御信号56を入力として加算回路出力信号65を記憶し、必要時に記憶素子出力信号61として出力する。
【0035】
以上の各実施形態における超音波流量計は何れもアナログ方式を基本とするものであったが、これに代えてディジタル処理による方式についても、以上に説明した本発明の構成を適用することが可能である。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、流路管壁での超音波の反射や残響などに起因するノイズの影響を効果的に低減することができ、パルスドップラ式による流量測定をより高い精度で行なうことが可能となる。また本発明によれば、既設の流体機械についての性能検査などのように流量測定に制約が多い条件でも高精度な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態による超音波流量計の構成を示すブロック図である。
【図2】超音波のパルス波形をその生成に用いられる電気信号、それにゲート信号との関係とともに示す図である。
【図3】ノイズ成分の除去を行なう前のドップラ信号の位相波形図である。
【図4】ノイズ成分の除去を行なった後のドップラ信号の位相波形図である。
【図5】超音波のパルス波形図である。
【図6】図5における各ゲートタイミングにおいて取り込んだ信号の各取り込み時における時間的変化として表示し直した電圧変化図である。
【図7】振幅の大きいノイズ成分が乗っている区間が狭い例のドップラ信号の位相波形図である。
【図8】振幅の大きいノイズ成分と振幅の大きいノイズ成分が混在して乗っているドップラ信号の位相波形図である。
【図9】第2の実施形態による超音波流量計の構成を示すブロック図である。
【図10】図9の超音波流量計における記憶回路の内部構成のブロック図である。
【図11】複数の周期についての平均としてノイズキャンセル信号を記憶する場合の図10における記憶素子の内部構成のブロック図である。
【図12】従来の超音波流量計の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 流路
2 流体
3 超音波プローブ(超音波送受波手段)
4 超音波
8 平衡変調器(周波数偏移検出手段)
11 記憶回路(記憶手段)
13 減算器(演算手段)
14 流量計制御器(監視手段)
15 ゲート回路
49 記憶素子(記憶手段)
66 差分回路(演算手段)
Claims (4)
- 流体が流れる流路の管壁に取り付けた送信手段あるいは超音波送受波手段から放射される超音波が前記流体中で散乱されて生じる散乱波をゲート時間の制御により複数の測定位置ごとで受信し、この各測定位置ごとの受信散乱波に生じているドップラ偏移に基づいて前記流路における径方向での流体の流速分布を求め、この流速分布から前記流路における流体の流量を求めるようになっている超音波流量計において、超音波送信直後に発生する、前記流路管壁による超音波の反射及び残響に起因するノイズの信号波形を取り込んでキャンセル用ノイズ信号として記憶する記憶手段を備えるとともに、流速分布測定のための測定で得られる測定信号と前記記憶手段に記憶されているキャンセル用ノイズ信号との差分をとる演算手段を備えたことを特徴とする超音波流量計。
- 上記記憶手段に記憶するキャンセル用ノイズ信号は、静止流体状態で計測したものとする請求項1の超音波流量計。
- ノイズ信号の取り込みを複数回行い、これで得られた複数のノイズ信号を平均してキャンセル用ノイズ信号を形成するようにされている請求項1に記載の超音波流量計。
- 超音波送受波手段が受信した測定信号からドップラ信号を取り出す周波数偏移検出手段と、この周波数偏移検出手段で取り出したドップラ信号とノイズ信号との差分をとる演算手段を含む処理系が2系統で設けられている請求項1または請求項2に記載の超音波流量計。
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