JP3603800B2 - オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材およびオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材およびオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法に関する。より具体的には、本発明は、特に中間焼鈍としての大気焼鈍と酸洗を施した後に引き続いて仕上げ調質圧延を行い、そのままで最終製品とされるオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板について、その仕上げ調質圧延に供される圧延素材と、調質圧延鋼板の製造法とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
オーステナイト系ステンレス鋼は、冷間加工を行うことによって、母相であるオーステナイト相を硬いマルテンサイト相に変態させることができる。このため、オーステナイト系ステンレス鋼は、仕上調質圧延における圧延率を適切に調整することによって、比較的簡単に所望の材料強度が得られるという特徴を有する。また、オーステナイト系ステンレス鋼には、耐食性に優れたステンレス鋼としての特徴もある。
【0003】
これらの特徴から、オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、ばね用オーステナイト系ステンレス鋼板のように外力による変形に対して優れた耐久性を示し、かつ、鋼板表面に塗装などの防錆処理を行う必要がないとともに金属光沢の美麗な外観が容易に得られ、さらに曲げ加工性も優れることから、例えば機器の筐体等の外装材(フレーム用材料)として好適な材料である。
【0004】
一般に、このオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板は、熱間圧延材に焼鈍および酸洗を行った後、中間冷間圧延と中間焼鈍とを適当な回数繰り返して行い、さらに仕上げ調質圧延を行うことによって、製造される。ここで中間焼鈍のための設備としては、大気焼鈍と酸洗とを連続して行う設備(以下、「AP焼鈍設備」という)と、還元性ガス雰囲気中で焼鈍を行う光輝焼鈍設備(以下、「BA焼鈍設備」という)との2種類がある。
【0005】
ところが、このAP焼鈍設備により中間焼鈍を行われた中間焼鈍材を素材として調質圧延を行った調質圧延材には、その表面に色調が不均一となる部分が圧延方向と並行に帯状となって現れることがあった。このように色調が不均一な鋼板を機器の筐体等の外装材として用いると、製品の外観を損ねたり、また小型の製品では同一ロット内であっても製品毎に外観品質が異なるなどの問題が生じていた。
【0006】
オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板におけるこのような色調の不均一は、一旦発生してしまうと、製品化工程で修復することは現実には不可能である。このため、色調の不均一が生じた部分を鋼板の巾方向について切断除去する必要があり、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の歩留りを大幅に低下させる原因となっていた。
【0007】
なお、BA焼鈍設備により中間焼鈍を行った中間焼鈍材を素材として調質圧延を行った調質圧延材では、このような色調の不均一は殆ど現れない。このため、全ての製品についてBA焼鈍設備を用いて中間焼鈍を行えば、この色調の不均一を簡単に解消することができるのではないかとも一見考えられる。しかし、BA焼鈍設備はAP焼鈍設備に比較すると設備コストが高い。また、要求される全ての範囲の板厚を有する鋼板が通板可能なBA焼鈍設備を設けることは、技術的に困難である。このため、製品寸法が多岐にわたる場合には、全ての製品についてBA焼鈍設備を用いて中間焼鈍を行うことは不可能であり、特定の範囲の板厚を有する鋼板に対してAP焼鈍設備を用いざるを得ないのが現状である。
【0008】
そこで、これまでにも、AP焼鈍設備による中間焼鈍材を素材として製造したオーステナイト系ステンレス調質圧延材の表面における色調の不均一を防止するための発明が、多数提案されている。例えば、特開平5−317908号公報には、圧延素材に対して予め鋼板表面のSiO2 濃化層を除去した後に調質圧延を行う発明が、また、特許第2726574号公報には、クロスロール圧延を利用して被圧延材の表面にせん断力を生じさせることにより、鋼板表面を均一にならして表面粗さを減少させる発明が、それぞれ提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平5−317908号公報により提案された発明を実施するためには、鋼板表面を研削もしくは溶削する設備を新たに設ける必要があり、設備費が著しく嵩む。また、本発明者らの知見によれば、この発明によっても色調の不均一を確実に防止できない。
【0010】
また、特許第2726574号公報により提案された発明を実施するためには、圧延機を改造する必要があり、やはり設備費が著しく嵩む。また、本発明者らの知見によれば、この発明によっても色調の不均一を確実に防止できない。
【0011】
以上述べたように、AP焼鈍設備による中間焼鈍材を素材として製造したオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板では、鋼板表面の色調に不均一が生じ、これにより、製品歩留まりが低下していた。
【0012】
本発明の目的は、特に中間焼鈍方法として大気焼鈍および酸洗を行った後に引き続いて仕上げ調質圧延を行い、そのままで最終製品とされるオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板について、その仕上げ調質圧延に供される圧延素材とその製造法とを、新たな設備を設けることなく、提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の色調の不均一の発生には、冷間圧延による粒界侵食溝の消失挙動が顕著に影響しており、この粒界侵食溝の消失挙動は、AP焼鈍設備による中間焼鈍材の表面に存在する粒界侵食溝の形態を制御すること、さらにはこの中間焼鈍材に対して行われる調質圧延の圧延条件をあわせて制御することによって確実に制御できるという、新規かつ重要な知見を得た。そこで、本発明者らは、この新規な知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成した。
【0014】
本発明は、冷間圧延鋼板であって、表面の粒界浸食溝の巾が3.0μm以上であって、かつこの粒界浸食溝の深さが1.5μm以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材である。
【0015】
さらに、本発明は、圧延素材に調質圧延を行ってオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板を製造するに際して、少なくとも、圧延素材の表面に存在する粒界侵食溝の形態を制御することにより、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の色調の不均一を抑制または解消することを特徴とするオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法である。
【0016】
この本発明にかかるオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法では、粒界侵食溝の形態とともに、調質圧延の圧延条件を制御することが望ましい。この場合において、粒界浸食溝の形態が、粒界浸食溝の巾および深さであることが例示される。この粒界侵食溝の巾は3.0μm以上であって、かつ粒界侵食溝の深さは1.5μm以上とする。
【0017】
一方、上記の本発明にかかるオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法では、調質圧延の圧延率を10〜25%とする。なお、「圧延率(%) 」とは、 (1−圧延後板厚/圧延素材板厚) ×100 により規定される。
【0018】
調質圧延を行うワークロールの表面粗さは、Raで0.10μm以下とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかるオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材およびオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
まず、本実施の形態のオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材について説明する。
[オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材]
本実施の形態のオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材は、熱間圧延を行ったオーステナイト系ステンレス熱延鋼板に対して、焼鈍および酸洗を行ってから所望の板厚とするための中間冷間圧延および中間焼鈍を適当な回数だけ繰り返して行うことにより、製造される。熱間圧延後の焼鈍、酸洗、中間冷間圧延および中間焼鈍の各手段は、特に限定するものではなく、周知慣用の手段でよい。
【0021】
本実施の形態では、最終の中間焼鈍工程において、大気焼鈍と酸洗とを連続して行うAP焼鈍設備を用いて通板条件を適宜調整することによって、得られるオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材の粒界侵食溝の形態、具体的には粒界侵食溝の巾を3.0μm以上とするとともに粒界侵食溝の深さを1.5μm以上とする。
【0022】
すなわち、粒界侵食溝の巾が3.0μm未満、もしくは粒界侵食溝の深さが1.5μm未満であると、後続して行われる調質圧延時に、表面に存在する粒界侵食溝の消失挙動が面内で不均一となり易くなり、鋼板表面に色調の不均一を発生し易くなるからである。かかる観点からは、粒界侵食溝の巾および深さのそれぞれの上限は限定する必要はないが、あまり極端に侵食すると、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材の生産性を低下させるとともに、粒内平坦部の平坦性をも著しく損ない調質圧延後の表面性状を劣化させる。このため、粒界侵食溝の巾は5.0μm以下であることが望ましく、また、粒界侵食溝の深さは3.0μm以下であることが望ましい。
【0023】
本実施の形態では、AP焼鈍設備の通板条件を調整することにより粒界侵食溝の形態を制御したが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、所望の形態、すなわち表面の粒界侵食溝の巾:3.0μm以上で、かつ粒界侵食溝の深さ:1.5μm以上に粒界侵食溝を制御することができる手段であれば、如何なる手段を用いてもよい。例えば、AP焼鈍設備による酸洗時間を長く設定する手段や、AP焼鈍設備の酸洗浴の温度を高く設定する手段、さらにはAP焼鈍設備の酸洗浴のふっ酸濃度を高く設定する手段等で実現可能である。
【0024】
本実施の形態のオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材のこれ以外の要素は、この種のオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材として公知のものと同じであればよく、特に限定を要するものではない。
【0025】
本実施の形態のオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材は、以上のように構成される。次に、このオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材を用いたオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法について説明する。
【0026】
[オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法]
上述した本実施の形態のオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材に調質圧延を行うことによって、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板を製造する。
【0027】
この際、本実施の形態では、(i)前述したように、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材の表面に存在する粒界侵食溝の形態を、粒界侵食溝の巾:3.0μm以上、かつ粒界侵食溝の深さ:1.5μm以上に制御するとともに、(ii)調質圧延の圧延条件を制御し、さらに(iii)調質圧延を行うワークロールの表面粗さをRaで0.10μm以下と限定することによって、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の色調の不均一を抑制または解消する。そこで、以下、(i)粒界侵食溝の形態と、(ii)調質圧延の圧延条件と、(iii)ワークロールの表面粗さを、順次詳細に分説する。
【0028】
(i)粒界侵食溝の形態
本発明者らは、先ず、AP焼鈍設備により中間焼鈍を行われたる中間焼鈍材を素材として製造したオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板における色調が不均一となる原因を明らかにするため、以下に説明する方法により、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材の表面に存在する粒界侵食溝の形態、ならびに冷間圧延による粒界侵食溝の消失挙動について確認実験1を行った。
【0029】
すなわち、厚さ:0.8mmのSUS304鋼からなる冷間圧延焼鈍材に対して、焼鈍後に引き続いて硝ふっ酸を用いた酸洗を行うに際し、浸せき時間を適宜変化させた。酸洗後にそれらの表面を顕微鏡により観察したところ、粒界侵食溝の巾は、略正確に1μm、2μm、3μmおよび4μmの4水準であった。
【0030】
そして、得られたこれらの圧延素材に対して、調質圧延の圧延率を5%から40%までの範囲で変化させて調質圧延を行った。この調質圧延の際、ワークロールの巾方向で部分的に接触する押さえロールを側面から押し付けて配置することにより、ロール転写模様に起因する色調不均一が発生し易い条件とした。
【0031】
このようにして、得られた圧延鋼板と圧延素材とについて、レーザー顕微鏡を用いた表面観察によって粒界侵食溝の存在面積率を測定するとともに、圧延鋼板について色調不均一の発生状況を目視で確認した。
【0032】
図1は、これらの圧延素材における粒界侵食溝の巾(W)および仕上調質圧延率と、調質圧延による粒界侵食溝の消失挙動ならびに色調不均一の発生状況との関係を示すグラフである。
【0033】
図1にグラフで示すように、粒界侵食溝の面積率は、粒界侵食溝の巾に応じて特定の圧延率範囲内で急激に変化する。このことから、粒界侵食溝はその巾に応じた特定の圧延率の範囲内でその消失を開始し始め、終了することがわかる。すなわち、粒界侵食溝の面積率が急激に変化する圧延率の範囲は、圧延素材での粒界侵食溝の巾が広い程、高圧延率側へ移動することがわかる。さらに、図1に示すグラフから、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の色調の不均一は、粒界侵食溝の面積率が急激に変化する圧延率の範囲内において発生し、それ以外の圧延率の範囲では発生しないこともわかる。
【0034】
この確認実験1の結果から、鋼板における色調の不均一の発生には、圧延による粒界侵食溝の消失挙動が密接に関係することがわかる。そして、この粒界侵食溝の消失挙動には、当然のことながら、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材の粒界侵食溝の形態、とりわけ巾が影響する。このため、粒界侵食溝の巾を適切に調整することによって鋼板の色調不均一の発生を抑止することが可能である。
【0035】
具体的には、調質圧延の圧延率を10%以上25%以下とする場合には、図1に示すグラフから、粒界侵食溝の巾が3.0μm以上である鋼板を圧延素材として用いることによって、色調の不均一を効果的に防止することができる。
【0036】
また、粒界侵食溝の深さについて、別途顕微鏡観察により測定したところ、粒界侵食溝の巾が3.0μm以上となる条件に相当する粒界侵食溝の深さは1.5μm以上である。
【0037】
このため、本実施の形態では、粒界侵食溝の形態を、粒界侵食溝の巾:3.0μm以上、かつ粒界侵食溝の深さ:1.5μm以上と限定した。
(ii)調質圧延の圧延条件
通常のオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材の表面における粒界侵食溝の巾は2μm程度であるが、このような素材を用いて圧延率10%以上25%以下の仕上げ調質圧延を行うと、図1のグラフにも示されるように、色調の不均一の発生が避けられない。すなわち、AP焼鈍設備による中間焼鈍材を圧延素材として製造したオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の表面における色調の不均一には、圧延素材の粒界侵食溝の形態と、調質圧延時における調質圧延率との不適合が影響することがわかる。
【0038】
このため、本実施の形態では、調質圧延の圧延率を10%以上25%以下と限定する。この圧延率が10%未満であると、鋼板表面の特に粒内平坦部を充分に平坦化する効果が得られず、酸洗ままの粗い表面が残留して美麗さを損なうからである。一方、この圧延率が25%を超えると、粒界侵食溝の消失が面内で不均一となって、かえって鋼板表面に色調の不均一が発生する。
【0039】
(iii)ワークロールの表面粗さ
粒界侵食溝の巾が、3.0μm以上と広いオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材を用いたオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板では、外部光源を表面へ投射した場合の映り込み、すなわち鮮映性が損なわれることがある。すなわち、調質圧延を行うワークロールの表面粗さが、Raで0.10μm超である場合には、鋼板表面の粒内平坦部を平坦化する効果が特に高いとはいえず、充分な鮮映性が実現されないためと考えられる。
【0040】
かかる問題を解決するため、表面粗さを数水準で適宜変化させたワークロールを用いて調質圧延を行った場合の、鋼板表面の鮮映性変化について確認実験2を行った。ここで、鮮映性を表す指標としては、光沢度(JIS Z8741)を用いた。
【0041】
図2は、粒界侵食溝の巾が2μmまたは4μmのオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材を、表面粗さをRaで0.05mm、0.1mm、0.15mmおよび0.2mmの4水準で変化させたワークロールを用いて調質圧延を行った場合に、得られたオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の表面の光沢度の測定値を示すグラフである。
【0042】
図2に示すグラフから明らかなように、表面粗さが小さなワークロールを用いることによって光沢度を増大させることができることがわかる。この理由は、鋼板表面の鮮映性はその表面積の大部分を占める粒内平坦部の面積率によって略決定され、粒界侵食溝の巾の変化にはさほど影響されないためであると考えられる。
【0043】
このため、本実施の形態では、上記の圧延素材に調質圧延を行うワークロールの表面粗さを、Raで0.10μm以下と限定した。これによって、鋼板表面の粒内が特に平坦化され、充分な鮮映性が確保される。なお、本実施の形態とは異なり、鋼板表面の鮮映性があまり問題にされない場合には、表面粗さがRaで0.10μm超であるワークロールを用いてもよいことはいうまでもない。
【0044】
このように、本実施の形態では、(i)オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材の表面に存在する粒界侵食溝の形態を、粒界侵食溝の巾:3.0μm以上、かつ粒界侵食溝の深さ:1.5μm以上と制御し、(ii)調質圧延の圧延率を10〜25%とし、さらに(iii)調質圧延を行うワークロールの表面粗さをRaで0.10μm以下として、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材に調質圧延を行ってオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板を製造することにより、新たな設備を設けることなく確実に、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の色調の不均一を抑制または解消することができる。
【0045】
このため、本実施の形態によれば、例えば機器の筐体等の外装材として好適なオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板を、高い歩留りで製造することが可能である。
【0046】
【実施例】
さらに、本発明を実施例を参照しながらより具体的に説明する。
通常の工程を経て製造された、SUS304鋼およびSUS301鋼のステンレス鋼からなる厚さが0.8mmである2種の冷間圧延材を、実操業用の連続大気焼鈍設備(AP焼鈍設備)を利用して、熱処理温度1100℃の大気焼鈍を行った。
【0047】
得られた鋼板を、3%のふっ酸と10から15%の硝酸とを含み、浴温度が30から50℃に調整した混酸浴で酸洗するに際して、ラインスピードを適宜変化させることによって、粒界侵食溝形状が異なるオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材を作成した。また、この圧延素材を顕微鏡観察することによって、粒界侵食溝の巾および深さを測定した。
【0048】
そして、これらのオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材を、ワークロール径が130mmである6段式冷間圧延設備を利用して、圧下率を5%から40%まで変化させた調質圧延を行って、オーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板を製造した。さらに、圧下率が20%の調質圧延に際しては、使用するワークロールの研磨番手を変更することにより、表面粗さをRaで0.05μmから0.20μmの範囲で変化させながら、圧延を行った。
【0049】
得られたオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板について、鋼板表面の光沢度の測定、ならびに色調の不均一の発生有無を、目視により観察した。測定結果を、圧延素材の粒界侵食溝の巾および深さの測定結果とともに、表1及び表2にまとめて示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
すなわち、表1には、試料番号1〜試料番号14として使用したSUS304調質圧延鋼板について、圧延素材の粒界侵食溝の巾および深さの測定結果、ならびに調質圧延鋼板の表面の光沢度の測定結果、色調不均一の発生有無の目視観察結果を示すとともに、表2には試料番号15〜試料番号28として使用したSUS301調質圧延鋼板について、圧延素材の粒界侵食溝の巾および深さの測定結果、ならびに調質圧延鋼板の表面の光沢度の測定結果、色調不均一の発生有無の目視観察結果を示す。
【0053】
表1、2から明らかなように、本発明の製造方法によれば、実施例9〜14および23〜28に示すように鋼板表面の色調不均一の発生を効果的に防止することができる。ここで実施例1から4および15から18は、粒界侵食溝の巾および深さが、本発明で規定する量よりも小さい場合の例であるが、これらの場合には何れも圧延後の鋼板表面に色調不均一が発生した。実施例5、6、19、20は、仕上げ調質圧延率が本発明で規定する範囲外であるものであるが、圧延率が小さ過ぎる場合には光沢度が劣化し、また圧延率が大き過ぎる場合には鋼板表面に色調不均一が発生した。また実施例7、8、21、22で示すものはワークロールの表面粗度が本発明で規定するよりも大きい場合の例であるが、何れの場合にも表面光沢度の劣化が見られる。
【0054】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明により、AP焼鈍設備による中間焼鈍材を素材として製造したオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板について、従来には困難であった、色調の不均一の防止を、新たな設備を設けることなく確実に制御することができ、これにより、製品歩留まりを低下させること無く安定してオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板を製造することができる。
【0055】
かかる効果を有する本発明の意義は、極めて著しい。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧延素材における粒界侵食溝の巾および仕上調質圧延率と、調質圧延による粒界侵食溝の消失挙動ならびに色調不均一の発生状況との関係を示すグラフである。
【図2】粒界侵食溝の巾が2μmまたは4μmのオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材を、表面粗さをRaで0.05mm、0.1mm、0.15mmおよび0.2mmの4水準で変化させたワークロールを用いて調質圧延を行った場合に、得られたオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の表面の光沢度の測定値を示すグラフである。
Claims (3)
- 冷間圧延鋼板であって、表面の粒界浸食溝の巾が3.0μm以上であって、かつ該粒界浸食溝の深さが1.5μm以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板用圧延素材。
- 請求項1に記載の調質圧延鋼板用圧延素材を用いて、圧延率が10〜25%の冷間圧延を行うオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法。
- 前記調質圧延を行うワークロールの表面粗さが、Raで0.10μm以下である請求項2に記載されたオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板の製造法。
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