JP3601254B2 - エンジンのアイドル回転数制御装置 - Google Patents

エンジンのアイドル回転数制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はエンジンのアイドル回転数制御装置、特に目標トルクを算出し、これを実現すべくエンジンを制御するようにした場合のアイドル回転数制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
運転者のアクセル操作や外部負荷等に基づいて、実際に要求される、つまり必要とされるエンジンの発生トルクを算出し、これを目標トルクとして、エンジンからこの目標トルクが生じるように制御を行うエンジン制御装置(以下、エンジントルクデマンドシステム(ETDシステム)と記す)が考案されている。
【0003】
例えば、特開平1−313636号公報においては、アクセル操作量とエンジン回転数と外部負荷とに基づき、エンジンの目標発生トルクを算出し、この目標発生トルクに応じて燃料噴射量と供給空気量とを制御するようにしたエンジントルクデマンドシステムが開示されている。
【0004】
このようなトルクデマンド方式のエンジン制御装置では、実際は、要求出力トルクに対し、エンジンやパワートレイン系でロスとなる摩擦トルクなどの損失負荷トルクを加えて、目標発生トルクとして算出し、これを実現するように燃料噴射量と供給空気量を制御することになる。
【0005】
このエンジントルクデマンドシステムによれば、車両の制御に直接作用する物理量であるエンジンのトルクを制御の基準値とすることにより、常に一定の操縦感覚を維持できる等、運転性を向上させることができる。
【0006】
また、例えば燃焼室内に直接燃料の噴射を行う直噴ガソリンエンジンなどでは、特開昭63−159614号公報等に示されているように、低回転低負荷の運転領域において、ポンピングロスの低下等の作用により燃費の向上を図るために、空燃比が40〜50程度の極希薄燃焼を行い、負荷や回転数が大きくなるに従い、連続的にあるいはステップ的に空燃比を濃くして行くように制御を行うものが知られている。さらに、この設定空燃比についても、運転条件に応じて必ずしも一定値として定まる訳ではなく、例えば機関冷機時には、成層混合気による希薄燃焼が困難であるため理論空燃比付近に設定されることも考えられる。
【0007】
このように空燃比が条件により大きく変化するエンジンの場合、発生トルクとシリンダに吸入される空気量との直接的な関係は失われてしまい、発生トルクを制御しようとする場合においても、設定空燃比とセットとした形で吸入空気量を制御する必要がある。
【0008】
つまり、このようなエンジンにおいては、車両の運動やアイドル時の回転数制御などのために、エンジンの発生トルクを制御しようとする場合に、発生トルクと直接的な関係(一義的に定まる関係)を持たない空気量を直接制御対象とするのではなく、まず目標発生トルクなど中間変数としての目標値を与えたうえで、それを実現する操作量(吸気量・燃料噴射量)を定める制御方法が適当であると言える。従って、エンジントルクデマンド制御を採用するエンジン制御装置が考えられているのである。
【0009】
一方、エンジンのアイドル時について説明すると、アイドル時と非アイドル時に、それぞれ全く異なる制御法を選択的に使用する構成(例えば非アイドル時はエンジントルクデマンド制御、アイドル時は他の何等かの制御法)のエンジン制御システムも考えられるが、このように制御方法を切り換えると、アイドル,非アイドル状態間の状態遷移時に、その移行が滑らかになるように制御のつなぎ方に解決しなければならない困難な課題が生じる。
【0010】
例えば、アイドル自走中でかつ未知負荷が大きくアイドル状態における発生トルクが比較的大きくなっているような状況において、運転者がアクセルをわずかに踏み込んだ場合、制御が、アイドル時制御から非アイドル時制御に移行し、その状態での所定の発生トルクが生成されるが、制御方法の違いにより、これがアイドル時の発生トルクよりも小さくなる可能性がある。つまりこの場合、アクセルをわずかではあるが踏んだのにも拘わらず、運転者の意思とは逆に、減速してしまうことになり、体感上非常に大きな違和感を生じる。
【0011】
このようなことから、アイドル,非アイドルに拘わらず、同じ制御手法であるトルクデマンド制御により制御系を構成し、運転性の向上を図ることが好ましい。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上述した要求出力トルクに付加すべき損失負荷トルクの一例としては、エンジンの摩擦トルクやポンピングロスなどを含むエンジン内部損失が挙げられる。その特性は、例えば、図1に示すように、通常の使用エンジン回転数の範囲においては、エンジン回転数の低下に伴い、負荷トルクが小さくなるような傾向を有している。なお、図1には、ピストンやカム等による摩擦損失と、ウォータポンプやオイルポンプ等のポンプ類の負荷とを、まとめて示してある。また、他の負荷についても概ねこのような傾向を有しており、全体として、エンジン回転数に対応する負荷トルクは、エンジン回転数の低下に従って減少する。
【0013】
従って、エンジントルクデマンドシステムとしては、基本的に、エンジン回転数が低下した場合には、その低下した低いエンジン回転数に対応した負荷に相当する、より小さな負荷に対応するための発生トルクを生成し、要求出力トルクとしては一定となるように制御系が構成されていることになる。
【0014】
一方、上記のようなエンジントルクデマンドシステムにおいては、運転者がアクセルを操作することにより目標トルクが算出される一般的な状況のほかに、アイドル状態のように、運転者からの要求はなく、摩擦トルク等の負荷に応じて目標発生トルクを算出し、エンジンの発生トルクを制御する、という状況が存在する。
【0015】
このようなアイドル運転中に、上述したエンジントルクデマンドシステムにおいては、例えば何等かの外乱として負荷が増加しエンジン回転数が減少した場合、上記のように低下した回転数に対応して目標発生トルクが低下する。つまり、回転が減少し、これを復帰させたい状況であるにも拘わらず、結果的に発生トルクを減少させる方向に制御が働き、エンジン回転数を回復させる機能が失われる、という問題が存在する。
【0016】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、図2に示す構成を有している。すなわち、請求項1に係るエンジンのアイドル回転数制御装置は、
運転者のアクセル操作量等の要求に基づき外部へ出力すべきエンジンの第1の目標トルクを算出する第1の目標トルク算出手段101と、
補機の負荷やエンジンの摩擦トルクなどのエンジン負荷を算出するエンジン負荷算出手段102と、
上記のエンジン負荷に対して第2の目標トルクを算出する第2の目標トルク算出手段103と、
上記第1,第2の目標トルクによってエンジンの目標発生トルクを算出する目標発生トルク算出手段104と、
上記目標発生トルクを実現するように、エンジンの吸気量,燃料噴射量,点火時期等のトルク関連パラメータを制御する目標発生トルク実現手段105と、
エンジンがアイドル状態のときに、所定の目標アイドル回転数を維持するのに必要なトルクが得られるように、上記目標発生トルクを修正するアイドル回転数制御手段106と、
上記アイドル回転数制御手段106によるエンジンのアイドル制御中においては、上記エンジン負荷算出手段102における所定の負荷の算出の基礎となるエンジン回転数パラメータとして、実エンジン回転数に代えて上記目標アイドル回転数を与える切換手段107と、
を備えていることを特徴としている。
【0017】
この請求項1の発明にあっては、まず、通常の運転状態では、運転者のアクセル操作等の要求に基づいて第1の目標トルクが求められ、かつエンジンの摩擦抵抗等に基づいて第2の目標トルクが求められ、両者からエンジンの目標発生トルクが設定される。そして、この目標発生トルクを実現するように、エンジンの吸気量や燃料噴射量等のエンジンのトルクに関連するパラメータが制御される。これにより、エンジンの実際の発生トルクが、上記目標発生トルクに沿って制御される。このように走行中は純粋に運転者の要求トルクと内部で消費される摩擦等のトルクを分離することにより、車両の制御に直接作用する物理量である機関のトルクを制御の基準値とすることになる。従って、常に一定の操縦感覚を維持でき、運転性が向上する。
【0018】
また、アイドル運転中は、アイドル回転数制御手段106により、所定の目標アイドル回転数を維持するように、目標発生トルクが修正される。つまり、アイドル時においても、エンジントルクデマンド制御を基本に制御系が構成されることになる。このような走行状態(非アイドル状態)のみならず、アイドル状態においてもエンジントルクデマンド制御を基本に制御系を組むことにより、アイドル,非アイドル状態の遷移時に制御の連続性を確保することができ、切り換え段差など運転性の問題が生じることがない。
【0019】
そして、このアイドル制御中は、上記エンジン負荷算出手段102に対し、切換手段107を介して、エンジン回転数パラメータとして、実エンジン回転数に代えて目標アイドル回転数が与えられる。このように目標アイドル回転数に切り換えることにより、エンジン回転数により変動するエンジン負荷に対し、目標アイドル回転数維持のために必要なトルクが目標値として算出されることになり、例えば何らかの原因によりアイドル中にエンジン回転数が低下しても、これに伴って目標発生トルクが低下せず、目標回転数に復帰する方向に制御系が作用する。
【0020】
また請求項2の発明は、図3に示すように、
運転者からの要求に基づき外部へ出力すべきエンジンの第1の目標トルクを算出する第1の目標トルク算出手段101と、
補機の負荷やエンジンの摩擦トルクなどのエンジン負荷を算出するエンジン負荷算出手段102と、
上記のエンジン負荷に対して第2の目標トルクを算出する第2の目標トルク算出手段103と、
上記第1,第2の目標トルクによってエンジンの目標発生トルクを算出する目標発生トルク算出手段104と、
上記目標発生トルクを実現するように、エンジンの吸気量,燃料噴射量,点火時期等のトルク関連パラメータを制御する目標発生トルク実現手段105と、
エンジンがアイドル状態のときに、所定の目標アイドル回転数を維持するように、上記目標発生トルクを修正するアイドル回転数制御手段106と、
上記アイドル回転数制御手段によるエンジンのアイドル制御中において、実エンジン回転数が目標アイドル回転数を下回った場合に、上記エンジン負荷算出手段102における所定の負荷の算出の基礎となるエンジン回転数パラメータとして、実エンジン回転数に代えて上記目標アイドル回転数を与える切換手段107と、
を備えている。
【0021】
このように実エンジン回転数が目標アイドル回転数を下回った場合にのみ実エンジン回転数に代えて目標アイドル回転数を与えるようにしても、請求項1の発明と同様に、例えば何らかの原因によりアイドル中にエンジン回転数が低下しても、これに伴って目標発生トルクが低下せず、目標回転数に復帰する方向に制御系が作用する。
【0022】
なお、請求項1あるいは請求項2の発明において、上記切換手段107の対象となるエンジン負荷は、請求項3のように、上記エンジン負荷算出手段102における複数の負荷の中の一部であってもよい。
【0023】
また請求項4のように、上記切換手段107の対象となるエンジン負荷は、少なくとも、エンジン回転数が減少するに従って減少する特性を有する一つあるいは複数のエンジン負荷を含むことが望ましい。
【0024】
上記切換手段107の対象となるエンジン負荷は、例えば請求項5のように、エンジンの摩擦負荷を含むエンジンの内部損失負荷である。
【0025】
また請求項6の発明は、上記アイドル回転数制御手段106が、最終的な目標アイドル回転数を設定する最終目標アイドル回転数設定手段と、非アイドル制御状態からアイドル制御状態に状態遷移した際に、その遷移開始時のエンジン回転数から上記最終目標アイドル回転数までの間をつなぐように過渡的な目標エンジン回転数を設定する目標エンジン回転数軌道生成手段と、を備えており、
上記切換手段107は、非アイドル制御状態からアイドル制御状態に状態遷移した際に、上記目標アイドル回転数として上記目標エンジン回転数軌道生成手段により設定される過渡的な目標エンジン回転数を上記エンジン負荷算出手段102に与えることを特徴としている。
【0026】
この請求項6の発明にあっては、非アイドル制御状態からアイドル制御状態に状態遷移した際に、目標エンジン回転数軌道生成手段により逐次生成された過渡的な目標エンジン回転数に沿って制御が行われる。つまり、アイドル回転数制御手段106では、この徐々に変化する過渡的な目標アイドル回転数を目標としてフィードバック制御が行われる。同様に、エンジン負荷算出手段102に対しても、切換手段107を介して、エンジン回転数パラメータとして、この過渡的な目標アイドル回転数が入力される。これにより、制御目標量を算出する基礎となるエンジン回転数が、直前の実エンジン回転数から最終目標アイドル回転数に急にジャンプすることがなく、滑らかに変化することになる。
【0027】
また請求項7の発明では、上記第2の目標トルク算出手段103は、上記アイドル回転数制御により算出されたアイドル回転数制御のための補正トルクを付加して、第2の目標トルクとすることを特徴としている。この補正トルクによって、アイドル回転数が目標アイドル回転数に収束するようにフィードバック制御される。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、エンジントルクデマンド制御方式として通常の走行中は運転者の要求トルクと内部で消費される摩擦等のトルクとを分離して、運転者の意思に沿ったトルクを与え、快適な運転性を提供することができると同時に、アイドル状態においても、基本的にエンジントルクデマンド制御方式により制御を継続するので、アイドル,非アイドル状態の遷移時に制御の連続性を確保することができ、切換段差などによる運転性の諸問題の発生を回避できる。そして、このアイドル制御中は、摩擦抵抗等のエンジン負荷を算出するに際し、実エンジン回転数に代えて目標アイドル回転数を基礎とすることにより、例えば何等かの外乱として負荷が増加しエンジン回転数が減少した場合でも、目標発生トルクが小さくなることはなく、目標アイドル回転数の維持に必要なトルクが確保され、低下したエンジン回転数を復帰させる方向に制御が作用する。従って、アイドル制御性能の確保とエンジントルクデマンド制御との両立を実現できる。
【0029】
また請求項6の発明では、非アイドル状態からアイドル状態に遷移したときに、遷移開始時のエンジン回転数から最終目標アイドル回転数までを滑らかにつなぐように過渡的な目標エンジン回転数が与えられるので、トルクやエンジン回転数のステップ的な変化ひいては段差感の発生を防止できる。またアイドル制御を早期に開始することができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図に基づいて説明する。
【0031】
図4は、本発明に係るアイドル回転数制御装置の一実施例の構成を示す構成説明図である。この図に示すように、シリンダブロック8の内部には、シリンダ9が形成され、かつここに摺動可能に嵌合したピストン11によって燃焼室10が画成されている。この燃焼室10には、吸気ポート6および排気ポート7が接続されており、それぞれを開閉する吸気弁13および排気弁14が設けられている。また、上記燃焼室10内に直接燃料を噴射するように、シリンダ9上部に、電磁式燃料噴射弁15が装着されている。上記吸気ポート6の上流側には、吸気コレクタ部5aを介して吸気通路5が接続されている。
【0032】
なお、この実施例は、燃料噴射弁15により燃焼室10に直接燃料を噴射する筒内直接噴射式ガソリンエンジンの例を示しているが、吸気ポート6に燃料噴射弁を配置したポート噴射ガソリンエンジンであっても、本発明は同様に適用できる。
【0033】
上記燃料噴射弁15は、コントローラ19からの指令信号により、例えば比較的負荷が高い領域では吸気行程中に燃料噴射を行うことにより均質混合気を形成し、また低負荷領域では、圧縮行程中に燃料噴射を行うことにより燃焼室内の一部に混合気が偏在する成層混合気を形成して希薄燃焼を実現する。
【0034】
上記吸気通路5には、吸入空気量Qairを検出する例えば熱線式のエアフロメータ1が設けられている。この吸気通路5において吸入空気量を調整するスロットル弁4は、車両のアクセルペダルには直接連係しておらず、DCモータやパルスモータ等からなるアクチュータ30によって、その開度が電子制御される構成となっている。またアイドル時の吸入空気量制御のために、上記スロットル弁4をバイパスする補助空気通路2を備え、この補助空気通路2の流量を制御する補助空気量制御バルブ3が設けられている。なお、アクチュータ30によるスロットル弁4の吸入空気量制御の精度を高めることにより、補助空気通路2および補助空気量制御バルブ3を省略することも可能である。
【0035】
燃焼室10の中央に配置された点火プラグ16は、コントローラ19からの指令により点火を行う。また排気ポート7の下流側には、排気中の酸素濃度から空燃比を検出する空燃比センサ17が配置されている。また、21はクランク軸に対し取り付けられたクランク角センサであり、クランク角位置や機関回転速度の検出に用いられる。また、図4中には示していないが、運転者の要求を検知するためにアクセル操作量を検出する、例えばポテンショメータなどからなるアクセル操作量センサ、エンジンの温度条件を検出する冷却水温センサ、吸気温度を検出する吸気温センサ、スロットル弁4下流の圧力を検出する吸気管圧センサなどの種々のセンサを備えている。
【0036】
これらの種々のセンサ類の検出信号は、コントローラ19に入力される。コントローラ19は、I/OインターフェスやCPU,ROM,RAM等からなり、ROM上に格納された後述するプログラムを実行することにより、本発明の所定の機能を実現する。
【0037】
次に作用を説明する。
【0038】
本発明においては、目標発生トルクは、2つの目標トルクから算出される。
【0039】
図5のフローチャートは、第1の目標トルクを算出する処理の流れを示している。
【0040】
ステップ110では、前述したアクセル操作量センサの検出信号に基づき、運転者によるアクセル操作量を検出する。ステップ120では、エンジンの実回転数を検出する。なお、エンジンの実回転数は、クランク角センサ21の出力信号に基づいて検出される。ステップ130では、このアクセル操作量および実エンジン回転数から、図6に示されるマップを検索することにより、第1の目標トルクを算出する。この例では、アイドル回転数(目標アイドル回転数)においてアクセル操作量0の点では第1の目標トルクは0となっている。この第1の目標トルクは、クラッチやトルクコンバータを通じて出力される必要な出力トルクとしての目標トルク(目標出力トルク)である。
【0041】
次に、エンジン負荷は、エンジンの摩擦抵抗等の内部負荷、ならびにエアコン負荷やオルタネータ負荷等の補機負荷、などからなる。一例としてエンジンの摩擦等の負荷は、図1に示すような特性を有しており、この図1に相当するテーブルを参照することにより、エンジン回転数に基づいて求められる。なお、図1には、前述したように、ピストンやカム等による摩擦損失と、ウォータポンプやオイルポンプ等のポンプ類の負荷とを、まとめて示してある。冷機時においては、暖機後に比較し負荷が増加する傾向にあるから、エンジン冷却水温を考慮した制御マップを予め設定し、該エンジン冷却水温および実エンジン回転数から、マップ検索する構成としてもよい。同様に、エアコン負荷やオルタネータ負荷など状況により負荷が変化するものは、例えばエアコンの場合はエアコンポンプ圧から、オルタネータの場合は発電量から負荷が算出される。
【0042】
第2の目標トルクは、このようにして算出されるエンジン負荷と釣り合う値のトルクとして求められる。そして、最終的なエンジンの目標発生トルクは、第1の目標トルクと第2の目標トルクの和として算出される。
【0043】
次に、上記目標発生トルクを実現する手順について図8のフローチャートに基づき説明する。
【0044】
先ずステップ210で、上記の目標発生トルクや実エンジン回転数、エンジンの暖機状態などエンジンの運転状況を検出する。ステップ220では、この結果に基づき、例えば暖機後であれば、図9に一例を示す所定の特性の空燃比マップを参照し、その運転状況に応じた設定空燃比を算出する。ステップ230では、目標発生トルクに応じて目標噴射量を算出する。一般に、発生トルクと燃料噴射量とは略比例関係にあり、この関係に基づき、目標発生トルクに応じて目標噴射量を算出する。ステップ240では、この目標燃料噴射量と設定空燃比及び実エンジン回転数から、目標吸入空気量を算出する。この目標吸入空気量は、基本的には上記の3つのパラメータを乗算し、かつこれに係数を掛けたものとして得られる。ステップ250では、この目標吸入空気量とエンジン回転数などから目標スロットル開度を算出する。これは例えば、図7に示されるような特性に基づき算出する。なお、ここでは、定常的な特性に基づき目標スロットル開度を設定しているが、吸気系の吸気伝達遅れ等のダイナミクスを考慮して、目標スロットル開度を設定するようにしてもよい。ステップ260では、この目標スロットル開度となるように、スロットル弁4のアクチュータ30を制御する。そして、ステップ270において、上記の目標噴射量に応じた燃料量を、所定のタイミングで噴射する。
【0045】
上記の手順のなかで、設定空燃比による効率の相違に基づく補正や、吸気系の伝達遅れに伴う位相補正など、さらに精度を高める補正を組み込んでもよいが、これらは本発明とは直接関係がないのでここでは省略する。
【0046】
以上により、エンジントルクデマンド方式による基本的な制御を説明したが、次に、本発明の要部であるアイドル運転中のトルクデマンド制御について説明する。
アイドル回転数制御手段は、極く一般的な制御であり、エンジンの暖機状態やエアコンのON/OFF等に従って目標エンジン回転数を算出し、これと実回転数との偏差に基づき、PI制御等によりエンジン回転数をフィードバック制御する。このようなアイドル回転数制御の存在を前提とし、図10に示すフローチャートに基づいて、アイドル制御中のトルクデマンド制御としての本発明の特徴的部分について説明する。
【0047】
まずステップ310では、現在アイドル制御中であるか否かを判定する。アイドル制御中である場合には、ステップ320へ進み、エンジン回転数パラメータとして、所定の目標アイドル回転数を読みだす。アイドル制御中でない場合、つまり通常の走行中は、ステップ330へ進み、エンジン回転数パラメータとして実エンジン回転数を読みだす。ステップ340では、上記の目標アイドル回転数あるいは実エンジン回転数に基づき、図1に示したような所定の特性のテーブルやマップを参照して、エンジン負荷を算出する。
【0048】
従って、アイドル制御中は、何らかの外乱として負荷が増加し、実際のエンジン回転数が低下した場合でも、目標アイドル回転数に対応するエンジン負荷が算出され、これに対して目標発生トルクが算出されるので、回転数の回復方向に制御が作用し、安定したアイドル制御が可能となる。
【0049】
次に、請求項2に対応する第2の実施例について説明する。
【0050】
この第2の実施例においても、基本的なトルクデマンド制御部分は上述した第1の実施例と共通であり、図10に相当する部分が図11に示すフローチャートのように変更されている。
【0051】
図11のフローチャートにおいては、ステップ410で実エンジン回転数を読み出し、ステップ420では、後述するステップ470でエンジン負荷算出の際に用いるエンジン回転数パラメータとして、この実エンジン回転数をセットする。ステップ430では、アイドル制御中か否かの判定を行う。アイドル制御中でない場合はステップ470へ進む。アイドル制御中であると判定した場合は、ステップ460へ進み、アイドル制御の目標アイドル回転数を読みだす。そして、ステップ450では、この目標アイドル回転数と実エンジン回転数の大小関係を判定し、実エンジン回転数が目標アイドル回転数以上である場合は、ステップ470へ進む。ステップ450で目標エンジン回転数の方が大きい場合は、S460へ進み、ステップ470でエンジン負荷算出の際に用いるエンジン回転数パラメータとして、この目標エンジン回転数にリセットする。ステップ470では、上記のように与えられたエンジン回転数パラメータに基づき、上記実施例のステップ340と同様に、エンジン負荷の算出を行う。これにより、第1の実施例と同様に、アイドル制御中に、何らかの外乱として負荷が増加し、実際のエンジン回転数が低下した場合でも、目標アイドル回転数に対応するエンジン負荷が算出され、これに対して目標発生トルクが算出されるので、回転数の回復方向に制御が作用し、安定したアイドル制御が可能となる。
【0052】
次に、請求項6に対応する第3の実施例について説明する。
【0053】
上記の第1,第2の実施例では、アイドル制御に入った場合、エンジン負荷の算出の基礎となるエンジン回転数が、実エンジン回転数から目標アイドル回転数に直ちに変更されるように説明したが、アイドル制御方法の一つして、比較的エンジン回転数が高い段階からアイドル制御を開始し、この時点のエンジン回転数から最終的な目標回転数に至るまでを滑らかにつなぐように、過渡的な目標エンジン回転を逐次生成し、これに合わせてエンジン回転数を制御する方法が考えられている(例えば特開昭63−205460号公報参照)。
【0054】
このようなアイドル制御を行う場合においては、仮に第1,第2の実施例の構成では、アイドル制御に入ったときに、エンジン負荷を算出するために用いるエンジン回転数パラメータが大きく変化し、その結果、算出されるエンジン負荷がかなりステップ的に変化してしまうことになる。これでは目標発生トルクが突然小さくなり、回転数を急激に低下させる要因となりうる。そこで、エンジン負荷を算出するために用いるエンジン回転数パラメータが、アイドル状態遷移時にステップ的に急変しないように、最終的な目標アイドル回転数ではなく、上記の過渡的に生成される仮の目標エンジン回転数に基づき、エンジン負荷の算出を行うようにすればよい。
【0055】
また、以上の説明では、アイドル制御の結果の反映については言及しなかったが、請求項7に示したように、アイドル回転数制御により算出された補正トルクを、上述した第2の目標トルクの算出の際に付加し、これを第2の目標トルクとすることにより、フィードバック制御等のアイドル制御の反映を行うことができる。
【0056】
アイドル回転数制御の例としては、目標アイドル回転数と実エンジン回転数の偏差に基づきPI制御などを行い、偏差を0に近付けようとするものである。但し、アイドル制御としての操作量は、一般的には、増減させる空気量やアクチュエータの操作量(リニアソレノイドの制御dutyやステップモータの目標ステップ位置)を出力するのであるが、エンジントルクデマンド制御システムでは、トルクを操作量として出力する点が異なっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジン負荷の特性を示す特性図。
【図2】請求項1に係る発明の構成を示す機能ブロック図。
【図3】請求項2に係る発明の構成を示す機能ブロック図。
【図4】本発明の一実施例のシステム構成を示す構成説明図。
【図5】第1の目標トルク算出手段に相当する処理の流れを示すフローチャート。
【図6】第1の目標トルク算出に用いる特性図。
【図7】目標吸入空気量から目標スロットル開度を算出するための特性図。
【図8】目標発生トルク実現手段に相当する処理の流れを示すフローチャート。
【図9】設定空燃比マップの一例を示す特性図。
【図10】アイドル時のエンジン負荷算出手段に相当する処理の流れを示すフローチャート。
【図11】第2の実施例におけるアイドル時のエンジン負荷算出手段に相当する処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
101…第1の目標トルク算出手段
102…エンジン負荷算出手段
103…第2の目標トルク算出手段
104…目標発生トルク算出手段
105…目標発生トルク実現手段
106…アイドル回転数制御手段
107…切換手段

Claims (7)

  1. 運転者からの要求に基づき外部へ出力すべきエンジンの第1の目標トルクを算出する第1の目標トルク算出手段と、
    補機の負荷やエンジンの摩擦トルクなどのエンジン負荷を算出するエンジン負荷算出手段と、
    上記のエンジン負荷に対して第2の目標トルクを算出する第2の目標トルク算出手段と、
    上記第1,第2の目標トルクによってエンジンの目標発生トルクを算出する目標発生トルク算出手段と、
    上記目標発生トルクを実現するように、エンジンの吸気量,燃料噴射量,点火時期等のトルク関連パラメータを制御する目標発生トルク実現手段と、
    エンジンがアイドル状態のときに、所定の目標アイドル回転数を維持するのに必要なトルクが得られるように、上記目標発生トルクを修正するアイドル回転数制御手段と、
    上記アイドル回転数制御手段によるエンジンのアイドル制御中においては、上記エンジン負荷算出手段における所定の負荷の算出の基礎となるエンジン回転数パラメータとして、実エンジン回転数に代えて上記目標アイドル回転数を与える切換手段と、
    を備えていることを特徴とするエンジンのアイドル回転数制御装置。
  2. 運転者からの要求に基づき外部へ出力すべきエンジンの第1の目標トルクを算出する第1の目標トルク算出手段と、
    補機の負荷やエンジンの摩擦トルクなどのエンジン負荷を算出するエンジン負荷算出手段と、
    上記のエンジン負荷に対して第2の目標トルクを算出する第2の目標トルク算出手段と、
    上記第1,第2の目標トルクによってエンジンの目標発生トルクを算出する目標発生トルク算出手段と、
    上記目標発生トルクを実現するように、エンジンの吸気量,燃料噴射量,点火時期等のトルク関連パラメータを制御する目標発生トルク実現手段と、
    エンジンがアイドル状態のときに、所定の目標アイドル回転数を維持するように、上記目標発生トルクを修正するアイドル回転数制御手段と、
    上記アイドル回転数制御手段によるエンジンのアイドル制御中において、実エンジン回転数が目標アイドル回転数を下回った場合に、上記エンジン負荷算出手段における所定の負荷の算出の基礎となるエンジン回転数パラメータとして、実エンジン回転数に代えて上記目標アイドル回転数を与える切換手段と、
    を備えていることを特徴とするエンジンのアイドル回転数制御装置。
  3. 上記切換手段の対象となるエンジン負荷は、上記エンジン負荷算出手段における複数の負荷の中の一部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンジンのアイドル回転数制御装置。
  4. 上記切換手段の対象となるエンジン負荷は、少なくとも、エンジン回転数が減少するに従って減少する特性を有する一つあるいは複数のエンジン負荷を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンのアイドル回転数制御装置。
  5. 上記切換手段の対象となるエンジン負荷は、エンジンの摩擦負荷を含むエンジンの内部損失負荷であることを特徴とする請求項4記載のエンジンのアイドル回転数制御装置。
  6. 上記アイドル回転数制御手段が、最終的な目標アイドル回転数を設定する最終目標アイドル回転数設定手段と、非アイドル制御状態からアイドル制御状態に状態遷移した際に、その遷移開始時のエンジン回転数から上記最終目標アイドル回転数までの間をつなぐように過渡的な目標エンジン回転数を設定する目標エンジン回転数軌道生成手段と、を備えており、
    上記切換手段は、非アイドル制御状態からアイドル制御状態に状態遷移した際に、上記目標アイドル回転数として上記目標エンジン回転数軌道生成手段により設定される過渡的な目標エンジン回転数を上記エンジン負荷算出手段に与えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエンジンのアイドル回転数制御装置。
  7. 上記第2の目標トルク算出手段は、上記アイドル回転数制御により算出されたアイドル回転数制御のための補正トルクを付加して、第2の目標トルクとすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエンジンのアイドル回転数制御装置。
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