JP3600081B2 - Ps版用アルミニウム合金支持体の素体及びps版用アルミニウム合金支持体の製造方法 - Google Patents

Ps版用アルミニウム合金支持体の素体及びps版用アルミニウム合金支持体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷に用いるPS版用のアルミニウム合金支持体に関し、特に電解エッチングによる溶解効率に優れるアルミニウム合金支持体の素体及びその特性を備えたアルミニウム合金支持体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
平版印刷は、アルミニウム合金からなる支持体とジアゾ化合物等を感光物とする感光体とからなるPS版〈Preseusitized Plate)に画像露光、現像等の製版処理を行って画像部を形成した版を印刷機の円筒状版胴に巻付け、非画像部に付着した湿し水の存在のもとにインキを画像部に付着させてこのインキをゴム製ブランケットに転写、紙面に印刷するものである。
【0003】
PS版の支持体としては、電解エッチングによる粗面化処理(砂目立て)、陽極酸化処理などの表面処理を施したアルミニウム合金板が用いられている。アルミニウム合金としては、当初、JISl050(純度99.5%以上の純Al)、JIS1100(Al−0.05〜0.20%Cu合金)、JIS3003(Al−0.05〜0.20%Cu一1.5%Mn合金)が主に用いられてきた。
【0004】
アルミニウム合金支持体には、
(1)電解エッチングによる粗面が均一であること。
(2)電解エッチングにおける溶解効率が大きいこと。
(3)感光剤の密着性が良好であること。
(4)印刷中に画像部に汚れが生じないこと等の種々の特性が要求される。
しかし、JIS1050、JlS1100、JlS3003そのものでは以上の各要求を十分に満足させることができなかったため、種々の改良が行われてきた。
【0005】
例えば、特開昭58−221254号公報には、Si:0.02〜0.15%、Fe:0.1〜1.0%、Cu:0.003%以下、残部Alおよび不可避的不純物からなるオフセット印刷用素板が開示されている。また、特開昭62−148295号公報には、Fe:0.05〜1.0%、Si:0.2%以下、Cu:0.05%以下、残部Alおよび不可避的不純物からなり、金属組織中に分布する単体Siが0.012%以下である平版印刷用アルミニウム合金支持体が開示されている。
【0006】
前記特開昭58−221254号は、Cu含有量の増加に伴い耐食性が低下し、その影響で印刷中に非画像部の汚れが増大するために、Cu含有量を0.003%以下に規制することを提案している。また、特開昭62−148295号によると、電解エッチングによるピットが均一な粗面が得られ、ストリーク(筋状ムラ)の発生がみられず、しかも印刷中に非画像部の汚れを抑制することができるという効果を有する。
【0007】
しかるに、印刷精度向上の要求に対して、前記特開昭58−221254号、特開昭62−148295号に記載の従来のアルミニウム合金支持体では十分に対応することが困難となってきた。特に、電解エッチングによる粗面の均一性をより向上することが必要となってきている。しかも、コスト低減のために、短時問の電解粗面化処理で均一性に優れた粗面を形成することの要望が強くなってきている。
【0008】
この要望に対し、特開平9−184039号には、重量%で、Fe:0.25〜0.6%、Si:0.03〜0.15%、Ti:0.005〜0.05%、Ni:0.005〜0.20%、残部Al及び不可避的不純物からなる組成を有し、0.1≦Ni/Si≦3.7を満たすことを特徴とするPS版用アルミニウム合金支持体が提案されている。
【0009】
特開平9−184039号のPS版用アルミニウム合金支持体は、Niを添加することにより向上する化学溶解性を、Siが有する化学溶解性の抑制性能により抑制することによって、粗面均一性を向上させると共に、電解処理前の無通電状態での電解液中浸漬によるピットの発生を抑制することを可能としている。
【0010】
また、特開平9−272937号には、童量%で、Fe:0.20〜0.6%、Si:0.03〜0.15%、Ti:0.005〜0.05%、Ni:0.005〜0.20%を含有し、更にCu及びZnからなる群から選択された1種又は2種以上で0.005〜0.050%、更にIn,Sn及びPbからなる群から選択された1種又は2種以上で0.001〜0.020%含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるPS版用アルミニウム合金支持体が提案されている。
【0011】
特開平9−272937号のPS版用アルミニウム合金支持体は、Cu及びZnの1種又は2種、並びにIn,Sn及びPbの1種又は2種以上を添加し、アルミニウムマトリックス中に固溶させることにより、アルミニウムマトリックスと金属間化合物との間の電位差を調整し、電解粗面を均一化させようというものである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
前記特開平9−184039号及び前記特開平9−272937号の提案により、粗面均一性は従来に比べ向上したが、より高い印刷精度が要求されており、また、より大きな溶解効率が達成されるよう望まれている現状にある。そこで本発明は、電解エッチングにおける溶解効率を向上させるPS版用アルミニウム合金支持体の素体及びその特性を備えたアルミニウム合金支持体の製造方法の提供を課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者は前記課題を解決すべくPS版用アルミニウム合金支持体の電解エッチングの溶解効率を中心に検討を行ったところ、以下のことを知見するに至った。
(1)アルミニウムマトリックス中に晶出又は析出するAl−Fe系の金属間化合物が、電解エッチング中にカソード点として作用してその溶解性を支配している。また、この金属間化合物の存在により、溶解均一性が向上する。
(2)Al一Fe系金属間化合物を含むアルミニウムの表面に対し、電解エツチング前の段階で、アルカリ溶液によるエッチング処理を施すことによって、圧延により形成されたアルミニウムのコーティング層を除去し、Al−Fe系金属間化合物を特定の状態となるまで突出させることにより、電解エッチングにおける溶解効率を向上させることができる。
(3)上記Al−Fe系金属間化合物をマトリックス表面上に突出させる処理、すなわちエッチング処理においては、pH8以上のアルカリ溶液を使用することが有効であり、より好ましくは5〜30%のNaOHを使用したエツチングによれば、短時間で大きなエッチング量を得られる。
(4)アル力り溶液としては上記の他、NaCO、NaHCO、NaPO、 ピロリン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム(いずれもpH9〜10)等を使用することができる。
【0014】
本発明のPS版用アルミニウム合金支持体の素体及びPS版用アルミニウム合金支持体の製造方法は以上の知見に基づくものである。まず、本発明のPS版用アルミニウム合金支持体の素体は、Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有し、PS版用アルミニウム合金支持体の素体であり、そのマトリックス面にAl−Fe系金属間化合物が析出されてなり、その円相当径dが0.005≦d≦2(μm)、マトリックス表面に対する突出高さhが0.001≦h≦3(μm)なる条件を満たすAl−Fe系金属間化合物が、Al Fe、Al Fe、Al−Fe−X系(XはNi、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上)金属間化合物のうちのいずれか1種又は2種以上であり、マトリックス面における面密度Nにおいて1×10≦N≦5×10(個/mm)なる条件を満たしつつ、前記マトリックス表面に突出してなるものである。
【0015】
本発明のPS版用アルミニウム合金支持体の素体は、デスマット処理がなされていない状態から電解エッチングにより粗面化されてPS版アルミニウム合金支持体とされるものである。
本発明のPS版用アルミニウム合金支持体の素体は、前記アルミニウム材の表面の薄い層をアルカリ系エッチングにより除去してアルカリに不溶のAl−Fe系金属間化合物をアルミニウムマトリックス表面に突出させた形態とされてなることを特徴とする。
また、前記Al−Fe−X系金属間化合物は、Al−Fe−Cu、Al−Fe−Be、Al−Fe−Ce、Al−Fe−Co、Al−Fe−Nd、Al−Fe−Laのいずれかであることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明のPS版用アルミニウム支持体の製造方法は、Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有し、デスマット処理がなされていない状態から電解エッチングにより粗面化されて使用されるPS版用アルミニウム合金支持体の素体であり、そのマトリックス面にAl−Fe系金属間化合物が析出されてなり、その円相当径dが0.005≦d≦2(μm)、マトリックス表面に対する突出高さhが0.001≦h≦3(μm)、マトリックス面における面密度Nが1×10≦N≦5×10(個/mm)なる条件を満たすAl−Fe系金属間化合物が、そのマトリックス表面に突出してなるPS版用アルミニウム合金支持体の素体に対して、デスマット処理を施すことなく電解エッチングをすることにより粗面を形成することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の同製造方法は、Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延してから冷間圧延してアルミニウム材を得た後、該アルミニウム材の表面の薄い層をアルカリ系エッチング処理して除去することで該アルカリに不溶のAl−Fe系金属間化合物をアルミニウムマトリックス表面に露出させたPS版用アルミニウム合金支持体の素体を得ることを特徴とする。
また、本発明の同製造方法は、前記PS版用アルミニウム合金支持体の素体は、前記Al−Fe系金属間化合物を含むアルミニウム合金板を、pH8以上のアルカリ系エッチング処理することにより得られることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形熊】
以下本発明に係るPS版用アルミニウム支持体(素体を含む)の実施形態について説明する。まず、本実施形態におけるPS版用アルミニウム支持体の好ましい成分、及びその限定理由について説明する。
<Fe:0.1〜0.7%>
Feは、Al−Fe系金属間化合物を形成し、電解エッチングによる粗面均一性を向上するとともに、耐疲労強度を向上する。しかし、0.1%未満ではこの効果が不十分であり、また0.7%を超えると金属間化合物の粗大化により電解エッチングによる粗面の均一性を害する傾向にあるので、0.1〜0.7%の範囲とする。望ましいFeの含有量は、0.2〜0.3%である。
【0019】
<Si:0.02〜0.20%>
SiはAl−Fe−Si系金属間化合物を形成し、熱間圧延時の再結晶粒の微細化を促す。0.02%未満ではこの効果が不足して粗大な結晶粒が生じてしまい、電解エッチングによる粗面の均一性を阻害したり、ストリークと呼ばれる軽い未エッチング部を生じさせる。一方、0.20%を超えると、Al−Fe−Si系の金属間化合物が粗大化し、電解エッチングによる粗面の均一性を阻害する。したがって、Siは0.02〜0.20%とした。望ましいSiの含有量は、0.04〜0,08%である。
【0020】
<Ni:0.01〜0.1%>
NiはAl−Fe系金属間化合物に取り込まれてAl−Fe−Ni系金属間化合物となり、溶解均一性を向上させる効果を有する。しかし、0.01%未満ではこの効果が不足して電解エッチングによる粗面均一性向上が十分ではない。一方、0.1%を超えるとAl−Fe−Ni系金属間化合物が粗大化して電解エッチングによる粗面を不均一にしてしまう。したがって、本発明では0.01〜0.10%の範囲とする。望ましいNiの含有量は、0.02〜0.05%である。
【0021】
<その他不純物元素>
本発明PS版用アルミニウム合金支持体においては、以上の元素以外に不純物元素が含まれるが、以下の範囲であれば本発明の目的を阻害しない。
Mg:0.02%以下 Zn:0.02%以下 Ti:0.03%以下
V:0.01%以下 B:0.002%以下
【0022】
次に、本発明PS版用アルミニウム合金支持体におけるAl−Fe系金属間化合物の寸法及び量等について説明する。Al−Fe系金属間化合物の寸法及び量は、鋳造条件〈主に冷却速度)、鋳造後に行われる均質化処理、熱間及び冷間圧延条件(主に圧延率)に左右される。本発明では、本系アルミニウム合金で通常行われている均質化処理を省略することが効果的である。すなわち、均質化処理を行うとAl−Fe系金属間化合物がマトリックス内に均一に分散するという利点がある反面、粗大化してしまう傾向にある。そこで、本発明ではAl−Fe系金属間化合物の粗大化を防止して粗面の均一性向上を図ることが有効である。ただし、「均質化処理を行わない」ということは、あくまでも本発明をより有効なものとするための一つの手段であって、このことを本発明が特に義務づけるものではない。
【0023】
また、上記のように均一に分散したAl−Fe系金属間化合物は、アルカリエッチング処理により、マトリックス表面から突出した形態とされることになる。なお、アルカりエッチング処理に関しては、後に詳述する。そして、この突出したAl‐Fe系金属間化合物のより具体的な形態(寸法及び量)は、本発明において以下のように、また図1に示すように規定される。
金属間化合物の円相当径d:0.005≦d≦2(μm)
マトリックス表面からの突出高さh:0.001≦h≦3〈μm)
そして、これらの条件を満たすAl−Fe系金属間化合物において、マトリックス面における面密度N:1×10≦N≦5×10(個/mm
【0024】
これらの規定においては、そのそれぞれの範囲の下限未満では、電解エッチングにおける溶解効率向上の効果が十分には得られず、また、上限を越えると溶解性が増しすぎて均一なエッチングを阻害することになる。すなわち、これらの場合においては、PS版として好ましい表面状態とは言えないものとなってしまう。
【0025】
また、本発明におけるAl−Fe系金属間化合物は、具体的には、AlFe、AlFe、Al−Fe−X系(XはNi、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上)等の金属間化合物である。なお、上記Xの元素の添加は、それぞれの純金属をアルミニウムマトリックスに添加する等の手段により供給するようにすればよい。また、例えば、Ce、La、Ndにおいては、純金属添加の方法によらずに、Ce、La、Ndの混合物として産出されるいわゆるMlSCH METALを添加する方法を採用すればコスト的に有利となる。
【0026】
以下、上記Al−Fe系金属間化合物等からなる晶・析出物が形成されることにより、電解エッチングの際の溶解均一性が向上する機構について説明する。上記各金属間化合物が晶・析出したアルミニウム材を、電解エッチングの一方の電極としこれに交流電源を接続すると、アルミニウム材はアノード及びカソードの両反応を提示することになる。
まずアノード反応時には、
Al→Al3++3e・・・(1)
なる反応が進行し、アルミニウムが溶液中に溶出するとともに、電子が放出される。すなわち、エッチングの中心的反応である。
また、カソード反応時には、
2H+2e→H(gas)・・・(2)
なる反応が進行する。このとき、この(2)式における電子は、(1)式で放出された電子が充当されるものである。この(2)式の反応により、アルミニウム材表面には清浄作用が働くことになる。すなわち、Al(OH)3等のスマットがアルミニウム材表面から効果的に除去されることになる。なお、このような清浄効果は、エッチングをより進行させるために有効なものである。
【0027】
さて、このような反応は、アルミニウム材表面に晶・析出した上記Al−Fe系等の金属間化合物を中心として行われるものである。というのは、これらの金属間化合物は、電流が流れやすいものとなっているからである。なお、特にAl−Fe−X系金属間化合物においては、X〈=Ce、La、Nd等)が含まれていることから、Xを含まない、例えばAl‐Feのみからなる金属間化合物に比べて、一般により電流が流れやすい性質を備えている。このように本発明における電解工ッチングは、マトリックス表面に晶出又は析出し、当該表面一面に分散したAl−Fe系金属間化合物を中心に、上記式(1)(2〉のような反応が進むことによって、印刷用版材として適した均一的な電解エッチングあるいは粗面形成を達成するものである。
【0028】
以下本発明PS版用アルミニウム合金支持体に有効な製造上における検討事項について説明する。
<鋳造>
鋳造は、本発明PS版用アルミニウム合金支持体を製造する上で特に限定されるものではなく、例えばDC鋳造法等従来公知の鋳造法を適用することができる。
【0029】
<熱処理>
一般的には、鋳造により得られた鋳塊に450〜600℃の温度範囲における均質熱処理を施す。この均質熱処理によりFeの一部が固溶するとともに、Al−Fe系金属間化合物が均一微細に分散する。ただし、上述の通り本発明においては必ずしも必須の工程ではない。また、均質熱処理後、一且鋳塊を冷却した後に次工程である熱間圧延のための均熱処理を行うこともできるが、均質熱処理から直に熱間圧延を行うこともできる。
【0030】
<熱間圧延>
均質熱処理を経た後に熱間圧延を行う。熱問圧延は300〜600℃の温度範囲で行うのが適当である。600℃を超えると再結晶粒が粗大化して、粗面化処理によりストリークが発生しやすくなる。
【0031】
<冷間圧延>
熱間圧延後、冷間圧延を行う。この冷間圧延によりAl−Fe系の金属間化合物が分散して結晶組織が均一微細となる。この効果を得るためには、50%、望ましくは70%以上の減面率とすることが必要である。
【0032】
<焼鈍>
冷間圧延後に、適度な強度及び伸びを板材に付与することを主目的として焼鈍を行う。焼鈍は300〜600℃の温度範囲で行う。300℃未満では目的を達成することができず、600℃を超えると表面の酸化が著しくなり好ましくないからである。望ましい焼鈍温度は350〜500℃である。焼鈍は連続焼鈍炉、バッチ式焼鈍炉の何れであっても構わない。
【0033】
<仕上げ冷間圧延>
焼鈍後、再度冷間圧延を行う。この冷間圧延は、PS版用アルミニウム合金支持体に要求される硬さに調整、仕上げすることを目的とする。PS版用アルミニウム合金支持体に要求される硬さはHI6であるので、これに適合するように圧下率を調整する。
【0034】
<アルカリエッチング処理>
圧延工程を受けたアルミニウム材の表面には、その「軟らかさ」ゆえアルミニウムの薄い層(本明細書においては、これをコーティング層とよぶ)が塗りつぶされたように形成されるが、本実施形態では、このコーティング層をアルカリ系のエッチング処理により除去する。このコーティング層除去により、アルミニウムマトリックス表面には、当該アルカリに不溶のAl−Fe系金属間化合物が突出した形態で現出することになる。なお、このときが、PS版用アルミニウム合金・支持体の素体が完成した時点といえる。また、アルカリとしてはpH8以上のものを使用するのが好ましい。例えば、5〜30%のNaOHを使用したエッチングによれば、短時間で大きなエッチング量を得られる。また、この他、NaCO、NaHCO、NaPO、ピロリン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウムN(いずれもpH9〜10)等を使用することができる。
ところで、上記Al−Fe系金属間化合物の突出状態は、使用するアルカリに対する当該Al−Fe系金属間化合物の溶解性の差の結果に支配される。また、突出の度合等は、この後引き続き行われる表面処埋、すなわち電解エッチングの溶解効率に影響を及ぼす。
なお、一般には、アルカリエッチングした表面は、硝酸等の酸でデスマット処理を行いAl−Fe系金属間化合物を含む晶・析出物を溶解除去するのであるが、本発明においては、この時点においてデスマット処理を行わない。また、このアルカリエッチング工程は、PS版の製造工程中に取り入れてもよいし、また、アルミニウム製造メーカのいずれにおいて行ってもよい。
【0035】
<表面処理>
アルカリエッチング処理終了後、塩酸、硝酸等の電解液中に浸漬して電解エッチングによる粗面化処理を行う。粗面化処理は、画像部においては感光層との密着性、非画像部においては親水性及び保水性を向上させるために施される。その機構は上に詳しく説明した。なお、粗面化処理を行った後、デスマット処理を行い、さらに陽極酸化処理を行って表面の耐摩耗性、親水性を向上させることもできる。
【0036】
【実施例】
以下本発明を実施例に基づき説明する。
<実施例1>
表1に示すような組成を備えたアルミニウムの合金スラプをDC鋳造法により得た。鋳造速度は30mm/min、スラブ厚は200mmである。このスラブを面削して580℃で4時間均質化処理を施し、ついで、510℃の熱間圧延後、焼鈍及び冷間圧延を施すことにより0.3mm厚の板状の供試材を得た。これらの供試材は、そのそれぞれにおいて、表1又は表2に示すような各種金属間化合物を含んだものとなっている。
【0037】
【表1】
Figure 0003600081
【0038】
得られた供試材を、50℃、10%水酸化ナトリウム水溶液中に30秒間浸漬、脱脂後、30秒間水洗した。これによりPS版用アルミニウム合金支持体の素体に相当するものを完成させた。ついで、この供試材を25℃、2%硝酸中に浸漬し、50Hz、50A/dmの正弦波で交流電解エッチングし、次いで50℃、10%水酸化ナトリウム水溶液中に6秒間浸漬、25℃、10%硝酸中に30秒間浸潰するデスマット処理を順次施した後、乾燥した。
【0039】
乾燥後、粗面を走査型電子頭微鏡(SEM)により倍率500倍として観察し、均一な電解エッチング面が得られるまでの時間を測定した。
【0040】
結果を表2に示すが、この表において左から第2列には、Al−Fe系金属間化合物が上記形態的条件、すなわち円相当径d、突出高さh、及び面密度Nの条件を「満たす」か「満たさない」かを示している。なお、この観察は上記した工程中、アルカリエッチング、脱脂、水洗を経て、アルミニウム合金支持体の素体に相当するものとなった供試材に対してSEM(5000倍)により行ったものである。
【0041】
【表2】
Figure 0003600081
【0042】
また表2において、第3列にはAl−Fe系金属間化合物を構成する金属間化合物の種類を、第4列にはアルカリエッチング処理の処理時間を、第5列には均一な電解エッチング面が得られるまでの時間を、それぞれ示したものとなっている。
【0043】
この表2から明らかなように、いずれの場合にあっても、Al−Fe系金属間化合物が本発明における条件を満たす場合の方が、満たさない場合に比べて、電解エッチングの溶解効率が向上していることがわかる。これは、上述した電解エッチングの機構から明らかなように、当該電解エッチングは金属間化合物のAl一Fe系金属間化合物を中心に進行することから、これらが突出していることによって電流の集中度を高め、その結果溶解効率の向上に資したことによるものである。そして、このように電解効率が向上することは、ライン上における連続処理を行うに際して、当然のことながら全体的な生産性向上に大きく貢献することになろう。
【0044】
なお、本実施形態においては、Fe、Si、Ni等の重量%をある範囲内に規定するような記述、また、製作工程に関する列挙的な記述をなしたが、本発明はこれらのことに限定されるものではない。要は、アルミニウムマトリックスの表面におけるAl−Fe系金属間化合物が、本発明における条件を満たすようなPS版であれば、それは本発明の概念内にあるものと認識されるのである。
【0045】
また、本発明は、Al−Fe系金属間化合物の突出状態において、その円相当径dあるいは突出高さhに関する条件を満たさないものの存在を完全に否定するものではない。つまり、円相当径dが2.5(>2.0)μmとなる等の金属間化合物が一部存在する場合においても、それ以外(すなわち、条件を満たす)金属間化合物が、面密度Nにおいて、当核面密度Nの条件を満たすように存在しているのならば、それは本発明の範囲内である。
【0046】
【発明の効果】
以上説明のように、本発明は、Fe0 . 1〜0 . 7%を含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有し、Al−Fe系金属間化合物が析出されてなり、その円相当径dが0.005≦d≦2(μm)、マトリックス表面に対する突出高さhが0.001≦h≦3(μm)なる条件を満たすAl−Fe系金属間化合物が、Al Fe、Al Fe、Al−Fe−X系(XはNi、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上)金属間化合物のうちのいずれか1種又は2種以上であり、マトリックス面における面密度Nにおいて1×10≦N≦5×10(個/mm)なる条件を満たしつつ、前記マトリックス表面に突出してなるPS版用アルミニウム合金支持体の素体となっていることから、電解工ツチングにおける電解効率を向上させることができる。
本発明のPS版用アルミニウム支持体の素体において、デスマット処理がなされていない状態から電解エッチングにより粗面化されてPS版アルミニウム合金支持体とされるものである場合、電解エッチング時に適切な大きさの金属間化合物が適切な数、適切な突出高さでマトリックス表面に存在するので、電解エッチング時の電解効率を向上させることができ、均一で適切なエッチング状態の粗面を得ることが容易となり、好ましい表面状態のPS版を提供できる。
【0047】
また、本発明のPS版用アルミニウム支持体の素体においては、前記Al−Fe−X系金属間化合物が、Al−Fe−Cu、Al−Fe−Be、Al−Fe−Ce、Al−Fe−Co、Al−Fe−Nd、Al−Fe−Laのいずれかからなることから、エッチングの均一性が期待できるとともに、上述した効果を享受することができる。
【0048】
さらに、本発明のPS版用アルミニウム合金支持体の製造方法は、Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有し、デスマット処理がなされていない状態から電解エッチングにより粗面化されて使用されるPS版用アルミニウム合金支持体の素体であり、そのマトリックス面にAl−Fe系金属間化合物が析出されてなり、その円相当・径dが0.005≦d≦2(μm)、マトリックス表面に対する突出高さhが0.001≦h≦3(μm)なる条件を満たすAl−Fe系金属間化合物が、マトリックス面における面密度Nにおいて1×10≦N≦5×10(個/mm)なる条件を満たしつつ前記マトリックス表面に突出してなるPS版用アルミニウム合金支持体の素体に対して、デスマット処理を施すことなく電解エツチングをすることにより粗面を形成することから、当該電解エッチングにおける溶解効率を向上させることができる。
【0049】
前記PS版用アルミニウム合金支持体の素体は、Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延してから冷間圧延してアルミニウム材を得た後、該アルミニウム材の表面の薄い層をアルカリ系エッチング処理して除去することで該アルカリに不溶のAl−Fe系金属間化合物をアルミニウムマトリックス表面に露出させたPS版用アルミニウム合金支持体の素体を得ることから、当該エッチング処理によりAl−Fe系金属間化合物をアルミニウムマトリックス表面に露出させた電解エッチングにおける溶解効率の良好なPS版用アルミニウム合金支持体の素体を得ることができる。
前記PS版用アルミニウム合金支持体の素体は、前記Al−Fe系金属間化合物を含むアルミニウム合金板を、pH8以上のアルカリ系エッチング処理することにより得られることから、当該エッチング処理を迅速に完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルミニウムマトリックス表面におけるAl−Fe系金属間化合物の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
1 Al−Fe系金属間化合物
2 アルミニウムマトリックス

Claims (7)

  1. Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有し、そのマトリックス面にAl−Fe系金属間化合物が析出されてなり、その円相当径dが0.005≦d≦2(μm)、マトリックス表面に対する突出高さhが0.001≦h≦3(μm)なる条件を満たすAl−Fe系金属間化合物が、Al Fe、Al Fe、Al−Fe−X系(XはNi、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上)金属間化合物のうちのいずれか1種又は2種以上であり、マトリックス面における面密度Nにおいて1×10≦N≦5×10(個/mm)なる条件を満たしつつ、前記マトリックス表面に突出してなることを特徴とするPS版用アルミニウム合金支持体の素体。
  2. デスマット処理がなされていない状態から電解エッチングにより粗面化されてPS版アルミニウム合金支持体とされるものであることを特徴とする請求項1に記載のPS版用アルミニウム合金支持体の素体。
  3. 前記アルミニウム材の表面の薄い層をアルカリ系エッチングにより除去してアルカリに不溶のAl−Fe系金属間化合物をアルミニウムマトリックス表面に突出させた形態とされてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のPS版用アルミニウム合金支持体の素体。
  4. 前記Al−Fe−X系金属間化合物が、Al−Fe−Cu、Al−Fe−Be、Al−Fe−Ce、Al−Fe−Co、Al−Fe−Nd、Al−Fe−Laのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のPS版用アルミニウム合金支持体の素体。
  5. Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有し、デスマット処理がなされていない状態から電解エッチングにより粗面化されて使用されるPS版用アルミニウム合金支持体の素体であり、そのマトリックス面にAl−Fe系金属間化合物が析出されてなり、その円相当径dが0.005≦d≦2(μm)、マトリックス表面に対する突出高さhが0.001≦h≦3(μm)、マトリックス面における面密度Nが1×10≦N≦5×10(個/mm)なる条件を満たすAl−Fe系金属間化合物が、そのマトリックス表面に突出してなるPS版用アルミニウム合金支持体の素体に対して、デスマット処理を施すことなく電解エッチングをすることにより、粗面を形成することを特徴とするPS版用アルミニウム合金支持体の製造方法。
  6. Fe0 . 1〜0 . 7%を必須として含み、Ni、Si、Cu、Be、Ce、Co、Mn、Nd、Laのうちのいずれか1種又は2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延してから冷間圧延してアルミニウム材を得た後、該アルミニウム材の表面の薄い層をアルカリ系エッチング処理して除去することで該アルカリに不溶のAl−Fe系金属間化合物をアルミニウムマトリックス表面に露出させたPS版用アルミニウム合金支持体の素体を得ることを特徴とする請求項5に記載のPS版用アルミニウム合金支持体の製造方法。
  7. 前記PS版用アルミニウム合金支持体の素体は、前記Al‐Fe系金属間化合物を含むアルミニウム合金板を、pH8以上のアルカリ系エッチング処理することにより得られることを特徴とする請求項5又は6に記載のPS版用アルミニウム合金支持体の製造方法。
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