JP3598726B2 - 耐酸化性の改善されたSiC系複合材料及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い強度及び靭性値を有し、さらに広範囲の温度域において優れた耐酸化性を示すSiC系複合材料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
特開平9−52776号には、下記(a)、(b)又は(c)から構成される無機質繊維と、この無機質繊維の間隙に存在する下記(d)、(e)又は(f)から構成される無機物質とからなり、さらに表面に(d)、(e)又は(f)から構成される厚さ20〜500μmの厚さの酸化物層を形成させた無機繊維焼結体及びその製造方法が開示されている。
(a)実質的にSi、M、C及びOからなる非晶質物質。
(b)実質的にβ−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO2及びMO2の非晶質物質との集合体(ここで、MはTi又はZr)。
(c)上記(a)の非晶質物質と上記(b)の集合体との混合物。
(d)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質。
(e)結晶質のSiO2及び/又はMO2からなる結晶集合体。
(f)上記(d)の非晶質物質と上記(e)の結晶集合体との混合物を含有し、かつ100nm以下の粒径のMCからなる結晶質微粒子が分散した無機物質。
【0003】
上記無機繊維焼結体に、特開平7−172949号に記載されている表面を上記(e)の組成からなる酸化物で被覆する技術を組み合わせれば、1000〜1500℃の高温の空気中における耐久性は勿論のこと、500〜900℃の中温域での耐酸化性も改善された優れた複合材料が提供できる。しかし、その後の研究で、同表面酸化層の主成分であるSiO2は塑性変形の始まる歪み点が1200℃近辺にあり900℃以下の温度では全く流動性を示さず、また900℃以下の温度域では表面酸化層が効果的に生成しないことから、同温度域で長時間使用する部材表面に傷がついた時(或いは表面酸化層が剥離した時)、局所的な酸化劣化を受ける場合もあることが判明した。
【0004】
【課題を解決するための技術的手段】
本発明の目的は、表面酸化層の歪み点を低下させ、それ自身の粘性流動を利用した損傷部の自己修復を効果的に起こし得る表面被覆層を有する、耐酸化性の改善されたSiC系複合材料及びその製造方法を提供することにある。
【0005】
本発明によれば、無機質繊維と、該無機質繊維の間隙を充填するように存在する無機物質と、前記無機質繊維と前記無機物質との境界層として1〜200nmの非晶質及び/又は結晶質の炭素からなる層とが存在する繊維結合型セラミックスの表面に保護層が形成されているSiC系複合材料であり、前記無機質繊維は、(a)実質的にSi、M(但し、MはTi又はZr)、C及びOからなる非晶質物質、(b)実質的にβ−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO 2 及びMO 2 の非晶質物質との集合体、(c)上記(a)の非晶質物質と上記(b)の集合体との混合物の、(a)(b)(c)の3つのうちから1つを選択的に含有し、前記無機物質は、(d)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、(e)結晶質のSiO 2 及び/又はMO 2 からなる結晶集合体、(f)上記(d)の非晶質物質と上記(e)の結晶集合体との混合物の、(d)(e)(f)の3つのうちから1つを選択的に含有し、かつ100nm以下の粒径のMCからなる結晶質微粒子が分散した無機物質であり、前記保護層は、Si、O、Bを主成分とする、10〜200μm厚さの、内部に向かって傾斜した組成を有することを特徴とする耐酸化性の改善されたSiC系複合材料が提供される。
【0006】
さらに、本発明によれば、無機繊維のシート状物、織物の積層物又は立体織物を、不活性ガス中、50〜1000kg/cm 2 の圧力下、1550〜1850℃の温度で加圧成形して、前記繊維結合型セラミックスの成形体を得、その表面にホウ素化合物を主成分とする溶液又は懸濁液を塗布し、900℃以上の大気中で加熱処理する耐酸化性の改善されたSiC系複合材料の製造方法であり、前記無機繊維は内面層と表面層とからなり、前記内面層は、(a)実質的にSi、M(但し、MはTi又はZr)、C及びOからなる非晶質物質、(b)実質的にβ−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO 2 及びMO 2 の非晶質物質との集合体、(c)上記(a)の非晶質物質と上記(b)の集合体との混合物の、(a)(b)(c)の3つのうちから1つを選択的に含有し、前記表面層は、(d)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、(e)結晶質のSiO 2 及び/又はMO 2 からなる結晶集合体、(f)上記(d)の非晶質物質と上記(e)の結晶集合体との混合物の、(d)(e)(f)の3つのうちから1つを選択的に含有する無機物質で構成されている前記SiC系複合材料の製造方法が提供される。
【0007】
まず、本発明のSiC系複合材料について説明する。
無機質繊維は、上記(a)、(b)又は(c)で構成される。(b)におけるβ−SiCとMCとはそれらの固溶体として存在することもでき、またMCは炭素欠損状態であるMC1−x(xは0以上で1未満の数である。)として存在することもできる。無機質繊維を構成する各元素の割合は、通常、Si:30〜60重量%、M:0.5〜35重量%、好ましくは1〜10重量%、C:25〜40重量%、O:0.01〜30重量%である。無機質繊維の相当直径は一般に5〜20μmである。
【0008】
無機質繊維は、本発明のSiC系複合材料中に、80体積%以上、好ましくは85〜91体積%存在することが望ましい。無機質繊維が80体積%よりも少ないと高温下で塑性変形的な挙動を示すようになるので好ましくない。
それぞれの無機質繊維の表面には、非晶質及び結晶質の炭素が、1〜200nmの範囲の厚さの境界層として層状に偏析している。そして、この無機質繊維の間隙を充填するように、上記(d)、(e)又は(f)の無機質物質が存在している。また、場所によっては、無機質繊維と無機質物質とが、前記の炭素層を境界層として相互に接触していても良い。さらに、本発明のSiC系複合材料の表面には、Si、O、Bを主成分とする、10〜200μm厚さの極めて剥離しにくい保護層が形成されている。
【0009】
本発明のSiC系複合材料において重要なことは、無機質繊維が円柱形最密構造に極めて近い状態で充填されていること、それぞれの無機質繊維の間隙には100nm以下のMCからなる結晶質微粒子が分散したSiO2を主体とする酸化物が充填されていること、また無機質繊維の表面には1〜200nmの範囲の非晶質及び/又は結晶質の炭素層が存在しており、さらに複合材料の表面層としてSi、O、Bを主成分とする10〜200μm厚さの、内部に向かって傾斜した組成を有した、極めて剥離しにくい保護層が形成されていることである。
【0010】
本発明における表面保護層は、900℃を越える大気中において、基材自体の主成分であるSiCの酸化により生成するSiO2と、塗布により基材表面に供給されたホウ素化合物の酸化及び/又は高温加水分解により生成するB2O3が固溶して生成するもので、B2O3成分が多い程、塑性流動を起こす温度が低下する。ここで、B2O3成分の量は、ホウ素化合物の塗布量をコントロールすること、或いは大気中での加熱処理温度を調整することによりSiO2の生成量をコントロールすることにより自由に調整できる。従って、使用温度条件に適合した表面層の粘性特性を実現させることも極めて容易である。
【0011】
ところで、上記表面保護層の主要成分であるSiO2は、製造過程に基材の主成分である無機質繊維材自体が、最表面からの酸素の拡散律速に従って酸化されて生成するもので、当然基材とは一体のものとして生成している。このSiO2層中に、B2O3(これは、基材表面に塗布されたホウ素化合物が酸化及び/又は高温加水分解により生成するもの)が固溶して本発明の主要構成要素である表面被覆層が形成される。さらに、上記表面被覆層は、表面から内部に向かっての傾斜組成を有している。従って、この表面被覆層は、従来から知られている各種コーティング法に従って形成される表面保護層とは違って、容易に剥離するものではないことが理解できる。また、B2O3成分の量をコントロールすることにより粘性特性を調整し、高温使用時での傷の自己修復機能が付与され得る点において、前述した特開平7−172949号とも異なるものであることが理解される。
【0012】
次に本発明のSiC系複合材料の製造方法について説明する。
本発明で原料として使用される無機繊維は、例えば特開昭62−289641号公報に記載の方法に従って、上記(a)、(b)及び(c)から構成される無機繊維を、酸化性雰囲気下に500〜1600℃の範囲の温度で加熱することによって調整することができる。この無機繊維は、宇部興産株式会社からチラノ繊維(登録商標)として市販されている。無機繊維の形態或いは配向状態については特に限定されないが、用途に応じて、連続長繊維、チョップ状繊維、或いは連続繊維を一方向に引き揃えたシート状物、又は各種織物(平織りや繻子織物のような2次元織物からインターロック織り等の3次元立体織物等も含む)であることができる。
【0013】
上記の酸化性雰囲気での加熱処理によって無機繊維の表面に形成される前記の(d)、(e)又は(f)からなる無機質物質の表面層は、その厚さT(単位はμm)が、T=aD(ここで、aは0.023〜0.053の範囲内の数値であり、Dは無機繊維の直径(単位はμm)である。)を満足するように加熱条件を選択することが望ましい。このような加熱条件を選定することにより、無機繊維の含有率が80体積%以上のSiC系複合材料が調整され得る。
【0014】
本発明においては、上記の無機繊維からなる積層物或いは予備形状物(最終形状に出来るだけ近い状態に繊維を配向させたもの)を作成し、必要に応じて型材を用い、不活性ガス中で50〜1000kg/cm2の圧力下、1550〜1850℃の温度で加圧成形(ホットプレス、HIP等)することにより成形体が製造される。
【0015】
得られた成形体を、そのままあるいは形状加工を施した後、その表面にホウ素化合物を主成分とする溶液又は懸濁液をスプレー、浸漬等により塗布した後、酸化性雰囲気(必要に応じて湿気を含有させる)中、900℃以上の温度で加熱して表面被覆層を形成させる。この場合、図1に示す相図を参考にし、使用条件に適合したSiO2とB2O3の比率を得る条件を設定する必要がある。
B2O3の量は、前述のようにホウ素化合物の塗布量をコントロールすることにより調整でき、さらに繊維材の酸化により生成するSiO2層の量は、例えば図2に示すような関係を用いることにより、コントロールすることが可能である。
【0016】
この表面被覆層の存在により、本発明のSiC系複合材料の内部は、広範囲の温度域の空気中においても優れた耐酸化性を示し、また適切な条件を設定すれば、傷の自己修復機能も付与することが可能となる。
【0017】
本発明で使用されるホウ素化合物は、有機、無機を問わないが、酸化及び/又は加水分解により酸化ホウ素を生成するもので、且つホウ素含有率の高いものが良く、例えば、ほう酸、窒化ホウ素、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素等が挙げられる。実際には、これらホウ素化合物の溶液又は懸濁液が使用される。
【0018】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示す。
実施例1
繊維径10μmのチラノ繊維(登録商標)を1000℃の空気中で10時間加熱処理して原料繊維を得た。繊維表面には約270nmの均一な酸化層が形成されていた。
この原料繊維からなり、1枚の厚さが約180μmの8枚繻子織物を積層した。この積層物をカーボンダイス中に仕込み、1750℃で1時間ホットプレスして複合材を得た。
【0019】
この複合材中の無機質繊維の回りには、約20nmの均一な炭素層が形成され、また無機質繊維の隙間は非晶質のSiO2を主体とする相で均一に充填されていた。このSiO2を主体とする相中にTiCの存在が確認できた。
この複合材料を曲げ試験片形状に切削加工した後、ほう酸のエタノール溶液を塗布し、乾燥後、1200℃の空気中で10時間加熱し、表面被覆層を有するSiC系複合材料を得た。得られた複合材料の表面近傍のオージェ電子スペクトルを用いた深さ方向の組成分析の結果を図3に示す。
【0020】
これから分かるように、この表面被覆層は内部に向かった傾斜組成を有していることが分かる。この表面の数カ所にひっかき傷を付けた後、900℃の空気中で20時間加熱処理を行ったが、ひっかき傷を付けた所の白化現象も起こらず、また強度低下も認められなかった。尚、各温度で加熱処理した上記複合材の表面状態を光学顕微鏡で観察した結果、上記表面被覆層は800℃以上で塑性流動を示すものであることが分かった。
【0021】
比較例1
実施例1と同様にして得た複合材料の表面に、ほう酸のエタノール溶液を塗布せず、そのまま1200℃の空気中で10時間加熱処理し、表面酸化層を有するSiC系複合材料を得た。
同複合材料表面の数カ所にひっかき傷を付けた後、900℃の空気中で20時間加熱処理を行うと、傷の部分の白化現象が認められ、また強度も初期状態の90%となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、SiO2とB2O3の相図を示す図である。
【図2】図2は、繊維材の酸化により生成するSiO2層の厚みと酸化条件の関係を示す図である。
【図3】図3は、得られた複合材料の表面近傍のオージェ電子スペクトルを用いた深さ方向の組成分析の結果を示す図である。
Claims (2)
- 無機質繊維と、該無機質繊維の間隙を充填するように存在する無機物質と、前記無機質繊維と前記無機物質との境界層として1〜200nmの非晶質及び/又は結晶質の炭素からなる層とが存在する繊維結合型セラミックスの表面に保護層が形成されているSiC系複合材料であり、
前記無機質繊維は、
(a)実質的にSi、M(但し、MはTi又はZr)、C及びOからなる非晶質物質、
(b)実質的にβ−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO 2 及びMO 2 の非晶質物質との集合体、
(c)上記(a)の非晶質物質と上記(b)の集合体との混合物
の、(a)(b)(c)の3つのうちから1つを選択的に含有し、
前記無機物質は、
(d)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、
(e)結晶質のSiO 2 及び/又はMO 2 からなる結晶集合体、
(f)上記(d)の非晶質物質と上記(e)の結晶集合体との混合物
の、(d)(e)(f)の3つのうちから1つを選択的に含有し、かつ100nm以下の粒径のMCからなる結晶質微粒子が分散した無機物質であり、
前記保護層は、Si、O、Bを主成分とする、10〜200μm厚さの、内部に向かって傾斜した組成を有することを特徴とする耐酸化性の改善されたSiC系複合材料。 - 無機繊維のシート状物、織物の積層物又は立体織物を、不活性ガス中、50〜1000kg/cm 2 の圧力下、1550〜1850℃の温度で加圧成形して、前記繊維結合型セラミックスの成形体を得、その表面にホウ素化合物を主成分とする溶液又は懸濁液を塗布し、900℃以上の大気中で加熱処理する耐酸化性の改善されたSiC系複合材料の製造方法であり、
前記無機繊維は内面層と表面層とからなり、前記内面層は、
(a)実質的にSi、M(但し、MはTi又はZr)、C及びOからなる非晶質物質、
(b)実質的にβ−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO 2 及びMO 2 の非晶質物質との集合体、
(c)上記(a)の非晶質物質と上記(b)の集合体との混合物
の、(a)(b)(c)の3つのうちから1つを選択的に含有し、
前記表面層は、
(d)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、
(e)結晶質のSiO 2 及び/又はMO 2 からなる結晶集合体、
(f)上記(d)の非晶質物質と上記(e)の結晶集合体との混合物
の、(d)(e)(f)の3つのうちから1つを選択的に含有する無機物質で構成されている請求項1記載のSiC系複合材料の製造方法。
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JP9714797A JP3598726B2 (ja) | 1997-04-15 | 1997-04-15 | 耐酸化性の改善されたSiC系複合材料及びその製造方法 |
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JP9714797A JP3598726B2 (ja) | 1997-04-15 | 1997-04-15 | 耐酸化性の改善されたSiC系複合材料及びその製造方法 |
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JPH10287471A JPH10287471A (ja) | 1998-10-27 |
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JP9714797A Expired - Lifetime JP3598726B2 (ja) | 1997-04-15 | 1997-04-15 | 耐酸化性の改善されたSiC系複合材料及びその製造方法 |
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