JP3598340B2 - 低温試料位置制御装置 - Google Patents

低温試料位置制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は各種半導体素子や半導体材料、あるいは超電導材料、そのほか金属材料や無機材料など、各種の素子や材料からなる試料について、数K程度に至る極低温においてSQUIDなどのセンサにより計測や観察を行なうにあたって、センサに対する試料の位置をミクロン単位の微小精度で3次元方向に制御するための装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近に至り、SQUID(超伝導量子干渉計)と称される高感度磁束計が実用化され、各種素子や材料についてSQUIDを用いた計測を行なうことが多くなっているが、SQUIDは超伝導を利用しているため液体ヘリウム温度程度(数K程度)の極低温に冷却しておく必要があり、また相手方の試料についても、極低温あるいはそれに近い低温に保持する必要がある場合が多い。またSQUIDのほか、トンネル顕微鏡によって試料の観察を行なう場合にも、トンネル顕微鏡を極低温に冷却保持する場合があり、また相手方の試料も極低温やそれに近い低温に保持する必要がある場合が多い。
【0003】
ところでSQUIDなどによる極低温での計測や観察が普及するに従って、SQUIDやトンネル顕微鏡などのセンサに対して試料をミクロンオーダーの高精度で3次元方向へ微小移動させて位置制御する必要性が高まっており、特にスキャンしながら計測や観察を行なう場合には、高精度の位置制御が求められている。しかしながら従来は、センサや試料を極低温に冷却保持しながら、ミクロン単位の高精度で3次元方向へ微小位置制御する装置は未だ実用化されていなかったのが実情である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
センサや試料を極低温に保持しながらセンサに対する試料の位置をミクロンオーダーの高精度で3次元方向へ位置制御する装置を開発するべく、本発明者等は鋭意実験・検討を行なったが、その過程で次のような問題があることが判明した。
【0005】
すなわち、この種の装置としては、基本的にはセンサおよび試料を液体ヘリウムなどの冷却用媒体で冷却しながら、試料を3次元位置制御手段によって移動、制御すれば良いと考えられる。しかるに液体ヘリウムなどの冷却媒体を外部から導入して試料やセンサを極低温に冷却する場合、冷却媒体の導入や排出による振動、特に冷却媒体導入管や冷却媒体排出管の振動が試料に伝わって、試料の位置精度が低下してしまったり、また正確な計測や観察が困難となって大きな測定誤差が生じてしまったりすることが多い。また高精度で3次元方向へ位置制御する手段としては、圧電素子(ピエゾ素子)を用いることが考えられるが、圧電素子は機械的なストレスに弱く、前述のような冷却媒体の導入、排出による振動が圧電素子に加われば、圧電素子が破壊されてしまうおそれがある。もちろん試料を剛性の高い支持部材によって堅固に固定する構成とすれば、冷却媒体の導入、排出による振動が試料に悪影響を及ぼすことを防止することが可能と考えられるが、このように剛性の高い部材で試料を堅固に固定した場合、その支持部材から試料への熱侵入が大きくなってしまうのが通常であり、そのため冷却効率が低下して試料を極低温に保持することが困難となったり、また冷却媒体の消費量が著しく増加してしまうなどの新たな問題が発生する。そのほか、前述のような極低温での高精度の位置制御を実現するにあたっては、種々の障害が存在する。
【0006】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、基本的には、試料およびセンサを低温に冷却しながら、センサに対する試料の位置をミクロンオーダーの高精度で制御し得る装置を提供することを目的とするものであり、またその場合において、冷却効率の低下を招くことなく、試料に対して冷却媒体の導入、排出による振動が影響を及ぼさないようにし、さらには微小位置制御のために圧電素子の如く機械的ストレスに弱い素子を用いた場合でも、その素子が前述の振動による機械的ストレスによって破壊されることを有効に防止し得るようにすることを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前述のような課題を解決するため、この発明の極低温試料位置制御装置においては、基本的には、試料を冷却するための冷却ヘッドと試料を保持する試料台とを構造的に分離し、その間を可撓性を有する熱伝導部材により結んで、冷却ヘッド側からの振動等の機械的ストレスを試料の側へ影響させずに試料を極低温に冷却保持し得るようにした。
【0014】
具体的には、請求項1の発明の低温試料位置制御装置は、内部を真空に保持し得るチャンバ内に、3次元方向へ相対的に大きな移動量で位置制御を行なう第1の位置制御機構と、その第1の位置制御機構によって位置制御される可動台と、その可動台に断熱性を有するサポート部材を介して取付けられた試料側熱シールド筐体と、その試料側熱シールド筐体内に断熱性を有する冷却ヘッド基台を介して固定されかつ外部から冷却媒体が導入・排出されるように構成された試料用冷却ヘッドと、前記試料側熱シールド筐体内にその筐体に対して非接触状態を保ちかつ試料用冷却へッドに対し分離して設けられた試料台と、前記可動台に取付けられて3次元方向へ相対的に小さな移動量で前記試料台の位置制御を行なうための第2の位置制御機構と、前記試料用冷却ヘッドと試料台との間を結ぶ可撓性を有する熱伝導部材と、前記試料台に対向するセンサ台と、外部から冷却媒体が導入・排出されて前記センサ台を冷却するためのセンサ用冷却ヘッドと、前記センサ台およびセンサ用冷却ヘッドを取囲みかつ前記試料側熱シールド筐体と分離して設けられたセンサ側熱シールド筐体と、前記センサ台、センサ用冷却ヘッドおよびセンサ側熱シールド筐体を支持してその位置を固定するためのセンサ側支持部材とが配設されてなることを特徴とするものである。
【0015】
さらに請求項2の発明の低温試料位置制御装置は、請求項1に記載の装置において、前記第2の位置制御機構が、圧電素子からなり、かつその圧電素子と試料台との間に断熱性を有する中間連結部材が介在しているものである。
【0016】
さらにまた請求項3の発明の低温試料位置制御装置は、請求項1に記載の装置において、前記チャンバ内における、少なくともセンサ台、センサ用冷却ヘッド、試料台及び試料用冷却ヘッドの全体を取囲む部分に磁気シールドが設けられているものである。
【0017】
そして請求項4の発明の低温試料位置制御装置は、請求項3に記載の装置において、前記チャンバの外側に、前記試料用冷却ヘッドおよびセンサ用冷却ヘッドに冷却媒体を供給するための冷却媒体供給装置が配設されており、この冷却媒体供給装置は、外側容器と内側容器とからなる少なくとも2重の構造とされて、内側容器内に冷却媒体を貯留するように構成されるとともに、その内側容器と外側容器との間が真空に保持し得るように構成され、しかもその真空部分と前記チャンバ内の真空に保持される空間部分とが気密に隔絶された構成とされているものである。
【0018】
そしてまた請求項5の発明の低温試料位置制御装置は、請求項4に記載の装置において、前記冷却媒体供給装置の内側容器から前記チャンバ内の試料用冷却ヘッドおよびセンサ用冷却ヘッドへ供給される冷却媒体の流量および温度を制御するための流量制御手段および温度制御手段が、前記冷却媒体供給装置内に設けられているものである。
なおこの発明で“センサ”とは、試料の物性や特性、試料から発生する磁束や各種放射線などを計測するセンサのみならず、試料の表面状況を観察する装置、例えばトンネル顕微鏡等をも含むこととする。
【0019】
【発明の実施の形態】
【0020】
【実施例】
図1にこの発明の低温試料位置制御装置の一例の全体構成を示し、また図2にはその低温試料位置制御装置の一例の要部を拡大して示す。
【0021】
図1、図2において、チャンバ1は、下面側を開放したチャンバ上部体1Aと上面側を開放したチャンバ下部体1Bとを上下に組合わせて、全体として箱型もしくは円筒形をなすように作られたものであって、その内部が開示しない真空ポンプによって真空に吸引保持されるように構成されている。またこのチャンバ1の上部側面および上面には、外部から試料位置を目視により観察するための光学窓3,5が設けられており、さらにチャンバ1の下部側面側には、冷却媒体供給・還流用開口部13が突出形成されている。この開口部13には、後述する冷却媒体供給装置7から冷却媒体としての液体ヘリウムを導入するための2本の冷却媒体供給パイプ9A,9Bと、後述する冷却ヘッド35,59において温度上昇して気化したヘリウムガスを冷却媒体供給装置7へ戻すための排出用パイプ11A,11Bとが冷却媒体供給装置7の側から挿入されている。またチャンバ1のチャンバ上部体1Aとチャンバ下部体1Bの内側には、それぞれその内壁面に沿って高透磁率磁性材料からなる内面用磁気シールド15A,15Bが配設されている。一方チャンバ1内におけるチャンバ上部体1Aとチャンバ下部体1Bとの境界位置には、チャンバ1内の空間を上下に区分するように上下区分用磁気シールド15Cが水平に設けられている。
【0022】
チャンバ1内の底部(内面用磁気シールド15A,15Bに対し内側の底部)には、ベースプレート17が固定されている。そしてこのベースプレート17上には、パルスモータなどのX軸方向駆動装置19A、Y軸方向駆動装置19B、Z軸方向駆動装置19Cを組合わせてなる第1の位置制御機構19が設けられている。この第1の位置制御機構19は、その上側の可動台21を3次元方向へ移動させて後述する試料台29の3次元方向の位置制御を相対的に大きな移動量で大まかに行なうためのものである。
【0023】
前記可動台21上の一方の側には、試料台29の3次元方向の位置制御を相対的に小さな移動量で微小に行なうための第2の位置制御機構として、柱状の圧電素子23が垂直に設けられている。前記圧電素子23の上端には、FRPなどの断熱効果を有する材料からなる棒状の中間連結部材25が垂直に設けられ、この中間連結部材25の上端部分は後述する試料側熱シールド筐体27内に、その熱シールド筐体27の底部の開口部27Aを介して挿入され、その熱シールド筐体27内における中間連結部材25の上端に銅等の良熱伝導性材料からなる試料台29が設けられている。この試料台29は、計測対象あるいは観察対象となる各種素子や材料などの試料を上面に保持するように構成されている。
【0024】
一方可動台21上の他方の側には、FRPなどの断熱効果を有する材料からなる柱状のサポート部材31が垂直に設けられている。そしてこのサポート部材31の上端には、前述の試料側熱シールド筐体27が固定されており、この試料側熱シールド筐体27内における前記サポート部材31の延長上にはFRP等の断熱効果を有する材料からなる冷却ヘッド基台33が設けられている。そして冷却ヘッド基台33上には、試料用冷却ヘッド35が配設されている。この試料用冷却ヘッド35は銅等の良熱伝導材料によって中空なタンク状に作られたものであって、下部から冷却媒体としての液体ヘリウムが冷却媒体導入パイプ37を介して導入され、かつ上部からその液体ヘリウムが気化されてなるヘリウムガスが排出パイプ39を介して排出されるように構成されている。そしてこの試料用冷却ヘッド35と前記試料台29との間は、可撓性を有する熱伝導部材41、例えば銅線を編組してなる銅ブレードなどによって結ばれている。なおこの可撓性熱伝導部材41は、常時撓んだ状態を保つように、すなわち緊張状態とならないような充分な長さとなっている。
【0025】
さらに試料台29およびこれを支持する中間連結部材25は、試料側熱シールド筐体27に対して非接触の状態を保つようになっている。したがって中間連結部材25を挿入するために試料側熱シールド筐体27の底面に形成された開口部27Aは、その内径が中間連結部材25の外径よりも充分大きくなるように定めらてれいる。また試料側熱シールド筐体27の上面には、試料台29の上面に対向する位置に開口部27Bが形成されている。さらに試料側熱シールド筐体27における試料台29に近い側の側面(前述のチャンバ1における側面側の光学窓3に対応する位置)には、試料位置確認用の開口部27Cが形成されており、この開口部27Cから光学窓3に向かって輻射シールドパイプ43が延出されている。この輻射シールドパイプ43は、その内面における熱反射を防止するように、黒色塗料の塗布や着色等により内面を黒色化したものである。また前記試料側熱シールド筐体27の外面には、前記試料用冷却ヘッド35から導かれた排出パイプ39の一部が巻付けられて、試料側熱シールド筐体27をその外面側から冷却するための冷却コイル部45が形成されている。
【0026】
一方前記ベースプレート17の周辺部4隅からは、その上方へ4本の支柱47A,47B(図では手前側の2本のみを示す)が垂直に立設されており、これら支柱47A,47Bの上端側には天板49が水平に設けられている。この天板49は、上方へ跳ね上げ可能となるように、一方の側の2本の支柱47Aの上端に支軸51により回動可能に支持され、また他方の側の2本の支柱47Bに対しては蝶ネジ53により容易に着脱可能に取付けられている。上記天板49の下面には、FRPなどの断熱効果を作するサポート部材55を介してセンサ側熱シールド筐体57が垂下されている。このセンサ側熱シールド筐体57内には、センサ用冷却ヘッド59が固定され、そのセンサ側冷却ヘッド59の下面には銅等の良熱伝導材料からなるセンサ台61が取付けられている。ここで、センサ台61はSQUIDあるいはトンネル顕微鏡などのセンサが取付けられるものである。またセンサ用冷却ヘッド59は、前述の試料用冷却ヘッド35と同様に銅等の良熱伝導材料によって中空なタンク状に作られたものであって、下部から冷却媒体としての液体ヘリウムが冷却媒体導入パイプ63を介して導入され、かつ上部から気化したヘリウムガスが排出パイプ65を介して排出されるように構成されている。また前記センサ台61の下面に対応するセンサ側熱シールド筐体57の底部には開口部57Aが形成されており、さらにセンサ側熱シールド筐体57の外面には、前述の排出パイプ65の一部が巻付けられて、冷却用コイル部67が形成されている。
【0027】
さらに前述の冷却媒体供給装置7について説明する。
【0028】
図1において、外側容器71の内側に間隔をおいて内側容器73が配設されており、外側容器71と内側容器73との間は真空に吸引されて真空断熱されるように作られている。また外側容器71の下部側面側には、前述のチャンバ1における冷却媒体供給・還流用開口部13に挿入される冷却媒体供給・還流用突出部71A〜71Dが形成されている。前記内側容器73は冷却媒体としての液体ヘリウムを貯留しておくためのものであり、その下底部からは、下方(内側容器73と外側容器71との間の空間)へ冷却媒体供給パイプ9A,9Bが導き出されており、これらの冷却媒体供給パイプ9A,9Bの上端には、流量制御手段として試料側供給制御弁75およびセンサ側供給制御弁77が設けられている。これらの供給制御弁75,77の側方には内側容器73内の液体ヘリウムが取入れられる流入ポート75A,77Aが設けられ、またこれらの供給制御弁75,77からは操作軸75B,77Bが上方へ延出されている。
【0029】
前記冷却媒体供給パイプ9A,9Bは、前述の冷却媒体供給・還流用突出部71B,71Dを介してチャンバ1内へ導かれ、一方のパイプ9Aはフレキシブルパイプ79を介してサンプル側の冷却媒体導入パイプ37に接続され、他方のパイプ9Bはフレキシブルパイプ81を介してセンサ側の冷却媒体導入パイプ63に接続されている。そしてまた冷却媒体供給パイプ9A,9Bの中途には、チャンバ1側へ送る冷却媒体の温度を制御するための温度制御手段として、ヒータ83A,83Bが設けられている。なお内側容器73の下方には、冷却媒体供給パイプ9A,9B、ヒータ83A,83Bのほか、排出用パイプ11A,11Bが配設されており、各排出用パイプ11A,11Bの一方の側は、冷却媒体供給・還流用突出部71A,71Cを介してチャンバ1内へ導かれ、それぞれ冷却媒体排出用パイプ39,65にフレキシブルパイプ87,89を介して接続され、また各冷却媒体排出用パイプ11A,11Bの他方の側の端部は外側容器71の外部へ導き出され、その先端に外気中へヘリウムガスを排出するための排出ポート91A,91Bが設けられている。
【0030】
以上のような図1、図2に示されるこの発明の実施例の低温試料位置制御装置の機能、作用について以下に説明する。
【0031】
試料台29上には計測対象あるいは観察対象となる試料、例えば半導体素子等の各種素子や超電導材料などの各種材料からなる試料が保持され、センサ台61にはSQUIDやトンネル顕微鏡などのセンサが取付けられる。ここで、センサおよびセンサ台61の位置は、ベースプレート17から支柱47A,47B、天板49等を介して固定されている。一方試料および試料台29の位置は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各駆動装置19A,19B,19Cからなる第1の位置制御機構19によって大まかに決定され、また第2の位置制御機構としての圧電素子23によって高精度で決定される。すなわち、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各駆動装置19A,19B,19Cを作動させれば、可動台21が3次元各方向へ相対的に大きな移動量、移動速度で移動し、可動台21に固定されている圧電素子23、中間連結部材25、試料台29、サポート部材31、試料側熱シールド筐体27、試料用冷却ヘッド35も同方向へ移動する。そして圧電素子23を駆動させれば、中間連結部材25および試料台29のみが3次元各方向へ微小移動することになる。ここで試料台29は、試料側熱シールド筐体27に対して非接触の状態となり、また試料用冷却ヘッド35との間の熱伝導部材41は可撓性を有しているため、圧電素子23により試料台29を微小精度で移動させることが可能となっている。
【0032】
一方冷却媒体供給装置7の内側容器73には冷却媒体として液体ヘリウムが貯留されており、この液体ヘリウムが、試料側供給制御弁75、センサ側供給制御弁77から冷却媒体供給パイプ9A,9B、フレキシブルパイプ79,81、冷却媒体導入パイプ37,63を介して試料用冷却ヘッド35、センサ用冷却ヘッド59へ導入される。ここで、各冷却ヘッド35,59へ導く液体ヘリウムの流量は、供給制御弁75,77の操作軸75B,77Bを操作することによってそれぞれ制御される。また各冷却ヘッド35,59へ導く液体ヘリウムあるいは気化ヘリウムガスの温度は、ヒータ83A,83Bによって制御される。例えばセンサしてSQUIDを用いる場合、センサ用冷却ヘッド59の温度が4K程度となるように液体ヘリウムの流量、温度を制御し、また試料用冷却ヘッド35の温度を、サンプルの種類などに応じて例えば4K〜100Kの範囲内で制御する。なお各冷却ヘッド35,59内において温度上昇して気化したヘリウムガスは、排出用パイプ39,65、フレキシブルパイプ87,89、排出用パイプ11A,11Bを介して排出ポート91A,91Bに導かれ、大気中へ放出される。またここで、排出用パイプ39,65の一部は各熱シールド筐体27,57の外面に冷却コイル部45,67として巻付けられているため、各冷却ヘッド35,59から排出される比較的低温のヘリウムガスが各熱シールド筐体27,57を冷却するに寄与する。
【0033】
試料側熱シールド筐体27内においては、冷却ヘッド35から可撓性熱伝導部材41を介して試料台29へ熱伝導がなされ、試料台29およびそれに保持されている試料が例えば4K〜100Kの範囲内の温度に冷却される。ここで、冷却媒体供給装置7から各パイプを介して試料用冷却ヘッド35に液体ヘリウムを導入させる時には、液体ヘリウムの移動に伴なって機械的振動が発生し、冷却ヘッド35や熱シールド筐体27も振動することになるが、冷却へッド35と試料台29との間を結ぶ熱伝導部材41は可撓性を有していてしかも常時撓んでおり、かつ試料台29は熱シールド筐体27に対し非接触状態となっているため、冷却ヘッド35および熱シールド筐体27の側の振動が試料台29へ伝えられてしまうことが最小限に抑えられる。したがって冷却ヘッド35、熱シールド筐体27の側の振動の影響を受けることなく、試料の位置を高精度で制御することができる。またこのように試料台29の振動が生じにくいため、圧電素子23に対しても振動による機械的ストレスが加えられることが最小限に抑えられ、そのため機械的強度が低い圧電素子23が機械的ストレスにより破壊されてしまうことを有効に防止できる。
【0034】
なお試料の冷却について補足すれば、試料台29と圧電素子23との間の中間連結部材25は断熱効果を有するFRP等によって作られているため、圧電素子23の側から試料台29の側への熱侵入が生じることが可及的に防止される。また試料側熱シールド筐体27は既に述べたように冷却コイル部45によって冷却されており、しかもその熱シールド筐体27と可動台21との間のサポート部材31がFRPの如く断熱効果を有する材料によって作られているため、可動台21の側から熱シールド筐体27に熱侵入が生じることを防止して、熱シールド筐体27を低温に維持することができる。さらにその試料側熱シールド筐体27内において冷却ヘッド35はFRPの如く断熱効果を有する材料からなる冷却ヘッド基台33によって支持されているため、冷却ヘッド35への熱侵入も少ない。したがってこれらの効果が相俟って、効率良く試料台29上の試料を低温に冷却し、液体ヘリウムの消費量を少なくすることができる。
【0035】
またセンサ側熱シールド筐体57もその外面の冷却用コイル部67によって低温に冷却され、しかもその熱シールド筐体57と天板49との間のサポート部材55もFRPなどの断熱効果を有する材料によって作られているため、センサ側熱シールド筐体57への熱侵入を可及的に防止してセンサ側熱シールド筐体57を低温に保持することができ、そのためセンサ台61およびそれに取付けられているセンサを効率良く極低温に保持して、液体ヘリウム消費量を少なくすることができる。なおセンサ台61は既に述べたように天板49の側から堅牢に固定されているため、冷却ヘッド59への液体ヘリウムの導入による各パイプの振動がセンサ台61を振動させてしまうおそれは少ない。
【0036】
以上のようにして、試料およびセンサを効率良く低温に冷却保持しながら、液体ヘリウム等の導入・排出に伴なう試料用冷却ヘッド35の側からの振動の影響を受けることなく、ミクロンオーダーでの高精度の位置制御を行なうことができるのである。
【0037】
またセンサとしてSQUIDを用いる場合、外部磁気の影響を抑制する必要があるが、実施例の装置ではチャンバ1の内側に磁気シールド15A,15Bが設けられているため、外部からの磁束の侵入を抑えることができ、さらにチャンバ1の内部においてパルスモータ等の駆動装置19A〜19Cからなる第1の位置制御機構19が位置するチャンバ内下部とセンサや試料が位置するチャンバ内上部との間も磁気シールド15Cによって隔てられているため、パルスモータ等の駆動装置19A〜19Cによって磁束の影響をセンサや試料が受けることを有効に防止できる。さらに、冷却媒体の温度調整を行なうためのヒータ83A,83Bや制御弁75,77も電磁ノイズ、磁気ノイズの発生源となることが多いが、実施例ではこれらのヒータ83A,83Bや制御弁75,77はチャンバ1の外部(したがって磁気シールド15Aの外側)の冷却媒体供給装置7の側に設けられているから、試料やセンサがヒータ83A,83Bや制御弁75,77による電磁ノイズ、磁気ノイズの影響を受けることはない。なお各熱シールド筐体27,57についても、これらを高透磁率磁性材料で作っておくことにより、熱シールドのみならず磁気シールドの機能をも付与しておいても良く、このようにすれば外部磁気の影響をより一層軽減することができる。
【0038】
さらに実施例の装置では、試料の交換(取付け、取外し)、あるいはセンサの交換にあたっては、チャンバ1におけるチャンバ上部体1Aをチャンバ下部体1Bから取外してチャンバ1を開放し、蝶ネジ53を取外して支軸51を中心とし天板49を上方へ跳ね上げれば、試料部分、センサ部分が露出されるから、容易にこれらの交換を行なうことができる。ここで、チャンバ1を開放させればチャンバ1内の真空が破られることになるが、冷却媒体供給装置7はチャンバ1から隔絶されており、その冷却媒体供給装置7の内側容器73と外側容器71との間の真空状態はチャンバ1を開放しても破られることはない。そのためチャンバ1の開放時にも冷却媒体供給装置7の内側容器73内の冷却媒体としての液体ヘリウムを蒸発させることなく、そのまま保存することができる。
【0039】
そしてまた実施例の装置の場合、試料位置の目視による確認をチャンバ1の光学窓3と試料側熱シールド筐体27の開口部27Cとを介して行なうことができる。そしてこのような構成では光学窓3から試料に対して外部から輻射熱の侵入が生じやすいが、試料側熱シールド筐体27の開口部27Cからは光学窓3へ向けて輻射シールドパイプ43が延出しているため、光学窓3からの輻射熱が試料まで到達してしまうおそれは少ない。
【0040】
【発明の効果】
請求項1の装置によれば、試料を冷却するための試料冷却用ヘッドと、試料を保持するための試料台とが、試料側熱シールド筐体内に互いに分離されて配置され、かつ試料用冷却ヘッドと試料台との間が可撓性を有する熱伝導部材によって結合されていて、その可撓性熱伝導部材の熱伝導により試料台および試料を冷却するように構成されているため、試料用冷却ヘッドへの冷却媒体の流入、排出に伴なう冷却ヘッド側の機械的振動が試料台および試料に伝えられることが防止され、そのため振動の影響によって試料の位置精度が低下してしまったり正確な計測が困難となってしまったりすることを有効に防止して、高精度での微小位置制御が可能であり、また上述のように試料用冷却ヘッドへの冷却媒体の導入、排出に伴なう振動が試料台の側に伝達されないため、振動防止のために試料台の支持部分の剛性を極端に高める必要がなく、そのため外部から支持部分を介しての試料台および試料への熱侵入を少なくすることができるから、冷却効率を高めて、試料を充分な極低温に冷却することが可能となるとともに冷却媒体の消費量も少なくすることができ、さらに位置制御のための手段が、大まかな位置制御を行なうための第1の位置制御機構と、微小位置制御を行なうための第2の位置制御機構とによって構成されているため、位置設定、位置制御のための時間を短縮して作業能率を高めることができると同時に、著しく高い精度で微小位置制御を行なうことができる。
【0046】
そしてまた請求項2の発明によれば、機械的ストレスに弱い圧電素子を微小な位置制御のために用いているが、既に述べたように冷却媒体の導入、排出に伴なう振動が試料台に伝わりにくく、そのため試料台の振動により圧電素子に機械的ストレスが加わるおそれが少なく、したがって圧電素子が機械的ストレスにより破壊されてしまうことを未然に防止できる。
【0047】
さらに請求項3の発明によれば、試料台やセンサ台の部分が外部側に対して磁気シールドされているため、SQUIDによる測定など、磁気ノイズ、電磁ノイズの影響を嫌う測定の場合でも、外部からの磁気ノイズ、電磁ノイズの影響を受けることなく少ない誤差で高精度の計測を行なうことができる。
【0048】
そしてまた請求項4の発明の装置では、チャンバ内の真空空間と冷却媒体供給装置の断熱用の真空空間とが隔絶されるため、チャンバ内の試料やセンサの交換や取付け、取外しを行なうためにチャンバ内の真空を破っても、冷却媒体供給装置の断熱用の真空空間はそのまま真空が保たれ、そのためチャンバでの前述の交換等の作業を行なうにあたっても、冷却媒体供給装置内では温度上昇による冷却媒体の気化を生じさせることなく、冷却媒体をそのまま保持することができるから、前述の交換作業等により冷却媒体をいたずらに消費してしまうことを有効に防止できる。
【0049】
さらに請求項5の発明の装置では、冷却媒体の流量や温度を制御する手段が冷却媒体供給装置の側に設けられている一方、チャンバ側のセンサや試料は磁気シールドされているため、流量制御手段や温度制御手段の発生する磁気ノイズや電磁ノイズが機器の計測に悪影響を及ぼすおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の低温試料位置制御装置の一実施例の全体構成を示す概略的な縦断面図である。
【図2】図1に示される実施例の装置の要部を拡大して示す略解縦断面である。
【符号の説明】
1 チャンバ
7 冷却媒体供給装置
15A,15B 内面用磁気シールド
15C 上下区分用磁気シールド
19 第1の位置制御機構
21 可動台
23 圧電素子(第2の位置制御機構)
25 中間連結部材
27 試料側熱シールド筐体
29 試料台
31 サポート部材
33 冷却ヘッド基台
35 試料用冷却ヘッド
37 冷却媒体導入パイプ
39 冷却媒体排出パイプ
41 可撓性熱伝導部材
57 センサ側熱シールド筐体
59 センサ用冷却ヘッド
61 センサ台
63 冷却媒体導入パイプ
65 冷却媒体排出パイプ
71 外側容器
73 内側容器
75 試料側供給制御弁(流量制御手段)
77 センサ側供給制御弁(流量制御手段)
83A,83B ヒータ(温度制御手段)

Claims (5)

  1. 内部を真空に保持し得るチャンバ内に;
    3次元方向へ相対的に大きな移動量で位置制御を行なう第1の位置制御機構と、その第1の位置制御機構によって位置制御される可動台と、その可動台に断熱性を有するサポート部材を介して取付けられた試料側熱シールド筐体と、その試料側熱シールド筐体内に断熱性を有する冷却ヘッド基台を介して固定されかつ外部から冷却媒体が導入・排出されるように構成された試料用冷却ヘッドと、前記試料側熱シールド筐体内にその筐体に対して非接触状態を保ちかつ試料用冷却へッドに対し分離して設けられた試料台と、前記可動台に取付けられて3次元方向へ相対的に小さな移動量で前記試料台の位置制御を行なうための第2の位置制御機構と、前記試料用冷却ヘッドと試料台との間を結ぶ可撓性を有する熱伝導部材と、前記試料台に対向するセンサ台と、外部から冷却媒体が導入・排出されて前記センサ台を冷却するためのセンサ用冷却ヘッドと、前記センサ台およびセンサ用冷却ヘッドを取囲みかつ前記試料側熱シールド筐体と分離して設けられたセンサ側熱シールド筐体と、前記センサ台、センサ用冷却ヘッドおよびセンサ側熱シールド筐体を支持してその位置を固定するためのセンサ側支持部材とが配設されてなることを特徴とする、低温試料位置制御装置。
  2. 前記第2の位置制御機構が、圧電素子からなり、かつその圧電素子と試料台との間に断熱性を有する中間連結部材が介在している、請求項1に記載の低温試料位置制御装置。
  3. 前記チャンバ内における、少なくともセンサ台、センサ用冷却ヘッド、試料台及び試料用冷却ヘッドの全体を取囲む部分に磁気シールドが設けられている、請求項1に記載の低温試料位置制御装置。
  4. 前記チャンバの外側に、前記試料用冷却ヘッドおよびセンサ用冷却ヘッドに冷却媒体を供給するための冷却媒体供給装置が配設されており、この冷却媒体供給装置は、外側容器と内側容器とからなる少なくとも2重の構造とされて、内側容器内に冷却媒体を貯留するように構成されるとともに、その内側容器と外側容器との間が真空に保持し得るように構成され、しかもその真空部分と前記チャンバ内の真空に保持される空間部分とが気密に隔絶された構成とされている、請求項3に記載の低温試料位置制御装置。
  5. 前記冷却媒体供給装置の内側容器から前記チャンバ内の試料用冷却ヘッドおよびセンサ用冷却ヘッドへ供給される冷却媒体の流量および温度を制御するための流量制御手段および温度制御手段が、前記冷却媒体供給装置内に設けられている、請求項4に記載の低温試料位置制御装置。
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