JP3598123B2 - 核酸の変性検出装置 - Google Patents

核酸の変性検出装置 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、核酸の構造解析に係わり、特に核酸の変性の検出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
核酸(DNA、RNA、あるいはこれらのハイブリッド)の変性条件の相違を1塩基置換による変性条件の差という精度で測定する技術が注目されている。
【0003】
こうした、相同な2本鎖状の核酸の間における1塩基置換のようなわずかな相違が検出可能な方法として、変性勾配ゲル電気泳動法と称される方法が提案されている(S. G. Fischer and L. S. Lerman : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.80, pp.1579−1583, March 1983 )。この方法では、まず、ポリメラーゼ連鎖反応(以後、PCR法と呼ぶ)などの標準的な手法により増幅した、測定対象の2本鎖核酸を調製する。次に、この2本鎖核酸をゲル支持体に投入し、ゲル支持体について空間的に設定した変性条件(温度あるいは水素イオン濃度(pH)など)勾配下で電気泳動を施す。なお、この測定では、測定対象の2本鎖核酸に加えて基準となる2本鎖核酸を同時に電気泳動を施し、双方の変性条件の相違を観測することも可能である。
【0004】
図9は、従来の核酸の変性検出方法の説明図である。図9(a)は、例えば変性条件として温度を選択した場合、昇温により核酸が変性する様子を示す。一般に、周囲温度を高くすると2本鎖核酸は変性する。この変性温度は2本鎖核酸の塩基組成によって異なる。また、特定の1本鎖核酸とこの1本鎖核酸に対して完全に相補的な1本鎖核酸とが結合した2本鎖核酸は、前述の特定1本鎖核酸とこの1本鎖核酸に対して完全ではないがほぼ相補的な1本鎖核酸とが結合した2本鎖核酸よりも変性温度が高い。従来の装置は、この現象を利用したものであり、ゲル支持体について空間的に変性条件の勾配を設定してゲル電気泳動を施す。略相補鎖を含むサンプルの場合、図9(b)の測定結果が示すように、変性点が2点存在する場合は、より温度の低い変性条件を示すものが測定対象の2本鎖核酸であり、より温度の高い変性条件を示すものが基準となる2本鎖核酸である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の変性勾配ゲル電気泳動法による核酸の変性検出では、変性条件(温度、あるいはpH)の変化勾配下のゲル中でサンプル核酸を電気泳動させる必要があったので、繁雑であり長い時間(数十分〜数時間;サンプル核酸の分子量に依存する)を要するという問題点があった。また、変性勾配ゲル電気泳動法による核酸変性の検出感度は安定性あるいは勾配量などの変性条件の制御や電気泳動条件の制御の精度に依存する。しかし、これらの条件の制御の精度を現状よりも高めることは困難であり、変性の検出感度および検出精度を向上が望めないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記のような状況を鑑みてなされたものであり、核酸の変性を迅速かつ精度良く検出できる核酸の変性検出装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の核酸の変性検出装置では、エネルギ供与体が付加された塩基またはヌクレオチドで構成される1本鎖核酸と、この1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有しエネルギ受容体が付加された塩基またはヌクレオチドで構成された1本鎖核酸とを結合して変性条件の測定対象となる2本鎖核酸を調製し、この2本鎖核酸に励起光を照射したときに発生する特定波長の蛍光を検出・測定する。2本鎖状態でエネルギ供与体からエネルギ受容体へのエネルギ移動が起こる場合と、変性して1本鎖状態となりエネルギ移動が起こらない場合とでは、発生する蛍光の波長−強度分布あるいは発生する蛍光の寿命などの蛍光特性が変化する。本発明の核酸の変性検出装置は、変性条件を制御しながら発生蛍光の特性値を計測し、発生蛍光の特性の変化を検出することにより、変性を認識するとともに測定対象の2本鎖核酸の変性条件の値を測定することを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明の第1の核酸の変性検出装置は、(a)第1の標識分子が付加された塩基からなる第1の1本鎖核酸と、第1の1本鎖核酸と略相補的な塩基配列を有し、所定距離内の第1の標識分子とエネルギ移動を生じる第2の標識分子が付加された塩基からなる第2の1本鎖核酸と、が結合した2本鎖核酸が第1の1本鎖核酸と第2の1本鎖核酸とに分離する変性の条件を制御する変性条件制御手段と、(b)所定波長の励起光を発生し、変性前の2本鎖核酸と変性後の第1の1本鎖核酸および第2の1本鎖核酸とに照射する励起光照射手段と、(c)励起光の照射によって発生する蛍光を検出する蛍光検出手段と、(d)蛍光検出手段の出力する信号を入力し、蓄積し、処理する処理手段と、を備え、変性条件制御手段により変性条件を変化させながら、発生した蛍光を観測して2本鎖核酸の変性条件の値を測定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第2の核酸の変性検出装置は、上記の本発明の第1の核酸の変性検出装置に変性測定対象の2本鎖核酸の調製手段を加えたものであり、(a)測定対象である第1の2本鎖核酸の所定部分を、第1の標識分子が付加された塩基からなる、第1の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第3の1本鎖核酸と第2の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第4の1本鎖核酸とを多数生成する第1の核酸増幅手段と、(b)第1の2本鎖核酸と同一あるいは略同一な、基準となる第2の2本鎖核酸の前記所定部分に対応する部分を、所定距離内の第1の標識分子とエネルギ移動を生じる第2の標識分子が付加された塩基からなる、第5の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第7の1本鎖核酸と第6の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第8の1本鎖核酸とを多数生成する第2の核酸増幅手段と、(c)第3の1本鎖核酸と第8の1本鎖核酸とを抽出後に混合し、完全2本鎖あるいは部分的2本鎖である第3の2本鎖核酸を生成する核酸生成手段と、(d)第3の2本鎖核酸が第3の1本鎖核酸と第8の1本鎖核酸とに分離する変性の環境を制御する変性条件制御手段と、(d)所定波長の励起光を発生し、変性前の第3の2本鎖核酸と変性後の第3の1本鎖核酸および第8の1本鎖核酸とに照射する励起光照射手段と、(e)励起光の照射によって発生する蛍光を検出する蛍光検出手段と、(f)蛍光検出手段の出力する信号を入力し、蓄積し、処理する処理手段と、を備え、変性条件制御手段により変性条件を変化させながら、発生した蛍光を観測し、第3の2本鎖核酸の変性条件の値を測定することを特徴とする。
【0010】
上記の第1および第2の核酸の変性検出装置においては、▲1▼変性条件は温度であり、前記変性条件制御手段は温度調節器である、ことを特徴としてもよいし、▲2▼変性条件は水素イオン濃度であり、前記変性条件制御手段は水素イオン濃度調節器である、ことを特徴としてもよい。また、▲1▼蛍光検出手段は第1の標識分子と第2の標識分子との間でエネルギ移動が起こった場合に発生する第1の蛍光と第1の標識分子と前記第2の標識分子との間でエネルギ移動が起こらなかった場合に発生する第2の蛍光とを含む波長範囲の光を波長を含めて検出し、処理手段は夫々の変性条件に対する各波長の光の発生量を算出する、ことを特徴としてもよいし、▲2▼蛍光検出手段は蛍光波形測定器であり、処理手段は蛍光波形測定器が検出した蛍光波形から蛍光寿命を算出する、ことを特徴としてもよい。更に、▲3▼蛍光検出手段は第1の標識分子と第2の標識分子との間でエネルギ移動が起こった場合に発生する第1の蛍光を選択的に検出し、処理手段は夫々の変性条件に対する第1の蛍光の発生量を算出する、ことを特徴としてもよいし、▲4▼蛍光検出手段は第1の標識分子と第2の標識分子との間でエネルギ移動が起こらなかった場合に発生する第2の蛍光を選択的に検出し、処理手段は夫々の変性条件に応じた第2の蛍光の発生量を算出する、ことを特徴としてもよい。
【0011】
【作用】
本発明の第1の核酸の変性検出装置では、あらかじめ調製された、蛍光エネルギ供与体分子が付加された塩基からなる1本鎖核酸とエネルギ受容体分子が付加された塩基からなる1本鎖核酸とが結合した測定対象の2本鎖核酸を、変性条件(例えば、温度など)の制御が可能な測定点に配置する。変性条件の初期値は変性が起きない値に設定する。この状態で励起光を照射し、発生した蛍光を測定する。測定対象量は、▲1▼エネルギ受容体の特性蛍光の発生量、▲2▼エネルギ供与体の特性蛍光の発生量、あるいは▲3▼エネルギ供与体の蛍光寿命である。以後、処理部の制御のもとで変性条件を変化させながら測定対象量を測定して、各変性条件値における測定対象量を蓄積する。測定後、エネルギ受容体の特性蛍光の発生量の場合には変性後の消光度を、エネルギ供与体の特性蛍光の発生量の場合には増光度を、エネルギ供与体の蛍光寿命の場合には寿命変化に着目して変性点を求める。
【0012】
本発明の第2の核酸の変性検出装置では、基準となる核酸サンプルと検査対象となる核酸サンプルを出発点として、検査核酸および基準核酸の双方の1本鎖核酸が結合した測定対象核酸の変性検出を実施する。この装置は、基準核酸サンプルと検査核酸サンプルとを、一方はエネルギ供与体分子が付加した塩基を用いてPCR増幅(もしくは、PCR増幅した後にエネルギ供与体付加塩基でポリメライズ)し、他方はエネルギ受容体分子が付加した塩基を用いてPCR増幅(もしくは、PCR増幅した後にエネルギ受容体付加塩基でポリメライズ)する。これらの増幅された核酸から互いに相補関係にある1本鎖核酸を夫々個別に抽出し、混合して測定対象核酸を調製する。以後、この調製された測定対象核酸に対して、第1の核酸の変性検出装置と同様の測定を行って変性点を求める。
【0013】
【実施例】
本発明の実施例の説明に先立って、本発明の核酸の変性検出装置の測定原理の概要を説明する。図1は、本発明の装置が核酸の変性検出に利用する現象の説明図である。核酸を構成する塩基に結び付く蛍光分子には、2種の蛍光分子同士の距離が約7nm以下の場合には蛍光エネルギ移動が発生する組み合わせが知られている(L.Stryer : Ann. Rev. Biochem. 1978, vol.47, pp819−846 )。また、一方の1本鎖核酸にエネルギ供与体を付加し、他方の1本鎖核酸にエネルギ受容体を付加して2本鎖核酸を構成すれば、図1(a)のように、2本鎖核酸の状態ではエネルギ供与体(D)とエネルギ受容体(A)との間の距離は約2nm程度となる対を形成可能であり、変性後のばらばらになった1本鎖核酸間の平均距離は7nmよりも遥かに大きくなる。
【0014】
単体のエネルギ供与体が蛍光を発生するような励起光を照射すると、▲1▼変性前の2本鎖核酸の状態では、励起光が照射されたエネルギ供与体からエネルギ受容体へエネルギ移動が起こり、エネルギ受容体からの蛍光(波長=λ;以後、λ蛍光と呼ぶ)が発生し、▲2▼変性後の1本鎖核酸の状態ではエネルギ供与体とエネルギ受容体との間の距離が大きいので、エネルギ移動が起こらずエネルギ供与体からの蛍光(波長=λ;以後、λ蛍光と呼ぶ)のみが発生する。図1(b)は、変性前の2本鎖核酸の状態での励起光を照射した場合に発生する蛍光の強度−波長分布、および変性後の2本鎖核酸の状態での励起光を照射した場合に発生する蛍光の強度−波長分布を示す。図1(b)から明らかなように、変性前から変性後への変化では、λ蛍光の強度は減少し、λ蛍光の強度は増大する。また、図示はしていないが、λ蛍光の蛍光寿命は、変性前と変性後とで変化する。
【0015】
本発明の核酸の変性検出装置は、上記の変性前と変性後の発生蛍光の特性の相違を測定して核酸の変性を検出する。
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施例を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(第1実施例)
図2は、本発明の第1実施例に係る核酸の変性検出装置の構成図であり、エネルギ供与体としてフルオレセイン分子を、エネルギ受容体としてローダミン分子を使用し、ローダミンの特性蛍光(λ蛍光;波長=580nm)の強度(あるいは発生頻度)を測定するものである。この装置は、(a)所定波長の励起光を発生し、変性前の2本鎖核酸と変性後の1本鎖核酸と(以後、総称して測定対象核酸と呼ぶ)に照射する励起光照射部100と、(b)変性条件である測定対象の核酸の環境温度を制御する変性条件制御部200と、(c)励起光の照射によって発生する蛍光を検出する蛍光検出部300と、(d)変性条件制御部に設定温度の指示を発行する蛍光検出手段の出力する信号を入力し、蓄積し、処理する処理部400と、を備える。
【0018】
ここで、励起光照射部100は、▲1▼励起光の波長を含む波長領域の光を発生する光源110と、▲2▼光源110の発生した光を集光する集光レンズ120と、▲3▼励起光付近の波長域の光のみを透過するフィルタ130と、から構成される。
【0019】
また、変性条件制御部は、▲1▼測定対象核酸の収納器210と、▲2▼収納器210を囲む熱伝導材220と、▲3▼外部からの指示により熱伝導材220の温度を指示温度に設定する可変熱源230と、から構成される。なお、熱伝導材220には励起光が測定対象核酸に照射され、且つ、特定方向へ進行する発生蛍光が出射するように一部が光透過性(含、空洞)に構成される。また、可変熱源230にはヒータなどが利用される。
【0020】
また、蛍光検出部300は、▲1▼λ蛍光の波長付近の光を選択的に透過するフィルタ330と、▲2▼フィルタ330を透過した光を集光する集光レンズ320と、▲3▼集光レンズ320を介した光を受光して電気信号に変換する光検出器310と、から構成される。
【0021】
この装置では、以下のようにして核酸の変性の検出が実施される。
【0022】
まず、測定対象核酸を調製して収納器210に入れる。このとき、処理部400が変性条件制御部200に対して指示する設定温度は、収納器210内の温度が測定対象核酸が変性を起こさない温度とする。この状態で励起光照射部100を駆動して、測定対象核酸に励起光を照射する。励起光の照射を受けた測定対象核酸に付与されたフルオレセイン分子は励起状態へ遷移する。
【0023】
励起状態になったフルオレセイン分子の7nm以内にローダミン分子が存在しない場合には、フルオレセイン分子は特性蛍光(λ蛍光;波長=520nm)を発生して基底状態へ遷移する。また、励起状態になったフルオレセイン分子の7nm以内にローダミン分子が存在する場合には、フルオレセイン分子がエネルギ供与体となり、ローダミン分子がエネルギ受容体となって、エネルギ移動が起こる。このエネルギ移動が起こると、フルオレセイン分子はλ蛍光を発生せずに基底状態に遷移し、ローダミン分子は励起状態へ遷移後、λ蛍光を発生して基底状態へ遷移する。
【0024】
発生したλ蛍光は、フィルタ330を透過後、集光レンズ320を介して光検出器310に入力する。光検出器310は、受光した光を検出し電気信号に変換して処理部400へ出力する。処理部400は、光検出器310が出力する受光信号を入力し、設定温度とともに蓄積する。
【0025】
次に、処理部400が変性条件制御部200に対して設定温度の変更(前回の測定時よりも高い温度)を指示する。この状態で、励起光照射部100が駆動されて、測定対象核酸に励起光が照射され、上記と同様にして発生するλ蛍光が測定される。このとき、処理部400は、光検出器310が出力する受光信号を入力し、新たな設定温度とともに蓄積する。
【0026】
引き続き、処理部400の指示により変性条件制御部200の設定温度を順次昇温しながら、各設定温度で発生するλ蛍光が測定される。各設定温度の状態で光検出器310が出力する受光信号は、処理部400に入力され、設定温度とともに蓄積される。
【0027】
図3は上記の測定動作で得られた測定結果を示す図である。図3(a)は、処理部400に蓄積された内容を、温度を横軸に、λ蛍光強度(λ蛍光の検出頻度)を縦軸にプロットしたグラフである。図3(b)は、図3(a)を基にして温度を横軸に、λ蛍光強度の温度に関する微分値を縦軸にプロットしたグラフである。図3(a)に示す通り、変性前のλ蛍光強度は変性後のλ蛍光強度よりも大きく、かつ特定の温度を境に急激に変化する。この変化点の温度を変性点として検出する。また、蓄積したデータを基にしてλ蛍光強度の温度に関する微分値を算出すれば、図3(b)に示す形のグラフとなるので微分値の絶対値が最大となる温度を変性点として求めることができる。
【0028】
本実施例において、測定量をλ蛍光強度としてもよい。この場合には、フィルタ310として透過波長帯をλ蛍光の波長付近のものを使用して、上記と同様の測定を実施する。図4はこの測定動作で得られた測定結果を示す図である。図4(a)は、処理部400に蓄積された内容を、温度を横軸に、λ蛍光強度(λ蛍光の検出頻度)を縦軸にプロットしたグラフである。図4(b)は、図4(a)を基にして温度を横軸に、λ蛍光強度の温度に関する微分を縦軸にプロットしたグラフである。図4(a)に示す通り、変性前のλ蛍光強度は変性後のλ蛍光強度よりも小さく、かつ特定の温度を境に急激に変化する。この変化点の温度を変性点として検出する。また、蓄積したデータを基にしてλ蛍光強度の温度に関する微分値を算出すれば、図4(b)に示す形のグラフとなるので微分値の絶対値が最大となる温度を変性点として求めることができる。
【0029】
また、本実施例において、測定量を蛍光寿命としてもよい。この場合には、フィルタ310として透過波長帯がλ蛍光の波長付近を含むものを使用して、光検出器310としてストリークカメラのような光波形計測器を用いる。そして、上記と同様の測定を実施し、処理部400は設定温度とともに蛍光寿命値を蓄積する。図5はこの測定動作で得られた測定結果を示す図である。図5(a)は、処理部400に蓄積された内容を、温度を横軸に、エネルギ供与体の蛍光寿命を縦軸にプロットしたグラフである。図5(b)は、図5(a)を基にして温度を横軸に、エネルギ供与体の蛍光寿命の温度に関する微分を縦軸にプロットしたグラフである。図5(a)に示す通り、変性前の平均蛍光寿命は変性後の平均蛍光寿命よりも大きく、かつ特定の温度を境に急激に変化する。この変化点の温度を変性点として検出する。また、蓄積したデータを基にして蛍光寿命の温度に関する微分値を算出すれば、図5(b)に示す形のグラフとなるので微分値の絶対値が最大となる温度を変性点として求めることができる。
【0030】
(第2実施例)
図6は、本発明の第2実施例に係る核酸の変性検出装置の構成図である。上記の第1実施例では測定対象核酸はあらかじめ調製されたものを使用することとしているが、本実施例では基準となる核酸サンプルと検査対象となる核酸サンプルを出発点として、検査核酸および基準核酸の双方の1本鎖核酸が結合した測定対象核酸の変性検出を実施する装置である。なお、第1実施例と同様に、エネルギ供与体としてフルオレセイン分子を、エネルギ受容体としてローダミン分子を使用する。
【0031】
すなわち、本実施例の装置は、(a)基準となる2本鎖核酸と検査対象2本鎖核酸との夫々対応する部分を含むサンプルを調製後に、一方の2本鎖核酸に対してはフルオレセイン分子が付加された塩基またはヌクレオチドを用いてPCR増幅し、他方の2本鎖核酸に対してはローダミン分子が付加された塩基を用いてPCR増幅する核酸増幅部と、(b)核酸増幅部で増幅された2種類の2本鎖核酸に関して、一方の2本鎖核酸を形成している1本鎖核酸を抽出するとともに、この1本鎖核酸と相補関係にある1本鎖核酸を他方の2本鎖核酸から抽出する抽出部と、(c)抽出部で抽出された2種の1本鎖核酸を入力し、混合して、測定対象核酸を生成するとともにゲル支持体とも混合する混合部と、(d)混合部で生成された測定対象核酸を測定点に導くゲル電気泳動部と、(e)所定波長の励起光を発生し、変性前の2本鎖核酸あるいは変性後の1本鎖核酸に照射する励起光照射部100と、(f)変性条件である測定対象の核酸の環境温度を制御する変性条件制御部200と、(g)励起光の照射によって発生する蛍光を検出する蛍光検出部300と、(h)変性条件制御部に設定温度の指示を発行し、装置全体の動作制御を行うとともに、蛍光検出部300の出力する信号を入力し、蓄積し、処理する処理部450と、を備える。
【0032】
ここで、核酸増幅部は、▲1▼基準となる核酸サンプルとフルオレセイン分子が付加された塩基とを収納する収納器511と、▲2▼検査対象となる核酸サンプルとローダミン分子が付加された塩基とを収納する収納器512と、▲3▼収納器511、512を囲む熱伝導材520と、▲4▼外部からの指示により熱伝導材520の温度を指示温度に設定する可変熱源530と、から構成される。
【0033】
また、抽出部は、▲1▼収納器511とバルブを介して連結され、表面にアビジンが付着したマトリクス材を収納した収納器611と、▲2▼収納器512とバルブを介して連結され、表面にアビジンが付着したマトリクス材を収納した収納器612と、▲3▼収納器611および収納器612にバルブを介して連結され、抽出用溶液である変性剤の機能を有するホルムアミド(80%)を収納する収納器620と、から構成される。
【0034】
また、混合部は、▲1▼収納器611および収納器612とバルブを介して連結され、抽出された2種の1本鎖核酸を混合する混合容器710と、▲2▼混合容器710とバルブを介して連結され、混合容器710内の溶液を排出するポンプ721と、▲3▼ポンプ721が排出した溶液を収納する収納器722と、から構成される。
【0035】
また、ゲル電気泳動部は、▲1▼印加電圧を供給する電源810と、▲2▼電源810に接続された負側電極811と、▲3▼電源810に接続された正側電極812と、▲4▼混合容器710にバルブを介して連結され、ゲル支持体を収納する収納器820と、▲5▼混合容器710と一方の端がバルブを介して連結された細管状のカラム830と、▲6▼カラム830の他方の端側に配設された、ゲル支持体を収納する収納器840と、から構成される。
【0036】
励起光照射部100、変性条件制御部200、および蛍光検出部300は第1実施例と同様に構成される。処理部450は、第1実施例の処理部400に加えて、核酸増幅部に対して設定温度を指示する増幅制御機能および装置内のバルブ制御機能を有し、これらに対して制御信号を出力する。
【0037】
この装置では、まず、測定対象核酸を調製する。図7および図8は、基準核酸サンプルと検査核酸サンプルとから測定対象核酸を調製する手順を示した図である。これらの図を参照しながら測定対象核酸の調製動作を説明する。
【0038】
基準核酸および検査核酸に夫々2種のプライマを投与し、所定の部位を含む基準核酸サンプルと検査核酸サンプルとを生成する。このとき、基準核酸に投与する一方のプライマにビオチンを付加し、検査核酸に投与する他方のプライマにビオチンを付加しておく(図7(a))。
【0039】
生成された各サンプルに関して、基準核酸サンプルはフルオレセイン−dUTPを含む溶液を収納器511内で、検査核酸サンプルはローダミン−dUTPを含む溶液を収納器512内で、処理部450による可変熱源530および熱伝導材520を介した温度制御によってPCR増幅される。この結果、フルオレセインが付加された塩基からなる基準核酸とローダミンが付加された塩基からなる検査核酸とが多量に生成される(図7(b))。
【0040】
増幅された夫々の核酸は、処理部450のバルブ制御によって、収納器611あるいは収納器612に導かれる。ここで、ビオチンの付加した所定部位は、収納器611、612にあらかじめ収納されたマトリクス剤に付着したアビジンと結びついて、収納器611、612の内部に留まるが、他のものは収納器611、612を通り抜ける(図7(c)および図8(a))。この通り抜けた溶液は、混合器710に蓄えられた後、処理部450の指示により、ポンプ721によって収納器722へ排出される。
【0041】
次に、収納器611、612に収納器620からホルムアミド(80%)が導入され、ビオチンが付加していないプライマ側の1本鎖核酸が溶出される(図8(b))。溶出された1本鎖核酸は、処理部450のバルブ制御によって、混合器710に導入され、混合後にアニール処理を受けて測定対象核酸となる(図8(c)。このとき、混合器710およびカラム830にはゲル支持体が導入されている。
【0042】
電源810からの電圧供給により、測定対象核酸は混合器710、カラム830を移動して、変性条件制御部200の配設された測定点へ至る。以後、第1実施例と同様にして、特性蛍光が計測されて、変性が検出される。
【0043】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施例では変性条件として温度を使用したが、ホルムアミドのような変性剤をもちいて、濃度を徐々に変化するようにしてもよい。また、エネルギ供与体とエネルギ受容体とは、フルオレセインとローダミンの組み合わせに限られず、他のエネルギ移動を生じる組み合わせで、特性蛍光波長の異なるものを使用してもよい。また、第2実施例における測定対象核酸の調製方法は一例であり、既存の他の方法を用いてもよい。
【0044】
【発明の効果】
以上、詳細に説明した通り、本発明の第1の核酸の変性検出装置によれば、準静的に測定点の変性条件を制御しながら核酸に付加した蛍光分子の特性蛍光を測定することにしたので、変性条件の勾配を持たせたゲル支持体中を電気泳動させる必要がないので、従来よりも迅速かつ精度良く変性検出が可能である。
【0045】
また、本発明の第2の核酸の変性検出装置によれば、基準核酸サンプルと検査対象核酸サンプルとを出発点として、測定対象核酸を調製後、第1の核酸の変性検出装置と同様の蛍光測定を行うので、更に、効率的な一貫測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の核酸の検出装置で利用するエネルギ移動現象の説明図である。
【図2】本発明の核酸の検出装置の第1実施例の構成図である。
【図3】λ蛍光強度の計測による変性点検出の説明図である。
【図4】λ蛍光強度の計測による変性点検出の説明図である。
【図5】蛍光寿命の計測による変性点検出の説明図である。
【図6】本発明の核酸の検出装置の第2実施例の構成図である。
【図7】測定対象の2本鎖核酸の調製方法(前半)の説明図である。
【図8】測定対象の2本鎖核酸の調製方法(後半)の説明図である。
【図9】従来の核酸の変性検出の方法の説明図である。
【符号の説明】
100…励起光照射部、110…光源、120…集光レンズ、130…フィルタ、200…変性条件制御部、210…測定対象核酸用収納器、220…熱伝導材、230…可変熱源、300…蛍光検出部、310…光検出器、320…集光レンズ、330…フィルタ、400,450…処理部、511,512…PCR増幅用収納器、520…熱伝導材、530…可変熱源、611,612…吸着材用収納器、620…溶出変性剤用収納器、710…混合器、720…ポンプ、730…排出液用収納器、810…電源、811,812…電極、820,840…ゲル支持体用収納器、830…カラム

Claims (7)

  1. 第1の標識分子が付加された塩基からなる第1の1本鎖核酸と、前記第1の1本鎖核酸と相補的あるいは略相補的な塩基配列を有し、所定距離内の前記第1の標識分子とエネルギ移動を生じる第2の標識分子が付加された塩基からなる第2の1本鎖核酸と、が結合した前記2本鎖核酸が前記第1の1本鎖核酸と前記第2の1本鎖核酸とに分離する変性の条件を制御する変性条件制御手段と、
    所定波長の励起光を発生し、変性前の前記2本鎖核酸と変性後の前記第1の1本鎖核酸および前記第2の1本鎖核酸とに照射する励起光照射手段と、
    前記励起光の照射によって発生する蛍光を検出する蛍光検出手段と、
    前記蛍光検出手段の出力する信号を入力し、蓄積し、処理する処理手段と、
    を備え、前記変性条件制御手段により変性条件を変化させながら、発生した蛍光を観測し、前記2本鎖核酸の変性条件を計測することを特徴とする核酸の変性検出装置。
  2. 検査対象である第1の2本鎖核酸の所定部分を第1の1本鎖核酸と第2の1本鎖核酸に分離し、第1の標識分子が付加された塩基またはヌクレオチドからなる、前記第1の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第3の1本鎖核酸と前記第2の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第4の1本鎖核酸とを多数生成する第1の核酸増幅手段と、
    前記第1の2本鎖核酸と同一あるいは略同一な、基準となる第2の2本鎖核酸の前記所定部分に対応する部分を、前記第1の1本鎖核酸と同一あるいは略同一の第5の1本鎖核酸と前記第2の1本鎖核酸と同一あるいは略同一の第6の1本鎖核酸に分離し、所定距離内の前記第1の標識分子とエネルギ移動を生じる第2の標識分子が付加された塩基またはヌクレオチドからなる、前記第5の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第7の1本鎖核酸と前記第6の1本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する第8の1本鎖核酸とを多数生成する第2の核酸増幅手段と、
    前記第3の1本鎖核酸と前記第8の1本鎖核酸とを抽出後に混合し、完全2本鎖あるいは部分的2本鎖である第3の2本鎖核酸を生成する核酸調製手段と、
    前記第3の2本鎖核酸が前記第3の1本鎖核酸と前記第8の1本鎖核酸とに分離する変性の環境を制御する変性条件制御手段と、
    所定波長の励起光を発生し、変性前の前記第3の2本鎖核酸と変性後の前記第3の1本鎖核酸および前記第8の1本鎖核酸とに照射する励起光照射手段と、
    前記励起光の照射によって発生する蛍光を検出する蛍光検出手段と、
    前記蛍光検出手段の出力する信号を入力し、蓄積し、処理する処理手段と、
    を備え、前記変性条件制御手段により変性条件を変化させながら、発生した蛍光を観測し、前記第3の2本鎖核酸の変性条件を計測することを特徴とする核酸の変性検出装置。
  3. 前記変性条件は温度であり、前記変性条件制御手段は温度調節器である、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の核酸の変性検出装置。
  4. 前記変性条件は水素イオン濃度であり、前記変性条件制御手段は水素イオン濃度調節器である、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の核酸の変性検出装置。
  5. 前記蛍光検出手段は前記第1の標識分子と前記第2の標識分子との間でエネルギ移動が起こった場合に発生する第1の蛍光を選択的に検出し、前記処理手段は夫々の変性条件に対する前記第1の蛍光の発生量を算出する、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の核酸の変性検出装置。
  6. 前記蛍光検出手段は前記第1の標識分子と前記第2の標識分子との間でエネルギ移動が起こらなかった場合に発生する第2の蛍光を選択的に検出し、前記処理手段は夫々の変性条件に応じた前記第2の蛍光の発生量を算出する、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の核酸の変性検出装置。
  7. 前記蛍光検出手段は蛍光波形測定器であり、前記処理手段は前記蛍光波形測定器が検出した蛍光波形から蛍光寿命を算出する、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の核酸の変性検出装置。
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