JP3592142B2 - 内燃機関用燃料噴射弁 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スリット状の噴孔を備えた内燃機関用燃料噴射弁に関する。
【0002】
【従来の技術】
筒内噴射式内燃機関に用いられる燃料噴射弁としては、例えば、特開平9−126095号公報や特開平9−158736号公報に記載されるものが知られている。図7は、こうした燃料噴射弁の断面構造を示し、図8は図7における破線部内を拡大して示している。また、図9は図8の9−9線に沿った断面構造を示している。
【0003】
これら各図に示されるように、燃料噴射弁30の弁体31にはスリット状の噴孔32が形成されている。この噴孔32は弁体31内に形成されたサック部33に通じている。針弁35が弁座37から離れると、燃料通路39からサック部33内に流れ込んだ燃料が噴孔32から噴射される。そして、こうして噴射された燃料は機関ピストンの頂面を利用して点火プラグ周りに集められ、同点火プラグによって点火される。
【0004】
また、噴孔32はそのスリット長W(図9参照)が下流に向けて徐々に長くなる扇形の断面形状を有している。このため、噴孔32から噴射される噴霧は扁平扇形状となる。燃料噴霧をこうした扁平扇形状とすることにより、噴霧と空気との接触面積を大きくしてその微粒化(気化)の促進を図ることができるようになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、こうした燃料噴射弁30においては、噴孔32の入口部34がエッジとなっているため、サック部33から噴孔32に流入する燃料は、この入口部34において大きく剥離するようになる。このため、噴霧の拡がり角θfを大きくすることができず、図9の二点鎖線で示されるように、噴霧形状を所望の形状にまで拡げることができなくなる。特にエッジとなっている入口部34の近傍には多くの渦が発生するようになるため、噴霧はこの渦の影響を受けて形状の不安定化が避けられない。
【0006】
また、噴孔32は、その入口部34から出口部38にかけて、流路断面積が徐々に大きくなっているため、燃料は噴孔32の幅B方向(図8参照)において均等に行き渡らなくなり、噴孔32の内壁面近傍には流れの中心部と比較して燃料の極めて薄い部分(低圧部)が生じるようになる。このため、燃料噴射が間欠的に行われてサック部33内の燃料圧力が変動した場合に、その影響を受け易くなり、図8の一点鎖線や二点鎖線で示されるように、燃料の噴射方向が定まらず、この形状も不安定化するようになる。
【0007】
特に、噴孔32が弁体31の軸線方向Cに対して傾斜して形成されていると、サック部33から噴孔32内への燃料の流入速度がその幅B方向において異なるようになるため、こうした燃料の噴射方向の変動や噴霧形状の不安定化が更に助長されるようになる。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、噴霧形状の安定化を図ることのできる内燃機関用燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための手段及びその作用効果について以下に記載する。
請求項1に記載の発明は、弁体内に往復動可能に設けられた針弁と、前記弁体の先端部内に弁体中心軸線上の点を中心とした略半球状に形成されたサック部と、前記弁体の先端部にスリット状に開口され、そのスリット長が前記弁体の先端部の外部側に向けて広がる断面扇形状の噴孔とを備え、前記サック部内の燃料を前記針弁の往復動作に基づいて前記噴孔から噴射するようにした内燃機関用燃料噴射弁において、前記噴孔は前記扇形状の断面において前記サック側の開口部の周縁と外部側の開口部の周縁とを結ぶ直線が前記サックの中心よりも上流側にある中心軸線上の点で所定角度をもって交わるように形成され、前記噴孔のスリット長方向の両側面が前記直線よりも内側に膨らむ円弧状断面に形成されてなることを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、噴孔のスリット長方向の両側面が内側に膨らむ円弧状断面に形成されているために、サック部から噴孔に流れ込む燃料は、同噴孔のスリット長方向の両側面に沿って徐々にその流れ方向が変えられるようになる。従って、剥離の発生が抑制され、剥離点が噴孔の下流側に移動するようになり、しかも噴孔内での渦の発生が抑制されるために、その剥離点の位置変動も抑えられるようになる。更に、噴孔の出口部近傍では、その開口面積が大きくなるために、燃料が噴孔の内壁側面に引き寄せられるようになる。
【0011】
その結果、噴霧の拡がり角を大きくすることができるとともに、その形状の安定化を図ることができる。
また請求項2に記載の発明は、弁体内に往復動可能に設けられた針弁と、前記弁体の先端部内に弁体中心軸線上の点を中心とした略半球状に形成されたサック部と、前記弁体の先端部にスリット状に開口され、そのスリット長が前記弁体の先端部の外部側に向けて広がる断面扇形状の噴孔とを備え、前記サック部内の燃料を前記針弁の往復動作に基づいて前記噴孔から噴射するようにした内燃機関用燃料噴射弁において、前記サック側の開口部の面積と外部側の開口部の面積との差が減少するように前記噴孔のスリット幅を前記サック側の開口部から外部側の開口部に向けて徐々に薄くしたことを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、噴孔内を流れる燃料はその幅方向においてより均一な状態になるため、サック部内の圧力が変動しても、その影響を受け難いものとなる。その結果、燃料の噴射方向を安定化することができるとともに、噴霧形状の安定化を図ることができるようになる。
【0013】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
本発明を筒内噴射式内燃機関の燃料噴射弁に適用するようにした、第1の実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
【0014】
はじめに、図1および図2を参照して、本形態にかかる燃料噴射弁の概要について説明する。なお、図1は、この燃料噴射弁の先端部分の断面構造を示し、図2は、図1の2−2線に沿った断面構造を示している。
【0015】
これら各図に示されるように、燃料噴射弁10は、その内部に燃料が供給される弁体11、同弁体11の中心軸線Cに沿って往復動可能な針弁14、弁体11の先端部内に形成されたサック部12、同弁体11の先端部に開口された噴孔16等を備えて構成される。
【0016】
上記サック部12は弁体11の中心軸線C上にある点Oを中心とした略半球状に形成されている。弁体11の内周面と針弁14の外周面との間には、このサック部12内に燃料を供給するための燃料通路17が形成されており、同通路17は図示しないデリバリパイプに接続されている。また、弁体11の内壁には針弁14の先端部15が離着座可能な弁座13が上記燃料通路17とサック部12との間に位置して形成されている。
【0017】
この燃料噴射弁10において、針弁14の先端部15がこの弁座13から離れると、燃料通路17とサック部12とが連通され、サック部12には燃料通路17から燃料が供給される。その結果、サック部12内の燃料圧力が上昇し、同サック部12内の燃料は噴孔16から機関燃焼室(図示略)内に噴射される。
【0018】
一方、針弁14の先端部15が弁座13に当接すると、燃料通路17とサック部12との連通が遮断され、同サック部12内の燃料圧力が低下して燃料噴射も停止される。
【0019】
噴孔16は、燃料の通過する部分の断面形状が長方形を呈したスリット状の孔であり、図1に示されるように、弁体11の中心軸線Cに対して所定角度θ1だけ傾斜した方向に沿って形成されている。因みに、このように噴孔16の形成方向を傾斜させることで、同噴孔16から噴射される燃料を機関ピストン(図示略)の頂面で跳ね返らせ、点火プラグ(図示略)の近傍に集めることが可能になる。
【0020】
また、噴孔16は、一定のスリット幅B(図1参照)を有するとともに、そのスリット長W(図2参照)がサック部12側から外部側に向けて徐々に長くなるように形成されている。このようにスリット長Wが設定されることにより、噴孔16は、その形成方向に沿った断面形状が略扇形状となっている。
【0021】
更に、噴孔16は、図2に示す断面において、サック部12側の開口部(以下、「入口部」という)18の周縁と外部側の開口部(以下、「出口部」という)19の周縁とを結ぶ直線L1、L2が、サック部12の中心Oよりも上流側にある中心軸線C上の点Pで所定角度θ2をもって交わるように、上記入口部18及び出口部19がそれぞれ形成されている。そして、スリットの延びる方向での噴孔16の両側面16a、16b(図2の左右側面)は、それらの断面形状が上記直線L1、L2よりも内側に膨らむ円弧状に形成されている。因みに、サック部12から噴孔16に流れ込む燃料の量は、入口部18の開口面積によって決定される。
【0022】
上記のような形状を有する噴孔16は、例えばこれを放電加工によって弁体11に形成することができる。次に、こうした噴孔16の形成方法について、図3を併せ参照して説明する。
【0023】
先ず、絶縁油中に置かれた弁体11の表面に先端が山形となった板状の電極Aを近接させ、電極Aと弁体11との間に所定の電圧を印加する。そして、この電極Aを所定の送り速度で弁体11側に移動させながら、電極Aに近接する弁体11の表面部分を同電極Aの形状に倣うように放電加工する(図3(a))。
【0024】
このように弁体11が加工されると、その加工に伴って電極Aの先端側の周縁部分もその内側に向けて徐々に円弧状になる(図3(b))。電極Aを更に移動させて弁体11の加工を進めると、噴孔16の両側面16a、16bはこの電極Aの形状に倣って断面円弧状に形成されるようになる(図3(c))。
【0025】
ここで、噴孔16の各側面16a、16bの膨らみ度合は、電極Aの材質の硬度に応じて変更することができる。例えば、電極Aとして、銅、アルミニウム等の硬度の比較的低い金属を用いることで、各側面16a、16bの膨らみ度合を大きくすることができ、逆に、ステンレス鋼等の硬度の比較的高い金属を用いることで、その膨らみ度合を小さくすることができる。
【0026】
以上説明した本実施形態の燃料噴射弁10では、噴孔16の両側面16a、16bを内側に膨らむ断面凸形状に形成しているため、サック部12から噴孔16に流れ込む燃料は、これら側面16a、16bに沿ってその流れ方向が徐々に変えられるようになる。このため、入口部18近傍における剥離の発生が抑制され、剥離点K(図2参照)が下流側の位置に移動するようになる。しかも、燃料の流れ方向が急激に変化することがないため、噴孔16内での渦の発生が抑制され、剥離点Kの位置変動も抑制される。この結果、噴霧形状が安定するようになる。
【0027】
更に、出口部19近傍では、その開口面積が大きくなっているために、剥離後の燃料は噴孔16の両側面16a、16b側に引き寄せられて拡がるようになる。この結果、噴孔16から噴射される燃料は、図4(a)及び(b)の二点鎖線で示されるように、その中央に偏るようなことはなく、実線で示されるように、略三角形状の噴霧となり、その流量分布に関しても、噴霧の拡散する領域内で略均一となる。
【0028】
以上詳述したように、この実施形態にかかる燃料噴射弁10によれば、以下に示すような優れた効果が得られるようになる。
(1)噴霧形状の安定化を図ることができるとともに、噴霧の拡がり角を大きくすることができるようになる。
【0029】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0030】
図5は、本実施形態の燃料噴射弁10における噴孔16の断面構造を示すものであり、図1の破線部内の拡大断面図に相当するものである。
同図5に示されるように、噴孔16は、その幅方向における両側面16c、16dが下流側ほど噴孔16の中心線に近接するように形成されている。従って、噴孔16のスリット幅Bは、入口部18から出口部19にかけて徐々に薄くなっている(Bin>Bout)。因みに、こうした形状を有する噴孔16は、例えば、これをレーザ加工によって弁体11に形成することができる。
【0031】
噴孔16がこうした形状を有して構成されることにより、その入口部18と出口部19との開口面積の差がスリット幅Bを一定とした構成と比較して減少することとなる。これにより、噴孔16内を流れる燃料は、その幅方向においてより均一な状態になる。その結果、噴孔16の両側面16c、16dの近傍に燃料の極めて薄い部分が生じるようなことがなく、サック部12内の圧力が変動する場合でも、噴霧はその影響を受け難いものとなる。しかも、入口部18の開口面積を変更する必要がないことから燃料の調量に影響を与えることもない。
【0032】
以上詳述したように、この実施形態にかかる燃料噴射弁10によれば、以下に示すような優れた効果が得られるようになる。
(2)噴霧形状の安定化を図ることができるとともに、燃料の噴射方向の変動を抑えることができるようになる。
【0033】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、例えば以下のように構成を適宜変更することもできる。
【0034】
(イ)前記第2の実施形態において、図6(図5の6−6線に沿った断面図に相当する)に示されるように、燃料噴射弁10の噴孔16を、その中央部におけるスリット幅Bがより大きく狭められる形状としてもよい。
【0035】
このような構成にすれば、前記第2の実施形態に記載の効果に加え、噴孔16の両端部に、より多くの燃料を流すことができ、噴霧の拡がり角を更に大きくすることができるようになる。
【0036】
(ロ)燃料噴射弁を前記第1の実施形態及び第2の実施形態にそれぞれ示す構成を併せ有するものとしてもよい。即ち、燃料噴射弁の噴孔を、スリット長方向の両側面が内側に膨らむ断面凸形状とし、更にそのスリット幅を下流側ほど薄くなるように設定する。
【0037】
このような構成にすれば、上記各実施形態において(1)及び(2)に記載した効果を奏することができる。
(ハ)他の実施形態(イ)と他の実施形態(ロ)にそれぞれ示す構成を併せ有するものとしてもよい。即ち、燃料噴射弁の噴孔を、スリット長方向の両側面が内側に膨らむ断面凸形状とし、更にそのスリット幅を下流側ほど薄くする際に、噴孔の中央部をより薄くなるようにする。
【0038】
このような構成にすれば、他の実施形態(ロ)に記載した効果に加えて、噴霧の拡がり角を更に大きくすることができるようになる。
(ニ)前記各実施形態及び他の実施形態(イ)、(ロ)、(ハ)では、噴孔16を図1、図5及び図6に示される位置(弁体11の中心軸線Cに対して所定角度θ1傾斜する位置)に設けたが、この位置は適宜、その位置を変更することができる。例えば、噴孔16を上記中心軸線Cに沿って形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態における燃料噴射弁の先端部分の断面構造を示す断面図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【図3】噴孔の形成工程を説明するための工程図。
【図4】噴霧の形状、並びにその流量分布を説明するための説明図。
【図5】第2の実施形態における燃料噴射弁の先端部分の断面構造を示す断面図。
【図6】他の実施形態(イ)における噴孔の断面形状を示す断面図。
【図7】従来構成における燃料噴射弁の先端部分の断面構造を示す断面図。
【図8】図7の破線部内を拡大して示す断面図。
【図9】図8の9−9線断面図。
【符号の説明】
10・・・燃料噴射弁、11・・・弁体、12・・・サック部、13・・・弁座、14・・・針弁、15・・・先端部、16・・・噴孔、16a、16b、16c、16d・・・(噴孔の)側面、17・・・燃料通路、18・・・入口部、19・・・出口部、B・・・スリット幅、W・・・スリット長。
Claims (2)
- 弁体内に往復動可能に設けられた針弁と、前記弁体の先端部内に弁体中心軸線上の点を中心とした略半球状に形成されたサック部と、前記弁体の先端部にスリット状に開口され、そのスリット長が前記弁体の先端部の外部側に向けて広がる断面扇形状の噴孔とを備え、前記サック部内の燃料を前記針弁の往復動作に基づいて前記噴孔から噴射するようにした内燃機関用燃料噴射弁において、
前記噴孔は前記扇形状の断面において前記サック側の開口部の周縁と外部側の開口部の周縁とを結ぶ直線が前記サックの中心よりも上流側にある中心軸線上の点で所定角度をもって交わるように形成され、前記噴孔のスリット長方向の両側面が前記直線よりも内側に膨らむ円弧状断面に形成されてなることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 弁体内に往復動可能に設けられた針弁と、前記弁体の先端部内に弁体中心軸線上の点を中心とした略半球状に形成されたサック部と、前記弁体の先端部にスリット状に開口され、そのスリット長が前記弁体の先端部の外部側に向けて広がる断面扇形状の噴孔とを備え、前記サック部内の燃料を前記針弁の往復動作に基づいて前記噴孔から噴射するようにした内燃機関用燃料噴射弁において、
前記サック側の開口部の面積と外部側の開口部の面積との差が減少するように前記噴孔のスリット幅を前記サック側の開口部から外部側の開口部に向けて徐々に薄くしたことを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
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