JP3588902B2 - 油脂の乾式分別法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、油脂、特にラウリン系油脂の乾式分別法に関する。
【0002】
【従来の技術】
SFI(固体脂含有率)の高い油脂は高融点画分及び低融点画分に分別して有効利用されるが、概して高融点画分は低融点画分より高価である。例えば、パーム核油(PKO)を分別して得られる高融点画分(PKS)及び、低融点画分(PKL)とではPKSは、CBS(カカオバター代用脂)の原料等として有用であるため、市場価値が高い一方、PKLは分別前のPKOよりも価格が安いのが実状である。従って、SFIの高い油脂の分別においては、いかに効率的に高融点画分の収率を高めるかが課題となることが多い。
【0003】
現在、マレー半島におけるパーム核油の分別法は、PKOを27℃程度まで予備冷却し、多数のトレイに注油して18℃〜21℃で10時間程度静置晶析した後、濾布でラッピングして圧濾(油圧プレス)により固液分離する方法が代表的である(”SPECIALITY FATS VERSUS COCOA BUTTER” By Wong Soon 1991)。以下、この方法を既存法という。
【0004】
既存法において、PKS収率を上げるためには静置晶析を十分に行い結晶析出量を多くすることが必要であるが、反面、濾過(固液分離)が次第に困難になり、良好な品質の結晶を回収するには長時間且つ高圧を作用させて圧搾することが求められるため、一定の限度がある。従って、既存法はPKS収率を上げることよりも寧ろ以下に示すような労働集約型工程に伴う問題の改良に注力されている。
【0005】
すなわち、この方法は設備費が安くすむこともあって広く採用されているが、静置晶析工程に多数のトレイ(PKO処理量100t/日の設備では、1万〜2万個にも及ぶといわれる。)を用い、広い室内に放置(棚に載置する)だけの簡単なものであるため、どうしても各トレイの晶析温度が不均一となること、及び晶析温度や晶析時間の管理が困難であるため、製品の品質にばらつきが生じやすいという問題がある。また、高圧を作用させるために濾布が傷みやすいことも大きな欠点である。
【0006】
また、静置晶析から圧濾工程までをより詳細に考察すると、晶析完了した固状(半可塑性)の油脂をトレイから外し、1つ1つを濾布でラッピングする工程、圧濾装置まで運搬し圧濾装置の中に積層する工程が必要であるが、各工程は自動化が困難であり多くの労働力を要する。実際、PKO処理量100t/日の設備では70〜80人の要員が必要であると言われており、もはや余程安価な労働力を得られる地域でなければ経済的に成り立たない。
【0007】
晶析後の油脂の移送を配管によって行うことができれば、フィルタープレスへの圧入、濾過が可能になるので油圧プレスの代わりにフィルタープレスを採用することが可能である。フィルタープレスを使用すれば、濾布でラッピングする工程、圧濾装置(油圧プレス)の中に積層する等という労働集約型の工程を省略することができるため、一部で試行され始めている。しかし、晶析後の油脂を解砕しても十分な流動性を有するスラリーが得られず、配管で輸送することが困難なため、現実には結晶量の生成を抑え流動性を確保せざるをえない。すなわち、PKS収率を犠牲にして省力化を行いつつあるのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者はかかる問題点に鑑み、PKS収率を犠牲にすることなくフィルタープレスを採用する大幅に省力化された油脂の乾式分別法を確立することを目的とした。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、省力化及び分別製品の品質の安定化のためには、固液分離工程におけるフィルタープレスの導入が不可欠と考え、鋭意検討の結果、分別低融点画分の一定量以上をリサイクルして原料油脂と混合することにより、静置晶析において十分な結晶量を確保してもスラリー化が可能となるばかりか意外にも従来の既存法以上の収率を得られること、及び、このことにより予備冷却温度を晶析温度の近傍まで冷却できる結果、晶析時間を飛躍的に短縮できるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は20℃におけるSFIが15以上である原料油脂を冷媒を用いて静置晶析、固液分離する油脂の乾式分別法において、静置晶析する油脂を静置晶析の冷媒温度よりも3℃高い温度以下に予備冷却することを骨子とする油脂の乾式分別法である。
【0011】
〔原料油脂〕本発明における原料油脂は20℃におけるSFIの高い油脂とりわけ20℃におけるSFIが20以上、最適には30以上の油脂が適しており、ラウリン系油脂や、硬化油脂が例示される。ラウリン系油脂の典型例はパーム核油(PKO)である。この原料油脂と低融点画分を混合するのが良く、分別工程で生成する低融点画分をリサイクルすることができる。好ましい低融点画分の混合量は、混合油脂の重量に対して30%以上、より好ましくは45%以上である。混合量が30%未満では後述するスラリー化がうまく行えず、本発明の効果に乏しくなる。低融点画分の混合量に技術面の上限はないが、著しく高いと(例えば70%を越える量)処理量増加に伴う設備費の上昇を招くので好ましくない。
【0012】
尚、原料油に液状油をリサイクルする技術は、特開昭60−108498に記載されているが、これは低SFIの油脂から収率よく液状油を製造する技術であり、固体脂の収率を問題とする本発明の思想とは全く相違するものである。
【0013】
〔予備冷却〕原料油脂は、ウインタリングを防止するため、通常40℃以上でタンクに保管されている。これを、熱交換器等を用いて予備冷却する。熱交換器は公知のものを使用することができるが、静置晶析の冷媒温度よりも3℃高い温度以下、好ましくは1℃高い温度以下、より好ましくは静置晶析温度に等しい温度以下、さらに好ましくは静置晶析温度よりも1℃低い温度以下まで冷却する。予備冷却では明確な結晶析出が起こらない通常静置晶析温度より5℃低い温度以上で比較的短時間に冷却するのが好ましい。
【0014】
尚、予備冷却温度を上記のように低い温度にするためには、分別低融点画分のリサイクルが事実上必要である。リサイクルを行わない場合は、結晶化成分の濃度が高いために連続処理の経過とともに熱交換器中において結晶成長による閉塞を生じ易くなり、安定な冷却操作が難しい。
【0015】
〔静置晶析〕予備冷却した原料油をトレイに注ぎ、静置晶析を行う。注油は短時間で行うのが好ましい。例えば、トレイを配架する多段棚の格段に注油管を設け、複数のトレイへの注油を同時に行うことによって注油時間の短縮が可能である。1本の注油管により複数のトレイに順次注油する方法(最上段のトレイに注油しつつ、上段トレイからの溢れによって油脂を順次、次の下段のトレイに送る方法が既存法で採用されている。)では時間を要するため途中で晶析が起こり注油自体が困難になる。
【0016】
注油完了後、18℃〜21℃程度の冷媒を用いて静置晶析を行うが、多段棚に配架したトレイ側面より一定の温度に調整したエアーを送風して行うことにより、そのまま静置晶析を行う場合よりも安定した晶析を行うことができる。冷媒は、エアーに限定されるものではないが、特に液体の冷媒を用いる場合は、熱伝導度が大きいため、より精密な温度制御が必要となる。また、後述するように晶析時間を短縮できる結果、トレイをコンベアーに載置する連続的晶析を行ってもそれほど大規模な設備を必要としない。
【0017】
静置晶析は、PKOの分別においては低融点画分の沃素価が23程度以上になるまで行う。沃素価が25以上になるまで晶析を行っても後の解砕によるスラリー化が可能であるため、高いPKS収率を得ることができる。晶析時間は、既存法で一般に10時間程度であるのに対して、本発明における晶析時間は通常4〜6時間程度に短縮することができる。液体成分が多い系であるため対流による結晶熱の放出効率が向上すること、及び予備冷却温度が低いことによる結晶核の早期生成が相乗的に作用するからと考えられる。
【0018】
〔解砕〕トレイから、油脂を取り出しクラッシャーに通す。クラッシャーを通過した油脂は流動性を有し(スラリー)、配管によって圧搾工程へ送ることができる。解砕は特開平2−14290号に記載されている方法など公知の方法で行うことができる。
【0019】
〔圧搾、固液分離〕固液分離方法は、公知の方法を採用することができるが、前述のように油脂はスラリー化しているため、配管で輸送することができ、高能率で自動化に有利なフィルタープレスを用いることができる。尚、低融点画分を原料油にリサイクルするため処理量はその分増大するが、低融点画分は液体成分であるため濾布を容易に通過し、処理時間には殆ど影響を与えない。
【0020】
固液分離工程によって原料油脂は高融点画分と低融点画分に分別される。高融点画分の収率は既存法よりも高く、かつ、品質も同等以上のものを得ることができる。
【0021】
【実施例】
以下の実施例及び比較例において%は重量基準を表す。
〔実施例1〕
40℃まで加熱したRBD−PKO(20℃におけるSFI=39)75リットルをジャケット付予備冷却器に投入し、14℃の冷水を通水して21℃まで撹拌冷却した後、100cm(L)×150cm(W)×8cm(H)のステンレス製トレイに液深 50mmまで張込んだ。21℃の冷風を3m/sでトレイの上下面に供給して4時間強制冷却を行った後、固化した油を解砕してスラリー化したうえで濾室厚15mmのフィルタープレスに圧入した。最大30Kg/cm2で30分間圧搾して固液分離を行った後、PKSとPKLの沃素価の分析を行った結果、それぞれ、6.98、22.7であった(表1)。収率が29.9と低かったので、上記と同様の処理を晶析時間を6時間にして実施した結果、収率は33.1に向上した。しかし、スラリーの流動性は低く、なんとかフィルタープレスは使えたものの、工業的スケールでフィルタープレスを利用して操作することは困難であると思われる。
【0022】
〔実施例2〕
40℃まで加熱したRBD−PKO 48.8リットルとPKL 26.2リットルを混合してジャケット付予備冷却器に投入し、14℃の冷水を通水して21℃まで撹拌冷却した後、実施例1と同様の操作を行った結果を表1に示す。
【0023】
〔実施例3、比較例3〕
予備冷却温度の違いによる比較を行った。すなわち、40℃まで加熱したRBD−PKO 37.5リットルとPKL 37.5リットルを混合してジャケット付予備冷却器に投入し、14℃の冷水を通水し、それぞれ20℃、22℃、24℃、27℃まで撹拌冷却した後、実施例1と同様の操作を行った結果、PKSの沃素価はそれぞれ6.52、6.51、6.55、7.52、PKLの沃素価はそれぞれ26.6、25.2、25.5、24.6であった。(表2)。予備冷却温度が低いほど晶析時間を短縮できることがわかる。
【0024】
〔実施例4〕
液体部混合比を70%にして実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。尚、参考値として既存法による値(当社推測)を同表に示す。
【0025】
〔効果〕
低融点画分をリサイクルすること及び予備冷却温度を低くすることによって、フィルタープレスの採用による省力化が可能で、品質の安定化した製品を得ることができる。しかも、PKS収率を従来法以上に向上させることが可能となる。
【0026】
【表1】
Claims (3)
- 20℃におけるSFIが15以上である原料油脂をトレイにて静置晶析した後、トレイより取出した油脂を固液分離する油脂の乾式分別法において、固液分離した低融点画分をリサイクルして原料油脂に混合するとともに、静置晶析する油脂を静置晶析の冷媒温度より1℃高い温度以下に予備冷却することを特徴とする分別法。
- 原料油脂がラウリン系油脂である請求項1記載の分別法。
- 混合油中の低融点画分が30重量%以上である請求項1記載の分別法。
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