JP3588886B2 - 複合逆浸透膜の製造方法及びその装置 - Google Patents

複合逆浸透膜の製造方法及びその装置 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、液状混合物の成分を選択透過分離するための高性能な半透性複合膜の製造方法およびその装置に関するものである。本発明によって得られる半透性複合膜は特にカン水の脱塩、海水の淡水化、また半導体の製造に利用される超純水の製造に用いることができる。さらには、染色排水、電着塗料排水などから、その中に含まれる汚染物質あるいは有用物質を選択的に除去あるいは回収し、ひいては排水のクローズド化に寄与することができる。
【0002】
さらに詳しくは、超純水の製造、カン水や海水の脱塩、有害物質の除去、有用物の回収、排水の処理などに好適な架橋ポリアミド系複合膜の製造方法およびその装置に関する。
【0003】
【従来の技術】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法が利用されてきている。膜分離法のなかには、精密濾過(MF;Microfiltration)法、限外濾過(UF;Ultrafiltration)法、逆浸透(RO;Reverse Osmosis)法がある。さらに近年になって逆浸透と限外濾過の中間に位置する膜分離(ルースROあるいはNF;Nanofiltration)という概念の膜分離法も現われ使用されるようになってきた。例えば逆浸透法は海水または低濃度の塩水(カン水)を脱塩して工業用、農業用または家庭用の水を提供することに利用されている。逆浸透法によれば、塩分を含んだ水を浸透圧以上の圧力をもって逆浸透膜を透過させることで、脱塩された水を製造することができる。この技術は例えば海水、カン水、有害物を含んだ水から飲料水を得ることも可能であるし、また、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などにも用いられてきた。
【0004】
従来、工業的に利用されている半透膜には非対称膜型の酢酸セルロース膜があった(例えば、米国特許第3,133,132号明細書、同第3,133,137号明細書)。これは当初ロブ(Loeb)およびスリラジャン(Sourirajan)によって開発された膜である(”Sea Water Demineralization by means of an Osmotic Membrane”, in Advances in Chemistry Series #38, American Chem. Soc., Washington D.C. (1963))。この膜は当時としては優れた基本性能と製造が簡便であるという長所を有していたが、より高い純度の水をより多く、より低い圧力で得るためには、塩排除率、造水量の面で充分ではなかった。しかも、膜面で微生物が発生しやすく、微生物による膜の劣化が生じたり、加水分解による膜の劣化が起きやすいなどの欠点を有していた。このため、酢酸セルロース非対称膜は一部の用途には使用されているが広範囲の用途に実用化されるには至っていない。
【0005】
この酢酸セルロース膜の欠点を補うために合成高分子の新しい非対称型の逆浸透膜、例えば線状芳香族ポリアミドの逆浸透膜も提案された(例えば米国特許第3,567,632号明細書)。
【0006】
これら合成高分子の非対称膜は、耐微生物性のなどの点では改善がなされたが、その逆浸透性においては酢酸セルロースと同様の問題があり、基本性能の飛躍的な改善が期待されていた。
【0007】
これらの欠点を補うべく非対称型膜とは形態を異にする半透膜として微多孔性支持膜上に異なる素材で実質的に膜分離性能を司る超薄膜(活性層)を被覆した半透性複合膜が考案された。
【0008】
半透性複合膜では、活性層と微多孔性支持膜の各々に最適な素材を選択する事が可能であり、製膜技術も種々の方法を選択できる。
【0009】
現在市販されている半透性複合膜の大部分は微多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、微多孔性支持膜上でモノマーを界面重縮合した活性層を有するものの2種類である。前者の具体的例としては、特開昭49−13282号公報、特公昭55−38164号公報、PBレポート80−182090、特公昭59−27202号公報、同61−27102号公報などがある。後者の具体例としては米国特許第3,744,942号明細書、同第3,926,798号明細書、同第4,277,344号明細書、特開昭55−147106号公報、同58−24303号公報、同62−121603号公報などがある。
【0010】
これらの半透性複合膜では酢酸セルロース非対称膜よりも高い脱塩性能が得られている。さらにこれらの膜は殺菌に用いられる塩素、過酸化水素に対する耐久性も向上されつつあり用途が広がってきている段階にある。
【0011】
しかし、これらの半透性複合膜においてもその製造工程に重大な欠陥が存在した。すなわち、ポリマーの架橋剤の溶媒あるいは界面重縮合に使用する溶媒として一般的に用いられているのはヘキサンまたはCFC−113(トリクロロトリフロロエタン)の様な溶媒である。ヘキサンは引火点および沸点が低く、その溶液の取り扱い、保存に防爆などの十分な安全上の対策を取らなければならず、工業的規模の製造プロセスとしては経済性、安全性という観点から著しく不利である。一方、CFC−113などのフロン(CFC、クロロフルオロカーボン)系溶媒は安全性が高く、毒性もなく良好な性能の膜を製造しやすいため最も多用されてきたと考えられるが、最近、大気中に放出された特定のフロンはオゾン層を破壊する地球的規模の環境破壊の原因物質としてその使用が問題視されてきた。このため、UNEP(国連環境計画)の呼びかけでオゾン層保護に関するウィーン条約(1985年)、モントリオール議定書(1987年)、ヘルシンキ宣言(1989年)が採択され全世界的に使用・生産が規制され主要国では1995〜2000年に特定フロンを全廃する政策を打ちだしている。
【0012】
このような状況下で、複合膜製造に関しても特定フロンを使用しないプロセス及び装置を開発することが急務となった。従来、複合膜の製造において、例えば特公昭63−36803号公報および米国特許第4,277,344号明細書にはポリスルホンの多孔質支持膜の表面で、m−フェニレンジアミンまたはp−フェニレンジアミンをトリメシン酸クロライドまたはトリメシン酸クロライドとイソフタル酸クロライドの混合物と反応して架橋芳香族ポリアミド膜を得る方法が開示されているが、上記酸クロライドの溶液にはCFC−113またはn−ヘキサンが用いられている。また、特表昭56−500062号公報および米国特許第4,259,183号明細書、特開平1−130707号公報にはアミン組成にピペラジンを用いて同様の反応を行なう製造法が開示されているが、これも反応溶媒としてはCFC−113またはn−ヘキサンを用いているため問題である。
【0013】
これら複合膜の製造に用いる溶媒にはオゾン層破壊能がない、あるいは小さいことと同時に取り扱い時の安全性についても考慮する必要がある。特開昭62−49909号公報にはポリスルホン多孔性支持膜表面で、ポリビニルアルコールとピペラジンなどのアミノ化合物をトリメシン酸クロライドと反応させて架橋、重合する方法が開示されている。ここでは上述の技術と同じくトリメシン酸クロライドの溶媒としてn−ヘキサン、シクロヘキサンなどに代表される低沸点の炭化水素系溶媒が用いられているが、これらの溶媒にはオゾン層破壊能はないものの、多くは0℃以下の引火点をもっており、極めて引火しやすい取り扱い上非常に危険な溶媒といえる。このことは前述の様に工業的な規模での生産では特に問題となる。また、低沸点であるため溶媒の回収が困難であり、回収されない溶媒の蒸気がそのまま大気中に放出されるため、環境面でも問題のある溶媒といえる。
【0014】
多孔性支持膜上でのポリマーの架橋反応あるいは界面重縮合反応によって複合膜を製造するプロセスには架橋剤あるいは多官能酸ハライドをこれと反応するモノマーあるいはポリマーと接触させた後、溶媒を除去する必要がある。従来は蒸発によって溶媒の除去を行なっていた。特に従来の複合膜製造技術では低沸点のフロン系溶媒を用いていたため溶媒は自然に蒸発し、特別な除去方法は取る必要がなかった。特定フロンの代替溶媒の探索検討においても従来の製膜プロセスを変えないことを考えて、複合膜の製造工程での溶媒の除去方法は蒸発が前提となっており、その方法については特に検討がなされていなかったのが現状である。自然の蒸発による溶媒除去を前提とする限り、溶媒の沸点はある程度低くなくてはならないものと考えられていた。しかしながら、一般に低沸点〜中沸点の溶媒はそれに従って引火点も低いのが通常であり、前記の様な安全上の要請とは両立しにくい問題があった。
【0015】
特開昭59−179103号公報、特公昭63−36803号公報には酸クロライドの溶媒に適する物質としてCFC−113、n−ヘキサンなどの低沸点溶媒の他にn−ノナン、n−デカンなどの高沸点の溶媒も示されている。しかしながら実際にこれらの溶媒を使用して製膜を行なってみると低沸点の溶媒では公知例に開示された性能を得ることができるが、高沸点の溶媒を用いると著しく低造水量の膜しか得られないという欠点があった。
【0016】
特開平5−329348号公報には、炭素数7〜20の飽和炭化水素化合物を使用する複合半透膜の製造方法が開示されているが、これらの化合物の沸点は70〜400℃であるにもかかわらず、沸点の範囲が蒸発に影響するとの記載があるのみでこれら化合物の特別な除去方法についてはなんら開示されていない。しかも、これらの実施例では、溶媒とする化合物の沸点が高いほど造水量も低くなることが示されている。
【0017】
また、特開平5−76740号公報には引火点が10℃以上の炭化水素系溶媒を用いて製膜し、反応終了後特定の温度、風速の気体を吹きつけて溶媒を除去する方法が示されている。しかし、気体を吹きつける方法では溶媒の除去に時間がかかる、溶媒が可燃性の液体であるため温度などコントロールが厳しく装置が大掛かりになる、除去した液体が蒸気となるため回収がしにくい、引火の危険性などの問題があった。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、オゾン層を破壊すること無く、安価で取り扱いが容易な溶媒を用いて、安全で、効果的でかつ溶媒の回収が容易な、高分離性能の複合半透膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基本的に下記の構成を有する。すなわち、
「多孔性支持膜の表面に水溶性多官能試薬の水溶液を塗布し、該水溶性多官能試薬と反応する多官能試薬を水に対し非混和性の有機溶媒に溶解した溶液を塗布した後、不活性気体雰囲気下で該有機溶媒を除去することを特徴とする複合半透膜の製造方法。」である。
【0020】
本発明において、多孔性支持膜とは実質的には分離性能を有さない層であり、実質的に分離性能を有する超薄膜層(活性層)に強度を与えるために用いられるものである。多孔性支持膜は均一な微細な孔あるいは片面に緻密で微細な孔を持ち、もう一方の面まで徐々に大きな微細な孔をもつ非対称構造で、その微細孔の大きさはその緻密な片面の表面で100nm以下であるような構造が好ましい。また、多孔性支持膜の厚みは1μm〜数mmであり、膜強度の面から10μm以上、扱いやすさモジュール加工のしやすさの面で数100μm以下が好ましい。上記の多孔性支持膜は、例えばミリポア社製“ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋ろ紙社製“ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、通常は、“オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造できる。その多孔性支持膜の素材にはポリスルホン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン等のホモポリマーまたはコポリマーを単独であるいはこれらのポリマーをブレンドしたものを使用することができる。これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用される。例えば、ポリスルホンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液を密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それをドデシル硫酸ソーダ0.5重量%およびDMF2重量%を含む水溶液中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数十nm以下の微細な孔を有した多孔性支持膜が得られる。
【0021】
この多孔性支持膜に超薄膜を被覆して、複合半透膜が製造される。本発明における超薄膜の被覆は、多孔性膜表面に一分子中に2個以上の反応性基を有する水溶性多官能試薬の水溶液を被覆した後、該多孔性膜を上記水溶性多官能試薬と反応しうる多官能試薬の溶液で被覆する方法によって行われる。
【0022】
ここで一分子中に2個以上の反応性基を有する水溶性多官能試薬とは、2個以上の反応性基を有する脂肪族、芳香族、あるいは複素環の化合物であり、実質的に水に可溶であり多官能試薬と反応し水不溶性の架橋ポリマを形成するものであればいずれでもよく、反応基はアミノ基、水酸基などであり2個以上の反応性基が同一でもまた異なっていてもよい。一般的には例えばm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族アミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン、ピペラジン、アミノメチルピペリジン、1,3−ビス−4−ピペリジルプロパンなどの脂肪族アミン類、ポリエチレンジアミン、ポリアリルアミン、ポリエピハロヒドリンを上記モノマーアミン類で変性したポリマーなどのアミノポリマー類、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの脂肪族アルコール類、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼンなどの芳香族アルコール類、ポリビニルアルコールなどのポリオール型ポリマーなどが用いられる。これらの中では反応性、得られた膜の性能の面から多官能アミノ化合物、特にm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンなどの芳香族アミン類、エチレンジアミン、ピペラジン、アミノメチルピペリジンなどの脂肪族アミン類、ポリエピハロヒドリンを上記モノマーアミン類で変性したポリマーなどのアミノポリマー類が好ましい。これらの一分子中に2個以上の反応性基を有する水溶性化合物は単独であるいは混合して用いることが出来る。これら水溶性化合物は重量濃度で0.1〜20%の水溶液として使用する。水溶液には必要に応じて他の水溶性化合物を混合してもかまわない。
【0023】
多孔質支持膜の表面への水溶性多官能試薬の水溶液の塗布は、コ−ティングする方法あるいは多孔性支持膜を水溶液中に浸漬する方法がある。水溶液を多孔性支持膜に塗布した後、余分な水溶液を除去するために液切り工程を設けるのが一般的であり、液切りの方法としては、例えば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法、膜面に気体を吹きつける方法、スポンジなどで拭き取る方法などがある。
【0024】
また、上記水溶性多官能試薬と反応しうる多官能試薬としては多官能の酸ハロゲン化物、多官能のイソシアネート化合物などを用いることが出来る。例えば多官能酸ハライドの例としては、トリメシン酸ハライド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ハライド、トリメット酸ハライド、ピロメット酸ハライド、イソフタル酸ハライド、テレフタル酸ハライド、ナフタレンジカルボン酸ハライド、ジフェニルジカルボン酸ハライド、ピリジンジカルボン酸ハライド、ベンゼンジスルホン酸ハライド、クロロスルホニルイソフタル酸ハライドなどの芳香族系多官能酸ハロゲン化物、イソシアネート化合物としてはトルエンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物が用いられる。これらの化合物の中では反応のしやすさ、得られた膜の分離性能の面から芳香族酸クロライド、特にイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、トリメシン酸クロライド、及びこれらの混合物が好ましい。
【0025】
多官能試薬を溶解する有機溶媒は水と非混和性であり、かつ多官能反応性試薬を溶解し多孔性支持膜を破壊しないことが必要であり、界面重縮合あるいは界面反応により架橋ポリマを形成し得るものであればいずれであっても良い。オゾン層を破壊しない物質を考慮すると該有機溶媒としては炭化水素系溶媒が好ましい。また、取り扱いの容易さ、入手のしやすさなどを考慮すると炭素数6以上の炭化水素系化合物が好ましい。さらに、取り扱い上の安全性を考慮すると炭素数8以上あるいは引火点が10℃以上の炭化水素系化合物が好ましい。より好ましくは、炭素数8〜20あるいは引火点が10〜300℃の炭化水素化合物である。炭素数が8以下あるいは引火点が10℃以下になると爆発あるいは引火の危険性があり取り扱いが困難である。また、炭素数が20以上あるいは引火点が300℃以上になると粘度が高くなる、凝固点が高く固化しやすいなどの問題で取り扱いが困難である。具体的には直鎖状あるいは分枝状の飽和あるいは不飽和の脂肪族が好ましく、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカンなど、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1−オクテン、1−デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0026】
多官能試薬の濃度は特に限定されるものではないが、少なすぎると活性層である超薄膜の形成が不十分となり欠点になる可能性があり、多いとコスト面から不利になるため、0.01〜1.0重量%程度が好ましい。多官能試薬の溶液には必要に応じて該溶媒と混合する他の化合物を混合してもかまわない。混合する物質としては例えばジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、n−メチルピロリドン、ジエチルホルムアミドなどの極性化合物、界面活性剤などが挙げられる。
【0027】
水溶性多官能試薬の溶液を塗布した多孔質支持膜の表面への多官能試薬の溶液の塗布は、コ−ティングする方法、塗布ロールを用いる方法あるいは該多孔性支持膜を溶液中に浸漬する方法などがある。
【0028】
水溶性多官能試薬の水溶液を塗布した多孔性支持膜の表面に多官能試薬の溶液を塗布することによって、多孔性支持膜表面で架橋反応あるいは重縮合反応が起こり、架橋した超薄膜層が形成する。一般には反応は短時間で終了するが、場合によっては反応時間を長くしたりなど反応時間を変化させて反応率、得られる超薄膜の膜厚、緻密性をコントロールすることができる。反応時間は多官能試薬が接触してから官能基が失活するまでの時間であり、好ましくは1秒から10分である。反応時間が短すぎると反応が十分に進行せず欠点の多い膜となる。また反応時間が長すぎると、反応が進行しすぎて低造水量化してしまう可能性がある。得られた超薄膜の厚みは5nmから10μmであるが、半透性複合膜の水透過性の面から、1μm以下が好ましい、これより厚くなると水透過性が低くなる恐れがあり好ましくない。また、該塗布工程においても、以下に述べる除去工程と同様に不活性気体でシールしても良い。
【0029】
溶液を該多孔性支持膜に塗布した後、余分な多官能試薬の溶液や有機溶媒を除去することが必要である。通常、架橋反応や界面重縮合反応を十分に行なうために、過剰に多官能試薬の溶液を塗布する。従って反応終了後あるいは反応の途中に、膜面に残っている該多官能試薬は、欠点の原因となったり、副反応を起こして膜の表面状態を変化させる可能性がある。また、膜面に残った有機溶媒類は膜表面を疎水化させて膜性能を低下させる原因となる。さらに、これら残存する試薬や有機溶媒が膜使用時に溶出して透過水質を悪化させたり濃縮水を汚染したりする可能性がある。従って、高い膜性能を得るため、あるいは使用時の透過水、濃縮水への溶出をなくすためには複合膜から該有機溶媒、該多官能試薬を取り除く必要がある。
【0030】
製膜に通常の有機溶媒を用いた場合には通常溶媒は常温、常圧の製膜雰囲気下で蒸発する。従来のフロン系溶媒を用いた複合膜の製膜では通常の蒸発による除去を行なっていた。しかし、蒸発による有機溶媒の除去は、溶媒の回収が困難であり、特に引火性や有害性のある有機溶媒の場合は安全性の面で問題があった。また、引火性の低い溶媒を用いた場合には、一般的に引火点が高いと沸点も高くなって蒸発しにくくなるという問題もあった。引火点の高い溶媒を蒸発させるためには加熱を行なえばよいが、通常雰囲気中では引火の危険性が高くなり問題である。本発明の方法は引火の危険性のある有機溶媒を使用する工程を不活性気体雰囲気でシールすることにより、複合膜の製膜に使用する全ての有機溶媒に使用することが出来るが、特に引火点の低い有機溶媒の除去に効果がある。不活性気体雰囲気でシールする方法としては密閉箱型容器中などで、一方からある流量で不活性気体を導入し、他方から真空ポンプなどを用いて該不活性気体導入量と等しい流量で排出するなどがある。この時、溶媒回収も併せて行うようにすることもできる。また、該密閉容器の構造は、溶媒除去装置自体に内蔵されているものでも良いし、該装置全体を密閉する構造体乃至は密閉室でも良い。あるいは、不活性気体雰囲気の圧力が大気圧と殆ど差がないならば、ビニルテント等で除去工程装置全体を覆うなどの簡便な方法が用いることができる。前記密閉機構への膜の出入りは、密閉効果を低下させないために細いスリット口等を通して行うのが好ましい。
【0031】
該複合半透膜から該有機溶媒を除去する工程は加熱、熱風吹き付けなどで行える。特に、加熱することにより短時間で該有機溶媒を除去することが可能となり、例えば、複合膜の連続製膜する場合は生産効率が向上する。この際、加熱温度が高くなると引火の危険性がある。それを回避するために不活性気体雰囲気中で加熱することが本発明の特徴である。
【0032】
加熱の方法としては、ヒーター、赤外線、熱板などによる方法と熱風を吹き付ける方法がある。両者を併用することも可能である。
【0033】
加熱の温度は、30℃〜用いる溶媒の沸点+20℃が好ましい。溶媒の蒸発、除去の効率、生産性を考えると35℃〜溶媒の沸点+10℃が好ましい。熱風吹き付けの場合は、不活性気体を加熱して膜面に吹き付けるので、ガスの温度は20℃〜100℃が好ましい。除去効率を考えると30℃〜100℃が好ましく、さらに好ましくは35℃〜80℃である。いずれの加熱においても、加熱する温度が高すぎた場合は複合膜の微細構造が緻密化し造水量が低くなるので、多孔質支持膜の水分が蒸発除去しない温度が好ましい。
【0034】
熱風吹き付けの場合の風速については、吹き出し口で3〜50m/秒が好ましい。これより低い風速では溶媒除去効果が低下し、これより速い風速では得られた複合半透膜が過乾燥状態となって造水量が低下したり、該有機溶媒がミスト状になり、溶媒の引火点以下の温度でも危険である。
【0035】
本発明の方法では該有機溶媒、該多官能試薬を除去するに際して、該有機溶媒は引火性の高い物質が多く、引火の危険性があることから不活性気体下で該有機溶媒、該多官能試薬を除去することが特徴である。不活性気体として用いる気体は一般的に使用される窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノンなどのいずれでもよく、またはこれらの2種類以上と混合してもよい。経済性、入手の容易さなどを考慮すると不活性気体としては窒素、ヘリウムおよびその混合物などが好ましい。
【0036】
また、引火点以下の温度であっても溶媒の種類によっては風吹き付けにおいてミストが発生し、引火、爆発する危険性があるため、本発明の不活性気体によるシールが必要である。不活性気体でシールする工程は複合半透膜の製膜工程を全てシールしてもよいが、水と非混和性の有機溶媒に溶解した多官能試薬の溶液を塗布する工程と、複合半透膜から該有機溶媒を除去する工程を不活性気体雰囲気下で行なうことにより、引火の危険性を除くことが可能である。
【0037】
水と非混和性の有機溶媒に溶解した多官能試薬の溶液を塗布する工程は箱形容器内に納め、水溶性多官能試薬の溶液を塗布した多孔質支持膜が通過する開口部は不活性気体雰囲気でシールするか、または該複合半透膜から該有機溶媒を除去する工程と接続してもよい。
【0038】
該複合半透膜から該有機溶媒を除去する前に、除去の第1段階として液切り工程を設けてもよい。液切り工程を設けることによって除去する有機溶媒や多官能試薬の全体量が減少し、除去に要する時間を短くしたり、除去量を減らすことなどが可能となり本発明に於ける有機溶媒あるいは多官能試薬の除去効果が増大する。液切りの方法としては、例えば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法、膜面に不活性気体を吹きつける方法、スポンジなどで拭き取る方法などがある。一方、溶媒を除去した後、膜面に溜まった過剰の多官能試薬の洗浄を行なうために水洗を行なうのが好ましい。さらに、目的に応じて複合膜の性能をコントロールするために種々の後処理を行なってもよい。
【0039】
さらに、本発明の複合膜の形態は平膜でも、中空糸でも構わない。また、得られた複合膜は平膜は、スパイラル、チューブラー、プレート・アンド・フレームのモジュールに組み込んで、また中空糸は束ねた上でモジュールに組み込んで使用することができるが、本発明はこれらの膜の使用形態に左右されるものではない。
【0040】
本発明の複合半透膜(4)の製造装置とは、多孔性支持膜(4)(便宜上、「複合半透膜」と「多孔質支持膜」は同符号番号を付した)の表面に水溶性多官能試薬の水溶液を塗布する装置(1)と、水と非混和性の有機溶媒の多官能試薬の溶液の塗布装置(2)および複合半透膜から水と非混和性の有機溶媒の多官能試薬の溶液を除去する装置(3)を直列に置いた複合半透膜の製造装置である。水溶性多官能試薬の水溶液を塗布する装置(1)は、溶液の多孔性支持膜への滴下、シャワーリング、口金あるいはそれに準ずるものによるコーティング、水溶液への多孔性支持膜の含浸などの装置が挙げられるが、本発明の装置はこれらのいずれであってもよい。また、水と非混和性の有機溶媒の多官能試薬の溶液の塗布装置(2)も、該有機溶液の滴下、シャワーリング、口金あるいはそれに準ずるものによるコーティング、該有機溶液への含浸などの装置が挙げられるが、本発明の装置はこれらのいずれであってもよい。さらに、該有機溶媒の除去装置は乾燥機などの温度調節が可能なもので、不活性気体を導入して不活性気体雰囲気を保持でき、かつ真空ポンプなどで蒸発溶媒と不活性気体の混合気体を排出可能な装置であればいずれでもよい。
【0041】
なお、本発明の製造装置に於いては、多孔性支持膜の表面に水溶性多官能試薬の水溶液を塗布する装置(1)と、水と非混和性の有機溶媒の多官能試薬の溶液の塗布装置(2)および複合半透膜から水と非混和性の有機溶媒の多官能試薬の溶液を除去する装置(3)をこの順に直列に配置することが重要であるが、必要に応じて先頭に多孔性支持膜の洗浄装置、多孔性支持膜の表面に水溶性多官能試薬の水溶液を塗布する装置(1)の後に該水溶液を液切りする装置、水と非混和性の有機溶媒の多官能試薬の溶液の塗布装置(2)の後に該有機溶媒を液切りする装置を設けてもかまわない。さらに、該複合膜の後処理のための装置を直列に付属してもかまわない。
【0042】
【実施例】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0043】
なお、実施例において排除(脱塩)率は次式により求めた。
【0044】
排除率(%) ={1−(透過液中の溶質濃度)/(供給液中の溶質濃度)}×100
また、造水量は単位時間に単位面積当たりの膜を透過する透過水量で求めた。
【0045】
参考例1
タテ30cm、ヨコ20cmの大きさのポリエステル繊維からなるタフタ(タテ糸、ヨコ糸友150デニ−ルのマルチフィラメント糸、織密度タテ90本/インチ、ヨコ67本/インチ、厚さ160μm)をガラス板上に固定し、その上にポリスルホン(アモコ社製のUdel P−3500)の15重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を200μmの厚みで室温(20℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜(以下FR−PS支持膜と略す)を作製する。このようにして得られたFR−PS支持膜(厚さ210〜215μm)の純水透過係数は圧力1kg/cm、温度25℃で測定して0.005〜0.01g/cm・sec・atmであつた。
【0046】
実施例1
参考例1で得られたFR−PS支持膜をm−フェニレンジアミンの2重量%水溶液に1分間浸漬した。FR−PS支持膜表面から余分な該水溶液を取り除いた後、窒素ガス雰囲気下でトリメシン酸クロライドの0.1重量%n−デカン溶液を表面が完全に濡れるようにコ−ティングして1分間静置した。次に膜を垂直にして余分な該溶液を液切りして除去した後、更に内部を窒素ガスでシールした乾燥機内温35℃で1分間乾燥して溶媒を完全に除去した。得られた膜を1重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬し、その後水洗した。このようにして得られた複合膜は溶媒の臭気もせず、水洗液中にも溶媒は見られない。この複合膜を1500ppmの塩化ナトリウム水溶液を用いてpH6.5、25℃、1.47MPaの条件下で逆浸透評価を行なった結果、排除率99.4%、造水量0.80m/m・日の性能が得られた。
【0047】
実施例2
参考例1で得られたFR−PS支持膜をm−フェニレンジアミン/トリアミノベンゼンの混合水溶液(混合比率50/50、総アミン濃度2重量%)に1分間浸漬した。FR−PS支持膜表面から余分な該水溶液を取り除いた後、窒素ガス60vol%、ヘリウムガス40vol%の混合気体雰囲気下でトリメシン酸クロライド/テフタル酸クロライド混合液(混合比率50/50、溶媒n−ヘプタン、トータル濃度0.1重量%)を表面が完全に濡れるようにコ−ティングして1分間静置した。次に膜を垂直にして余分な該溶液を液切りして除去した後、更に内部を窒素ガスでシールした乾燥機内温35℃で1分間乾燥して溶媒を完全に除去した。得られた膜を1重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬し、その後水洗した。このようにして得られた複合膜は溶媒の臭気もせず、水洗液中にも溶媒は見られない。この複合膜を1500ppmの塩化ナトリウム水溶液を用いてpH6.5、25℃、1.47MPaの条件下で逆浸透評価を行なった結果、排除率99.6%、造水量1.2m/m・日の性能が得られた。
【0048】
実施例3
実施例1のトリメシン酸クロライドの溶媒のn−デカンをエチルシクロヘキサンに変えた以外は実施例1と同様にして複合膜を得た。さらに、実施例1と同様の方法で膜評価を行なったところ、排除率99.1%、造水量0.78m/m・日の性能が得られた。
【0049】
実施例4
実施例1のトリメシン酸クロライドの溶媒のn−デカンをイソオクタンに変えた以外は実施例1と同様にして複合膜を得た。さらに、実施例1と同様の方法で膜評価を行なったところ、排除率99.1%、造水量0.75m/m・日の性能が得られた。
【0050】
実施例5
実施例1の不活性気体をヘリウム80vol%、アルゴン20vol%の混合気体に変えた以外は実施例1と同様にして複合膜を得た。さらに、実施例1と同様の方法で膜評価を行なったところ、排除率99.0%、造水量0.73m/m・日の性能が得られた。
【0051】
実施例6
実施例1のトリメシン酸クロライドの溶媒のn−デカンを炭素数9〜12のn−パラフィンの混合物に変えた以外は実施例1と同様にして複合膜を得た。さらに、実施例1と同様の方法で膜評価を行なったところ、排除率99.2%、造水量0.71m/m・日の性能が得られた。
【0052】
比較例1
実施例1において、窒素ガス雰囲気下でシールする工程を大気雰囲気下に変えた以外は実施例1と同様にして複合膜を得た。更に、実施例1と同様の方法で膜評価を行ったところ、排除率99.3%、造水量0.75m/m・日の性能であった。
【0053】
比較例2
実施例2において、窒素ガス雰囲気下でシールする工程を大気雰囲気下に変えた以外は実施例2と同様にして複合膜を得た。更に、実施例1と同様の方法で膜評価を行ったところ、排除率99.6%、造水量1.1m/m・日の性能であった。
【0054】
【発明の効果】
本発明の方法及び装置によって、オゾン破壊係数のない炭化水素系溶媒でかつ、取り扱い上、引火点の低い溶媒を用いても、分離性能の高い複合半透膜を得ることができる。さらに、本発明の方法及び装置によって、製膜に用いた溶媒を安全に、かつ効果的に除去することができる。また、得られた複合膜の性能も向上が認められる。これは湿度あるいは酸素ガスから遮断されるためではないかと考察される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における複合半透膜の装置を示したものである。
【符号の説明】
1:多孔性支持膜の表面に水溶性多官能試薬の水溶液を塗布する装置
2:水と非混和性の有機溶媒の多官能試薬の溶液の塗布装置
3:有機溶媒除去部分
4:多孔性支持膜乃至は複合半透膜
5:不活性気体導入部分

Claims (7)

  1. 多孔性支持膜の表面に水溶性多官能試薬の水溶液を塗布し、該水溶性多官能試薬と反応する多官能試薬を水に対し非混和性の有機溶媒に溶解した溶液を塗布した後、不活性気体雰囲気下で該有機溶媒を除去することを特徴とする複合半透膜の製造方法。
  2. 超薄膜が架橋ポリアミド系の超薄膜であることを特徴とする請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
  3. 水溶性多官能試薬が多官能アミンであることを特徴とする請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
  4. 多官能試薬が多官能酸ハライドであることを特徴とする請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
  5. 水と非混和性の有機溶媒が炭化水素系の溶媒であることを特徴とする請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
  6. 該水溶性多官能試薬と反応する多官能試薬を水に対し非混和性の有機溶媒に溶解した溶液を塗布する工程も不活性気体雰囲気下であることを特徴とする請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
  7. 水溶性多官能試薬の水溶液の塗布機構と、水と非混和性の溶媒の多官能試薬の溶液の塗布機構、不活性気体でシールする機構を有する、前記水と非混和性の溶媒の多官能試薬の溶液を複合半透膜から除去する機構とを備えたことを特徴とする複合半透膜の製造装置。
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