JP3586212B2 - 高純度一酸化けい素蒸着材料及びその製造方法と装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この発明は、食品や医療品・医薬品等の包装用材料として最適なガスバリア性のけい素酸化物蒸着膜を製造するために使用する高純度一酸化けい素蒸着材料及びその製造方法と装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、食品においては油脂やたんぱく質の劣化を防ぐため、包装材料を透過する酸素や水蒸気、芳香性ガス等に起因する酸化による品質の劣化を抑制することが求められている。又、医療品・医薬品においては、更に高い基準での内容物の変質・劣化の抑制が求められている。
【0003】
従って、食品や医療品・医薬品等の包装用材料には、内容物の品質を劣化させる酸素や水蒸気、芳香性ガス等の透過に対するガスバリア性の高い材料が要求される。このように高いガスバリア性を有する包装材料として、けい素酸化物を高分子フィルム上に蒸着した蒸着フィルムがある。その中で酸素や水蒸気、芳香性ガス等に対し優れたガスバリア性を有する一酸化けい素蒸着膜が注目されている。
【0004】
更に、包装容器のリサイクル化が進められていく中で、これまでガスバリア性の高い包装用材料として使用されてきたアルミニウム箔やアルミニウム蒸着膜を有する包装材料は、高分子フィルムや紙等の非金属材質のものと分別回収する必要が生じてきた。そのため、高分子フィルムや紙等との分別を必要としない一酸化けい素蒸着膜を有する包装材料が注目されるようになった。
【0005】
このような高分子フィルムや紙等との分別が必要ない一酸化けい素蒸着膜を有する包装材料は、酸素や水蒸気、芳香性ガス等に対し優れたガスバリア性を有する一酸化けい素蒸着材料を、抵抗加熱蒸着法あるいは電子ビーム加熱蒸着法により昇華させ、昇華したガスを高分子フィルムに蒸着させて製造している。
【0006】
上記包装材料の蒸着材料として用いられる一酸化けい素の製造方法としては、例えば特公昭40−22050号や特開平9−110412号公報に開示されたものがある。前者の発明の詳細な説明の中で冒頭に記載されているように、一酸化けい素を得る方法としては、従来から多くのものが知られている。また、後者には、一酸化けい素を得るための蒸着装置が開示されている。
【0007】
上記、従来の一酸化けい素を得るための真空蒸着法による蒸着装置は、原料を加熱して一酸化けい素を蒸発させる原料室と、原料室から上昇してくる気体一酸化けい素を析出基体に蒸着させる析出室からなる。この製造装置によれば、原料室での反応中にスプラッシュ現象が起こり、未反応微粉が発生することがある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記のごとく、原料室と析出室からなる真空蒸着法による製造装置により一酸化けい素蒸着材料を製造する場合、原料室でスプラッシュ現象が起こると、発生した未反応微粉が析出室に入り、析出室で生成する一酸化けい素蒸着材料の品質に悪影響を及ぼす問題がある。原料室の原料が高純度であれば、スプラッシュにより発生する未反応微粉による品質上の問題も小さいはずであるが、良好な反応のためには半導体シリコンウェーハを機械的に粉砕したSi粉末とSiO2粉末を混合して湿式造粒して乾燥を行う必要があるため、この過程である程度汚染してしまうことは避けられないのである。
【0009】
一方、食品や医療品、医薬品等の分野で使用される包装用材料には、通常不純物が100ppm以上含まれているが、人体に悪影響を及ぼす不純物の含有は極力抑制する必要がある。
【0010】
この出願の発明は、上記現状に鑑み、従来の真空蒸着法による製造装置に見られる欠点を排除して、人体に有害なAs、Cd、Hg、Sb、Pb等を含む不純物の含有量を著しく低減した高純度一酸化けい素蒸着材料、並びに、この高純度一酸化けい素蒸着材料を、効率よく製造し得る、高純度一酸化けい素蒸着材料及びその製造方法と装置を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者らは種々の実験を繰り返した。その結果、一酸化けい素蒸着材料を真空蒸着法により、人体に悪影響を及ぼす金属不純物を著しく低減した高純度の一酸化けい素蒸着材料を得るには、原料室で発生するスプラッシュ現象により生じる未反応微粉がスプラッシュ発生時のエネルギーにより吹き飛ばされ、析出室に侵入するのを抑制すればよいことに気づいた。その結果、真空蒸着法による製造装置の原料室と析出室との間にて昇華した一酸化けい素ガスのみを透過させる手段を講じることにより、より高純度の一酸化けい素蒸着材料が得られることがわかった。この出願の発明は、この知見に基づいて、次のとおり完成したものである。
【0012】
この発明による高純度一酸化けい素蒸着材料は、金属けい素とけい素酸化物との混合物又は固体一酸化けい素を蒸発・析出生成した材料であり、含有する金属不純物のFe、Al、Ca、Cu、Cr、Mn、Mg、Ti、Ni、P、As、Cd、Hg、Sb、Pbの合計が50ppm以下で、残部がSiOからなる。
【0013】
この発明による高純度一酸化けい素蒸着材料の製造方法と装置は、原料を加熱して蒸発させる原料室と、気化ガスを析出基体に蒸着させる析出室との間に、気体が自由に流通すると共に、原料室でのスプラッシュ現象により生じる未反応微粉が析出室へ侵入するのを遮断する単数又は複数の仕切り部材を配置した構成の装置であり、原料として金属けい素とけい素酸化物との混合物又は固体一酸化けい素を原料室で蒸発させ、析出基体に、Fe、Al、Ca、Cu、Cr、Mn、Mg、Ti、Ni、P、As、Cd、Hg、Sb、Pbの金属不純物の合計が50ppm以下、残部がSiOからなる一酸化けい素を蒸着させることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
この発明は、原料の金属けい素とけい素酸化物との混合物又は固体一酸化けい素を加熱して蒸発させる原料室と、気化ガスより一酸化けい素を析出基体に蒸着させる析出室からなる真空蒸着法による製造装置において、前記原料室と析出室との間に、気体が自由に流通すると共に、原料室で発生したスプラッシュ現象により生じる未反応微粉の析出室への侵入を遮断する仕切り部材を設けた製造装置を用い、真空蒸着法にて人体に有害な金属を含む特定の15種の全ての金属不純物を合計で50ppm以下に低減した高純度一酸化けい素蒸着材料を製造する。
【0015】
上記仕切り部材は、多数の気体流通孔をあけたカーボン成型体やグラファイト板の単板または隙間をあけて上下に組み合せた複数枚からなる。又、例えば、タンタルやモリブデンなどの多孔質材料からなる板を用いることができる。上記気体流通孔は原料室で昇華した一酸化けい素ガスを析出室へ通すための流通孔であり、原料室で発生したスプラッシュ現象により生じた未反応微粉が析出室へ侵入するのを遮断できるように板厚や孔径を選定する。また、複数枚の板を隙間をあけて上下に組み合せたものは、上下板の間で気体流通孔の位置をずらすことにより、スプラッシュ現象により生じる未反応微粉の析出室への侵入の遮断効果を更に向上できる。
【0016】
上記仕切り部材を有する製造装置により一酸化けい素蒸着材料を製造すると、原料室で発生するスプラッシュ現象により生じる未反応微粉は仕切り板部材に遮断されて、析出室の析出基体へ飛来するのを防止することができる。そのため、析出基体には金属不純物の少ない一酸化けい素が均一に付着して高純度の一酸化けい素蒸着材を形成できる。また、仕切り部材が介在することにより、原料室内の温度の均一性が増し、原料の反応速度が向上する。
【0017】
【実施例】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施による製造装置で、気体流通孔を有する仕切り板の2枚を間隔をおいて上下に組み合せた仕切り部材7を使用した場合の概略を示したものである。装置は原料室1の上に析出室2を組み合せてなり、真空室13内に設置する。
【0018】
上記原料室1は、円筒体の中央に円筒の原料容器5を設置し、その周囲に例えば電熱ヒータからなる加熱源6を配置してなる。上記原料容器5の上には仕切り部材7を着脱自在に載置する。図1では、上側仕切り板8と下側仕切り板10との組合せからなる場合を示した。この仕切り部材7は、図2に示すとおり、円板の内側に3つの気体流通孔11を配設した下側仕切り板10の上に、円板の周縁寄りに6つの気体流通孔9を配設した上側仕切り板8を隙間保持環12を介在して重ね合わせてなる。
【0019】
また、析出室2は円筒体の内周面に、原料室1で昇華した気体一酸化けい素を蒸着させるためのステンレス鋼からなる析出基体3を形成し、上端に着脱自在の蓋4を設けてなる。
【0020】
なお、仕切り部材7は、図3に示すように、上側仕切り板8と下側仕切り板10は共に円板の周縁寄りに同じ数の気体流通孔9、11を同じ要領であけ、上下孔の位置をずらして組合せても、前記と同様の作用・効果が得られる。また、1枚からなる仕切り部材の場合は、複数枚の場合に比べやや劣るが、原料室1で発生するスプラッシュ現象により生じる未反応微粉の析出室への侵入の遮断効果は十分に発揮される。
【0021】
図1に示す製造装置において、原料容器5に原料14を詰め、真空中で加熱し一酸化けい素を昇華させると、気体一酸化けい素は仕切り部材7の気体流通孔11から気体流通孔9を通り上昇し析出室2に入り、周囲の析出基体3に蒸着する。一方、原料室1で原料14から発生したスプラッシュ現象により生じた未反応微粉は、スプラッシュ発生時のエネルギーにより吹き飛ばされ、下側仕切り板10に衝突したものは、そのまま室内へ押しもどされ、気体通気孔11を通過したものも上側仕切り板8の下面に衝突して、析出室2へ侵入することはできない。このようにして、析出室2へのスプラッシュ現象により生じた未反応微粉の侵入が阻止されることにより、析出基板に蒸着する一酸化けい素蒸着材は、純度の高い均質のものが得られる。
【0022】
次に、試験装置を使用して行った具体的な実施例に基づいて作用・効果を説明する。半導体用シリコンウエハーを機械的に破砕したSi粉末(平均粒径10μm)と市販のSiO2粉末(平均粒径10μm)をモル比1:1で配合し、純水を用いて湿式造粒を行った。造粒原料を乾燥した後、真空中(真空度:1×10-1Pa)で室温から1200〜1400℃に昇温し、加熱・反応させ昇華した気体一酸化けい素を、加熱した蒸着管の析出基体(蒸着管温度:200〜500℃)に蒸着させて一酸化けい素蒸着材料を得た。この装置の仕切り部材は、図3に示す構成を有するもので、直径304mm、厚さ10mmの上下仕切り板の外周寄りに8個の直径30mmの気体流通孔を板中心から107mmの円周上に配設した上下仕切り板を10mmの間隔で上下に対向し、かつ気体流通孔の孔位置をずらしたものを使用した。
【0023】
そして、上記各試料に対しICP発光分析法、原子吸光光度法、吸光光度法
により金属不純物の分析を行った。その結果を表1に示した。
【0024】
【表1】
【0025】
金属不純物濃度を調べた結果を表1に示す。この発明の実施による試料No.1〜5の金属不純物濃度は全て合計で50ppm以下で、殊に2枚の仕切り板からなる仕切り部材を使った装置により作られた試料No.4と5は35ppm台以下であるに対し、比較例の仕切り部材のない従来装置で作られた試料No.6〜9の金属不純物濃度は全て合計で120ppm台以上である。この結果から、この発明の実施による仕切り部材の存在により、一酸化けい素蒸着材料の金属不純物を低減する効果が顕著であることがわかる。上記のごとく、この発明の実施により製造された一酸化けい素蒸着材料は金属不純物の含有量が著しく低減しており、食品や医薬品等の分野で包装用材料として使用するのに最適の蒸着材料であることがわかる。
【0026】
【発明の効果】
この発明による原料室と析出室との間に仕切り部材を有する真空蒸着法による製造装置によれば、原料室で発生するスプラッシュ現象により生じた未反応微粉の反応室への侵入を阻止して、人体に有害な金属不純物の少ない高純度の一酸化けい素蒸着材料が得られる。従って、この発明による一酸化けい素蒸着材料を使えば、食品や医療品・医薬品等用として高い基準で要求される不純物量が極めて少ない高品質を備えた包装材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施による仕切り装置を有する製造装置の概略を示す縦断面図である。
【図2】図1の仕切り部材の詳細を示す説明図で、Aは縦断面図、Bは底面図である。
【図3】仕切り部材の他の実施例を示す説明図で、Aは斜視図、Bは平面図である。
Claims (4)
- 一酸化けい素蒸着材料において、金属不純物Fe、Al、Ca、Cu、Cr、Mn、Mg、Ti、Ni、P、As、Cd、Hg、Sb、Pbの合計が50ppm以下で、残部がSiOからなる高純度一酸化けい素蒸着材料。
- 金属けい素とけい素酸化物との混合物又は固体一酸化けい素を蒸発・析出生成した一酸化けい素蒸着材料であり、含有する金属不純物はFe、Al、Ca、Cu、Cr、Mn、Mg、Ti、Ni、P、As、Cd、Hg、Sb、Pbの合計が50ppm以下で、残部がSiOからなる高純度一酸化けい素蒸着材料。
- 金属けい素とけい素酸化物との混合物又は固体一酸化けい素を加熱して蒸発させる原料室と、気化ガスより一酸化けい素を析出基体に蒸着させる析出室とを有する製造装置において、原料室と析出室との間に、気体が自由に流通すると共に、原料室で発生したスプラッシュ現象により生じる未反応微粉の析出室への侵入を遮断する単数又は複数の仕切り部材を設けた高純度一酸化けい素蒸着材料の製造装置。
- 原料を加熱して蒸発させる原料室と、前記原料の気化ガスを析出基体に蒸着させる析出室との間に、気体が自由に流通すると共に、原料室でのスプラッシュ現象により生じる未反応微粉が析出室へ侵入するのを遮断する単数又は複数の仕切り部材を配置し、原料として金属けい素とけい素酸化物との混合物又は固体一酸化けい素を蒸発させ、析出基体に、Fe、Al、Ca、Cu、Cr、Mn、Mg、Ti、Ni、P、As、Cd、Hg、Sb、Pbの金属不純物の合計が50ppm以下、残部がSiOからなる一酸化けい素を蒸着させる高純度一酸化けい素蒸着材料の製造方法。
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