JP3585329B2 - フラボノイド配糖化酵素遺伝子 - Google Patents

フラボノイド配糖化酵素遺伝子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラボノイド配糖化酵素(UFGT)遺伝子に関する。さらに詳しくはフラボノイドの3位,5位にグルコースを転移することのできる酵素遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
フラボノイドは、植物に各種の色調を与える主要な色素化合物である。フラボノイド化合物の中で植物の色調発現の中心となるのが、種々のアントシアニン化合物であり、赤から青までの広い範囲の色調を呈することが知られている。アントシアニンは配糖体もしくはアシル化配糖体であり、それらの配糖体を除いた部分をアントシアニジンと呼ぶ。主なアントシアニジンはベラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンの3つである。アントシアニン色素の色調は種々の要因によって決まる。中でもアントシアニジン骨格のB環の水酸基の数は重要であり、水酸基の数が増すに従って橙赤色から青色に変わる傾向がある。青色を呈する花弁のアントシアニンについてはほとんどの場合デルフィニジンである。また、アントシアニンの色調は溶液のpHや共存する金属イオン、他の化合物などによっても著しい影響を受ける。
【0003】
一方、アシル化配糖体において、そのアシル基がp−クマル酸やコーヒー酸などの芳香族系有機酸である場合、青色系の呈色を示すことが知られている。リンドウのアントシアニンであるゲンチオデルフィン [Goto, T. et al. Tetr. Letters 23: (36) 3695−3698 (1982)] や、キキョウのアントシアニンであるプラチコニン [Goto, T. et al. Tetr. Letters 24: (21) 2181−2184 (1983)] に代表されるアシル化アントシアニンは、分子内にコーヒー酸が結合した構造を持ち、一般的にアントシアニンが不安定であるとされるpH弱酸性から中性領域においても安定に青色を呈する。
【0004】
リンドウの青色アントアニンであるゲンチオデルフィンは、デルフィニジン骨格の3位,5位,3’位にグルコースが結合し、3’位,5位にはグルコースを介してコーヒー酸が結合した糖鎖構造を持つ。従って、リンドウの花弁色素であるゲンチオデルフィンの糖鎖構造の生合成に関与する酵素遺伝子を単離することができれば、該遺伝子を他の植物体に導入することにより花色を青系に操作できる可能性が期待される。これまでアントシアニンの3位にグルコース等の糖を転移する酵素遺伝子が知られているが [Ralston, E.J. et al. Genetics 119: 185-197 (1988) 、Wise, R.P. et al. Plant Mol. Biol. 14: 277-279 (1990)]、5位に糖を転移する酵素遺伝子は知られていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ゲンチオデルフィン生合成遺伝子のうち、3位,5位の2位を配糖化しうる糖転移酵素遺伝子を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、リンドウの花弁よりUDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子を単離し、その配列決定をすることに成功し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、実質的に配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするUDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子である。
【0007】
本発明はまた、配列番号2で示される塩基配列を有する上記UDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子である。
さらに、本発明は、上記UDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む組換えプラスミド、該組換えプラスミドを有する宿主細胞、ならびに該宿主細胞を培地に培養し、培養物よりUDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼを採取することを特徴とする、UDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼの製造方法である。
【0008】
本発明において、「実質的に」とは、フラボノイドの3位,5位への糖転移酵素活性を有する限り、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換されていてもよい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
[1] mRNAの抽出及び分離
リンドウ等の花弁よりmRNAを抽出する。まず該組織より全RNAの粗抽出物を得、これよりタンパク質、多糖類、その他の夾雑物を除去し、オリゴdTセルロースクロマトグラフィー、ポリU−セファロースカラムなどの吸着カラムを用いて更に精製する。ポリA(ポリA+)鎖画分を溶出し集め、同様の精製を2〜3回繰り返すことによってmRNAを高度に濃縮することができる。
【0010】
[2] β糖転移酵素遺伝子配列プライマーによる3’RACE PCR
本発明の目的とするリンドウの花弁色素ゲンチオデルフィン合成酵素遺伝子の一つであるアントシアニングルコース転移酵素遺伝子は、ゲンチオデルフィンの構造より、グルコースをβ位に転移する酵素の遺伝子であることが注目される。そこで、例えばトウモロコシとオオムギのUDP−グルコース:フラボノイド3−O−グルコシルトランスフェラーゼや動物のUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼに代表される既知のβ−糖転移酵素遺伝子群の遺伝子配列相同領域より、これと共通の配列を有する遺伝子を目的遺伝子の候補とすることができる。
【0011】
本発明においてはまず、リンドウの花弁より抽出したmRNAを試料とし、3’RACE PCRにて3’末端部分の増幅を行い、その塩基配列を決定する。プライマーとしては、上記既知のβ糖転移酵素遺伝子群の配列の情報を基に設計することができる。具体的には、既知のβ糖転移酵素のアミノ酸配列において見いだされる、高度に保存されたアミノ酸配列領域、即ち(Phe Tyr)(Val Ile)(Thr Cys)His(Ala Gly Ser Cys)Gly の6アミノ酸からなる配列から導かれる代表的な16個のアミノ酸配列に対応するDNA配列より合成した数種を用いる。この場合のプライマーはデジェネレート(ミックス)プライマーでも、そうでなくてもよい。また、PCRを行う場合、プライマーの配列は必ずしも獲得を目的とした遺伝子の塩基配列に完全に一致しなくても、PCR反応による増幅が可能である。
【0012】
続いてPCR産物を常套的な手段にてクローニングし、配列決定する。得られたDNA配列はアミノ酸配列に翻訳し、上記のβ転移酵素遺伝子群の配列の共通配列を持つDNA断片であれば、候補遺伝子とする。
【0013】
[3] β糖転移酵素遺伝子群の単離
候補遺伝子の単離は、一般的にはcDNAライブラリーのスクリーニングによって行うことができる。
[1]で得られたmRNAを鋳型としてcDNAを調製し、これをプラスミドベクターに組み込み、種々の組換え体プラスミドを得る。プラスミドベクターとしては、宿主細胞内で自立複製可能で該cDNAを安定保持できるものであれば、いずれをも用いることができるが、具体的には、pSPORT−1 (GIBCO BRL 社製) 等が挙げられる。
【0014】
次に、組換え体プラスミドを大腸菌に導入してcDNAライブラリーを作製する。cDNAライブラリーから候補遺伝子の翻訳領域を含む遺伝子をスクリーニングするには、[2] で配列決定した候補遺伝子の3’側の配列を基に数種のプローブを作成し、これとのハイブリダイゼーションにより行う。
【0015】
また、候補遺伝子の翻訳領域を単離するために、5’RACE PCRを行ってもよい。具体的には、[2] で決定した候補遺伝子の配列を基に逆転写用のプライマーを作製し、特異的なcDNAを合成する。続いてcDNAの5’末端にアンカーを結合させ、そのアンカーに相補的なアンカープライマーと、逆転写プライマーと重ならない候補遺伝子特異的なプライマーとの間でPCRを行う。1500−2000bp のDNA断片を単離、クローニングし、3’末端の配列が候補遺伝子と一致することを確認した上で5’末端の塩基配列を決定する。
【0016】
[4] 目的遺伝子の選抜
候補遺伝子の中から目的の遺伝子を選抜するために、 [3]で単離した遺伝子断片を、PCR 又は制限酵素処理により翻訳領域を取り出し、大腸菌発現ベクター系にクローニングし、候補遺伝子の産物を大腸菌で発現させる。その後、大腸菌を破砕し、得られた可溶性画分を試料としてグルコース転移酵素活性の有無を確認する。活性の測定はフラボノイドの3位及び5位に対する2種のグルコース転移酵素活性を測定し、活性が検出できれば大腸菌に導入したcDNAが目的とする遺伝子であると判断する。
本発明において塩基配列の決定は、ジデオキシ法 [Sanger. F, Science, 214, 1205−1210 (1981)]等により行うことができる。
【0017】
[5] 宿主細胞への遺伝子導入および発現
上記で得られたUDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子(以下、本発明遺伝子)は、適当な宿主細胞中に導入して高発現させることができる。具体的には、ベクターDNAの適当な制限酵素部位に本発明遺伝子を含むDNAを挿入して組み換え体DNAを調製し、これを宿主細胞中に導入する。宿主細胞としては、目的とする遺伝子を発現できるものであればよく、真核細胞及び原核細胞のいずれをも用いることができる。真核細胞としては動物、植物、酵母等の細胞が、また原核細胞としては大腸菌、枯草菌、放線菌等が挙げられる。
【0018】
本発明遺伝子を組み込むベクターDNAは、宿主細胞で複製可能なものであれば如何なるものでもよく、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA等が挙げられる。宿主細胞が大腸菌である場合のベクターDNAとしては、例えばプラスミドpUC18/pUC19、pKK223−3、pGEX−2T、pGEX−3X、pRIT2(Pharmacia 社製) ;pGEMEX−1、pGEMEX−2(Promega 社製) ;pMAL−c,pMAL−p(New England Biolabs 社製), pET15b(Novagen 社製) 等を用いることができる。
【0019】
組み換え体DNAを宿主細胞を形質転換するには、Hanahan 法 [”Molecular Cloning, A Laboratory Manual”, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989)]、Chung らの方法 [Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2172 (1989)] 等を用いて行うことができる。
上記のようにして得られた形質転換体の培養は、通常の形質転換体によるポリペプチドの生産に用いる培養方法に従って行われる。
【0020】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主細胞として用いた形質転換体を培養する培地は、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。
炭素源としては、それぞれの微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類が用いられる。
【0021】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、りん酸アンモニウム、等の各種無機酸や有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等が用いられる。 無機物としては、りん酸第一カリウム、りん酸第二カリウム、りん酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0022】
培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下で行う。培養温度は通常10〜50℃、好ましくは30〜40℃がよく、培養時間は、通常1〜10時間、好ましくは2〜5時間である。培養中pHは、通常7〜8に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。
【0023】
培養物から目的酵素の単離精製は公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。例えば、尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒沈澱法、透析、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、SDS−PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどが挙げられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0024】
【実施例】
〔実施例1〕
(1) リンドウの花弁からの総RNA抽出
リンドウ(品種:極晩)の花弁20gを液体窒素存在下で乳棒乳鉢を用いて粉砕した。これにグアニジンイソチオシアネート溶液(25 mM クエン酸ナトリウム、0.0025% N −ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、0.5 mM 2 −メルカプトエタノール、4M グアニジンチオシアネート)50mlを加え、室温で溶かしながら攪拌した。続いて、フェノール抽出、エタノール沈殿、LiCl沈殿により精製し、約5.5mgの精製全RNAを得た。
次にこれをOligo(dT)−Latexを用い、既知の手法〔実験医学Vol.7, No.17, 2065−2068 (1989)〕により、ポリA(ポリA+)鎖画分を高度に濃縮した。
【0025】
(2) β糖転移酵素遺伝子部分配列の増幅
(2−1) 逆転写反応
3’RACE SYSTEM (GIBCO BRL社製) を用いて行った。mRNA溶液130 μl(10μg mRNA) に10μM のadapter primer(GIBCO BRL 社製) 溶液 10 μl を加え、65℃10分間インキュベートし、氷上に2 分間放置した。これに10×synthesis buffer 20 μl, 10mM dNTP mix 10μl, 0.1M DTT 20 μl を加え、42℃で2 分間インキュベートした。次に、SuperScript RT 10 μl を加え42℃で30分間反応を行った。その後、氷上にサンプルを移し、10μl のRNase H を加え42℃で10分間インキュベートを行った。
【0026】
(2−2) PCR反応
(2−1) の逆転写反応液1μl に、1.25unit AmpriTaq DNA Polymerase (PERKIN ELMER CETUS社製) 、10×PCR buffer (TAKARA社製) 5 μl 、10mM dNTP mix 4 μl 、10μM universal amplification primer(GIBCO BRL社製)1μl 、20μM のβ糖転移酵素特異的配列プライマー 2.5μl 加え、滅菌水で総量を50μl とし、PCR 反応液とした。これをサーマルサイクラーPJ480 を用いてPCR(PCRプログラム : 94 ℃ 7分間を1サイクル; 94 ℃ 1分間→ 42, 48, 50又は55 ℃, 1 分間→ 72 ℃, 1 分間を30サイクル;72℃, 7 分間を 1サイクル) を行った。
【0027】
(2−3) PCR産物のプラスミドDNAへのクローニングとシーケンス解析
上記のPCR産物をInvitrogen社製TAクローニングキットを用い、pCRII ベクターに導入し、INV αF株にクローニングを行った。
シークエンスの読み取りはDNAシークエンス装置473A(PERKIN ELMER ABI 社製) を用いて行った。また、DNAシーケンスの解析はDNASIS(日立ソフトエンジニアリング社製)とSeqEd ((PERKIN ELMER ABI社製) の両ソフトで行った。
【0028】
シーケンス解析の結果得られたDNA配列は、アミノ酸配列に翻訳し、図1に示すβ糖転移酵素遺伝子のコンセンサスアミノ酸配列と比較し、明らかにこの配列に当てはまるものだけを候補遺伝子の配列とした。
288 個のクローンについてDNA配列の一部をシーケンス解析した結果、53個のβ糖転移酵素遺伝子配列を持つと推測されるクローンが得られた。得られたクローンは配列より12種に分類できた。
【0029】
(3) β糖転移酵素遺伝子の翻訳開始領域の解析
(3−1) 5’RACE PCR用プライマーの作製
(2)で得られた12種の候補遺伝子の3’側の配列からストップコドンを確定し、それぞれストップコドンを含む30bpの相補配列をPCRプライマーとした。また、PCRプライマーに対応する配列の、すぐ下流の30bpの相補配列を逆転写プライマーとした。
【0030】
(3−2) cDNA合成
5’RACE SYSTEM (GIBCO BRL社製) を用いて行った。mRNA溶液14μl (1μg ) に2.5 μM の逆転写プライマー溶液 1μl を加え、70℃10分間インキュベートし、氷上に1 分間放置した。これに10×synthesis buffer 2.5μl, 10mM dNTP mix 1μl, 0.1M DTT 2.5 μl 、25mM MgCl 3μl 、逆転写酵素 SuperScript RT 1 μl を加え、50℃で30分間、続いて70℃で15分インキュベートした。その後、1 μl のRNase H を加え55℃で10分間インキュベートした。
合成したcDNAは 5’RACE SYSTEM (GIBCO BRL 社製) 添付のカートリッジカラムを用い、添付のプロトコールにより精製した。
【0031】
(3−3) 翻訳開始領域を含むDNA断片の増幅
(3−2) で得たcDNAにアンカーDNA(CLONTECH社製) をT4 Ligase を用いて常法により結合させた。アンカーDNAを結合させたcDNAをGENE Amp PCR System 9600 (PERKIN ELMER社製) によリ、アンカープライマー(CLONTECH 社製) 、(3−1) で設計したPCRプライマーを用いてPCR(PCRプログラム: 94 ℃, 45秒間→55〜65℃, 45秒間→ 72 ℃, 2 分間を35サイクル) を行った。
【0032】
(3−4) 5’RACE PCR産物のプラスミドDNAへのクローニングとシーケンス解析
上記の増幅産物について、(2−3) と同様にクローニングを行った。
シークエンスは、(2−3) と同様な装置を用いて行い、12候補遺伝子の翻訳開始領域の塩基配列を決定した。
【0033】
(4) 候補遺伝子の翻訳領域DNA断片の単離
(4−1) PCR プライマーの作製
12候補遺伝子のアミノ酸配列のN末端の2〜9番目のアミノ酸残基に相当する24塩基(または23塩基)の5’端にベクターに組み込む為の制限酵素認識配列と、さらにその5’端にGCGの3塩基を付けた配列を片側プライマーとした。もう一方のプライマーは、候補遺伝子の3’非翻訳領域の相補配列において、上記のプライマーとは相補構造を形成しない配列を有する24塩基(または23塩基)の5’端にベクターに組み込むための制限酵素認識配列と、さらにその5’端にGCGの3塩基を付加した配列とした。
【0034】
(4−2) RT−PCR による候補遺伝子ORF 領域DNA断片の作製
2.5mM dNTP mix 1.6μl 、20μM PCR 両プライマー各2.0 μl を混合し、滅菌水で総量を10μl とし、Ampli Wax PCR Gems 100 (PERKIN ELMER社製) を加え、サーマルサイクラーPJ9600(PERKIN ELMER 社製) で80℃、10分さらに25℃、5 分インキュベートした。これに、10×UlTma buffer(PERKIN ELMER 社製) 10μl 、25mM MgCl 6μl 、UlTma DNA Polymerase (PERKIN ELMER社製) 1 μl 、(2−1) で作製した逆転写産物溶液1 μl 、滅菌水72μl 加え、サーマルサイクラーPJ9600(PERKIN ELMER 社製) を用い、PCR(PCRプログラム: 96℃, 1 分間を 1サイクル;95 ℃, 1 分間→55℃, 1 分間→ 72 ℃, 1 分間を35サイクル;72 ℃, 7 分間を1 サイクル) を行った。
【0035】
反応液は、フェノール・クロロホルム処理とエタノール沈殿処理を行い、各々のプライマーに適した制限酵素で処理し、フェノール・クロロホルム処理とエタノール沈殿処理を行った。次に、1% Seakem GTG Agarose (FCM社製) で電気泳動し、検出されたDNAバンドを常法に従い回収し、発現ベクターに組み込むDNA断片とした。
【0036】
(5) 大腸菌発現系を用いた目的遺伝子のスクリーニング
(5−1) 候補遺伝子ORF 領域の発現ベクターpET−15b への組み込み
上記で作製した候補遺伝子ORF 領域のDNA断片を、Ligation Kit (TAKARA社製) を用い、発現ベクターpET15bに組み込み、大腸菌JM109 株にクローニングした。組み換え体の確認は、DNAシークンスにより行った。
【0037】
(5−2) 候補遺伝子発現ベクターのタンパク質発現宿主大腸菌BL21(DE3) 株への導入
上記で作製した候補遺伝子発現プラスミドDNAを単離し、大腸菌BL21(DE3) 株に形質転換した。
【0038】
(5−3) 糖転移活性検出による目的遺伝子のスクリーニング
形質転換した大腸菌をLB培地でO.D.=0.6まで37℃で振とう培養後、IPTG (イソプロピルチオ−β−ガラクシド,終濃度1mM)を加え、37℃でさらに3 時間振とう培養した。集菌後、菌体ペレットをバッファー [50mM Pipes−K (pH7.0)] 1ml に懸濁し、20% Triton X−100 5μl 、10mg/ml Lysozyme 1μl を加えて30℃で15分間放置した後、凍結(−80℃) 、融解を3 回繰り返した。続いて超音波処理を懸濁液が透明によるまで行い、マイクロ遠心機で15000rpm, 15分, 4 ℃で遠心し、上清の可溶性画分を得た。
【0039】
続いて、可溶性画分を脱塩カラムとしてHi−Trap desalting (ファルマシア社製)を用い、バッファー [50mM Pipes−K (pH7.0), 2% Triton X−100, 0.2mM DTT, 1mM PMSF, 50 μg/ml leupeptin, 0.54TIU aprotinin] 20ml をカラムの前処理として5ml/min.で流し、続いて該画分を1ml 流すことによって脱塩した。さらに3ml のバッファーを流し、800 μl ずつ分画し、2 番目の流出画分を活性検出に用いた。
【0040】
上記の脱塩を行った可溶性画分40μl に、925 kBq/μl の[14C]−UDPG 5μl 、基質色素溶液 [Del(Delphinidin), Del−3G(Delphinidin 3−O−glucoside), Cya(Cyanidin), Cya−3G(Cyanidin 3−O−glucoside)を各々溶解した5mM塩酸、基質色素なしのコントロールには5mM 塩酸] 5 μl を加え、30℃で30分間インキュベートし、クロロホルム:5% 塩酸/メタノール=2:1を50μl を加えて水層を分取した。
【0041】
水層を逆相カラム・μBondapak C18 を用いたHPLCで分離し、280nm の吸光度をモニターした。さらにフラクションコレクターで30秒間づつ分取したサンプルに液体シンチレータ2.5ml を加え液体シンチレーションカウンターLS6000TA(ベックマン社製)で各分画の放射能を測定した。インサートなしのpET15bを含むクローンの可溶性画分では基質色素への糖転移反応が起こらないことを確認したのち、候補遺伝子を含むクローンの糖転移活性を調べたところ、候補遺伝子のうちの一つのクローンで4種の基質への糖転移反応が認められた。基質別の反応結果を図2に示す。
【0042】
(6) cDNA ライブラリーからの目的遺伝子cDNAの単離
(6−1) リンドウ花弁cDNAの作製
試料となるmRNAは、リンドウ花弁よりQuick Pep (ファルマシア社製)を用い精製した。cDNA合成はmRNAを1 μg を用い、SuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis (BRL社製) で行った。
【0043】
(6−2) cDNA ライブラリーの作製
上記で作製したcDNAを、1% SeaKem GTG Agarose (FMC社製) で電気泳動し、約1.3 〜2.5kbpの長さの領域を泳動ゲルから回収し、SUPREC−01 (TAKARA 社製) で精製した。このDNA をLigation Express (CLONTECH社製) でプラスミドpSPORT1 にライゲーションし、ElectroMAX DH10Bコンピテントセル(GIBCO BRL社製) にGene Pulser (Bio Rad社製) を用いて形質転換した。
【0044】
(6−3) 目的遺伝子cDNAのスクリーニング
GENETRAPER cDNA Positive Selection System (GIBCO BRL社製) を用いて行った。得られたcDNAクローンの確認は、DNAシーケンスにより行った。プローブは5’−ATGAAGAAAGCAGAGTTGGTTATCA−3’ を、複製プライマーは5’−CATTTCCAGGGATTAGCCATGTTGG−3’ の配列をもつ合成DNAを用いた。
【0045】
(6−4) 候補遺伝子cDNAの配列決定
上記で得られたクローンは一部分のDNA配列を決定し、目的遺伝子の配列に一致するクローンであることを確認した上、全塩基配列を決定した(配列番号1)。またこれより予想されるアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0046】
【配列表】
Figure 0003585329
Figure 0003585329
Figure 0003585329
【0047】
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【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、リンドウの花弁色素であるゲンチオデルフィンの糖鎖構造の生合成に関与する酵素遺伝子であるUDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子が提供される。本発明の遺伝子を公知の方法に従い植物体に導入すれば、花色の色彩の調節、特にバラ等の青色花弁をもたない品種においてゲンチオデルフィンを発現させることによる青色花弁の創出が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種β糖転移酵素遺伝子のアミノ酸配列の比較を示す。
【図2】糖転移酵素活性の認められた1クローンの基質別 [A.Del(Delphinidin), B.Del−3G(Delphinidin 3−O−glucoside), C.Cya(Cyanidin), D. Cya−3G(Cyanidin 3−0−glucoside)]の反応結果を示す。

Claims (6)

  1. 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
    (a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつUDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
  2. リンドウ花弁に由来する、請求項1記載の遺伝子
  3. 配列番号2で示される塩基配列を有する請求項1記載の遺伝子
  4. 請求項1〜3いずれかに記載の遺伝子を含む組換えプラスミド。
  5. 請求項4記載の組換えプラスミドを有する宿主細胞。
  6. 請求項5記載の宿主細胞を培地に培養し、培養物よりUDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼを採取することを特徴とする、UDP−グルコース:フラボノイド3,5−O−グルコシルトランスフェラーゼの製造方法。
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