JP3584287B2 - 音響評価方法およびそのシステム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、音響評価方法、および音響評価システムに関するものであり、特に、自己相関関数ACFや相互相関関数IACFに基づき、音響を評価する方法およびシステムに関するものである。
また、本発明は、航空機騒音や自動車騒音などの地域環境騒音の計測・心理評の方法及び装置に関するものである。特にバイノーラル方式による騒音の計測・心理評価の方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、航空機騒音や自動車騒音などの地域環境騒音は、モノオーラル方式による騒音計を用いて測定した音圧レベルやその周波数特性に関して議論されてきた。しかし、上述したモノオーラル方式により測定された物理的ファクターのみでは人間の主観的応答を表わすには不十分かつ不適切であることがわかってきた。また、コンサートホール音響学では、バイノーラル方式により、ホールの物理的なデータと心理的(主観的)な関連性が明らかとなってきているが、騒音の分野においてはモノオーラル方式でしかもスペクトル情報に関するものが殆どである。
【0003】
また、従来、音楽業界における調律や音色の評価方法では、音響のスペクトル分析をまず行ない、その後、ケプストラム分析をする手法が一般に行なわれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
長年の間、環境騒音は、音圧レベル(SPL;Sound Pressure Level)の統計値を用いて評価されてきた。このSPLは、LまたはLeqで表わされ、これのパワースペクトルは、モノオーラル騒音計で測定する。しかしながら、このSPL及びパワースペクトルだけでは環境騒音の主観的な評価には適さない。
また、従来の調律や音色の評価方法では、人間の心理的反応を適格に表わすことは困難であった。
【0005】
即ち、本発明の目的は、人間の聴覚−大脳機能システムにもとづき、時間領域において時々刻々変化する自己相関関数及び両耳間の相互相関関数から導出される物理ファクターを用いて、騒音源の種類を特定する方法、装置及び媒体を提供することである。
また本発明の他の目的は、人間の聴覚−大脳機能システムにもとづき、時間領域において時々刻々変化する自己相関関数及び両耳間の相互相関関数から導出される物理ファクターを用いて、より的確に音色、音階、ラウドネス、ピッチ、音色、心理的時間感覚をはじめ、主観的拡がり感、騒音場の見かけの音源の幅などの心理評価を行う方法、装置及び媒体を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するために、本発明による音響評価方法は、
音響信号を採取する音声採取ステップと、
この採取された音響信号から演算手段を用いて自己相関関数ACFを計算するACF演算ステップと、
この算出されたACFから前記演算手段を用いてACFファクターを求めるACFファクター演算ステップと、
音色とACFファクターとを関連付けた音色データ、音律とACFファクターとを関連付けた音律データ、音響の心理評価値とACFファクターと関連付けた心理評価データ、のうちの少なくとも1つが格納された所定のデータベースと、この求めたACFファクターと、に基づき前記演算手段を用いて、音響を評価する評価ステップと、
を含むことを特徴とする。
本構成によれば、前記の所定のデータベース(例えば、良い音であると評価された様々な楽器の有する各データ(例えば、音色、音律、音質、主観的拡がり感の尺度値、ASWの尺度値、心理的評価値など)と、その音から抽出されたACFファクターやIACFファクターとを関連付けたデータが格納されたデータベース)を参照してこのデータベースから読み出されたデータと、対象とする音響信号から抽出されたACFファクターとを比較してその相違、或いはその差の数値や差異の程度を提示することによって、音響評価を客観的にできるようになる。本方法を楽器作成、音色や音質の調整、音階の調律などに利用すれば、良い音色であると評価された心理評価値を有する楽器の作製や、楽器の調律などを、より客観的により的確にすることができるようになる。即ち、本発明によれば、従来、楽器職人などの勘に頼って作成されていた楽器を、客観的なデータに基づき作製することが可能になる。
【0007】
また、本発明による音響評価方法は、
前記ACFファクター演算ステップが、
前記計算されたACFから、ACFファクターである、遅れ時間が0で表わされるエネルギーΦ(0)、有効継続遅延時間τ、ACFの最大ピークまでの遅延時間τ、正規化したACFの最大ピークの振幅φ、その遅れ時間(τ)内にある各ピーク値の情報(τ’,φ’,n=1,2,3,..,N(Nは約10よりも小さい整数))のうちの少なくとも1つを計算する演算ステップを含む、ことを特徴とする。
本構成によれば、上述した様々なACFファクターに基づき、より良い音色などの心理評価値を有する楽器の作成や、楽器の調律などを、より客観的により的確にすることができるようになる。
【0008】
また、本発明による音響評価方法は、
前記ACFファクターのτに基づき、ピッチの周波数を求めるピッチ周波数演算ステップと、
この求めたピッチ周波数と、所定の音階データベースのデータとを比較してその相違を示す調律ステップと、
を含むことを特徴とする。
本構成によれば、音響信号から求められたτの逆数がピッチとなる周波数に相関することを利用することによって、対象となる楽器の音響信号の音階を、的確に調律することができるようになる。なお、この所定の音階データベースは、前記の所定のデータベースを代用することも可能である。
【0009】
また、本発明による音響評価方法は、
音響信号をバイノーラル方式で採取するステップと、
この採取された音響信号から演算手段を用いて左右の各チャンネル間の相互相関関数IACFを計算するIACF演算ステップと、
前記演算手段を用いて、この計算されたIACFからIACFファクターを計算するIACFファクター演算ステップと、
この求めたIACFファクターおよび/または前記ACFファクターと、前記所定のデータベースと、に基づき前記演算手段を用いて、音響の評価や、音響の心理評価を行なう評価ステップと、
を含むことを特徴とする。
本構成によれば、IACFに基づいて抽出された、例えば広がり感などの立体的な心理評価値と、所定のデータベースとを比較して、その相違など提示することによって、音響の評価や心理評価などを客観的かつ的確にできるようになる。
【0010】
また、本発明による音響評価方法はシステムの形態でも実現できる。
例えば、本発明による音響評価システムは、
音響信号を採取する音声採取手段と、
この採取された音響信号から演算手段を用いて自己相関関数ACFを計算するACF演算手段と、
この算出されたACFから前記演算手段を用いてACFファクターを求めるACFファクター演算手段と、
音色とACFファクターとを関連付けた音色データ、音律とACFファクターとを関連付けた音律データ、音響の何らかの心理評価値とACFファクターと関連付けた心理評価データ、のうちの少なくとも1つが格納された所定のデータベースと、この求めたACFファクターと、に基づき前記演算手段を用いて、音響を評価する評価手段と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明による音響評価システムは、
前記ACFファクター演算手段が、
前記計算されたACFから、ACFファクターである、遅れ時間が0で表わされるエネルギーΦ(0)、有効継続遅延時間τ、ACFの最大ピークまでの遅延時間τ、正規化したACFの最大ピークの振幅φ、τ内にある各ピーク値の情報(τ’,φ’,n=1,2,3,..,N(Nは約10よりも小さい整数))のうちの少なくとも1つを計算する演算手段を含む、
ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明による音響評価システムは、
前記ACFファクターのτに基づき、ピッチの周波数を求めるピッチ周波数演算手段と、
この求めたピッチ周波数と、所定の音階データベースのデータとを比較してその相違を示す調律手段と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明による音響評価システムは、
バイノーラル方式で左右のチャンネルの音響信号を採取する手段と、
この採取された音響信号から演算手段を用いて左右の各チャンネル間の相互相関関数IACFを計算するIACF演算手段と、
前記演算手段を用いて、この計算されたIACFからIACFファクターを計算するIACFファクター演算手段と、
この求めたIACFファクターおよび/または前記ACFファクターと、前記所定のデータベースと、に基づき前記演算手段を用いて、音響の心理評価を行なう評価手段と、
を含むことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明による騒音源の種類を特定する方法は、
音声採取手段を用いて環境騒音の音響信号を採取・記録する音響信号記録ステップと、この記録された音響信号からフーリエ変換を用いて演算手段により自己相関関数(ACF)を算出するACF演算ステップと、この算出されたACFから演算手段により各ACFファクターを求めるACFファクター演算ステップと、この求めた各ACFファクターを用いて演算手段により騒音源の種類を判定する判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、好適には、上述した騒音源の種類を特定する方法において、前記ACFファクター演算ステップが、前記計算されたACFからACFファクターである遅れ時間が0で表わされるエネルギー(Φ(0))、有効継続遅延時間(τ)、ACFの第1ピークまでの遅延時間(τ)、正規化したACFの第1ピークの振幅(φ)を計算する演算ステップを含み、前記騒音源の種類を判定する判定ステップが、これらの計算されたACFファクターである遅れ時間が0で表わされるエネルギー(Φ(0))、有効継続遅延時間(τ)、ACFの第1ピークまでの遅延時間(τ)、正規化したACFの最大ピークの振幅(φ)からその対数と(場合によってはτ’、φ’を加えることもできる)、予め作成してある騒音源の各ACFファクター毎の対応するテンプレートの対数との差の絶対値である距離をそれぞれ求めるステップと、予めACFファクターの各々の算術平均の標準偏差であるSを、ACFファクターの全カテゴリーに対する標準偏差の算術平均であるSで除算し、この除算したものの平方根である重み係数を各ACFファクター毎に求めるステップと、求めたそれぞれの距離に、予め求めておいた対応する各ACFファクターの重み係数を乗算し、合計の距離を求める合計距離演算ステップと、この求めた合計距離と、格納されているテンプレートの距離とを比較し、最も近いテンプレートの1つを選択する比較・選択ステップと、を含むことを、特徴とする騒音源の種類を特定する方法を提供する。
【0016】
本発明の他の目的を達成するためには、音声採取手段を用いて環境騒音の音響信号をバイノーラル方式で記録する音響信号記録ステップと、このバイノーラル方式で記録された音響信号から演算手段を用いて自己相関関数(ACF)及び左右の各チャンネル間の相互相関関数(IACF)を計算するACF及びIACF演算ステップと、この計算されたACFから前記演算手段を用いて各ACFファクターを計算し、及び/またはこの計算されたIACFから各IACFファクターを計算するACF・IACFファクター演算ステップと、この計算されたACF及び/またはIACFファクターの各々に基づき演算手段を用いて心理評価を行う心理評価ステップと、を含むことを特徴とする騒音源について心理評価を行う方法を提供する。
本発明の実施手段を主として方法の形態で説明してきたが、本発明はこれらの方法に対応する装置、システム、プログラム、記憶媒体の形態でも実現できることを留意されたい。
【0017】
【発明の実施の形態】
ラウドネス、ピッチ、音色などの基本的な知覚データと同様に、嗜好や拡散性などの多くの主観的なデータの記述は、人間の聴覚−大脳システムの音場に対する応答モデルに基づいている。この応答モデルは予測されてきたが、それは経験的に得られた結果と一致することが知られている。例えば最近、周波数帯域幅を制限したノイズのラウドネスは、SPLによって影響をうけるのと同様に、自己相関関数(ACF)における有効継続時間(τ)によって影響を受けることが知られている。また、複合音の基本周波数が約1200Hzよりも低い場合、ピッチ及びその強さは、それぞれACFの第1ピークまでの遅延時間(τ)、正規化したACFの第1ピークの振幅(φ)によって影響を受ける。特に、ある時間内におおいて求められたτの最小値(τminで得られるACFファクターは、騒音源及び騒音場の主観的評価の差異を良く表わすものである。
【0018】
このモデルは、2つのそれぞれの経路における音響信号同士の自己相関と、これらの音響信号の間における相互相関とから構成され、人間の大脳半球の処理特性も考慮するものである。即ち、両耳に入ってくる音響信号を用いて、自己相関関数(ACF)及び相互相関関数(IACF)を計算する。直交ファクターである遅れ時間が0で表わされるエネルギー(Φ(0))、有効継続遅延時間(τ)、ACFの第1ピークまでの遅延時間(τ)、正規化したACFの第1ピークの振幅(φ)はACFから導出される。また、IACFファクターである聴取音圧レベル(LL)、最大振幅(IACC)、最大振幅までの遅延時間(τIACC)、最大振幅における幅(WIACC)は、IACFから導出される。
【0019】
以下、添付する図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による装置の具体的な構成を示す装置概略図である。図1に示すように本発明による装置の具体例は、聴者の頭部の模型1に装着された騒音源からの音響信号を採取するバイノーラル方式の音声採取手段2(マイクロフォン)を、LPF3(ローパスフィルタ)、A/Dコンバータ4、コンピュータ5から構成される。この頭部としては、人体の頭部が最も望ましいがそれでは不便であるため、人体の頭部を模したダミーヘッドを用いることもできる。しかし、このダミーヘッドは高価であり、ダミーヘッド以外の頭部の模型1(発砲スチロールなどの材料を用いた球体(直径を20cm)としたもの)でも本発明で測定するACF、IACFでは、有意差がないため、発砲スチロール製の頭部の模型を用いた。このコンピュータ5は、採取された音響信号を格納する音響信号記憶手段6と、この格納された音響信号(左右2チャンネル)を読み出し、これらの音響信号に基づきACFを計算するACF演算手段7、とこれらの音響信号に基づきにIACFを計算するIACF演算手段8、この計算されたACFに基づきACFファクターを計算するACFファクター演算手段9、この計算されたIACFに基づきIACFファクターを計算するIACFファクター演算手段10、この計算されたACFファクターに基づき騒音源の種類を特定する騒音源の種類を特定する手段11、この計算されたACFファクター及び/またはIACFファクターに基づき心理評価を行う手段12、騒音源の種類の特定及び心理評価に用いるデータに関するデータベース13を具える。
【0020】
聴者の頭部の模型1の両端に取り付けた左右2チャンネルのコンデンサマイクロフォン(マイクアンプ付き)を、ローパスフィルタを介して可搬型パーソナルコンピュータ5のサウンド入出力端子(A/D変換部4)と接続する。このマイクロフォン(音響信号採取手段2)から周りの騒音の取り込みを行う。コンピュータ上のプログラムの管理下、計測、各物理ファクタの算出、騒音源の種類の特定、心理評価、などを行う。また、騒音源の種類の特定及び心理評価に用いるデータに関するデータベースを構築する。
【0021】
図2は、本発明による騒音源の種類の特定、心理評価を行う方法のフローチャートである。図2に示すように、ステップS1では、騒音源からの音響信号を音源採取手段2により採取する。この採取された音響信号はLPF3を介してA/Dコンバータ4によりデジタル信号に変換する。ステップS2では、ステップS1で採取された音響信号を音響信号記憶手段に格納する。ステップS3では、ステップS2で格納された音響信号を読み出す。ステップS4では、ステップS3で読み出された音響信号に基づきACF及びIACFをACF演算手段7及びIACF演算手段8により計算する。ステップS5では、ステップS4で計算されたACF及びIACFに基づきACFファクター演算手段9及びIACF演算手段10によりACFファクター及びIACFファクターを計算する。ステップS6では、ステップS5で計算されたACFファクター及びIACFファクターに基づき、騒音源種類特定手段11、心理評価手段12により騒音源の種類の特定、心理評価を行う。その特定、評価の際には、テンプレートを格納するデータベース13からデータを読み出し比較・検討を行う。
【0022】
まず初めに、ピーク検知プロセスにより、採取した音響信号から複数の測定セッションを抽出する。連続的な騒音から自動的に環境騒音や目的の騒音を抽出するために、左右それぞれの耳の入り口部位におけるエネルギーであるモノオーラルのエネルギーΦll(0)、Φrr(0)を連続的に分析する。図3は、ピーク検知処理手順を説明する図であって、縦軸にノイズレベル、横軸に時間をとったグラフであって、その下段に積分間隔を示す図である。騒音が航空機騒音や列車騒音などの連続騒音の場合、Φ(0)の計算のための間隔を、かなり長く(例えば1秒など)設定することができるが、騒音が短時間や断続的である場合は、より短い間隔を用いる必要がある。しかしながら、後述する式(1)で連続計算する場合、積分間隔よりも長い間隔を選ぶ必要がある。従って、この間隔は、騒音源の種類に応じて決定する必要がある。
【0023】
これによって、長い時間の間隔で普通の騒音計を用いてΦ(0)を決定するより、より正確にΦ(0)を決定することができる。ピークを検出するためには、前もってトリガーレベルLtrigを適切に設定しておく必要がある。適当なLtrig値は、目標とする騒音の種類、目標とする騒音と観察者との距離、大気の条件などに応じて変化するものである。従って、この値を予備測定によって決定する必要がある。目的騒音と観察者との距離が近くて、かつ、観察者の近くに干渉する騒音源がない場合、Ltrig値を決定することは容易である。
【0024】
最大値Φ(0)を中心とする騒音を、システムを用いて単一のセッションで記録する。各々の目的とする騒音に対する1つのセッションの継続時間すなわちtは、Ltrig値を超えた後にΦ(0)のピークを含むように選択する。航空機騒音や列車騒音などの普通の環境騒音の場合は、t値は約10秒である。これは、継続時間が長い定常状態の騒音と短い継続時間の断続的な騒音とでは異なる。このシステムは、干渉する騒音がある場合には使えないことに留意されたい。図3に示すように、一連のセッション(S(t),S(t),S(t),…S(t)、N:セッションの数、0<t<t)をシステム上に自動的に格納する。
【0025】
図3に示すように、継続時間tでの各セッションS(t)に対するランニングACF及びランニングIACFを分析する。ここでは、「ランニング」のプロセスを説明するために単一のセッションのみを考えることとする。計算の前に、適切な積分間隔2T及び連続ステップtstepの値を決定する。前述したように、推奨される積分間隔は約30×(τmin[ms]であり、この(τminは一連の値τの最小値であり、予備測定で容易に発見し得るものである。これは、違う種類の環境騒音のデータを用いて見つけるものである。大抵の場合、隣接する積分間隔をお互いに重ね合わせる。
【0026】
ACFとIACFを、2Tの範囲での1セッションごとの各ステップ(n=1,2,…,M)につき計算する。各ステップは、{(0,2T),(tstep,tstep+2T),(2tstep,2tstep+2T),…,((M−1)tstep,(M−1)tstep+2T)}のようにtstepずつシフトする。物理ファクターは、ACF及びIACFの各ステップから導出する。2Tは予測されるτの値よりも十分長くする必要がある。また、これは、各ステップに対する知覚の「聴覚の時間窓」に大きく関連する。環境騒音に対する2Tとしては、概ね0.1〜0.5秒が適している。2Tがこの範囲よりも小さい場合、(τminがある値に収束する。一般的に、tstepは0.1秒が好適である。変動が細かい場合は、より短いtstepを選択する。よく知られているように、バイノーラル信号をFFT(高速フーリエ変換)と、その後逆FFTの処理を行うことにより、ACF及びIACFを得ることができる。A特性フィルター及び、マイクロフォンの周波数特性は、FFT処理の後で考慮する。
【0027】
左右の耳の部位におけるACFを、それぞれ、Φll(τ)、Φrr(τ)で表わす。特定の数字の場合は、Φll (i)、Φrr (i)で表わす(1<i<Tf、 f:サンプリング周波数(Hz)、i:整数)。左右のΦ(0)を計算するためには、Φll (i)とΦrr (i)を下記のように平均する。
【数1】
Figure 0003584287
SPLの正確な値は、次式で得られる。
【数2】
Figure 0003584287
【0028】
バイノーラルの聴取音圧レベルは、Φll(0)及びΦrr(0)の相乗平均である。
【数3】
Figure 0003584287
このΦ(0)は、IACFを正規化する際の分母となるものであるため、IACFファクターの一方のもの、或いは右半球の空間ファクターに分類されるものと考える。正規化したACFの振幅が0.1(10%の遅延)になる時の遅延時間によって、有効継続時間τを定義する。正規化した左右の耳におけるACF、φll,rr(τ)は、次式で得られる。
【数4】
Figure 0003584287
【0029】
図4は、縦軸にACFの対数の絶対値、横軸に遅延時間をとったグラフである。
図4に示すように初期のACFが線形に減少するのが一般的に観察できるため、縦軸をデシベル(対数)に変換するとτを容易に得ることができる。線形回帰の場合は、ある一定の短い時間Δτにおいて得られるACFのピークに対して最小平均自乗法(LMS)を使用する。このΔτは、ACFのピークを検知するために使用され、計算前に慎重に決定しておく必要がある。τを計算する際、原点が回帰線上にない場合、ACFの原点(ACF=0、τ=0)を、考慮に入れなくても良い場合も多い。極端な例では、目的とする騒音が純音とホワイトノイズとを含む場合、原点において急激な減衰が観察される。その後の減衰は、純音成分のため一定に保たれる。この場合、ACF関数の解は求まらない。
【0030】
図5は、縦軸に正規化したACF、横軸に遅延時間をとったグラフである。
図5に示すように、τは正規化したACFの第1のピークまでの遅延時間、φはその第1ピークでの振幅である。第1ピークは、局所的な小さなピークは無視して、主要なピークに基づき決定する。ファクターτとφ(N≧2)とは考慮に入れない。なぜなら、τとφは、一般的にτとφとに相関関係があるからである。
【0031】
図6は、縦軸に正規化したIACF、横軸に左右の信号の遅延時間をとったグラフである。左右の耳の音響信号の間のIACFは、φlr(τ)(−1<τ<+1[ms])で表わされる。デジタル形式では、Φlr (i)(−f/10≦i≦f/10、iは整数であり、これが負の場合は左のチャンネルに遅れがあるIACFであることを示す)。両耳の間の最大遅延としては−1から+1msを考慮すれば十分である。最大振幅IACCは主観的拡散に関連するファクターである。図6に示すように、正規化されたIACFΦlr (i)の最大振幅は遅延範囲内で得られる。即ち
【数5】
Figure 0003584287
正規化されたIACFは次式で得られる。
【数6】
Figure 0003584287
【0032】
τIACCの値は、最大振幅の遅延時間において容易に求まる。例えば、τIACCが正の場合、音源は聴者の右側に位置する、或いは音源が右側にあるかのように知覚する。図6に示すように、最大振幅における幅WIACCを、最大値から0.1(IACC)下の部分のピーク幅で得ることができる。この係数0.1はIACC=1.0におけるJNDとして概算的に用いられるものである。聴取音圧レベルLLは、式(2)でSPLをLLと置き換えることによって得られる。このようにして、各物理ファクターを、ACF及びIACFから求めることができる。
【0033】
次に、ACFファクターに基づき騒音源の種類の特定する方法について説明する。
騒音源の種類は、4つのACFファクター遅れ時間が0で表わされるエネルギー(Φ(0))、有効継続遅延時間(τ)、ACFの第1(最大)ピークまでの遅延時間(τ)、正規化したACFの第1(最大)ピークの振幅(φ)を用いて特定する。Φ(0)は騒音源と聴者との距離に応じて変化するため、距離が不明の場合は、計算の条件には特別に注意を払う必要がある。たとえファクターΦ(0)が有効でない場合であっても、その他の3つのファクターを用いて騒音源の種類を特定することができる。空間情報が変化する場合、残りのIACFファクターを考慮に入れることもできる。音響信号の最も大きく変動する部分である最小τ:(τminを用いる理由の1つは、この部分が主観的な応答に最も深く関与するものであるということである。
【0034】
未知の対象データ(下記の式(7) ̄(10)では記号aで示す)用の(τminにおける各ファクターの値とデータベースに格納されたテンプレート用(記号bで示す)の値との差、即ち「距離」を計算する。ここで「対象」とは、システムによって特定されるオブジェクトとしての環境騒音のことを意味する。テンプレート値は、ある特定の環境騒音に対する典型的なACFファクターのセットであり、これらの複数のテンプレートを未知の騒音と比較する。
距離D(x)(x:Φ(0)、τ、τ、φ)を次式により計算する。
【数7】
Figure 0003584287
【数8】
Figure 0003584287
【数9】
Figure 0003584287
【数10】
Figure 0003584287
【0035】
目的とする騒音源の合計距離Dは、次式で表わされる。
【数11】
Figure 0003584287
(x)(x;Φ(0)、(τmin、τ、φ)は、重み係数である。この算出された距離Dに最も近いDを有するテンプレートを、求める騒音源であると判断する。これにより、未知の騒音源が、何であるのか、例えば鉄道、自動車、航空機、工場騒音であるのか、更にその車種、機種などを特定することが可能となる。
【0036】
図7は重み係数の計算方法を説明するブロック図である。式(11)の重み係数W(x)(x;Φ(0)、τ、τ、φ)は、統計値S (i)とS (i)とを用いて得ることができる。図7に示すように、S (i)は、ACFファクターの全カテゴリーに対する標準偏差(SD)の算術平均である。ここでカテゴリーとは、同じ種類の騒音に対するデータのセットを意味する。S (i)は、各カテゴリの算術平均の標準偏差である。W(x)は、ファクター{(S/S1/2maxの中の最大値で正規化した後、(S/S1/2で得られる。この平方根の処理は経験的に得られたものである。騒音源の間におけるより大きなSDと、ある騒音の間におけるより小さなSDとのファクターとは他の種類の騒音とは区別できるため、このようなファクターの重みはその他のファクターのものよりも大きくなる。テンプレートを改善する学習機能がある場合、システム上においてテンプレートは、システム内でACFの各ファクターについての最新の値と、元の値との平均によって上書きすることもできる。
【0037】
図8は、聴覚−大脳機能システムのモデルを説明するブロック図である。聴覚−大脳機能システムのモデルは、自己相関(ACF)メカニズム、両耳間相互相関(IACF)メカニズム、左右大脳の機能分化を含んでいる。信号のパワースペクトルに含まれる情報は、音響信号のACFにも含まれていることは注目すべきことである。また騒音場の空間的感覚を示すため、IACFより抽出される空間的ファクターを考慮する。音色は音の基本的感覚と空間的感覚を含む総合的な感覚として定義される
【0038】
聴覚−大脳機能モデル(図8)を使って、自由空間内に存在する聴者の正面にある与えられた音響信号p(t)の基本的な感覚を考える。ここで長時間ACFを次式で得ることができる。
【数12】
Figure 0003584287
p’(t)=p(t)*s(t)で、s(t)は耳の感度である。便宜上s(t)はA特性のインパルス応答が用いられる。パワースペクトルも次式のようにACFから得ることができる。
【数13】
Figure 0003584287
【数14】
Figure 0003584287
このように、ACFとパワースペクトルは数学的には同じ情報を含んでいる。
【0039】
ACFの解析において3つの重要な事項として、遅れ時間が0で表わされるエネルギーΦ(0)と、正規化したACFのエンベロープから抽出される有効継続時間τと、ピークやディップやその遅れ時間とを含む微細構造とがある。図4に示すように、この有効継続時間τは、10パーセント遅れ時間として定義でき、騒音響信号それ自身に含まれる繰り返し成分、または残響成分として表わされる。前述したように正規化したACFはΦ(τ)=Φ(τ)/Φ(0)で得ることができる。
【0040】
ラウドネスSは次式で表わされる。
【数15】
Figure 0003584287
即ち、ACFファクターである、遅れ時間が0で表わされるエネルギー(Φ(0))、有効継続遅延時間(τ)、ACFの第1(最大)ピークまでの遅延時間(τ)、正規化したACFの第1(最大)ピークの振幅(φ)からラウドネスを求めることができる。
ここでτは騒音のピッチまたは後述するミッシングファンダメンタル現象に関係するものである。また、p’(t)が音圧レベルL(t)を与えるための圧力20μPaを基準として測定されるなら、等価騒音レベルLeqは次式で求めることができる。
【数16】
Figure 0003584287
このLeqは10logΦ(0)に相当するものである。また、サンプリング周波数は、最大可聴周波数域の2倍以上としなければならないので、通常の騒音計で測定されたLeqよりも極めて精度良く測定できる。
【0041】
図9は、縦軸にラウドネス尺度値、横軸にバンド幅をとったグラフである。このグラフは、Φ(0)を一定とした条件下での一対比較テスト(1080dB/octaveのスロープを持つフィルタを使用)で得られた臨界帯域内のラウドネス尺度値を示したものである。明らかに純音のような騒音が同じ繰り返し成分を持つとき、τは大きな値となり、ラウドネスが大きくなる。このように、ラウドネス対バンド幅の関係は、臨界帯域内でも平坦にならないことがわかる。なお、この結果は中心周波数1kHzの周波数帯域で得られたものである。
【0042】
騒音のピッチまたはミッシングファンダメンタルは次式で表わされる。
p=fp11) (17)
【0043】
ここで、ミッシングファンダメンタル現象とは、いくつかの倍音構造が存在するとき、実際にはない高さの音が聞こえるという現象である。
【0044】
信号の時間的長さの知覚に関する感覚は、次式で表わされる。
【数20】
Figure 0003584287
【0045】
長時間IACFは次式で求めることができる。
【数21】
Figure 0003584287
ここでp’l,r(t)=p(t)l,r*s(t)、はp(t)l,r は左右外耳道入り口の音圧である。
【0046】
騒音源の水平面の方向の知覚を含む空間情報の知覚は次式で表わされる。
【数22】
Figure 0003584287
ここで聴取音圧レベルLLは{Φll(0),Φrr(0)}である。記号{}は、左右の耳の入り口に到来する信号のτ=0のときのACFであるΦll(0)、Φrr(0)の組を表わす。数学的にはLLは、両耳に到来する音響信号のエネルギーの算術平均で次式のように表わされる。
【数23】
Figure 0003584287
式(22)で示す4つのIACFファクター(直交ファクター)の中で、−1〜+1msの範囲内のτIACCは、水平方向の音源の水平方向の知覚に関する重要なファクターである。正規化したIACFが1つの鋭いピークを持ち、IACCが大きく、高周波数成分によってWIACCが小さい値であるとき、明確な方向感が得られる。逆に主観的拡がり感やあいまいな方向感はIACCが小さい値(<0.15)の時に起こる。
【0047】
正中面に位置する騒音源の知覚については、耳の入り口に到来する音響信号の長時間ACFから抽出される時間的ファクターを式(22)に加えるべきであろう。
図8に示すように、注目すべきはIACCに相当する下丘付近に存在する神経活動の存在である。また、室内音場においては、LLとIACCとは右大脳半球に支配的に関連があり、時間的ファクターであるΔtやTsubは左大脳半球と関わっていることを発見した。
【0048】
主観的拡がり感の尺度値を得るため、2つの対称な反射音の水平入射角度を変更し、ホワイトノイズを用いて一対比較テストを行った。被験者は、LL、τIACC、WIACCが一定の条件下で、提示された2つの音場のうち、どちらの音場がより広がって聞こえるかを判断した。図10は、左縦軸に拡がり感の尺度値、右縦軸に最大振幅IACC、横軸に反射音の水平入射角度をとったグラフである。図10に示すように、250Hz ̄4kHz(図10(a):250Hz、(b):500Hz、(c):1kHz、(d):2kHz、(e):4kHz)の周波数帯域の結果において、尺度値と最大振幅IACCとは強い負の相関関係を示した。従って、上述した実験結果により、主観的尺度値を、IACCの3/2乗で次式のように求めることができる。
【数24】
Figure 0003584287
実験により求めた係数αは2.9、乗数βは3/2である。
【0049】
騒音場の見かけの音源の幅(ASW)を求める方法について説明する。低域の周波数成分が大きい騒音場では、長時間IACFは遅れ時間τが−1〜+1msの範囲内に明確なピークを持たず、WIACCは大きくなる。このWIACCは次式で求めることができる。
【数25】
Figure 0003584287
ここで、Δωは2π(f+f)、fとfとは、それぞれ理想的なバンドパスフィルターの下限値と上限値である。便宜上、δは0.1(IACC)と定義する。
【0050】
注目すべきことは、大きなASWは低周波数帯域が多く、IACCが小さいときに知覚されるということである。すなわち、LLが一定でτIACC=0の条件下では、ASWはIACCとWIACCのIACFファクターに基づき求めることができる。ASWの尺度値を10名の被験者を用いて一対比較テストで求めた。WIACCの値を制御するため、1/3オクターブバンドパスノイズの中心周波数を250Hz〜2kHzで変化させた。IACCは直接音に対する反射音のレベルの比を制御して調整した。聴取音圧レベルLLは、ASWに影響するので、全ての音場の耳の入り口でのトータル音圧レベルはピーク値が75dBAで一定とした。被験者は提示された2つの音場のうちどちらかが広がって聞こえるかを判断した。尺度値SASWの分散分析の結果、IACC、WIACCの両方のIACFファクター共に有意であり(p<0.01)、以下のようにSASWに対して独立に寄与している。従って、SASWを次式で求めることができる。
ASW=a(IACC)3/2+b(WIACC1/2 (26)
ここで係数a=−1.64、b=2.44であり、これらの係数は、図11(a)(b)に示す10名の被験者の尺度値の回帰曲線から得られたものである。図11(a)は縦軸にASW、横軸にIACCをとったグラフであり、図11(b)は縦軸にASW、横軸にWIACCをとったグラフである。また、図11は、縦軸に実際に測定したASWの尺度値、横軸に計算されたASWの尺度値をとったグラフである。図12に示すように、この式から求めたSASWの尺度値と、SASWの測定値はよく対応することを確かめた(r=0.97、p<0.01)。
【0051】
時間的に変動する環境騒音を評価するため、短時間ランニングACF及び短時間ランニングIACFを用いる。前述と同様の方法で抽出された短時間ランニングの空間的・時間的ファクターは、時変動する騒音場の基本的感覚を示すのに用いられている。短時間ACFは次式で求めることができる。
【数27】
Figure 0003584287
ここで2Tは解析される信号の長さである。この長さ2Tは、ランニングACFの有効継続時間の最小値(τminを少なくとも含む範囲で決定すべきである。(τminを示す騒音は信号が最も急速に変動することを表わしており、この部分が最も主観的応答に影響を及ぼしている。
【0052】
各騒音の部分におけるラウドネスSに関して、式(15)は次式のように書き換えることができる。
=f(LL,τ,φ,τ) (28)
ここで各ファクターは各騒音の部分について得られ、式(15)のΦ(0)はLLに置き換えられる。ACFから抽出された時間的ファクターが、室内の反射音群(Δt,Δt,...)と後続残響時間Tsubに影響を及ぼしているはずだということに注目すべきである。
【0053】
環境騒音場のピッチの記述で、騒音場において有意な時間的ファクターはτとφとであり、従って式(17)はそのまま保たれる。
【0054】
弱い反射音の閾値をΔt1の関数として図13に示す。聴者に対する反射音の空間的方向(IACCとτIACC)と反射音の遅れ時間Δt1はこの閾値を示している。
【0055】
耳の感度は外耳と中耳とを含む物理システムにより特徴づけられる。音響信号を解析する前に、便宜上、A特性をかけておく。
単一反射音の遅れ時間を関数とした単音節の明瞭度は、母音と子音との間の部分の短時間ACFから抽出された4つの直交ファクターを解析することにより予測できる。最近の調査では、音色や比類似度の判断は、コンサートホール内の音場の主観的プリファレンスと同じく、総合的な主観的応答であることを明確に示している。音色と同様に、主観的プリファレンスは、τの最小値を用いて表わされる。短時間積分時間は次式で表わされる。
(2T)=30(τmin (30)
精神作業に関する騒音の影響は、作業能率と大脳の専門化との間の妨害現象として解釈することができる。ACFから抽出された時間的ファクターは、左大脳半球に関連しており、IACFから抽出されるファクターは右大脳半球に主に関わっている。
【0056】
図14は、本発明による音響評価システムの基本的な構成を示すブロック図である。この音響評価システムは、図1のシステムと基本的な構成要素は同じものである。しかし、コンピュータの内部の構成要素の一部が異なる。図14に示すように、本音響評価システムは、音響信号(左右2チャンネル)を採取する音声採取手段20と、これらの音響信号に基づきACFを計算するACF演算手段21と、これらの音響信号に基づきにIACFを計算するIACF演算手段25、この計算されたACFに基づきACFファクターを計算するACFファクター演算手段22、この計算されたIACFに基づきIACFファクターを計算するIACFファクター演算手段26、この計算されたACFファクターに基づき音響を評価する手段24、この計算されたACFファクター及び/またはIACFファクターに基づき音響を評価する手段27、各種データを格納するデータベース23を具える。
【0057】
図15は、本発明による音響評価方法の基本的なステップを示すフローチャートである。図に示すように、ステップP1では、音源からの音響信号をマイクロフォン(図示せず)で採取する。なお、このマイクロフォン以外に、例えばライン入力などでデジタル信号やアナログ信号を採取することも可能である。この採取された音響信号はLPF3(図示せず)を介してA/Dコンバータ(図示せず)によりデジタル信号に変換する。ステップP2では、採取された音響信号に基づきACF及びIACFをコンピュータ即ちCPUにより計算する。ステップP3では、計算されたACF及びIACFに基づきCPUによりACFファクター及びIACFファクターを計算する。予め、音色とACFファクターとを関連付けた音色データ、音律とACFファクターとを関連付けた音律データ、音響の心理評価値とACFファクターとを関連付けた心理評価データ、が格納された所定のデータベースを構築しておく。次に、各データとACFファクターやIACFファクターとの関連付けについて説明する。例えば、ある楽器で様々な音を発音し、本システムを用いてそのときの音を採取してACFファクターやIACFファクターを算出し、同時にこのときの各音に関してACFファクターやIACFファクターに基づき計算したり、或いは、既知の他の方法によって各データ(音色、音質、或いは心理評価値など)を計算したり決定したりすることができる。このようにして、各音のACFファクターやIACFファクターと、その音に関する各データとを関連付けてデータベースに格納する。ステップP4では、計算されたACFファクター及びIACFファクターに基づき、CPUにより音響の評価を行う。その評価の際には、各種のデータを格納するデータベースからデータを読み出し比較・検討を行う。
【0058】
図16は、本システムを用いてピアノ音源から音響信号を採取し、採取した音響信号から抽出したピアノの正規化したACFの波形であり、縦軸に振幅、横軸に遅延時間をとったグラフである。即ち、ピアノの音響信号から抽出したACFの波形を示すグラフである。図16(a)は、A1(55Hz)、(b)はA2(220Hz)、(c)はA6(1760Hz)で発音した音響信号から得られた正規化ACFの波形である。図では、最大ピーク値をφ、そのときの遅延時間をτ、またその遅れ時間内のピーク値をφ’、そのときの遅れ時間をτ’と定義できる。ここで、τはピッチ、φはピッチの強さに対応する物理的ファクターである。図に示すように、τの逆数は、ピッチとなる周波数に対応する。例えば、図(a)の場合、ピアノ音源からは周波数55Hzの音が発せられ、このとき本システムを用いて音響信号から求めたACFファクターのうちの1つであるτは約18msであり、これの逆数=1/τ=55となりピアノ音源のピッチ55Hzとよく相関すること、即ち対応することがわかる。図(b)、(c)でも同様に、音源のピッチとτとが対応することがわかる。この相関関係をより明らかにするために、以下の図17にその関係を示す。
【0059】
図17は、縦軸にピッチ(ヘルツ)、横軸に12平均律による音階をとったグラフである。四角の点は、所定の計算式から求められた12平均律の音階のピッチである。黒丸の点は、τから求めたピッチである。図に示すように、12平均律によるピッチとτによるピッチとが良く一致することがわかる。音階A6のτに基づき計算されたピッチが、ずれているのは調律ミスによるものと思われる。このようにACFファクターτを利用すれば、ピアノをはじめ様々な楽器の調律を行なうことができるようになる。また、ACFから抽出される様々なACFファクター:遅れ時間が0で表わされるエネルギーΦ(0)、有効継続遅延時間τ、ACFの最大ピークまでの遅延時間τ、正規化したACFの最大ピークの振幅φ、τ内にある各ピーク値の情報(τ’,φ’,n=1,2,3,..,N(Nは約10よりも小さい整数))、IACFから抽出されるIACFファクターと、実際の楽器の心理評価値との関係を表わすデータベースを構築する。本システムを用いて楽器音源の音響信号から求めたファクターと、このデータベースに格納されたデータとを比較することによって、良い音(優れた音色や良い心理評価値を持つ音)を探るときの支援システムとして活用できる。
【0060】
本システムを用いて調律を行なう場合は、所定のデータベースに予め様々な音律(平均律や純正律など)の音階データを格納しておく。使用者は、目的に合わせて所望の音律を選択できるようにするのが好適である。デフォルトを平均律にするのが好適である。基準音「A4」は440Hzをデフォルトとし、1Hzステップで基準音を変更可能にすることもできる。基準音は純音で発音可能にする。このように、基準周波数、音階の種類は可変とすることが好適である。平均律を選択した場合は、発音した音に最も近い音階(AやC#など)を表示させるようにする。或いは、データベース中の所望のデータ(即ち音階)を予め選択しておき、この所望のデータと発音した音の音階との相違を示す数値を示すこともできる。例えば、所望の音階がA2の場合は(即ち、A2に調律したい場合)、データベースを参照して音階A2に関連付けられたピッチ周波数を読み出し、このピッチ周波数と、発音された音から抽出されたτによるピッチ周波数とを比較してその差異を表わす数値を提示することもできる。この場合、差異は、周波数の差異としてではなく、音階の差異として示すことも可能である。さらに、発音した音の音階と、所望の音階や最も近い音階との相違を示す数値を表示したり、発音した音が、その音階より高いか、低いか、ちょうど同じかを示すインジケータを設けることも可能である。
【0061】
このように、本発明を利用して、楽器から出された音から求めたACFファクターやIACFファクターと、予め構築しておいた良い音のACFファクターやIACFファクターのデータベースと比較して、その相違や差異を示すことによって、優れた音を発有できる楽器の作製を支援することが可能となる。特に、本発明によれば、IACFファクターから、音場の空間的な印象を知ることが可能となる。また、本発明は、楽器製作者のみでなく、開発者や研究者、さらに歌手、楽器演奏者も調律や演奏方法の参考などに利用することが可能である。また、本発明で調律や音響の評価は、様々な楽器に利用でき、例えば、アコースティック楽器(鍵盤系、弦楽器系、管楽器系など)、電子楽器などである。
【0062】
本発明の様々な実施態様を鑑みると、本発明の原理は応用可能であり、詳細に説明した実施態様は例示のみを目的とするものであって本発明の範囲を制限するものと解釈してはならないと理解すべきである。また、当業者は、本明細書の記載に基づき、本発明の請求の範囲内において本発明を変形、修正可能であることを理解されたい。本明細書では、評価値の1つであるピッチの評価について詳述したが、例えば、音質や音色など様々な評価値についても本発明に基づき評価できることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による装置の具体的な構成を示す装置概略図である。
【図2】本発明による騒音源の種類の特定、心理評価を行う方法のフローチャートである。
【図3】ピーク検知処理手順を説明する図であって、縦軸にノイズレベル、横軸に時間をとったグラフであって、その下段に積分間隔を示す図である。
【図4】縦軸にACFの絶対値の対数、横軸に遅延時間をとったグラフである。
【図5】縦軸に正規化したACF、横軸に遅延時間をとったグラフである。
【図6】縦軸に正規化したIACF、横軸に左右の信号の遅延時間をとったグラフである。
【図7】重み係数の計算方法を説明するブロック図である。
【図8】聴覚−大脳機能システムのモデルを説明するブロック図である。
【図9】縦軸にラウドネス尺度値、横軸にバンド幅をとったグラフである。
【図10】左縦軸に拡がり感の尺度値、右縦軸に最大振幅IACC、横軸に反射音の水平入射角度をとったグラフである。
【図11】(a)は縦軸にASW、横軸にIACCをとったグラフであり、(b)は縦軸にASW、横軸にWIACCをとったグラフである。
【図12】縦軸に実際に測定したASWの尺度値、横軸に計算されたASWの尺度値をとったグラフである。
【図13】縦軸に信号の閾値、横軸に遅延時間をとったグラフである。
【図14】本発明による音響評価システムの基本的な構成を示すブロック図である。
【図15】本発明による音響評価方法の基本的なステップを示すフローチャートである。
【図16】ピアノの音源による正規化したACFの波形であり、縦軸に振幅、横軸に遅延時間をとったグラフである。
【図17】縦軸にピッチ(ヘルツ)、横軸に12平均律による音階をとったグラフである。
【符号の説明】
1 頭部の模型
2 バイノーラル方式の音声採取手段
3 LPF(ローパスフィルタ)、
4 A/Dコンバータ
5 コンピュータ
6 音響信号記憶手段
7 ACF演算手段
8 IACF演算手段
9 ACFファクター演算手段9
10 IACFファクター演算手段10
11 騒音源種類特定手段
12 心理評価手段
13 データベース
20 音声採取手段
21 ACF演算手段
22 ACFファクター演算手段
23 データベース
24 ACFに基づき音響を評価する手段
25 IACF演算手段
26 IACFファクター演算手段
27 ACFおよびIACFに基づき音響を評価する手段

Claims (2)

  1. 音響信号を採取する音声採取ステップと、
    この採取された音響信号から演算手段を用いて自己相関関数ACFを計算するACF演算ステップと、
    この算出されたACFから前記演算手段を用いてACFファクターである、ACFの最大ピークまでの遅延時間τ 1 を求めるACFファクター演算ステップと、
    前記ACFファクターのτ1に基づき、ピッチの周波数を求めるピッチ周波数演算ステップと、
    この求めたピッチ周波数と、音律とACFファクターとを関連付けた音律データを含む所定の音階データベースのデータとを比較してその相違を示す調律ステップと、
    を含むことを特徴とする音響評価方法。
  2. 音響信号を採取する音声採取手段と、
    この採取された音響信号から演算手段を用いて自己相関関数ACFを計算するACF演算手段と、
    この算出されたACFから前記演算手段を用いてACFファクターである、ACFの最大ピークまでの遅延時間τ 1 を求めるACFファクター演算手段と、
    前記ACFファクターのτ1に基づき、ピッチの周波数を求めるピッチ周波数演算手段と、
    この求めたピッチ周波数と、音律とACFファクターとを関連付けた音律データを含む所定の音階データベースのデータとを比較してその相違を示す調律手段と、
    を含むことを特徴とする音響評価システム。
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