JP3581859B2 - 歪補償送信増幅器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歪補償送信増幅器に関し、さらに詳細には、放送および通信方式における歪補償送信増幅器に関し、特に、増幅器に高い線形性が必要とされる共通増幅方式に適用して好適な歪補償送信増幅器に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、電力効率と線形性との両者が共に優れた線形増幅方式の1 つとして、例えば、ベースバンド信号を2つの定振幅複素信号に分解し、これらの分解した2つの信号を各々非線形増幅器で増幅した後に合成して送信する方式が知られている。
【0003】
以下、上記した方式の原理について、図1に示す線形増幅器のブロック構成図を参照しながら説明する。
【0004】
なお、本明細書においては、ベースバンド信号を表すにあたっては、同相成分を実部とするとともに直交成分を虚部とする複素表示を用いて表すこととする。
【0005】
図1に示す線形増幅器は、送信ベースバンド信号を入力する入力端子10と、キャリア周波数fcの搬送波を出力する発信器(OSC)12と、送信ベースバンド信号を2つの定振幅信号に分解して出力する信号生成手段としての信号生成回路(SP)14と、信号生成回路14から出力された一方の定振幅信号を変調信号として入力し、発信器12が出力する搬送波を変調して定振幅変調波を出力する第1変調器(MOD1)16−1と、信号生成回路14から出力された他方の定振幅信号を変調信号として入力し、発信器12が出力する搬送波を変調して定振幅変調波を出力する第2変調器(MOD2)16−2と、第1変調器16−1から出力された定振幅変調波を増幅する第1非線形飽和増幅器(AMP1)18−1と、第2変調器16−2から出力された定振幅変調波を増幅する第2非線形飽和増幅器(AMP2)18−2と、第1非線形飽和増幅器18−1と第2非線形飽和増幅器18−2とからそれぞれ出力された増幅後の信号を合成する結合器(COMB)18−3と、結合器18−3により合成された信号を出力する出力端子20とを有して構成されている。
【0006】
なお、第1変調器16−1と第2変調器16−2とにより変調手段16が構成され、第1非線形飽和増幅器18−1と第2非線形飽和増幅器18−2と結合器18−3とにより増幅手段18が構成されている。
【0007】
また、第1非線形飽和増幅器18−1ならびに第2非線形飽和増幅器18−2の振幅ゲインと位相とについては、振幅ゲインをG0とし位相をφとする。
【0008】
以上の構成において、まず、入力端子10から振幅a(t)、位相θ(t)の送信ベースバンド信号a(t)exp[jθ(t)]を入力する。そうすると、信号生成回路14は、この送信ベースバンド信号をVm(≧a(t))の2つの定振幅複素信号S1(t)とS2(t)とに分解する。
【0009】
以上のことを数式で表すと、
a(t)exp[jθ(t)]=S1(t)+S2(t) ・・・ 数式1
S1(t)=Vmexp[j{θ(t)+Ψ(t)}] ・・・ 数式2
S2(t)=Vmexp[j{θ(t)−Ψ(t)}] ・・・ 数式3
となり、数式1の右辺に数式2と数式3とを代入すると、
S1(t)+S2(t)=2Vmexp[jθ(t)]cos[Ψ(t)]・・・数式4
となるので、
Ψ(t)=cos−1[a(t)/(2Vm)]
とΨ(t)を設定すれば、送信ベースバンド信号を2つの定振幅信号に分解することができる。
【0010】
第1変調器16−1と第2変調器16−2とは、定振幅複素信号S1(t)と定振幅複素信号S2(t)とをそれぞれ変調信号として入力し、発信器12が出力するキャリア周波数fcの搬送波を変調して、2つの定振幅変調波を出力する。この定振幅変調波は定振幅信号であり、このため非線形増幅が可能であり、それぞれ第1非線形飽和増幅器18−1と第2非線形飽和増幅器18−2とにより増幅される。
【0011】
第1非線形飽和増幅器18−1と第2非線形飽和増幅器18−2とによりそれぞれ増幅された後の信号は、結合器18−3で合成されて出力端子20から出力される。
【0012】
第1非線形飽和増幅器18−1と第2非線形飽和増幅器18−2との振幅ゲインと位相とは、ともにそれぞれG0とφとであるので、
となり、振幅がG0、初期位相がφ、キャリア周波数fcの搬送波をa(t)exp[jθ(t)]で変調した信号として出力される。
【0013】
上記した方式は、2つの非線形飽和増幅器間に位相差および振幅ゲイン差があると、合成信号に歪み波形を起こし、帯域外スペクトルが発生するという欠点があった。このため、この欠点を解決するために各種の検討が行われてきた。
【0014】
例えば、「S.Tomisato,K.Chiba and K.Murota,“Phase error free LINC modulator”,Electron.Lett.,vol.25,No.9,pp.576−577,April 1989.」の論文では、2つの増幅器出力を乗算することにより位相差を求め、補正を行う方法を提案している。
【0015】
しかしながら、この提案された方法は位相差のみに関する補正であり、位相差検出回路において、非線形飽和増幅器間の位相差を生じないように精度良く調整しなければならないという問題点があった。
【0016】
これに対して、位相差のみならず振幅ゲイン差を補正することを目的として、1つの定振幅信号の振幅と位相を制御する方法が提案されている。例えば、「L.Sundstrom,“Automatic adjustment of gain and phase imbalances in LINC transmitters”,Electron.Lett.,vol.31,No.3,pp.155−156,February 1995.」の論文では、2つの増幅器出力の合成信号から帯域外信号を検出し、この信号成分が小さくなるように制御する方法を提案している。
【0017】
しかしながら、この方法は帯域外信号を用いて補正を行っているため、帯域内信号の歪みを新たに生じる可能性があるという問題点があった。
【0018】
また、合成信号の帯域内信号に基づく制御方法としては、例えば、「S.Ampem−Darko and H.S Al−Raweshidy,“Gain/Phase imbalance cancellation technique in LINC transmitter”,Electron.Lett.,vol.34,No.22,pp.2093−2094,October 1998.」の論文、「X.Zhang and L.E.Larson,“Gain and phase error−free LINC transmission”,IEEE Trans.Vehicular Technology,Vol.49,No.5,pp.1986−1994,September 2000.」の論文ならびにInternational Publication Number WO 00/46916(国際公開番号 WO00/46916)「A closed loop calibrationfor an amplitude reconstruct amplifier」のPCT出願がある。
【0019】
ここで、上記した「S.Ampem−Darko and H.S Al−Raweshidy,“Gain/Phase imbalance cancellation technique in LINC transmitter”,Electron.Lett.,vol.34,No.22,pp.2093−2094,October 1998.」の論文では、2つの増幅器出力の合成信号をダウンコンバートして所望の変調信号から差分を求め、次に、この差分の振幅値の最大値を求め、これから振幅ゲイン差を推定する方法が示されている。また、位相差については、定振幅信号の振幅を制御することにより、増幅器のAM−PM特性を用いて間接的に補償する方法が示されている。このため、この方法では、差分を正確に検出するよう回路調整を精度良く行う必要があるという問題点があった。
【0020】
一方、「X.Zhang and L.E.Larson,“Gain and phase error−free LINC transmission”,IEEE Trans.Vehicular Technology,Vol.49,No.5,pp.1986−1994,September 2000.」の論文では、推定用変調信号を用いて、位相差および振幅ゲイン差を推定する方法を提案している。しかしながら、この方法の問題点は、推定を行うために特定の変調信号が必要なことと、位相差および振幅ゲイン差の推定値を求めるのに近似式を用いて厳密に解いていない点にある。
【0021】
上記したような問題点を解決するために、上記したInternational Publication Number WO 00/46916(国際公開番号 WO 00/46916)「A closed loop calibration for an amplitude reconstruct amplifier」のPCT出願においては、最小2乗法を用いて増幅器間の位相差および振幅ゲイン差を推定して補正する手法を提案している。
【0022】
図2には、上記したPCT出願に開示された手法による増幅器のブロック構成図が示されている。なお、図2に示す増幅器の構成において、図1に示す増幅器の構成と同一または相当する構成に関しては、図1において用いた符号と同一の符号を付して示すものとし、その構成ならびに作用の説明は適宜省略する。
【0023】
図2に示す増幅器は、信号生成回路14から出力された一方の定振幅信号の振幅と位相とを補正して第1変調器16−1へ出力する第1補正回路(CAL1)22’−1と、信号生成回路14から出力された他方の定振幅信号の振幅と位相とを補正して第2変調器16−2へ出力する第2補正回路(CAL2)22’−2と、結合器18’−3で合成された信号を出力端子20と検波回路(DEM)24’(後述する。)とに分配して出力する分配器18’−4と、分配器18’−4から出力された信号をベースバンド信号に変換する検波手段としての検波回路24’と、信号生成回路14から出力された2つの定振幅信号および検波回路24’からの出力信号を入力として最小2乗法(後述する。)を行って正規方程式の解であるwe(後述する。)を推定する推定手段としての推定回路(EST)26’と、推定回路26’により推定されたweを入力してαe/βe(後述する。)を求めて第2補正回路22’−2へ入力するとともに第1補正回路22’−1が信号生成回路14から出力された一方の定振幅信号をそのまま出力するように制御する制御手段としての制御回路(CONT)28’とを有して構成されている。
【0024】
なお、第1補正回路22’−1と第2補正回路22’−2とにより補正手段22’が構成され、第1増幅器18’−1と第2増幅器18’−2と結合器18’−3と分配器18’−4とにより増幅手段18’が構成されている。
【0025】
以上の構成において、まず、入力端子10から複素ベースバンド信号S(t)を入力する。この信号を数式で表すと、
S(t)=a(t)exp[jθ(t)] ・・・ 数式6
となる。ここでa(t)は振幅、θ(t)は位相である。
【0026】
信号生成手段である信号生成回路14は、複素ベースバンド信号S(t)を振幅がVm(≧a(t))の2つの定振幅複素ベースバンド信号であるS1(t)とS2(t)とに分ける。S1(t)とS2(t)とは、上記したように、
S1(t)=Vmexp[j{θ(t)+Ψ(t)}] ・・・ 数式7
S2(t)=Vmexp[j{θ(t)−Ψ(t)}] ・・・ 数式8
Ψ(t)=cos−1[a(t)/(2Vm)] ・・・ 数式9
である。
【0027】
S1(t)は第1補正回路22’−1で位相と振幅とが変えられ、S2(t)は第2補正回路22’−2で位相と振幅とが変えられる。
【0028】
なお、本発明の理解を容易にするために、以下の説明においては、第1補正回路22’−1はS1(t)をそのまま出力し、第2補正回路22’−2はS2(t)をそのまま出力するものとする。
【0029】
第1補正回路22’−1と第2補正回路22’−2との出力は、それぞれ第1変調器16−1と第2変調器16−2とにおいて、変調信号として発信器12が出力する搬送波を変調し、第1変調器16−1と第2変調器16−2とからそれぞれ変調波が出力される。変調波はそれぞれ第1増幅器18’−1と第2増幅器18’−2とで増幅された後に、結合器18’−3で合成されてから分配器18’−4に入力される。
【0030】
この分配器18’−4は、信号の大部分を出力端子20へと出力する。分配器18’−4が出力する小電力信号は検波回路24’へ入力され、検波回路24’でベースバンド信号に変換される。さらに、この検波回路24’の出力信号である複素検波信号SM(t)は、第1増幅器18’−1の振幅ゲインと位相とをそれぞれG0とφ0とし、第2増幅器18’−2の振幅ゲインと位相とをそれぞれ「G0+△G」と「φ0+△φ」とすると、
となる。ここでGは分配器18’−4および検波回路24’による合成減衰量であり、φはこれらの遅延を考慮した位相である。またα、βは、
α=GG0exp[j(φ+φ0)] ・・・ 数式11
β=G(G0+△G)exp[j(φ+φ0+△φ)] ・・・ 数式12
であり、αとβを推定してα/βをS2(t)に乗算することで位相差および振幅ゲイン差を補正することができる。このαとβを推定するために、推定回路26’は最小2乗法を適用する。数式10から、最小2乗法の誤差信号e(i)を以下のように定める。
【0031】
e(i)=SM(iTS)−αS1(iTS)−βS2(iTS) ・・・数式13
ここで、TSは信号のサンプリング周期である。評価関数Jを、
【数1】
と定めるとき、最小2乗法は、評価関数Jを最小とするαとβを求め、これらを推定値とする。Jを最小とするαとβをそれぞれ、αeとβeとし、これらを要素とする2次元ベクトルweを次式のように定める。
【0032】
【数2】
ここで、Tは転置を表す。さらに、2次元ベクトルX(i)を
XT(i)=[S1(iTS),S2(iTS)] ・・・ 数式16
とすると、weは正規方程式の解であり、
we=R−1V ・・・ 数式17
と表すことができる。ここでRとVは以下で定める2×2行列と2次元ベクトルである。
【0033】
【数3】
【数4】
なお、Hは複素共役転置を表す。このRとVの要素を具体的に表すと、
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
となる。
【0034】
数式17は、ガウスの消去法(Gaussian elimination)などを用いれば解くことができる。
【0035】
第2補正回路22’−2は、αe/βeをS2(t)に乗算することで位相差および振幅ゲイン差を補正する。また、推定回路26’は、信号生成回路14の出力信号S1(t)およびS2(t)と検波回路24’の出力信号SM(t)とを入力として上記した最小2乗法を行い、weを推定する。
【0036】
制御回路28’は、weを入力してαe/βeを求め、第2補正回路22−2へ入力する。なお、第1補正回路22’−1は入力信号S1(t)をそのまま出力するように制御する。
【0037】
しかしながら、上記した図2を参照しながら説明した増幅器には、以下に示す2つの問題点があった。
【0038】
まず、第1の問題点は、最小2乗法をガウスの消去法で解いているため、データが新しく追加される毎に推定を最初からやり直す必要があり、計算量が多くなってしまうということである。
【0039】
次に、第2の問題点は、増幅器の振幅ゲインと位相とが一定の線形増幅器を前提としている点にある。即ち、実際の増幅器としては、振幅ゲインと位相とが入力信号の振幅によって変わる非線形増幅器を使用するため、αe/βeをS2(t)に乗算すると第2増幅器18’−2の振幅ゲインと位相とが「G0+△G」と「φ0+△φ」から変化してしまい,増幅器間の振幅ゲイン差および位相差が零にならないという問題点があった。
【0040】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、計算量を大幅に低減することを可能にするとともに、増幅器間の振幅ゲイン差および位相差を零にすることを可能にした歪補償送信増幅器を提供しようとするものである。
【0041】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、入力信号から2つの定振幅複素信号を生成する信号生成手段と、上記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号をそれぞれ補正し、2つの補正された修正定振幅複素信号を出力する補正手段と、上記補正手段から出力された2つの修正定振幅複素信号を変調信号として、同一の搬送波からそれぞれ変調された2つの定振幅変調波を生成する変調手段と、上記変調手段により生成された2つの定振幅変調波をそれぞれ増幅する2つの増幅器を有し、上記2つの増幅器により上記変調手段により生成された2つの定振幅変調波をそれぞれ増幅した後に合成し、該合成した合成信号を出力する増幅手段と、上記増幅手段から出力された合成信号を上記搬送波で復調して複素検波信号を出力する検波手段と、上記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号と上記検波手段により出力された複素検波信号とに再帰的最小2乗法を適用して、上記補正手段における補正係数として上記増幅手段における上記2つの増幅器間の増幅器位相差および増幅器振幅ゲイン比を推定する推定手段とを有する歪補償送信増幅器であって、上記推定手段は、上記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号のうちの一方の信号と上記検波手段から出力された複素検波信号とに2つの推定パラメータをそれぞれ乗積したものの和信号を求め、該和信号と上記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号のうちの他方の信号との差分を誤差信号とし、再帰的最小2乗法により上記推定パラメータを算出し、上記推定パラメータの1つから上記補正係数として上記増幅器位相差および上記増幅器振幅ゲイン比を求め、上記補正手段は、上記推定手段で求めた補正係数に基づいて、上記増幅器位相差が零かつ上記増幅器振幅ゲイン比が1となるように上記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号の1つもしくは両方に対して振幅および位相を補正して歪補償するようにしたものである。
【0042】
即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、
(i)推定手段は、再帰的最小2乗法を用いて推定を行うこと、
(ii)推定手段は、定振幅複素信号の一方の信号と複素検波信号とに2つの推定パラメータをそれぞれ乗積したものの和信号を求め、この和信号と定振幅複素信号の他方の信号との差分を誤差信号とし、再帰的最小2乗法により上記推定パラメータを算出し、推定パラメータの1つを補正係数とすること、
という構成を備えるものであって、これにより計算量を大幅に低減することが可能になるとともに、増幅器間の振幅ゲイン差および位相差を零にすることが可能になる。
【0043】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明のように、上記信号生成手段に入力される入力信号としては複素ベースバンド信号を用いることができ、生成される2つの定振幅複素信号は、該2つの定振幅複素信号を合成すると上記複素ベースバンド信号に等しい関係にある。
【0044】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明のように、上記信号生成手段に入力される入力信号としては変調された信号を用いることができ、該変調された信号は上記搬送波により復調された複素ベースバンド信号に変換され、生成される2つの定振幅複素信号は、該2つの定振幅複素信号を合成すると上記復調された複素ベースバンド信号に等しい関係にある。
【0046】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明のように、さらに、上記推定手段の推定結果に基づいて上記補正手段により歪補償した後に、再度上記推定手段により上記増幅器位相差および上記増幅器振幅ゲイン比を推定し、該推定結果が許容範囲外の場合には上記補正手段による補正と上記推定手段による推定を繰り返す制御を行う制御手段を有するようにしてもよい。即ち、推定手段の推定結果に基づき補正手段により歪補償した後、再度推定手段により補正係数を推定し、その推定結果が許容範囲外の場合には補正と推定を繰り返す制御を行う制御手段を設けるようにしてもよい。このため、増幅器が非線形増幅器の場合でも補正が可能となる。
【0047】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明における制御手段は、本発明のうち請求項6に記載の発明のように、さらに、上記推定手段による上記増幅器位相差および上記増幅器振幅ゲイン比の推定結果が許容範囲内のとき、上記増幅手段から出力された合成信号を送信信号として出力する制御を行うようにしてもよい。
【0048】
また、本発明のうち請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明においても、本発明のうち請求項5に記載の発明のように、さらに、上記推定手段による上記増幅器位相差および上記増幅器振幅ゲイン比の推定結果が許容範囲内のとき、上記増幅手段から出力された合成信号を送信信号として出力する制御を行う制御手段を有するようにしてもよい。
【0049】
【発明の実施の形態】
以下、添付の図面に基づいて、本発明による歪補償送信増幅器の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0050】
図3には、本発明による歪補償送信増幅器の実施の形態の一例のブロック構成図が示されている。なお、図3に示す歪補償送信増幅器の構成において、図1乃至図2に示す増幅器の構成と同一または相当する構成に関しては、図1乃至図2において用いた符号と同一の符号を付して示すものとし、その構成ならびに作用の説明は適宜省略する。
【0051】
図3に示す歪補償送信増幅器は、第1非線形増幅器18’’−1、第2非線形増幅器18’’−2、結合器18’’−3、分配器18’’−4および分配器18’’−4によって分配された信号の出力端子20への出力を制御するスイッチ回路18’’−5によって構成される増幅手段18’’と、再帰的最小2乗法(後述する。)による処理を行う推定手段としての推定回路26’’と、第1補正回路22’’−1、第2補正回路22’’−2、推定回路26’’およびスイッチ回路18’’−5を制御する制御手段としての制御回路28’’とを有して構成されている。
【0052】
以上の構成において、本発明による図3に示す歪補償送信増幅器が図2に示した従来の技術と大きく異なる点は、図3に示す歪補償送信増幅器における推定手段に相当する推定回路26’’の構成およびその動作であり、これについて以下に詳しく説明する。
【0053】
まず、図2に示した従来の技術におけるガウスの消去法を用いた最小2乗法では計算量が膨大となるため、この推定回路26’’においては、再帰的最小2乗法を適用する。この再帰的最小2乗法の誤差er(i)は従来の技術とは異なり、α/βを直接求めるために以下のように定める。
【0054】
まず、数式10を変形すると、
【数13】
となるので、
【数14】
の推定値を
【数15】
、
【数16】
の推定値を
【数17】
として、誤差信号er(i)を以下のように定める。
【0055】
【数18】
【数19】
【数20】
このように、定振幅複素信号S1(t)と複素検波信号SM(t)とに推定パラメータ
【数21】
と
【数22】
とをそれぞれ乗積したものの和信号を求め、この和信号と定振幅複素信号S2(t)との差分を誤差信号er(i)とする。
【0056】
最小2乗法の評価関数Jrを
【数23】
と定めるとき、再帰的最小2乗法は、評価関数Jrを最小とするw1とw2とを逐次的に推定する。
【0057】
次に、この再帰的最小2乗法の1つとしてRLS(Recursive Least Squares )があり、これについて説明する。
【0058】
RLSにおいては、評価関数Jrを最小とするw1とw2とをそれぞれ、w1e(N)とw2e(N)とし、これらを要素とする2次元ベクトルwre(N)を次式(数式33)のように定める。
【0059】
【数24】
さらに、2次元ベクトルX(i)を、
【数25】
とすると、wre(N)は正規方程式の解であり、
【数26】
と表すことができる。ここでRr(N)とVr(N)とは、それぞれ以下で定める2×2行列と2次元ベクトルとである。
【0060】
【数27】
【数28】
このRr(N)とVr(N)との要素を具体的に表すと、
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
【数36】
となる。
【0061】
数式35を直接計算すればwre(N)を求めることができるが、そのためには逆行列
【数37】
を計算する必要がある。RLSアルゴリズムはこの逆行列演算が不要な逐次アルゴリズムであり、このRLSアルゴリズムを適用するとwre(N)は次式のように逐次的に表される。
【0062】
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
ここで、K(i)は2次元カルマンゲインベクトルであり、P(i)はRr(i)の逆行列である。この更新式の「i=0」における初期値は、
wre(0)=O2 ・・・ 数式50
P(0)=δ−1I2 ・・・ 数式51
である。ここでδは微少な正値で、I2とO2とはそれぞれ2×2の単位行列と2次元零ベクトルとである。
【0063】
推定回路26’’は上記のようにwre(N)を求め、α/βの推定値である
【数42】
を制御手段である制御回路28’’に入力する。制御回路28’’は第2補正回路22’’−2を制御して定振幅信号S2(t)に
【数43】
を乗算させる。
【0064】
ここで、増幅手段18’’の第2非線形増幅器18’’−2の振幅ゲインと位相とは、入力信号の振幅に依存するので、
【数44】
に対する振幅ゲインと位相とは厳密には「G0+△G」および「φ0+△φ」にならない。
【0065】
そこで、上記した再帰的最小2乗法による補正を繰り返し行うことが好ましい。この再帰的最小2乗法による補正を繰り返し行うには、第2補正回路22’’−2でS2(t)に乗算する複素数をγとすると、γの更新は、前回求めたγに新たに求めた
【数45】
を乗算するだけでよい。
【0066】
また、この繰り返し動作は、数式29の誤差信号er(i)の絶対値の2乗を観測し、この値がしきい値以下になるまで繰り返すことが好ましい。
【0067】
即ち、推定回路26’’はer(i)の絶対値の2乗を計算し、しきい値以下か否かを制御手段28’’に通知する。制御手段28’’はこの情報を基に繰り返し動作を行うか否か判定し、全体的な制御を行うようにすればよい。
【0068】
また、この実施の形態においては、スイッチ回路18’’−5が設けられており、誤差信号er(i)の絶対値の2乗がしきい値を超えるとき、出力端子20から信号が出力されないように制御回路28’’がスイッチ回路18’’−5を制御するように構成されている。
【0069】
しかしながら、こうしたスイッチ回路18’’−5の構成を設けることなく、出力端子20から常に信号が出力されるようにしてもよい。
【0070】
図4乃至図6には、本発明の効果を調べるために発明者が行った計算機シミュレーションの結果が示されている。入力信号はロールオフ率0.5のロールオフフィルタでフィルタリングしたQPSK変調信号とし、2つの増幅器(第1非線形増幅器18’’−1および第2非線形増幅器18’’−2)間の位相差△φを8°、振幅ゲイン差△G/G0を25%とした。また、歪補正1回で用いるデータ数Nは20シンボルとした。
【0071】
図4乃至図6に示されているように、2つの増幅器間に位相差および振幅ゲイン差があると合成信号に歪み波形を起こし、帯域外スペクトルが発生する。図4は歪補正を1回行った結果のシミュレーションであるが、帯域外スペクトルが5dBくらいしか落ちていない。しかしながら、図5の歪補正を2回行った場合のシミュレーション結果や、図6の歪補正を20回行った場合のシミュレーション結果から、補正を繰り返し行うことにより帯域外スペクトルを効果的に抑制できるようになる。
【0072】
以上において説明したように、上記した歪補償送信増幅器においては、RLSアルゴリズムのような再帰的最小2乗法を用いるので、従来の技術におけるガウスの消去法とは異なり、新しくデータが入力するたびに推定を最初からやり直す必要がなく、計算量を大幅に削減できる。
【0073】
さらに、従来の技術とは異なり、再帰的最小2乗法を繰り返し行うことにより、非線形増幅器の場合でも適用することができるようになる。
【0074】
また、従来の技術では個々の増幅器の特性に関するパラメータαとβをまず推定し、それからα/βを求める2段階推定であったが、本発明は直接補正係数α/βを求めるため、計算量が削減でき推定精度も向上する。
【0075】
従って、上記した歪補償送信増幅器は、高い線形性が要求される移動通信基地局の共通増幅方式へ適用すると、特に効果的である。
【0076】
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(3)に示すように変形してもよい。
【0077】
(1)上記した実施の形態においては、入力端子10から入力する信号が複素ベースバンド信号の場合について説明したが、これに限られるものではなく、本発明は入力信号が変調波である場合にも適用できることは勿論である。
【0078】
図7には、入力信号が変調波である場合における信号生成手段の構成の一例が示されており、入力信号が変調波である場合には、図3に示す歪補償送信増幅器の構成中の信号生成手段としての信号生成回路14に代えて、図7に示す構成の信号生成手段を用いればよい。
【0079】
即ち、図7に示す信号生成手段は、入力端子10に入力されて2経路に分岐された変調波のそれぞれに対して発振器12から出力される搬送波をそれぞれ乗算する第1乗算器30−1および第2乗算器30−2と、発振器12から出力されて第2乗算器30−2へ入力される搬送波の位相をπ/2シフトする90度位相器(π/2)32と、第1乗算器30−1から出力された信号を濾波する第1ローパスフィルタ34−1と、第2乗算器30−2から出力された信号を濾波する第2ローパスフィルタ34−2と、第1ローパスフィルタ34−1と第2ローパスフィルタ34−2とから出力された複素ベースバンド信号を2つの定振幅信号に分離する分離器36とを有して構成される。
【0080】
以上の構成において、入力信号が変調波である場合には、まず、入力端子10から変調波を入力すると、第1乗算器30−1、第2乗算器30−2において発信器12から出力される搬送波が乗算され、第1ローパスフィルタ34−1、第2ローパスフィルタ34−2を通過後、複素ベースバンド信号として抽出される。分離器36によりこの複素ベースバンド信号を2つの定振幅信号に分離し、この分離された2つの定振幅信号を補正手段22’’に入力するようにすればよい。
【0081】
(2)上記した実施の形態においては、S2(t)の振幅および位相を制御する場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0082】
即ち、S2(t)ではなく、S1(t)の振幅および位相を制御するようにβ/αを推定して、第1補正回路22’’−1でS1(t)にβ/αを乗算するように構成してもよい。
【0083】
(3)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(2)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【0084】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、計算量を大幅に低減することが可能にするとともに、増幅器間の振幅ゲイン差および位相差を零にすることが可能になるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】線形増幅方式の原理を説明するための線形増幅器のブロック構成図である。
【図2】従来の増幅器のブロック構成図である。
【図3】本発明による歪補償送信増幅器の実施の形態の一例を示すブロック構成図である。
【図4】計算機シミュレーションの結果を示すグラフであり、歪補正回数1回の場合の周波数スペクトルを示す。
【図5】計算機シミュレーションの結果を示すグラフであり、歪補正回数2回の場合の周波数スペクトルを示す。
【図6】計算機シミュレーションの結果を示すグラフであり、歪補正回数20回の場合の周波数スペクトルを示す。
【図7】入力信号が変調波である場合における信号生成手段の構成の一例を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
10 入力端子
12 発信器(OSC)
14 信号生成回路(SP)(信号生成手段)
16 変調手段
16−1 第1変調器(MOD1)
16−2 第2変調器(MOD2)
18 増幅手段
18−1 第1非線形飽和増幅器(AMP1)
18−2 第2非線形飽和増幅器(AMP2)
18−3 結合器(COMB)
18’ 増幅手段
18’−1 第1増幅器(AMP1)
18’−2 第2増幅器(AMP2)
18’−3 結合器(COMB)
18’−4 分配器(COUP)
18’’ 増幅手段
18’’−1 第1非線形増幅器(AMP1)
18’’−2 第2非線形増幅器(AMP2)
18’’−3 結合器(COMB)
18’’−4 分配器(COUP)
18’’−5 スイッチ回路(SW)
20 出力端子
22’ 補正手段
22’−1 第1補正回路(CAL1)
22’−2 第2補正回路(CAL2)
22’’ 補正手段
22’’−1 第1補正回路(CAL1)
22’’−2 第2補正回路(CAL2)
24’ 検波回路(DEM)(検波手段)
24’’ 検波回路(DEM)(検波手段)
26’ 推定回路(EST)(推定手段)
26’’ 推定回路(EST)(推定手段)
28’ 制御回路(CONT)(制御手段)
28’’ 制御回路(CONT)(制御手段)
30−1 第1乗算器
30−2 第2乗算器
32 90度位相器(π/2)
34−1 第1ローパスフィルタ(LPF1)
34−2 第2ローパスフィルタ(LPF2)
36 分離器
Claims (6)
- 入力信号から2つの定振幅複素信号を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号をそれぞれ補正し、2つの補正された修正定振幅複素信号を出力する補正手段と、
前記補正手段から出力された2つの修正定振幅複素信号を変調信号として、同一の搬送波からそれぞれ変調された2つの定振幅変調波を生成する変調手段と、
前記変調手段により生成された2つの定振幅変調波をそれぞれ増幅する2つの増幅器を有し、前記2つの増幅器により前記変調手段により生成された2つの定振幅変調波をそれぞれ増幅した後に合成し、該合成した合成信号を出力する増幅手段と、
前記増幅手段から出力された合成信号を前記搬送波で復調して複素検波信号を出力する検波手段と、
前記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号と前記検波手段により出力された複素検波信号とに再帰的最小2乗法を適用して、前記補正手段における補正係数として前記増幅手段における前記2つの増幅器間の増幅器位相差および増幅器振幅ゲイン比を推定する推定手段と
を有する歪補償送信増幅器であって、
前記推定手段は、前記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号のうちの一方の信号と前記検波手段から出力された複素検波信号とに2つの推定パラメータをそれぞれ乗積したものの和信号を求め、該和信号と前記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号のうちの他方の信号との差分を誤差信号とし、再帰的最小2乗法により前記推定パラメータを算出し、前記推定パラメータの1つから前記補正係数として前記増幅器位相差および前記増幅器振幅ゲイン比を求め、
前記補正手段は、前記推定手段で求めた補正係数に基づいて、前記増幅器位相差が零かつ前記増幅器振幅ゲイン比が1となるように前記信号生成手段により生成された2つの定振幅複素信号の1つもしくは両方に対して振幅および位相を補正して歪補償する
ものである歪補償送信増幅器。 - 請求項1に記載の歪補償送信増幅器において、
前記信号生成手段に入力される入力信号は、複素ベースバンド信号であり、生成される2つの定振幅複素信号は、該2つの定振幅複素信号を合成すると前記複素ベースバンド信号に等しい関係にある
ものである歪補償送信増幅器。 - 請求項1に記載の歪補償送信増幅器において、
前記信号生成手段に入力される入力信号は、変調された信号であり、該変調された信号は前記搬送波により復調された複素ベースバンド信号に変換され、生成される2つの定振幅複素信号は、該2つの定振幅複素信号を合成すると前記復調された複素ベースバンド信号に等しい関係にある
ものである歪補償送信増幅器。 - 請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歪補償送信増幅器において、さらに、
前記推定手段の推定結果に基づいて前記補正手段により歪補償した後に、再度前記推定手段により前記増幅器位相差および前記増幅器振幅ゲイン比を推定し、該推定結果が許容範囲外の場合には前記補正手段による補正と前記推定手段による推定を繰り返す制御を行う制御手段と
を有する歪補償送信増幅器。 - 請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歪補償送信増幅器において、さらに、
前記推定手段による前記増幅器位相差および前記増幅器振幅ゲイン比の推定結果が許容範囲内のとき、前記増幅手段から出力された合成信号を送信信号として出力する制御を行う制御手段と
を有する歪補償送信増幅器。 - 請求項4に記載の歪補償送信増幅器において、
前記制御手段は、さらに、前記推定手段による前記増幅器位相差および前記増幅器振幅ゲイン比の推定結果が許容範囲内のとき、前記増幅手段から出力された合成信号を送信信号として出力する制御を行う
ものである歪補償送信増幅器。
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