JP3580802B2 - 階段用段鼻部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、階段の滑り止めと転倒時の衝撃を緩和する目的で段鼻部に取り付けられる合成樹脂性の階段用段鼻部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
階段は建物の中でも特に危険な場所であることから、その段鼻部(段板前端の角部)には、通常、昇降時の踏み外しを防ぐための段鼻部材(ノンスリップ)が取り付けられる。かかる段鼻部材としては、従来、段鼻部の磨耗や損傷の防止を兼ねて、金属製や硬質ゴム製のものが広く利用されてきた。しかし、この種の硬質材料からなる段鼻部材は、転倒事故に際して腰部や頭部に加わる衝撃力を十分に緩和しうるものではなく、深刻な怪我を招くことが多かった。
【0003】
そこで、さらなる安全のため、軟質の合成樹脂材料を組み合わせ、さらに角部近傍に中空部を形成して、転倒時の衝撃吸収力を高めた段鼻部材が利用されるようになった。かかる段鼻部材の一例を図6に示す。
【0004】
図6に示した段鼻部材9は、特開昭58−191859号公報に開示されたものである。この段鼻部材9は、表面層91a及び下面層91bの2層構造を有する滑り止め部91と、滑り止め部91の前方下面側に一体的に結合された前側クッション部92とが、階段の欠込段部Saに固着された枠体93を介して、階段の蹴上げ面Sbから踏面Scに沿うように固定されるものである。滑り止め部91の表面層91aは耐磨耗性に優れた軟質樹脂により形成され、滑り止め部91の下面層91b及び前側クッション部92はクッション性に優れた軟質樹脂により形成されている。また、枠体93は、金属または硬質樹脂により形成されている。そして、歩行時及び転倒時のクッション性を確保するために、滑り止め部91の下面層91bと前側クッション部92には中空部93,94が形成されている。
【0005】
また、特開昭58−191857号公報や特開昭58−189452号公報にも、前記段鼻部材9に類似した構成を有する複数種類の段鼻部材が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
「日本災害医学学会会誌JJTOM Vol.34 No.6 (1986) 」には、「階段事故による頭部外傷の力学的解析(東京大学医学部脳神経外科・間中信也他)」と題する研究論文が記載されている。この研究は、階段事故によって多数の死傷者が発生していることに鑑み、その危険性を解析するためになされたもので、ダミーヘッドを用いたシミュレーション実験を通じて、階段の構造と転倒時の衝撃力との関係を解析している。
【0007】
この研究によると、階段の下降方向に向かって後向きに転倒するのと同様の条件で、重量4.8kgのダミーヘッドを階段の段鼻部に45度の角度で衝突させたとき、衝撃時の直線加速度は、木製階段(段鼻部材なし)の場合で最大約200G、平均約100Gであり、木製階段の段鼻に小さな中空部を有する樹脂性の段鼻部材を取り付けた場合で最大約160G、平均約80Gであった。
【0008】
アメリカの自動車安全設計基準に指定されている権威ある安全基準では、平均約100G以上が生命に極めて危険を及ぼす数値域とされている。この基準に照らせば、単に段鼻部に樹脂性の段鼻部材を取り付けるだけでは、転倒時の衝撃に対する十分な安全性は保証されないこととなる。
【0009】
前記従来の各公報に開示された段鼻部材についても、その詳細な設計寸法や、各部を構成する樹脂材料の種類、柔らかさなど、具体的仕様は明らかにされていない。したがって、各段鼻部材に期待しうる実際の緩衝性能は不明である。
【0010】
そこで本出願人は、前記のような力学的解析を通じて、さまざまな形態・構造・材質にかかる鼻部材の緩衝性能を検証し、また、その歩行感や施工性等の改善を検討した。本発明は、このような過程を経てなされたもので、簡素かつ実用的な構造でありながら、格段に優れた緩衝性能を有する階段用段鼻部材の具体的な構成を提案するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明の階段用段鼻部材は、階段の段鼻部に形成された断面略L字状の欠込段部に取り付けられる合成樹脂製の段鼻部材であって、曲げ弾性率の範囲が20MPa〜150MPaの軟質樹脂からなる表面側の軟質層と、曲げ弾性率の範囲が700MPa〜5000MPaの硬質樹脂からなる裏面側の硬質層とを備え、前記軟質層は、階段の踏面に沿って配される滑り止め部と、階段の蹴上げ面に沿って配される垂下部とが、断面略L字状の出隅をなすように形成される一方、 前記硬質層は、前記欠込段部の底面に沿って配される水平部と、欠込段部の立面に沿って配される立上部とが、断面略L字状の入隅をなすように形成され、 前記軟質層の滑り止め部及び垂下部と前記硬質層の水平部及び立上部との間に断面略矩形の中空部が設けられて、この中空部の断面寸法が、縦横いずれも5〜mm〜20mmの範囲となるように形成されるとともに、前記中空部に面する軟質層の滑り止め部及び垂下部の肉厚が、いずれも2mm〜6mmの範囲となるように形成されたことを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態にかかる階段用段鼻部材1の断面構造を示している。この階段用段鼻部材1は、曲げ弾性率の異なる2種類の合成樹脂を一体成形したもので、表面側に軟質層2、裏面側に硬質層3が配されている。
【0014】
軟質層2は、例えばポリオレフィン系樹脂、あるいはポリメチルメタクリレート樹脂とポリエステル樹脂との複合体等からなり、その曲げ弾性率が20MPa〜150MPa、より好ましくは50MPa〜90MPaの範囲となるように調整されている。この軟質層2は、階段の踏面Scに沿って配される滑り止め部21と、階段の蹴上げ面Sbに沿って配される垂下部22とが、断面略L字状の出隅をなすように形成されている。滑り止め部21の表面には、複数本の突条23が適宜間隔で形成されている。
【0015】
一方、硬質層3は、例えばポリプロピレン系樹脂、あるいはABS樹脂等からなり、その曲げ弾性率が700MPa〜5000MPa、より好ましくは2000MPa〜4000MPaの範囲となるように調整されている。この硬質層3は、階段の段鼻部に形成された断面略L字状の欠込段部Sdに沿って入隅をなすように配される立上部31及び水平部32と、立上部31の上縁部から後方に延出して階段の踏面Scと連続するように形成された踏面側延出部33と、水平部32の前縁部から下方に延出して階段の蹴上げ面Sbと連続するように形成された蹴上げ面側延出部34とを備えている。そして、立上部31の上縁部に軟質層2の滑り止め部21が結合され、水平部32の前縁部に軟質層2の垂下部22が結合されている。これにより、軟質層2の滑り止め部21及び垂下部22と、硬質層3の水平部32及び立上部31との間に、断面略矩形の中空部4が形成されている。
【0016】
このような構成を備える階段用段鼻部材1において、以下のような仕様を備えた複数種類の実施例を具体的に設定し、それらの緩衝性能を力学的に解析して、他の構成にかかる比較例と対比した。各例の仕様と緩衝性能を図2に一覧化して示す。
【0017】
<実施例1>
図1に示したように、木材からなる段板の段鼻部に欠込段部Sdを形成して、本発明の階段用段鼻部材1を取り付ける。軟質層2は、曲げ弾性率が90MPa、中空部4に面する部分の肉厚が4mmとする。軟質層2の角部(出隅部分)には、内側2mm、外側6mmのR加工を施す。一方、硬質層3は、曲げ弾性率が2500MPa、肉厚は一様に2mmとする。中空部4の断面寸法は、縦10mm、横10mmとする。
【0018】
<実施例2>
軟質層2の曲げ弾性率を、実施例1よりも柔らかい50MPaとし、それ以外は実施例1と同一にする。
【0019】
<実施例3>
軟質層2及び硬質層3の曲げ弾性率及び肉厚は実施例1と同一で、中空部4の断面寸法を、実施例1よりも小さい縦5mm、横5mmとする。
【0020】
<実施例4>
軟質層2の肉厚を実施例2よりも薄い3mmとし、それ以外は実施例2と同一にする。
【0021】
<比較例1>
木材の単材を用いる。木材の材質はナラで、角部(出隅部分)に6mmのR加工を施す。
【0022】
<比較例2>(図3参照)
木材からなる段板の段鼻部に、踏面Scから蹴上げ面Sbにわたるようにして、軟質樹脂の単層材81を取り付ける。軟質樹脂の曲げ弾性率は80MPaで、段鼻部における肉厚は4.5mmとする。
【0023】
<比較例3>
軟質樹脂の曲げ弾性率を、比較例2よりも柔らかい50MPaとし、それ以外は比較例2と同一にする。
【0024】
<比較例4>(図4参照)
木材からなる段板の段鼻部に、踏面Scから蹴上げ面Sbにわたるようにして、軟質樹脂の単層材82を取り付ける。軟質樹脂の曲げ弾性率は50MPaで、段鼻部における肉厚は5mmとし、軟質樹脂の段鼻部には、縦横各2mmの矩形断面を有する中空部82aを設ける。
【0025】
<解析方法>
衝撃センサを埋め込んだ重量4.5kgのダミーヘッドを、各例の段鼻部に向かって45度の角度で衝突させる。衝突時の速度は、1.08m/秒とする。このときの衝撃時の最大直線加速度を、有限要素法を用いたコンピュータ解析により解析した。
【0026】
この解析によると、図2に示したように、比較例1〜3では、いずれも最大直線加速度が100Gを大きく上回る危険範囲となり、軟質樹脂の段鼻部に中空部82aを設けた比較例4でも105Gとなったのに対して、本発明の実施例1〜4では、いずれも、最大直線加速度が60G以下の安全範囲となった。さらに、実施例1〜4を相互に比較すると、中空部4を小さくした実施例3に比べて、中空部4の大きい他の実施例1,2,4が緩衝性能に優れることや、軟質層2の柔らかさを高めることによって、緩衝性能がさらに向上することも確認された。
【0027】
これらの力学的解析を通じて、軟質層2の曲げ弾性率が20MPa〜150MPa、より好ましくは50MPa〜90MPaの範囲にあること、また、中空部4に面する軟質層2の肉厚が2mm〜6mmの範囲にあること(より好ましくは3mm〜5mmの範囲にあること)を、本発明の具体的な仕様として特定することができる。軟質層2が前記範囲よりも柔らかすぎたり、肉厚が薄すぎたりすると、段鼻部の保護という点で本来の意味をなさなくなる。また、前記範囲よりも柔らかすぎる段鼻部材は、昇降に際して足元が不安定になったり、つまづきやすくなって、実用に適さないということも、実際の歩行実験を通じて確認された。
【0028】
さらに、本発明の階段用段鼻部材1において要部となる中空部4の断面寸法は、縦横いずれも3mm〜30mmの範囲、より好ましくは5mm〜20mmの範囲の矩形形状になることを具体的仕様として設定することができる。中空部4の断面寸法がこれよりも小さいと、軟質層2の変形量が不足して衝撃を十分に吸収できないことは、前記解析結果より明らかである。他方、中空部4の断面寸法が前記範囲よりも大きいと、段鼻部の変形量が大きくなりすぎて、昇降に際し足元が不安定になることも、前記歩行実験を通じて確認された。
【0029】
【発明の効果】
本発明は、上述のような力学的解析を通じて、緩衝性能に優れた階段用段鼻部材の具体的仕様を特定したものである。このような階段用段鼻部材を階段の段鼻部に取り付けることにより、転倒事故に際して腰部や頭部に加わる衝撃力を安全なレベルにまで緩和して、深刻な怪我を防止することができる。同時に、良好な歩行感も得ることができる。
【0030】
また、本発明の階段用段鼻部材は、曲げ弾性率の異なる2種類の合成樹脂を一体成形して製造することができるので、簡素にして実用的な構造となり、施工性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態にかかる階段用段鼻部材の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例と比較例の仕様及び緩衝性能をまとめた一覧表である。
【図3】比較例2の仕様を示す断面図である。
【図4】比較例4の仕様を示す断面図である。
【図5】本発明の階段用段鼻部材の衝撃時の変形状態を示す解析図である。
【図6】従来の技術にかかる階段用段鼻部材の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1 階段用段鼻部材
2 軟質層
21 滑り止め部
22 垂下部
3 硬質層
4 中空部
Sb 蹴上げ面
Sc 踏面
Sd 欠込段部

Claims (1)

  1. 階段の段鼻部に形成された断面略L字状の欠込段部に取り付けられる合成樹脂製の段鼻部材であって、
    曲げ弾性率の範囲が20MPa〜150MPaの軟質樹脂からなる表面側の軟質層と、曲げ弾性率の範囲が700MPa〜5000MPaの硬質樹脂からなる裏面側の硬質層とを備え、
    前記軟質層は、階段の踏面に沿って配される滑り止め部と、階段の蹴上げ面に沿って配される垂下部とが、断面略L字状の出隅をなすように形成される一方、前記硬質層は、前記欠込段部の底面に沿って配される水平部と、欠込段部の立面に沿って配される立上部とが、断面略L字状の入隅をなすように形成され、
    前記軟質層の滑り止め部及び垂下部と前記硬質層の水平部及び立上部との間に断面略矩形の中空部が設けられて、この中空部の断面寸法が、縦横いずれも5〜mm〜20mmの範囲となるように形成されるとともに、
    前記中空部に面する軟質層の滑り止め部及び垂下部の肉厚が、いずれも2mm〜6mmの範囲となるように形成されたことを特徴とする階段用段鼻部材。
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