JP3579184B2 - 優れた被削性を有する金型鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば樹脂成形金型などに利用可能な優れた被削性を有する金型鋼に関するものであり、さらに詳しくは、半導体の樹脂封止工程に用いられるICモールド金型などに利用される金型鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ICチップは、回路や接続端子などを保護するために、エポキシ樹脂などを封止用樹脂として用い、例えばトランスファ成形によりパッケージングが行われている。このような半導体の樹脂封止工程に用いられる金型(以下、ICモールド用金型という)には、 HRC58以上の硬さを有して耐摩耗性に優れていること,耐食性が良好であること,ピンホールが少ないこと,熱処理変形がほぼ均一なことなどの特性が要求される。
【0003】
さらに、通常、ICモールド用金型は、樹脂封止工程において 180℃近辺の使用温度でほぼ連続して使用されるため、経年変化の少ないことが求められる。したがって、使用中における金型の寸法変化を抑制するため、ICモールド用金型に施される焼戻し処理としては、 400℃以上の高温焼戻しが採用されている。
上記ICモールド用金型の構成材料としては、従来、JIS SUS 440Cなどの溶製ステンレス鋼や、JIS SKD 11などの溶製ダイス鋼の表面にクロムメッキを施したものが用いられている。このような溶製法による鋼材の他に、高C高Cr系鋼粉を例えば熱間静水圧処理法(HIP法)などの粉末冶金法で製造した粉末鋼も提案されている。この種の鋼材として、例えば1.20wt%C−18wt%Cr−1wt%Mo−1wt%Vを含有する粉末ステンレス鋼が知られている。
【0004】
また、ICモールド用金型鋼としては、例えば特公平 7−33556号公報に、下記表1に示す化学組成を有する高C高Cr系鋼粉に,特定の条件で熱間静水圧処理を施した粉末金型鋼が開示されている。この粉末金型鋼では、靱性低下の主原因となる巨大Cr炭化物が組織中に晶出し難くなっているため、ほぼ均一微細な炭化物組織を有している。この結果、金型の靱性や耐久性の向上が図られ、SUS 440Cと同程度以上の耐食性を有している。
【0005】
【表1】
【0006】
ところで、近年、封止用樹脂には、樹脂の高硬度化,放熱性の改善を図るため、例えばエポキシ樹脂にシリカ粒子(SiO2)を50〜90%混入したものが使用されている。前記シリカ粒子はHV1000程度と高硬度であるため、このような封止用樹脂が金型内に高圧で充填される場合、金型面が著しく摩耗する,金型面の押込み疵が生じるなどの問題が顕在化している。ここで、押込み疵とは、上下金型面の間に封止用樹脂のカスが挟まることにより、金型面に出来るキズのことである。このため、ICモールド用金型鋼としては、高温焼戻し後で HRC62以上の硬さが要求されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来の溶製鋼材や粉末ステンレス鋼,上記特公平 7−33556号公報に記載の粉末金型鋼では、 400℃以上の高温焼戻し後の硬さが HRC58〜60であるため、シリカ粒子などの高硬度な粒子を混入する封止用樹脂が用いられる場合には、前述したように、金型面に摩耗や押込み疵が生じ易い欠点がある。
【0008】
このような高温焼戻し硬さに起因する欠点を改善する鋼材として、特公平 4−78716号公報に、2.20wt%C−18wt%Cr−2wt%Mo−1wt%Vを含有する粉末ダイス鋼が開示され、 400℃以上の高温焼戻し後に HRC65近くの高硬度が得られている。しかし、この粉末ダイス鋼では、C含有量が2.20wt%と高いため、耐食性が著しく低下しており、クロムメッキを施す必要がある。
【0009】
ところで、ICモールド用金型では、通常、ほぼ最終形状に近い形状に機械加工を行うため、被削性を改善する目的で予め焼なまし処理を施しておく。しかし、上記特公平 4−78716号公報に記載の粉末ダイス鋼では、C,Cr含有量が高いことに起因して、焼なまし後の硬さが HV310程度の非常に高い値を示し、切削加工が困難であるという問題が生じている。
【0010】
本発明は、上記のような問題点に鑑みなされたもので、良好な耐摩耗性,耐食性を維持しつつ、優れた被削性を有する金型鋼を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、高C高Cr系鋼材の被削性に及ぼす要因を鋭意研究した結果、高C高Cr系鋼材の化学組成が高温焼戻し硬さや焼なまし硬さに大きく影響していることを新たに知見し、本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明の請求項1に記載した優れた被削性を有する金型鋼は、N2ガスアトマイズ鋼粉をHIP法により焼結させ、870℃2時間加熱保持し、600℃まで20℃/hrで徐冷後、放冷する焼きなまし処理を行い、その後金型形状に切削加工し、さらに1130℃で30分間加熱保持後、ガス冷却し、−70℃30分サブゼロ処理し、500℃90分の高温焼戻しを2回繰り返した金型鋼であって、かつそのときの焼戻し硬さ(HRC)が62〜63で、腐食減量が52〜62(×10-2mg/500mm-2)である金型鋼であり、
その組成が重量%で、
Si: 1%以下、 Mn: 1%以下、
Cr: 15〜21%、 Mo: 3〜6%、
を含有すると共に、
V,W,Coのうち1種以上:総計で5%以下、
を含有し、かつ、Cを、
0.9%≦C%− 0.2・V%≦ 1.5%
の関係を満たすよう含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ前記焼きなまし処理後の硬さ(HV)が242〜255である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態のICモールド用金型鋼は、次に示す粉末冶金法を利用して製造することができる。
予め、N2ガスアトマイズ法により高C高Cr系急冷凝固鋼粉を作製しておき、この鋼粉を熱間静水圧プレスを用いて焼結,緻密化させた成形体を得る。そして、この成形体に焼なまし処理を施して材質を軟化させる。続いて、焼なまし状態にある成形体に、切削加工を施してほぼ最終形状に近い金型形状に成形する。最後に、この金型形状の成形体に、適宜の熱処理を施して材質を調整する。そして、最終形状のICモールド用金型には、熱処理後の成形体に研削加工や放電加工などを施して仕上げられる。
【0014】
前記焼なまし処理としては、 800〜900 ℃で2時間加熱保持した後に、 500〜700 ℃まで20℃/Hrの冷却速度で徐冷を施す。また、前記熱処理としては、1030〜1130℃で15〜30分間加熱保持後、ガス冷却する焼入れを行い、これ続いて−70℃で30〜60分間サブゼロ処理して、 400〜600 ℃で90分間加熱保持する高温焼戻しを2〜3回繰り返す。
【0015】
ところで、従来の金型鋼では、その化学組成に起因して、特に焼なまし硬さが高く、焼なまし状態の成形体に対する切削加工が困難である。このような被削性を改善するために、上記のように化学組成を設定することにより、焼なまし硬さが低下して材質が軟化し、切削加工が容易になる。
次に、上記のように化学組成を設定した理由について説明する。
C: 0.9〜1.5 %
Cは、焼入焼戻し硬さを高める元素であり、Crと結合して M23C6型,M7C3型の高硬度炭化物を形成して硬度を確保する。しかし、Cの含有量が 0.9%未満では、前記の効果が十分に達成されない。一方、 1.5%を超えて含有されると、耐食性が劣化し、焼なまし硬さが増大して、被削性が低下する。
Si:1%以下
Mn:1%以下
Si,Mnは、溶鋼の脱酸用元素として添加すると共に、焼入性の向上に寄与する。ただし、Si,Mnが多量に存在すると靱性を低下させるため1%以下とする。
Cr:15〜21%
Crは、基地組織および炭窒化物中に存在して、耐食性,焼入れ性を改善し、焼戻し効果,高温硬さを付与する元素である。しかし、Crの含有量が15%未満では、前記の効果が少なくなる。一方、Cr含有量が21%を超えると、これらの効果が飽和してしまうと共に、焼なまし硬さが増大して、機械加工が困難になる。
Mo:3〜6%
Moは、孔食の発生を抑制して耐食性を改善すると共に、二次硬化により高温焼戻し後の硬さを向上させ、金型の耐久性を増加させる元素である。しかし、Mo含有量が 3.0%未満では、前記の効果が十分に達成されない。一方、6%を超えて含有させると、靱性や加工性が低下するため、その上限を6%とする。
【0016】
そして、上記金型鋼は、以上の合金成分のほか、残部がFeおよび不可避的に混入した不純物からなる。この不純物としては、P,Sが含まれることがある。しかし、これらの元素は材質を脆くするので少ない程望ましく、いずれも1%以下に止めておく。なお、原料よりNi,Cuが不可避的に混入することがある。これらの元素は、耐食性の向上に寄与するものの、多量に含有されると焼入れ硬さを低下させるため、各々上限を1%とする。
【0017】
また、本実施形態のICモールド用金型鋼は、上記した合金成分に加え、V,W,Coのうち1種以上を総計で5%以下含有させることにより、金型の耐久性を向上させることができる。これらの合金成分は、それぞれ焼戻し軟化抵抗を高め、焼戻し後の硬さを増加させる元素である。ただし、これらの元素は高価な元素でもあり、多量に含有されると、機械加工性を害し、経済面で不利となるので、V,W,Coのうち1種以上の総量を5%以下とする。
【0018】
これら合金成分のうちVはCrより炭化物を生成しやすいため、Vを含有させる場合には、含有Vの大半がV炭化物となって優先的に晶出する。よって、充分なC含有量を確保しておくため、V含有量1%に対して、Cは 0.2%多く含有させておく。つまり、Vを含有する場合、Cは 0.9%≦C%− 0.2・V%≦ 1.5%の関係を満たすよう含有される。一方、W,Coのうちの1種が含有されてVを含有しない場合、Cの含有量は 0.9%≦C%≦ 1.5%の範囲とする。
【0019】
したがって、以上のように化学組成を設定することにより、焼なまし後の硬さが低下して材質が軟化し、容易に切削加工を行うことが可能である。そして、Moの孔食抑制効果により、耐食性が改善されており、クロムメッキ等の防食処理は不要である。さらに、二次硬化により十分な炭化物が生成され、 HRC62以上の高温焼戻し硬さが維持されており、良好な耐摩耗性に寄与している。したがって、シリカ粒子などの高硬度な粒子を混入する封止用樹脂を高圧で充填しても、金型面に摩耗やキズが生じ難くなっている。
【0020】
そして、以上のような粉末冶金法を利用して製造されるICモールド用金型鋼は、熱間静水圧プレスにより焼結および緻密化されているため、巨大なCr炭化物の晶出が抑制され、ほぼ均一微細なミクロ組織を有して、優れた靱性を備えている。なお、本発明の金型鋼は、前記各所で説明したようにICモールド用金型に限らず、高硬度粒子を含有する合成樹脂などの成形用金型鋼,ダイカスト用金型鋼としても使用することができる。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。
(1) 供試材
まず、鋼粉をHIP法により焼結させた成形体を作製した。次に、この成形体に対して焼なまし処理を行った後、焼入焼戻し処理を施した。このときの焼なましの熱処理条件は、 870℃で2時間加熱保持した後、 600℃まで20℃/hrの冷却速度で徐冷後 600℃より放冷を行うものとした。また、前記焼入焼戻しの熱処理条件は、1130℃で30分間加熱保持した後にガス冷却し、−70℃で30分間深冷処理を施して 500℃で90分間保持する高温焼戻しを2回繰り返すものとした。このような熱処理を施して得られた成形体を実施例1〜5とし、これらの化学組成は表2に示す通りである。
【0022】
【表2】
【0023】
また、上記実施例1〜4と同様の製造方法および熱処理条件により、成分範囲の異なる成形体を作製して、これらを比較例1〜5とした。そして、従来の粉末鋼には、(株)神戸製鋼所製のKAD181,KAS440に相当する粉末ダイス鋼,粉末ステンレス鋼を、それぞれ従来例1,2として用いた。従来の溶製鋼には、JIS SUS 系鋼を従来例3,JIS SKD 系鋼を従来例4として用いた。これら比較例および従来例の化学組成は、表2に示す通りである。
【0024】
上記従来例1,2に係る粉末鋼では、上記実施例1〜4と同様の熱処理条件および方法を採用した。そして、従来例3,4に係る溶製鋼では、各鋼種の代表的熱処理条件を採用した。すなわち、従来例3,4は、それぞれ 1080,1040℃で30分間加熱保持した後ガス冷却し、続いて、両従来例とも、−70℃で30分間深冷処理を施した後、 500℃で90分間保持する高温焼戻しを2回施した。
(2) 特性評価試験
a) ビッカース硬さ試験
各供試材の被削性は、焼なまし後の硬さをもって評価した。この焼なまし硬さは、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。つまり、上記実施例,比較例,従来例の各供試材から20×20×10mmの試験片を採取し、JIS-Z-2244に準じて試験を行い、焼まなし後の硬さを求めた。この試験結果は下記表3に示す通りである。
【0025】
b) ロックウェル硬さ試験
各供試材の耐摩耗性は、高温焼戻し後の硬さをもって評価した。この焼戻し硬さは、ロックウェル硬さ試験機を用いて測定した。つまり、上記実施例,比較例,従来例の各供試材から20×20×10mmの試験片を採取し、JIS−Z−2245に準じて試験を行い、焼戻し後の硬さを求めた。この試験結果は表3に示す通りである。
【0026】
c) 塩水噴霧試験
各供試材の耐食性は、塩水噴霧試験の腐食減量をもって評価した。つまり、上記の各供試材から 2.3×21×24mmの試験片を採取し、これらを乾式研磨にて#500 まで仕上げ、脱脂洗浄後、JIS−Z−2371に準じて試験を行った。7時間噴霧後、試験片の表面に付着した食塩および腐食生成物をブラシ掛けで除去し、腐食減量を測定した。このときの測定結果は表3に示す通りである。
【0027】
【表3】
【0028】
(3) 試験結果
表2,表3より、実施例1〜4では、Moを3.00〜6.00wt%含有しているため、500℃の高温焼戻し硬さが HRC62〜63と高い値を示し、良好な耐摩耗性の維持に寄与している。そして、焼なまし硬さはいずれも HV255以下の低い値を示しており、 HRC62以上の高温焼戻し硬さを維持しつつ、優れた被削性を備えていることが判る。
【0029】
さらに、Moの孔食抑制効果により、実施例1〜4は、腐食減量がいずれも52×10-2〜62×10-2mg/500mm2と極めて少ない。これに対し、比較例1〜3では、実施例には及ばないものの比較的低い焼なまし硬さを有している。ところが、これら比較例は、いずれも腐食減量が多く、耐食性に劣っている。なかでも比較例2,3にあっては、高温焼戻硬さが HRC58〜61と低く、良好な耐摩耗性が得られていない。また、比較例4,5は、それぞれ腐食減量,焼戻硬さが実施例と同程度の値を示しているものの、焼なまし硬さがHV300以上と極めて高く、被削性に問題がある。
【0030】
また、従来例1は、Cを2.23wt%と多く含有して、実施例以上の高温焼戻硬さを示しているものの腐食減量が多く、焼なまし硬さが HV310と極めて高い値を示している。そして、従来例2〜4では、実施例と同程度の焼なまし硬さを示し、被削性が良好である。しかし、これら従来例2〜4は、いずれも高温焼戻硬さが58〜61と低くなっており、耐摩耗性が劣っている。特に、従来例3,4は、いずれも腐食減量が多く、耐食性も悪くなっている。
【0031】
以上の結果から、Mo含有量が3.00wt%未満の比較例1〜5および従来例1〜4では、少なくとも耐食性,耐摩耗性,被削性のいずれかに問題がある。これに対し、Moを3.00〜6.00wt%含有する実施例1〜4では、良好な耐摩耗性および耐食性を維持しつつ、優れた被削性を備えていることが判る。
【0032】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の金型鋼では、特にMoを3〜6wt%含有しているので、耐食性の改善が図られていると共に、良好な高温焼戻し硬さを維持しつつ、焼なまし後の硬さが低下し得る。したがって、高硬度な粒子を混入した樹脂を充填する場合でも摩耗やキズが生じ難く、優れた被削性を有して所望の金型形状が容易に得られる。
Claims (1)
- N2ガスアトマイズ鋼粉をHIP法により焼結させ、870℃2時間加熱保持し、600℃まで20℃/hrで徐冷後、放冷する焼きなまし処理を行い、その後金型形状に切削加工し、さらに1130℃で30分間加熱保持後、ガス冷却し、−70℃30分サブゼロ処理し、500℃90分の高温焼戻しを2回繰り返した金型鋼であって、かつそのときの焼戻し硬さ(HRC)が62〜63で、腐食減量が52〜62(×10-2mg/500mm-2)である金型鋼であり、
その組成が重量%で、
Si: 1%以下、 Mn: 1%以下、
Cr: 15〜21%、 Mo: 3〜6%、
を含有すると共に、
V,W,Coのうち1種以上:総計で5%以下、
を含有し、かつ、Cを、
0.9%≦C%− 0.2・V%≦ 1.5%
の関係を満たすよう含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ前記焼きなまし処理後の硬さ(HV)が242〜255であることを特徴とする優れた被削性を有する金型鋼。
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JP15402196A JP3579184B2 (ja) | 1996-06-14 | 1996-06-14 | 優れた被削性を有する金型鋼 |
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JPH108185A JPH108185A (ja) | 1998-01-13 |
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- 1996-06-14 JP JP15402196A patent/JP3579184B2/ja not_active Expired - Fee Related
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