JP3577906B2 - 酸度測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食用油に含まれる遊離脂肪酸、果実飲料に含まれるリンゴ酸や酒石酸、アルコール飲料に含まれる酸、あるいはコーヒーの中のコーヒー酸等の酸度を測定する酸度測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、食品は健康や安全面から一定の水準以上の品質が要求されるようになってきている。中でも食品中に含有された酸は食品の品質に大きな影響を与えるものである。また、健康ブームからアルカリ食品の方がよいと考えられることが多く、最近では酸度の低い食品が専ら嗜好される傾向にある。
【0003】
このように各種食品の酸度は食品の消費に大きな影響を及ぼすが、その影響する程度や測定法は食品によってそれぞれ異なるものである。そこで、以下、こうした食品の代表例として▲1▼食用油,▲2▼ジュース等の果実飲料,▲3▼ウィスキーや酒、ワイン等のアルコール飲料,▲4▼コーヒーについて、それぞれの酸がどのようなもので従来どのようにして測定されていたのかを説明をする。
【0004】
先ず、食用油に含まれる酸について説明する。
わが国の食生活は急速に変化しつつあるが、その流れをみると、第1にインスタント化という大きな流れがあり、第2に手作り嗜好などに代表される多様化の流れがあるように思われる。特にインスタント指向は時代を映し出しているともいえるもので、多くの加工食品が増大傾向にある。中でもフライ食品の増加は著しい。というのはフライ食品は嗜好的にも好まれ、比較的腐敗を受けにくいという性質があるからである。
【0005】
しかし、このフライ食品も、温度や光の影響を受ける環境に長時間さらすと、空気中の酸素により油脂が自動酸化して、変敗臭が生じたり、その他品質の劣化がもたらされる。こうした理由から食用油脂および油脂加工品などの変敗、劣化に関して一般的に関心が高まり、例えば、油揚げの地域食品認証制度が発足したり、あるいは油菓子の規制が行われたりしており、また弁当や惣菜の指導要項などでも油脂の劣化について法規制が検討されている。
【0006】
ところで、こうした油脂の傷み具合、特に加熱された油脂の劣化度を知る方法としては、酸価、過酸化物価、粘度、ヨウ素価などを測定するいくつかの分析方法がある。ここで、上記したように食品の劣化に大きな影響を与えるのが温度や湿度、光であり劣化の初期には酸度の変化が大きいことを考慮すると、これらの中で酸度を直接測る酸価の測定が熱劣化の判定を行うために適当であり、また通常これが多く用いられている。
【0007】
次に、飲料水の酸について説明する。
ジュース等の果実飲料は原料果実を搾汁機にかけて得た汁液であるが、果実飲料の多くは、新鮮な果実の搾汁をそのまま用いるよりも、濃縮果汁または冷凍果汁を原料として製品を作る場合が多い。例えばオレンジジュースの場合、みかんの病害果や未熟果を除去した後に、表皮を洗浄し、これを圧搾して果肉と果汁を取り出し、さらに果汁から果皮、じょうのう膜等を取り除いている。そしてこの時点で日本農林規格に適合するように糖度や酸度などを調合し、その際に酸度を測定している。また、濃縮果汁や冷凍果汁からオレンジジュースを作る場合は、濃縮果汁や冷凍果汁に水を加えてオレンジジュースを作る際に酸度を測定している。
【0008】
続いて、アルコール飲料について説明する。
ウィスキーや焼酎に代表される蒸留を何度も繰り返してエタノールの収率を上げる蒸留酒、あるいは酒やワインに代表される素材そのものを発酵させて濾過することで得られる醸造酒、そしてその他果実酒やビール等の発泡酒等、アルコール飲料には色々と種類があってその製造過程もまちまちである。しかし、いずれのアルコール飲料の製造においても、工程の中で製品の品質確保のために酸度の測定を行っている。
【0009】
最後に、コーヒーの酸について説明する。
コーヒーの味を左右する酸味を与える物質は以下に述べるように多種類にわたるが、酸含有量がコーヒーの酸味評価の指標として重要である。コーヒー中に含まれる酸の代表としてはクロロゲン酸類が挙げられる。その含有量はコーヒー豆の焙煎の過程でも変動する。その他にも、コーヒーの酸味に関与する物質は、コーヒー酸、キナ酸、更にはクエン酸など多くの化合物がある。そして、それぞれの酸の含有量は微量でありながら、微妙なバランスとその総量が酸味の決め手になっていると考えられる。
【0010】
このように各種の食品において、その製造工程上でそれぞれの酸度を測定することが行われているが、その測定方法には様々なものがある。
【0011】
従来の酸測定方法の一例としては、基準油脂分析法,日本農林規格,JIS,日本薬局方油脂試験法,衛生試験法飲食物試験法,上水試験方法などで定められた方法があるが、いずれも測定の基本はフェノールフタレインを指示薬とした中和滴定法である。そこで、この中和滴定方法を説明するため、上水試験方法と基準油脂分析法で規定されている中和滴定法を以下説明する。
【0012】
上水試験方法での酸度は、試料1リットル中に含まれている炭酸カルシウムに酸を換算したときのmg数として定義される。具体的には試験水100mLを採り、これにフェノールフタレイン指示薬を約0.2mL加え、さらに0.02モル/Lの水酸化ナトリウム溶液を加える。そして、密栓して軽く揺り動かし、紅色が消えたならば、さらに微紅色が消えずに残るまで滴定を続けたときを中和の終点としその水酸化ナトリウムのmL数aを求める。そのときの酸度は
酸度(炭酸カルシウム換算mg/L)=a×10
で与えられる。
【0013】
次に基準油脂分析法で規定されている中和滴定法を説明する。
基準油脂分析法での酸度の定義は、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するに要する水酸化カリウムのmg数をいう。液体試料の場合、試料をその推定酸度(例えば酸度1以下は20gを採取、酸度1を越えて4以下は10gを採取、酸度が4を越えて15以下は2.5gを採取)に応じて採取して三角フラスコに正しく計り取る。これに中性溶剤100mLを加え、試料が完全に溶けるまで充分に振る。但し、ここでいう中性溶剤とはエチルエーテル、エタノール1:1の混合溶剤100mLにフエノールフタレイン指示薬約0.3mLを加え、使用直前に1/10規定(N)水酸化カリウム−エタノール溶液で中和したものである。
【0014】
固体試料の場合は水浴上で加温溶融したのち溶剤を加えて溶解する。これを、1/10規定(N)水酸化カリウム−エタノール標準液で滴定し、指示薬の色変化が30秒続いたときを中和の終点と定める。そしてこのときの水酸化カリウムのmg数を計算するものである。
【0015】
ところで、脂肪酸の測定については、このような中和滴定法によらず、ボルタンメトリーによって酸度を測定する方法がある。
【0016】
これは特開平5−264503号公報で開示されたもので、遊離脂肪酸とナフトキノン誘導体が共存する測定電解液を電位規制法によるボルタンメトリーによって測定するものである。ナフトキノン誘導体の還元前置波の電流値の大きさが、蟻酸のような低級脂肪酸からオレイン酸やリノール酸のような高級脂肪酸まで全ての脂肪酸について、遊離脂肪酸の濃度に比例し、各脂肪酸の電流値を重ね合わせた値が脂肪酸の総濃度に対応することを利用している。すなわち、ナフトキノン誘導体の還元前置波の電流値の大きさを測ることにより酸濃度を測定するものである。
【0017】
この方法で測定したデータを図11に示す。ここで、図11は従来のナフトキノン誘導体が共存する測定電解液のボルタンメトリーによる酸度測定の電流−電位の関係を示すグラフである。
【0018】
図11において、横軸は比較電極に銀−塩化銀、作用電極にφ3のグラッシーカーボンを用いたときの比較電極に対する作用電極の電位(以下、「電極電位」という。)を、縦軸はこのとき対極に流れる電流値をそれぞれ示す。但し、電流値は作用電極の表面積の大きさや粗さ、酸の濃度といった条件によって変わるものである。これに対して横軸の電圧値は酸の濃度によって若干の変動はあるものの、無視できる程度のものである。
【0019】
図11において、Aが酸濃度に比例した還元前置波を示すプレピークであり、Dがナフトキノン誘導体の本ピークである。
【0020】
ところで、特開平5−264503号公報で開示された技術を用いて脂肪酸の酸度を測定する場合、一般的にポテンショスタット等によるボルタンメトリー制御が必要となってくる。
【0021】
ここで、ポテンショスタットの動作原理を図12を用いて説明する。
図12はポテンショスタットの概略的な回路図である。
【0022】
図12において、オペアンプ28の非反転入力端子であるプラス端子には掃引電圧設定電源31が、反転入力端子であるマイナス端子には比較電極Rがそれぞれ接続されている。また、出力端子には対極Cが接続されている。オペアンプ28の出力端子と対極Cとの間には抵抗29が設けられており、この抵抗29の両端には電圧増幅回路30が接続されている。なお、作用電極Wは接地電位とされている。
【0023】
このようなポテンショスタットにより電極電位を掃引し、その時の対極Cに流れる電流I1を測定しようとする場合、まず掃引電圧設定電源31を所定の電圧V1に設定する。すると、オペアンプ28から構成されたフィードバック回路によって、電圧V1=比較電極電圧V2となるよう対極Cに電圧が印加される。そして、対極に流れる電流I1は抵抗29によって電圧V3に変換され、さらに電圧増幅回路30により増幅されて電圧V4として出力される。この電圧V4をプロッタ等に記録して、電極電位と対極電流I1の相対グラフを完成させるものである。
【0024】
この場合、対極電流I1と出力電圧V4の関係を把握しておく必要があり、また、作用電極Wは0Vで固定されているため、システム全体の電源として両電源を発生させる電源回路も必要となってくる。
【0025】
また、従来の測定においては、作用電極Wを長期間使用した場合、同じ酸度の溶液を測定しても、測定結果が異なることがあった。これは、作用電極Wが劣化し、電流波形が変化していくためである。ここで、作用電極Wの劣化とは、電極を溶媒に長期浸漬させたり電極電圧を印加するために、電極の表面に付着物が生成されることである。そして、この作用電極Wの劣化に対する再生手段としては、サンドペーパによる研磨、あるいは電極自体の交換が行なわれている。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、従来の酸度測定装置は中和滴定法を用いて酸度を測定しており、フェノールフタレイン指示薬による色変化を判断してこれを滴定の終点としているために、測定者によって終点の判断がまちまちになって、酸度が客観的に決定されないことがあった。
【0027】
そして、基準油脂分析法の脂肪酸の中和滴定法によると、中性溶剤としてエーテルとエタノールの混合溶液を用いており、エーテルの沸点が34.6℃と引火しやすいためにその取り扱いが難しい。しかも、例えば揚げ物を大量に揚げた油のように試料の色が濃い場合や、ジュース、ワイン等のように素材そのものに色が付いている場合には、滴定終点付近におけるフェノールフタレインの色の変化を的確に把握することができず、終点を読み間違えて測定値がバラつくという問題があった。さらに、試料の量が数十g、中性溶剤が100mL必要で1回の測定に大量の試料が必要となるため、測定数の増加が負担になるという問題もあった。
【0028】
また、特開平5−264503号公報で開示されたポテンショスタットを使用して測定する技術では、ポテンショスタットの取り扱いが容易でなく、専門知識も必要となるため、酸度測定に至るまでに時間がかかる。さらに、回路構成においても、W端子の電圧が0Vで固定されているため、C端子の電圧をプラスとマイナスに印加できるようにシステム全体の電源としてプラスとマイナスの両電源を用いる必要があり、広範囲出力機能を有するアナログ電圧出力回路等を備えなければならないという問題があった。
【0029】
さらに、作用電極の表面劣化に対して行う研磨作業は、専門的な知識と熟練した技術を必要とする困難な作業である。これは、電極表面の粗さが測定結果に大きく影響する要因の一つであるため、表面の粗さ度合いを測定するたびに同じレベルに整えておかなければならないからである。ここで、研磨初期の作用電極を用いてボルタンメトリーした電流波形を図13の波形1に示す。図13は作用電極を研磨処理した場合のボルタンメトリー電流波形を示すグラフである。図13において、同じ電極で測定を繰り返し行なった後の波形が波形2であるが、この波形ではプレピークがほとんど判別できなくなっている。また、図13の波形3はその後再研磨して測定したものであるが、前回の研磨後の波形である波形1と異なっていることは明らかである。
【0030】
そして、作用電極の交換に関しても同様の問題があり、製造段階の誤差が表面の粗さだけでなく表面積にまで至るので、異なる電極で測定することでさらなる誤測定の可能性があった。
【0031】
そこで、本発明は、作用電極の洗浄から酸度測定までを自動的に行うことができる酸度測定装置を提供することを目的とする。
【0032】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するために、本発明は、電解液と酸含有の被測定液とが混合された共存電解液に浸漬された作用電極、対極および比較電極部と、作用電極への印加電圧を設定するとともに該作用電極の電位を比較電極部の比較電極に対する所定の掃引範囲で掃引する酸度測定装置であって、印加電圧の値を切り替えることにより掃引範囲を広げて作用電極の電解洗浄を行い、その後、溶存酸素の還元波形が出現する範囲からシフトした+500m V 〜−300m V の掃引範囲で酸度の測定を行う制御部を有するものである。
【0033】
これによれば、作用電極と比較電極間の電位掃引幅が増幅され、また、作用電極の電解洗浄および酸度測定にそれぞれ適した電位掃引幅で掃引することができるため、作用電極の洗浄から酸度測定までを自動的に行うことができる。したがって、作用電極の研磨作業や交換作業が不要になり、長期にわたる高精度な酸度測定を行うことができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、電解液と酸含有の被測定液とが混合された共存電解液に浸漬された作用電極、対極および比較電極部と、作用電極への印加電圧を設定するとともに該作用電極の電位を比較電極部の比較電極に対する所定の掃引範囲で掃引する酸度測定装置であって、印加電圧の値を切り替えることにより掃引範囲を広げて作用電極の電解洗浄を行い、その後、溶存酸素の還元波形が出現する範囲からシフトした+500m V 〜−300m V の掃引範囲で酸度の測定を行う制御部を有する酸度測定装置であり、作用電極の洗浄から酸度測定までを自動的に行うことが可能になるという作用を有する。
【0035】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、制御部は、印加電圧の値を切り替えることにより掃引範囲を広げて作用電極の電位を−1V〜+2V間で掃引して作用電極の電解洗浄を行う酸度測定装置であり、作用電極の電解洗浄は行うが電解重合は行なわない電位で掃引できるため、作用電極の劣化が抑制されて容易に高精度な酸度測定を行うことができるという作用を有する。
【0036】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、制御部が、酸度測定動作を行うたびに作用電極の電解洗浄動作を行う酸度測定装置であり、酸度測定の直前に作用電極表面への付着物を取り除くことができるので、再現性のよい安定した酸度測定結果を得ることができるという作用を有する。
【0037】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、制御部が、複数回の酸度測定動作に一度の割合で、または所定期間に一度の割合で作用電極の電解洗浄動作を行う酸度測定装置であり、作用電極の表面が常時活性化されるので、再現性のよい安定した酸度測定結果を得ることができるという作用を有する。
【0038】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図10を用いて説明する。なお、これらの図面において同一の部材には同一の符号を付しており、また、重複した説明は省略されている。
【0039】
図1は本発明の一実施の形態における酸度測定装置を示す外観斜視図、図2は図1の酸度測定装置において上蓋を開放した状態を示す外観斜視図、図3は図1の酸度測定装置における測定容器を示す断面図、図4はベンゾキノン誘導体を混合した共存電解液のボルタンメトリーによる酸度測定の電流−電位の関係を示すグラフ、図5は酸度測定装置の酸度と還元電流との関係を示すグラフ、図6は作用電極の電解洗浄時における電極電位掃引波形の例を示すグラフ、図7は作用電極の酸度測定時における電極電位掃引波形の例を示すグラフ、図8は図1の酸度測定装置の制御系を示すブロック図、図9は作用電極の電解洗浄時における作用電極と比較電極の電圧波形を示すグラフ、図10は酸度測定時における作用電極と比較電極の電圧波形を示すグラフである。
【0040】
図1において、酸度測定装置Aの本体部7には、測定容器8(図2)のセットされる内部空間を覆う上蓋1が取り付けられている。この上蓋1に隣接して、上蓋1のロックを開放するための開放ボタン2が設けられている。また、本体部7には、測定酸度を表示する表示手段であるLCD3が設けられ、さらに、酸度の大きさによって領域を切り替えるための切り替えボタン4、測定を開始するためのスタート・ストップボタン5および本装置の電源をON,OFFする電源ボタン6が配列されている。そして、図1に示す開放ボタン2を押すと、図2に示すように上蓋1が開放され、セットされた測定容器8が露出される。なお、測定容器8は着脱自在になっている。
【0041】
図3に示すように、測定容器8の容器カバー15には、対極11、作用電極9および比較電極部12が取り付けられている。また、容器カバー15が取り付けられた溶液収容部14には、キノン誘導体,有機溶媒,電解質および被測定液が混合された共存電解液13が収容されている。キノン誘導体としては、オルトベンゾキノン誘導体もしくはパラベンゾキノン誘導体が望ましい。これらのキノン誘導体によれば、ボルタンメトリー電流波形のプレピーク値が溶存酸素の還元電流波形からシフトして出現し、溶存酸素の還元の影響を断つことができるものである。そして、容器カバー15を溶液収容部14に装着することにより、対極11,作用電極9,比較電極部12の一方端は外部に突出され、他方端は共存電解液13に浸漬される。ここで、側面がフラン樹脂10に被覆された作用電極9の材料としては、炭素もしくはグラッシーカーボンと呼ばれるガラス状炭素や、PFCと呼ばれるプラスチックフォームを1000℃〜2000℃で焼結した炭素が適当である。また、対極11の材料としては、共存電解液13中でも腐食せず化学的に安定な白金、黒鉛、金が望ましいが、腐食しないステンレス、アルミニウム及び白金含有合金等であってもよい。なお、図示はしないが、対極11、作用電極9、比較電極部12と後述する回路側とを接続するコネクタが本体部7に設けられている。
【0042】
比較電極部12は、図3に示すように、たとえばガラスからなる容器16と、この容器16から突出した比較電極17と、容器16内に収容された緩衝溶液18と、容器16の底面に設けられた液絡部19とから構成されている。
【0043】
ここで、比較電極17の材料としては銀−塩化銀が望ましいが、飽和カロメル、飽和塩化カロメル、銀−銀イオン、水銀−飽和硫酸水銀、銅−飽和硫酸銅でもよい。なお、例えば銀−塩化銀などの表示は、銀からなる比較電極17の表面を塩化銀で被覆していることを示す。
【0044】
なお、比較電極17の材料により、比較電極17と作用電極9間に発生する自然電位が異なる。これは、標準水素電極に対する電極電位が異なるためであり、例えば、比較電極17に銀―塩化銀を使用した場合と銀―銀イオンを使用した場合とでは、600mV弱の相違となる。本実施の形態では比較電極17に銀−塩化銀を使用しており、比較電極17に対する作用電極9の自然電位は+300〜+500mVとなる。
【0045】
緩衝溶液18の材料としては、塩化銀、塩化ナトリウム、塩化リチウム等の塩素化合物、アセトニトリル、硫酸銅その他の比較電極17の酸化還元反応において緩衝作用を示す溶液が適当である。
【0046】
また、液絡部19は緩衝溶液18と共存電解液13との間に位置され、これらの溶液は通過させないが電子もしくはイオンは通過させる作用を有するものであり、多孔質のセラミックスや多孔質のバイコールガラス等から構成されている。
【0047】
続いて、溶液収容部14に収容される共存電解液13について説明する。
本実施の形態では、電解質として過塩素酸リチウムが使用されている。本実施の形態の共存電解液13は、溶媒としてエタノール65%にイソオクタン35%を混合して10mLとし、オルトベンゾキノン10mM、過塩素酸リチウム50mMを溶融したもので、この溶媒に被測定液を混合して測定を行う。エタノールは電解質を容易に溶融することができ、同時に電極表面を洗浄する作用効果も合わせもっている。また、イソオクタンは熱劣化した油であっても溶融させることができ、エタノールとの溶解性も相性がよいものである。
【0048】
ここで、本発明の実施の形態では、前述のように、共存電解液13にはオルトベンゾキノン誘導体もしくはパラベンゾキノン誘導体が混合されている。
【0049】
そこで、次に、このようなベンゾキノン誘導体が共存する電解液のボルタンメトリーによる酸度測定について説明する。
【0050】
図4において、横軸は比較電極に銀−塩化銀、作用電極にφ2のプラスチックフォームカーボンを用いたときの比較電極に対する作用電極の電位および時間経過であり、縦軸はこのとき対極に流れる電流値である。ここで、電流値は作用電極の表面積の大きさや酸の濃度といった条件によって変わるものであるが、横軸の電圧値は酸の濃度によって若干変動はあるものの無視できる程度のものである。なお、実線がベンゾキノン誘導体のボルタンメトリー電流波形であり、破線が溶存酸素の還元波形を示すものである。
【0051】
図4に示すように、ベンゼン環に側鎖をもつベンゾキノン誘導体のボルタンメトリー電流波形は、溶存酸素の還元波形が出現する領域から大きくシフトして出現している。図4によれば、プレピーク波形は0mV付近から正電位側にかけて存在し、溶存酸素の還元波形が存在する負電位側から約400mVの幅でシフトされている。そして、本ピークの位置でも溶存酸素の還元の影響はほとんどない。
【0052】
このように溶存酸素の影響のない領域でプレピーク値を測定できるので、予め溶存酸素を除去しなくても、溶存酸素の影響を受けることなく、従ってバラつきもなく酸度を正確に測ることができる。
【0053】
本実施の形態における酸度測定装置Aの酸度と還元電流との関係を図5に示す。
【0054】
図5において、横軸は被測定液の酸度であり、縦軸は図4に示すプレピークの電流値である。図示するように、プレピーク値を与える電流値と被測定液に混入した酸の酸度とは比例関係にある。
【0055】
本実施の形態の酸度測定装置Aの操作方法について説明する。
先ず、前述した溶媒10mLに対して、被測定液である劣化油を0.5g混合して攪拌し、これを溶液収容部14に収容する。次いで、対極11、作用電極9、比較電極部12を有する容器カバー15を溶液収容部14に取り付ける。このようにして測定容器8の準備が終わったならば、測定容器8を酸度測定装置A内にセットして上蓋1を閉じ、測定可能状態とする。
【0056】
そして、電源ボタン6とスタート・ストップボタン5とを押して測定を開始する。すると、LCD3により測定の残り時間がたとえば秒単位で表示され、“0”になったところで酸度が表示され、一連の酸度測定操作が終了する。
【0057】
次に、本実施の形態の酸度測定装置Aの動作について説明する。
本実施の形態の酸度測定装置Aの動作には、大きく分けて2つの動作がある。一つは、作用電極9の電解洗浄動作であり、もう一つは、実際の酸度測定動作である。これらの動作は上述したLCD3が測定の残り時間を表示している間に行なわれるものであり、作用電極9の電解洗浄動作が行われ、その後、酸度測定動作が行われる。
【0058】
ここで、これら2つの動作について図6および図7を用いて説明する。
まず、作用電極9の電解洗浄動作について説明する。
【0059】
作用電極9の電解洗浄は、比較電極部12に対する作用電極9の電位を−1V〜2Vの範囲で掃引するものである。その電位掃引例を図6の例1、例2、例3に示す。図6において、横軸は経過時間(秒)であり、縦軸は比較電極17に対する作用電極9の電位(以下、「電極電位」という。)(mV)である。
【0060】
図6に示すように、電圧無印加時の電極電位つまり自然電位が+300〜+500mVであるので、500mVを中心に±1.5Vの電位幅で掃引することで、前回の酸度測定や溶媒への浸漬によって電極表面に付着した異物を電気的に取り除くことができる。なお、本実施の形態の場合、自然電位が+300mV〜+500mVであるので、電極電位の掃引範囲は−1V〜+2Vとなる。そして、電極電位の掃引範囲が−1V〜+2Vから大きく外れた場合には電極表面で電解重合が起きて測定不能になる。したがって、電極電位の掃引範囲は、電解洗浄に十分であり、且つ電解重合の起きない−1V〜+2Vが最適である。
【0061】
そして、このように作用電極9の洗浄が自動的に行われるので、作用電極9の研磨作業や交換作業が不要になる。
【0062】
次に、酸度測定動作について説明する。
この酸度測定動作は、図7に示すように、電極電位を+500mV〜−300mVの範囲で3〜10mV/sの速度で掃引し、そのとき対極11に流れる電流波形から酸度を算出するものである。ここで、+500mV〜−300mVの範囲というのは、上述した溶存酸素の影響のほとんどない領域であって電流のプレピーク値を正確に測定できる領域である。そして、掃引速度3〜10mV/sで所定の電位差を掃引すると、図4に示すような安定したボルタンメトリー電流波形を得ることができる。
【0063】
このとき、掃引速度を10mV/s以上にすると、電極が反応する速度よりも電位を掃引する速度の方が速いために、安定した電流波形が得られない。また、逆に掃引速度を3mV/s未満にすると、電極表面での反応が過剰に起こってしまい安定した電位が得られない。従って、電位の掃引速度は3〜10mV/sとなるようにする必要がある。
【0064】
そして、このような掃引を行うことで、酸の還元電流のピークが0mV付近の電位で出現する。これがプレピークであり、この電位は酸の濃度が上がると負側へシフトしていく。しかしシフトがあっても+500mV〜−300mVの範囲に設定しておけば、どのような濃度の酸度であっても測定することができる。
【0065】
ここで、作用電極9の洗浄動作と酸度測定動作との関係について説明する。
前述のように、本実施の形態では、酸度測定を行う直前に作用電極9の電解洗浄を行う手順になっている。これは、作用電極9を洗浄した後、付着物が生成される時間を与えず測定を開始しようとするものである。但し、作用電極9の洗浄は、測定頻度や測定間隔を考慮して適宜行うことができる。つまり、例えば短い間隔で頻繁に測定する場合には、3回の測定で1回の洗浄にしたり、時間制御で1時間に1回行うようにすることが可能である。また、その他、要求される測定精度に対応して行うことができる。
【0066】
次に、本実施の形態の酸度測定装置Aの制御系について説明する。
図8に示すように、マイクロコンピュータ等から構成される制御部20には、図1に示すスタート・ストップボタン5や電源ボタン6からなる操作部25、およびLCD3やLEDからなる表示部26が接続されている。また、制御部20には、制御部20から出力された所定の信号により作用電極Wへ電圧E1を印加する作用電圧制御回路24、および、制御部20から出力された所定の信号により対極電圧制御回路21へ電圧値E2を出力するD/Aコンバータ22が接続されている。対極電圧制御回路21の入力端子にはさらに比較電極Rが、また、出力端子には対極Cがそれぞれ接続されている。対極電圧制御回路21と対極Cとの間には抵抗27が設けられており、この抵抗27の両端には抵抗27間の電圧値を測定してこれを増幅する電圧増幅回路23が接続されている。そして、電圧増幅回路23の出力端子が制御部20に接続されており、制御部20では、電圧増幅回路23からの電圧値をもとに酸度が算出される。
【0067】
このような制御系によれば、操作部25の電源ボタン6(図1)が押下されると制御部20へ信号が送られて表示部26が駆動される。次に、操作部25のスタート・ストップボタン5(図1)が押下されると、制御部20から作用電圧制御回路24へ所定の電圧設定値の信号が送られ、これを受けた作用電圧制御回路24により電圧E1が作用電極Wへ印加される。さらに、制御部20からD/Aコンバータ22へ所定の比較電極電圧設定値のデジタル信号が送られ、この信号はD/Aコンバータ22でアナログ信号に変換され、対極電圧制御回路21へ電圧値E2となる電圧が出力される。対極電圧制御回路21では、D/Aコンバータ22から入力された電圧値E2と比較電極Rの電圧値E3とが比較されて、E2=E3となる電圧が対極Cに印加される。このとき、電極電位E4はE4=E1−E2(もしくはE3)なる関係となる。そして、制御部20はこの関係を考慮して電圧値の信号を出力するものである。例えば、電極電位E4を500mVにしたい場合には、E1=1000mV、E2=500mVとなる信号が制御部20から出力される。
【0068】
このように、作用電極Wに印加される電圧が可変となっているので、電極電位E4の掃引範囲が広がることになる。
【0069】
すなわち、もし、D/Aコンバータ22の電圧出力範囲が0〜1Vとして、作用電極Wの電圧を固定したとすると、電極電位E4の掃引幅は作用電極Wの電圧に関係無く1Vとなる。しかしながら、作用電極Wの電圧を0Vから2Vの間で数通りに可変できるようにするだけで、電極電位E4の掃引幅は−1V〜2Vの3Vとなり、前述のように電解洗浄に十分な電位で掃引できることになる。このように、作用電極Wの電圧E1を可変することにより、電極電位E4の掃引範囲が増大される。
【0070】
ここで、電極電位E4の掃引範囲を広げる手段として、D/Aコンバータ22の電圧出力範囲を単に増大させる方法も考えられる。しかしながら、D/Aコンバータ22は従来分解能が“基準電圧に対して1/2000”等というように設定されているので、基準電圧を上昇させることによって、入力するデジタルデータを1ビット変化させた時の出力電圧の変化量が大きくなる。これでは、電極電位E4のスムーズな掃引ができなくなり、安定したボルタンメトリー電流波形を得ることができない。したがって、電極電位E4の掃引範囲を広げる手段としては、前述のような作用電極Wの電圧を可変させることが望ましい。
【0071】
ここで、本実施の形態における電極電位掃引時の作用電極Wと比較電極Rの電圧変化を図9および図10に示す。
【0072】
図9は図6に示す作用電極Wの電解洗浄時における、図10は図7に示す酸度測定時における電極電位の掃引を行う場合の各電極の電圧波形であり、実線が作用電極Wの電圧波形、破線が比較電極Rの電圧波形である。
【0073】
図9において、洗浄開始後20秒間、作用電極Wの電圧を0Vに設定し、比較電極Rを1000mVから0mVまで掃引する。同様にして、作用電極Wの電圧を1V、2Vと20秒毎に切り替え、比較電極Rの電圧を1000mVから0mVまでの掃引を繰り返す。以上が電極電位を−1Vから2Vまで掃引する方法であり、これにより、図6に示すような波形を掃引することができる。
【0074】
また、図10に示す酸度測定時においては、作用電極Wの電圧を500mVに固定し、比較電極Rの電圧を0mVから800mVまで10mV/sの速度で掃引する。これにより、図7に示すような電極電位の掃引が行なえる。
【0075】
ここで、酸度測定動作においてボルタンメトリーした場合の電流検出方法について説明する。
【0076】
図8において、対極Cに流れる電流Iaは抵抗27によって電圧Eaに変換される。変換された電圧Eaは電圧増幅回路23により増幅されて電圧Ebとして制御部20に入力される。そして、制御部20は電圧Ebから電流Iaの経時変化を読み取り、図4に示すプレピーク値が判断される。
【0077】
次に、酸度の算出方法について説明する。
図5に示すように、プレピーク値Ipと、被測定液に混入した酸の酸度θとは比例関係にある。すなわち、酸度θ=電流値Ip×常数K+常数Bなる関係がある。したがって、予め酸度が分かっている標準試薬を2検体以上測定することで得られた比例常数KとBとを制御部20内に格納しておけば、任意の酸度を測定する場合、制御部20によって測定された電流値Ipは酸度θに変換される。
【0078】
そして、本実施の形態によれば、このようにして酸度測定が自動的に行われるので、客観性のある高精度の酸度測定結果を容易に得ることができる。
【0079】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、作用電極と比較電極間の電位掃引幅が増幅され、また、作用電極の電解洗浄および酸度測定にそれぞれ適した電位掃引幅で掃引することができるので、作用電極の洗浄から酸度測定までを自動的に行うことができるという有効な効果が得られる。
【0080】
これにより、作用電極の研磨作業や交換作業が不要になるので、作用電極の表面状態の変化に伴う測定値のばらつきがなくなり、長期にわたる高精度な酸度測定を行うことができるという有効な効果が得られる。
【0081】
また、酸度測定が自動的に行われるので、客観性のある高精度の酸度測定結果を容易に得ることができるという有効な効果が得られる。
【0082】
比較電極に対する作用電極の電位を−1V〜+2V間で掃引して作用電極の電解洗浄を行うことにより、作用電極の電解洗浄は行うが電解重合は行なわない電位で掃引できるため、作用電極の劣化が抑制されて容易に高精度な酸度測定を行うことができるという有効な効果が得られる。
【0083】
酸度測定動作を行うたびに作用電極の電解洗浄動作を行うことにより、酸度測定の直前に作用電極表面への付着物を取り除くことができるので、再現性のよい安定した酸度測定結果を得ることができるという有効な効果が得られる。
【0084】
複数回の酸度測定動作に一度の割合で、または所定期間に一度の割合で作用電極の電解洗浄動作を行うことにより、作用電極の表面が常時活性化されるので、再現性のよい安定した酸度測定結果を得ることができるという有効な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態における酸度測定装置を示す外観斜視図
【図2】図1の酸度測定装置において上蓋を開放した状態を示す外観斜視図
【図3】図3は図1の酸度測定装置における測定容器を示す断面図
【図4】ベンゾキノン誘導体を混合した共存電解液のボルタンメトリーによる酸度測定の電流−電位の関係を示すグラフ
【図5】酸度測定装置の酸度と還元電流との関係を示すグラフ
【図6】作用電極の電解洗浄時における電極電位掃引波形の例を示すグラフ
【図7】作用電極の酸度測定時における電極電位掃引波形の例を示すグラフ
【図8】図1の酸度測定装置の制御系を示すブロック図
【図9】作用電極の電解洗浄時における作用電極と比較電極の電圧波形を示すグラフ
【図10】酸度測定時における作用電極と比較電極の電圧波形を示すグラフ
【図11】従来のナフトキノン誘導体が共存する測定電解液のボルタンメトリーによる酸度測定の電流−電位の関係を示すグラフ
【図12】ポテンショスタットの概略的な回路図
【図13】作用電極を研磨処理した場合のボルタンメトリー電流波形を示すグラフ
【符号の説明】
9 作用電極
11 対極
12 比較電極部
13 共存電解液
17 比較電極
20 制御部
A 酸度測定装置
Claims (4)
- 電解液と酸含有の被測定液とが混合された共存電解液に浸漬された作用電極、対極および比較電極部と、前記作用電極への印加電圧を設定するとともに該作用電極の電位を前記比較電極部の比較電極に対する所定の掃引範囲で掃引する酸度測定装置であって、前記印加電圧の値を切り替えることにより掃引範囲を広げて前記作用電極の電解洗浄を行い、その後、溶存酸素の還元波形が出現する範囲からシフトした+500m V 〜−300m V の掃引範囲で酸度の測定を行う制御部を有することを特徴とする酸度測定装置。
- 前記制御部は、印加電圧の値を切り替えることにより掃引範囲を広げて前記作用電極の電位を−1V〜+2V間で掃引して前記作用電極の電解洗浄を行うことを特徴とする請求項1記載の酸度測定装置。
- 前記制御部は、酸度測定動作を行うたびに前記作用電極の電解洗浄動作を行うことを特徴とする請求項1または2記載の酸度測定装置。
- 前記制御部は、複数回の酸度測定動作に一度の割合で、または所定期間に一度の割合で前記作用電極の電解洗浄動作を行うことを特徴とする請求項1または2記載の酸度測定装置。
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