JP3575548B2 - 生物材料標識用磁性微粒子並びにその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、抗原抗体反応を利用した免疫検査法、並びに磁石を用いた目的とする細胞の磁気標識や磁気分離あるいは生物体内での薬剤運搬(ドラックデリバリー)等に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
後天性免疫不全症候群、成人T細胞白血病等のような新型ウイルス性疾病、あるいは各種ガンの早期検査法として、抗原抗体反応を利用した免疫測定法の開発が、現在、世界的規模で推進されている。
【0003】
従来から知られている微量免疫測定法としては、ラジオイムノアッセイ(以下、RIA法と記す)、酵素イムノアッセイ(EIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)法等が既に実用化されている。これらの方法は、それぞれアイソトープ、酵素、蛍光物質を標識として付加した抗原または抗体を用い、これと特異的に反応する抗体または抗原の有無を検出する方法である。
【0004】
本発明者らは先に特開昭63−79070、63−106559、63−108265、63−188766、63−188764、63−315951、63−315952号、特開平1−29768号公報記載のレーザ磁気免疫測定法及び測定装置についての発明を特許出願している。これらの新しい免疫測定法は標識材料として磁性微粒子を用いて、例えば磁気標識された検体の有無を干渉縞から検出する点に特徴があり、アイソトープを用いないでピコグラム以下の超微量検出が可能である。本発明者らは上述のレーザ磁気免疫測定法に基づき、磁性微粒子を抗原あるいは抗体に標識し、初めて、ウイルスの検出等を行なった。
【0005】
本発明に関わる、デキストラン被覆マグネタイト粒子に関しては、米国特許第4452773号の”Magnetic iron−dextran microspheres”として、Moldayの発明がある。この発明はマグネタイト微粒子を核として、その周りにデキストランを被覆し、このデキストランに、プロテインAあるいは抗体あるいは酵素等を結合したものである。本発明者らはMoldayの特許で開示されたデキストラン被覆マグネタイト粒子の製造方法を改良し、任意の粒径の磁性微粒子が製造できる方法を発明し、先に特開平3−141119号公報記載の「磁性微粒子の製造方法」、特開平3−242327号公報記載の「磁性微粒子の製造方法」を特許出願している。
【0006】
磁性微粒子を抗原あるいは抗体に標識し、高感度で抗原あるいは抗体を検出するためには、磁性微粒子として飽和磁化が大きく、かつ残留磁化の小さなものが好ましい。何故ならば、飽和磁化が大きなものほど印加磁界に対する応答性が高いためである。例えば、本発明者らが発明した特開平1−29768号公報記載の「レーザ磁気免疫測定法及び装置」では、傾斜磁界中で容器水面上の一点に磁気標識した検体を濃縮しているが、その際、上方に働く磁気吸引力と下方に働く表面張力の2つの力のバランスで形成される、水面上の微小突起の高さをレーザ干渉法で測定する、新しい原理の測定法を発明している。磁気吸引力と表面張力が一定ならば、飽和磁化の大きな磁性微粒子ほど水面上の微小突起の高さは大きくなるから検出感度が向上することになる。また、磁性微粒子の残留磁化が大きい場合は、磁界を取り除いても磁性微粒子が永久磁石となっているから、磁性微粒子がお互いに磁気凝集することになり、溶液中ではすぐに沈澱を生じる。従って、寸法が小さな抗体や抗原を磁気標識する場合、これらの検体が磁性微粒子の凝集塊に埋もれてしまうため、不都合である。
【0007】
さて、本発明に関わる、フェライト微粒子としては特開昭61−77699号公報記載の「無機鉄系酸化物の単結晶超微粒子の製法」、特開昭62−185305号公報記載の「磁性体超微粒子」がある。このうち後者の発明にはマグネタイトの磁化を凌ぐ、(Co−Fe−Zn)・Fe2O4系のフェライト超微粒子が技術開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらのフェライト超微粒子は、▲1▼水溶液中では分散せず、大きな凝集塊となっており、また、▲2▼生物材料と親和性の高い材料が微粒子表面に存在しないため、抗体や抗原と結合することができない等の問題点があった。本発明は、磁気応答性が高く、溶液中で分散安定性が優れ、生物材料と親和性の高い磁性微粒子を新たに提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の生物材料標識用磁性微粒子は、(Co x −Fe y −Zn z )・Fe2O4 (但し、前記組成式中の組成比を示すx、y、zは、x+y+z=1なる関係を満たす。)からなるフェライト微粒子であって、該結晶粒子径が5nmから10nmであり、表面がデキストランで被覆されていることを特徴とするものである。
請求項2記載の生物材料標識用磁性微粒子は、前記フェライト微粒子の組成式中の組成比を示すx、y、zは、0.4≦x≦0.7、0.2≦y≦0.36、0.1≦z≦0.24であることを特徴とする請求項1記載の生物材料標識用磁性微粒子である。
【0010】
請求項3記載の生物材料標識用磁性微粒子の製造方法は、モル濃度が0.01から0.1mol/lの範囲内にある等モル濃度のCoCl2とFeCl2とZnCl2からなる混合溶液を調製する工程と、前記調製工程のモル濃度の2倍のモル濃度のFeCl3溶液を前記混合溶液と等量加える工程と、混合溶液中のデキストラン濃度が0.5wt%から15wt%の範囲内になるようにデキストランを添加する工程と、攪半しながらNaOHを徐々に滴下し、pH12以上13以下で共沈反応を終了する工程と、純水で希釈・攪半して溶液中に分散浮遊したもののみを回収する工程と、デキストラン被覆フェライト微粒子以外の反応生物を限外瀘過あるいはゲル瀘過によって除去する工程とを少なくとも具備することを特徴とする方法である。
【0011】
以下、本発明を例を挙げて詳しく説明する。
本発明者らは、CoFeZnフェライトの有する高い飽和磁化を損なわないようにして、デキストランを被覆し、分散安定を図る方法を見い出し、発明を完成させた。デキストランは、上述のMoldayの発明に見られるごとく、生物分野では古くから抗体、薬剤などの生物・化学材料を固定する材料として知られている。しかしながら、本発明者らが特開平3−242327号公報記載の「磁性微粒子の製造方法」で技術開示したように、溶液中で分散安定性のよいデキストラン被覆マグネタイト微粒子を製造するためには、製造時の鉄イオン濃度とデキストラン濃度の関係、並びにアルカリ共沈反応のpHが重要であり、最適な製造条件を選ばなければ、作製されたものは直ちに沈降が生じてしまう。最適な製造条件で作製されたデキストラン被覆マグネタイト微粒子の場合、4℃で6ヶ月以上放置後も溶液の沈降はほとんど生じない。
【0012】
さて、特開昭62−185305号公報記載の「磁性体超微粒子」によれば、CoFeZnフェライト微粒子は、現存する粒径10nm前後の磁性微粒子の中では、飽和磁化は最高(80emu/g以上)である。しかし、マグネタイト微粒子と違って、複雑な組成であるため、製造条件によって磁気特性、溶液中の分散安定性が著しく左右されることが、予備実験の過程で明らかになった。例えば、アルカリ共沈時のデキストラン量が0.5wt%以下である場合、製造半日後には水とフェライト微粒子層の2層に分離し、攪半しても直ちにフェライト微粒子は沈降してしまう。また、デキストラン量が15wt%以上では、全体がゲル状になり、希土類磁石を近づけても磁石に反応しない。この溶液を希釈すると水垢のようになり、水溶液中には均一に分散しない。そこで、種々の条件で作製したデキストラン被覆フェライト微粒子のx線回折、電子顕微鏡観察(TEM)、磁化測定を実施し、水溶液中での分散安定性を調べた結果、図1に示すように、フェライト結晶粒子径は5nmから10nmのものが飽和磁化が大きく、水溶液中でも沈降しにくいことが分かった。
【0013】
すなわち、図1はフェライト結晶粒子径に及ぼすアルカリ共沈時のデキストラン濃度を調べた結果の一例であって、フェライト結晶粒子径はTEM写真から求めたものである。この図1から、デキストラン濃度が0.5wt%以下では、フェライト結晶粒子径は10nm以上であり、溶液を静置すると1時間以内にフェライト微粒子は凝集・沈降し、水とフェライト微粒子層の2層に分離する領域である。デキストラン濃度が0.5wt%から15wt%の範囲内では、フェライト結晶粒子径は5nmから10nmの範囲内にあり、磁気特性はマグネタイトよりも優れ、溶液中での分離安定性改善領域である。また、デキストラン無添加の場合、フェライト結晶粒子の平均粒径は18nmであったが、デキストラン数%添加によって結晶粒径は著しく小さくなり、溶液中での分散安定性が著しく改善される効果があることが本実験で初めて明らかになった。
【0014】
図2、図3にフェライト結晶粒子の粒子構造の劇的な変化の一例を示す。すなわち、図2は、アルカリ共沈時のデキストラン濃度が0.24wt%の場合(後述の比較対照例1)のフェライト結晶粒子の粒子構造を示した電子顕微鏡写真(倍率221,000)であり、結晶粒径が平均粒径21nmと大きいばかりでなく、大きな凝集塊となっている。一方、図3は、デキストラン濃度が10wt%の場合(後述の実施例2)のフェライト結晶粒子の粒子構造を示した電子顕微鏡写真(倍率221,000)であり、結晶粒径は5nmと小さく、かつ、均一に分散している。
【0015】
ところが、デキストラン濃度が15wt%以上では、結晶粒径に変化は見られないが、溶液がゲル状になって、磁気特性が低下した。このように、製造条件の検討にはフェライト結晶粒子径が一つの目安になることが分かった。
【0016】
次に、磁気特性がマグネタイトよりも優れ、溶液中での分散安定性に優れたデキストラン被覆フェライト微粒子を得るためのその他の製造方法の要点を以下に説明する。
まず、共沈時のpHは飽和磁化に影響するからpHの管理が重要である。例えば、濃度が0.1mol/lであるCoCl2とFeCl2とZnCl2からなる混合溶液を調製し、これに濃度が0.2mol/lであるFeCl3溶液を等量加え、これに分子量4万のデキストランを加え、水溶液濃度が0.5wt%から15wt%の範囲内で調製した後、攪半しながら徐々にNH4OHを滴下し、共沈反応を行なった結果、pH11で反応を終了して得られたものは、色は黒褐色で、希土類磁石を溶液に近づけても磁石に反応しなかった。一方、NH4OHの替わりに、NaOHを使用し、pH12から13で反応を終了して得られたものは、色は同じ黒褐色であるが磁石に鋭敏に反応するものが得られた。電子顕微鏡でフェライト結晶粒子径を観察した結果、平均粒子径5nmから10nmであっ
た。
【0017】
さらに、2価の塩化物(CoCl2−FeCl2−ZnCl2)と3価の塩化物(FeCl3)の混合比は、1:2が最も好ましく、これら塩化物の濃度によって結晶粒径が制御され、2価の塩化物濃度が0.01mol/lから0.1mol/lの範囲であると、結晶粒径5nmから10nmのものが得られる。0.01mol/l以下の濃度では、磁気特性が不十分であり、0.1mol/lでは凝集が顕著になり使用に適さない。
【0018】
2価の塩化物(CoCl2−FeCl2−ZnCl2)の混合比は、種々の組み合せが考えられるが、Co添加は結晶磁気異方性を高めるために最も効果的であるから、40%以上70%以下の添加が好ましい。Zn添加は飽和磁化向上効果があるから、10%以上25%以下の添加が好ましい。このように、CoとZnをFeに複合添加することによって、Fe単独、すなわち、Fe3O4(マグネタイト)よりも飽和磁化は約2倍の80emu/g台が得られた。
【0019】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
0.2mol/lのFeCl3・6H2Oを10ml、0.1mol/lのCoCl2・6H2O、FeCl2・4H2O、ZnCl2をそれぞれ4ml、3.6ml、2.4mlを200mlのビーカに混合し、これに予め溶解しておいた50wt%デキストラン水溶液(デキストラン分子量:4万)を5ml加え、混合溶液21mlを調製した。該混合溶液中のデキストラン濃度は10wt%であった。次に、攪半機を用いて攪半しながら、3NのNaOHを75ml徐々に加え、約10分で全量を滴下した。この時の溶液のpHは12.1であり、黒褐色の溶液が得られた。続いて、60℃の恒温槽に1時間入れ、熟成させた。この溶液は室温で1時間静置したが、沈降は全く生じなかった。次に、未反応のデキストラン及び、反応生成物のNaClを除去するために、50mlを取り、純水で希釈して全量1リットルとした後、限外瀘過機(商品名 Mintan、ミリポア社製)を用いて、分子量10万のフィルターで100mlまで濃縮し、さらに純水900mlを加え、限外瀘過する操作を3回繰り返し、回収液50mlを得た。本デキストラン被覆フェライト微粒子の組成は、Co0.4Fe0.36Zn0.24・Fe2O4であった。
【0020】
[実施例2]
0.1mol/lのFeCl3・6H2Oを10ml、0.05mol/lのCoCl2・6H2O、FeCl2・4H2O、ZnCl2をそれぞれ6ml、2.8ml、1.2mlを200mlのビーカに混合し、これに予め溶解しておいた50wt%デキストラン水溶液(デキストラン分子量:4万)を5ml加え、混合溶液25mlを調製した。該混合溶液中のデキストラン濃度は10wt%であった。次に、攪半機を用いて攪半しながら、3NのNaOHを75ml徐々に加え、約10分で全量を滴下した。この時の溶液のpHは12.1であり、黒褐色の溶液が得られた。続いて、60℃の恒温槽に1時間入れ、熟成させた。この溶液は室温で1時間静置したが、沈降は全く生じなかった。実施例1と同様に限外瀘過を実施し、回収液50mlを得た。本デキストラン被覆フェライト微粒子の組成は、Co0.6Fe0.28Zn0.12・Fe2O4であった。
【0021】
[実施例3]
0.2mol/lのFeCl3・6H2Oを10ml、0.1mol/lのCoCl2・6H2O、FeCl2・4H2O、ZnCl2をそれぞれ4ml、3.6ml、2.4mlを200mlのビーカに混合し、これに予めアミノ化処理し、溶解しておいた50wt%アミノ化デキストラン水溶液(デキストラン分子量:4万)を2ml加え、混合溶液22mlを調製した。該混合溶液中のデキストラン濃度は4.8wt%であった。次に、攪半機を用いて攪半しながら、3NのNaOHを75ml徐々に加え、約10分で全量を滴下した。この時の溶液のpHは12.3であり、黒褐色の溶液が得られた。続いて、60℃の恒温槽に1時間入れ、熟成させた。この溶液は室温で1時間静置したが、沈降は全く生じなかった。実施例1と同様に限外瀘過を実施し、回収液50mlを得た。本デキストラン被覆フェライト微粒子の組成は、Co0.4Fe0.36Zn0.24・Fe2O4であった
。
【0022】
[実施例4]
0.02mol/lのFeCl3・6H2Oを10ml、0.01mol/lのCoCl2・6H2O、FeCl2・4H2O、ZnCl2をそれぞれ7ml、2ml、1mlを200mlのビーカに混合し、これに予め溶解しておいた5wt%デキストラン水溶液(デキストラン分子量:4万)を3ml加え、混合溶液23mlを調製した。該混合溶液中のデキストラン濃度は0.65wt%であった。次に、攪半機を用いて攪半しながら、3NのNaOHを75ml徐々に加え、約10分で全量を滴下した。この時の溶液のpHは12.6であり、黒褐色の溶液が得られた。続いて、60℃の恒温槽に1時間入れ、熟成させた。この溶液は室温で1時間静置したが、沈降は全く生じなかった。実施例1と同様に限外瀘過を実施し、回収液50mlを得た。本デキストラン被覆フェライト微粒子の組成は、Co0.7Fe0.2Zn0.1・Fe2O4であった。
【0023】
[比較対照例1]
0.2mol/lのFeCl3・6H2Oを10ml、0.1mol/lのCoCl2・6H2O、FeCl2・4H2O、ZnCl2をそれぞれ4ml、3.6ml、2.4mlを200mlのビーカに混合し、これに予め溶解しておいた5wt%デキストラン水溶液(デキストラン分子量:4万)を1ml加え、混合溶液21mlを調製した。該混合溶液中のデキストラン濃度は0.24wt%であった。次に、攪半機を用いて攪半しながら、3NのNaOHを75ml徐々に加え、約10分で全量を滴下した。この時の溶液のpHは12.6であり、黒褐色の溶液が得られた。続いて、60℃の恒温槽に1時間入れ、熟成させた。本デキストラン被覆フェライト微粒子の組成は、Co0.4Fe0.36Zn0.24・Fe2O4であった。この溶液を室温で半日静置したところ、フェライト微粒子と水の2層に完全に分離し、フェライト微粒子の溶液中への分散は図れなかった。
【0024】
なお、デキストラン濃度を徐々に増やした実験の結果、デキストラン濃度0.5wt%まではデキストラン濃度と共にフェライト結晶粒子径は急激に減少すること、同濃度(フェライト結晶粒子径10nmのものが得られる)を境として、0.5wt%以上では生成したデキストラン被覆フェライト微粒子の溶液中での分散安定性が著しく改善される結果が得られた。
しかし、デキストラン濃度が15wt%以上では、共沈後の溶液はゲル状になり、永久磁石に反応するものが得られなかった。
【0025】
[比較対照例2]
0.2mol/lのFeCl3・6H2Oを10ml、0.1mol/lのCoCl2・6H2O、FeCl2・4H2O、ZnCl2をそれぞれ4ml、3.6ml、2.4mlを200mlのビーカに混合し、デキストランを添加しないで混合溶液20mlを調製した。次に、攪半機を用いて攪半しながら、3NのNaOHを75ml徐々に加え、約10分で全量を滴下した。この時の溶液のpHは12.5であり、黒褐色の溶液が得られた。続いて、60℃の恒温槽に1時間入れ、熟成させた。本フェライト微粒子の組成は、Co0.4Fe0.36Zn0.24・Fe2O4であった。この溶液は室温では、フェライト微粒子の沈降が顕著であり、放置時間とともに沈澱量も増加した。上清部に純水を加え、沈澱を捨てる、いわゆるデカンテーション操作を繰り返したが、分散安定した水溶液は得られなかった。
【0026】
つぎに、上記実施例で作製したデキストラン被覆フェライト微粒子および比較対照例で作製したフェライト微粒子の諸特性をx線回折、磁化測定、並びに上述のレーザ磁気免疫測定法で調べた結果を次に述べる。
図4はデキストラン濃度0%の比較対照例2のフェライト微粒子のX線回折パターンを示したグラフ、図5はデキストラン濃度4.8wt%の実施例3のデキストラン被覆フェライト微粒子のx線回折パターンを示したグラフである。溶液状の試料を乾燥させ、メノウ乳鉢で微粉末とした後、Cuターゲットを使用して、40kv、200mAの条件で測定した。回折スペクトルの上方の数値は、ピークを示す2θ値(度)である。比較対照例2のフェライト微粒子のX線回折パターンと実施例3のデキストラン被覆フェライト微粒子のX線回折パターンの比較から、誤差0.6%以内で両方のスペクトルの2θ値は一致している。本発明の生物材料標識用磁性微粒子の製造方法に従えば、デキストラン共存下で共沈反応させても、コアとなるフェライト微粒子の結晶は同じ物が作製できていることが分かる。なお、比較対照例2のフェライト微粒子のX線回折パターンに比べ、実施例3のデキストラン被覆フェライト微粒子のX線回折パターンのスペクトルの半値幅が広い理由は、よく知られているように、結晶粒径が小さいためである。この半値幅からScherrerの式にしたがって、結晶粒径を求めると、実施例3のデキストラン被覆フェライト微粒子の場合、平均粒径5.6nmとなり、上述のTEMから求めた値と一致した。
【0027】
次に、振動式磁化測定装置(VSM)による磁化測定結果の一例を説明する。磁化曲線の一例として、図6に実施例3のデキストラン被覆フェライト微粒子を用いた場合の実験データを示す。室温、10kOeで測定した。本発明のデキストラン被覆フェライト粒子は、総べてこの図6のように、ヒステリシスすなわち残留磁化が無いことが特徴である。このため磁気的に凝集することがない。比較対照例2と実施例3の試料を乾燥後、微粉末状にして乾燥重量を求めると、磁化は各々、80emu/g、38emu/gであった。実施例3のデキストラン被覆フェライト微粒子の磁化が比較対照例2のフェライト単体よりも小さい理由は、前述のように結晶粒径が小さいためと(磁化が結晶粒径の影響を受けることは公明である)、フェライトに結合したデキストランの増量効果によるものである。一方、本発明者らが技術開示した、特開平3−242327号公報記載の「磁性微粒子の製造方法」に基づいて作製したデキストラン被覆マグネタイト微粒子の場合、磁化は10emu/g前後、そしてマグネタイト単体の場合、磁化は44emu/gであった。実施例3のデキストラン被覆フェライト微粒子とデキストラン被覆マグネタイト微粒子の磁化を比較すると、3倍以上高いことから、本発明が優れていることが明らかである。
【0028】
図7は本発明者らが発明したレーザ磁気免疫測定装置を用いて、実施例1および3のデキストラン被覆マグネタイト、比較対照例2のフェライト微粒子、並びに上述の酸化デキストラン被覆マグネタイト微粒子(デキストランを過ヨウ素酸化した)の干渉縞中心光強度測定結果の一例を示した図である。既知濃度(乾燥重量から求めた)の試料を対象にして、純水で2倍希釈列をつくり、10μlを測定機にかけて60秒後の干渉縞の中心強度を測定した。縦軸の値は、CCDカメラの出力を8ビットA/D変換器で変換した値であって、光強度の飽和値は255である。この図7から、従来の酸化デキストラン被覆マグネタイト微粒子よりも1桁以上微量のデキストラン被覆フェライト微粒子が検出できることが分かる。この結果は、上述の磁化測定結果と一致する。なお、比較対照例2のフェライト微粒子単体の場合、磁化が大きいため、さらに微量まで検出できるが、溶液中では凝集・沈降が著しいため免疫診断用としては使用に耐えない。
【0029】
以上のデキストラン被膜フェライト微粒子の製造方法の説明では、未結合のデキストラン並びにNaCl等を除去するために、限外瀘過法を用いた例を述べた。限外瀘過法は大量の試料を処理するのに適した方法であるが、試料が少量の場合、一般に用いられているゲル瀘過法で実施することも可能である。
【0030】
【発明の効果】
本発明の生物材料標識用磁性微粒子を用いれば、磁気特性が従来の如何なる材料よりも優れており、かつ溶液中の分散安定性も優れているから、免疫診断分野に用いれば迅速・高感度診断が可能となる。例えば、本発明者らによるレーザ磁気免疫測定法に適用すれば、同一磁界中ではレーザ干渉縞の本数が増加するから検出感度、精度が向上する。あるいは、検出感度を同じにした場合、電磁石をより小型化できるから装置の小型化を図ることが出来る。
【0031】
さらに、磁石を用いた細胞の磁気分離や磁石誘導による薬剤運搬(ドラックデリバリー)の分野に用いれば、磁石応答性が優れているため、分離時間、運搬時間等の短縮が可能となる。また細胞の磁気標識に用いれば、粒子径が10nm以下であり、かつ分散性に優れているため、標識の分解能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルカリ共沈時のデキストラン濃度とフェライト結晶粒子径の関係を示したグラフである。
【図2】比較対照例1(アルカリ共沈時のデキストラン濃度が0.24wt%の場合)のフェライト結晶粒子の粒子構造を示した電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2(アルカリ共沈時のデキストラン濃度が10wt%の場合)のフェライト結晶粒子の粒子構造を示した電子顕微鏡写真である。
【図4】比較対照例2のフェライト微粒子のx線回折パターンを示したグラフである。
【図5】実施例3のデキストラン被膜フェライト微粒子のx線回折パターンを示したグラフである。
【図6】実施例3のデキストラン被膜フェライト微粒子の磁化曲線を示した図である。
【図7】レーザ磁気免疫測定装置を用いて、実施例1および3のデキストラン被膜フェライト微粒子、比較対照例2のフェライト微粒子、並びに上述の酸化デキストラン被覆マグネタイト微粒子(デキストランを過ヨウ素酸化した)の干渉縞中心光強度の測定結果の一例を示した図である。
Claims (3)
- (Co x −Fe y −Zn z )・Fe2O4 (但し、前記組成式中の組成比を示すx、y、zは、x+y+z=1なる関係を満たす。)からなるフェライト微粒子であって、該結晶粒子径が5nm以上、10nm以下であり、表面がデキストランで被覆されていることを特徴とする生物材料標識用磁性微粒子。
- 前記フェライト微粒子の組成式中の組成比を示すx、y、zは、0.4≦x≦0.7、0.2≦y≦0.36、0.1≦z≦0.24であることを特徴とする請求項1記載の生物材料標識用磁性微粒子。
- モル濃度が0.01から0.1mol/1の範囲内にある等モル濃度のCoCl2とFeCl2とZnCl2からなる混合溶液を調製する工程と、前記調製工程のモル濃度の2倍のモル濃度のFeCl3溶液を前記混合溶液と等量加える工程と、混合溶液中のデキストラン濃度が0.5wt%から15wt%の範囲内になるようにデキストランを添加する工程と、攪半しながらNaOHを徐々に滴下し、pH12以上13以下で共沈反応を終了する工程と、純水で希釈・攪半して溶液中に分散浮遊したもののみを回収する工程と、デキストラン被膜フェライト微粒子以外の反応生成物を限外瀘過あるいはゲル瀘過によって除去する工程とを少なくとも具備することを特徴とする生物材料標識用磁性微粒子の製造方法。
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