JP3573403B2 - アルミナ金属マトリックス複合材料およびその鋳造方法 - Google Patents

アルミナ金属マトリックス複合材料およびその鋳造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミナおよび炭素またはグラファイト粒子を含むアルミニウム系金属に関する。特に、本発明はアルミナ含有金属マトリックス複合材料(MMC)の鋳造に関する。
【0002】
【従来の技術】
Rohatgi et al.の米国特許第5,626,692号は、ニッケル被覆グラファイト粒子および炭化ケイ素粒子を組み合わせて中立浮力混合物を製造できることを開示している。中立浮力混合物は、溶融したアルミニウム系マトリックス中で、低密度グラファイトが浮き上がるのを阻止し、高密度炭化ケイ素粒子が沈降するのを阻止する。この溶融混合物の安定性により、特殊な急速凝固装置を使用せずに、金属マトリックス複合材料を鋳造することができる。中立浮力法により、炭化ケイ素およびグラファイトの粒子を含むアルミニウム系複合材料を鋳造するための最初の商業的に実行可能な方法が得られた。
【0003】
これらのハイブリッド炭化ケイ素−グラファイト複合材料により、優れた耐摩耗性が低コストで得られる。製造業者はこれらのハイブリッド複合材料を容易に機械加工することができるが、「硬い」炭化ケイ素粒子が炭化タングステン工具の工具摩耗速度を加速する。ダイアモンド(PCDおよびCVD−ダイアモンド被覆炭化物)は、炭化ケイ素補強した金属マトリックス複合材料を機械加工するのに十分な硬度を有する。しかし、これらのダイアモンド工具は、非常に高価であり、断続切削で起こる衝撃に耐えられず、限られた形状およびサイズでしか入手できない。炭化ケイ素を含む複合材料を機械加工する際の摩耗速度が加速されることにより、用途によっては機械加工コストが特定の用途に許容される限界を超えて増加することがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、耐摩耗性の複合材料を形成することである。
本発明のもう一つの目的は、過剰の偏析を起こすことなく、容易に鋳造できる複合材料を提供することである。
本発明の別の目的は、低い工具摩耗速度で機械加工できる複合材料を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記の事項をその特徴としている。
(1) 粒子状アルミナ0.4〜8.8体積%、炭素またはグラファイトからなる群から選択される潤滑相1〜4.4体積%、およびニッケル含有アルミナイド分散質0.5〜20体積%から実質的になる、中立浮力性で鋳造可能なアルミニウム系金属マトリックス複合材料であって、複合材料形成後のマトリックス部分が、潤滑相に対して体積比で0.3〜2.0のアルミナ、0.5〜2重量%の鉄、0.1〜1重量%のマグネシウム、および5〜19重量%のケイ素を含有し、潤滑相が20〜200μmの平均粒子径を有し、粒子状アルミナが10〜80μmの平均粒子径を有するアルミニウム系金属マトリックス複合材料。
【0006】
本発明の複合材料は、アルミナ0.4〜8.8体積%、炭素またはグラファイト1〜4.4体積%、およびニッケル含有アルミナイド(aluminide) 0.5〜20体積%を含むアルミニウム合金マトリックスからなる。アルミナは、平均粒子径が3〜250μmであり、炭素およびグラファイトは平均粒子径が10〜250μmである。この複合材料は、溶融アルミニウムまたはアルミニウム系合金中に含まれるアルミナおよび炭素またはグラファイト粒子を攪拌して溶融混合物を形成することにより、鋳造する。この溶融混合物を、マトリックス合金の液相線より高い温度から直接鋳造する。凝固している間、炭素またはグラファイト粒子がアルミナの沈降を遅延させるか、または阻止し、より均質な複合材料構造を造り出す。得られた複合材料構造は、アルミニウム系合金、アルミナ、炭素またはグラファイト、およびニッケル含有アルミナイド分散質を含む。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の組成物により、通常の装置で鋳造できる、安定したアルミナ含有アルミニウム合金マトリックスが得られる。本発明は、炭素またはグラファイトを使用して高密度アルミナ粒子の沈降を阻止し、それによって複合材料の鋳造性を著しく向上させ、部品中の粒子の分散の一様性を高める。
【0008】
MMCは、理想的には、アルミナおよび炭素またはグラファイト(Gr)を下記の比率で含み、中立の浮力を達成する。同じサイズの粒子に対して、
Al2O3 =0.42V または Gr
Al2O3 =0.74m または Gr
ただし、 V=体積
m=質量
注:上記の式は、アルミニウムマトリックスの密度2.7g/cc、炭素密度2.2g/ccおよびアルミナ密度3.9g/ccを想定している。
【0009】
中立浮力の原理にしたがえば、炭素またはグラファイトは理想的には複合材料の1〜4体積%を占め、アルミナは0.42〜1.68体積%になる。しかし、より優れた摩耗特性を達成するためにアルミナの画分をより高くしたい場合、溶融物中で大きなアルミナ粒子よりもゆっくり沈降する細かいアルミナ粒子を使用することができる。アルミナおよびグラファイトを溶融物中で混合することにより、これらの物質が複合材料の全体にわたって一様に配分される。中立浮力を達成することにより、これらの複合材料を、砂型の様なゆっくり冷却する型の中で、アルミナが大量に沈降することなく、鋳造することができる。炭素またはグラファイトの体積%を約4体積%に制限することにより、MMCの強度低下が少なくなり、優れた潤滑特性が得られる。少なくとも1.5または2体積%のグラファイトを添加することにより、耐摩耗性用途に最良の潤滑を与えることができる。
【0010】
マトリックスの中にニッケル被覆したグラファイトを導入することが、グラファイトを溶融アルミニウムの中に添加するための最も効果的な方法である。ニッケルはグラファイトを濡れ易くし、凝固の際にニッケルアルミナイド分散質を形成する。ニッケル含有アルミナイド相は、複合材料の耐摩耗性を強化する。理想的には、ニッケル含有アルミナイド相の凝固した体積画分は、1.8〜12体積%である。合金は、所望によりアルミナイド形成を促進する元素、例えば0〜3重量%の鉄、および0〜2重量%のマグネシウムを含むが、ある種のアルミニウム系マトリックス合金では、さらに多くの鉄およびマンガンを配合することができる。マトリックス合金は、0.5〜2重量%の鉄、0.1〜1重量%のマグネシウム、および5〜19重量%のケイ素を含むのが有利である。マトリックスは5〜15重量%のケイ素を含むのが最も有利である。
【0011】
所望により、ニッケル被覆したアルミナを溶融物の中に導入することにより、アルミナの濡れ性を高め、アルミニウムと反応してニッケルアルミナイドを形成する。最後に、マトリックス合金にニッケルを単純に添加することもできる。グラファイトをニッケルで被覆しない場合、グラファイトを溶融アルミニウムの中に導入するために、グラファイトを濡らす方法がさらに必要になる。あるいは、溶融物の中に鉄を導入することにより、複合材料中のニッケルを含む金属間化合物が多くなる。
【0012】
【実施例】
複合材料製造の最初に、23.1kgのアルミニウム合金413.0を融解させ、脱気し、垢取りを行なった。アルゴンガスで溶融金属を保護しながら、アルミナ含有複合材料(アルミナ22体積%)8.26kgを溶融物に加えた。この合金を加えた後、アルミナは5.1体積%になった。攪拌しながら615gのニッケル被覆グラファイト粒子(Ni50重量%)を加えることにより、公称グラファイト含有量3.5体積%の複合材料を製造した。この溶融混合物を数時間攪拌した後、混合物を700℃でASTM試験棒型中に鋳造することにより、試験試料を製造した。
【0013】
試料(複合材料)の化学分析により、下記の組成が得られた。
【0014】
Figure 0003573403
【0015】
下記の表2は、アルミナのグラファイトに対する体積比および複合材料のニッケルアルミナイドの分析結果を示す。
【0016】
Figure 0003573403
【0017】
図1は、SEM顕微鏡写真が複合材料の代表的な部分を示す。この合金は、以前のDuralcan F3S.20S(20体積%SiC)+A356複合材料を基材とするハイブリッド複合材料合金よりも大量のニッケル含有金属間化合物を含んでいた。413.0合金中の高い鉄含有量および複合材料のマグネシウム含有量が、アルミナイド相の体積画分を増加すると考えられる。
【0018】
グラファイトの平均粒子径は約85μmである。平均粒子径が10μmしかないアルミナがグラファイトを安定化させ、溶融物中での過剰の沈降を防止している。図1は、より大きなグラファイト粒子を取り囲み、安定化させるアルミナ粒子の群を示している。
【0019】
鋳造した材料を10x10x5mm摩耗ブロックに切断することにより、「リング上ブロック摩耗試験を使用する、材料の耐滑り摩耗性の標準評価方法」(“Standard Practice for Ranking Resistance of Materials to Sliding Wear Using Block−on−Ring Wear Test” )、G77, Annual Book of ASTM Standards, ASTM, Philadelphia, Pa., 1984 pp.446−62 にしたがう乾式滑り摩耗用の試験試料を得た。これらの試料をリング材料SAE−52100 に対して、0.5 m/s滑り速度および1000 m滑り間隔で試験することにより、図2の結果を得た。
【0020】
アルミナ−グラファイト複合材料は、炭化ケイ素およびグラファイトの体積画分がより高い複合材料と同等またはそれ以上の性能を示した。高負荷では、アルミナ−グラファイト複合材料は、摩耗リングの変色が少なく、ブロック材料の全体積で行なった温度測定により立証される様に、炭化ケイ素複合材料程高い摩擦熱を発生しないと考えられる。
【0021】
複合材料の機械加工性は、側方研削試験により測定した。AFADAL VMC 6030 CNC研削機(22hp(16.4kw)、100 rpm)は、2個の挿入物を含む。これらの挿入物は、PVD TiCN被覆炭化物からなり、下記の幾何学的構造を有する。
クリアランス角度 15°
ワイパークリアランス角度 15°
進入角度 90°
総直径は1.5インチ(38.1mm)で、切削部の軸方向深度は0.25インチ(0.63cm)または0.10インチ(0.25cm)である。すべての複合材料を乾式条件下で試験することにより、摩耗試験を促進した。
【0022】
図3は、アルミナ含有複合材料が、6体積%SiC−4体積%Gr複合材料よりも優れ、類似の耐摩耗性を有する10体積%SiC−4体積%Gr複合材料よりもはるかに優れた機械加工性を有することを示している。アルミナ粒子(炭化ケイ素粒子の硬度が無い)は、炭化ケイ素粒子よりも機械加工性が優れている。その上、アルミナ合金はより高い速度で機械加工し、そのために仕上げがより速い。さらに、マトリックス全体にわたって析出した脆いニッケルアルミナイド化合物がアルミニウム系マトリックスの延性を下げ、金属チップをせん断するのに必要なエネルギーを低下させた。アルミナ含有複合材料のもう一つの利点は、工具の切削速度にあまり影響されないことである。
【0023】
合金の別の製造方法では、アルミニウム−マトリックス−アルミナ含有複合材料を融解させ、この混合物中に炭素またはグラファイトを混合する。これによってアルミナおよび潤滑相を溶融物中に導入するための低コスト方法が得られる。所望により、これらの混合物にさらにアルミニウム合金を追加することにより、その溶融物中のアルミナの体積%を下げることができる。
あるいは、AlB、AlN、MgO、NiB、Si、TiN、Y、ZrB、およびZrOの様な他の添加剤も、炭素またはグラファイトと共に中立浮力複合材料を形成することができる。
【0024】
残念ながら、ある種の用途に対するアルミナおよびグラファイト複合材料の最も効果的な範囲は、理想的な中立浮力範囲内に完全には入らないことがある。アルミナ沈降を阻止するのに可能な複合材料範囲は、表3の体積%で表す範囲を含む。
【0025】
Figure 0003573403
【0026】
本発明の鋳造方法により、マトリックス合金の液相線温度より高い温度を有する溶融混合物を型の中に直接注ぎ込むことができる。本明細書の目的には、マトリックス合金の液相線は、金属間化合物以外のマトリックス合金が実質的に100%液体である温度である。この鋳造方法は、0.4〜40体積%のアルミナ、1〜15体積%のグラファイトまたは炭素、および1〜20体積%のニッケル含有アルミナイドを含む複合材料を鋳造することができる。
【0027】
しかし、アルミニウム−マトリックス−アルミナ−グラファイト複合材料を鋳造する場合、アルミナの炭素またはグラファイトに対する体積画分の比は、0.3〜2.0であるのが有利であり、0.4〜1.2であるのが最も有利である。この範囲は、アルミナの沈降を効果的に阻止する。アルミナの分布をさらに最適化するために、鋳造の直前に溶融物を攪拌することにより、粒子を一様に配分し易くなる。この沈降阻止方法により、許容できない沈降なしに鋳造物が凝固するのに十分な時間、沈降が抑制される。溶融した金属−アルミナ−グラファイト混合物が中立浮力を達成すると、アルミナは沈降せず、偏析なしに鋳造物が凝固するのに利用できる時間が大幅に増加する。これらの中立浮力混合物は、ニッケルアルミナイドの溶解温度より高い温度で安定している。
【0028】
粒子径は、炭素またはグラファイトの安定化効果を最大限に発揮させるのに重要である。理想的には、アルミナおよび炭素またはグラファイトは、マイクロメートルで測定した、表4の平均粒子径範囲を有する。
【0029】
Figure 0003573403
【0030】
沈降速度は粒子径に正比例するので、グラファイトよりも小さな粒子径を有するアルミナ粒子を使用することは、溶融混合物の安定化に貢献する。例えば、グラファイトの粒子径の半分未満のアルミナ粒子径を使用することが混合物の安定化に貢献する。グラファイトのアルミナに対する粒子径比が少なくとも5〜1、あるいは10〜1でも、100ミクロンまで、およびそれ以上の粒子径のグラファイトを含む溶融混合物が安定化する。複合材料は、小さなアルミナ粒子(<20μm)を大きなグラファイト粒子(>50μm)と組み合わせて含むのが最も有利である。さらに、効果的なグラファイト被膜潤滑性を得るために表面の平らなグラファイトを必要とする複合材料では、アルミニウムがグラファイトを覆うのを防止するのに、大きなグラファイト粒子が有利である。
【0031】
同様に、アルミナ粒子のグラファイト粒子に対する数の比を増加することにより、溶融物がさらに安定化する。グラファイト粒子1個あたりのアルミナ粒子の比を3または5にすることは、混合物の安定性に寄与する。グラファイト粒子1個あたりのアルミナ粒子の比を少なくとも10にすることにより、混合物が最も効果的に安定化する。さらに、アルミナのグラファイトに対する少なくとも1.2の体積比が、鋳造性を犠牲にすることなく、耐摩耗性を最適化する。この比は、耐摩耗性を最適化するのに少なくとも1.5であるのが最も有利である。
【0032】
あるいは、本発明は短く切ったアルミナまたは短く切ったグラファイト繊維を使用することができる。アルミナ粒子よりも単位体積あたりの表面積が大きい短く切ったアルミナをグラファイトと組み合わせるのが、沈降を阻止するのに特に効果的である。短く切った繊維を使用することにより、より大きな比率のアルミナを、特定量のグラファイトと組み合わせることができる。短く切ったアルミナまたは短く切ったグラファイトの繊維を、それらのニッケル被覆した形態で加えることにより、短く切った繊維を溶融物中に導入し易くなる。
【0033】
予期しなかった様な耐摩耗性を有する複合材料の具体例は、必須成分として2.5〜4体積%のグラファイト、3〜8体積%のアルミナおよび1〜12体積%のニッケルアルミナイドからなる。この添加剤の組合せにより、20体積%までの炭化ケイ素を含み、ニッケルアルミナイドまたはグラファイトを含まない複合材料に匹敵する性能を有する複合材料が得られる。
【0034】
【発明の効果】
アルミナ−グラファイト複合材料は、特に高負荷で極めて良好な耐摩耗性を有する。さらに、アルミナ含有複合材料は、炭化ケイ素含有複合材料と比較して、工具の寿命が向上し、切削速度に対する感受性が改良されている。沈降させる傾向があるアルミナと浮揚させる傾向があるグラファイトまたは炭素を組み合わせることにより、従来の鋳造方法を大きく変えずに鋳造できる複合材料を形成することができる。この比較的少量のアルミナ、グラファイトおよびニッケルアルミナイドにより、優れた機械加工性、および鋳鉄および炭化ケイ素ハイブリッド複合材料で達成される乾燥滑り摩耗耐性より優れた耐摩耗性を有する、商業的に鋳造できる複合材料が得られる。
【0035】
法律の規定により、本明細書は本発明の特定の実施態様を例示し、説明する。当業者には明らかな様に、請求項は本発明の形態における変形を含み、本発明の特定の態様は、他の態様を使用せずに、効果的に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルミナ5体積%およびグラファイト3.5体積%で形成した本発明の複合材料の50倍SEM顕微鏡写真である。
【図2】アルミナ5体積%およびグラファイト3.5体積%を含むアルミニウム系合金の摩耗試験結果を、鋳鉄および炭化ケイ素−グラファイトハイブリッド複合材料と比較するグラフである。
【図3】アルミナ5体積%およびグラファイト3.5体積%を含むアルミニウム系合金の摩耗試験結果を、炭化ケイ素/グラファイトハイブリッド複合材料と比較するグラフである。

Claims (1)

  1. 粒子状アルミナ0.4〜8.8体積%、炭素またはグラファイトからなる群から選択される潤滑相1〜4.4体積%、およびニッケル含有アルミナイド分散質0.5〜20体積%から実質的になる、中立浮力性で鋳造可能なアルミニウム系金属マトリックス複合材料であって、複合材料形成後のマトリックス部分が、潤滑相に対して体積比で0.3〜2.0のアルミナ、0.5〜2重量%の鉄、0.1〜1重量%のマグネシウム、および5〜19重量%のケイ素を含有し、潤滑相が20〜200μmの平均粒子径を有し、粒子状アルミナが10〜80μmの平均粒子径を有するアルミニウム系金属マトリックス複合材料。
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