JP3572983B2 - 連続熱処理炉ならびに連続熱処理炉における冷却方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続熱処理炉に関し、詳しくは、帯状材例えば鋼やアルミニウム等の金属帯を連続的に熱処理するために使用される連続熱処理炉およびその操業方法等に関する。
なお、本発明において、水素濃度の%は体積%を意味する。
【0002】
【従来の技術】
連続熱処理炉は、基本的に、鋼帯など帯状の材料を連続通板しながら所定のヒートパターンを辿らせる設備であり、加熱・均熱・冷却(徐冷,急冷等)などの処理順にそれぞれの処理機能を有する炉帯を順次配置して構成されている。
例えば冷間圧延鋼帯の連続熱処理炉は、図4に示すように、処理順に、鋼帯Sを、所定の温度に加熱あるいはさらに均熱あるいはさらに徐冷する加熱帯等10、所定の温度域で急速冷却する急冷帯11、所定の処理終了温度まで冷却するあるいはその前に過時効する冷却帯等12が配置・構成されている。
【0003】
熱処理中に材料表面が酸化すると製品外観を損ねることから、通常、連続熱処理炉内は無酸化雰囲気に調整される。鋼帯の連続熱処理炉では、雰囲気ガスとして水素ガスを数%含有した、水素ガスと窒素ガスの混合ガス(HNガスという)が一般に使用される。
このようなHNガスを用いると熱処理の進行につれて還元に与かった水素がH2O となって消費され、このままでは炉内雰囲気を無酸化の状態に保持することはできない。そのため各炉帯に雰囲気ガスの排出管と供給管を設け、古いガスを排出し新しいガスを補給して炉内の水素濃度を一定に保つことが行われている。
【0004】
ところで、この雰囲気ガスの組成はどの炉帯でも同じというわけではなく、以下に述べるように、鋼帯に付与すべき特性に応じてある炉帯では他と異なる雰囲気ガス組成を採用する場合がある。
例えばC0.01〜0.02wt%の低炭素鋼では時効性改善のために、鋼帯を加熱、均熱後に急速冷却して鋼中のCを過飽和に固溶させてから400 ℃前後に保持する所謂過時効処理が行われ、そこでの急速冷却技術としては、雰囲気ガスを熱交換器にて冷却・循環し、例えば図4に示すようなガスジェットチャンバ13から、高速ガスジェット流として鋼帯に吹きつけるガスジェット冷却法、内部に冷媒を注入した冷却ロールを鋼帯に押しつけるロール冷却法、鋼帯に水、ミストを吹きつける水冷却法、ミスト冷却法などがあり、このうちガスジェット冷却法は、他の方法に比べ冷却後の鋼帯の外観および形状が良好で設備も安価である。
【0005】
しかしながら、ガスジェット冷却法には冷却速度が小さいという欠点があり、この欠点を補うべく急冷帯では水素濃度を高めて冷却能を高くしたHNガスを使用することが、特公昭55−1969号公報、特開平6−346156号公報、特開平9−235626号公報等に開示されている。これにより急冷帯において冷却速度が50℃/sを超える十分な急速冷却が可能である。
【0006】
このように、特定の炉帯で他の炉帯とは異なる雰囲気ガスを使用する場合、他炉帯との雰囲気ガス混合を避ける必要があり、そのため他炉帯との境界にシール手段が設けられている。
シール手段の具体的構造または装置としては、例えば、(A)異組成雰囲気ガス境界部に配置され異組成雰囲気ガスの供給・排出が可能な複数の処理室を兼ねた隔壁構造(特開平5−125451号公報)、(B)シール舌片を鋼帯に摺動接触させる装置(実公昭63−19316 号公報)、(C)シールロール、ブローノズル、シールダンパを組み合わせた装置(特開昭59−133330号公報)、(D)例えば図4に示すような、材料の表裏面側から材料の通板速度と同じ速度で回転するロールを材料を挟むように配設したロールシール装置4などが知られている。なお、図4の急冷帯11においてはその入口、出口の他、ガスジェットチャンバ13を配置した急冷帯前段の出口にもロールシール装置4が設けられている。
【0007】
このようなシール手段の中で、(B)ではシール舌片との接触により鋼帯にスリ疵が発生する。特に通板速度の大きい熱処理条件下でその危険性が高い。また(A),(C)ではシールガス流量を常時確保する必要性から雰囲気ガス原単位が悪化するほか、シール性能確保のために高精度のガス流量を必要とするので設備が高価になる。これらに対し(D)では、鋼帯にスリ疵が発生せず設備も安価となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、連続熱処理炉の急冷帯では、他の炉帯(加熱帯等及び冷却帯等)よりも水素濃度の高いHNガスを使用し、これを循環・冷却して鋼帯に吹きつけるガスジェット冷却法によるのが製品表面性状および設備コストの観点から有利であり、これと同じ観点からすれば、シール手段としてロールシール装置を採用するのが有利である。
【0009】
しかし、実際に図4に示すようにロールシール装置4を急冷帯11の前後(入口および出口)に設置して急冷帯内の高水素濃度雰囲気ガスを完全に遮断しようとした場合、帯状材料に吹き付けられた急冷帯内の高水素濃度雰囲気ガスが帯状の材料に沿うことによって形成される流れ(随伴流とも呼ばれる)に起因して動圧が発生し、この発生した動圧がロールシール装置に遮断される結果、ロールシール装置付近では静圧の上昇となって現れる。例えば図5は、図4に示した連続熱処理炉に板厚0.8mm 、板幅1250mmの材料をライン速度400mpmで通板したときの急冷帯およびその前後の地点P1 〜P9 における静圧(図5(a))と雰囲気ガス中水素濃度(図5(b))の測定結果であるが、図5(a)より大きな静圧ギャップが発生している箇所があり、そのため急冷帯およびその前後にて炉圧のバランスが崩れて大きなガス流れが発生する結果、急冷帯内の高水素濃度雰囲気ガスが急冷帯の外へ流出し、図5(b)に示すように急冷帯内の水素濃度が低下することがわかる。この急冷帯内の水素濃度低下を補うためには高水素濃度HNガスの投入量を増やす必要があり、HNガス原単位の悪化を招くことになる。
【0010】
結局、ガス流防止のために徒に強固なシール装置を設けると、結果的に炉圧(炉内の雰囲気圧)分布に基づくガス流を誘発するという皮肉な結果が生じるが、従来のシール手段においてはこのような問題は考慮されていない。
なお、急冷帯からの高水素濃度雰囲気ガスの流出は、HNガス原単位の悪化を招くだけでなく、急冷帯より上流側の焼鈍中再結晶過程にある帯状材料の結晶組織に影響を及ぼすことが本発明者らの最近の研究により明らかになった。すなわち、急冷帯入側に隣接する炉帯内の水素濃度が10%を超えて高くなると急冷前の高温状態にある帯状材料の表層部で窒化が進行し、部分的な表層の硬化現象が起こって問題となるという知見が得られた。
【0011】
本発明は、前記従来技術の問題に鑑み、ガスジェット冷却方式の急冷帯の高水素濃度雰囲気ガスと急冷帯隣接炉帯(加熱帯等および冷却帯等)の雰囲気ガスとの混合を防止して、加熱および加熱後保持する炉帯の雰囲気ガス中の水素濃度と急冷帯内の雰囲気ガス中の水素濃度を適切に制御することができ、かつHNガス原単位の優れた高水素濃度急冷帯を有する連続熱処理炉を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理しその途上で帯状の材料を加熱した後水素含有ガス吹き付けにより急速冷却する連続熱処理炉における冷却方法において、帯状の材料を加熱する炉帯および加熱後保持する炉帯の雰囲気ガス中の水素濃度を10%以下に制御し、前記急速冷却を行う急冷帯内では、材料の単位断面積当たりの張力Τu(kgf/mm2)を材料の板厚t(mm)、板幅W(mm)に応じて下記の条件(式(1) 〜(3) のいずれかに該当する式)を満たす範囲に保持し、材料に水素濃度10%以上の水素含有ガスを風量密度 400m 3 /(m 2 ・ min) 以下で吹き付けることを特徴とする連続熱処理炉における冷却方法(第1の発明)である。
【0014】
記
(a) W<1350mmの場合
1.88−0.18×t−0.00080 ×W≦Τu ≦2.38−0.11×t−0.00084 ×W ‥‥(1)
(b) W≧1350mmかつt≦0.85mmの場合
0.73+0.38×t−0.00030 ×W≦Τu ≦1.23+0.35×t−0.00028 ×W ‥‥(2)
(c) W≧1350mmかつt>0.85mmの場合
1.10−0.00033 ×W≦Τu ≦1.54−0.00029 ×W ‥‥(3)
また、本発明は、帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理する順次配列された複数の炉帯を有する連続熱処理炉において、これら炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に第1のロールシール装置、出口部に第2のロールシール装置を有し、第1のロールシール装置入側部と第2のロールシール装置出側部とが接続されたことを特徴とする連続熱処理炉(第2の発明)である。
【0015】
また、本発明は、帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理する順次配列された複数の炉帯を有する連続熱処理炉において、これら炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に上流側から第1、第2のロールシール装置で仕切られたロールシール室と出口部に第3のロールシール装置を有し、ロールシール室と急冷帯内最上流部とが接続されたことを特徴とする連続熱処理炉(第3の発明)である。
【0016】
また、本発明は、帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理する順次配列された複数の炉帯を有する連続熱処理炉において、これら炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に上流側から第1、第2のロールシール装置で仕切られたロールシール室と出口部に第3のロールシール装置を有し、第1のロールシール装置入側部と第3のロールシール装置出側部とが接続され、かつロールシール室と急冷帯内最上流部とが接続されたことを特徴とする連続熱処理炉(第4の発明)である。
【0017】
また、本発明は、急冷帯の前後にブライドルロールを有することを特徴とする第2〜第4のいずれかの発明(第5の発明)である。
【0018】
【発明の実施の形態】
<第1の発明>
前述したように、急冷帯の雰囲気ガスを高水素濃度ガスとした場合、急冷帯からの高水素濃度ガスの流出によって、隣接する炉内の水素濃度の上昇がみられる。一方、前記したように、最近の研究により高温の再結晶段階にある鋼帯熱処理中の水素濃度が高い場合に、鋼帯表層部に窒化による硬化現象が起こるという知見が得られた。例えば図6は、鋼帯表層部の窒化発生に及ぼす熱処理温度と雰囲気ガス中の水素濃度の影響を示す説明図であり、再結晶温度域にて水素濃度が10%を超える条件で熱処理した場合に鋼帯表層部に窒化が起こることがわかる。
【0019】
ここで、窒化の有無は鋼板表面の硬度上昇および鋼板極表面部の窒素量の増加(オージエ分光分析等による)により判定した。
以上の知見より、急冷帯内の雰囲気ガスとして高水素濃度ガスを使用する場合には、急冷帯に隣接する徐冷帯ならびに徐冷帯の上流に位置する均熱帯および加熱帯中の水素濃度を10%以下とする必要がある。
【0020】
よって、第1の発明では、帯状の材料を加熱する炉帯および加熱後保持する炉帯の雰囲気ガス中の水素濃度を10%以下に制御することと規定した。
帯状の材料、例えば鋼帯の連続熱処理炉では、冷却帯の一部にガスジェット冷却により鋼帯を急速冷却する急冷帯が配置される。そこで、第1の発明では、上記規定に加うるに、急冷帯内で材料の単位断面積当たりの張力Τu (kgf/mm2) を材料の板厚t(mm)、板幅W(mm)に応じて前記式(1) 〜(3) のいずれか該当する式を満たす範囲に保持し、かつ材料に水素濃度10%以上の水素含有ガスを吹き付ける。この理由を図7を用いて説明する。
【0021】
図7は、急冷帯内での冷却ガスの風量密度Q、水素濃度と熱伝達係数αとの関係を示すグラフであり、αはQおよび水素濃度にほぼ比例して増大する。なお、風量密度Qは、鋼帯両面に吹き付ける風量を急冷帯内の鋼帯片面の面積で除したものである。
ここで、急冷帯にて必要とされるαの値は材料(この例では鋼板)の種類(鋼種)や板厚により異なるが、たとえばBH鋼板(焼付塗装硬化性を付与した、主に自動車用鋼板等に用いられる鋼板)の場合は急冷帯にて30℃/s以上の冷却速度が必要とされ、これは板厚1.0mm ではα:200kcal/(m2・ h・℃)以上、板厚1.6mm ではα:350kcal/(m2・ h・℃)以上に相当する。
【0022】
このように、板厚に応じた所定のαを確保する必要があるため、水素濃度には一定の下限を設けることが好ましく、また風量密度Qも板厚に応じて増加させるのが好ましいが、一方でQは板厚に応じた所定の量以下に管理する必要がある。すなわち、冷却効率を考えると冷却ガスジェットノズルと帯状材の距離を短くすることが有利であるが、風量密度Qを増加させると、鋼帯がばたついて冷却ガスジェットノズルに接触し、スリ疵が発生しやすくなる。このスリ疵が多発するQの値は、板厚および帯状材の張力などに依存し、板厚が小さいほど低い値となる。
【0023】
また、張力との関係においては、張力が低いほどスリ疵が多発するQの限界が低くなる。図7に、Τu =1.88−0.18×t−0.00080 ×W(W<1350mm)およびΤu =1.10−0.00033 ×W(W≧1350mm)の場合(A)と、Τu =1.78−0.18×t−0.00080 ×W(W<1350mm)およびΤu =1.00−0.00033 ×W(W≧1350mm)の場合(B)とについて、板厚1.0mm と板厚1.6mm におけるQのスリ疵多発限界を示す。(A)の場合、スリ疵多発限界のQは板厚が1.0mm で 150m3/(m2・min)、板厚が1.6mm で 400m3/(m2・min)となるが、いずれも冷却ガスの水素濃度が10%以上の場合に、目標のαを達成することができる。他方、Τu がこれより低い場合(B)は、水素濃度をかなり増加させなければ、はたつきなくして目標のαを達成することができない。
【0024】
なお、Τu が前記式(1) 〜(3) のいずれか該当する式の右辺値より大きいと、急冷帯内のハースロールに鋼帯が巻き付く際にバックリングや塑性変形が発生し易くなり品質上問題がある。また、急冷帯の張力と徐冷帯もしくは均熱帯の張力との差が必要以上に大きくなり、張力制御用の例えばブライドルロールのモータパワーが過剰に必要となるなど、経済的に好ましくない影響が生じる。
【0025】
よって、第1の発明では、急冷帯における冷却ガスの水素濃度および風量密度を限定し、かつ材料の張力を前記式(1) 〜(3) のいずれか該当する式の範囲に保持するという限定を設けた。なお、板厚の寄与につき前記式(1) 〜(3) において係数の符号等が異なるのは、薄物ではバックリング防止を重視した実験式、厚物では張力過多による板の塑性変形の防止およびつなぎ材との張力段差低減を重視した実験式によりそれぞれ解析を行うことが好ましいことによる。
【0026】
第1の発明の前記規定を満たすには、水素含有ガス(急冷帯においては水素濃度10%以上の高水素濃度ガス)吹き付けを行う急冷帯に隣接する徐冷帯ならびに徐冷帯の上流に位置する均熱帯および加熱帯中の水素濃度が10%を超えない範囲で、急冷帯内の水素含有ガスをシールし得るシール装置が必要であり、そのような高性能のシール装置は第2〜第4の発明により実現する。
【0027】
<第2の発明>
図2は、第2の発明に係る連続熱処理炉の一例を示す模式図である。図示のように、この連続熱処理炉では、複数の炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯11であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に第1のロールシール装置4A、出口部に第2のロールシール装置4Bを有し、第1のロールシール装置4A入側部と第2のロールシール装置4B出側部とが連通管1により接続されている。かかる接続手段は本例の連通管に限定されず、例えば被接続部分の炉殻同士を連結して構成してもよい。なお、図2において、図4と同一または相当部分には同じ符号を付し説明を省略する。
【0028】
この構成により、急冷帯を挟んだ上流および下流の炉の炉圧がほぼ等しくなるので、例えば徐冷帯側で炉圧変動が発生してもこの変動は上流側の雰囲気のやりとりにより緩和され、かつ、炉圧調整は急冷帯と、それ以外の炉との2者のバランスを取るだけで済む。無論、随伴流とのバランス上、入側では急冷帯への微量のガス流入、出側では急冷帯からの微量のガス漏洩を許容することとなるが、炉圧分布(炉圧バランスの悪化)により発生し得るガス流に比べればその量はずっと少なくて済む。また窒化の懸念のある急冷帯上流側では急冷帯へ流入する方向へのガス流を有するので、窒化防止上も有効である。
【0029】
なお連通管1内の雰囲気圧は急冷帯入口側と出口側の炉帯の平均圧となるので、ここに炉圧計(図示せず)を設けて急冷帯との間の炉圧管理を行うと、なお好適である。
この構成により、加熱帯等10と冷却帯等12の炉圧差がなくなり、この炉圧差に起因していた急冷帯11と急冷帯隣接炉帯10,12との間の雰囲気ガス混合が抑制される。
【0030】
<第3の発明>
図3は、第3の発明に係る連続熱処理炉の一例を示す模式図である。図示のように、この連続熱処理炉では、複数の炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯11であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に上流側から第1、第2のロールシール装置4A、4Bで仕切られたロールシール室3と出口部に第3のロールシール装置4Cを有し、ロールシール室3と急冷帯内最上流部6とが連通管2により接続されている。かかる接続手段は本例の連通管に限定されず、例えば被接続部分の炉殻同士を連結して構成してもよい。なお、図3において、図4と同一または相当部分には同じ符号を付し説明を省略する。
【0031】
この構成により、ガスジェットチャンバ13配設部でのガス噴射圧の変動によって生じていた急冷帯11入口内外での炉圧差がなくなり、かかる炉圧差に起因していた急冷帯11と加熱帯等10との間の雰囲気ガス混合が抑制される。
<第4の発明>
図1は、第4の発明に係る連続熱処理炉の一例を示す模式図である。図示のように、この連続熱処理炉では、複数の炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯11であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に上流側から第1、第2のロールシール装置4A、4Bで仕切られたロールシール室3と出口部に第3のロールシール装置4Cを有し、第1のロールシール装置4A入側部と第3のロールシール装置4C出側部とが連通管1により接続され、かつロールシール室3と急冷帯内最上流部6とが連通管2により接続されている。かかる接続手段は本例の連通管に限定されず、例えば被接続部分の炉殻同士を連結して構成してもよい。なお、図1において、図4と同一または相当部分には同じ符号を付し説明を省略する。
【0032】
この構成により、加熱帯等10と冷却帯等12の炉圧差がなくなり、この炉圧差に起因していた急冷帯11と急冷帯隣接炉帯10,12との間の雰囲気ガス混合が抑制される。同時に、ガスジェットチャンバ13配設部でのガス噴射圧の変動によって生じていた急冷帯11入口内外での炉圧差がなくなり、かかる炉圧差に起因していた急冷帯11と加熱帯等10との間の雰囲気ガス混合が抑制される。
【0033】
また、上記説明から自明の如く、第2〜第4の発明は、従来の連続熱処理炉において、本発明で指定される炉内二地点間に通板経路以外の通気接続経路を設けたものであるから、ごく簡単な設備改造を行うだけで実施可能である。
<第5の発明>
前記のように、第1の発明で急冷帯での張力を式(1) 〜(3) のいずれかの範囲に保持することとした。ところが、加熱帯等では鋼帯の温度上昇とともに鋼帯の降伏応力が低下するため、張力を過大にすると加熱帯等内のロールに鋼帯が巻き付く際に座屈する現象(ヒートバックルと称す)がみられる。実操業では、鋼帯の板厚が比較的厚い場合には加熱帯等も含めた連続熱処理炉全体にわたり張力を高くして通板することも可能であるが、比較的薄い板厚の鋼板を通板する際には、加熱帯等ではヒートバックル防止のために張力を低め、急冷帯ではばたつき抑制のために張力を高めて通板しなければならない。このように加熱帯等と急冷帯とで張力を違える必要があり、そのための好適手段として第5の発明では第2〜第4の発明のいずれかにおいて、急冷帯の前後にブライドルロールを有することとした。これにより、加熱帯等での張力は低く保ちながら、急冷帯での張力を式(1) 〜(3) のいずれかの範囲に保持することができる。
【0034】
なお、本発明において、各ロールシール装置のシールロールと鋼帯とのギャップは5mm以下とするのが好ましい。また、シールロールは、熱膨張による変形を抑制するために水冷型のものや、またロールの素材に熱膨張係数の小さい素材、例えばセラミックを用いたものが好ましい。
【0035】
【実施例】
冷間圧延鋼帯の連続熱処理炉を対象に、図2、図3、図1に示した形態で第2、第3、第4の発明を実施して実施例1、実施例2、実施例3とした。また、図2、図3、図1からわかるように、実施例1、実施例2、実施例3は第5の発明に則り、急冷帯前後にブライドルロール8を設置して急冷帯張力を加熱帯張力と分離して制御できるような設備構成としている。
【0036】
なお、実施例4として、第4の発明(図1に示す、実施例3と同じ設備)において第5の発明の要件を満たさない(ブライドルロールがない)状態を想定し、急冷帯張力を前記式(1) 〜(3) のいずれか該当する式の範囲を下回る(第1の発明の要件を満たさない)加熱帯張力と同じとした例を示す。
上記の実施例1、実施例2、実施例3および実施例4について、急冷帯の高水素濃度雰囲気ガス(水素濃度約30%)使用量、鋼帯の窒化発生頻度を調査し、図4に示した従来の連続熱処理炉で張力について前記式(1) 〜(3) のいずれか該当する式を満たして操業した場合の同調査実績(これを比較例とする)と比較した。なお、図4では第2〜第4の発明範囲外でブライドルロールを備えた従来炉の例を示した。また、実施例3についてはさらに、板厚0.8mm 、板幅1250mmの材料をライン速度400mpmで通板中に急冷帯およびその前後の地点P1 〜P9 (図1参照:図4の測定地点と同じ位置)における静圧と雰囲気ガス中水素濃度を測定した。ここに、連続熱処理炉は、急冷帯の前段の炉帯が徐冷帯、後段の炉帯が過時効帯であり、雰囲気ガスがHNガスである。
【0037】
実施例3における前記静圧測定結果および雰囲気ガス中水素濃度測定結果を前掲の図5(a)および図5(b)にそれぞれ重ね合わせて示し、実施例1〜3、比較例の雰囲気ガス使用量と窒化発生頻度を表1に示す。なお表1の雰囲気ガス使用量と窒化発生頻度は比較例を100 とした相対指数で示した。
図5、表1より、本発明によれば急冷帯と急冷帯隣接炉帯との間での雰囲気ガス混合が有効に抑制され、雰囲気ガス使用量が削減でき、窒化も防止できることが明らかである。
【0038】
また、急冷帯(RC)および徐冷帯(SC)、過時効帯(OA)の炉圧・水素濃度の経時変化の例を実施例1(図8)および比較例(図9)について示すが、徐冷帯において炉圧の変動があっても、本発明においては急冷帯との圧力バランスが保たれ、急冷帯とその前後帯との間のガス流による水素濃度変化が生じていないことが分かる。
【0039】
さらに、表1に併記した急冷帯張力(制御値)、および急冷帯内での鋼帯のばたつき振幅(調査値)が示すように、実施例1、実施例2、実施例3では、急冷帯前後のブライドルロールにより急冷帯張力を加熱帯張力と切り離して前記式(1) の範囲に制御したので、加熱帯にてヒートバックルを発生させることなく急冷帯内の鋼帯のばたつき振幅を抑制することができた。一方、実施例4では、張力が前記式(1) 〜(3) のいずれか該当する式の範囲を下回ったため、急冷帯内では冷却ガス吹き付けによる鋼帯の鋼帯のばたつき振幅が大きくなり、鋼帯が冷却ガスジェットノズル先端に接触してスリ疵が発生するに至った。なお、鋼帯のばたつきの影響で実施例3と比較してαにも若干の低下がみられた。実施例4においては風量密度Qを減少させればばたつきは収まるが、その場合はαの値を180kcal/(m2・ h・℃)以上(板厚0.8mm にて30℃/sの冷却速度を確保できる値)もしくは350kcal/(m2・ h・℃)以上(板厚1.6mm にて30℃/sの冷却速度を確保できる値)に確保することが困難となる。
【0040】
一般に、鋼帯のばたつき振幅は、通板速度が高速になるほど、また、冷却ガス風量が増大するほど大きくなるのであるが、本発明によれば、第5の発明に従い急冷帯前後にブライドルロールを設置し、第1の発明に則って急冷帯張力を制御することで、かかるばたつき振幅を小さくすることができ、その結果、鋼帯と冷却ガスジェットノズル先端との間の距離を短縮できるので、同一冷却ガス風量において、より高い冷却効率を実現することができる。
【0041】
【表1】
【0042】
【発明の効果】
かくして本発明によれば、ガスジェット冷却方式の急冷帯において、雰囲気ガスの水素濃度を10%以上とした高効率ガスジェット冷却を実施するにあたり、急冷帯と急冷帯隣接炉帯(加熱帯等及び冷却帯等)との間の雰囲気ガス混合を簡単な手段にて防止できる連続熱処理炉が実現し、特に鋼帯の連続熱処理では雰囲気ガス原単位を大幅に改善でき、さらに高水素濃度雰囲気ガスの影響による加熱帯における窒化の心配もなくなるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】第4の発明に係る連続熱処理炉の一例を示す模式図である。
【図2】第2の発明に係る連続熱処理炉の一例を示す模式図である。
【図3】第3の発明に係る連続熱処理炉の一例を示す模式図である。
【図4】従来の連続熱処理炉の一例を示す模式図である。
【図5】従来炉および実施例3での急冷帯前後にわたる雰囲気ガスの(a)は圧力分布(b)は水素濃度分布を示すグラフである。
【図6】鋼帯表層部の窒化発生に及ぼす熱処理温度と雰囲気ガス中の水素濃度の影響を示す説明図である。
【図7】急冷帯内での冷却ガスの風量密度Q、水素濃度と熱伝達係数αとの関係を示すグラフである。
【図8】実施例1についての炉圧(a)・水素濃度(b)の経時変化を示すグラフである。
【図9】比較例についての炉圧(a)・水素濃度(b)の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
S 材料(帯状の材料,鋼帯)
1,2 連通管
3 ロールシール室
4 ロールシール装置
4A 第1のロールシール装置
4B 第2のロールシール装置
4C 第3のロールシール装置
6 急冷帯内最上流部
8 ブライドルロール
10 急冷帯隣接炉帯(加熱帯等)
11 急冷帯
12 急冷帯隣接炉帯(冷却帯等)
13 ガスジェットチャンバ
Claims (5)
- 帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理しその途上で帯状の材料を加熱した後水素含有ガス吹き付けにより急速冷却する連続熱処理炉における冷却方法において、帯状の材料を加熱する炉帯および加熱後保持する炉帯の雰囲気ガス中の水素濃度を10%以下に制御し、前記急速冷却を行う急冷帯内では、材料の単位断面積当たりの張力Τu(kgf/mm2)を材料の板厚t(mm)、板幅W(mm)に応じて下記の条件を満たす範囲に保持し、材料に水素濃度10%以上の水素含有ガスを風量密度 400m 3 /(m 2 ・ min) 以下で吹き付けることを特徴とする連続熱処理炉における冷却方法。
記
(a) W<1350mmの場合
1.88−0.18×t−0.00080 ×W≦Τu ≦2.38−0.11×t−0.00084 ×W
(b) W≧1350mmかつt≦0.85mmの場合
0.73+0.38×t−0.00030 ×W≦Τu ≦1.23+0.35×t−0.00028 ×W
(c) W≧1350mmかつt>0.85mmの場合
1.10−0.00033 ×W≦Τu ≦1.54−0.00029 ×W - 帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理する順次配列された複数の炉帯を有する連続熱処理炉において、これら炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に第1のロールシール装置、出口部に第2のロールシール装置を有し、第1のロールシール装置入側部と第2のロールシール装置出側部とが接続されたことを特徴とする連続熱処理炉。
- 帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理する順次配列された複数の炉帯を有する連続熱処理炉において、これら炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に上流側から第1、第2のロールシール装置で仕切られたロールシール室と出口部に第3のロールシール装置を有し、ロールシール室と急冷帯内最上流部とが接続されたことを特徴とする連続熱処理炉。
- 帯状の材料を雰囲気ガス中で熱処理する順次配列された複数の炉帯を有する連続熱処理炉において、これら炉帯のうち最初と最後を除き1つが水素濃度 10 %以上の雰囲気ガス吹き付けにより材料を急速冷却する急冷帯であり、かつ雰囲気ガスシール手段として入口部に上流側から第1、第2のロールシール装置で仕切られたロールシール室と出口部に第3のロールシール装置を有し、第1のロールシール装置入側部と第3のロールシール装置出側部とが接続され、かつロールシール室と急冷帯内最上流部とが接続されたことを特徴とする連続熱処理炉。
- 急冷帯の前後にブライドルロールを有することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の連続熱処理炉。
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