JP3572087B2 - 加圧液体ヘリウム冷却用磁気冷凍機 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、超電導コイル中空部の形成する強磁界と筒状の超電導磁気遮蔽体の形成する零磁界との間を往復移動する磁性作動体の発生する寒冷によって、加圧液体ヘリウムを超流動域まで冷却する磁気冷凍機に関するものである。
【0002】
【従来技術】
磁性作動体を超電導コイルの中空部(ボア部)の強磁界で励磁させて発熱させる行程と、超電導磁気遮蔽体の中空部の形成する零磁界中で断熱消磁させて寒冷を発生させる行程とを繰り返す磁気冷凍機は、既に公知である(特開平4−177065)。
【0003】
液体ヘリウム温度では、超電導磁気遮蔽体は、Nb−Ti合金などの超電導体薄層と金属AlやCuなどの常電導体金属層とを交互に積層して円筒体とされ、超電導コイルの軸線方向直近の強磁界中に配置しても、当該遮蔽体の中空部は、完全な零磁界を得られ、極めて安定した磁気遮蔽を実現することができる。このような磁気遮蔽体を超電導コイルの近傍に共軸状に列設することによって、Gd−Ga−ガーネットなどの磁性作動体の励磁と消磁との移動往復工程を小さくすることができ、磁気冷凍機の小型化を図ることができる。
【0004】
上記の液体ヘリウム用磁気冷凍機では、往復移動を繰返す磁性作動体から、励磁過程で発する熱を高温側熱源に逃がし、他方、消磁過程では、寒冷を低温側熱源である液体ヘリウムに移送する熱スイッチが必要である。
【0005】
このような非静止型磁気冷凍機に関しては、従来技術には、超電導コイルの下方の消磁空間に低温側の液槽を設け、消磁過程では、冷却された磁性作動体でヘリウムガス相を冷却凝縮し、液体ヘリウムに冷却するものがある。この装置では、励磁過程では、高温側熱源とは、固体伝熱部材を介して機械的熱接触により伝熱させるものであった。
【0006】
また、本出願人は、ヘリウム液槽に熱伝達可能な固体伝熱部材を消磁空間内に突出させ、消磁過程では消磁空間に移行した磁性作動体の表面を伝熱部材と機械的に接触させる熱スイッチを備えた液体ヘリウム冷却用の冷凍機を提案した(特願平4−174675号)。この装置は、このような熱スイッチを、高温側熱源と磁性作動体との間にも設けて、磁性作動体の往復移動のみで、励磁−消磁過程と熱流切替とを行なう装置であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
液体ヘリウム用の磁気冷凍機では、入手容易な常圧の液体ヘリウムを高温側熱源とし、低温側熱源も常圧近傍にある液体ヘリウムから出発するのが、磁気冷凍機の小型化にとり好都合である。
【0008】
そこで、両熱源の出発物質に常圧の沸点温度4.2Kの液体ヘリウムを使用する場合には、磁性作動体と液体ヘリウムとの間を、機械的熱スイッチや気相を介在させないで、直接的に接触させて伝熱する構造とする必要がある。
【0009】
この場合には、励磁過程と消磁過程とでは、磁性作動体がそれぞれ高温側ヘリウム浴と、低温側ヘリウム浴に接触し、かつ両ヘリウム浴は、相互に熱移動を生せず熱的に遮断できるような熱スイッチが必要である。
また、低温側液体ヘリウム浴が低温になるほど、ヘリウムの平衡蒸気圧が低下して、気相が発生しやすくなり、低温側の液体ヘリウムと磁性作動体との間にヘリウムガスが介在するようになると、熱伝導が低下するので、超低温でも消磁過程で磁性作動体は液体ヘリウムと直接に接触している必要がある。
【0010】
本発明は、以上の観点から、常圧の液体ヘリウム浴を超流動域にまで冷却する簡便小型の磁気冷凍機を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明は、2つの発明に大別できる。まず、第1の発明は、断熱性シリンダーに磁性作動体から成るピストンを内装して、ピストンの往復移動に対して、磁性作動体の励磁・消磁と、シリンダー内への液体ヘリウムの吸入・排出と、磁性作動体−液体ヘリウム間の熱伝導と、を連動させる方式の磁気冷凍機である。
【0012】
即ち、第1発明は、共軸状に列設された超電導コイルと筒状超電導磁気遮蔽体との中空部に、磁性作動体のピストンを往復移動可能にかつ水密的に内装した断熱性シリンダーが内設固定され、当該シリンダーの磁気遮蔽体側底部が高温側ヘリウム液槽に連通され、かつ当該シリンダーの超電導コイル側底部が、加圧手段を備えた低温側ヘリウム液槽に連通されて、当該磁性作動体の往復移動により、磁性作動体の励磁・消磁過程と、シリンダー内への液体ヘリウムの吸入・排出過程とを連動させて、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを冷却するようにした磁気冷凍機を要旨とするものである。
【0013】
第2発明は、高温側の液体ヘリウム槽と低温側の液体ヘリウム槽とを貫通孔を具備した断熱性隔壁で隔離し、当該貫通孔を磁性作動体が挿通移動させる方式のものである。
【0014】
即ち、第2発明は、高温側ヘリウム液槽内に固定された超電導コイルと加圧手段を備えた低温側ヘリウム液槽内に固定された超電導磁気遮蔽体とが、両液槽を断熱的に隔離する隔壁に設けた貫通孔と共軸状に列設され、
磁性作動体とその両端に接続された同断面の断熱性栓体部材とから成る作動柱体が、上記貫通孔に水密的に摺接して貫装されて、当該磁性作動体が超電導コイルと磁気遮蔽体との中空部を往復移動可能として、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを冷却するようにした磁気冷凍機を要旨をするものである。
【0015】
【作用】
第1発明において、シリンダー内をピストンである磁性作動体が超電導コイルの中空部に位置するときは、磁性作動体は励磁されて発熱し、このとき、シリンダー内には高温側ヘリウム液槽からの高温側液体ヘリウムが吸引充填されて、この高温側液体ヘリウムが磁性作動体と直接接触して当該作動体の発熱を冷却し、他方、低温側ヘリウム液槽からの低温側液体ヘリウムがシリンダーから排出されているので、この励磁過程で低温側液体ヘリウムが加熱されることはない。
【0016】
次に、往復機構により、シリンダー内を磁性作動体が移動すると、高温側液体ヘリウムを排出しながら低温側液体ヘリウムを吸引充填し、同時に磁性作動体は磁気遮蔽体の中空部に移動するので、断熱消磁により寒冷を発して、この寒冷を以て低温側液体ヘリウムを直接接触して冷却する。このとき、高温側液体ヘリウムは、ピストンによりシリンダーから高温側ヘリウム液槽に排出されているので、寒冷が高温側液体ヘリウムに移動して減殺されることはない。
また、磁性作動体から形成したピストンの形状は、シリンダー内面に合致する円柱状又は円板状とするが、磁性作動体からの熱伝導を高めるためには、厚さを小さくした円板状として、液体ヘリウムとの伝熱面積を大きくするのが好都合である。
【0017】
以上の行程を往復機構だけで、繰り返し行うと、励磁行程の発熱は、大気圧近傍の圧力下の高温側液体ヘリウムの蒸発により、吸収されるので、高温側の液体ヘリウム温度はほぼ一定であり、高温側ヘリウム液槽には、蒸発した液体ヘリウムは、別個に設けたジュワ瓶から逐次補充する。
【0018】
他方、低温側液体ヘリウムは、運転当初は大気圧近傍の圧力下の液体ヘリウムであるが、この繰り返し行程により、次第に冷却されて、超流動ヘリウム温度に達するが、従って蒸気圧も低下するので、シリンダー内への吸引の際に気化して、磁性作動体と液体ヘリウムとの間に気相が介在して、磁性作動体からの熱伝導を低下させる。低温側ヘリウム液槽に設けた加圧手段は、ヘリウムを加圧して、蒸発を抑制し、消磁過程でのシリンダー内へ液相を供給し、磁性作動体に液体ヘリウムが接触するのを確保するものである。
【0019】
第2発明は、作動柱体が、高温側液槽と低温側液槽とを隔離する隔壁の貫通孔を水密的に摺動するので、高温側液槽と低温側液槽との液体ヘリウムが貫通孔を流通するのを防止する。また、隔壁の高温側液槽側に配置した超電導コイルと他方の高温側液槽側に配置した超電導磁気遮蔽体との間を当該柱体の磁性作動体が往復移動するとき当該柱体の磁性作動体両側に取着した断熱性栓体が、当該貫通孔をヘリウム流通不能に且つ断熱的に閉止する。
【0020】
そこで、磁性作動体が超電導コイル中空部に位置して励磁発熱すると、磁性作動体と接触している高温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムにより直接冷却されるが、その発熱は低温側液体ヘリウムには影響を生じない。
【0021】
次に、磁性作動体が磁気遮蔽体の中空部に移動して位置すると消磁されて寒冷を発すると、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを直接冷却する。
この行程を繰り返すと、低温側液体ヘリウムは超流動ヘリウム域までは低温に保持することが可能である。
【0022】
高温側液槽と低温側液槽との間の隔壁は、単に断熱板状によっても良いが、両槽間を隔設する真空空間としても良い。この場合には、磁性作動体が貫装される貫通孔は、両槽間を接続する断熱性管として、この管内を磁性作動体が往復移動可能に貫通する構造とする。
【0023】
第2発明においても、運転当初は市販の常圧下の液体ヘリウムを利用し、また低温側液槽での気相の発生を防止する為に加圧手段が設けられる。
【0024】
第1発明も第2発明も、低温側ヘリウム液槽が加圧されているから、磁性作動体は、低温側ヘリウム、高温側ヘリウムといずれも液体状態で直接接触するので、磁性作動体を垂直方向や水平方向に繰り返し移動させるような配置構造が可能である。 また、磁性作動体を垂直方向に昇降移動させる垂直型の冷凍機であっては、装置上方に低温側ヘリウム液槽を配置し、高温側ヘリウム液槽をその下側に配置することによって、装置上部で超低温の利用を図ることも容易にできる。
【0025】
【実施例】
本発明の実施例を、図面に基づき、以下に説明する。
【0026】
〔実施例 1〕
図1は、第1発明の実施例に係る液体ヘリウム冷却用の磁気冷凍機の断面図であるが、装置内部の上側には円筒状の超電導磁気遮蔽体3が、下側には超電導コイル1が、同軸状に列設され、磁気遮蔽体3の中空部33及び超電導コイル1の中空部13に円筒状の断熱性材料で形成されたシリンダー6が挿入配設され、当該シリンダー6の両端部には、同様の断熱性部材から成る上底部61と下底部62が封着されている。
【0027】
磁気遮蔽体3及び超電導コイル1は、液体ヘリウム槽40内に配置固定され、当該液体ヘリウム槽40の断熱性底部は、当該シリンダー60の下底部62と接続されて、磁気遮蔽体3、超電導コイル1及びシリンダー60は、液体ヘリウム槽40に浸漬され冷却されてている。
【0028】
このシリンダー60内には本例では円板状の磁性作動体2が、円板外縁の断熱性摺動リング23がシリンダー60内面に水密的に摺動可能に内装され、シリンダー60の上底部を貫通した昇降棒81に接続されて、往復ピストン20が形成され、ピストン20は、超電導コイル1の中空部13と(図1(A))、磁気遮蔽体3の中空部33と(図1(B))、の間を往復移動可能とされている。
【0029】
シリンダー60の上底部61は、通路41が設けられて、液体ヘリウム40が、シリンダー60の上底部61とピストン20の上面との間に形成されるシリンダー60内空間に充満可能に移動することができ、当該液体ヘリウム槽40が高温側ヘリウム液槽40とされている。
【0030】
また、シリンダー60の下底部62に接続した管路51が、別個独立に設けた低温側ヘリウム液槽50に接続され、従って低温側ヘリウム液槽50の液体ヘリウム5は、ピストン20の下面と当該下底部62との間に形成される空間に移動充填されることができる。
【0031】
この低温側ヘリウム液槽50の上部には、上下方向に伸縮自在なベローズ57を介して、金属塊から成るウェイト58が気密的に接続され、ウェイト58の重量により低温側ヘリウム液槽内は常時0.2〜2.0atm程度に加圧されている。
【0032】
高温側ヘリウム液槽40と低温側ヘリウム液槽50とは、断熱真空容器9内に配置され、当該容器9上には、昇降棒81を操作する往復機構80(不図示)が固定されている。
【0033】
この磁気冷凍機においては、超電導コイルは、永久電流モードで使用され、その中空部に3〜8T以上の強力な磁界を形成する。他方、超電導磁気遮蔽体3は、薄いNb−Ti環板と薄いAl環板との多層積層体から形成された円筒体で、この磁気遮蔽体3は、近接する超電導コイル1が形成する磁界を遮蔽して、その中空部33内では、ほぼ完全な零磁界とすることができる。
磁性作動体には、Ga−Gdガーネット単結晶の円板又は円柱を使用する。また、上記の断熱性の部材には、繊維強化プラスチック材料が熱伝導度が小さく且つ機械的強度が大きいので好適である。例えば、エポキシ樹脂をガラス繊維又は炭素繊維で強化した材料を利用することができる。
【0034】
図1(A)は、励磁過程を示しているが、ピストン20を形成している磁性作動体2が、シリンダー60内を下底面にほぼ接するまで押し下げられており、シリンダー60の内側64には、高温側ヘリウム液槽40の液体ヘリウム4が浸入してピストン20に接するとともに、磁性作動体2が超電導コイル1の中空部13に位置して、強磁界で励磁され、発熱する。磁性作動体2の発熱は、液体ヘリウムにより冷却されて、液体ヘリウム温度4.2K近くまで冷却される。
【0035】
次の消磁過程では、図1(B)に示すように、ピストンを引き上げると、シリンダー60内の高温側液体ヘリウム64は通路41を経て排出され、同時に低温側ヘリウム液槽50からの低温の液体ヘリウム5をシリンダー内65に吸引するとともに、ピストン20の磁性作動体2は、磁気遮蔽体3の中空部33に収容されるので、磁性作動体2は断熱消磁されて、寒冷を発し、その寒冷によって磁性作動体2と接するシリンダー内65の低温側液体ヘリウムを冷却する。
【0036】
次の励磁過程では、シリンダー60内を押し下げられるピストン20によりシリンダー内65の低温側液体ヘリウムは、低温側ヘリウム液槽50に排出されて、液体ヘリウム5を冷却する。
【0037】
以上の励磁−消磁行程を繰返すすことによって、低温側ヘリウム液槽50内のヘリウム浴5の温度を低下させる。
【0038】
高温側の液体ヘリウム浴4を、1気圧に平衡する温度4.2Kに保持すると、低温側のヘリウム浴5は1.9K以下の超流動ヘリウムを得ることができる。この場合、ヘリウム浴5の平衡蒸気圧は20mmHg以下の低圧となるが、ウェイト58により、ヘリウム浴5は0.2気圧以上に加圧してあり、従って、消磁過程(図1(B))でピストンの上昇によりシリンダー内65に液体ヘリウム5を吸引する際に、シリンダー内に気相の発生するのを防止することができ、従って、ピストン20である磁性作動体2と液体ヘリウムとの直接接触を確保することができるので、寒冷の熱伝達を高く維持することができる。
【0039】
図2は、シリンダー6の詳細を示す図であるが、励磁過程では、シリンダー内空所64に高温側液体ヘリウム4を強制循環させるために、小型ポンプ46を逆止バルブ45を介して、シリンダー60の上底部61に配管44により接続して、シリンダー60内に液体ヘリウムを強制的に供給し、また上底部にバルブ42を介して、通路41により、高温側ヘリウム浴5に排出される。従って、励磁過程で、発熱した磁性作動体2の冷却を促進し、また冷却中の磁性作動体表面で発生するヘリウム気泡の離脱排出を容易にすることができる。
【0040】
バルブ45、42は、断熱材で形成され、かつ上底部内面からシリンダー内に突出するように配置されているが、消磁過程で、ピストン20である磁性作動体2の円板が上昇したときは、当該磁性作動体2の円板上面に押圧されて、バルブ45、42は、上底部61の内部に収容されて、管路44、41を閉止して、寒冷の高温側ヘリウム浴への逃散を防止する作用を備えている。
下底部62にも、低温側ヘリウム液槽50に通ずる管路51を閉止するバルブ52が取着されている。
【0041】
以上の実施例では、ピストン20を兼ねる磁性作動体2に円板状のものを使用したが、これにこだわらず、円柱状の磁性作動体であってもよい。円板状の形状が熱伝達断面積が大きく、かつ磁性作動体内部の厚み方向の熱移動距離が小さいので、伝熱性の点で有利である。また、図2に示したように、円板状の磁性作動体2の両面にAlN、シリカ、或いはアルミナ等の絶縁性で且つ低温で熱伝導度の高い板状材料21,24を面着して、磁性作動体2を補強をするのがよい。
【0042】
〔実施例 2〕
次に、第2発明の実施例を図3〜6に示す。図3に示した磁気冷凍機は、超電導コイル1を収容して冷却する高温側ヘリウム液槽40と、超電導磁気遮蔽体3を収容する低温側ヘリウム液槽50と、の間に、表裏に貫通する貫通孔71を設けた断熱性の厚板の断熱性隔壁7が配置され、この隔壁7が両ヘリウム液槽40、50を隔離しており、超電導コイル1と磁気遮蔽体3とは、それらの中空部13、33が、断熱性隔壁7の当該貫通孔71と概ね共軸状に列設されている。
【0043】
断熱性隔壁7の貫通孔71には、両端に柱状の断熱栓体25、26が接合固定された柱状の磁性作動体24が挿通可能に配置されている。磁性作動体24と両側の断熱柱体25、26は外周が同径の円柱平滑面とされて作動柱体とされ、貫通孔71に貫装されたとき、貫通孔71の内周面との間隙が50μm以下に調製されており、液体ヘリウムの当該間隙への流通を最小限に止めている。
【0044】
上側の断熱栓体26には、往復機構80(不図示)に接続された昇降棒81に接続されており、また上下両側の断熱栓体26、25の外周には、断熱性隔壁7の貫通孔71の開孔縁部に当接する鍔部261、251が設けられており、鍔部261、251は、磁性作動体2が励磁過程における超電導コイル1の中空部13の位置と(図3(A))、消磁過程における磁気遮蔽体3の中空部33の位置(図3(B))との間を移動するようにストロークを定め、また励磁過程と消磁過程では、貫通孔71の端縁部に密接して貫通孔71を閉止して、液体ヘリウムの両槽50、40間への超流動ヘリウムの流動を停止させる作用を有する。
【0045】
低温側ヘリウム液槽50には、加圧手段として、槽底に接続されたベローズを圧縮スプリング55により常時圧縮するものが採用されている。
【0046】
図3(A)は、励磁過程を示しており、磁性作動体2が発する発熱を、高温側のヘリウム浴4で冷却し、図3(B)は、消磁過程を示し、磁性作動体2を下方に押し下げて保持すれば、磁気遮蔽体3の中空部33の零磁場で消磁されて寒冷を発し、その寒冷が低温側のヘリウム浴5を直接冷却する過程を示している。そして、昇降機構80により、磁性作動体2の昇降を繰り返すだけで、低温側ヘリウム浴5を冷却することができる。
【0047】
本装置の運転に先立って、両ヘリウム液槽は、完全排気して後、断熱性隔壁7に別に開孔した供給孔73を開けて、上方の高温側ヘリウム液槽40に、1気圧4.2Kの液体ヘリウムを供給して保持すれば、低温側ヘリウム液槽50も冷却され、次いで液体ヘリウムが充填されると、供給孔73を閉止して、超電導コイル1に永久電流を流す。次いで、磁性作動体2の昇降操作を行なえば、低温側のヘリウム液槽50の液体ヘリウム5が冷却され、1.9K以下の超低温を得る。
【0048】
低温側液体ヘリウム5の超低温になるに従って、超電導磁気遮蔽体3も超低温に冷却されるので、超電導磁気遮蔽体3のフラックスジャンプに対する安定性が向上するので、磁気遮蔽体の最大遮蔽磁界強度も大きくなる。特に、超流動ヘリウムの温度領域は、熱伝導度が著しく高くなり、冷却能が大きくなるので、最大遮蔽磁界強度も飛躍的に大きくすることができる。従って、素運転当初は、超電導コイルの発生磁界を小さくして、冷却させ、低温側液体ヘリウム5が超低温になるに従って、超電導コイル1の発生磁界を増大させて、磁気冷凍機の効率を高くすることができ、超電導磁気遮蔽体3を比較的小さなものを適宜利用することができる。
【0049】
図4は、図3の磁気冷凍機において、Nb−Ti合金箔などの超電導体層と、Alなどの常電導性金属層とを交互に積層してなる積層板により、低温側ヘリウム液槽50を形成したもので、液槽50と同時に超電導磁気遮蔽体3を兼用する方式のものである。液槽50の内部には、磁気遮蔽体2がないので、液槽の大きさを小さくできる利点があり、少量の液体ヘリウム5を効率よく冷却することが可能である。
また、低温側ヘリウム液槽50を常電導性金属又は合成樹脂で成形し、その外面又は好ましくは内面を上記のNb−Ti合金とAl金属との多層積層板により被覆添着して、超電導磁気遮蔽体3を形成したものも採用できる。
【0050】
図5は、磁性作動体2と下側の栓体25とを分離して、下側栓体25を支持する栓体操作棒82が、磁性作動体2、上側栓体及び昇降棒81の内部を貫通して、断熱容器9の上蓋部91の上部において、昇降棒81に対して、相対的に往復移動させる昇降機構820、例えば圧空シリンダーや電磁押引手段などにに接続されている。
【0051】
図5及び図6(A)は、励磁過程を示しているが、下側栓体25が断熱性隔壁7の貫通孔71を閉止して、高温側ヘリウム液槽40と低温側ヘリウム液槽50との間の超流動ヘリウムの流通を阻止している。このとき、磁性作動体2は、超電導コイル1の中空部13の中央部に配置され、磁性作動体2の周面及び下端面が、高温側液体ヘリウム4に直接接触して冷却される。
【0052】
励磁過程から消磁過程に移るときは、図6(B)に示したように、下側栓体25の位置を変えずに、昇降装置80により磁性作動体2を下側栓体25に接触するように降下させ、次いで、さらに磁性作動体2を押し下げると、上側栓体26の鍔体261が、貫通孔71の周縁に当接して、貫通孔71を閉止するとともに、磁性作動体2が磁気遮蔽体3の中空部33の零磁界中で消磁される。
【0053】
さらに、下側栓体25のみを押し下げると、下側栓体25と磁性作動体2とは分離できるので、磁性作動体2の周面及び下側端面が発生寒冷によって、低温側ヘリウム5を冷却する。
【0054】
このように、磁性作動体2と下側栓体25とを分割することができることは、磁性作動体2の端面(底面)も熱移動を促進するので、有利である。
さらに、冷凍機の運転に先立って、液体ヘリウムを充填する前に、高温側及び低温側の両ヘリウム液槽を高真空にするが、この際、図5において、下側の栓体25のみを下方に押し下げると、断熱性隔壁7の貫通孔71は、開放されて、貫通孔71の内面も、高真空下で効果的に脱ガスと乾燥とができる。図3の状態で真空中に乾燥したときには、貫通孔71と磁性作動体2との間の間隙が50μm以下と狭いので、水分や液化ガス(H2 、O2 、N2 )の蒸発除去が困難で、液体ヘリウム充填時には貫通孔内面に氷結して、磁性作動体の摺動往復が困難になる虞れがあるが、貫通孔71の開放によって、真空下の水分除去が容易となる。
【0055】
真空減圧後に、貫通孔71を開放したまま、上側の高温側ヘリウム液槽40に液体ヘリウムを注入すれば、下側の低温側ヘリウム液槽50にも液体ヘリウムが注入されて、槽の温度低下にともなって充満されるので、下側の栓体25のみを引き上げると、貫通孔71は閉止されて、両液槽は熱的にも流体移動においても遮断されるから、冷凍機の運転に移ることができる。
【0056】
【発明の効果】
本発明の磁気冷凍機によれば、熱源として常用の液体ヘリウムを使用して、磁性作動体が、液体ヘリウムに直接接触して、磁性作動体の往復繰り返し移動だけで加圧状態の低温側液体ヘリウムを、超流動ヘリウム温度域まで容易に冷却することができ、簡素で小型のヘリウム用磁気冷凍機にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係る磁気冷凍機の部分断面図であって、(A)は励磁過程を、(B)は消磁過程を、それぞれ示す図。
【図2】図1の磁気冷凍機の磁性作動体周辺の部分詳細図。
【図3】他の実施例に係る磁気冷凍機の図1同様図。
【図4】超電導磁気遮蔽体の構造を変更した図3(B)同様図。
【図5】図3に示した磁気冷凍機の磁性作動体保持機構を変更した図3(A)同様図。
【図6】図5に示した磁気冷凍機の各動作過程の部分断面図であって、(A)は励磁過程、(B)は移動過程、(C)は消磁過程を、それぞれ示す図。
【符号の説明】
1 超電導コイル
2 磁性作動体
3 超電導磁気遮蔽体
40 高温側ヘリウム液槽
50 低温側ヘリウム液槽
55 圧縮スプリング
57 ベローズ
58 ウェイト
6 シリンダー
7 断熱性隔壁
71 貫通孔
81 昇降棒
9 真空断熱容器
【産業上の利用分野】
本発明は、超電導コイル中空部の形成する強磁界と筒状の超電導磁気遮蔽体の形成する零磁界との間を往復移動する磁性作動体の発生する寒冷によって、加圧液体ヘリウムを超流動域まで冷却する磁気冷凍機に関するものである。
【0002】
【従来技術】
磁性作動体を超電導コイルの中空部(ボア部)の強磁界で励磁させて発熱させる行程と、超電導磁気遮蔽体の中空部の形成する零磁界中で断熱消磁させて寒冷を発生させる行程とを繰り返す磁気冷凍機は、既に公知である(特開平4−177065)。
【0003】
液体ヘリウム温度では、超電導磁気遮蔽体は、Nb−Ti合金などの超電導体薄層と金属AlやCuなどの常電導体金属層とを交互に積層して円筒体とされ、超電導コイルの軸線方向直近の強磁界中に配置しても、当該遮蔽体の中空部は、完全な零磁界を得られ、極めて安定した磁気遮蔽を実現することができる。このような磁気遮蔽体を超電導コイルの近傍に共軸状に列設することによって、Gd−Ga−ガーネットなどの磁性作動体の励磁と消磁との移動往復工程を小さくすることができ、磁気冷凍機の小型化を図ることができる。
【0004】
上記の液体ヘリウム用磁気冷凍機では、往復移動を繰返す磁性作動体から、励磁過程で発する熱を高温側熱源に逃がし、他方、消磁過程では、寒冷を低温側熱源である液体ヘリウムに移送する熱スイッチが必要である。
【0005】
このような非静止型磁気冷凍機に関しては、従来技術には、超電導コイルの下方の消磁空間に低温側の液槽を設け、消磁過程では、冷却された磁性作動体でヘリウムガス相を冷却凝縮し、液体ヘリウムに冷却するものがある。この装置では、励磁過程では、高温側熱源とは、固体伝熱部材を介して機械的熱接触により伝熱させるものであった。
【0006】
また、本出願人は、ヘリウム液槽に熱伝達可能な固体伝熱部材を消磁空間内に突出させ、消磁過程では消磁空間に移行した磁性作動体の表面を伝熱部材と機械的に接触させる熱スイッチを備えた液体ヘリウム冷却用の冷凍機を提案した(特願平4−174675号)。この装置は、このような熱スイッチを、高温側熱源と磁性作動体との間にも設けて、磁性作動体の往復移動のみで、励磁−消磁過程と熱流切替とを行なう装置であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
液体ヘリウム用の磁気冷凍機では、入手容易な常圧の液体ヘリウムを高温側熱源とし、低温側熱源も常圧近傍にある液体ヘリウムから出発するのが、磁気冷凍機の小型化にとり好都合である。
【0008】
そこで、両熱源の出発物質に常圧の沸点温度4.2Kの液体ヘリウムを使用する場合には、磁性作動体と液体ヘリウムとの間を、機械的熱スイッチや気相を介在させないで、直接的に接触させて伝熱する構造とする必要がある。
【0009】
この場合には、励磁過程と消磁過程とでは、磁性作動体がそれぞれ高温側ヘリウム浴と、低温側ヘリウム浴に接触し、かつ両ヘリウム浴は、相互に熱移動を生せず熱的に遮断できるような熱スイッチが必要である。
また、低温側液体ヘリウム浴が低温になるほど、ヘリウムの平衡蒸気圧が低下して、気相が発生しやすくなり、低温側の液体ヘリウムと磁性作動体との間にヘリウムガスが介在するようになると、熱伝導が低下するので、超低温でも消磁過程で磁性作動体は液体ヘリウムと直接に接触している必要がある。
【0010】
本発明は、以上の観点から、常圧の液体ヘリウム浴を超流動域にまで冷却する簡便小型の磁気冷凍機を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明は、2つの発明に大別できる。まず、第1の発明は、断熱性シリンダーに磁性作動体から成るピストンを内装して、ピストンの往復移動に対して、磁性作動体の励磁・消磁と、シリンダー内への液体ヘリウムの吸入・排出と、磁性作動体−液体ヘリウム間の熱伝導と、を連動させる方式の磁気冷凍機である。
【0012】
即ち、第1発明は、共軸状に列設された超電導コイルと筒状超電導磁気遮蔽体との中空部に、磁性作動体のピストンを往復移動可能にかつ水密的に内装した断熱性シリンダーが内設固定され、当該シリンダーの磁気遮蔽体側底部が高温側ヘリウム液槽に連通され、かつ当該シリンダーの超電導コイル側底部が、加圧手段を備えた低温側ヘリウム液槽に連通されて、当該磁性作動体の往復移動により、磁性作動体の励磁・消磁過程と、シリンダー内への液体ヘリウムの吸入・排出過程とを連動させて、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを冷却するようにした磁気冷凍機を要旨とするものである。
【0013】
第2発明は、高温側の液体ヘリウム槽と低温側の液体ヘリウム槽とを貫通孔を具備した断熱性隔壁で隔離し、当該貫通孔を磁性作動体が挿通移動させる方式のものである。
【0014】
即ち、第2発明は、高温側ヘリウム液槽内に固定された超電導コイルと加圧手段を備えた低温側ヘリウム液槽内に固定された超電導磁気遮蔽体とが、両液槽を断熱的に隔離する隔壁に設けた貫通孔と共軸状に列設され、
磁性作動体とその両端に接続された同断面の断熱性栓体部材とから成る作動柱体が、上記貫通孔に水密的に摺接して貫装されて、当該磁性作動体が超電導コイルと磁気遮蔽体との中空部を往復移動可能として、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを冷却するようにした磁気冷凍機を要旨をするものである。
【0015】
【作用】
第1発明において、シリンダー内をピストンである磁性作動体が超電導コイルの中空部に位置するときは、磁性作動体は励磁されて発熱し、このとき、シリンダー内には高温側ヘリウム液槽からの高温側液体ヘリウムが吸引充填されて、この高温側液体ヘリウムが磁性作動体と直接接触して当該作動体の発熱を冷却し、他方、低温側ヘリウム液槽からの低温側液体ヘリウムがシリンダーから排出されているので、この励磁過程で低温側液体ヘリウムが加熱されることはない。
【0016】
次に、往復機構により、シリンダー内を磁性作動体が移動すると、高温側液体ヘリウムを排出しながら低温側液体ヘリウムを吸引充填し、同時に磁性作動体は磁気遮蔽体の中空部に移動するので、断熱消磁により寒冷を発して、この寒冷を以て低温側液体ヘリウムを直接接触して冷却する。このとき、高温側液体ヘリウムは、ピストンによりシリンダーから高温側ヘリウム液槽に排出されているので、寒冷が高温側液体ヘリウムに移動して減殺されることはない。
また、磁性作動体から形成したピストンの形状は、シリンダー内面に合致する円柱状又は円板状とするが、磁性作動体からの熱伝導を高めるためには、厚さを小さくした円板状として、液体ヘリウムとの伝熱面積を大きくするのが好都合である。
【0017】
以上の行程を往復機構だけで、繰り返し行うと、励磁行程の発熱は、大気圧近傍の圧力下の高温側液体ヘリウムの蒸発により、吸収されるので、高温側の液体ヘリウム温度はほぼ一定であり、高温側ヘリウム液槽には、蒸発した液体ヘリウムは、別個に設けたジュワ瓶から逐次補充する。
【0018】
他方、低温側液体ヘリウムは、運転当初は大気圧近傍の圧力下の液体ヘリウムであるが、この繰り返し行程により、次第に冷却されて、超流動ヘリウム温度に達するが、従って蒸気圧も低下するので、シリンダー内への吸引の際に気化して、磁性作動体と液体ヘリウムとの間に気相が介在して、磁性作動体からの熱伝導を低下させる。低温側ヘリウム液槽に設けた加圧手段は、ヘリウムを加圧して、蒸発を抑制し、消磁過程でのシリンダー内へ液相を供給し、磁性作動体に液体ヘリウムが接触するのを確保するものである。
【0019】
第2発明は、作動柱体が、高温側液槽と低温側液槽とを隔離する隔壁の貫通孔を水密的に摺動するので、高温側液槽と低温側液槽との液体ヘリウムが貫通孔を流通するのを防止する。また、隔壁の高温側液槽側に配置した超電導コイルと他方の高温側液槽側に配置した超電導磁気遮蔽体との間を当該柱体の磁性作動体が往復移動するとき当該柱体の磁性作動体両側に取着した断熱性栓体が、当該貫通孔をヘリウム流通不能に且つ断熱的に閉止する。
【0020】
そこで、磁性作動体が超電導コイル中空部に位置して励磁発熱すると、磁性作動体と接触している高温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムにより直接冷却されるが、その発熱は低温側液体ヘリウムには影響を生じない。
【0021】
次に、磁性作動体が磁気遮蔽体の中空部に移動して位置すると消磁されて寒冷を発すると、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを直接冷却する。
この行程を繰り返すと、低温側液体ヘリウムは超流動ヘリウム域までは低温に保持することが可能である。
【0022】
高温側液槽と低温側液槽との間の隔壁は、単に断熱板状によっても良いが、両槽間を隔設する真空空間としても良い。この場合には、磁性作動体が貫装される貫通孔は、両槽間を接続する断熱性管として、この管内を磁性作動体が往復移動可能に貫通する構造とする。
【0023】
第2発明においても、運転当初は市販の常圧下の液体ヘリウムを利用し、また低温側液槽での気相の発生を防止する為に加圧手段が設けられる。
【0024】
第1発明も第2発明も、低温側ヘリウム液槽が加圧されているから、磁性作動体は、低温側ヘリウム、高温側ヘリウムといずれも液体状態で直接接触するので、磁性作動体を垂直方向や水平方向に繰り返し移動させるような配置構造が可能である。 また、磁性作動体を垂直方向に昇降移動させる垂直型の冷凍機であっては、装置上方に低温側ヘリウム液槽を配置し、高温側ヘリウム液槽をその下側に配置することによって、装置上部で超低温の利用を図ることも容易にできる。
【0025】
【実施例】
本発明の実施例を、図面に基づき、以下に説明する。
【0026】
〔実施例 1〕
図1は、第1発明の実施例に係る液体ヘリウム冷却用の磁気冷凍機の断面図であるが、装置内部の上側には円筒状の超電導磁気遮蔽体3が、下側には超電導コイル1が、同軸状に列設され、磁気遮蔽体3の中空部33及び超電導コイル1の中空部13に円筒状の断熱性材料で形成されたシリンダー6が挿入配設され、当該シリンダー6の両端部には、同様の断熱性部材から成る上底部61と下底部62が封着されている。
【0027】
磁気遮蔽体3及び超電導コイル1は、液体ヘリウム槽40内に配置固定され、当該液体ヘリウム槽40の断熱性底部は、当該シリンダー60の下底部62と接続されて、磁気遮蔽体3、超電導コイル1及びシリンダー60は、液体ヘリウム槽40に浸漬され冷却されてている。
【0028】
このシリンダー60内には本例では円板状の磁性作動体2が、円板外縁の断熱性摺動リング23がシリンダー60内面に水密的に摺動可能に内装され、シリンダー60の上底部を貫通した昇降棒81に接続されて、往復ピストン20が形成され、ピストン20は、超電導コイル1の中空部13と(図1(A))、磁気遮蔽体3の中空部33と(図1(B))、の間を往復移動可能とされている。
【0029】
シリンダー60の上底部61は、通路41が設けられて、液体ヘリウム40が、シリンダー60の上底部61とピストン20の上面との間に形成されるシリンダー60内空間に充満可能に移動することができ、当該液体ヘリウム槽40が高温側ヘリウム液槽40とされている。
【0030】
また、シリンダー60の下底部62に接続した管路51が、別個独立に設けた低温側ヘリウム液槽50に接続され、従って低温側ヘリウム液槽50の液体ヘリウム5は、ピストン20の下面と当該下底部62との間に形成される空間に移動充填されることができる。
【0031】
この低温側ヘリウム液槽50の上部には、上下方向に伸縮自在なベローズ57を介して、金属塊から成るウェイト58が気密的に接続され、ウェイト58の重量により低温側ヘリウム液槽内は常時0.2〜2.0atm程度に加圧されている。
【0032】
高温側ヘリウム液槽40と低温側ヘリウム液槽50とは、断熱真空容器9内に配置され、当該容器9上には、昇降棒81を操作する往復機構80(不図示)が固定されている。
【0033】
この磁気冷凍機においては、超電導コイルは、永久電流モードで使用され、その中空部に3〜8T以上の強力な磁界を形成する。他方、超電導磁気遮蔽体3は、薄いNb−Ti環板と薄いAl環板との多層積層体から形成された円筒体で、この磁気遮蔽体3は、近接する超電導コイル1が形成する磁界を遮蔽して、その中空部33内では、ほぼ完全な零磁界とすることができる。
磁性作動体には、Ga−Gdガーネット単結晶の円板又は円柱を使用する。また、上記の断熱性の部材には、繊維強化プラスチック材料が熱伝導度が小さく且つ機械的強度が大きいので好適である。例えば、エポキシ樹脂をガラス繊維又は炭素繊維で強化した材料を利用することができる。
【0034】
図1(A)は、励磁過程を示しているが、ピストン20を形成している磁性作動体2が、シリンダー60内を下底面にほぼ接するまで押し下げられており、シリンダー60の内側64には、高温側ヘリウム液槽40の液体ヘリウム4が浸入してピストン20に接するとともに、磁性作動体2が超電導コイル1の中空部13に位置して、強磁界で励磁され、発熱する。磁性作動体2の発熱は、液体ヘリウムにより冷却されて、液体ヘリウム温度4.2K近くまで冷却される。
【0035】
次の消磁過程では、図1(B)に示すように、ピストンを引き上げると、シリンダー60内の高温側液体ヘリウム64は通路41を経て排出され、同時に低温側ヘリウム液槽50からの低温の液体ヘリウム5をシリンダー内65に吸引するとともに、ピストン20の磁性作動体2は、磁気遮蔽体3の中空部33に収容されるので、磁性作動体2は断熱消磁されて、寒冷を発し、その寒冷によって磁性作動体2と接するシリンダー内65の低温側液体ヘリウムを冷却する。
【0036】
次の励磁過程では、シリンダー60内を押し下げられるピストン20によりシリンダー内65の低温側液体ヘリウムは、低温側ヘリウム液槽50に排出されて、液体ヘリウム5を冷却する。
【0037】
以上の励磁−消磁行程を繰返すすことによって、低温側ヘリウム液槽50内のヘリウム浴5の温度を低下させる。
【0038】
高温側の液体ヘリウム浴4を、1気圧に平衡する温度4.2Kに保持すると、低温側のヘリウム浴5は1.9K以下の超流動ヘリウムを得ることができる。この場合、ヘリウム浴5の平衡蒸気圧は20mmHg以下の低圧となるが、ウェイト58により、ヘリウム浴5は0.2気圧以上に加圧してあり、従って、消磁過程(図1(B))でピストンの上昇によりシリンダー内65に液体ヘリウム5を吸引する際に、シリンダー内に気相の発生するのを防止することができ、従って、ピストン20である磁性作動体2と液体ヘリウムとの直接接触を確保することができるので、寒冷の熱伝達を高く維持することができる。
【0039】
図2は、シリンダー6の詳細を示す図であるが、励磁過程では、シリンダー内空所64に高温側液体ヘリウム4を強制循環させるために、小型ポンプ46を逆止バルブ45を介して、シリンダー60の上底部61に配管44により接続して、シリンダー60内に液体ヘリウムを強制的に供給し、また上底部にバルブ42を介して、通路41により、高温側ヘリウム浴5に排出される。従って、励磁過程で、発熱した磁性作動体2の冷却を促進し、また冷却中の磁性作動体表面で発生するヘリウム気泡の離脱排出を容易にすることができる。
【0040】
バルブ45、42は、断熱材で形成され、かつ上底部内面からシリンダー内に突出するように配置されているが、消磁過程で、ピストン20である磁性作動体2の円板が上昇したときは、当該磁性作動体2の円板上面に押圧されて、バルブ45、42は、上底部61の内部に収容されて、管路44、41を閉止して、寒冷の高温側ヘリウム浴への逃散を防止する作用を備えている。
下底部62にも、低温側ヘリウム液槽50に通ずる管路51を閉止するバルブ52が取着されている。
【0041】
以上の実施例では、ピストン20を兼ねる磁性作動体2に円板状のものを使用したが、これにこだわらず、円柱状の磁性作動体であってもよい。円板状の形状が熱伝達断面積が大きく、かつ磁性作動体内部の厚み方向の熱移動距離が小さいので、伝熱性の点で有利である。また、図2に示したように、円板状の磁性作動体2の両面にAlN、シリカ、或いはアルミナ等の絶縁性で且つ低温で熱伝導度の高い板状材料21,24を面着して、磁性作動体2を補強をするのがよい。
【0042】
〔実施例 2〕
次に、第2発明の実施例を図3〜6に示す。図3に示した磁気冷凍機は、超電導コイル1を収容して冷却する高温側ヘリウム液槽40と、超電導磁気遮蔽体3を収容する低温側ヘリウム液槽50と、の間に、表裏に貫通する貫通孔71を設けた断熱性の厚板の断熱性隔壁7が配置され、この隔壁7が両ヘリウム液槽40、50を隔離しており、超電導コイル1と磁気遮蔽体3とは、それらの中空部13、33が、断熱性隔壁7の当該貫通孔71と概ね共軸状に列設されている。
【0043】
断熱性隔壁7の貫通孔71には、両端に柱状の断熱栓体25、26が接合固定された柱状の磁性作動体24が挿通可能に配置されている。磁性作動体24と両側の断熱柱体25、26は外周が同径の円柱平滑面とされて作動柱体とされ、貫通孔71に貫装されたとき、貫通孔71の内周面との間隙が50μm以下に調製されており、液体ヘリウムの当該間隙への流通を最小限に止めている。
【0044】
上側の断熱栓体26には、往復機構80(不図示)に接続された昇降棒81に接続されており、また上下両側の断熱栓体26、25の外周には、断熱性隔壁7の貫通孔71の開孔縁部に当接する鍔部261、251が設けられており、鍔部261、251は、磁性作動体2が励磁過程における超電導コイル1の中空部13の位置と(図3(A))、消磁過程における磁気遮蔽体3の中空部33の位置(図3(B))との間を移動するようにストロークを定め、また励磁過程と消磁過程では、貫通孔71の端縁部に密接して貫通孔71を閉止して、液体ヘリウムの両槽50、40間への超流動ヘリウムの流動を停止させる作用を有する。
【0045】
低温側ヘリウム液槽50には、加圧手段として、槽底に接続されたベローズを圧縮スプリング55により常時圧縮するものが採用されている。
【0046】
図3(A)は、励磁過程を示しており、磁性作動体2が発する発熱を、高温側のヘリウム浴4で冷却し、図3(B)は、消磁過程を示し、磁性作動体2を下方に押し下げて保持すれば、磁気遮蔽体3の中空部33の零磁場で消磁されて寒冷を発し、その寒冷が低温側のヘリウム浴5を直接冷却する過程を示している。そして、昇降機構80により、磁性作動体2の昇降を繰り返すだけで、低温側ヘリウム浴5を冷却することができる。
【0047】
本装置の運転に先立って、両ヘリウム液槽は、完全排気して後、断熱性隔壁7に別に開孔した供給孔73を開けて、上方の高温側ヘリウム液槽40に、1気圧4.2Kの液体ヘリウムを供給して保持すれば、低温側ヘリウム液槽50も冷却され、次いで液体ヘリウムが充填されると、供給孔73を閉止して、超電導コイル1に永久電流を流す。次いで、磁性作動体2の昇降操作を行なえば、低温側のヘリウム液槽50の液体ヘリウム5が冷却され、1.9K以下の超低温を得る。
【0048】
低温側液体ヘリウム5の超低温になるに従って、超電導磁気遮蔽体3も超低温に冷却されるので、超電導磁気遮蔽体3のフラックスジャンプに対する安定性が向上するので、磁気遮蔽体の最大遮蔽磁界強度も大きくなる。特に、超流動ヘリウムの温度領域は、熱伝導度が著しく高くなり、冷却能が大きくなるので、最大遮蔽磁界強度も飛躍的に大きくすることができる。従って、素運転当初は、超電導コイルの発生磁界を小さくして、冷却させ、低温側液体ヘリウム5が超低温になるに従って、超電導コイル1の発生磁界を増大させて、磁気冷凍機の効率を高くすることができ、超電導磁気遮蔽体3を比較的小さなものを適宜利用することができる。
【0049】
図4は、図3の磁気冷凍機において、Nb−Ti合金箔などの超電導体層と、Alなどの常電導性金属層とを交互に積層してなる積層板により、低温側ヘリウム液槽50を形成したもので、液槽50と同時に超電導磁気遮蔽体3を兼用する方式のものである。液槽50の内部には、磁気遮蔽体2がないので、液槽の大きさを小さくできる利点があり、少量の液体ヘリウム5を効率よく冷却することが可能である。
また、低温側ヘリウム液槽50を常電導性金属又は合成樹脂で成形し、その外面又は好ましくは内面を上記のNb−Ti合金とAl金属との多層積層板により被覆添着して、超電導磁気遮蔽体3を形成したものも採用できる。
【0050】
図5は、磁性作動体2と下側の栓体25とを分離して、下側栓体25を支持する栓体操作棒82が、磁性作動体2、上側栓体及び昇降棒81の内部を貫通して、断熱容器9の上蓋部91の上部において、昇降棒81に対して、相対的に往復移動させる昇降機構820、例えば圧空シリンダーや電磁押引手段などにに接続されている。
【0051】
図5及び図6(A)は、励磁過程を示しているが、下側栓体25が断熱性隔壁7の貫通孔71を閉止して、高温側ヘリウム液槽40と低温側ヘリウム液槽50との間の超流動ヘリウムの流通を阻止している。このとき、磁性作動体2は、超電導コイル1の中空部13の中央部に配置され、磁性作動体2の周面及び下端面が、高温側液体ヘリウム4に直接接触して冷却される。
【0052】
励磁過程から消磁過程に移るときは、図6(B)に示したように、下側栓体25の位置を変えずに、昇降装置80により磁性作動体2を下側栓体25に接触するように降下させ、次いで、さらに磁性作動体2を押し下げると、上側栓体26の鍔体261が、貫通孔71の周縁に当接して、貫通孔71を閉止するとともに、磁性作動体2が磁気遮蔽体3の中空部33の零磁界中で消磁される。
【0053】
さらに、下側栓体25のみを押し下げると、下側栓体25と磁性作動体2とは分離できるので、磁性作動体2の周面及び下側端面が発生寒冷によって、低温側ヘリウム5を冷却する。
【0054】
このように、磁性作動体2と下側栓体25とを分割することができることは、磁性作動体2の端面(底面)も熱移動を促進するので、有利である。
さらに、冷凍機の運転に先立って、液体ヘリウムを充填する前に、高温側及び低温側の両ヘリウム液槽を高真空にするが、この際、図5において、下側の栓体25のみを下方に押し下げると、断熱性隔壁7の貫通孔71は、開放されて、貫通孔71の内面も、高真空下で効果的に脱ガスと乾燥とができる。図3の状態で真空中に乾燥したときには、貫通孔71と磁性作動体2との間の間隙が50μm以下と狭いので、水分や液化ガス(H2 、O2 、N2 )の蒸発除去が困難で、液体ヘリウム充填時には貫通孔内面に氷結して、磁性作動体の摺動往復が困難になる虞れがあるが、貫通孔71の開放によって、真空下の水分除去が容易となる。
【0055】
真空減圧後に、貫通孔71を開放したまま、上側の高温側ヘリウム液槽40に液体ヘリウムを注入すれば、下側の低温側ヘリウム液槽50にも液体ヘリウムが注入されて、槽の温度低下にともなって充満されるので、下側の栓体25のみを引き上げると、貫通孔71は閉止されて、両液槽は熱的にも流体移動においても遮断されるから、冷凍機の運転に移ることができる。
【0056】
【発明の効果】
本発明の磁気冷凍機によれば、熱源として常用の液体ヘリウムを使用して、磁性作動体が、液体ヘリウムに直接接触して、磁性作動体の往復繰り返し移動だけで加圧状態の低温側液体ヘリウムを、超流動ヘリウム温度域まで容易に冷却することができ、簡素で小型のヘリウム用磁気冷凍機にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係る磁気冷凍機の部分断面図であって、(A)は励磁過程を、(B)は消磁過程を、それぞれ示す図。
【図2】図1の磁気冷凍機の磁性作動体周辺の部分詳細図。
【図3】他の実施例に係る磁気冷凍機の図1同様図。
【図4】超電導磁気遮蔽体の構造を変更した図3(B)同様図。
【図5】図3に示した磁気冷凍機の磁性作動体保持機構を変更した図3(A)同様図。
【図6】図5に示した磁気冷凍機の各動作過程の部分断面図であって、(A)は励磁過程、(B)は移動過程、(C)は消磁過程を、それぞれ示す図。
【符号の説明】
1 超電導コイル
2 磁性作動体
3 超電導磁気遮蔽体
40 高温側ヘリウム液槽
50 低温側ヘリウム液槽
55 圧縮スプリング
57 ベローズ
58 ウェイト
6 シリンダー
7 断熱性隔壁
71 貫通孔
81 昇降棒
9 真空断熱容器
Claims (6)
- 共軸状に列設された超電導コイルと筒状超電導磁気遮蔽体との中空部に、磁性作動体のピストンを往復移動可能にかつ水密的に内装した断熱性シリンダーが内設固定され、
当該シリンダーの磁気遮蔽体側底部が高温側ヘリウム液槽に連通され、かつ当該シリンダーの超電導コイル側底部が加圧手段を備えた低温側ヘリウム液槽に連通されて、
当該磁性作動体の往復移動により、磁性作動体の励磁・消磁過程と、シリンダー内への液体ヘリウムの吸入・排出過程とを連動させて、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを冷却するようにした磁気冷凍機。 - 上記高温側ヘリウム液槽が、上記超電導コイル及び磁気遮蔽体を収容して成る請求項1記載の磁気冷凍機。
- 上記高温側ヘリウム液槽に固定された液体ヘリウム循環ポンプに接続された供給管路と、当該高温側ヘリウム液槽に排出する排出管路と、が、当該シリンダーの磁気遮蔽体側底部に接続されている請求項1又は2記載の磁気冷凍機。
- 高温側ヘリウム液槽内に固定された超電導コイルと加圧手段を備えた低温側ヘリウム液槽内に固定された超電導磁気遮蔽体とが、両液槽を隔離する断熱性隔壁に設けた貫通孔と共軸状に列設され、
磁性作動体とその両端に接続された同断面の断熱性栓体部材とから成る作動柱体が、上記貫通孔に水密的に摺接して貫装されて、当該磁性作動体が超電導コイルの中空部と磁気遮蔽体の中空部とを往復移動可能として、低温側ヘリウム液槽の液体ヘリウムを冷却するようにした磁気冷凍機。 - 上記栓体部材の外周には、当該貫通孔の端縁部に密接する鍔体を具備して成る請求項4記載の磁気冷凍機。
- 上記低温側ヘリウム液槽内に固定された超電導磁気遮蔽体に代えて、低温側ヘリウム液槽の槽壁が超電導磁気遮蔽体により形成されて成る請求項4記載の磁気冷凍機。
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