JP3570453B2 - 一方向クラッチ - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジン始動用のスタータに用いられる一方向クラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
スタータに用いられる一方向クラッチでは、円滑なクラッチ作動を行うために、アウタとインナとで形成されるカム室に潤滑剤が充填されている。しかし、極端に摩擦係数の小さな潤滑剤を使用すると、カム室に収容されたローラとインナとの間で滑りが生じて、トルク伝達ができなくなる可能性がある。また、摩擦係数の大きな潤滑剤を使用すると、オーバラン時にインナの外周面およびローラの外周面が磨耗するため、クラッチの耐久性に問題を生じる可能性があった。
そこで、本願出願人は、摩擦に対して影響の少ない一方向クラッチを提案した(特願平6−213707号明細書)。この一方向クラッチは、図8に示すように、インナ100の外周面に係止凹部110を形成し、この係止凹部110にローラ120を係止させた状態でトルク伝達を行っている。
【0003】
さらに、この一方向クラッチでは、オーバラン時に係止凹部110からローラ120が離脱するのを助長するために、インナ100の外周部に周方向に沿った環状の溝130を設け、この溝130に環状の弾性体140を収納している。この弾性体140は、インナ100の回転で生じる遠心力を受けて遠心方向へ変形することにより、ローラ120を押圧してローラ120が係止凹部110から離脱するのを助けている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、先願の一方向クラッチでは、遠心力によって弾性体140が遠心方向に変形した時の弾性体140の中心が必ずしもインナ100と同心になるとは限らず、インナ100の回転中心に対して偏心することもある。このため、弾性体140とローラ120との接触が不規則となり、ローラ120の挙動が不安定になるに従ってアウタ150も不規則に振られるため、オーバラン性能を安定的に維持することが難しい。
また、環状の弾性体140がインナ100と同心にならないと、ローラ120をインナ100の外周に真円で保持できないため、インナ100の係止凹部110とローラ120との間で断続的な接触が生じる。これにより、ローラ120が係止凹部110に叩かれるため、ローラ120と係止凹部110との衝突により両者が変形したり、その衝突により衝突音が発生する。あるいは、ローラ120の挙動不安定により、ローラ120を付勢するスプリング160の繰り返し疲労等の不具合が発生する。
【0005】
また、オーバラン時にエンジンにより駆動されるインナ100の回転数は、エンジンの機種および状態により不規則であり、弾性体140を低回転で変形する設定にすると、インナ100が高回転の時に弾性体140が変形し過ぎて破損に至り易い。一方、弾性体140を高回転にて変形する設定にすれば、インナ100が低回転の時に弾性体140が変形しきれず、ローラ120と係止凹部110とが衝突して上記の様な不具合が発生する。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、ローラの挙動を安定させるとともに、オーバラン時のローラと係止凹部との衝突を防止しながら、動力伝達時はローラを係止凹部と係合させて確実な動力伝達を行う一方向クラッチを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明によれば、環状弾性体が係止凹部の最深部と最頂部との間に外周面が位置するように溝部に収納されているため、アウタとインナとの空転時におけるローラと係止凹部との衝突もしくは引っ掛かり抵抗を低減できる。これにより、空転性能が向上するとともに、ローラの挙動が安定するため、ローラと係止凹部との衝突による変形を防止できるとともに、収容室内でローラを付勢する付勢部材の繰り返し疲労を防止できる。
また、インナとアウタは、オーバラン時に環状弾性体が弾性力によりローラを付勢して係止凹部から離脱させるため、インナとアウタとの接触抵抗が低減してオーバラン時の摩擦音が低減し、スタータの低騒音化が可能となる。
【0007】
請求項2の発明によれば、環状弾性体がローラの長手方向の両端部でローラに接触しているため、ローラの傾きを防止して安定した挙動を得ることができる。
【0008】
請求項3の発明によれば、環状弾性体の外周面がアウタあるいはプレートにより規制されているため、環状弾性体の遠心変形をクラッチの機能を確保できる範囲に制限することが可能となる。また、環状弾性体がアウタあるいはプレートに心出しされるため、アウタの収容室にローラを均等位置に保持することが可能となり、オーバラン時におけるアウタとインナとの同軸を得ることができる。さらには、環状弾性体の外周面がアウタあるいはプレートにより規制されるため、オーバラン時にエンジンにより高回転で回されるインナ側と比べて、アウタ側はスタータ無負荷回転のため、遠心力の影響が低減されて環状弾性体の異常変形を防止できる。
【0009】
請求項4の発明によれば、環状弾性体が付勢部材の付勢力によって変形しない設定であるため、オーバラン時に環状弾性体の機能(ローラを外周へ付勢する弾性力)が損なわれることなく、確実にローラを係止凹部から離脱させることが可能となる。
【0010】
請求項5の発明によれば、環状弾性体の少なくとも一端側外周面が係止凹部の最頂部と略同一径に設定されているため、アウタとインナとの空転時におけるローラと係止凹部との衝突もしくは引っ掛かりがない。これにより、空転性能が向上するとともに、ローラの挙動が安定するため、ローラと係止凹部との衝突による変形を防止できるとともに、収容室内でローラを付勢する付勢部材の繰り返し疲労を防止できる。また、インナとアウタは、オーバラン時に環状弾性体が弾性力によりローラを付勢して係止凹部から離脱させるため、インナとアウタとの接触抵抗が低減してオーバラン時の摩擦音が低減し、スタータの低騒音化が可能となる。
さらに、環状弾性体は切れ目のない肉薄の円環であるため、自重が小さい割りに強度があり、遠心力を受けても環状弾性体の遠心変形がなく、クラッチの機能を確保できる範囲に制限することが可能となる。
また、環状弾性体の他端がインナに固定されて芯出しされるため、アウタの収容室にローラを均等位置に保持することが可能となり、オーバラン時におけるアウタとインナとの同軸を得ることができる。
【0011】
請求項6の発明によれば、環状弾性体がローラの長手方向の両端部でローラに接触しているため、ローラの傾きを防止して安定した挙動を得ることができる。
【0012】
請求項7の発明によれば、環状弾性体が付勢部材の付勢力によって変形しても、一端外径が係止凹部の最頂部径以上の設定であるため、オーバラン時に環状弾性体の機能(ローラを外周へ付勢する弾性力)が損なわれることなく、確実にローラを係止凹部から離脱させることが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の一方向クラッチを備えたスタータの実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)
図1は一方向クラッチの断面図である。
スタータ1は、図3に示すように、通電を受けて回転力を発生する始動モータ2、この始動モータ2の回転を減速して出力軸3に伝達する遊星歯車減速装置(後述する)、スタータ1の駆動系に加わる過大トルクを吸収する緩衝装置(後述する)、出力軸3に嵌合するピニオンギヤ4、出力軸3に伝達された回転をピニオンギヤ4に伝達する一方向クラッチ5、およびピニオンギヤ4の押し出し力を発生するとともに始動モータ2の通電制御を行うマグネットスイッチ6等より構成される。
【0014】
始動モータ2は、周知の直流電動機であり、シャフト7の両端部が軸受8、9を介して出力軸3とエンドフレーム10とに回転自在に支持されたアーマチャ11、このアーマチャ11の外周に配置される固定磁極(ポールコア12とフィールドコイル13)、この固定磁極を内周面に保持する円筒状のヨーク14、シャフト7の後端外周に設けられたコンミテータ15に摺接するブラシ16等より構成されている。なお、固定磁極として永久磁石を使用しても良い。
【0015】
出力軸3は、アーマチャ11の前方でシャフト7と同軸に配されて、先端外周に嵌合する軸受17と後端寄り外周に嵌合する軸受18とを介してフロントハウジング19の先端部とセンタベアリング20の内筒部20aに回転自在に支持されている。出力軸3の後端中央部には、中空筒状の凹所が形成されて、その凹所内に前述の軸受8を介してシャフト7の先端を回転自在に支持している。また、出力軸3の先端寄り外周には、ピニオンギヤ4の前進移動を規制するストップカラー21が取り付けられている。このストップカラー21は、出力軸3の外周に形成された周溝3aに嵌合するスナップリング22を介して軸方向前方への移動が規制されている。
【0016】
遊星歯車減速装置は、シャフト7の先端外周に形成されたサンギヤ23、このサンギヤ23に噛み合う複数の遊星ギヤ24、各遊星ギヤ24が噛み合うインターナルギヤ25、および出力軸3の後端に設けられたプラネットキャリア26より構成される。サンギヤ23は、シャフト7と一体に回転して各遊星ギヤ24を回転駆動する。各遊星ギヤ24は、それぞれプラネットキャリア26に圧入されたピン27に軸受28を介して回転自在に支持され、サンギヤ23の回転を受けて自転しながらサンギヤ23の外周を公転する。インターナルギヤ25は、緩衝装置の摩擦板29と係合して、その摩擦板29により回転方向の移動が規制されている。プラネットキャリア26は、各遊星ギヤ24の公転とともに回転して、出力軸3に回転力を発生させる。
【0017】
緩衝装置は、前述の摩擦板29、ワッシャ30、皿ばね31、および調節螺子32等より構成されている。摩擦板29は、ワッシャ30を介して皿ばね31の付勢力を受けて、センタベアリング20と摩擦係合されている。調節螺子32は、センタベアリング20の内筒部20a外周に形成された雄螺子部20bに螺着して、摩擦板29を付勢する皿ばね31の付勢力を調節している。この緩衝装置は、センタベアリング20と摩擦板29との摩擦係合力により生じる静止トルクを上回る過大トルクが加わった時に、センタベアリング20に対して摩擦板29が回転してインターナルギヤ25を回転させることで過大トルクを吸収することができる。もちろん、本緩衝装置がなく、インターナルギヤ25が固定部材(例えばセンタベアリング20)と回転不能に保持されていても良い。
【0018】
ピニオンギヤ4は、エンジンのリングギヤ33と噛み合って始動モータ2の回転力をリングギヤ33に伝達するもので、一方向クラッチ5のインナ34と一体に設けられて、軸受35を介して出力軸3の外周に嵌合している。
一方向クラッチ5は、アウタ36、インナ34、ローラ37、スプリング38(図1参照)、プレート39、付勢リング40(本発明の環状弾性体/図1参照)、およびクラッチカバー41等より構成される。
アウタ36は、出力軸3にヘリカルスプライン42を介して嵌合するスプラインチューブ43と一体に設けられて、その内周面にローラ37とスプリング38を収容する楔状のカム室36a(本発明の収容室/図1参照)が形成されている。このカム室36aは、アウタ36内周面の周方向に等間隔で複数設けられている。
【0019】
インナ34は、ピニオンギヤ4の後方側でアウタ36の内周に同軸配置されている。このインナ34の外周面には、トルク伝達時にローラ37を係止するための係止凹部34a(図1参照)が形成されている。この係止凹部34aは、インナ34外周面の周方向に等間隔で複数(例えば、カム室36aの整数倍)設けられている。また、インナ34の軸方向両端部には、付勢リング40を収納する環状の溝部34b(図1参照)が各係止凹部34aと交差して円周方向に形成されている。なお、この溝部34bは、付勢リング40の厚さ以上に係止凹部34aより深く形成されている。
【0020】
ローラ37は、円柱形に設けられて、アウタ36の回転をインナ34へ伝達するトルク伝達時にカム室36aの狭い方へ移動してアウタ36およびインナ34と係合することにより、アウタ36の回転をインナ34へ伝達する。また、エンジン始動後にインナ34の方がアウタ36より回転数が高くなる(オーバラン)と、ローラ37がカム室36aの広い方へ移動し、係止凹部34aから外れてアウタ36およびインナ34との係合を解除することにより、インナ34の回転がアウタ36へ伝達されるのを防止することができる。
スプリング38は、ローラ37とともに各カム室36aに配されて、ローラ37をカム室36aの狭い方へ付勢している。
【0021】
プレート39は、図4に示すように、ローラ37の長手方向でアウタ36の側壁部36bと反対側に配されて、アウタ36の側壁部36bとともにローラ37の軸方向の移動を規制している。
付勢リング40は、インナ34に設けられた溝部34bに収納されて、径方向に弾性変形可能に設けられている。但し、ローラ37を付勢するスプリング38の付勢力によって変形しない設定である。この付勢リング40は、図1に示すように、その外周面が半径方向で係止凹部34aの最深部Bと最頂部Cとの間に位置する大きさに設けられている。また、付勢リング40は、ローラ37の長手方向(図4の左右方向)に所定の幅を有し、その幅方向の半分程度がそれぞれローラ37の端面から外側へはみ出しており、静止状態において、そのはみ出た部位の外周面がアウタ36の側壁部36b内周面およびプレート39の内周面に嵌合した状態で溝部34bに収納されている。
クラッチカバー41は、アウタ36の外周を覆ってアウタ36およびプレート39を固定している。
【0022】
マグネットスイッチ6は、前述のスタータスイッチがONされると、内蔵するコイル(図示しない)が通電されて磁力を発生することにより、コイルの内周に配されたプランジャ(図示しない)を吸引してモータ接点を閉じるとともに、そのプランジャ吸引力によってレバー44を駆動する。レバー44は、一端がプランジャに連結されたジョイント45に係合し、他端がスプラインチューブ43の外周に係合して、フロントハウジング19に設けられた支点46を中心として揺動可能に設けられている。
【0023】
次に、本実施例の作動を説明する。
スタータスイッチのON操作によりマグネットスイッチ6内のコイルが通電されてプランジャが吸引されると、ジョイント45に係合するレバー44が支点46を中心として揺動する。この結果、レバー44の他端に連結されたスプラインチューブ43が出力軸3上をヘリカルスプライン42に沿って前方へ押し出されることにより、一方向クラッチ5とともにピニオンギヤ4が出力軸3上を前進する。
【0024】
一方、マグネットスイッチ6内のモータ接点が閉じると、バッテリから始動モータ2に電流が流れてアーマチャ11に回転力が発生し、そのアーマチャ11の回転が減速装置で減速されて出力軸3に伝達される。出力軸3の回転は、スプラインチューブ43を介してアウタ36に伝達されてアウタ36を回転させる。アウタ36が回転すると、アウタ36とインナ34との相対回転によりローラ37がカム室36aの狭い方へ移動して付勢リング40の外周面から突出する係止凹部34aの頂部に係止され、そのローラ37を介してアウタ36とインナ34との間に抵抗力が発生するため、ローラ37は付勢リング40を内周側へ撓ませて係止凹部34aに係止される。これにより、ローラ37がアウタ36とインナ34とに係合することで、アウタ36の回転がインナ34へ伝達されて、インナ34と一体を成すピニオンギヤ4が回転し、そのピニオンギヤ4がリングギヤ33と噛み合って始動モータ2の回転力をリングギヤ33に伝達することでエンジンを始動する。
【0025】
エンジンが始動して、リングギヤ33と噛み合っているピニオンギヤ4がリングギヤ33を通じてエンジンの回転力により高速で回されると、インナ34の回転の方がアウタ36の回転より速くなるため、ローラ37は、アウタ36とインナ34との相対回転差によってスプリング38の付勢力に抗してカム室36aの広い方へ移動する。これにより、ローラ37とアウタ36およびインナ34との係合が解除されるため、インナ34の回転がアウタ36へ伝達されることはなく、アーマチャ11のオーバランを防止できる。また、ローラ37がカム室36aの広い方へ移動することで、それまで溝部34bの内周側へ押し込まれていた付勢リング40が自己の弾性力によって復元するため、インナ34の係止凹部34aは、その頂部が付勢リング40の外周面から僅かに突出するのみで、殆ど付勢リング40に覆われる。これにより、カム室36aの広い方へ移動したローラ37は、係止凹部34aと殆ど衝突することなく、カム室36a内での挙動が安定する。
【0026】
エンジン始動後、スタータスイッチのOFF操作によりマグネットスイッチ6の作動が停止して、それまで吸引されていたプランジャが初期位置へ復帰すると、マグネットスイッチ6内のモータ接点が開いて、始動モータ2への通電が停止することによりアーマチャ11の回転が停止する。また、プランジャの復帰によってジョイント45に係合するレバー44がエンジン始動時と反対側へ揺動することにより、そのレバー44を通じてスプラインチューブ43に後退力が作用するため、ピニオンギヤ4がリングギヤ33から離脱して、一方向クラッチ5と一体に出力軸3上を後退し、静止位置へ復帰する。
【0027】
(本実施例の効果)
本実施例では、付勢リング40が係止凹部34aの最深部Bと最頂部Cとの間に外周面が位置するようにインナ34の溝部34bに収納されているため、アウタ36とインナ34との空転時におけるローラ37と係止凹部34aとの衝突もしくは引っ掛かり抵抗を低減できる。これにより、空転性能が向上するとともに、ローラ37の挙動が安定するため、ローラ37と係止凹部34aとの衝突による変形を防止できるとともに、カム室36a内でローラ37を付勢するスプリング38の繰り返し疲労を防止できる。
また、インナ34とアウタ36は、オーバラン時に付勢リング40が自己の弾性力によりローラ37を付勢して係止凹部34aから離脱させるため、インナ34とアウタ36との接触抵抗が低減してオーバラン時の摩擦音が低減し、スタータ1の低騒音化が可能となる。
【0028】
付勢リング40は、ローラ37の長手方向の両端部でローラ37に接触しているため、ローラ37の傾きが防止されて安定した挙動を得ることができる。
また、付勢リング40の外周面がアウタ36の側壁部36b内周面とプレート39の内周面とに規制されているため、オーバラン時の付勢リング40の遠心変形をクラッチの機能を確保できる範囲に制限することが可能となる。また、付勢リング40がアウタ36とプレート39に芯出しされるため、アウタ36の各カム室36aにローラ37を均等位置に保持することが可能となり、オーバラン時におけるアウタ36とインナ34との同軸を得ることができる。さらには、付勢リング40の外周面がアウタ36とプレート39により規制されるため、オーバラン時にエンジンにより高回転で回されるインナ34側と比べて、アウタ36側はスタータ無負荷回転のため、遠心力の影響が低減されて付勢リング40の異常変形を防止できる。
【0029】
(第2実施例)
図5は一方向クラッチ5の軸方向に沿った断面図である。
本実施例は、付勢リング40がインナ34に圧入固定されて、インナ34と一体に回転する構成とした場合の例である。
その付勢リング40は、図5に示すように、ローラ37の長手方向(図5の左右方向)に所定の幅を有し、その幅方向の半分程度がそれぞれローラ37の端面から外側へはみ出しており、ローラ37の端面より内側である付勢リング40の一端側がインナ34に設けられた溝部34b内を径方向に弾性変形可能に設けられて、ローラ37の端面からはみ出た部位の内径側でインナ34の外周面に圧入固定されている。また、付勢リング40は、図6に示すように、その外周面が半径方向で係止凹部34aの最頂部Cより外周側に位置する大きさに設定されている。
【0030】
本実施例の付勢リング40は、トルク伝達時に一端側が弾性変形してローラ37を係止凹部34aに係止させるが、他端側がインナ34に圧入固定されている円環状のリング体であるため、遠心力が加わったとしても、常にインナ34に固定されて芯出しされた状態である。そのため、従来の問題点である偏心等による不具合(ローラ37の挙動が不安定になる)は発生しない。
また、付勢リング40は肉薄の鋼材より出来ており、アウタ36に形成されたカム室36aの楔形状によりローラ37が付勢リング40を押圧する荷重は、本案のアウタ36とインナ34とローラ37間でトルク伝達する荷重に対してはるかに小さく設定されているため、摩擦係数の低い潤滑剤を使用したとしても付勢リング40は変形可能であり、ローラ37は係止凹部34aへ入り込むことができる。
【0031】
(第3実施例)
図7は一方向クラッチ5の軸方向に沿った断面図である。
本実施例は、第2実施例と同様に、付勢リング40をインナ34に圧入固定した場合の他の例を示すものである。
付勢リング40は、図7に示すように、断面U字状の環状リング体とし、その外周面にローラ37が摺接して、内周面がインナ34に圧入固定されている。本実施例の場合でも、第2実施例と同様に、付勢リング40が常にインナ34に固定されて芯出しされた状態であるため、偏心等による不具合は発生しない。
また、付勢リング40を皿ばね状とし、小径側をインナ34に固定し、大径側でローラ37を摺接させる構成としても同様の効果が得られる。
【0032】
(変形例)
第1実施例では、ピニオンギヤ4をインナ34と一体に設けた例を示したが、第2実施例(図5参照)および第3実施例(図7参照)に示した様に、ピニオンギヤ4とインナ34とを別体で設けて、両者を圧入、溶接等の方法で周方向および軸方向に互いを固定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】オーバラン状態の一方向クラッチの断面図(図4のA−A断面図)である。
【図2】トルク伝達時の一方向クラッチの断面図(図4のA−A断面図)である。
【図3】スタータの半断面図である。
【図4】一方向クラッチの軸方向に沿った断面図である。
【図5】一方向クラッチの軸方向に沿った断面図である(第2実施例)。
【図6】オーバラン状態の一方向クラッチの断面図である(第2実施例)。
【図7】一方向クラッチの軸方向に沿った断面図である(第3実施例)。
【図8】先願で提案した一方向クラッチの断面図である。
【符号の説明】
1 スタータ
2 始動モータ
3 出力軸
4 ピニオンギヤ
5 一方向クラッチ
34 インナ
34a 係止凹部
34b 環状の溝部
36a カム室(収容室)
36 アウタ
37 ローラ
38 スプリング(付勢部材)
39 プレート
40 付勢リング(環状弾性体)
B 最深部
C 最頂部
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジン始動用のスタータに用いられる一方向クラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
スタータに用いられる一方向クラッチでは、円滑なクラッチ作動を行うために、アウタとインナとで形成されるカム室に潤滑剤が充填されている。しかし、極端に摩擦係数の小さな潤滑剤を使用すると、カム室に収容されたローラとインナとの間で滑りが生じて、トルク伝達ができなくなる可能性がある。また、摩擦係数の大きな潤滑剤を使用すると、オーバラン時にインナの外周面およびローラの外周面が磨耗するため、クラッチの耐久性に問題を生じる可能性があった。
そこで、本願出願人は、摩擦に対して影響の少ない一方向クラッチを提案した(特願平6−213707号明細書)。この一方向クラッチは、図8に示すように、インナ100の外周面に係止凹部110を形成し、この係止凹部110にローラ120を係止させた状態でトルク伝達を行っている。
【0003】
さらに、この一方向クラッチでは、オーバラン時に係止凹部110からローラ120が離脱するのを助長するために、インナ100の外周部に周方向に沿った環状の溝130を設け、この溝130に環状の弾性体140を収納している。この弾性体140は、インナ100の回転で生じる遠心力を受けて遠心方向へ変形することにより、ローラ120を押圧してローラ120が係止凹部110から離脱するのを助けている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、先願の一方向クラッチでは、遠心力によって弾性体140が遠心方向に変形した時の弾性体140の中心が必ずしもインナ100と同心になるとは限らず、インナ100の回転中心に対して偏心することもある。このため、弾性体140とローラ120との接触が不規則となり、ローラ120の挙動が不安定になるに従ってアウタ150も不規則に振られるため、オーバラン性能を安定的に維持することが難しい。
また、環状の弾性体140がインナ100と同心にならないと、ローラ120をインナ100の外周に真円で保持できないため、インナ100の係止凹部110とローラ120との間で断続的な接触が生じる。これにより、ローラ120が係止凹部110に叩かれるため、ローラ120と係止凹部110との衝突により両者が変形したり、その衝突により衝突音が発生する。あるいは、ローラ120の挙動不安定により、ローラ120を付勢するスプリング160の繰り返し疲労等の不具合が発生する。
【0005】
また、オーバラン時にエンジンにより駆動されるインナ100の回転数は、エンジンの機種および状態により不規則であり、弾性体140を低回転で変形する設定にすると、インナ100が高回転の時に弾性体140が変形し過ぎて破損に至り易い。一方、弾性体140を高回転にて変形する設定にすれば、インナ100が低回転の時に弾性体140が変形しきれず、ローラ120と係止凹部110とが衝突して上記の様な不具合が発生する。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、ローラの挙動を安定させるとともに、オーバラン時のローラと係止凹部との衝突を防止しながら、動力伝達時はローラを係止凹部と係合させて確実な動力伝達を行う一方向クラッチを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明によれば、環状弾性体が係止凹部の最深部と最頂部との間に外周面が位置するように溝部に収納されているため、アウタとインナとの空転時におけるローラと係止凹部との衝突もしくは引っ掛かり抵抗を低減できる。これにより、空転性能が向上するとともに、ローラの挙動が安定するため、ローラと係止凹部との衝突による変形を防止できるとともに、収容室内でローラを付勢する付勢部材の繰り返し疲労を防止できる。
また、インナとアウタは、オーバラン時に環状弾性体が弾性力によりローラを付勢して係止凹部から離脱させるため、インナとアウタとの接触抵抗が低減してオーバラン時の摩擦音が低減し、スタータの低騒音化が可能となる。
【0007】
請求項2の発明によれば、環状弾性体がローラの長手方向の両端部でローラに接触しているため、ローラの傾きを防止して安定した挙動を得ることができる。
【0008】
請求項3の発明によれば、環状弾性体の外周面がアウタあるいはプレートにより規制されているため、環状弾性体の遠心変形をクラッチの機能を確保できる範囲に制限することが可能となる。また、環状弾性体がアウタあるいはプレートに心出しされるため、アウタの収容室にローラを均等位置に保持することが可能となり、オーバラン時におけるアウタとインナとの同軸を得ることができる。さらには、環状弾性体の外周面がアウタあるいはプレートにより規制されるため、オーバラン時にエンジンにより高回転で回されるインナ側と比べて、アウタ側はスタータ無負荷回転のため、遠心力の影響が低減されて環状弾性体の異常変形を防止できる。
【0009】
請求項4の発明によれば、環状弾性体が付勢部材の付勢力によって変形しない設定であるため、オーバラン時に環状弾性体の機能(ローラを外周へ付勢する弾性力)が損なわれることなく、確実にローラを係止凹部から離脱させることが可能となる。
【0010】
請求項5の発明によれば、環状弾性体の少なくとも一端側外周面が係止凹部の最頂部と略同一径に設定されているため、アウタとインナとの空転時におけるローラと係止凹部との衝突もしくは引っ掛かりがない。これにより、空転性能が向上するとともに、ローラの挙動が安定するため、ローラと係止凹部との衝突による変形を防止できるとともに、収容室内でローラを付勢する付勢部材の繰り返し疲労を防止できる。また、インナとアウタは、オーバラン時に環状弾性体が弾性力によりローラを付勢して係止凹部から離脱させるため、インナとアウタとの接触抵抗が低減してオーバラン時の摩擦音が低減し、スタータの低騒音化が可能となる。
さらに、環状弾性体は切れ目のない肉薄の円環であるため、自重が小さい割りに強度があり、遠心力を受けても環状弾性体の遠心変形がなく、クラッチの機能を確保できる範囲に制限することが可能となる。
また、環状弾性体の他端がインナに固定されて芯出しされるため、アウタの収容室にローラを均等位置に保持することが可能となり、オーバラン時におけるアウタとインナとの同軸を得ることができる。
【0011】
請求項6の発明によれば、環状弾性体がローラの長手方向の両端部でローラに接触しているため、ローラの傾きを防止して安定した挙動を得ることができる。
【0012】
請求項7の発明によれば、環状弾性体が付勢部材の付勢力によって変形しても、一端外径が係止凹部の最頂部径以上の設定であるため、オーバラン時に環状弾性体の機能(ローラを外周へ付勢する弾性力)が損なわれることなく、確実にローラを係止凹部から離脱させることが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の一方向クラッチを備えたスタータの実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)
図1は一方向クラッチの断面図である。
スタータ1は、図3に示すように、通電を受けて回転力を発生する始動モータ2、この始動モータ2の回転を減速して出力軸3に伝達する遊星歯車減速装置(後述する)、スタータ1の駆動系に加わる過大トルクを吸収する緩衝装置(後述する)、出力軸3に嵌合するピニオンギヤ4、出力軸3に伝達された回転をピニオンギヤ4に伝達する一方向クラッチ5、およびピニオンギヤ4の押し出し力を発生するとともに始動モータ2の通電制御を行うマグネットスイッチ6等より構成される。
【0014】
始動モータ2は、周知の直流電動機であり、シャフト7の両端部が軸受8、9を介して出力軸3とエンドフレーム10とに回転自在に支持されたアーマチャ11、このアーマチャ11の外周に配置される固定磁極(ポールコア12とフィールドコイル13)、この固定磁極を内周面に保持する円筒状のヨーク14、シャフト7の後端外周に設けられたコンミテータ15に摺接するブラシ16等より構成されている。なお、固定磁極として永久磁石を使用しても良い。
【0015】
出力軸3は、アーマチャ11の前方でシャフト7と同軸に配されて、先端外周に嵌合する軸受17と後端寄り外周に嵌合する軸受18とを介してフロントハウジング19の先端部とセンタベアリング20の内筒部20aに回転自在に支持されている。出力軸3の後端中央部には、中空筒状の凹所が形成されて、その凹所内に前述の軸受8を介してシャフト7の先端を回転自在に支持している。また、出力軸3の先端寄り外周には、ピニオンギヤ4の前進移動を規制するストップカラー21が取り付けられている。このストップカラー21は、出力軸3の外周に形成された周溝3aに嵌合するスナップリング22を介して軸方向前方への移動が規制されている。
【0016】
遊星歯車減速装置は、シャフト7の先端外周に形成されたサンギヤ23、このサンギヤ23に噛み合う複数の遊星ギヤ24、各遊星ギヤ24が噛み合うインターナルギヤ25、および出力軸3の後端に設けられたプラネットキャリア26より構成される。サンギヤ23は、シャフト7と一体に回転して各遊星ギヤ24を回転駆動する。各遊星ギヤ24は、それぞれプラネットキャリア26に圧入されたピン27に軸受28を介して回転自在に支持され、サンギヤ23の回転を受けて自転しながらサンギヤ23の外周を公転する。インターナルギヤ25は、緩衝装置の摩擦板29と係合して、その摩擦板29により回転方向の移動が規制されている。プラネットキャリア26は、各遊星ギヤ24の公転とともに回転して、出力軸3に回転力を発生させる。
【0017】
緩衝装置は、前述の摩擦板29、ワッシャ30、皿ばね31、および調節螺子32等より構成されている。摩擦板29は、ワッシャ30を介して皿ばね31の付勢力を受けて、センタベアリング20と摩擦係合されている。調節螺子32は、センタベアリング20の内筒部20a外周に形成された雄螺子部20bに螺着して、摩擦板29を付勢する皿ばね31の付勢力を調節している。この緩衝装置は、センタベアリング20と摩擦板29との摩擦係合力により生じる静止トルクを上回る過大トルクが加わった時に、センタベアリング20に対して摩擦板29が回転してインターナルギヤ25を回転させることで過大トルクを吸収することができる。もちろん、本緩衝装置がなく、インターナルギヤ25が固定部材(例えばセンタベアリング20)と回転不能に保持されていても良い。
【0018】
ピニオンギヤ4は、エンジンのリングギヤ33と噛み合って始動モータ2の回転力をリングギヤ33に伝達するもので、一方向クラッチ5のインナ34と一体に設けられて、軸受35を介して出力軸3の外周に嵌合している。
一方向クラッチ5は、アウタ36、インナ34、ローラ37、スプリング38(図1参照)、プレート39、付勢リング40(本発明の環状弾性体/図1参照)、およびクラッチカバー41等より構成される。
アウタ36は、出力軸3にヘリカルスプライン42を介して嵌合するスプラインチューブ43と一体に設けられて、その内周面にローラ37とスプリング38を収容する楔状のカム室36a(本発明の収容室/図1参照)が形成されている。このカム室36aは、アウタ36内周面の周方向に等間隔で複数設けられている。
【0019】
インナ34は、ピニオンギヤ4の後方側でアウタ36の内周に同軸配置されている。このインナ34の外周面には、トルク伝達時にローラ37を係止するための係止凹部34a(図1参照)が形成されている。この係止凹部34aは、インナ34外周面の周方向に等間隔で複数(例えば、カム室36aの整数倍)設けられている。また、インナ34の軸方向両端部には、付勢リング40を収納する環状の溝部34b(図1参照)が各係止凹部34aと交差して円周方向に形成されている。なお、この溝部34bは、付勢リング40の厚さ以上に係止凹部34aより深く形成されている。
【0020】
ローラ37は、円柱形に設けられて、アウタ36の回転をインナ34へ伝達するトルク伝達時にカム室36aの狭い方へ移動してアウタ36およびインナ34と係合することにより、アウタ36の回転をインナ34へ伝達する。また、エンジン始動後にインナ34の方がアウタ36より回転数が高くなる(オーバラン)と、ローラ37がカム室36aの広い方へ移動し、係止凹部34aから外れてアウタ36およびインナ34との係合を解除することにより、インナ34の回転がアウタ36へ伝達されるのを防止することができる。
スプリング38は、ローラ37とともに各カム室36aに配されて、ローラ37をカム室36aの狭い方へ付勢している。
【0021】
プレート39は、図4に示すように、ローラ37の長手方向でアウタ36の側壁部36bと反対側に配されて、アウタ36の側壁部36bとともにローラ37の軸方向の移動を規制している。
付勢リング40は、インナ34に設けられた溝部34bに収納されて、径方向に弾性変形可能に設けられている。但し、ローラ37を付勢するスプリング38の付勢力によって変形しない設定である。この付勢リング40は、図1に示すように、その外周面が半径方向で係止凹部34aの最深部Bと最頂部Cとの間に位置する大きさに設けられている。また、付勢リング40は、ローラ37の長手方向(図4の左右方向)に所定の幅を有し、その幅方向の半分程度がそれぞれローラ37の端面から外側へはみ出しており、静止状態において、そのはみ出た部位の外周面がアウタ36の側壁部36b内周面およびプレート39の内周面に嵌合した状態で溝部34bに収納されている。
クラッチカバー41は、アウタ36の外周を覆ってアウタ36およびプレート39を固定している。
【0022】
マグネットスイッチ6は、前述のスタータスイッチがONされると、内蔵するコイル(図示しない)が通電されて磁力を発生することにより、コイルの内周に配されたプランジャ(図示しない)を吸引してモータ接点を閉じるとともに、そのプランジャ吸引力によってレバー44を駆動する。レバー44は、一端がプランジャに連結されたジョイント45に係合し、他端がスプラインチューブ43の外周に係合して、フロントハウジング19に設けられた支点46を中心として揺動可能に設けられている。
【0023】
次に、本実施例の作動を説明する。
スタータスイッチのON操作によりマグネットスイッチ6内のコイルが通電されてプランジャが吸引されると、ジョイント45に係合するレバー44が支点46を中心として揺動する。この結果、レバー44の他端に連結されたスプラインチューブ43が出力軸3上をヘリカルスプライン42に沿って前方へ押し出されることにより、一方向クラッチ5とともにピニオンギヤ4が出力軸3上を前進する。
【0024】
一方、マグネットスイッチ6内のモータ接点が閉じると、バッテリから始動モータ2に電流が流れてアーマチャ11に回転力が発生し、そのアーマチャ11の回転が減速装置で減速されて出力軸3に伝達される。出力軸3の回転は、スプラインチューブ43を介してアウタ36に伝達されてアウタ36を回転させる。アウタ36が回転すると、アウタ36とインナ34との相対回転によりローラ37がカム室36aの狭い方へ移動して付勢リング40の外周面から突出する係止凹部34aの頂部に係止され、そのローラ37を介してアウタ36とインナ34との間に抵抗力が発生するため、ローラ37は付勢リング40を内周側へ撓ませて係止凹部34aに係止される。これにより、ローラ37がアウタ36とインナ34とに係合することで、アウタ36の回転がインナ34へ伝達されて、インナ34と一体を成すピニオンギヤ4が回転し、そのピニオンギヤ4がリングギヤ33と噛み合って始動モータ2の回転力をリングギヤ33に伝達することでエンジンを始動する。
【0025】
エンジンが始動して、リングギヤ33と噛み合っているピニオンギヤ4がリングギヤ33を通じてエンジンの回転力により高速で回されると、インナ34の回転の方がアウタ36の回転より速くなるため、ローラ37は、アウタ36とインナ34との相対回転差によってスプリング38の付勢力に抗してカム室36aの広い方へ移動する。これにより、ローラ37とアウタ36およびインナ34との係合が解除されるため、インナ34の回転がアウタ36へ伝達されることはなく、アーマチャ11のオーバランを防止できる。また、ローラ37がカム室36aの広い方へ移動することで、それまで溝部34bの内周側へ押し込まれていた付勢リング40が自己の弾性力によって復元するため、インナ34の係止凹部34aは、その頂部が付勢リング40の外周面から僅かに突出するのみで、殆ど付勢リング40に覆われる。これにより、カム室36aの広い方へ移動したローラ37は、係止凹部34aと殆ど衝突することなく、カム室36a内での挙動が安定する。
【0026】
エンジン始動後、スタータスイッチのOFF操作によりマグネットスイッチ6の作動が停止して、それまで吸引されていたプランジャが初期位置へ復帰すると、マグネットスイッチ6内のモータ接点が開いて、始動モータ2への通電が停止することによりアーマチャ11の回転が停止する。また、プランジャの復帰によってジョイント45に係合するレバー44がエンジン始動時と反対側へ揺動することにより、そのレバー44を通じてスプラインチューブ43に後退力が作用するため、ピニオンギヤ4がリングギヤ33から離脱して、一方向クラッチ5と一体に出力軸3上を後退し、静止位置へ復帰する。
【0027】
(本実施例の効果)
本実施例では、付勢リング40が係止凹部34aの最深部Bと最頂部Cとの間に外周面が位置するようにインナ34の溝部34bに収納されているため、アウタ36とインナ34との空転時におけるローラ37と係止凹部34aとの衝突もしくは引っ掛かり抵抗を低減できる。これにより、空転性能が向上するとともに、ローラ37の挙動が安定するため、ローラ37と係止凹部34aとの衝突による変形を防止できるとともに、カム室36a内でローラ37を付勢するスプリング38の繰り返し疲労を防止できる。
また、インナ34とアウタ36は、オーバラン時に付勢リング40が自己の弾性力によりローラ37を付勢して係止凹部34aから離脱させるため、インナ34とアウタ36との接触抵抗が低減してオーバラン時の摩擦音が低減し、スタータ1の低騒音化が可能となる。
【0028】
付勢リング40は、ローラ37の長手方向の両端部でローラ37に接触しているため、ローラ37の傾きが防止されて安定した挙動を得ることができる。
また、付勢リング40の外周面がアウタ36の側壁部36b内周面とプレート39の内周面とに規制されているため、オーバラン時の付勢リング40の遠心変形をクラッチの機能を確保できる範囲に制限することが可能となる。また、付勢リング40がアウタ36とプレート39に芯出しされるため、アウタ36の各カム室36aにローラ37を均等位置に保持することが可能となり、オーバラン時におけるアウタ36とインナ34との同軸を得ることができる。さらには、付勢リング40の外周面がアウタ36とプレート39により規制されるため、オーバラン時にエンジンにより高回転で回されるインナ34側と比べて、アウタ36側はスタータ無負荷回転のため、遠心力の影響が低減されて付勢リング40の異常変形を防止できる。
【0029】
(第2実施例)
図5は一方向クラッチ5の軸方向に沿った断面図である。
本実施例は、付勢リング40がインナ34に圧入固定されて、インナ34と一体に回転する構成とした場合の例である。
その付勢リング40は、図5に示すように、ローラ37の長手方向(図5の左右方向)に所定の幅を有し、その幅方向の半分程度がそれぞれローラ37の端面から外側へはみ出しており、ローラ37の端面より内側である付勢リング40の一端側がインナ34に設けられた溝部34b内を径方向に弾性変形可能に設けられて、ローラ37の端面からはみ出た部位の内径側でインナ34の外周面に圧入固定されている。また、付勢リング40は、図6に示すように、その外周面が半径方向で係止凹部34aの最頂部Cより外周側に位置する大きさに設定されている。
【0030】
本実施例の付勢リング40は、トルク伝達時に一端側が弾性変形してローラ37を係止凹部34aに係止させるが、他端側がインナ34に圧入固定されている円環状のリング体であるため、遠心力が加わったとしても、常にインナ34に固定されて芯出しされた状態である。そのため、従来の問題点である偏心等による不具合(ローラ37の挙動が不安定になる)は発生しない。
また、付勢リング40は肉薄の鋼材より出来ており、アウタ36に形成されたカム室36aの楔形状によりローラ37が付勢リング40を押圧する荷重は、本案のアウタ36とインナ34とローラ37間でトルク伝達する荷重に対してはるかに小さく設定されているため、摩擦係数の低い潤滑剤を使用したとしても付勢リング40は変形可能であり、ローラ37は係止凹部34aへ入り込むことができる。
【0031】
(第3実施例)
図7は一方向クラッチ5の軸方向に沿った断面図である。
本実施例は、第2実施例と同様に、付勢リング40をインナ34に圧入固定した場合の他の例を示すものである。
付勢リング40は、図7に示すように、断面U字状の環状リング体とし、その外周面にローラ37が摺接して、内周面がインナ34に圧入固定されている。本実施例の場合でも、第2実施例と同様に、付勢リング40が常にインナ34に固定されて芯出しされた状態であるため、偏心等による不具合は発生しない。
また、付勢リング40を皿ばね状とし、小径側をインナ34に固定し、大径側でローラ37を摺接させる構成としても同様の効果が得られる。
【0032】
(変形例)
第1実施例では、ピニオンギヤ4をインナ34と一体に設けた例を示したが、第2実施例(図5参照)および第3実施例(図7参照)に示した様に、ピニオンギヤ4とインナ34とを別体で設けて、両者を圧入、溶接等の方法で周方向および軸方向に互いを固定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】オーバラン状態の一方向クラッチの断面図(図4のA−A断面図)である。
【図2】トルク伝達時の一方向クラッチの断面図(図4のA−A断面図)である。
【図3】スタータの半断面図である。
【図4】一方向クラッチの軸方向に沿った断面図である。
【図5】一方向クラッチの軸方向に沿った断面図である(第2実施例)。
【図6】オーバラン状態の一方向クラッチの断面図である(第2実施例)。
【図7】一方向クラッチの軸方向に沿った断面図である(第3実施例)。
【図8】先願で提案した一方向クラッチの断面図である。
【符号の説明】
1 スタータ
2 始動モータ
3 出力軸
4 ピニオンギヤ
5 一方向クラッチ
34 インナ
34a 係止凹部
34b 環状の溝部
36a カム室(収容室)
36 アウタ
37 ローラ
38 スプリング(付勢部材)
39 プレート
40 付勢リング(環状弾性体)
B 最深部
C 最頂部
Claims (8)
- 内周面に楔状の収容室を有するアウタと、
前記収容室に収容されるローラと、
前記アウタの内周側に配されて、外周面に前記ローラを係止する係止凹部を有するインナとを備え、前記ローラを介して一方向にのみ前記アウタから前記インナへトルクを伝達する一方向クラッチであって、
前記インナの外周面で前記係止凹部と交差して円周方向に設けられ、且つ前記係止凹部より深く形成された環状の溝部と、
この溝部に収納された環状体で、径方向に弾性変形可能に設けられ、且つその外周面が半径方向で前記係止凹部の最深部と最頂部との間に位置している環状弾性体とを備え、
前記アウタから前記インナへのトルク伝達時には、前記ローラが前記環状弾性体を内周側へ撓ませながら前記係止凹部に係止され、
前記インナの回転が前記アウタの回転より大きくなるオーバラン時には、前記ローラが前記環状弾性体の弾性力により外周方向へ付勢されながら前記係止凹部から離脱することを特徴とする一方向クラッチ。 - 前記環状弾性体は、前記ローラの長手方向の両端部で前記ローラに接触していることを特徴とする請求項1記載の一方向クラッチ。
- 前記環状弾性体は、前記ローラの長手方向で前記ローラの端面より外側へはみ出た部位を有し、そのはみ出た部位の外周面が前記アウタあるいは前記ローラの軸方向の移動を規制するプレートにより規制されて、前記環状弾性体の外周側への変形が阻止されていることを特徴とする請求項1または2記載の一方向クラッチ。
- 前記ローラを前記収容室の狭い方向へ付勢する付勢部材を有し、
前記環状弾性体は、前記付勢部材の付勢力によって変形しない設定であることを特徴とする請求項1〜3記載の何れかの一方向クラッチ。 - 内周面に楔状の収容室を有するアウタと、
前記収容室に収容されるローラと、
前記アウタの内周側に配されて、外周面に前記ローラを係止する係止凹部を有するインナとを備え、前記ローラを介して一方向にのみ前記アウタから前記インナへトルクを伝達する一方向クラッチであって、
前記インナの外周面で前記係止凹部より深く形成された環状の溝部と、
この溝部において一端側が径方向に弾性変形可能に配置され、他端側が前記インナに固定された環状体であり、且つ少なくとも前記一端側は、その外周面が半径方向で前記係止凹部の最頂部径と略同一に形成されている環状弾性体とを備え、
前記アウタから前記インナへのトルク伝達時には、前記ローラが前記環状弾性体を内周側へ撓ませながら前記係止凹部に係止され、
前記インナの回転が前記アウタの回転より大きくなるオーバラン時には、前記ローラが前記環状弾性体の弾性力により外周方向へ付勢されながら前記係止凹部から離脱することを特徴とする一方向クラッチ。 - 前記環状弾性体は、前記ローラの長手方向の両端部で前記ローラに接触していることを特徴とする請求項5記載の一方向クラッチ。
- 前記ローラを前記収容室の狭い方向へ付勢する付勢部材を有し、
前記環状弾性体は、前記付勢部材の付勢力により変形するが、一端外径が前記係止凹部の最頂部径以下にならない設定としたことを特徴とする請求項5または6記載の一方向クラッチ。 - 始動モータの回転力を出力軸に伝達してピニオンギヤを回転駆動するスタータにおいて、
請求項1〜7記載の何れかの一方向クラッチを前記始動モータから前記出力軸までの動力伝達系に介在させていることを特徴とするスタータ。
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