JP3570336B2 - 走間クロス角変更方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペアクロス式圧延機やワークロールクロス式圧延機などのロールクロス式圧延機で金属帯を圧延する際の制御技術に関する。特に、ロールクロス式圧延機のクロス角を圧延動作中に変更する走間クロス角変更方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、生産性の向上と圧延材の通板による非定常作業をなくす方法として、先行する圧延材の後端部に後行する圧延材の先端部を接続して連続的に圧延する方法や、1つの圧延材から板厚が異なる複数の圧延仕様に圧延する方法が採用されている。このような圧延方法では圧下位置、ロール速度、あるいは、ロールベンダやロールシフトに代表される形状・板クラウン制御アクチュエータなどの圧延機の設定を圧延材あるいは圧延仕様が代わるタイミングに合わせて変更するいわゆる走間設定変更が必要であり、これには絶対値変更方法と相対値変更方法が知られている。
【0003】
絶対値変更方法は設定変更する前の圧延実績に係わらず、設定変更後の圧延材や圧延仕様に対する設定計算値に圧延機の設定を変更する方法であり、設定計算の精度が格段に優れているときに採用されている。
【0004】
一方、相対値変更方法は、設定変更する前の圧延材や圧延仕様に対する設定計算値と設定変更後の圧延材や圧延仕様に対する設定計算値との差、すなわち相対値だけ圧延機の設定を変更する方法であり、設定変更前の圧延材や圧延仕様に対する圧延中の自動制御による圧延機設定の修正が、設定変更後の圧延材の先端部の圧延にも反映されるため設定計算誤差の影響が小さくなるという長所がある。
【0005】
板形状、板クラウンおよびエッジドロップなどはロールの熱膨張、ロールの摩耗などの影響を受けるため、設定計算誤差は避けられず、またロールの熱膨張やロールの摩耗は長期的に変化する傾向があるため、これらの制御には相対値変更方法を採用することが多い。
【0006】
ところで、近年、板形状、板クラウンおよびエッジドロップの制御能力が大きい圧延機として、ロールクロス式圧延機が厚板圧延、熱間薄板圧延や冷間薄板圧延に適用されている。ロールクロス式圧延機としては、上下ワークロールのロール軸を上下バックアップロールのロール軸とともにクロスさせるペアクロス式圧延機と、上下ワークロールのロール軸のみをクロスさせるワークロールクロス式圧延機が知られている。
【0007】
図1は、ロールクロス式圧延機におけるワークロールの配置を示す模式図で、同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のA断面とB断面における軸中心の相対位置を示す側面図である。同図で、oAuはA断面(ロール軸方向中央部)の上ワークロール中心、oBu はB断面(ロール軸方向端部)の上ワークロール中心、oAlはA断面の下ワークロール中心、oBlはB断面の下ワークロール中心、を表す。
【0008】
ロールクロス式圧延機による板形状、板クラウンやエッジドロップの制御は、図1(a)、(b)に示すように、上下のロール軸をクロスさせ、ロール軸方向端部における上下ワークロールの間隙を変更し、ロール軸方向端部とロール軸方向中央部の上下ワークロールの間隙差を調整することにより行われる。
【0009】
この間隙差、すなわちロールクラウンは、上下ワークロールの配置で幾何学的に定まり、ロール軸相互のなす角度であるクロス角を変更することにより、あたかもロールにイニシャル研削クラウンを付与したのと同様な効果が得られるため、等価ロールクラウンと呼ばれ、下記の(1)式で表される。
【0010】
【数2】
【0011】
但し、(1)式において、oAuoBuはoAuとoBuとの間の距離、oAuoAlは oAuとoAlとの間の距離、oBuoBlはoBuとoBlとの間の距離を表す。
ここで、クロス角は10−2rad程度のオーダーしかなく、oAuoBuはoAuoAlに比べて非常に小さいので、(1)式は(2)式で近似される。
【0012】
【数3】
【0013】
但し、L:ワークロール胴長、R:ワークロール半径、θ:クロス角、を示す。
ペアクロス式圧延機の場合は、バックアップロールとワークロールとを一体として上下でクロスさせるため、バックアップロールとワークロール間には上下のロール軸をクロスさせることによる等価クラウン付与の効果は現れず、上下ワークロール間のみに等価ロールクラウン付与の効果が発生する。
【0014】
一方、ワークロールクロス式圧延機の場合は、バックアップロールとワークロールとの間、ならびに、上下ワークロール間に等価ロールクラウン付与の効果が生じる。
【0015】
いずれの圧延機においてもクロス角変更による板形状、板クラウンやエッジドロップの制御効果は等価ロールクラウンで表すことができる。
このような圧延機を用いて、先行する圧延材の後端部に後行する圧延材の先端部を接続して連続的に圧延する場合や、1つの圧延材から板厚が異なる複数の圧延仕様に圧延する場合には、圧延材あるいは圧延仕様が代わるタイミングに応じて等価ロールクラウンを変更する必要がある。
【0016】
例えば、特公平7−39006号公報には、先行コイルに対する設定ロールクロス角(クロス角設定計算値)と後行コイルに対する設定ロールクロス角(クロス角設定計算値)との差としてクロス角変更量(クロス角の変更量)を求めてクロス角を変更する走間クロス角変更方法が開示されている。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
特公平7−39006号公報に開示された方法で相対値変更方法を実施した場合、クロス角変更量Δθは、後行圧延材のクロス角設定計算値θ2setと先行圧延材のクロス角設定計算値θ1setとの差(θ2set−θ1set)になるので、クロス角設定変更直前のクロス角実績値をθ1actとするとクロス角変更後のクロス角は(θ1act+θ2set−θ1set)になる。
【0018】
しかし、このときの等価ロールクラウンの変化量ΔCeqは、(2)式にしたがって計算すると、
【0019】
【数4】
【0020】
となり、等価ロールクラウンの変更量はクロス角変更直前のクロス角実績値θ1actに依存することになる。
図2は、ワークロール胴長Lが2000mm、ワークロール半径Rが250mmのときの等価ロールクラウンを示すグラフである。
【0021】
図2に示すように、変更前のクロス角:0rad、クロス角変更量:0.01radとしてクロス角:0.01radに変更する場合では等価ロールクラウンの変化量は0.1mm変更されたに過ぎないが、変更前のクロス角:0.03rad、クロス角変更量:0.01radとしてクロス角:0.04radに変更する場合には等価ロールクラウンの変化量は0.7mmにも達し、変更前のクロス角実績値によって等価ロールクラウン変化量が異なる、すなわちクロス角変更による制御効果が変わってしまうという現象が生じる。
【0022】
相対値変更方法の長所は上述したように、自動制御などによってクロス角がθ1setからθ1actに修正された効果を、後行圧延材の圧延の際あるいは圧延仕様が変わる際におけるクロス角の初期設定にも反映させることにあり、等価ロールクラウンの変更量が変更直前のクロス角実績値に依存してしまうこのような方法では、所望の等価ロールクラウンを与えることができない。
【0023】
本発明は、懸かる事情に鑑みなされたものであって、その課題は、圧延動作中、先行圧延材と後行圧延材とを接続した連続圧延材や種々の圧延仕様に応じてクロス角を変更する際、板形状、板クラウンやエッジドロップなどに優れた制御効果が得られる走間クロス角変更方法を提供することにある。
【0024】
【課題を解決するための手段】
第1の発明に係る走間クロス角変更方法は、先行圧延材及びこれに接続された後行圧延材をロールクロス式圧延機で連続的に圧延する過程で、両圧延材の接続部位が圧延機を通過するタイミングに合わせて、圧延機の上下ワークロールのロール軸相互のなす角度であるクロス角を変更する走間クロス角変更方法において、クロス角を変更する直前のクロス角の実績値に基づき、クロス角の変更量を決定することを特徴とする。
【0025】
第2の発明に係る走間クロス角変更方法は、圧延中に圧延材の長手方向の特定点がロールクロス式圧延機を通過するタイミングに合わせて、圧延機の上下ワークロールのロール軸相互のなす角度であるクロス角を変更する走間クロス角変更方法において、クロス角を変更する直前のクロス角の実績値に基づき、クロス角の変更量を決定することを特徴とする。
【0026】
第3の発明に係る走間クロス角変更方法は、上記第1〜第2の発明の方法において、クロス角の変更量は次式で演算することを特徴とする。
【0027】
【数5】
【0028】
但し、
θ1set:クロス角変更前の圧延条件に対するクロス角設定計算値、
θ2set:クロス角変更後の圧延条件に対するクロス角設定計算値、
θ1act:クロス角変更直前のクロス角の実績値。
【0029】
このように、クロス角変更直前のクロス角実績値に基づき、クロス角の変更量を決定すれば、等価ロールクラウンの変化量を所望の値にすることができる。特に等価ロールクラウンを近似的に(2)式で表せば、純粋な幾何学的な計算式から導かれた(1)式を厳密に計算するよりも計算量が少なく、走間クロス角変更のようなリアルタイムの制御には有利である。この場合、クロス角変更量を
【0030】
【数6】
【0031】
とすれば、等価ロールクラウンの変化量は、
【0032】
【数7】
【0033】
となる。すなわち、クロス角変更による等価クラウンの変化量は、クロス角変更後の圧延材あるいは圧延仕様に対するクロス角設定計算値θ2setの等価ロールクラウンと、クロス角変更前の圧延材あるいは圧延仕様に対するクロス角設定計算値θ1setの等価ロールクラウンとの差に等しい所望の値となる。
【0034】
ただし、(4)式の根号内が負値となる場合には、クロス角変更に対応した等価クラウン変化量が得られない。これは(2)式からわかるように、等価ロールクラウンは0以上の値しかとれないためであり、この場合はクロス角の変更量Δθ=−θ1actとする。すなわちクロス角変更後のクロス角が0になるようにして、クロス角の変更だけでは制御できなかった残り分はロールベンダなどの他のアクチュエータの変更量で補うことが望ましい。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、ペアクロス式圧延機で先行圧延材と後行圧延材とを接続して連続圧延する場合を例にとる。
【0036】
図3は、本実施形態に係る圧延設備例の模式図である。
図3に示すように、先行圧延材1と後行圧延材2は、先行圧延材1の後端部に後行圧延材の先端部が接続された状態で白抜き矢印の方向に供給され、上ワークロール3と下ワークロール4の間を通過することによって連続的に圧延される。上ワークロール3と下ワークロール4はそれぞれ上バックアップロール5、下バックアップロール6に支持される。
【0037】
上、下のワークロール3、4、バックアップロール5、6対は、クロス角検出器10によって検出される上下のロール軸のなす角度であるクロス角θが、クロス角制御装置20によって与えられるクロス角指令値に一致するように図示しないクロスモータを駆動して上下ロール軸をクロスさせることにより、先行圧延材1および後行圧延材2の形状、板クラウン、エッジドロップが制御できるように構成されている。
【0038】
トラッキング装置60は先行圧延材1と後行圧延材2の接続点7の位置を追跡する装置であり、その位置情報は設定計算機40とクロス角変更量演算装置30に逐次与えられる。
【0039】
設定計算機40は圧延情報伝送装置50によって与えられた圧延情報に基づき、先行圧延材1と後行圧延材2のそれぞれに対するクロス角設定計算値を計算する装置であり、計算されたクロス角設定計算値はクロス角変更量演算装置30に与えられる。
【0040】
クロス角変更量演算装置30にはクロス角検出器10によって検出したクロス角検出値が入力されるようになっており、クロス角検出値と設定計算機40によって計算された先行圧延材1と後行圧延材2のそれぞれに対するクロス角設定計算値に基づき、トラッキング装置60によって与えられた先行圧延材1と後行圧延材2の接続点位置情報によってタイミングを図りながら、クロス角変更指令がクロス角制御装置20に与えられる。
【0041】
クロス角制御装置20はクロス角変更指令に基づき、最終的なクロス角指令値を演算し、これに基づき図示しないクロスモータが駆動されてクロス角が変更されるように構成されている。
【0042】
以上のように構成された圧延設備を用いて、第1の発明の走間クロス角変更方法を実施する際の動作について説明する。
まず、トラッキング装置60は先行圧延材1と後行圧延材2の接続点7の位置を追跡し、接続点が圧延機に近づいて所定位置に到達したことを設定計算機40に通知する。設定計算機40はこの通知を受けると、圧延情報伝送装置50から先行圧延材1と後行圧延材2のそれぞれの圧延寸法や材質などの圧延情報を呼び出し、先行圧延材1を圧延するのに最適なクロス角設定計算値θ1setと後行圧延材2を圧延するのに最適なクロス角設定計算値θ2setを計算し、クロス角変更量演算装置30に出力する。
【0043】
クロス角変更量演算装置30では、上記クロス角設定計算値θ1set、θ2setと、クロス角検出器10から入力されるクロス角変更前のクロス角実績値θ1actに基づき、クロス角変更量Δθを、
【0044】
【数8】
【0045】
によって計算し、トラッキング装置60からの接続点位置情報によって変更タイミングをはかりながらクロス角制御装置20にクロス角変更指令を与える。この際、クロスモータによるクロス角変更がクロス角指令値に充分追従できるような変更率になるように定めることが望ましい。例えばクロス角変更時間をTとしたとき、クロス角変更指令Δθref(t)を、
【0046】
【数9】
【0047】
で与える。ここでtはクロス角変更指令を出力し始めてからの時間である。
また、クロス角の変更開始タイミングは、先行圧延材1と後行圧延材2の接続点が圧延機に到達する前から変更を開始し、接続点が圧延機を通過した後に変更が終了するようにするのが一般的であるが、接続点が圧延機に到達するタイミングでクロス角変更を開始してもよいし、接続点が圧延機に到達するタイミングでクロス角変更が終了するようにしてもよい。
【0048】
クロス角制御装置20はクロス角変更指令:Δθref(t)に基づき、最終的なクロス角指令:θref(t)を、
【0049】
【数10】
【0050】
にて計算し、クロス角検出器10によって検出されるクロス角がクロス角指令値に追従するように図示しないクロスモータを駆動させてクロス角変更を実現する。
【0051】
なお、本実施形態では、ペアクロス式圧延機を例に説明したが、ワークロールクロス式圧延機の場合も全く同様に実施することができる。また、本実施形態では、先行圧延材と後行圧延材を接続して連続圧延する例を説明したが、1つの圧延材を板厚などが異なる複数の圧延仕様に圧延する場合にも、トラッキング装置60でトラッキングする点が、先行圧延材と後行圧延材の接続点から、圧延仕様を変更したい特定点に代わるだけであり、同様に実施することができる。
【0052】
【実施例】
ペアクロス式圧延機にて、板幅1524mm、板厚1.4mmの低炭素鋼の先行圧延材と、板幅1344mm、板厚1.5mmの低炭素鋼の後行圧延材を接続し、ともに板厚1.1mmに圧延した。板形状を平坦にする先行圧延材のクロス角設定計算値θ1set:0.006rad 、後行圧延材のクロス角設定計算値θ2set:0.014rad であり、クロス角を調整しながら先行圧延材の形状が平坦になるように圧延したところ、クロス角変更直前のクロス角実績値θ1act :0.01radであった。そこで、(6)式から、クロス角変更量Δθ:0.0061radを求め、接続部位が圧延機を通過するタイミングに合わせて上記クロス角変更量だけクロス角を変更してクロス角:0.0161radで後行圧延材の圧延を開始したところ、後行圧延材の先端部からほぼ平坦な形状を得た。
【0053】
比較例として、上記と同様に先行圧延材と後行圧延材とを接続し板厚1.1mmに圧延した。その際、後行圧延材のクロス角設定計算値θ2setと先行圧延材のクロス角設定値θ1setとの差(θ2set−θ1set)としてクロス角設定値変更量Δθ:0.008radを求め、上記と同様に接続部位が圧延機を通過するタイミングに合わせて上記クロス角変更量だけクロス角を変更してクロス角:0.018radで後行圧延材の圧延を開始したところ後行圧延材の先端部は中伸びが発生し形状不良となった。この原因は、クロス角変更に伴う等価ロールクラウンが過大となったためであると推察される。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、クロス角変更直前のクロス角実績値に基づきクロス角の変更量を決定するので、クロス角変更による等価ロールクラウン変化量を適正値にすることができ、板形状、板クラウン、エッジドロップの制御精度が向上し、寸法や形状の良好な製品を圧延することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ロールクロス式圧延機におけるワークロールの配置を示す模式図で、同図(a)は平面図、同図(b)は側面図である。
【図2】ワークロール胴長Lが2000mm、ワークロール半径が250mmのときの等価ロールクラウンを示すグラフである。
【図3】本実施形態に係る圧延設備例の模式図である。
【符号の説明】
1:先行圧延材、2:後行圧延材、
3:上ワークロール、4:下ワークロール、
5:上バックアップロール、6:下バックアップロール、
7:接続点、10:クロス角検出器、
20:クロス角制御装置、30:クロス角変更量演算装置、
40:設定計算機、50;圧延情報伝送装置、
60:トラッキング装置。
Claims (3)
- 先行圧延材及びこれに接続された後行圧延材をロールクロス式圧延機で連続的に圧延する過程で、両圧延材の接続部位が圧延機を通過するタイミングに合わせて、圧延機の上下ワークロールのロール軸相互のなす角度であるクロス角を変更する走間クロス角変更方法において、クロス角を変更する直前のクロス角の実績値に基づき、クロス角の変更量を決定することを特徴とする走間クロス角変更方法。
- 圧延中に圧延材の長手方向の特定点がロールクロス式圧延機を通過するタイミングに合わせて、圧延機の上下ワークロールのロール軸相互のなす角度であるクロス角を変更する走間クロス角変更方法において、クロス角を変更する直前のクロス角の実績値に基づき、クロス角の変更量を決定することを特徴とする走間クロス角変更方法。
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