JP3568037B2 - ベーン型圧縮機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーエアコンシステムや、エンジンヒートポンプシステム等の一部として用いられる冷媒圧縮機に関し、特に冷媒として用いられる被圧縮流体の過圧縮損失を減少させ、圧縮機の効率を向上させたベーン型圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、カーエアコンシステムや、エンジンヒートポンプシステム等に用いられる冷媒圧縮機として、ベーン型圧縮機が知られている。
このベーン型圧縮機では、多気筒、圧縮部分の吐出口部にリードバルブ機構を設けている。リードバルブ(吐出弁)は、該バルブ内側の圧縮室内での圧力が、該バルブ外側の高圧室の圧力より高まった場合にのみ開くように構成されている。そして、高圧室側から圧縮室側への逆流を阻止し、被圧縮流体の再圧縮を防止すると共に、圧縮室の気密性を保つようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが従来のベーン型圧縮機では、圧縮室内で圧縮された被圧縮流体が、リードバルブを開いて吐出されるには、圧縮室内の圧力が高圧室内の圧力以上となる必要がある。このため、圧縮室内での圧縮工程の終了に対して、リードバルブの開口が遅れ、または開口度が減少し、被圧縮流体の過剰圧縮仕事が増大して、圧縮機の効率を減少させていた。
本発明は、圧縮機において、吐出口から吐出される被圧縮流体によって生じる圧力波の反射波を、自らの吐出口で吐出弁を開口するのに利用して、過剰圧縮仕事を低減することを可能とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次に該課題を解決するための手段を説明する。
即ち、請求項1においては、略楕円状の内周面を有するシリンダを設け、シリンダ後端面にサイドブロックを設け、シリンダ内周にロータを回転自在に設け、ロータにベーン溝を形成し、ベーン溝にベーンを摺動自在に装着し、シリンダに吐出口を設け、吐出口を開閉する吐出弁を設け、シリンダおよびサイドブロックをケースに収納した圧縮機において、圧力解放された出口端を有する吐出経路を備え、圧縮機運転条件や圧縮機の固有要素によって定まる吐出圧縮波の反射波が吐出弁に伝搬するタイミングに関する関係式により、吐出口から圧力解放された吐出経路出口端までの吐出経路長さを決定し、前記反射波により、被圧縮流体吐出時における開弁圧が低下するようにし、前記の如く決定された吐出経路長さを設定するに当たって、吐出経路が吐出口からサイドブロックに形成した出口孔の出口端までの固有経路と、圧力開放された出口端を有する付加経路とから構成される場合に、固有経路と付加経路の出口端の断面積を同一に構成したものである。
【0005】
請求項2においては、前記吐出経路の一部を配管にて構成し、前記関係式に基づいて決定された吐出経路長さを、配管長さを調節して実施したものである。
【0006】
請求項3においては、吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部を設け、潤滑油除去部に経路孔を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、経路孔長さを調節して実施したものである。
【0007】
請求項4においては、吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部を設け、潤滑油除去部に経路溝を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、経路溝長さを調節して実施したものである。
【0008】
請求項5においては、吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部と間座とを設け、潤滑油除去部および間座に吐出経路を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、間座の配設数を調節して実施したものである。
【0009】
請求項6においては、吐出口を複数設け、各吐出口毎に被圧縮流体出口孔を前記サイドブロックに設け、各吐出口から各出口孔を経る吐出経路を設け、各吐出経路出口端を圧力解放する構成とし、複数の吐出口の内、一の吐出口と他の少なくとも一の吐出口を連通する経路を遮断する構成としたものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
まず、第一実施例のベーン型圧縮機10について、図1から図3を用いて説明する。図1は第一実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面断面図であり、図2は第一実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面断面図であり、図3は図1のA−A線断面図である。なお、図1、図2の左側を、圧縮機の前側とする。
ベーン型圧縮機10はシリンダ収納ケース11の内側にシリンダ1を収納し、シリンダ1の内周面は略楕円形状に形成されている。該シリンダ1の前端面および後端面には、サイドブロック2・3が設けられている。シリンダ1内周の内部にはロータ4が回転自在に設けられ、ロータ4はロータ軸5に固設されている。前記サイドブロック2・3にはロータ軸5の延出方向に沿って、ボス部6・7がそれぞれ形成されており、ロータ軸5を該ボス部6・7で回動自在に支持するようにしている。ロータ4の外周側からロータ軸5の近傍に向かって、ベーン溝8・8・・・が複数形成され、該ベーン溝8・8・・・にはそれぞれベーン9・9・・・が摺動自在に装着されている。
【0011】
図1、図3に示すように、シリンダ1の内周側は、シリンダ1内壁、サイドブロック2、3内面、ロータ4外周面、およびベーン9によって複数の小室に仕切られている。該小室は圧縮室15と称し、ロータ4の回転により容積の大小変化を繰り返す。そしてロータ4の回転に伴い、それぞれの圧縮室15において、吸入、圧縮、吐出の3工程を1サイクルとする循環過程が繰り返し行われる。
サイドブロック2の反ロータ4側には、フロントハウジング16が固設されている。フロントハウジング16には吸入室13が形成されている。また、シリンダ1およびサイドブロック2には、該吸入室13と連通する吸入口21が形成されている。圧縮室15の吸入工程では、シリンダ1に形成される吸入口21と圧縮室15とが連通し、吸入室13より圧縮室15へ冷媒ガス等の被圧縮流体の吸入が行われる。同時に、圧縮室15の圧縮工程では、該圧縮室15で被圧縮流体の圧縮が行われる。
【0012】
圧縮室15の容積が最小付近となる位置、すなわちシリンダ1内周の楕円短径付近には、該圧縮室15とシリンダ1外周面側の高圧室(吐出チャンバ)24側とを連通する吐出口22が設けられている。図3に示すように、吐出口22・22はシリンダ1の周上で、シリンダ1の中心軸に対して略対称となる位置に形成されている。
吐出口22の高圧室24側開口端には、前記吐出弁23が取り付けられており、該吐出弁23は高圧室24側から圧縮室15側への被圧縮流体の逆流を防止している。吐出弁23は、圧縮室15内の被圧縮流体の圧力が高圧室24の被圧縮流体の圧力より高くなったときのみに開き、それ以外のときは閉じて高圧室24側から圧縮室15側への逆流を阻止し、被圧縮流体の再圧縮を防止している。このように吐出弁23が閉じている場合、圧縮室15と高圧室24は、吐出口22周囲の吐出弁23と接触する面によって気密性が保たれる。なお、吐出弁23の開度はバルブサポート27によって所定の開度に制限される。
【0013】
シリンダ1後端側のサイドブロック3には、各吐出口22毎に、被圧縮流体の出口孔25が設けられている。また、第一実施例のベーン型圧縮機10では、各出口孔25の反シリンダ側に、それぞれ配管47が設けられている。出口孔25と配管47とは連通接続されており、吐出口22から配管47の出口端(吐出方向終端)に至る吐出経路50が形成されている。そして、前記吐出弁23が開くと、圧縮室15内の被圧縮流体が吐出口22を通過して高圧室24側に吐出され、さらに出口孔25および配管47内部を通過して、チャンバー14内に吐出される。
吐出経路50の出口端50a(配管47の出口端)では、被圧縮流体がチャンバー14内の開放空間に吐出されるように構成されている。このため、吐出経路50の出口端で、被圧縮流体は圧力解放される構成となっている。
【0014】
圧縮室15の容積が縮小されて、圧縮室15内の圧力が高圧室24の圧力よりも高くなると、吐出弁23が開弁する。ここで、被圧縮流体が吐出弁23より吐出される際には、圧力波が発生する。該圧力波は、被圧縮流体が高圧室24を経てチャンバー14に流出していくのに先立って伝搬する。
前記圧力波はチャンバー14内の圧力に対して高圧の波動であり、媒質としての被圧縮流体に、該被圧縮流体を圧縮する作用を及ぼす。このチャンバー14内の圧力に対して高圧の圧力波を、以下、圧縮波とする。
これに対し、圧力波が、圧力解放された開放端で反射した反射波を、膨張波とする。膨張波はチャンバー14内の圧力に対して低圧の波動であり、媒質としての被圧縮流体に、該被圧縮流体を膨張させる作用を及ぼす。第一実施例のベーン型圧縮機10では、前記配管47の出口端が圧力解放された開放端であるため、該出口端で圧縮波が自由端反射し、膨張波に変化する。
図2には、一の吐出口22で発生した圧縮波48が、前記出口端50aで自由端反射して膨張波49に変化し、該膨張波49が該吐出口22の吐出弁23へ伝搬する様子を示している。
【0015】
本発明では、前述した吐出圧縮波が前記出口端で反射されて生じる膨張波を利用して、被圧縮流体の吐出時(吐出弁23の開弁タイミング)における開弁圧が低下するようにしている。
ここで、利用しようとしている膨張波は、前サイクルの吐出工程において、吐出口22で発生した圧縮波が、出口端50aで自由端反射して生じた膨張波である。このとき、吐出弁23内部(吐出口22)で生じた圧縮波が、膨張波に変じて吐出弁23へと伝搬するまでには、これらの波動が吐出経路50を往復するだけの時間が必要である。なお、圧縮波と膨張波は伝搬速度は同じである。
つまり、あるサイクルの吐出工程開始時、つまり吐出弁23の開弁タイミングに、該サイクルの前のサイクルに発生した圧縮波が膨張波に転じて丁度戻ってくるようにタイミングを合わせることで、吐出弁23の開弁圧を低下させるのである。吐出弁23に戻ってきた膨張波により、高圧室24内に充満する被圧縮流体の圧力が低下させられるので、吐出弁23の開弁に必要な開弁圧は低下する。開弁時に開弁圧が低下すると、ロータ4によって吐出弁23から被圧縮流体を吐出するための過剰な圧縮仕事が低減される。
なお、前述では、あるサイクルに対し、該サイクルの前のサイクルを対象としているが、これは同じ圧縮室15におけるサイクルを指すものではない。圧縮室15・15・・・は、ベーン9・9・・・によって区切られて形成されるが、ロータ4の回転に従って、次々と吐出工程を控えた圧縮室15が吐出口22に接近する。したがってここでは、ある吐出口22において、ある圧縮室15のサイクルに対し、その直前に前記吐出口22に到達した圧縮室15のサイクルを、前のサイクルと称している。
【0016】
前記膨張波の伝搬タイミングは、吐出経路50の吐出経路長さによって決定される。このため、後述する吐出経路長さの第一から第三の決定方法では、吐出口22から、圧力解放された吐出経路50の出口端50aまでの吐出経路長さを、圧縮機運転条件で計測された圧力波形に基づいて決定し、反射波である膨張波により、被圧縮流体吐出時における開弁圧が低下するようにしている。つまり、吐出経路50の吐出経路長さを適切な長さとすることで、膨張波の伝搬タイミングと吐出弁23の開弁タイミングとが一致するようし、吐出弁23の開弁圧を低下させるのである。
なお、圧縮機運転条件で計測された圧力波形に基づいた、適切な吐出経路長さ(付加経路長さ)の第一から第三の決定方法については、後述する。
【0017】
第一実施例のベーン型圧縮機10においては、吐出経路50の一部は配管47にて構成されている。このため、配管長さの異なる配管を用いるだけで、吐出経路50の吐出経路長さを変更可能である。したがって、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとが一致した、適切とされる吐出経路長さを、容易に実現することができる。
また、吐出経路の形状は、直線経路ではなく、折曲部や曲線部を設ける構成としても差し支えない。前述した吐出弁23の開弁圧低下の作用は、吐出経路長さには依存しても、吐出経路50の経路形状には殆ど関わりがないためである。ベーン型圧縮機10においては、配管47は、シリンダ収納ケース11内部に収まるようにするため、端部を曲げた構成としている。つまり、シリンダ収納ケース11の容積に依らず、配管を用いることで、吐出経路50の吐出経路長さを自在に調節可能である。
【0018】
ベーン型圧縮機10には、二つの吐出口22・22が設けられている。そして、一の吐出口22と、他の吐出口22とを連通する連通経路30・30が形成されている。本発明においては、一の吐出口22へ他の吐出口22からの圧力波が伝搬して干渉するのを防止するため、連通経路30・30が遮断されるように構成されている。
ベーン型圧縮機10では、前記シリンダ1外周面と前記ケーシング11内周面とは密着しておらず、この間に連通経路30・30が形成されている。そして、前記高圧室24・24間が、前記連通経路30・30のいずれか一方を経由して接続され、吐出口22・22間が連通している。
連通経路30を遮断するため、該連通経路30・30には、シール31・31を設けている。シール31は、シリンダ1の外側面に溝を設け、該溝に装着するものである。そして、該溝にシール31を装着することにより、シール31の位置決めを容易に行うことができ、圧縮機作動中におけるシール31の移動も防止できる。以上のように、シール31によりシール構造を構成して、一の吐出口22より他の吐出口22へ連通する連通経路30が遮断されている。
【0019】
また、膨張波を利用して吐出弁23の開弁圧を低下させる作用は、出口端を圧力開放させた構成とし、前記開弁タイミングと膨張波の伝播タイミングとが合うような吐出経路長さとした吐出経路を備えるならば実現できるものであり、吐出口の配設数には関わりがない。
例えば、ベーン型圧縮機10よりもベーンの配設数を少ないものとし、シリンダに吐出口を一つだけ設ける構成とした圧縮機の場合でも、前述した構成の吐出経路を備えるならば、前述した作用(吐出時の開弁圧の低下)がある。この場合は吐出口が一つしかないため、そもそも吐出口間で圧力波干渉が発生しないため、以上の構成でよい。
【0020】
あるいは、吐出口を3つ以上設けた構成の圧縮機においても、以下の構成とすれば、前述した作用(吐出時の開弁圧の低下)がある。該圧縮機は、前述した構成の吐出経路を備えると共に、複数(例えば3つ)の吐出口の内、一の吐出口と他の少なくとも一つの吐出口とを連通する経路を遮断する構成とするのである。
ここでは、ある吐出口における吐出時に、他の吐出口から圧力波が伝搬して圧力波干渉が発生することを防止するのが目的であるので、必ずしも、すべての吐出口間の連通経路を遮断する必要は無い。ここで問題となる圧力波干渉は、一の吐出口の開弁タイミングに、他の吐出口より一の吐出口へ向けて丁度圧縮波が伝搬して起こる圧力波干渉である。したがって、それぞれの吐出口において、開弁タイミングに丁度圧縮波を伝搬させるような吐出口との連通経路だけを、遮断すればよいのである。
なお、吐出口を三つ以上シリンダに形成した場合とは、例えば、ロータ軸にそって、シリンダを複数連ねるようにして、別構成のベーン型圧縮機を構成した場合のことである。この場合は、それぞれのシリンダの周上に吐出口を二つ設け、圧縮機全体では、シリンダの配設数のニ倍の数の吐出口を設けている。この場合においても、吐出口間に形成される連通経路を遮断して、一の吐出口に対し、他の吐出口からの圧縮波が伝搬するのを防ぐのである。
【0021】
以上のように、ベーン型圧縮機10のように、2つの吐出口22・22を備える場合、あるいは3つ以上の吐出口を備える圧縮機の場合において、複数の吐出口の内、一の吐出口と他の少なくとも一の吐出口とを連通する経路を遮断することで、吐出時に開弁圧を上昇させるような圧力波干渉が発生するのを防止している。そして、他の吐出口からの圧力波によって、吐出時の開弁圧が上昇して、吐出弁の開口が妨げられたり、圧縮仕事が増大するのを防止している。
また、吐出経路を、出口端を圧力開放させた構成とし、前記開弁タイミングと膨張波の伝播タイミングとが合うような吐出経路長さとするならば、吐出弁を開口するためのロータ4による過剰な圧縮仕事を低減も同時に行われる。
【0022】
前述したように、吐出弁23の開弁時(開弁タイミング)に開弁圧を低下させるためには、開弁タイミングと膨張波の伝搬タイミングとを、合わせる必要がある。膨張波の伝搬タイミングは、吐出経路50の吐出経路長さによって変化するものであり、吐出経路長さが長いほど伝搬タイミングが遅れることとなる。そして、本発明では、前記の両タイミングが一致するように、吐出経路長さを適切に決定して、該吐出経路長さの吐出経路50を構成し、吐出時における吐出弁23の開弁圧を低下させるのである。吐出時の開弁圧が低下すると、ロータ4による吐出弁23を開口するための過剰な圧縮仕事が低減される。
【0023】
吐出経路50は、吐出口22から出口孔25の入口端(ロータ4側端部)までの高圧室24内の経路と、出口孔25内の経路と、配管47内の経路とから構成される。第一実施例のベーン型圧縮機10では、配管47を吐出経路の一部(後述の付加経路)としているが、後述する第二から第四実施例のベーン型圧縮機のように、潤滑油除去部に設けた孔、溝等により形成された経路としても良く、吐出経路50の出口端50aまで気密性、液密性の保たれた構成であればよい。
【0024】
吐出経路50の内、吐出口22から出口孔25の入口端までの経路長さは、シリンダ1およびシリンダ収納ケース11の形状や寸法により決定されるものである。吐出経路50の内、出口孔25内の経路長さは、サイドブロック3の形状および寸法により決定される。また、吐出経路50の内、配管47内の経路長さは、配管47の長さにより決定される。
したがって、吐出経路の吐出経路長さを変更するには、前記の3箇所の経路長さの内、少なくとも一つを変更すればよい。ここで、吐出口22から出口孔25の入口端までの経路と、出口孔25内の経路とを合わせた経路を固有経路と称する。また、吐出経路より固有経路を除いた経路を付加経路と称する。該付加経路は、第一実施例では、配管47により形成される経路に相当する。
第一から第四までの実施例においては、付加経路長さを調節することで、吐出経路長さを変更するようにしている。なお、付加経路長さの調節は、前述したように、吐出経路長さの変更の一手段であり、本発明はこの手段に限定されるものではない。例えば、サイドブロック内部に形成される出口孔の経路長さ(吐出方向長さ)を変更することで、吐出経路長さを調節するようにしても良い。具体的には、出口孔の経路長さの異なるサイドブロックを複数用意し、サイドブロックの交換により吐出経路長さを変更するのである。
【0025】
次に、圧縮機運転条件で計測された圧力波形に基づいた、吐出経路50の吐出経路長さを決定する方法について説明する。
ベーン型圧縮機は、エアコン装置等の一部を構成して実際に使用される際には、所定の運転条件の下で駆動される。圧縮機運転条件としては、ロータ軸5の運転回転数、被圧縮流体(冷媒)の種類、吸入、吐出時の被圧縮流体の圧力および温度等がある。また、それぞれのベーン型圧縮機に固有の要素として、圧縮機を構成する各部材の形状や寸法、ロータに設けるベーンの配設数、吐出口数等があり、これらの固有要素により、圧縮機の基本性能が決定される。
したがって、前記固有要素によって決定される圧縮機の基本性能と、圧縮機運転条件とによって、圧縮機駆動時に発揮される性能(作業効率)は異なるものとなる。
【0026】
吐出経路長さの第一から第三決定方法では、まず、対象とするベーン型圧縮機を特定し、該圧縮機を実際に駆動させる際の圧縮機運転条件毎に、適切とされる吐出経路長さ(あるいは付加経路長さ)を決定し、開弁タイミングと膨張波の伝搬タイミングとを一致させることで、吐出時の開弁圧を低下させるようにしている。適切とされる吐出経路長さは、より具体的には、圧縮機運転条件で計測される圧力波形に基づき、後述の第一から第三の決定方法に従って、算出(決定)される。
同じ構成(前記固有要素)のベーン型圧縮機であっても、圧縮機運転条件を変化させると計測される圧力波形が変化するため、圧縮機運転条件毎に圧力波形を計測し、前記決定方法に従って、適切とされる吐出経路長さ(後述の付加経路長さ)を決定する。
【0027】
適切な吐出経路長さ(付加経路長さ)の第一決定方法について、図4、図5を用いて説明する。図4は吐出経路の構成を示す概略図であり、適切な吐出経路長さの第一決定方法を示すフロー図である。
吐出経路の吐出経路長さLrは、図4(a)に示すように、前記固有経路の固有経路長さL0および付加経路の付加経路長さLを合わせて構成されるものである。なお、吐出経路の内、適切な吐出経路長さLrfitとなる吐出経路が、例えば前記配管47を設けた吐出経路50である。後述の第二から第四実施例のベーン型圧縮機では、配管47と異なる構成の吐出経路を備えているが、これらの吐出経路の吐出経路長さも前記の適切な吐出経路長さである。
第一決定方法は、大きく分けて次の三段階からなる。第一段階では、固有経路長さL0を決定する。第二段階では、適切な吐出経路長さLrfitを決定する。第三段階では、第一および第二段階の結果を利用して、付加経路長さLfitを決定する。
【0028】
なお、詳しくは後述の第二決定方法を説明する際に述べるが、配管47や出口孔25等からなる管状部分の経路長さを基準とすると、圧縮室15の経路長さは補正量を含むものとなる。つまり、固有経路長さL0および吐出経路長さLr、適切な吐出経路長さLrfitはいずれも、前記補正量を加えた経路長さとなる。したがって、図4中でも、固有経路長さL0の経路長さは、圧縮室15および出口孔25を合わせた左右幅と一致させず、ずらした位置としている。
【0029】
まず、図4(b)に示すように、圧縮機に付加経路を設けぬ構成として、吐出経路が固有経路のみの状態で圧力波形を計測する(ステップ101)。吐出圧縮波最大発生タイミングTbから圧縮波伝搬タイミングTcまでに、ロータ4が回転した量は、ロータ角度変化量Aとして計測される。計測されたロータ角度変化量A(後述)より、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから圧縮波伝搬タイミングTcまでの経過時間を算出する。(ステップ102)。そして、前記両タイミング差より、後述の(3)式を用いて、固有経路長さL0が決定される(ステップ103)。詳しくは後述するが、ロータ角度変化量Aの計測により、固有経路長さL0(この場合吐出経路長さでもある)が算出されるのである。なお、固有経路のみの状態で計測した圧力波形の一例が、図6に示される圧力波形である。
次に、固有経路のみの場合の前記圧力波形を参照することで、適切な吐出経路を設けた場合の最適タイミングTfitの位置が導出(予測)される(ステップ104)。そして、最適タイミングTfitの位置が導出されることにより、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから、最適タイミングTfitまでに、ロータ4が回転した量が、ロータ角度変化量Bとして計測される。詳しくは後述するが、最適タイミングTfitで吐出が行われると、開弁圧が最大限低下しているため、ロータ4による圧縮仕事が低減されるのである。
そして、計測されたロータ角度変化量Bを後述の(8)式に代入して、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから最適タイミングTfitまでの経過時間が算出される(ステップ105)。さらに、図4(c)に示される適切な吐出経路長さLrfitが、後述の(7)式を用いて算出される(ステップ106)。
そして、適切な吐出経路長さLrfitより、前記固有経路長さL0を減算すると、適切な付加経路長さLfitが決定される(ステップ107)。また、該減算により、前述した固有経路長さL0の補正量による影響も、除かれている。
【0030】
計測対象となる圧力波形は、吐出口内圧力と、吐出弁後圧力と、ケース内圧力とのそれぞれにおいて、時間(ロータ4角度)と圧力との関係を示す圧力波形である。
吐出口内圧力は、吐出口22内の圧力のことである。図示せぬ圧力センサをシリンダ1に設けて、該センサの検出部が吐出口22内の被圧縮流体と接触できるようにし、図3に示すような計測位置で、吐出口内圧力の計測を行う。吐出弁後圧力は、吐出弁23の反吐出口22側の圧力のことである。同じく、図示せぬ圧力センサをシリンダ1またはシリンダ収納ケース11に設けて、該センサの検出部が高圧室24内の被圧縮流体と接触できるようにし、図3に示すような計測位置で、吐出弁後圧力の計測を行う。吐出弁23の開弁が起こるのは、吐出口内圧力が吐出弁後圧力より高くなったときである。
また、ケース内圧力は、シリンダ収納ケース11内、つまり、チャンバー14の圧力のことである。ケース内圧力は、前述したように、ベーン型圧縮機内部で発生した圧力波が、圧縮波であるか膨張波であるか、すなわち吐出弁23の開弁圧の加圧側となるか減圧側となるかの判定基準として利用される。図示せぬ圧力センサをシリンダ収納ケース11に設けて、該センサの検出部がチャンバー14の被圧縮流体と接触できるようにし、図1に示すような計測位置で、ケース内圧力の計測を行う。
【0031】
固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機における前記各圧力の圧力波形について、図6を用いて説明する。図6は固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機における前記各圧力の圧力波形を示す図である。
図6は、横軸をロータ4の角度とし、縦軸を圧力の大きさとしている。ロータ角度の変化量は、時間の変化量に相当する。ロータ軸5の運転回転数(1分あたりの回転数)より、ロータ4の1回転あたりの経過時間が算出可能である。そして、ロータ4の一回転は360°であるので、ロータ4が1°変化するのに要する時間も算出される。
ベーン型圧縮機10では、ベーン9が5つ設けられており、ロータ4が72°(360/5)回転する毎に、圧縮室15・15・・・より被圧縮流体の吐出が行われる。図6中に示される吐出口内圧力、吐出弁後圧力、ケース内圧力の圧力波形も、圧縮機運転条件の固定の下で、いずれもロータ回転角度の72°毎に周期的な変化を繰り返している。
【0032】
吐出弁後圧力は、圧力が最大値となるロータ角度を基準とすると、ロータ4が回転するにつれ、一旦ケース内圧力より低下して最小値に達する。その後上昇して再び最大値に達するが、その間に極大値となる山が一つ形成されている。該山は、最大値となる山よりも低めである。ここで、吐出弁後圧力が最大値となる時刻を、吐出圧縮波最大発生タイミングTb(s)とする。
吐出弁後圧力が最大値(かつ極大値)となる山の形成は、吐出弁23が開弁して圧縮波が発生した状況を示している。吐出口内圧力も、吐出弁後圧力が最大値となる角度付近で最大値となっている。つまり、前記山が形成される角度付近は、吐出弁23の開弁直後である。
次に、吐出弁後圧力が最小値(かつ極小値)となる谷の形成は、前記圧縮波が吐出経路を経て該吐出経路の出口端で反射され、膨張波となって吐出弁23に伝搬し、吐出弁後圧力を低下させている状況を示している。すなわち、吐出弁後圧力の最大値から最小値までロータ4が回転する間に、圧力波(圧縮波および、該圧縮波が反射して発生した膨張波)が吐出経路を往復したことを意味する。ここで、吐出弁後圧力が最小値となる時刻を、膨張波最大伝搬タイミングTe(s)とする。
その次に、吐出弁後圧力が極大値となる山の形成は、前記膨張波が吐出経路50を経て出口端50aで反射され、今度は圧縮波となって吐出弁23に伝搬し、吐出弁後圧力を上昇させている状況を示している。前述したように、圧力解放された出口端では、圧縮波は膨張波に、膨張波は圧縮波に変化する。つまり、吐出口22で発生した圧縮波が吐出経路の出口端で二回反射して、最終的に圧縮波となって、吐出弁23に伝搬しているのである。ここで、吐出弁後圧力が極大値となる時刻を、圧縮波最大伝搬タイミングTc(s)とする。
その後には、前述した次の圧縮室15による吐出が行われて、吐出弁後圧力が再び最大値となる。
【0033】
以上より、吐出経路の吐出経路長さLrは、次のようにして求められる。
吐出圧縮波最大発生タイミングTbから、圧縮波最大伝搬タイミングTcまで時間が経過する間に、圧力波は吐出経路を二回往復する。すなわち、圧力波は吐出経路×4の距離を伝搬する。そして、圧力波の伝搬速度をvsとし、吐出経路の吐出経路長さをLrとすると、Tb(s)、Tc(s)、Lr(m)、vs(m/s)の間には、(1)式の関係が成立する。
【0034】
【数1】
【0035】
圧力波の伝搬速度vsは、前記圧縮機運転条件で定めた被圧縮流体の種類と、吐出時における該被圧縮流体の温度および圧力を計測することで、算出される被圧縮流体の音速である。媒質中の圧力波の伝搬速度は、媒質の種類と、媒質の温度および圧力にのみ依存する。また、前述したように、圧縮波と膨張波は音速とが同一である。
【0036】
吐出経路長さLr、前記固有経路長さL0、付加経路長さLの間には、前述したように、(2)式に示す関係が成立する。
図6に示される圧力波形では、固有経路の固有経路長さL0を算出するため、図4(b)に示すように、付加経路を設けない構成としている。したがってこの場合、付加経路長さL=0である。
そして、(2)式およびL=0を用いて(1)式を変形すると、(3)式の関係が成立する。
【0037】
【数2】
【0038】
図6中で、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから、圧縮波最大伝搬タイミングTcまで経過する時間は、ロータ4が回転して、角度変化量Aとなる時間に相当する。ロータ軸5の運転回転数をN(rpm)とすると、1秒毎にN/60回、ロータ4は回転する。また、ロータ4の1回転とは、360°の角度変化である。つまり、1秒間でのロータ4の角度変化量は、360×(N/60)である。
したがって、A(deg)、Tb(s)、Tc(s)、N/60(1/s)の間には、(4)式および(5)式の関係が成立する。(5)式は、(4)式を変形して得られる式であり、前記経過時間(左辺)が、ロータ4の角度変化量Aと、ロータ4の回転1°あたりの経過時間との積(右辺)に等しいことを示している。
【0039】
【数3】
【0040】
以上により、前記両タイミング間のロータ角度変化量を計測することで、前記両タイミング間の経過時間が算出される。
【0041】
ここで、固有経路長さL0の算出においては、圧縮波最大伝搬タイミングTcを用いて、算出を行っている。前述したように、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから、膨張波最大伝搬タイミングTeまで時間が経過する間に、圧力波は吐出経路を一回往復する。この関係を用いても、固有経路長さL0の算出が可能である。
図6に示される圧力波形においては、膨張波最大伝搬タイミングTeの付近に形成される谷は、圧縮波最大伝搬タイミングTcの付近に形成される山と比べて、傾きが緩やかである。つまり、前記谷の極小値(圧力波の最小値)を特定することが、前記山の極大値を特定するのに比べて、困難である。したがって、本実施例では、圧縮波最大伝搬タイミングTcを用いて、(1)式にしたがって、固有経路長さL0の算出を行っている。
圧縮機運転条件を変えることで、圧力波形が図6に示されるものから変化し、膨張波最大伝搬タイミングTeの特定の方が圧縮波最大伝搬タイミングTcの特定よりも容易となるような場合には、膨張波最大伝搬タイミングTeを用いて固有経路長さL0の算出を行うものである。この場合には、(6)式の関係が成立する。(6)式中にの分母に表われる2という数字は、固有経路の一往復(固有経路×2)を意味する数字である。膨張波最大伝搬タイミングTeを用いる場合は、圧力波は固有経路を一往復するだけである。
【0042】
【数4】
【0043】
吐出弁23の開弁が起こるのは、前述したように、吐出口内圧力が吐出弁後圧力と一致するか、吐出弁後圧力よりも上昇するかしたときである。図6に示すように、図の左右中央部では、吐出口内圧力が吐出弁後圧力よりも高く、開弁状態である。また、図の両側部では、一部を除いて吐出口内圧力が吐出弁後圧力よりも低く、略閉弁状態である。
ここで、時間の経過と共に、吐出弁後圧力が上昇して前記両圧力が一致するタイミングを、開弁タイミングTOとし、吐出弁後圧力が下降して前記両圧力が一致するタイミングを、閉弁タイミングTSとする。
前述したように、図6に示される圧力波形は、付加経路を設けない場合の波形であり、通例、膨張波伝搬タイミングは開弁タイミングと一致しない。図6では、開弁タイミングには、吐出弁23に圧縮波が伝搬しており、吐出弁23の開弁圧が上昇させられて、圧縮機の作業効率が低下している状態である。
そこで本発明では、吐出経路長さを付加経路を設けることで調節し、適切な吐出経路長さの吐出経路を形成して、両タイミングが一致するようにし、吐出弁23の開弁圧が低下するようにしている。
【0044】
適切な吐出経路長さの吐出経路が形成された場合には、吐出弁後圧力が最小となる膨張波最大伝搬タイミングで、吐出口内圧力と、吐出弁後圧力とが一致する。
付加経路を設けた場合は、吐出弁後圧力の圧力変化の周期が、図6に示される固有経路のみの場合より、長くなる。周期が長くなるのにつれて、吐出弁後圧力の最小値の位置(ロータ角度)も、開弁タイミングTO側にずれ込んでいく。そして、適切な吐出経路長さとなる付加経路を設けた場合には、前記最小値となる吐出弁後圧力と、吐出口内圧力とを一致させることができる。
以上のような、膨張波最大伝搬タイミングと、開弁タイミングとが一致したタイミングを、最適タイミングTfitとする。最適タイミングTfitは、図6に示すように、吐出弁後圧力が最小値となる圧力で横線(圧力一定のグラフ)を引き、該横線と吐出口内圧力とが一致するタイミングを特定することで、導出される。
前述した適切な吐出経路の形成は、本実施例では、例えば配管47のような付加経路を追加して行う。適切とされる付加経路長さをLfitとすると、Lfit(m)、Tb(s)、Tfit(s)、vs(m/s)の間には、(7)式の関係が成立する。(7)式は、(6)式において、膨張波最大伝搬タイミングをTeからTfitに変更し、吐出経路長さを、固有経路長さL0に付加経路長さLfitだけ追加して代入したものである。
【0045】
【数5】
【0046】
また、図6中で、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから、最適タイミングTfitまで経過する時間は、ロータ4の角度変化量がBとなる時間に相当する。(5)式のTcに最適タイミングであるTfitを代入し、A°の代わりにB°を代入すると、(8)式の関係が成立する。
以上より、前記両タイミング間のロータ回転角度Bを計測することで、両タイミング間の経過時間が算出される。
【0047】
【数6】
【0048】
第一決定方法においては、開口端補正による吐出経路長さへの影響は、次のように処理している。
前述したように、適切な付加吐出経路長さLfitは、適切な吐出経路長さLrfitより固有経路長さL0を減算することで算出される。したがって、開口端補正による影響は、前記減算時に除去することができる。なお、このような除去を行うためには、以下の前提が必要とされる。つまり、付加経路を設けた場合の開口端補正の補正量と、付加経路を除いて固有経路だけとした場合の開口端補正の補正量が、同一であるという前提である。
開口端補正の補正量は、吐出経路の出口端の形状や断面積によって変化する。したがって、固有経路の出口端、つまり前記サイドブロック3に形成した出口孔25の出口端と、配管等による付加経路を設けた吐出経路の出口端とで、出口端の形状、断面積が異なると、2つの場合において、開口端補正の補正量に違いが生じてしまう。
このため本実施例では、固有経路の出口端(出口孔25の出口端)と、付加経路の出口端(第一実施例であれば、配管47の出口端)とで、形状、断面積が一致するようにして、開口端補正の補正量が両方の場合で同一となるようにしている。
【0049】
以上のようにして、(6)(7)式より、適切な付加経路長さLfitが決定される。そして、適切な付加経路長さLfitとなる付加経路を、配管47で構成した圧縮機が、第一実施例のベーン型圧縮機10である。
また、以上では、固有経路のみの圧縮機を用いて圧力波形を計測し、固有経路長さを算出することで、適切な付加経路長さが決定されるようにしているが、この方法に限定されるものではない。固有経路に一定長さの付加経路を備えた圧縮機の圧力波形を計測し、該圧縮機の吐出経路長さ(固有経路長さ+一定の付加経路長さ)を基準として、適切な付加経路長さが決定されるようにしても良い。
【0050】
次に、吐出経路長さを前記第一決定方法で決定し、配管47により吐出経路の一部を構成した、第一実施例のベーン型圧縮機10における圧縮仕事低減の様子について、図7、図8を用いて説明する。図7は固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機と、固有経路に適切な付加経路を設けて吐出経路を構成した圧縮機とにおいて、ロータ角度と圧力及びリフト比との関係を示す図であり、図8は固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機と、固有経路に適切な付加経路を設けて吐出経路を構成した圧縮機とにおいて、圧縮室容積と吐出口内圧力との関係を示す図である。
図7(a)には、固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機の各圧力波形が細線で示され、固有経路に適切な付加経路を加えて吐出経路を構成した第一実施例のベーン型圧縮機10の圧力波形が太線で示されている。固有経路のみの場合の圧力波形は、図4に示した圧力波形と同一である。
固有経路のみで吐出経路を構成する場合は、開弁タイミングTOにおいて、吐出弁後圧力がケース内圧力よりも高く、吐出弁23の開弁圧が高められてしまっている。
これに対し、適切な付加経路を加えて吐出経路を構成した第一実施例では、吐出弁後圧力が最小となる部分が図中右側にずれ込んでいる。つまり、吐出時に膨張波が最大限伝搬してくるようになっており、前述した開弁タイミングと膨張波の伝搬タイミングとが一致している。そして、両タイミングが一致した最適タイミングTfitで、吐出弁後圧力がケース内圧力よりも低くなり、開弁圧が低下している。
吐出経路長さを、開弁タイミングと膨張波の伝搬タイミングとが一致するように、適切な長さとすることで、吐出時の開弁圧が低下し、ロータ4にかかる負担が軽減されて、過剰な圧縮仕事の低減が実現されている。
【0051】
図7(b)には、固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機における吐出弁のリフト比が細線で示され、固有経路に適切な付加経路を加えて吐出経路を構成した第一実施例のベーン型圧縮機10のリフト比が太線で示されている。
ここでリフト比とは、吐出弁23の開口度を示すものであり、リフト比1の状態は、吐出弁23が、図3に示した前記バルブサポート27により規制される中で、最大限開口している状態を示している。また、リフト比0の状態は、吐出弁23が完全に閉じている状態を示している。
適切な付加経路を備えた場合は、固有経路のみの場合と比べて、開口を始める時間も、ピーク値に到達する時間も早めとなっている。このことからも、適切な付加経路を備えることで、開弁時に吐出弁23の開弁圧が低下していることが証明されている。つまり、ロータ4による過剰な圧縮仕事が低減されていることがわかる。
【0052】
図8には、固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機の場合と、固有経路に適切な付加経路を加えて吐出経路を構成した第一実施例のベーン型圧縮機10とにおいて、圧縮室15での吸入、圧縮、吐出工程における被圧縮流体の体積と圧力の変化が示されている。
図8中のグラフは、ループ状に描かれており、吸入、圧縮、吐出工程の1サイクルを示している。該グラフの下部は被圧縮流体の吸入工程を示しており、上部は吐出口内圧力が吐出弁後圧力に達するまでは圧縮工程を示しており、吐出弁後圧力を超える範囲は吐出工程を示している。すなわち、前記ロータ4の回転に対応して図8を見ると、被圧縮流体の状態は反時計回りに変化するものである。
なお、吐出口内圧力が吐出弁後圧力に一致する開弁タイミングは、前記の両場合において、異なるものである。図8中では特に、適切な付加経路を設けた第一実施例の場合における開弁タイミングを基準として、吐出工程と圧縮工程との区切りをつけている。他の場合においては、吐出工程と圧縮工程との区切りは、図8中のものとは必ずしも一致しない。
【0053】
適切な付加経路を備えたベーン型圧縮機10の場合は、吐出工程において、固有経路のみの場合と比べて、吐出口内圧力のピーク値が低めとなると共に、ピーク値が低体積側(図中左側)に位置している。以上のことが意味するのは、圧縮室15側の圧力が従来より低めの段階で、吐出弁23が開放され、被圧縮流体の吐出が行われることを示している。
また、図8中で、前記両場合において、ループ状に囲まれる部分の面積は、ロータ4による圧縮室15の圧縮仕事の大きさを示している。適切な付加経路を設けた場合は、斜線で示される部分(吐出工程内)の面積に相当する仕事が、固有経路のみの場合と比べて低減されている。
したがって、図8にも、適切な付加経路を備えたベーン型圧縮機10の場合は、被圧縮流体の過圧縮損失が少なく、ロータ4による過剰な圧縮仕事が低減されていることが示されている。
【0054】
以上のように、吐出経路長さの第一決定方法にしたがって、適切な吐出経路長さを決定し、適切な吐出経路長さを備えたベーン型圧縮機を構成するので、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとを一致させることが出来る。膨張波は、前記ケース内圧力と比べて低圧であり、吐出弁23の開弁圧を低下させるので、吐出弁23を開弁するためにロータ4が行う、圧縮室15の過剰な圧縮仕事が低減される。
【0055】
次に、適切とされる吐出経路長さ(付加経路長さ)の第二決定方法について、図9、図10を用いて説明する。図9は吐出経路の構成を示す概略図であり、図10は適切な吐出経路長さの第二決定方法を示すフロー図である。
圧力波が伝搬する吐出経路において、該経路の断面積や断面形状が経路の位置によって変化する場合は、圧縮機の伝搬速度も経路の位置によって変化してしまう。第一実施例のベーン型圧縮機10においても、高圧室24と、前記出口孔25および配管47とでは、断面積や断面形状が異なっている。出口孔25や配管47のような管状の経路を通過する場合と、高圧室24のように、前記管状経路よりも幅広の経路を通過する場合とでは、後述するように等価必要長さが変化するため、圧力波の伝搬時間に変化を生じてしまう。
ここで、図9(a)に示すように、高圧室24を体積部分とし、出口孔25および配管等の付加経路部分を管状部分と規定している。管状部分は、配管であっても、後述の溝、孔であっても、あるいは出口孔25であってもよいが、経路上のどの位置でも断面積や断面形状が同一に形成された部分である。そして本実施例では、断面積をFとし、断面形状は円形であり、直径をdとしている。また、体積部分である高圧室24の容積をVcとしている。後述する等価必要長さの関係では、管状部分は断面積、直径(断面形状が円形の場合)が影響するのに対し、体積部分は容積の大きさのみが影響する。
そして、管状部分の管部経路長さをLpとし、出口孔25の出口孔経路長さをLsとする。付加経路長さLと出口孔経路長さLsとを加算した長さは、管部経路長さLpに等しい(後述の(11)式)。
【0056】
管状部分の管部経路長さLpを基準として、圧力波の経路長さを考慮すると、体積部分の実質的な経路長さは、補正量を加味した経路長さとして扱う必要がある。前述した第一決定方法で決定される、固有経路長さL0および適切な吐出経路長さLrfitは、補正量を加味した経路長さであり、これは、吐出経路全体を管状部材で構成したと仮定した場合の経路長さである。
ここで、図9(c)に示すように、補正量を加味した高圧室24の経路長さを体積部経路長さLvとし、出口孔25の経路長さは出口孔経路長さLsとしている。
前記第一決定方法では、まず固有経路長さL0を求め、次に適切な付加経路を設けた吐出経路長さLrfitを求めて、これらの差を求めることで適切な付加経路長さLfitを決定している。この場合、高圧室24は固有経路に含まれ、固有経路は前記差を求める段階で除かれるので、前記体積部経路長さLvの経路長さを計測することなく、付加経路長さLrfitを決定することができる。
【0057】
第二決定方法は、大きく分けて次の三段階からなる。第一段階では、第一決定方法と同一の手順を用いて、適切な吐出経路長さLrfitを決定する。第二段階では、等価必要長さの関係式に、適切な吐出経路長さLrfitを代入して、適切な管部経路長さLpfitを決定(算出)する。第三段階では、適切な付加経路長さLfitを決定する。
【0058】
まず、前述した第一決定方法と同様の手順で、適切な吐出経路長さLrfitを決定する。図10に示す、第二決定方法のステップ201からステップ204までの手順は、図5に示す、第一決定方法のステップ101と、ステップ104からステップ106までの手順と同様である。
つまり、まず、圧縮機に付加経路を設けぬ構成として、吐出経路が固有経路のみの状態で圧力波形を計測する(ステップ201)。
次に、固有経路のみの場合の前記圧力波形(図6)を参照することで、適切な吐出経路を設けた場合の最適タイミングTfitの位置が導出(予測)される(ステップ202)。そして、最適タイミングTfitの位置が導出されることにより、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから、最適タイミングTfitまでに、ロータ4が回転した量が、ロータ角度変化量Bとして計測される。前述したように、最適タイミングTfitで吐出が行われると、開弁圧が最大限低下しているため、ロータ4による圧縮仕事が低減される。
そして、計測されたロータ角度変化量Bを(8)式に代入すると、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから最適タイミングTfitまでの経過時間が算出される(ステップ203)。さらに、図9(b)、図9(c)に示される適切な吐出経路長さLrfitが、後述の(7)式を用いて算出される(ステップ204)。
【0059】
次に、等価必要長さの関係式(後述の(9)式、(10)式)に、ステップ204で決定された適切な吐出経路長さLrfitを代入して、適切な管部経路長さLpfitを決定(算出)する。具体的には、以下のようにして行う。
図9(b)に示されるような、管状部分と体積部分とを含む吐出経路は、すべてを管状部分にして吐出経路を構成した場合、図9(c)に示されるような吐出経路に相当するものとなる。
そして、前記決定された適切な吐出経路長さLrfitは、実際には容積Vcを有する高圧室24を含む吐出経路を、全体が断面積や直径の等しい管状経路とした場合の吐出経路長さである。適切な吐出経路長さLrfitは、前述したように、ロータ角度変化量Bを計測して、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから最適タイミングTfitまでの経過時間を算出し、前記(7)式を用いて決定されるものである。
適切な管部経路長さLpfit、適切な吐出経路長さLrfit、開口端補正Lc、前記断面積F、前記直径dとの間には、(9)式、(10)式の関係が成立する。なお、(9)式では、tangent 関数の逆関数を用いている。
【0060】
【数7】
【0061】
(9)式は、等価必要長さの関係式であり、(10)式は、開口端補正の式である。(9)式に(10)式の関係を利用して開口端補正Lcを消去し、さらに前述したようにして決定された適切な吐出経路長さLrfitを代入して、適切な管部経路長さLpfitが決定される(ステップ205)。
また、管部経路長さLpfit、出口孔経路長さLs、適切な付加経路長さLfitには、図9(b)、図9(c)に示すように(11)式の関係が成立する。
【0062】
【数8】
【0063】
(11)式より、管部経路長さLpfitより、出口孔25の寸法を計測して得られる出口孔経路長さLsを減算すると、適切な付加経路長さLfitが決定される(ステップ206)。
以上のようにして、適切な付加経路長さLfitが決定される。そして、適切な付加経路長さLfitとなる付加経路を、配管47で構成した圧縮機が、第一実施例のベーン型圧縮機10である。
【0064】
第二決定方法では、(9)式の等価必要長さの関係式を用いることで、第一決定方法で必要とした、固有経路長さL0の決定を不要としている。固有経路長さL0は、前述したように、ロータ角度変化量Aを計測して、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから圧縮波伝搬タイミングTcまでの経過時間を算出し、前記(3)式を用いて決定している。
したがって、前記圧力波形(図6)より、圧縮波伝搬タイミングTc(もしくは膨張波最大伝搬タイミングTe)を特定するのが困難な場合でも、第二決定方法を用いることで、適切な付加経路長さLfit(適切な吐出経路長さLrfit)の決定ができるようにしている。
【0065】
次に、適切とされる吐出経路長さ(付加経路長さ)の第三決定方法について、図11、図12を用いて説明する。図11は適切な吐出経路長さの第三決定方法を示すフロー図であり、図12は固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機における前記各圧力の圧力波形と、吐出口内圧力の理論波形を示す図である。
前述したように、吐出口内圧力の計測は、図3に示す計測位置にて行われる。この計測のためには、圧力センサをシリンダ1に設けて、該センサの検出部が吐出口22内の被圧縮流体と接触できるようにする必要がある。つまり、吐出口22内部の側壁に孔を穿って、該孔に圧力センサを配設するのである。吐出口22の開口面積は、工具等を挿入して適切な作業を行うには小さいので、既に製造されたシリンダ1に、圧力センサ配設用の孔を設けるのは困難である。また、吐出経路長さ決定の試験機のためだけに、特別の製造工程(例えば鋳造により圧力センサ配設用の孔を形成する)を設けることも、コスト的に困難である。
そこで、第三決定方法では、吐出口内圧力の実際の計測を不要としながら、適切な吐出経路長さ(付加経路長さ)が、決定されるようにしている。
【0066】
第三決定方法では、大きく分けて次の四段階からなる。第一段階では、吐出口内圧力の理論式を導出する。第二段階では、第一段階で得た理論式を利用して、適切な吐出経路長さLrfitを決定する。第三段階では、第二決定方法の第二段階と同様に、等価必要長さの関係を用いて、適切な管部経路長さLpfitを決定(算出)する。第四段階では、第二決定方法の第三段階と同様に、適切な付加経路長さLfitを決定する。
【0067】
圧縮室15内の被圧縮流体は断熱状態で圧縮されるため、断熱変化の状態方程式を適用することが出来る。圧縮室15内の圧力をP、容積をVとすると、(12)式の関係が成立する。容積Vの乗数のkは、断熱変化の比熱比(定圧モル比熱/定積モル比熱)である。また、左辺の圧力Pと容積Vのk乗との積は一定(const)である。
【0068】
【数9】
【0069】
前述した圧縮機運転条件より、前記吸入工程における圧縮室15での吸入圧力P1と、吸入工程終了直後の吸入容積V1は、特定される。吸入圧力P1と吸入容積V1とを、(12)式に代入すると、(13)式が導出される。(13)式は、吐出口内圧力の理論式である(ステップ301)。図12中では、前記理論式を用いた理論波形が、吐出口内圧力の計測値の代用として用いられている。そして、前述で困難とされる吐出口内圧力を、実際に計測しないでも、適切な吐出経路長さの決定が可能となるようにしている。また、吐出口内圧力以外の吐出弁後圧力、ケース内圧力の計測結果が、図12中に示されている(ステップ302)。
【0070】
【数10】
【0071】
第三決定方法では、前記最適タイミングの算出は、次のようにして行っている。最適タイミングTfitは、前述したように、適切な吐出経路を設けた場合において、膨張波最大伝搬タイミングと、開弁タイミングとが一致したタイミングのことであり、このタイミングで吐出弁23の開弁が行われると、吐出圧が最大限低減されるのである。
最適タイミングTfitは膨張波最大伝搬タイミングでもあり、このとき吐出弁後圧力は最小値となる圧力P2である。また、最適タイミングTfitは開弁タイミングでもあるため、最適タイミングTfitで吐出口内圧力も、前記最小値と同じ圧力P2となる。
最適タイミングTfitでの圧力P2および容積V2を(13)に代入すると、(14)式の関係が成立する。
【0072】
【数11】
【0073】
(14)式より、最適タイミングTfitでの圧縮室15の容積V2を算出することができる。圧縮室15の容積は、ロータ4の回転角度により一義的に決定される。これは逆も成立し、圧縮室15の容積によってロータ角度が一義的に決定される。容積がV2のときのロータ角度は、図12を参照すれば、特定でき、最適タイミングTfitの位置が導出される(ステップ303)。
そして、最適タイミングTfit(容積V2)でのロータ角度変化量Bが、吐出圧縮波最大発生タイミングTbを基準位置として、決定される。
【0074】
なお、ロータ角度変化量Bの特定方法は、前記第一および第二決定方法の場合と同様に、吐出弁後圧力が最小値となる圧力で横線(圧力一定のグラフ)を引き、該横線と吐出口内圧力とが一致するタイミングを特定することで、導出するようにしてもよい。
また、ロータ角度変化量Bを求めるために、最適タイミングにおける前記最小となる圧力P2を用いる代わりに、開弁時の吐出圧P0を用いて算出するようにしても良い。吐出圧P0は、前記ケース内圧力に等しい。そして、前記(13)式に吐出圧P0を代入すると、そのときの圧縮室15の容積V0を算出することができる。前述したように、圧縮室15の容積とロータ角度との関係は一義的に定まるものであるため、容積がV0となるときのロータ角度変化量は、容積がV2となるときのロータ角度変化量Bとは異なるものである。
前述したように、吐出弁後圧力は、膨張波最大伝搬タイミングの付近で傾きが緩やかであるため、開弁タイミングが膨張波最大伝搬タイミングより多少(ロータ角度で±10°くらい)ずれ込んでも、開弁圧低減の効果は失われない。したがって、前記最小となる圧力P2の代わりに、吐出圧P0を代入し、ロータ角度変化量Bからずれた値を、最適タイミングにおけるロータ角度変化量としてもよい。
【0075】
ロータ角度変化量Bが算出されると、第三決定方法において、以下の作業は、前記第二決定方法と同様である。
算出されたロータ角度変化量Bを(8)式に代入して、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから最適タイミングTfitまでの経過時間が算出される(ステップ304)さらに、図9(b)、図9(c)に示される適切な吐出経路長さLrfitが、後述の(7)式を用いて算出される(ステップ305)。
そして、第三決定方法でも、等価必要長さの関係を利用して、付加経路長さLfitの決定を行っている。
等価必要長さの関係式である(9)式および開口端補正の式である(10)式より、開口端補正Lcを消去する。さらに、前述したようにして決定された適切な吐出経路長さLrfitを、(9)式に代入して、適切な管部経路長さLpfitが決定される(ステップ306)。そして、前記(11)式より、管部経路長さLpfitより出口孔経路長さLsを減算すると、適切な付加経路長さLfitが決定される(ステップ307)。
以上のようにして、適切な付加経路長さLfitが決定される。そして、適切な付加経路長さLfitとなる付加経路を、配管47で構成した圧縮機が、第一実施例のベーン型圧縮機10である。
【0076】
第三決定方法では、以上のようにして、吐出口内圧力の理論式を吐出口内圧力の計測値の代用としている。そして、計測が困難な吐出口内圧力を実際に計測しないで、吐出経路長さLrfit(付加経路長さLfit)の決定ができるようにしている。このため、吐出経路長さLrfitの決定のために要する試験機の製造コストを低減することができる。
【0077】
次に、適切とされる吐出経路長さ(付加経路長さ)の理論的決定方法について、図13を用いて説明する。図13は適切な吐出経路長さの理論的決定方法を示すフロー図である。
前記の第一から第三の決定方法は、吐出経路を固有経路のみとした圧縮機を試験機として構成し、該試験機で計測される圧力波形(図6、図12)に基づいて、適切な吐出経路長さLrfit(適切な付加経路長さLfit)の決定を行っている。
これに対して、図13に示す吐出経路長さの理論的決定方法では、試験機での圧力波形の計測を行うことなく、予め導出されている関係式(後述の(15)式)に基づいて、決定するようにしている。
【0078】
以下では、適切な吐出経路長さLrfit(適切な付加経路長さLfit)を決定する理論的決定方法を、該方法において用いる式の順序にしたがって、説明していく。理論的決定方法で用いられる式は、後述の(15)式、前記の(8)式、(7)式、(9)式、(10)式、(11)式である。ここに列挙した算出式を、この順序にしたがって、前式の結果を次式に代入して算出を順次行うことで、最終的に(11)式より、適切な付加経路長さLfitが決定される。以下では、この順序にしたがって各算出式について説明するが、同時に理論的決定方法の手順を説明することとなる。
【0079】
後述する(15)式は、前述したように、予め導出されている関係式であり、圧縮機運転条件や前述した圧縮機の固有要素と、前記膨張波最大伝搬タイミングとに関する関係式である。
圧縮機運転条件は、前述したように、ロータ軸5の運転回転数、被圧縮流体(冷媒)の種類、吸入時の被圧縮流体の圧力および温度等である。また、ベーン型圧縮機の固有要素としては、圧縮機を構成する各部材の形状や寸法、ロータに設けるベーンの配設数、吐出口数等があり、これらの固有要素により、圧縮機の基本性能が決定されるものである。
また、膨張波は前述したように、吐出弁23に伝搬すると、開弁圧を低下させる作用がある。このため、膨張波が最大限に伝搬するタイミングの位置によって、開弁圧低下の効果が大きく変化する。
したがって、前記関係式を導出することで、圧縮機運転条件や圧縮機の固有要素に関わる変数を特定すると、前記膨張波最大伝搬タイミングがどのタイミングでやってくるかを、算出することができるのである。
【0080】
前記関係式は、次のようにして導出されたものである。まず、圧縮機運転条件や圧縮機の固有要素毎に、吐出圧縮波の反射波が吐出弁に伝搬するタイミングを計測する。そして、該計測結果を蓄積し、圧縮機運転条件、圧縮機の固有要素と、伝搬タイミングとの因果関係を、該蓄積結果より導出するのである。
つまり、前記関係式は、圧縮機運転条件や圧縮機の固有要素によって定まる、吐出圧縮波の反射波が吐出弁に伝搬するタイミングに関する関係式なのである。
前述した導出作業により、伝搬タイミングは、ベーン配設数に大きく依存することが明らかとなった。したがって、理論的決定方法においては、前記関係式を、ベーン配設数にのみ依存する関数として決定し、圧縮機を構成する各部材の形状や寸法、吐出口数等の圧縮機に固有の要素や、圧縮機運転条件に依らないものとした。したがって、前記因果関係の関係式にベーン配設数を代入すると、ロータ角度変化量Bが算出される(ステップ401)。
ロータ角度変化量Bは、前述したように、吐出圧縮波最大発生タイミングから最適タイミングまでにロータが回転した角度量を示すものである。前記関係式は、ベーン配設数をnとして、次の関係が成立するものとしている。
【0081】
【数12】
【0082】
(15)式中の分母には、6という数字が記されている。該数字は、前記因果関係より決定した、補正値である。本実施例では、圧縮機運転条件や、ベーン配設数を除く圧縮機の固有要素に依存しないものとしているため、該補正値が変数ではなく、定数となっている。そして、該補正値の値の大小により、例えば図6、図12に示す膨張波最大伝搬タイミングTeを、どの程度遅らせるか、もしくは早めるか、が決定される。
前述したように、吐出弁後圧力は、膨張波最大伝搬タイミングの付近で傾きが緩やかであるため、開弁タイミングが膨張波最大伝搬タイミングより多少(ロータ角度で±10°くらい)ずれ込んでも、開弁圧低減の効果は失われない。
つまり、(15)式中の補正値で、ベーン配設数を除いた固有要素が異なる圧縮機であっても、圧縮機運転条件が異なる場合であっても、開弁圧低減の効果が得られるのである。そのような効果が得られる場合の補正値が6なのである。したがって、前記補正値を、5〜7のように6近傍の値としてもよい。
ベーン配設数nに前記ベーン型圧縮機10が備えるベーン9の配設数5を代入すると、(15)式より、ロータ角度変化量Bが60°となる。図6、図12において、ロータ角度変化量Bは略60°であり、計測による場合と、理論的決定方法による場合とで、最適タイミングTfitが略一致する値となっている。そして、このような最適タイミングTfitの一致、もしくは接近は、図6、図12に示される圧縮機運転条件の場合に限定されるものではなく、圧縮機運転条件が異なる場合、さらにはベーン配設数n以外の固有要素が異なる場合においても、実現されるものである。
【0083】
(15)式より算出されたロータ角度変化量Bを(8)式に代入すると、吐出圧縮波最大発生タイミングTbから最適タイミングTfitまでの経過時間が算出される(ステップ402)。さらに、図9(b)、図9(c)に示される適切な吐出経路長さLrfitが、(7)式を用いて算出される(ステップ403)。
(9)式は、等価必要長さの関係式であり、(10)式は、開口端補正の式である。(9)式に(10)式の関係を利用して開口端補正Lcを消去し、さらに前述したようにして決定された適切な吐出経路長さLrfitを代入して、適切な管部経路長さLpfitが決定される(ステップ404)。また、管部経路長さLpfit、出口孔経路長さLs、適切な付加経路長さLfitには、図9(b)、図9(c)に示すように(11)式の関係が成立する。(11)式より、管部経路長さLpfitより出口孔経路長さLsを減算すると、適切な付加経路長さLfitが決定される(ステップ405)。
以上のようにして、適切な付加経路長さLfitが決定される。そして、適切な付加経路長さLfitとなる付加経路を、配管47で構成した圧縮機が、第一実施例のベーン型圧縮機10である。
【0084】
以上のように、吐出経路長さの理論的決定方法にしたがって、適切な吐出経路長さを決定し、適切な吐出経路長さを備えたベーン型圧縮機を構成するので、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとを一致させることが出来る。膨張波は、前記ケース内圧力と比べて低圧であり、吐出弁23の開弁圧を低下させるので、吐出弁23を開弁するためにロータが行う、圧縮室15の過剰な圧縮仕事が低減される。
【0085】
次に、圧縮機に潤滑油除去部51を設け、該潤滑油除去部51内に形成した経路孔52を、前記適切な付加経路とした第二実施例のベーン型圧縮機120について、図14から図16を用いて説明する。図14は第二実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面一部断面図であり、図15は第二実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面一部断面図であり、図16は第二実施例の潤滑油除去部を示す五面図である。
図14、図15に示すように、第二実施例のベーン型圧縮機120では、サイドブロック3の反シリンダ1側に、潤滑油除去部51が設けられている。潤滑油除去部51は、図16に示すような形状に構成されている。図16(a)は潤滑油除去部51の正面図、図16(c)は潤滑油除去部51の後面図、図16(d)は潤滑油除去部51の側面図、図16(e)は潤滑油除去部51の平面断面図である。
潤滑油除去部51には、前記出口孔25・25と連通する経路孔52・52が形成されている。そして、吐出口22から経路孔52の出口端52a(吐出方向終端)に至る吐出経路が形成されている。経路孔52の出口端52aでは、被圧縮流体がチャンバー14内の開放空間に吐出されるように構成されており、経路孔52の出口端52aで、被圧縮流体は圧力解放される構成となっている。
【0086】
ここで、経路孔52は前記付加経路に相当し、第一実施例のベーン型圧縮機10に設ける配管47と同様の効果を有するものである。つまり、適切な付加経路長さの経路孔を形成した潤滑油除去部51をベーン型圧縮機120に設けて、前記吐出経路長さが適切な吐出経路長さとなるようにしている。そして、ベーン型圧縮機120に適切な吐出経路を設けることで、前述したように、膨張波の最大伝搬タイミングを吐出弁23の開弁タイミングに一致させることができ、開弁圧を低下させて、ロータ4による過剰な圧縮仕事を低減させることが出来る。
【0087】
また、経路孔52の入口端(経路孔52のシリンダ1側端)52bの断面積、断面形状は、サイドブロック3に形成される出口孔25の出口端25aの断面積、断面形状と一致するように形成されている。そして、前記第二、第三決定方法および理論的決定方法で用いられる等価必要長さの関係において、出口孔25および経路孔52を、一体の管状部分として扱うことが出来るようにしている。
【0088】
経路孔52の吐出方向前方(圧縮機本体の後方)には、潤滑油除去板53が、潤滑油除去部51に設けられている。経路孔52の出口端52aと、潤滑油除去板53との間には、開放空間が形成されており、該開放空間で出口端52aは圧力解放されるものである。
潤滑油除去板53は、平面視でV字形状に形成されており、潤滑油除去板53の二股の端部側が吐出方向前方(圧縮機本体の後方)に位置するように設けられている。そして、経路孔52より吐出される被圧縮流体が、吐出方向に対して傾斜している潤滑油除去板53に接触し、潤滑油除去部51の左右外側に向けて流出するようにしている。
ここで、被圧縮流体に混じり込んでいる潤滑油は、潤滑油除去板53との接触時に分離される。つまり、潤滑油除去板53は潤滑油分離用のフィルターとして作用するものである。
【0089】
以上構成により、潤滑油除去部51を設けた第二実施例のベーン型圧縮機120においては、前記経路孔52の経路孔長さの異なる潤滑油除去部51を用いるだけで、吐出経路の吐出経路長さを変更可能である。したがって、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとが一致した、適切とされる吐出経路長さを、容易に実現することができる。
また、潤滑油除去部51をベーン型圧縮機120に設けることで、圧縮過程で被圧縮流体に混じり込んでしまう圧縮機用潤滑油を分離することが出来る。
【0090】
次に、圧縮機に潤滑油除去部61を設け、該潤滑油除去部61内に形成した経路溝62を、前記適切な付加経路とした第三実施例のベーン型圧縮機130について、図17から図20を用いて説明する。図17は第三実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面一部断面図であり、図18は第三実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面一部断面図であり、図19は第三実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向後面図であり、図20は第三実施例の潤滑油除去部を示す五面図である。
図17、図18に示すように、第三実施例のベーン型圧縮機130では、サイドブロック3の反シリンダ1側に、潤滑油除去部61が設けられている。潤滑油除去部61は、図20に示すような形状に構成されている。図20に示すような形状に構成されている。図20(a)は潤滑油除去部51の正面図、図20(c)は潤滑油除去部51の後面図、図20(d)は潤滑油除去部51の側面図、図20(e)は潤滑油除去部51の平面断面図である。
潤滑油除去部61の前面(サイドブロック3側)には、前記出口孔25・25と連通する経路溝62・62が形成されている。また、経路溝62の出口端25aとの非接続側の端部には、潤滑油除去部61の前後面を貫通する経路孔64が形成されている。そして、潤滑油除去部61をサイドブロック3に当接させて固定すると、経路溝62・62は両端部の開口部を除いて密閉構成となり、被圧縮流体吐出用の経路とすることができる。そして、吐出口22から経路溝62を経由して経路孔64の出口端64a(吐出方向終端)に至る吐出経路が形成される。
経路孔64の出口端64aでは、被圧縮流体がチャンバー14内の開放空間に吐出されるように構成されており、経路孔64の出口端64aで被圧縮流体は圧力解放されるものである。
【0091】
ここで、経路溝62と経路孔64とを合わせて形成される経路は、前記付加経路に相当し、第一実施例のベーン型圧縮機10に設ける配管47と同様の効果を有するものである。つまり、経路溝62および経路孔64の経路長さが、適切な付加経路長さとなるような潤滑油除去部61をベーン型圧縮機130に設けて、前記吐出経路長さが、適切な吐出経路長さとなるようにしている。そして、ベーン型圧縮機130に適切な吐出経路を設けることで、前述したように、膨張波の最大伝搬タイミングを吐出弁23の開弁タイミングに一致させることができ、開弁圧を低下させて、ロータ4による過剰な圧縮仕事を低減させることが出来る。
【0092】
また、経路孔64の吐出方向前方(圧縮機本体の後方)には、潤滑油除去板63が、潤滑油除去部61に設けられている。潤滑油除去板63は、第二実施例の潤滑油除去部51に設けた潤滑油除去板53と同じ構成としており、同様の作用を有するものである。
また、経路溝62による経路の形状は、直線経路ではなく、曲線経路とされている。前述したように、前述した吐出弁23の開弁圧低下の作用は、吐出経路長さには依存しても、吐出経路50の経路形状には殆ど関わりがないため、このような構成としても差支えがない。そして、経路に曲げを設けることで、潤滑油除去部61の限られたスペースにおいて、経路長さを直線で構成する場合よりも長くすることが可能である。
【0093】
以上構成により、潤滑油除去部61を設けた第三実施例のベーン型圧縮機130においても、前記経路溝62の経路溝長さの異なる潤滑油除去部61を用いるだけで、吐出経路の吐出経路長さを変更可能である。したがって、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとが一致した、適切とされる吐出経路長さを、容易に実現することができる。
また、潤滑油除去部61をベーン型圧縮機130に設けることで、圧縮過程で被圧縮流体に混じり込んでしまう圧縮機用潤滑油を分離することが出来る。
【0094】
次に、圧縮機に潤滑油除去部51と、間座54・55とを設けた第四実施例のベーン型圧縮機140について、図21から図24を用いて説明する。図21は第四実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面一部断面図であり、図22は第四実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面一部断面図であり、図23は第四実施例の間座を示す二面(正面および平面)図であり、図24は第四実施例の経路仕切用間座を示す二面(正面および平面)図である。
図21、図22に示すように、第四実施例のベーン型圧縮機140では、サイドブロック3の反シリンダ1側に、前記潤滑油除去部51が設けられている。また、サイドブロック3と潤滑油除去部51との間には、間座54・55がそれぞれ一または複数個配設されている。
潤滑油除去部51、間座54・55にはそれぞれ経路孔や経路溝が形成されている。そして、サイドブロック3と潤滑油除去部51との間に、後述するような仕方で間座54・55を並べることで、これらの部材の経路孔や経路溝が適切に連通されるようにしている。
ここで適切というのは、次のことを意味する。これらの部材の経路孔や経路溝によって形成される連通経路が、経路上の位置によらず断面積が等しいと共に断面形状も略等しくなり、該連通経路が前記管状部分とみなし得るものとなることである。管状部分とみなし得ると、前記等価必要長さの関係を適用することが可能となり、前記第二、第三決定方法および理論的決定方法を用いて、前記連通経路の経路長さを決定することが可能となる。
【0095】
図23に示すように、間座54には、圧縮機への配設時に前後面となる面にそれぞれ、長溝54a・54aが形成されており、全体で4つの長溝54aが形成されている。前後面のそれぞれにおいて、長溝54a・54aは平面視で左右対称となるように形成されている。また、前記配設時に正面視(後面視)では、サイドブロック3に形成される出口孔25および、潤滑油除去部51に形成される経路孔52と、重複するように形成されている。
また、前後面に形成される長溝54a・54aの組は、左右のそれぞれの組において、長溝54a・54aの内側に穿設孔54bが形成されて、長溝54a・54aが連通する構成としている。
以上構成により、間座54をサイドブロック3の後部に設けると、サイドブロック3側の長溝54aが両端部の開口部を除いて密閉構成となり、被圧縮流体吐出用の経路とすることができる。また、間座54を潤滑油除去部51の前部に設けると、潤滑油除去部51側の長溝54aを、被圧縮流体吐出用の経路とすることができる。
【0096】
ただし、間座54・54同士を並べたのでは、間座54・54間の連通部が、出口孔25や前記経路孔52の断面と比べて幅広となってしまう。そうすると、出口孔25から経路孔52までの吐出経路が、等しい断面積の管状部分として扱うことが出来なくなってしまう。前述したように、断面積の異なる経路部分が存在すると、前述した等価必要長さの関係は用いることが出来なくなってしまう。あるいは、断面積が異なる個所が3以上に渡る、さらに複雑な等価必要長さの関係を用いてもよいが、この場合は、前述した適切な吐出経路長さの算出がさらに困難なものとなってしまう。
【0097】
そこで、間座55を間座54・54間に設けて、出口孔25から経路孔52までの吐出経路を等しい断面積の管状部分として扱えるようにしている。間座55には、図24に示すように、正面視(後面視)で、出口孔25および経路孔52と重複する経路孔56・56が形成されている。
そして、間座55を間座54の前後部のいずれかに設けると、間座55側で長溝54aが両端部の開口部を除いて密閉構成となり、被圧縮流体吐出用の経路とすることができると共に、該経路の断面積を経路上で略等しい大きさとすることが出来る。そして、前記等価必要長さの関係を用いることが出来るようにしている。
【0098】
以上構成により、間座54と間座55とを相互に並べていくことで、一または複数の間座54・55および潤滑油除去部51によって形成される連通経路の経路長さを自在に調節可能としている。そして、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとが一致した、適切とされる吐出経路長さを、容易に実現することができる。
また、潤滑油除去部51をベーン型圧縮機140に設けることで、圧縮過程で被圧縮流体に混じり込んでしまう圧縮機用潤滑油を分離することも出来る。
【0099】
なお、第四実施例の構成において、吐出経路長さの調節は、一または複数の間座55のみを用いて行うようにしても良い。間座55であれば、複数個を並列に連結しても、出口孔25、間座55・55・・・、経路孔52によって形成される連通経路において、経路上の位置によって断面積に変化が生じることもない。したがって、前記等価必要長さの関係を適用可能である。
また、第四実施例の構成において、潤滑油除去部51の代わりに、経路溝62が形成された潤滑油除去部61を用いる構成としても良い。なお、この場合においては、潤滑油除去部61と長溝54aが形成される間座54とを、隣接させないように配置して、経路上の位置によって断面積に変化が生じないようにする必要がある。
【0100】
【発明の効果】
請求項1記載の如く、略楕円状の内周面を有するシリンダを設け、シリンダ後端面にサイドブロックを設け、シリンダ内周にロータを回転自在に設け、ロータにベーン溝を形成し、ベーン溝にベーンを摺動自在に装着し、シリンダに吐出口を設け、吐出口を開閉する吐出弁を設け、シリンダおよびサイドブロックをケースに収納した圧縮機において、圧力解放された出口端を有する吐出経路を備え、圧縮機運転条件や圧縮機の固有要素によって定まる吐出圧縮波の反射波が吐出弁に伝搬するタイミングに関する関係式により、吐出口から圧力解放された吐出経路出口端までの吐出経路長さを決定し、前記反射波により、被圧縮流体吐出時における開弁圧が低下するようにし、前記の如く決定された吐出経路長さを設定するに当たって、吐出経路が吐出口からサイドブロックに形成した出口孔の出口端までの固有経路と、圧力開放された出口端を有する付加経路とから構成される場合に、固有経路と付加経路の出口端の断面積を同一に構成したので、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁の開弁タイミングとを一致させることが出来る。膨張波は、前記ケース内圧力と比べて低圧であり、吐出弁の開弁圧を低下させるので、吐出弁を開弁するためにロータが行う、圧縮室の過剰な圧縮仕事が低減される。
【0101】
請求項2記載の如く、前記吐出経路の一部を配管にて構成し、前記関係式に基づいて決定された吐出経路長さを、配管長さを調節して実施したので、適切とされる吐出経路長さを容易に実現することができる。また、シリンダ収納ケースに配管を収納するに当たっても、配管に曲げ加工を加えることで、ケースの容積に依らず、適切とされる吐出経路長さを実現することが出来る。
【0102】
請求項3記載の如く、吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部を設け、潤滑油除去部に経路孔を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、経路孔長さを調節して実施したので、経路孔長さの異なる潤滑油除去部を用いるだけで、吐出経路長さを変更可能である。したがって、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとが一致した、適切とされる吐出経路長さを、容易に実現することができる。
また、潤滑油除去部を設けることで、圧縮過程で被圧縮流体に混じり込んでしまう圧縮機用潤滑油を分離することが出来る。
【0103】
請求項4記載の如く、吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部を設け、潤滑油除去部に経路溝を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、経路溝長さを調節して実施したので、経路溝長さの異なる潤滑油除去部を用いるだけで、吐出経路長さを変更可能である。したがって、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁23の開弁タイミングとが一致した、適切とされる吐出経路長さを、容易に実現することができる。
また、潤滑油除去部を設けることで、圧縮過程で被圧縮流体に混じり込んでしまう圧縮機用潤滑油を分離することが出来る。
【0104】
請求項5載の如く、吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部と間座とを設け、潤滑油除去部および間座に吐出経路を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、間座の配設数を調節して実施したので、一または複数の間座および潤滑油除去部によって形成される連通経路の経路長さが自在に調節可能となる。そして、膨張波の伝搬タイミングと、吐出弁の開弁タイミングとが一致した、適切とされる吐出経路長さを、容易に実現することができる。
また、潤滑油除去部を設けることで、圧縮過程で被圧縮流体に混じり込んでしまう圧縮機用潤滑油を分離することも出来る。
【0105】
請求項6載の如く、吐出口を複数設け、各吐出口毎に被圧縮流体出口孔を前記サイドブロックに設け、各吐出口から各出口孔を経る吐出経路を設け、各吐出経路出口端を圧力解放する構成とし、複数の吐出口の内、一の吐出口と他の少なくとも一の吐出口を連通する経路を遮断する構成としたので、吐出弁を開口するためのロータによる過剰な圧縮仕事が低減される。さらに、吐出時に開弁圧を上昇させるような圧力波干渉が発生するのを防止している。そして、他の吐出口からの圧力波によって、吐出時の開弁圧が上昇して、吐出弁の開口が妨げられたり、圧縮仕事が増大するのを防止している。
【図面の簡単な説明】
【図1】第一実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面断面図である。
【図2】第一実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面断面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】吐出経路の構成を示す概略図である。
【図5】適切な吐出経路長さの第一決定方法を示すフロー図である。
【図6】固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機における前記各圧力の圧力波形を示す図である。
【図7】固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機と、固有経路に適切な付加経路を設けて吐出経路を構成した圧縮機とにおいて、ロータ角度と圧力及びリフト比との関係を示す図である。
【図8】固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機と、固有経路に適切な付加経路を設けて吐出経路を構成した圧縮機とにおいて、圧縮室容積と吐出口内圧力との関係を示す図である。
【図9】吐出経路の構成を示す概略図である。
【図10】適切な吐出経路長さの第二決定方法を示すフロー図である。
【図11】適切な吐出経路長さの第三決定方法を示すフロー図である。
【図12】固有経路のみで吐出経路を構成した圧縮機における前記各圧力の圧力波形と、吐出口内圧力の理論波形を示す図である。
【図13】適切な吐出経路長さの理論的決定方法を示すフロー図である。
【図14】第二実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面一部断面図である。
【図15】第二実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面一部断面図である。
【図16】第二実施例の潤滑油除去部を示す五面図である。
【図17】第三実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面一部断面図である。
【図18】第三実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面一部断面図である。
【図19】第三実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向後面図である。
【図20】第三実施例の潤滑油除去部を示す五面図である。
【図21】第四実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向側面一部断面図である。
【図22】第四実施例のベーン型圧縮機を示すロータ軸方向平面一部断面図である。
【図23】第四実施例の間座を示す二面(正面および平面)図である。
【図24】第四実施例の経路仕切用間座を示す二面(正面および平面)図である。
【符号の説明】
1 シリンダ
3 サイドブロック
4 ロータ
8 ベーン溝
9 ベーン
11 シリンダ収納ケース
22 吐出口
23 吐出弁
30 連通経路
47 配管
51・61 潤滑油除去部
52 経路孔
54・55 間座
62 経路溝
64 経路孔
Lfit 適切な付加経路長さ
Lrfit 適切な吐出経路長さ
Te 膨張波最大伝搬タイミング
Claims (6)
- 略楕円状の内周面を有するシリンダを設け、シリンダ後端面にサイドブロックを設け、シリンダ内周にロータを回転自在に設け、ロータにベーン溝を形成し、ベーン溝にベーンを摺動自在に装着し、シリンダに吐出口を設け、吐出口を開閉する吐出弁を設け、シリンダおよびサイドブロックをケースに収納した圧縮機において、
圧力解放された出口端を有する吐出経路を備え、圧縮機運転条件や圧縮機の固有要素によって定まる吐出圧縮波の反射波が吐出弁に伝搬するタイミングに関する関係式により、吐出口から圧力解放された吐出経路出口端までの吐出経路長さを決定し、前記反射波により、被圧縮流体吐出時における開弁圧が低下するようにし、
前記の如く決定された吐出経路長さを設定するに当たって、吐出経路が吐出口からサイドブロックに形成した出口孔の出口端までの固有経路と、圧力開放された出口端を有する付加経路とから構成される場合に、固有経路と付加経路の出口端の断面積を同一に構成したことを特徴とするベーン型圧縮機。 - 前記吐出経路の一部を配管にて構成し、前記関係式に基づいて決定された吐出経路長さを、配管長さを調節して実施したことを特徴とする請求項1記載のベーン型圧縮機。
- 吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部を設け、潤滑油除去部に経路孔を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、経路孔長さを調節して実施したことを特徴とする請求項1記載のベーン型圧縮機。
- 吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部を設け、潤滑油除去部に経路溝を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、経路溝長さを調節して実施したことを特徴とする請求項1記載のベーン型圧縮機。
- 吐出経路に被圧縮流体より圧縮機用潤滑油を除去する為の潤滑油除去部と間座とを設け、潤滑油除去部および間座に吐出経路を形成し、前記関係式に基づいて決定される吐出経路長さを、間座の配設数を調節して実施したことを特徴とする請求項1記載のベーン型圧縮機。
- 吐出口を複数設け、各吐出口毎に被圧縮流体出口孔を前記サイドブロックに設け、各吐出口から各出口孔を経る吐出経路を設け、各吐出経路出口端を圧力解放する構成とし、複数の吐出口の内、一の吐出口と他の少なくとも一の吐出口を連通する経路を遮断する構成としたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のベーン型圧縮機。
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