JP3562989B2 - 溶射層を有する複合材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主にフェライト、コンデンサー等の焼成用セッター、セラミックス粉末や成形体の焼成用るつぼ及び熱硫酸用るつぼ、あるいは耐摩耗性を強く要求されるロール部材等に用いられる溶射層を有する複合材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体、窯業、電子部品、車両、航空機等の構成部材あるいは熱処理部材として、SiC,Si3N4,Si−SiC,Al2O3−SiO2,CaO,ZrO2等のセラミックスが広範に多用されている。
これは、金属材料をはるかに凌駕する高温強度、耐食性、耐摩耗性等であり、比重の小ささ、原料資源の豊富さなどが付帯した有利性のためである。
【0003】
しかしながら、セラミックスは、一般に靱性が低く、脆いことが知られており、その破壊エネルギーがせいぜい50J/m2程度であるため、一度クラックが入ると、割れに到りやすい。
これを解消するために、耐スポーリング性を有するセラミックスを選定しても、マイクロクラックの生成により、十分に寿命延長を図ることが困難であった。
以上のことから、セラミックスは、機械的および熱的衝撃耐性、破壊に対する信頼性が低いという問題があった。
また、セラミックスの耐(粉末−製品−薬品−薬液−雰囲気)反応性を維持するために、溶射法によるセラミックスコーティングが行われるが、基材であるセラミックスのC.T.E.(熱膨張係数)が大きいため、基材に形成された被膜が剥離しやすいという問題があった。
【0004】
このセラミックスの欠点を克服する手段として、連続したセラミックス系繊維を複合化させたセラミックス基複合材料(CMC)が用いられている。
この材料は、高温でも高強度・高靱性で、優れた耐衝撃性、耐環境性を有するとともに、セラミックスよりも軽量化することができ、加工性にも優れているため、超耐熱構造材料の主流として欧米を中心に研究開発が盛んに行われている。
【0005】
上記セラミックス基複合材料(CMC)の具体例としては、二次元または三次元方向に配列した炭素繊維の間隔に炭素から成るマトリックスを形成して成るC/Cコンポジット、SiC繊維とSiC粒子を含む成形体にSiを含浸させて形成されるSiC繊維強化Si−SiC複合材等が知られている。
さらに、英国特許第1457757号明細書には、C/Cコンポジットを溶融Si中に浸漬させる処理方法が開示されている。この方法によれば、C/CコンポジットにSiが含浸された複合材料が作製されることが推定される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、現在用いられているC/Cコンポジットは、靱性に富むため耐衝撃性に優れ、かつ軽量、高強度であるため、広範な分野において使用されているが、炭素から構成されているため、酸素存在下では高温での使用ができず、超耐熱構造材料としての使用には制限があった。
一方、SiC繊維強化Si−SiC複合体は、耐酸化性、耐クリープ性、耐スポーリング性等には優れているが、繊維表面に傷がつきやすく、又、SiC繊維はSi−SiC等との潤滑性に劣るため、母体と繊維間の引き抜き効果が小さいことから、C/Cコンポジットに比べて靱性に劣り、そのため耐衝撃性が低く、複雑な形状や薄肉部分を有する構造材料には向かないという問題があった。
【0007】
さらに、英国特許第1457757号明細書に開示されるC/CコンポジットにSiが含浸された複合材料においては、従来から知られている通常のC/Cコンポジットを用いており、全体に微細な気孔が多数存在するような構造のものである。すなわち、英国特許第1457757号明細書の実施例1に記載されるように、炭素繊維はフェノール樹脂でコートされた後、所望の繊維方向及び形状となるように型内に配置して、圧縮、硬化され、次いで、得られた成形体は離型され、窒素雰囲気下800〜900℃に加熱され、フェノール樹脂は炭化される。このようにして、一定方向に繊維が配向しそれが積層された構造のC/Cコンポジットを得ているものである。
【0008】
このようなC/Cコンポジットは、フェノール樹脂が炭化され炭素マトリックスの一部となるが、残炭率は50%程度であることから、全体に微細な気孔が多数存在する構造となっており、このC/Cコンポジットを溶融Si中に浸漬してSiを含浸させると、その表面近傍にはSiが浸透するものの、C/Cコンポジット全体、特にその中心部まで万遍なくSiを浸透させることができない。したがって、C/Cコンポジットの材料特性としての欠点が未だ解消できていないものであった。
また、この構成のC/Cコンポジットに溶融Siを含浸させると、溶融した高温のSiと直接に接触することにより、表面近傍の炭素繊維の構造が破壊され、その結果、耐衝撃性、強度、高潤滑性、耐摩耗性が失われるという課題があった。
【0009】
本発明は上記した従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐(粉末−製品−薬品−薬液−雰囲気)反応性に優れるとともに、耐衝撃性、耐クリープ性、耐スポーリング性、耐摩耗性、低摩擦係数をも併せ持ち、かつ、軽量、高強度および高信頼性を有する溶射層を有する複合材およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明によれば、少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分とを含有するヤーンが三次元的に組み合わされ、互いに分離しないように一体化されているヤーン集合体と、このヤーン集合体中で隣り合う前記ヤーンの間に充填され、前記炭素繊維以外の炭素成分がシリコンと反応して一部珪化され、炭素相、珪素相、中間相及び炭化珪素相を含むSi−SiC系材料からなるマトリックスとを備えた繊維複合材料の表面に溶射層を形成することを特徴とする溶射層を有する複合材が提供される。
【0011】
本発明においては、マトリックスが、ヤーンの表面に沿って生成している炭化珪素相を有していることが好ましく、また、マトリックスが珪素からなる珪素相を有しており、この珪素相とヤーンとの間に炭化珪素相が生成していることがさらに好ましい。
また、マトリックスが、ヤーンの表面から離れるに従って珪素の含有比率が大きくなる傾斜組成を有していてもよい。さらに、ヤーン集合体が複数のヤーン配列体を備えており、各ヤーン配列体がそれぞれ複数のヤーンを略平行に二次元的に配列することによって形成されており、各ヤーン配列体が積層されることによってヤーン集合体が構成されていることが好ましい。この場合、隣接する前記ヤーン配列体における各ヤーンの長手方向が互いに交差していることが好ましい。
【0012】
本発明においては、マトリックスは、繊維複合材料の中で互いに連続することで三次元網目構造を形成している。より具体的にいえば、マトリックスが各ヤーン配列体において略平行に二次元的に配列されており、隣り合う各ヤーン配列体中に生成しているマトリックスが互いに連続しており、これによってマトリックスが三次元格子を形成していることが好ましい。
また、溶射層の厚さは10〜2000μmであることが好ましく、溶射層の主成分としては、Al2O3、ZrO2、Mg0、CaO、及びTiO2のいずれかであることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、炭素繊維の束に、最終的にマトリックスとなる粉末状の炭素成分を包含させることにより炭素繊維束を作製した後、前記炭素繊維束の周囲にプラスチック製被膜を形成して中間材料とし、次いでこの中間材料をヤーン状にして所定量を積層した後成形して成形体を得るか、あるいはこの成形体を焼結して焼結体を得た後、この成形体又は焼結体とSiを、不活性ガス雰囲気下にて1100〜1400℃の温度に保持し、次いで、前記成形体又は焼結体とSiを、1450〜2500℃の温度に昇温することにより、前記成形体又は焼結体の開気孔内部へSiを含浸させ、その一部を炭素成分と反応させ、Si−SiCマトリックスを形成して繊維複合材料を作製し、次いで前記繊維複合材料の表面に溶射材を溶射して溶射層を形成することを特徴とする溶射層を有する複合材の製造方法が提供される。
【0014】
上記の製造方法において、成形体又は焼結体とSiを、1100〜1400℃の温度、0.1〜10hPaの圧力に1時間以上保持し、かつその際、成形体又は焼結体とSiの合計重量1kg当たり不活性ガスを0.1ノルマルリットル(NL)以上流すように制御することが好ましく、また、成形体又は焼結体とSiを、0.1〜10hPaの圧力下、1450〜2500℃の温度に昇温することが好ましい。
また、前記繊維複合材料を、大気雰囲気下、200〜800℃で仮焼した後、前記繊維複合材料の表面に溶射材を溶射して溶射層を形成することが好ましく、溶射材としては、Al2O3、ZrO2、MgO、CaO、及びTiO2のいずれかを含有するものであることが好ましい。
さらに、溶射に際しては、Ni等のメッキを行った後、溶射を行ってもよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の複合材は、少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分とを含有するヤーンが三次元的に組み合わされ、互いに分離しないように一体化されているヤーン集合体と、このヤーン集合体中で隣り合う前記ヤーンの間に充填され、前記炭素繊維以外の炭素成分がシリコンと反応して一部珪化され、炭素相、珪素相、中間相及び炭化珪素相を含むSi−SiC系材料からなるマトリックスとを備えた繊維複合材料の表面に溶射層を形成したものである。
【0016】
本発明の複合材は、母材としてC/Cコンポジットを用いることにより、繊維複合材料に靱性を付与することができるため、耐衝撃性に優れ、軽量かつ高強度、高潤滑性、耐摩耗性の材料とすることができる。従って、SiC繊維強化Si−SiC複合体の有する低耐衝撃性という欠点を克服することができ、複雑な形状や薄肉部分を有する構造材料にも用いることができる。また、C/Cコンポジット内に連続した開気孔を有するようにC/Cコンポジットを作製しているため、この気孔に対して含浸形成されるSi−SiC系材料は、連続構造をとり三次元網目構造をとる。従って、どの部分を切り出しても、母材となったC/Cコンポジットに比して高い耐摩耗性を有し、かつ本来のC/Cコンポジットが持っていた潤滑性も維持される。
又、C/Cコンポジットから成る母材表面にSi−SiC材料からなる層を配することにより、繊維複合材料に耐酸化性、耐クリープ性、耐スポーリング性が付与される。
【0017】
本発明の複合材は、上記繊維複合材料の表面に溶射層を形成することにより、上記繊維複合材料の優れた特性を継承しつつ、更に溶射層による耐(粉末−製品−薬品−薬液−雰囲気)反応性が付与され、母材として用いられるC/Cコンポジットの有する低耐酸化性を克服することができる。
また、上記繊維複合材料の問題点であった硬度の低さも改善することができるため、耐摩耗性もより向上させることができる。
更に、上記繊維複合材料の表面に溶射層を強固に固着させることができるため、例えば、表面を荒すあるいは同時にSiO2膜形成のために酸化雰囲気下、200〜800℃で加熱しても安定した状態に加工することもできる。
以上のことから、酸素存在下においても高温での使用が可能であり、相手材との反応を防止することができるため、超耐熱構造材料として好適に使用できる。
【0018】
以下、本発明の複合材に用いる基本材料である繊維複合材料について説明する。
これは、いわゆるC/Cコンポジットを基本とし、その基本的な構成に改善を加えた新しい概念の材料である。
【0019】
直径が10μm前後の炭素繊維を、通常、数百本〜数万本束ねて繊維束(ヤーン)を形成し、この繊維束を二次元方向に配列して一方向シート(UDシート)や各種クロスとしたり、また上記シートやクロスを三次元方向に積層したりすることにより、所定形状の予備成形体(繊維プリフォーム)を形成し、この予備成形体の内部に、CVI法(Chemical Vapor Infiltration :化学的気相含浸法)や無機ポリマー含浸焼結法等により、炭素から成るマトリックスを形成して成るC/Cコンポジットが知られている。
【0020】
この繊維複合材料は、母材としてC/Cコンポジットを用いており、下記するような特定の製造方法により製造しているため、その炭素繊維の構造が、破壊されることなく保持されているという大きな特徴を有している。前記した英国特許第1457757号明細書に記載されるように、C/Cコンポジットにシリコンを含浸した繊維複合材料は知られているが、この材料では炭素繊維の構造が破壊されているので、C/Cコンポジットの耐衝撃性、強度、高潤滑性、耐磨耗性が失われていた。
これに対し、本発明で用いる繊維複合材料においては、少なくとも炭素繊維束の周囲に、熱可塑性樹脂等のプラスチックから成る柔軟な被膜を形成し、柔軟性中間材料を得、これをヤーン状にして、その後、場合によってはシート状にして積層し、加熱成形するという特定の処理を施しているため、高温度の溶融Siと炭素繊維以外の炭素粒子や、有機バインダー、プラスチック被膜が熱分解して生成される活性度が高い炭素がまず接触反応し、炭素繊維束には直接に接触しないと推定され、炭素繊維の構造が破壊されない。
しかも、本発明で用いる繊維複合材料は、ヤーン集合体中で隣り合うヤーンの間に、Si−SiC系材料からなるマトリックスを充填した微構造を有している。
【0021】
本発明において、Si−SiC系材料とは、主成分としてシリコンと炭化珪素とを含有する材料の総称である。本発明では、C/Cコンポジットまたはその成形体に対して、シリコンを含浸させるが、この際シリコンはコンポジット内の主に炭素繊維以外の炭素成分ないし残炭分と反応し、一部炭化されるために、ヤーン集合体の間には、一部炭化されたシリコンが生成する。このマトリックスにおいては、ほぼ純粋に珪素が残留している珪素相から、ほぼ純粋な炭化珪素相に至るまで、いくつかの中間相を含み得る。つまり、このマトリックスは、典型的には珪素相と炭化珪素相とからなるが、珪素相と炭化珪素相との間に、珪素をベースとして炭素の含有量が傾斜的に変化しているSi−SiC共存相を含み得る。Si−SiC系材料とは、このようなSi−SiC系列において、炭素の濃度が0mol%から50mol%まで変化している材料の総称である。
【0022】
この繊維複合材料は、好ましくは、マトリックスが、ヤーンの表面に沿って生成している炭化珪素相を備えている。この場合には、各ヤーンそれ自体の強度がより一層向上し、破壊しにくくなる。
【0023】
また、この繊維複合材料は、好ましくは、マトリックスが珪素からなる珪素相を備えており、この珪素相とヤーンとの間に炭化珪素相が生成している。この場合には、ヤーンの表面が炭化珪素相によって強化されると共に、マトリックスの中央部分が比較的に硬度の低い珪素相からなることから、微視的な応力分散が一層促進される。
【0024】
また、この繊維複合材料は、好ましくは、マトリックスが、ヤーンの表面から離れるのに従って珪素の含有比率が上昇する傾斜組成を有している。
また、この繊維複合材料は、好ましくは、ヤーン集合体が複数のヤーン配列体を備えており、各ヤーン配列体がそれぞれ複数のヤーンを略平行に二次元的に配列することによって形成されており、各ヤーン配列体が積層されることによってヤーン集合体が構成されている。これによって、繊維複合材料が、複数層のヤーン配列体を一方向へと向かって積層した積層構造を有することになる。
【0025】
この場合において特に好ましくは、隣接するヤーン配列体における各ヤーンの長手方向が互いに交差していることである。これによって、一層応力の分散が促進される。隣り合うヤーン配列体におけるヤーンの長手方向は、特に好ましくは、直交している。
【0026】
また、好ましくは、マトリックスが、繊維複合材料の中で互いに連続することで三次元網目構造を形成している。この場合において特に好ましくは、マトリックスが各ヤーン配列体において略平行に二次元的に配列されており、隣り合う各ヤーン配列体中に生成しているマトリックスが互いに連続しており、これによってマトリックスが三次元格子を形成している。
【0027】
また、隣り合うヤーンの間隙には、100%マトリックスが充填されていても良いが、ヤーンの間隙のうち一部をマトリックスが充填している場合も含む。
【0028】
ヤーン中の炭素繊維以外の炭素成分は、好ましくは炭素粉末であり、特に好ましくは黒鉛化した炭素粉末である。
【0029】
図1は、ヤーン集合体の概念を説明するための概略斜視図であり、図2(a)は図1のIIa−IIa線断面図であり、図2(b)は図1のIIb−IIb線断面図である。図3は、図2(a)の一部拡大図である。
【0030】
繊維複合材料7の骨格は、ヤーン集合体6によって構成されている。ヤーン集合体6は、ヤーン配列体1A、1B、1C、1D、1E、1Fを上下方向に積層してなる。各ヤーン配列体においては、各ヤーン3が二次元的に配列されており、各ヤーンの長手方向が略平行である。上下方向に隣り合う各ヤーン配列体における各ヤーンの長手方向は、直交している。即ち、各ヤーン配列体1A、1C、1Eの各ヤーン2Aの長手方向は、互いに平行であり、かつ各ヤーン配列体1B、1D、1Fの各ヤーン2Bの長手方向に対して直交している。
【0031】
各ヤーンは、炭素繊維と、炭素繊維以外の炭素成分とからなる繊維束3からなる。ヤーン配列体が積層されることによって、三次元格子形状のヤーン集合体6が構成される。各ヤーンは、後述するような加圧成形工程の間に押しつぶされ、略楕円形になっている。
【0032】
各ヤーン配列体1A、1C、1Eにおいては、隣り合う各ヤーンの間隙には、マトリックス8Aが充填されており、各マトリックス8Aはヤーン2Aの表面に沿ってそれと平行に延びている。各ヤーン配列体1B、1D、1Fにおいては、隣り合う各ヤーンの間隙には、マトリックス8Bが充填されており、各マトリックス8Bは、ヤーン2Bの表面に沿ってそれと平行に延びている。
【0033】
本例では、マトリックス8A、8Bは、それぞれ、各ヤーンの表面を被覆する炭化珪素相4A、4Bと、炭化珪素相4A、4Bよりも炭素の含有割合が少ないSi−SiC系材料相5A、5Bからなっている。炭化珪素相中にも珪素を一部含有していてよい。また、本例では、上下方向に隣接するヤーン2Aと2Bとの間にも、炭化珪素相4A、4Bが生成している。
【0034】
各マトリックス8Aと8Bとは、それぞれヤーンの表面に沿って細長く、好ましくは直線状に延びており、各マトリックス8Aと8Bとは互いに直交している。そして、ヤーン配列体1A、1C、1Eにおけるマトリックス8Aと、これに直交するヤーン配列体1B、1D、1Fにおけるマトリックス8Bとは、それぞれヤーン2Aと2Bとの間隙部分で連続している。この結果、マトリックス8A、8Bは、全体として、三次元格子を形成している。
【0035】
図4は、他の実施形態に係る繊維複合材料の要部を概略的に示す部分断面斜視図である。本例では、上下方向に隣り合う各ヤーン2Aと2Bとの間には炭化珪素相が実質的に存在していない。各ヤーン配列体において、隣り合うヤーン2Aと2Aとの間、あるいはヤーン2Bと2Bとの間には、それぞれマトリックス8A、8Bが形成されている。マトリックス8A、8Bの形態は、上下方向に隣り合うヤーン間に炭化珪素相がないことを除けば、図1−図3の例と同様である。各マトリックス8A、8Bは、それぞれ、ヤーン2A、2Bの表面に接して生成している炭化珪素相5Cと、その内側にヤーンとは離れて生成しているSi−SiC系材料相4Cとを備えている。
【0036】
Si−SiC系材料相においては、それぞれ、ヤーンの表面から離れるほど、炭素濃度が少なくなる傾斜組成を有していることが好ましく、あるいは、珪素相からなっていることが好ましい。
【0037】
図5(a)に示すように、本発明の繊維複合材料11は、C/Cコンポジット15と、C/Cコンポジット15の表面にシリコンが含浸されることによって生成する繊維複合材料層13とを備えていることが好ましく、繊維複合材料層13上に珪素層14が生成していてよい。なお、12は、珪素を含浸させる前のC/Cコンポジット本体の範囲を示す。また、図5(b)に示すように、部材16の全体を、本発明の繊維複合材料で形成することも好ましい。
【0038】
繊維複合材料層13を設ける場合には、その厚さは、0.01〜1mmであることが好ましい。さらに、繊維複合材料層におけるSi濃度が、炭素繊維表面から外部に向かって大きく成ることが好ましい。
【0039】
本発明で用いる繊維複合材料は、炭素繊維を10〜70重量%含有していれば、例えば窒化ホウ素、ホウ素、銅、ビスマス、チタン、クロム、タングステン、モリブデン等の炭素以外の他の元素を含んでいてもよい。
【0040】
ここで、Si−SiC系材料を母材に含浸させて成る繊維複合材料の層13の厚さについて更に詳述する。
層13は、図2(a)では、例えば、炭素繊維束3と炭化珪素相4Bと珪素相5Bとの関係で言えば、C/Cコンポジット15が炭素繊維束3に、層13が炭化珪素相4Bに、珪素層14が珪素相5Bに相当する。
ここで、層13は、厚さが0.01mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましい。また、その最大厚さは1mm程度である。この時の層13におけるSi濃度は、炭素繊維束3の部分から炭化珪素相4Bを通り、珪素相5Bの部分にかけて0/100〜90/100の範囲で傾斜するように形成することが好ましい。
また、例えば、200mm厚さのブロックを想定した場合の巨視的な見方をしたSi濃度の傾斜を詳述する。
本発明は、炭素繊維束の積層体にSiを含浸させて構成するため、Siが200mm厚さのブロックの中心は低濃度となり、表層側は高濃度の形態を取り得る。このために最も好ましい形態は、C/Cコンポジット成形体あるいは焼結体の開気孔率を表面から内部に向かって小さくなるように、バインダーピッチの異なるプリフォームドヤーンから成る複数のプリフォームドシートを内側から表層側に向かってバインダーピッチが大きくなるように配置し成形することで実現する。こうすることによって、図2(a)の場合で考えれば、ヤーン配列体1A層の炭化珪素相4A>ヤーン配列体1B層の炭化珪素相4A>ヤーン配列体1C層の炭化珪素相4A>ヤーン配列体1D層の炭化珪素相4A、という具合にSiCの濃度(=Siの濃度)が低下し、Si濃度が傾斜していく。故に、巨視的に材料を見れば、最大100mm程度の厚さの中でSi濃度が傾斜していく。そのSi濃度は表面から内部にかけて90/100〜0/100の範囲で傾斜するように形成することが好ましい。
【0041】
又、本発明で用いる繊維複合材料は、上記のように、窒化ホウ素、ホウ素、銅、ビスマス、チタン、クロム、タングステン及びモリブデンから成る群より選択した1又は2以上の物質を含有してもよい。
【0042】
これらの物質は潤滑性を有するため、C/Cコンポジットから成る母材に含有させることにより、Si−SiC系材料が含浸した母材の部分においても、繊維の潤滑性を維持することができ、物性の低下を防ぐことができる。
【0043】
尚、例えば、窒化ホウ素の含有量は、C/Cコンポジットから成る母材100重量%に対し、0.1〜40重量%であることが好ましい。0.1重量%未満では窒化ホウ素による潤滑性付与の効果が十分に得られず、40重量%を超える場合は窒化ホウ素の脆さが複合材料に現れてくるからである。
【0044】
本発明で用いる繊維複合材料は、好ましくは以下の方法によって製造できる。
即ち、炭素繊維の束に対して、最終的にマトリックスとなる粉末状のバインダーピッチ、コークス類を包含させ、更に必要に応じてフェノール樹脂粉末等を含有させることによって、炭素繊維束を作製する。炭素繊維束の周囲に、熱可塑性樹脂等のプラスチックから成る柔軟な被膜を形成し、柔軟性中間材料を得る。この柔軟性中間材料を、ヤーン状にし(特願昭63−231791号明細書)、必要量を積層した後、ホットプレスで300〜2000℃、常庄〜500kg/cm2の条件下で成形することによって、成形体を得る。または、この成形体を、必要に応じて700〜1200℃で炭化させ、1500〜3000℃で黒鉛化して、焼結体を得る。
【0045】
炭素繊維は、石油ピッチ若しくはコールタールピッチを原料とし、紡糸用ピッチの調整、溶融紡糸、不融化及び炭素化して得られるピッチ系炭素繊維並びにアクリロニトリル(共)重合体繊維を耐炎化及び炭素化して得られるPAN系炭素繊維のいずれのものでもよい。
【0046】
マトリックスの形成に必要な有機バインダーとしては、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂及びタール、ピッチ等が用いられるが、これらはコークス類、金属、金属化合物、無機及び有機化合物等を含んでいてもよい。有機バインダーの一部が炭素源となる場合もある。
【0047】
次いで、上記のように作製された成形体又は焼結体とSiとを、1100〜1400℃の温度域、炉内圧0.1〜10hPaで1時間以上保持する。好ましくは、この際、成形体又は焼結体とSiの合計重量1kg当たり0.1NL(ノルマルリットル:1200℃、圧力0.1hPaの場合、5065リットルに相当)以上の不活性ガスを流しつつ、成形体又は焼結体表面にSi−SiC層を形成する.次いで、温度1450〜2500℃、好ましくは1700〜1800℃に昇温して前記成形体又は焼結体の開気孔内部へSi−SiC系材料を溶融、含浸成形させる。又、この過程において、成形体を用いた場合は、前記成形体の焼成も行われ、繊維複合材料が生成する。
【0048】
成形体又は焼結体とSiを、1100〜1400℃の温度、0.1〜10hPaの圧力に1時間以上保持し、かつその際、成形体又は焼結体とSiの合計重量1kg当たり不活性ガスを0.1NL以上、好ましくは1NL以上、さらに好ましくは10NL以上流すように制御することが望ましい。
【0049】
このように、焼成時(即ち、Siの溶融、含浸前の段階)不活性ガス雰囲気にすることにより、無機ポリマーないし無機物のセラミックス化への変化に伴うCO等の発生ガスを焼成雰囲気より除去し、また大気中のO2等による外部からの焼成雰囲気の汚染を防止することにより、その後にSiを溶融、含浸して得られる繊維複合材料の気孔率を低く維持することができる。
【0050】
また、成形体又は焼結体へSiを溶触、含浸する際には、雰囲気温度を1450〜2500℃、好ましくは1700〜1800℃に昇温する。この場合、焼成炉内圧は0.1〜10hPaの範囲が好ましい。更に、炉内雰囲気は不活性ガスまたはArガスであることが好ましい。
【0051】
上記のように、柔軟性中間材料を使用し、珪素の含浸、溶融と組み合わせると、成形体または焼結体において、ヤーンの間隙には細長い開気孔が残り、この細長い開気孔に沿って珪素が焼結体または成形体の奥まで浸透する。この浸透の過程で、珪素がヤーンの炭素と反応してヤーン表面側から徐々に炭化し、繊維複合材料を生成する。
【0052】
繊維複合材料全体における、Si−SiC系材質の濃度傾斜の調節は、成形体又は焼結体の開気孔率及びその細孔径により行う。例えば、繊維複合材料の表層から0.01〜10mmで、Si−SiC系材質の濃度を他所よりも高める場合には、成形体又は焼結体の当該所望高濃度部分における開気孔率を5〜50%、平均細孔径を1μm以上とし、当該所望高濃度以外の部分の開気孔率、平均細孔径を該高濃度部分以下とする。また、好ましくは、成形体又は焼結体の当該所望高濃度部分における開気孔率は10〜50%、平均細孔径は10μm以上とし、当該所望高濃度以外の部分の開気孔率、平均細孔径を該高濃度部分以下とする。開気孔率を5%未満とすると、成形体又は焼結体中のバインダーが除去し難く、50%より大きくすると、所望部位以外へのSi−SiC系材質の浸透が、Siの量や、接触時間等の他の製造方法パラメータの制御範囲を超えて進行してしまうからである。
【0053】
また、繊維複合材料層をC/Cコンポジットの表面に形成するには、少なくとも表面近傍の開気孔率が焼結中に0.1〜30%になるように調整した成形体を用いることが好ましい。
【0054】
成形体又は焼結体の開気孔率を、表面から内部に向かって小さくなるようにするには、バインダーピッチの異なるブリフォームドヤーンから成る複数のブリフォームドシートを、内側から表層側に向かってバインダーピッチが大きくなるように配置して成形することにより行う。
【0055】
又、繊維複合材料層における珪素濃度に傾斜を設ける場合には、表面近傍の開気孔率が表面から内部に向かって小さくなるように調整した焼結体、又は少なくとも表面近傍の開気孔率が焼結中に表面から内部に向かって小さくなるように調整した成形体を用いて、繊維複合材料の製造を行う。
【0056】
このように作製された繊維複合材料の表面に溶射層を形成することにより、本発明の複合材を製造することができる。
図6は本発明の複合材の一例を示す断面図であり、基本材料である繊維複合材料11は、C/Cコンポジット15と、C/Cコンポジット15の表面にシリコンが含浸されることによって生成する繊維複合材料層13とを備え、さらに、繊維複合材料層13上に珪素層14が生成されて構成されている。そして、繊維複合材料11の表面層である珪素層14の上に溶射層17を形成して、本発明の複合材が構成される。
【0057】
次に、本発明の複合材に用いるC/Cコンポジットは、C/CコンポジットのX−Y方向のC.T.E.(熱膨張係数)とY−Z方向のC.T.E.の比が、1:1〜1:5の範囲にあり、且つY−Z方向のC.T.E.が1×10−6/℃〜5×10−6/℃であることが好ましい。
これは、C/Cコンポジットを母材として作製された繊維複合材料の表面に、単に溶射コーティングするだけでは、母材の側面のY−Z方向のC.T.E.が大きく、溶射層とのC.T.E.差が生じるため、母材の側面のX−Y方向とY−Z方向のコーナー部を中心に溶射層の剥離が生じ易くなるからである。
従って、上記のようなC.T.E(熱膨張係数)比及び範囲であることが好ましい。
【0058】
また、本発明の複合材における溶射層の厚さは、10〜2000μmであることが好ましい。
これは、溶射層の厚さが10μm以上にすることにより、繊維複合材料表面への付着性に優れ、一定の高温酸素含有雰囲気下での使用が可能であり、また溶射層の厚さが2000μm以下にすることにより、繊維複合材料と溶射層間のC.T.E差による剥離を抑制することができるからである。
【0059】
また、上記溶射層の主成分は、Al2O3,ZrO2,MgO,CaO,TiO2のいずれかであることが好ましく、更に溶射層の固着させる点で、ZrO2であることがより好ましい。
尚、ZrO2を用いる場合は、Y,Ca,Mg等で安定化したものでもよい。
【0060】
このように、本発明の複合材は、母材であるC/Cコンポジットの耐衝撃性、高硬度性及び軽量性と、含浸材であるSi−SiC系材料の低摩擦係数、耐酸化性、耐スポーリング性、自己潤滑性、耐磨耗性等に加え、溶射層による耐(粉末−製品−薬品−薬液−雰囲気)反応性を併せ持ち、さらに、母材には自己修復性をも有するため、高温酸化条件下での使用に長期間耐えることができ、具体的には、自動車、航空機、宇宙、海洋、半導体、電子等の分野において用いることができる複合材、例えばフェライト、コンデンサー等の焼成用治具、セラミック粉末の熱処理用容器、熱硫酸用るつぼ等に好適に用いることができる。
【0061】
更に、溶射コーティングを確実に行うために、繊維複合材料の表面をなめらかにする研磨加工やNiメッキを行ってもよい。
【0062】
本発明の複合材の製造方法では、溶射層を繊維複合材料の表面に強固に固着させることができるため、溶射前に予め、繊維複合材料を大気雰囲気下、200〜800℃で1〜24Hr程度の間、酸化処理(仮焼)を行い、繊維複合材料の表面に均一な凹凸を形成することができる。
尚、酸化処理温度(仮焼温度)が、200℃未満の場合、酸化処理時間が24Hr以上必要となるため、経済的でなく、一方、酸化処理温度(仮焼温度)が、800℃を超過した場合、酸化処理時間が短すぎるため、繊維複合材料の表面に均一な凹凸を形成することが困難である。
【0063】
次に、上記のように作製された繊維複合材料の表面に溶射材を溶射して溶射層の形成を行う。
これにより、繊維複合材料の表面に溶射層による耐(粉末−製品−薬品−薬液−雰囲気)反応性が付与され、母材として用いられるC/Cコンポジットの有する低耐酸化性を克服することができるだけでなく、繊維複合材料の問題点であった硬度の低さも改善することができるため、耐摩耗性もより向上させることができる。
【0064】
ここで、溶射法とは、金属、またはセラミックス等の溶射材を溶融し、これを圧縮空気または、圧縮不活性ガスの推進力で基材に吹き付けてセラミックス被膜を形成する技術である。
【0065】
本発明で用いる溶射方法は、特に限定されないが、プラズマ溶射で行うことが好ましい。
例えば、1次ガスにAr、2次ガスにH2を用いて、500Ampの電流で、含浸焼成体(基材)にプラズマ溶射を行う場合、溶射距離が50〜300mmであることが好ましく、100〜200mmであることがより好ましく、100〜150mmであることが更に好ましい。
【0066】
このとき、本発明で使用する溶射材は、Al2O3,ZrO2,MgO,CaO,TiO2のいずれかを含有することが好ましく、更に溶射層の固着させる点で、ZrO2であることがより好ましい。
尚、ZrO2を用いる場合は、Y,Ca,Mg等で安定化したものでもよい。
【0067】
【実施例】
次に、本発明を実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
尚、各例によって得られた複合材料は、以下に示す方法よりその特性を評価した。
【0068】
(基材の表面粗さ(Ra)および平面度の測定法)
表面粗さ(Ra)および平面度を、サーフコム550A(東京精密製)を用いて、5mm長さで3点行なった時の平均値として測定した。
ここで、表面粗さ(Ra)とは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さlだけ抜取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0069】
【数1】
【0070】
(溶射層の付着状態の評価方法)
複合材の溶射層表面にガムテープを貼り付けた後、ガムテープをはがし、溶射層が複合材から剥離しないかどうかを評価した。
尚、ガムテープは、株式会社スリオンテック製布粘着テープNo3310(JIS Z1524 1種2号 許可番号387030号)を用いた。
【0071】
(熱履歴後の溶射層の剥離およびチッピングの評価方法)
複合材を500℃に保持した炉に入れ、15分間保持した後、炉外に引き出して、大気中に15分間放置する操作を20回繰り返し、溶射層の剥離およびチッピングの有無を評価した。
【0072】
(開気孔率の測定方法)
開気孔率(%)=[(W3−W1)/( W3−W2)]×100
(アルキメデス法による。)
乾燥重量(W1):100℃のオーブンで1Hr乾燥させ、その後秤量
水中重量(W2):試料を煮沸し、開気孔中に完全に水を侵入させて水中にて秤量
飲水重量(W3):開気孔中に完全に水を侵入させた試料を大気中にて秤量
【0073】
(耐酸化性の評価方法)
テストピースを1150℃の炉内(1%O2、99%N2)へ放置し、200時間後の重量の減少率を測定することにより、耐酸化性を評価した。
【0074】
(圧縮強さの評価方法)
テストピースに圧縮荷重を加え、下記の式により算出した。
圧縮強さ=P/A
(式中、Pは最大荷重時の荷重、Aはテストピースの最小断面積を表す。)
【0075】
(層間セン断強さの評価方法)
テストピースの厚さhの4倍の距離を支点間距離として3点曲げを行い、下式により算出した。
層間セン断強さ=3P/4bH
(式中、Pは破壊時の最大曲げ荷重、bはテストピースの幅を表す。)
【0076】
(曲げ弾性率の評価方法)
テストピースの厚さhの40倍の距離を支点間距離Lとして3点曲げを行い、荷重−たわみ曲線の直線部の初期の勾配P/σを用いて、下式により算出した。
曲げ弾性率=1/4・L3/bh3・P/σ
(式中、bはテストピースの幅を表す。)
【0077】
(自己修復性の評価方法)
Max:20MPa〜Min:5MPaの繰返し応力を10万回印加し、内部にマイクロクラックを発生させた後、900℃で2時間アニールし、圧縮強度の測定を行った。
【0078】
(動摩擦係数の評価方法)
テストピースをジグにセットして回転させ、相手材(SUJ、10mm球)を一定の荷重Fp(N)でテストピースに押し付け、その際の摩擦力Fs(N)を測定した。動摩擦係数の値は下式により算出した。
摩擦係数μ=Fs/Fp
【0079】
(比摩耗量の評価方法)
テストピースをジグにセットして回転させ、相手材(SUJ、10mm球)を一定の荷重Pでテストピースに押し付け、試験前の重量Wa(mg)と試験後の重量Wb(mg)を測定した。テストピースの密度ρ(g/cm3)より、摩耗量V(mm3)を下式により算出した。
V=(Wa−Wb)/ρ
比摩耗量Vs(mm3/(N・km))は、摩耗量V(mm3)、試験荷重P(N)及び摺動距離L(km)より、下式にて算出した。
Vs=V/(P・L)
【0080】
(実施例1) 10mmの厚さを有するC/Cコンポジット母材に、Si−SiC材料から成る層を配した含浸焼成体(基材)を製造し、これを用いて複合材を製造した。配したSi−SiC材料母材に含浸成形させる層の表面からの厚さは50μmとした。尚、Si含浸率は40%とした。
【0081】
C/Cコンポジットは以下の方法にて製造した。
炭素繊維を一方向に引き揃えたものにフェノール樹脂を含浸させることで、直径10μmの炭素長繊維を約1万本束ね、繊維束(ヤーン)を得、このヤーンを図1のように配列し、プリプレグシートを得た。次いで、このプリプレグシートを50段積層し、ホットプレスで180℃、10kg/cm2で処理し、フェノール樹脂を硬化させた。次いで、窒素中2000℃で焼成し、C/Cコンポジットを得た。得られたC/Cコンポジットの密度は1.0g/cm3、開気孔率は50%であった。
【0082】
次に、得られたC/Cコンポジットを、純度99.8%で平均粒径1mmのSi粉末で充填されたカーボンるつぼ内に立設した。次いで、焼成炉内にカーボンるつぼを移動した。焼成炉内の温度を1300℃、不活性ガスとしてアルゴンガス流量を20NL/分、焼成炉内圧を1hPa、その保持時間を4時間として処理した後、焼成炉内の圧力をそのまま保持しつつ、炉内温度を1600℃に昇温することにより、C/CコンポジットにSiを含浸させ、繊維複合材料を製造した。
得られた繊維複合材料の密度、開気孔率、層間セン断強さ、圧縮強さ、曲げ弾性率などの測定結果を表1に示す。尚、各データは、Si−SiC系材料とC/Cコンポジットが十分複合化している繊維複合材料の表面近傍から切り出したテストピースについてのものである。
【0083】
次に、繊維複合材料の表層近傍から切り出したテストピースを、平面研削盤により縦60mm、横60mm、厚さ60mmの大きさに切断加工した後、800#砥石で平面研削仕上げを行った。
尚、溶射前の繊維複合材料(テストピース)の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
【0084】
次に、上記繊維複合材料の表面にY安定化ZrO2を150μm溶射することにより、複合材を製造した。
ここで、繊維複合材料への溶射は、C/Cコンポジットの側面のY−Z方向に行った。得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
【0085】
(実施例2) 実施例1と同様の繊維複合材料を、大気雰囲気下で400℃×2Hrで加熱処理した後、上記繊維複合材料の表面にY安定化ZrO2を100μm溶射することにより、複合材を製造した。
尚、溶射前の繊維複合材料の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、繊維複合材料(テストピース)への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Yで行った。
【0086】
(実施例3) 実施例1と同様の繊維複合材料を、大気雰囲気下で500℃×2Hrで加熱処理後、上記繊維複合材料の表面に20μmのNiメッキを無電解で行った後、Y安定化ZrO2を300μm溶射することにより、複合材を製造した。
尚、溶射前の繊維複合材料の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、繊維複合材料への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Yで行った。
【0087】
(実施例4) 実施例1と同様の繊維複合材料を、大気雰囲気下で500℃×3Hrで加熱処理した後、上記繊維複合材料の表面にY安定化ZrO2を500μm溶射することにより、複合材を製造した。
尚、溶射前の繊維複合材料の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、繊維複合材料への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Y及び一部の繊維の積層方向に対して、垂直な方向Y−Zで行った。
【0088】
(実施例5) 10mmの厚さを有するC/Cコンポジット母材に、Si−SiC材料から成る層を配した繊維複合材料を製造し、これを用いて複合材を製造した。配したSi−SiC系材料をC/Cコンポジット母材に含浸成形させる層の表面からの厚さは100μmとした。尚、上記繊維複合材料は、実施例1と同様の製造方法で製造したものであり、Si含浸率は40%とした。
尚、溶射前の繊維複合材料の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
【0089】
次に、上記繊維複合材料の表面にAl2O3を10μm溶射することにより、複合材を製造した。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、繊維複合材料への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Yで行った。
【0090】
(実施例6) 実施例5と同様の繊維複合材料を、大気雰囲気下で200℃×5Hrで加熱処理した後、上記繊維複合材料の表面にMgOを100μm溶射することにより、複合材を製造した。
尚、溶射前の繊維複合材料の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、繊維複合材料への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Yで行った。
【0091】
(実施例7) 実施例5と同様の繊維複合材料を、大気雰囲気下で500℃×2Hrで加熱処理した後、上記繊維複合材料の表面にTiO2を1000μm溶射することにより、複合材を製造した。
尚、溶射前の繊維複合材料の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、繊維複合材料への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Y及び一部の繊維の積層方向に対して、垂直な方向Y−Zで行った。
【0092】
(実施例8) 実施例5と同様の繊維複合材料を、大気雰囲気下で800℃×1Hrで加熱処理した後、上記繊維複合材料の表面にCaOを2000μm溶射することにより、複合材を製造した。
尚、溶射前の繊維複合材料の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、繊維複合材料への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Y及び一部の繊維の積層方向に対して、垂直な方向Y−Zで行った。
【0093】
(比較例1) 複合材の基材として、Si−SiC材料を平面研削盤により縦60mm、横60mm、厚さ60mmの大きさに切断加工した後、800#砥石で平面研削仕上げしたものを用い、大気雰囲気下で500℃×3Hr、加熱処理した後、上記基材の表面にY安定化ZrO2を500μm溶射することにより、複合材を製造した。
尚、溶射前の基材の平面粗さ(Ra)および平面度は、表2に示す通りである。
得られた複合材の溶射層の付着状態、熱履歴後の溶射層の剥離とチッピングの結果を表3に示す。
ここで、基材への溶射は、繊維の積層方向に対して、平行な方向X−Y及び一部の繊維の積層方向に対して、垂直な方向Y−Zで行った。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
(考察:実施例1〜8、比較例1)
表1の結果から、比較例1は、基材に形成された溶射層の付着状態が悪く(1.5cm2の剥離)、熱衝撃における溶射層の剥離(1.5cm2以下)およびチッピング(0.5cm2以下)が発生していることが判明した。
これは、基材として繊維複合材料ではなく、Si−SiC材料を用いているため、基材と溶射層とのC.T.E.(熱膨張係数)が大きいためであると考えられる。
【0098】
一方、実施例1〜8は、熱衝撃における溶射層のチッピングが無く、また、実施例1〜7は、基材に形成された溶射層の付着状態が良好(剥離なし)であり、熱衝撃における溶射層の剥離が無いことが判明した。
尚、実施例8は、基材に形成された溶射層の付着状態(0.5cm2以下の剥離)にやや問題があり、熱衝撃における溶射層の剥離(0.5cm2以下の剥離)が多少あるが、実用面では差し支えないと思われる。
【0099】
以上のことから、実施例1〜8のように、C/Cコンポジットから成る母材にSi−SiC系材料から成るマトリックスを配した繊維複合材料の表面に溶射層を形成するとともに、溶射層の厚さを10〜2000μmに制御することにより、繊維複合材料表面への付着性に優れ、一定の高温酸素含有雰囲気下での使用が可能であり、繊維複合材料と溶射層間のC.T.E差による剥離を抑制することができることが判明した。
【0100】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の複合材によれば、母材であるC/Cコンポジットの耐衝撃性、高硬度性及び軽量性と、含浸材でマトリックスを形成するSi−SiC系材料の低摩擦係数、耐酸化性、耐スポーリング性、自己潤滑性、耐磨耗性等に加え、溶射層による耐(粉末−製品−薬品−薬液−雰囲気)反応性を併せ持ち、さらに、母材は自己修復性をも有するため、高温酸化条件下での使用に長期間耐えることができる。
【0101】
また、C/Cコンポジットを母材としていることから、軽量であり、比熱が小さいこととも相まって、エネルギーの損失が少なく、省エネルギーの要請にも沿う。
更に、母材がC/Cコンポジットであるため、靱性に富み、優れた耐衝撃性、高硬度性を有する。従って、従来のセラミックスの有する低耐衝撃性という欠点を克服することができ、複雑な形状や薄肉部分を有する複合材にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いる繊維複合材料のヤーン集合体の形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明で用いる繊維複合材料の要部の微構造を模式的に示す断面図で、(a)は図1のIIa−IIa線断面図、(b)は図1のIIb−IIb断面図である。
【図3】図2(a)の一部拡大図である。
【図4】他の実施形態に係る繊維複合材料の微構造を模式的に示す部分断面斜視図である。
【図5】(a)は繊維複合材料11を示す断面図で、(b)は繊維複合材料16を示す断面図である。
【図6】本発明の複合材の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1A,1B,1C,1D,1E,1F…ヤーン配列体、2A,2B…ヤーン、3…炭素繊維束、4A,4B…炭化珪素相、5A,5B…珪素相、6…ヤーン集合体、7…繊維複合材料、11,16…繊維複合材料、13…繊維複合材料層、15…C/Cコンポジット、17…溶射層。
Claims (15)
- 少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分とを含有するヤーンが三次元的に組み合わされ、互いに分離しないように一体化されているヤーン集合体と、このヤーン集合体中で隣り合う前記ヤーンの間に充填され、前記炭素繊維以外の炭素成分がシリコンと反応して一部珪化され、炭素相、珪素相、中間相及び炭化珪素相を含むSi−SiC系材料からなるマトリックスとを備えた繊維複合材料の表面に溶射層を形成することを特徴とする溶射層を有する複合材。
- 前記マトリックスが、前記ヤーンの表面に沿って生成している炭化珪素相を有している請求項1記載の溶射層を有する複合材。
- 前記マトリックスが珪素からなる珪素相を有しており、この珪素相と前記ヤーンとの間に前記炭化珪素相が生成している請求項2記載の溶射層を有する複合材。
- 前記マトリックスが、前記ヤーンの表面から離れるに従って珪素の含有比率が大きくなる傾斜組成を有している請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶射層を有する複合材。
- 前記ヤーン集合体が複数のヤーン配列体を備えており、各ヤーン配列体がそれぞれ複数の前記ヤーンを略平行に二次元的に配列することによって形成されており、前記各ヤーン配列体が積層されることによって前記ヤーン集合体が構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶射層を有する複合材。
- 隣接する前記ヤーン配列体における各ヤーンの長手方向が互いに交差している請求項5記載の溶射層を有する複合材。
- 前記マトリックスが、前記繊維複合材料の中で互いに連続することで三次元網目構造を形成している請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶射層を有する複合材。
- 前記マトリックスが前記各ヤーン配列体において略平行に二次元的に配列されており、隣り合う前記各ヤーン配列体中に生成している前記マトリックスが互いに連続しており、これによって前記マトリックスが三次元格子を形成している請求項7記載の溶射層を有する複合材。
- 溶射層の厚さが、10〜2000μmである請求項1〜8のいずれか1項に記載の溶射層を有する複合材。
- 溶射層の主成分が、Al2O3、ZrO2、Mg0、CaO、及びTiO2のいずれかである請求項1〜9のいずれか1項に記載の溶射層を有する複合材。
- 炭素繊維の束に、最終的にマトリックスとなる粉末状の炭素成分を包含させることにより炭素繊維束を作製した後、前記炭素繊維束の周囲にプラスチック製被膜を形成して中間材料とし、次いでこの中間材料をヤーン状にして所定量を積層した後成形して成形体を得るか、あるいはこの成形体を焼結して焼結体を得た後、この成形体又は焼結体とSiを、不活性ガス雰囲気下にて1100〜1400℃の温度に保持し、次いで、前記成形体又は焼結体とSiを、1450〜2500℃の温度に昇温することにより、前記成形体又は焼結体の開気孔内部へSiを含浸させ、その一部を炭素成分と反応させ、Si−SiCマトリックスを形成して繊維複合材料を作製し、次いで前記繊維複合材料の表面に溶射材を溶射して溶射層を形成することを特徴とする溶射層を有する複合材の製造方法。
- 前記成形体又は焼結体とSiを、1100〜1400℃の温度、0.1〜10hPaの圧力に1時間以上保持し、かつその際、前記成形体又は焼結体とSiの合計重量1kg当たり不活性ガスを0.1ノルマルリットル(NL)以上流すように制御する請求項11記載の溶射層を有する複合材の製造方法。
- 前記成形体又は焼結体とSiを、0.1〜10hPaの圧力下、1450〜2500℃の温度に昇温する請求項11又は12記載の溶射層を有する複合材の製造方法。
- 前記繊維複合材料を、大気雰囲気下、200〜800℃で仮焼した後、前記繊維複合材料の表面に溶射材を溶射して溶射層を形成することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の溶射層を有する複合材の製造方法。
- 溶射材が、Al2O3、ZrO2、MgO、CaO、及びTiO2のいずれかを含有する請求項11〜14のいずれか1項に記載の溶射層を有する複合材の製造方法。
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