JP3561026B2 - 磁気抵抗効果ヘッド - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、磁気記録装置やVTR等に用いられる磁気抵抗効果ヘッドに係り、さらに詳しくは差動動作型の磁気抵抗効果ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、記録トラック幅の減少や記録波長の高周波化によって、磁気記録装置例えばハードディスク装置等の記録密度の向上が図られている。記録トラック幅が狭まると、磁気記録媒体からの信号磁束量が減少するため、より高感度な再生ヘッドが必要となる。このような高感度再生ヘッドとして、磁気抵抗効果ヘッド(以下、MRヘッドと記す)が注目されている。
【0003】
特にMRヘッドのうちでも、異方性磁気抵抗効果(以下、AMRと記す)を利用したMRヘッドに比べて抵抗変化率が大きい、いわゆる巨大磁気抵抗効果(以下、GMRと記す)を利用したMRヘッド(GMRヘッド)が将来の高感度再生を可能にする磁気ヘッドとして有望視されている。
【0004】
一方、現在主流であるシールド型MRヘッドで線記録分解能を向上させるためには、高透磁率を有するシールド層とMRエレメントとの間隔、すなわちギャップ間隔を狭める必要がある。しかし、この場合にシールド層とMRエレメント間の電気的な絶縁を保った上で、ギャップ間隔を例えば 0.1μm 以下というように狭めることは著しく困難である。このように、シールド型MRヘッドでは線記録分解能の向上に限界が生じている。
【0005】
そこで、非磁性中間層を介して 2つのMRエレメントを積層した、いわゆるデュアルエレメントタイプのMRヘッドが提案されている。このデュアルエレメントタイプのMRヘッドは、 2つのMRエレメントに磁気記録媒体から同方向の信号磁界が印加された場合には抵抗が変化せず、逆方向の信号磁界が印加された場合にのみ抵抗が変化することを利用した、いわゆる差動動作型の出力応答を示す再生ヘッドである。差動動作型MRヘッドでは、非磁性中間層の厚さで再生分解能が規定されるが、シールド型MRヘッドとは異なり、 2つのMRエレメント間を電気的に絶縁する必要はなく磁気的な絶縁のみでよい。従って、差動動作型MRヘッドでは、非磁性中間層の厚さを著しく薄く、例えば10nm以下程度にすることができる。その結果、著しく高い線記録密度の再生が可能となる。
【0006】
従来の差動動作型MRヘッドとしては、略同一の磁気抵抗効果特性(MR特性)を有するAMRエレメントを 2つ用いたものが知られている。AMRエレメントを用いた場合には、それらの磁化をトラック幅方向から約 +45°と −45°というように、反対方向に回転させる動作点バイアス磁界を印加する。これにより、差動動作型MRヘッドが実現できる。
【0007】
しかし、AMRエレメントを用いた従来の差動動作型MRヘッドでは、非磁性中間層の厚さを薄くすると、信号磁界(媒体磁界)がMRエレメントの上部にまで流入されないため、近い将来にAMRエレメントを用いた差動動作型MRヘッドでは感度が不十分になることが予測される。さらに、上記したような動作点バイアス磁界を印加しなければならないため、その付与や調整が繁雑であるという問題を有している。
【0008】
また、AMRエレメントを用いた差動動作型MRヘッドの構造としては、 2つのAMR層を非磁性中間層を介して積層し、上側のAMR層上にセンス電流を供給する一対の電極を形成することが一般的である。ここで、AMRエレメントでは、電流と磁化の成す角度が重要である。このため、差動動作型MRヘッドにおいて、 2つのAMRエレメントのMR特性を略同一とするためには、 2つのAMR層自体の特性を揃えるだけでなく、 2つのAMR層間で供給されるセンス電流の方向に角度が生じないことが必要となる。しかし、上記したような電極が一方のAMR層に積層して形成された構造の場合、上側のAMR層と下側のAMR層とで電流分布(方向等)に差が生じ、 2つのAMR層の間でセンス電流の方向に角度が生じやすい。従って、 2つのAMR層に同方向磁界が加わった場合にも抵抗変化が生じ、信号として出力されてしまうおそれがあり、このような信号の誤検出によるノイズ発生も問題となっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の差動動作型MRヘッドは、 2つのAMRエレメントを用いていたため、信号磁界の侵入深さが浅くなることや 2つのAMR層の間で電流方向に傾きが生じること等に起因して感度が低下しやすいという問題や、動作点バイアス磁界の付与や調整が繁雑であるという問題を有していた。
【0010】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、線分解能(再生分解能)の向上を図った上で、高感度および高S/N比を高信頼性の下で実現した差動動作型の磁気抵抗効果ヘッドを提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段と作用】
本発明の磁気抵抗効果ヘッドは、一対のスピン依存散乱能を有する強磁性層と、前記一対の強磁性層間に介在された非磁性中間層とを有し、信号磁界が零の状態で前記一対の強磁性層の磁化が同一方向を向くように、前記一対の強磁性層間に前記非磁性中間層を介して強磁性的な結合力が働いている積層構造を有し、前記一対の強磁性層に同方向の信号磁界が印加される場合には信号磁界が零の状態から抵抗が変化せず、前記一対の強磁性層に互いに逆方向の信号磁界が印加される場合に前記一対の強磁性層の磁化の成す角度が変化することに基いて信号磁界が零の状態から抵抗が変化する磁気抵抗効果素子部を具備する差動動作型の磁気抵抗効果ヘッドであって、前記磁気抵抗効果素子部の前記一対の強磁性層の磁化の成す角度の変化による巨大磁気抵抗効果に基く抵抗変化を利用して信号磁界を検出することを特徴としている。
【0012】
なお、本発明における非磁性中間層は、強磁性材料はもちろん反強磁性材料で構成される場合も除外されるものとする。
【0013】
本発明の差動動作型MRヘッドは、一対のスピン依存散乱能を有する強磁性層(以下、GMR強磁性層と記す)と、この一対のGMR強磁性層間に配置されたスピン依存散乱に適した低抵抗の非磁性中間層(以下、GMR非磁性中間層と記す)との積層構造を、スピン依存散乱による巨大磁気抵抗効果を示す磁気抵抗効果素子部(以下、GMR素子部と記す)として機能させるものである。
【0016】
本発明においては、一対のGMR強磁性層間に強磁性的な結合力を発生させ、2つのGMR強磁性層の磁化を信号磁界が零の状態で略同一方向に揃えることが望ましい。2つのGMR強磁性層間の強磁性的な結合力は、非磁性中間層の層厚を制御することにより必要な値に調整することができる。なお、バイアス磁界を印加して磁化方向を揃えるようにしてもよい。バイアス磁界は、GMR素子部にCoPt膜等からなる硬質強磁性膜やFeMn膜やNiO膜等からなる反強磁性膜を近接配置または積層することにより付与することができる。
【0017】
なお、強磁性層と非磁性中間層とを交互に積層し、強磁性層間の反強磁性的結合を利用する、これまでの一般的なGMR多層膜では、信号磁界が零の状態では強磁性層の磁化が反強磁性的に配列している。そして、全ての強磁性層に同方向の信号磁界が加わる場合に、強磁性的な磁化配列に向けて磁化が回転し、その結果として抵抗が変化するため、差動動作的な信号磁界の検出は期待できない。
【0018】
また、本発明の差動動作型MRヘッドにおけるGMR強磁性層は、信号磁界を検出する信号磁界検出用強磁性層を兼ねていてもよいが、GMR強磁性層とは別途に、それらの外側にそれぞれ信号磁界検出用強磁性層を配置した構造とすることが好ましい。すなわち、GMR強磁性層/非磁性中間層/GMR強磁性層の積層構造をGMR素子部とし、その外側にそれぞれ信号磁界検出用強磁性層を配置した構造である。この際、GMR強磁性層と信号磁界検出用強磁性層とは、交換結合していることが好ましい。
【0019】
上記した信号磁界検出用強磁性層には、GMR強磁性層より高透磁率を有する強磁性材料を用いることが好ましい。また、一対の信号磁界検出用強磁性層を媒体対向面に突出形成し、GMR素子部を媒体対向面から後退させることが好ましい。これらにより、上記積層構造を有するGMR素子部を実質的なギャップとして機能させることができる。このような場合、GMR素子部が実質的なギャップとして機能することを考慮してGMR素子部の厚さを設定する。例えば、 4〜 10Gb/in2 程度の高記録密度を達成する場合には、GMR素子部の厚さを10〜 100nm程度とすることが好ましい。
【0020】
さらに、信号磁界検出用強磁性層としては、GMR強磁性層より高抵抗を有するもの、具体的には 100μΩcm以上の抵抗率を有するものを用いることが好ましい。これにより、信号磁界検出用強磁性層へのシャント分流が抑制できることから、感度の向上を図ることが可能となる。さらに、信号磁界検出用強磁性層には、GMR強磁性層より層厚が厚い強磁性層も有効である。この場合、GMR強磁性層との交換結合による透磁率の低下等の磁気的な影響を少なくすることができるため、信号磁界の検出が容易となる。
【0021】
上述した本発明の差動動作型MRヘッドは、従来のGMR多層膜とは異なり、例えばGMR強磁性層間に強磁性的な結合力が働くようにすることで、信号磁界が零の状態で一対のGMR強磁性層の磁化が略同一方向を向いていることになる。垂直磁気記録媒体を例にとると、差動動作型MRヘッドが磁気記録媒体の磁化遷移領域から離れた場合には、2つのGMR強磁性層に同方向の信号磁界が印加されるため、それらの磁化の成す角度は変化せず、実質的に抵抗変化は生じない。一方、少なくともGMR非磁性中間層が磁気記録媒体の磁化遷移領域の直上に来ると、2つのGMR強磁性層には互いに逆方向の信号磁界が印加され、それぞれの磁化は異なる方向に回転する。よって、2つのGMR強磁性層の磁化の成す角度が変化して、大きく抵抗が変化する。すなわち、磁気記録媒体の磁化遷移領域のみで記録情報を検出することができる。特に、磁化遷移領域での信号磁界遷移が急激な垂直磁気記録媒体に対して著しく高分解能の再生が可能となり、大幅に線記録密度を向上させることができる。
【0022】
このように、本発明の差動動作型MRヘッドは、電流と磁化の成す角度に応じて変化する抵抗を利用するAMRエレメントを用いた従来の差動動作型MRヘッドとは異なり、電流方向には全く依存せず、一対のGMR強磁性層の磁化が成す角度に応じて変化する抵抗を利用して差動動作させているため、従来のAMRエレメントでは不可能であった高感度再生が実現できる。従って、例えば従来のAMRエレメントを用いた差動動作型MRヘッドで問題となっていた、2つのAMR層間で生じる電流方向の傾きに基くノイズ等は発生しなくなる。そして、このような高感度再生を極めて簡易なヘッド構造で実現することが可能となる。また、本発明の差動動作型MRヘッドにおいて、GMR強磁性層/非磁性中間層/GMR強磁性層の積層構造からなるGMR素子部の外側にそれぞれ信号磁界検出用強磁性層を配置した場合、GMR素子部を実質的なギャップとして機能させることができるため、ギャップ長を拡大することが可能となる。従って、磁気記録媒体の磁化遷移領域の長さに適したギャップ長の設定と高感度再生を両立させることができる。一方、非磁性中間層を単独でギャップとして機能させた場合には、その厚さが例えば5nm以上に増大するとGMR強磁性層/非磁性中間層/GMR強磁性層の積層構造からなるGMR素子部の抵抗変化率が低下するため、磁気記録媒体の磁化遷移領域の長さに適したギャップ長(10〜100nm程度)の設定と高感度再生の両立が困難となるおそれがある。
【0023】
さらに、信号磁界検出用強磁性層の抵抗がGMR強磁性層のそれより高いと、信号磁界検出用強磁性層へのシャント分流が抑制でき、感度の向上を図ることができる。また、信号磁界検出用強磁性層をGMR強磁性層より高透磁率の磁性材料で構成したり、GMR素子部を媒体対向面より後退させることによって、GMR強磁性層の信号磁界による直接的な磁化回転を抑制することができる。従って、GMR強磁性層の磁化回転は、信号磁界検出用強磁性層との交換結合バイアス磁界等が主になるため、より明確にGMR素子部の厚さでギャップ長が規定できる。
【0035】
【実施例】
次に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0036】
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施例について述べる。図1に示す差動動作型MRヘッド1においては、基板2上に信号磁界で磁化が回転する第1の信号磁界検出用強磁性層3a、第1のGMR強磁性層4a、GMR非磁性中間層5、第2のGMR強磁性層4b、および第1の信号磁界検出用強磁性層3aと同様に信号磁界で磁化が回転する第2の信号磁界検出用強磁性層3bが順に積層形成されて差動動作型MRエレメント6が構成されている。第1の信号磁界検出用強磁性層3aと第1のGMR強磁性層4a、第2のGMR強磁性層4bと第2の信号磁界検出用強磁性層3bとは、それぞれ交換結合している。
【0037】
ここで、第1のGMR強磁性層4a、GMR非磁性中間層5および第2のGMR強磁性層4bによる積層構造はGMR素子部7を構成している。さらに、差動動作型MRエレメント6の両端には、センス電流を供給するための電極8a、8bが形成されており、これらにより差動動作型MRヘッド1が構成されている。第1および第2のGMR強磁性層4a、4bには、透磁率が高いNiFe合金等よりも、透磁率が比較的低いCoFe合金、Co、CoFeNi合金等を用いることが好ましい。これらはGMR非磁性中間層5との界面で優れたスピン依存散乱能力を発揮する。GMR強磁性層4a、4bの厚さは 4〜40nm程度とすることが好ましい。GMR強磁性層4a、4bの厚さが 4nm未満だと、抵抗変化率が低下する傾向がある上に、信号磁界検出用強磁性層3a、3bを設置しても、目的とする線記録密度に適したギャップ長(例えば10〜 100nm)に設定することが困難となる。逆にGMR強磁性層4a、4bの厚さが40nmを超えると、抵抗変化率が著しく低下するおそれがある。第1および第2のGMR強磁性層4a、4bは、具体的には厚さ10nm程度のCoFe合金膜、Co膜、CoFeNi合金膜等からなるものである。
【0038】
GMR非磁性中間層5には、スピン依存散乱に適した低抵抗のCu膜、Au膜、Ag膜、それらを主成分とする合金膜等を用いることができる。GMR非磁性中間層5の厚さは 2〜 5nm程度とすることが好ましい。GMR非磁性中間層5の厚さが 5nmを超えると、第1および第2のGMR強磁性層4a、4b間の強磁性的な結合力が減少して抵抗変化率が低下するおそれがある。また、GMR非磁性中間層5の厚さが 2nm未満であると、第1および第2のGMR強磁性層4a、4b間の強磁性的な結合力が強くなりすぎる。その場合、第1および第2のGMR強磁性層4a、4bに互いに逆方向の磁界が印加されたときに、それらの磁化を反強磁性的に配列させることが困難となり、結果的に抵抗変化率が減少するおそれがある。
【0039】
ここで、一般に非磁性中間層を介してCo膜等の強磁性層を積層してなるGMR素子部においては、近接する強磁性層間には非磁性中間層の厚さに応じて、周期的に強磁性的な結合力と反強磁性的な結合力が働くことが知られている。通常、シールド型MRヘッドにこのようなGMR多層膜を適用する場合は、全ての強磁性層に同方向の信号磁界が加わったときに動作するように、非磁性中間層は近接する強磁性層間に反強磁性的な結合力が生じる厚さに設定される。然るに、この実施例では第1および第2のGMR強磁性層4a、4b間に強磁性的な結合力が生じる厚さ、例えば 3nmにGMR非磁性中間層5の厚さを設定している。この強磁性的な結合力により、信号磁界が零の状態では、第1および第2のGMR強磁性層4a、4bの磁化は略同一方向に配列している。
【0040】
第1および第2の信号磁界検出用強磁性層3a、3bには、CoZrNb膜やCoFeBC膜のような非晶質膜、 FeZrN膜や FeTaN膜のような窒化微結晶膜、 FeTaC膜やFeZrC 膜のような炭化微結晶膜、Fe−SiOヘテロアモルファス膜、NiFeX(ただし、 XはNb、Cr、Ta、Zr、Rh、Pd、Ru、Mo、Cu等の金属元素)のような合金膜等を用いることが好ましい。これらは、上述したGMR強磁性層4a、4bより高透磁率を有すると共に、信号磁界検出用強磁性層3a、3bへのセンス電流の分流による感度低下を防止することが可能な例えば 100μΩcm以上の高抵抗を有するものである。
【0041】
信号磁界検出用強磁性層3a、3bの厚さは、特に限定されるものではないが、GMR強磁性層4a、4bより厚く設定することが好ましい。これにより、GMR強磁性層4a、4bとの交換結合による透磁率の低下等の磁気的な影響を少なくすることができるため、信号磁界の検出が容易となる。信号磁界検出用強磁性層3a、3bの具体的な厚さは 5〜 100nm程度とすることが好ましい。信号磁界検出用強磁性層3a、3bの厚さが薄すぎると、信号磁界検出用強磁性層3a、3bの磁化回転に応じてGMR強磁性層4a、4bを磁化回転させることが困難となる。逆に信号磁界検出用強磁性層3a、3bの厚さが厚すぎると、その透磁率が低下する傾向がある上に、信号磁界検出用強磁性層3a、3bへのシャント分流も増加する。信号磁界検出用強磁性層3a、3bは、具体的には厚さ20nm程度のCoZrNb膜、CoFeBC膜、FeZrN 膜、 FeTaN膜、 FeTaC膜、FeZrC 膜、Fe−SiOヘテロアモルファス膜、 NiFeX膜等からなるものである。
【0042】
また、GMR素子部7を構成する第1のGMR強磁性層4a、GMR非磁性中間層5および第2のGMR強磁性層4bの積層構造は、第1および第2の信号磁界検出用強磁性層3a、3bより耐摩耗性の低い材料により構成されている。このため、GMR素子部7は研磨により媒体対向面から後退している。これにより、GMR素子部7が直接的に感じる信号磁界は弱まり、GMR素子部7の厚さでより一層明確にギャップ長を規定することができる。GMR素子部7を媒体対向面から後退させるには、GMR素子部7を選択的にリアクティブイオンエッチング、ケミカルドライエッチング等でエッチングしてもよい。
【0043】
上記構成の差動動作型MRヘッド1においては、第1および第2のGMR強磁性層4a、4bは直接的には信号磁界により磁化が回転しない。第1および第2の信号磁界検出用強磁性層3a、3bの磁化が信号磁界により回転するとその回転に応じて、界面での磁気的結合により第1および第2のGMR強磁性層4a、4bの磁化が回転する。その結果、GMR素子部7が実質的なギャップに相当することになる。従って、線記録密度に応じた例えば10〜 100nm程度の適切な長さのギャップを形成することができる。この実施例においては、上述した通り第1および第2のGMR強磁性層4a、4bの厚さがともに10nm、GMR非磁性中間層5の厚さが 3nmであって、差動動作型MRヘッド1のギャップ長は約23nmである。
【0044】
そして、垂直磁気記録媒体を例にとると、磁気記録媒体9の磁化遷移領域から離れたところに上記ギャップが位置して、同方向の信号磁界が第1および第2の信号磁界検出用強磁性層3a、3bに印加された場合には、これらの磁化は互いに同方向に回転するため、第1および第2のGMR強磁性層4a、4bにおいても結局磁化の成す角度は変化しない。よって、GMR素子部7で実質的な抵抗変化は生じない。一方、磁気記録媒体9の磁化遷移領域の直上に上記ギャップが存在し、互いに逆方向の信号磁界が第1および第2の信号磁界検出用強磁性層3a、3bに印加された場合には、これらの磁化は反対方向に回転するため、第1および第2のGMR強磁性層4a、4bでも反平行的な磁化配列に向けて磁化の成す角度が変化する。その結果、GMR素子部7の抵抗が大きく変化して記録情報が検出される。
【0045】
このように、上記第1の実施例の差動動作型MRヘッド1は、磁気記録媒体9の磁化遷移領域で差動動作型の出力応答を示す再生ヘッドとして動作する。そして、従来のAMRエレメントを用いた差動動作型MRヘッドとは異なり、第1および第2のGMR強磁性層4a、4bの磁化が成す角度に応じて変化する抵抗を利用して差動動作させているため、従来のAMRエレメントでは不可能であった高感度で高S/N比の再生が実現できる。さらに、信号磁界が零の状態で、第1および第2のGMR強磁性層4a、4bの磁化を略同一方向に向けているため、信号検出が安定する。また、上述したように線記録密度に応じて適切なギャップ長を設定することができる。すなわち、第1の実施例の差動動作型MRヘッド1は、磁気記録媒体9の磁化遷移領域の長さに応じたギャップ長の設定と差動動作による高感度再生とを、極めて簡易なヘッド構造で実現した再生ヘッドである。さらに、一般的ないわゆるスピンバルブ構造を利用したGMRヘッドにおいては、一方のGMR強磁性層の磁化を反強磁性層により固着している。この反強磁性層には、通常、信号磁界が加わっても磁化固着状態が安定に維持できるように、大きなバイアス磁界を付与することが可能なFeMn反強磁性層が用いられている。しかし、このFeMn反強磁性層は腐食しやすいため、MRヘッドの耐久性を低下させる要因となっていた。これに対して、上記差動動作型MRヘッド1は、FeMn反強磁性層を用いる必要がないため、耐久性にも優れるものである。
【0046】
図2ないし図5は、それぞれ上記第1の実施例の変形例の構成を示す図である。これらの差動動作型MRヘッド10、11、12、13は、いずれも差動動作型MRエレメント6に対してバイアス磁界を印加したものである。例えば、図2は差動動作型MRエレメント6のトラック幅方向両端にバイアス膜14をそれぞれ設置した構成を示している。また、図3は差動動作型MRエレメント6のトラック幅両端上にバイアス膜14をそれぞれ積層した構成を示している。図4は差動動作型MRエレメント6のトラック幅両端の下の基板2とMRエレメント6の間にバイアス膜14をそれぞれ積層した構成を示している。図5は差動動作型MRエレメント6下にバイアス膜14を積層した構成を示している。
【0047】
なおバイアス膜14は、例えばCoPt膜等の硬質強磁性膜、FeMn膜や NiO膜等の反強磁性膜からなるものである。これら差動動作型MRヘッド10、11、12、13においては、信号磁界が零の状態で第1および第2のGMR強磁性層4a、4bの磁化をより確実に略同一方向に揃えることが可能となる。これに加えて、各強磁性層3a、3b、4a、4bから磁壁を除去して、バルクハウゼンノイズを抑制することができる。ただし、図5に示した差動動作型MRヘッド13において、バイアス膜14が硬質強磁性膜からなる場合は、強磁性層3aとバイアス膜14との間に非磁性層を介在させることがより好ましい。
【0048】
次に、本発明の第2の実施例について図6を参照して説明する。
【0049】
図6に示す差動動作型MRヘッド21においては、基板22上に信号磁界で磁化が回転する第1のGMR強磁性層23a、第1のGMR非磁性中間層24a、信号磁界では磁化が実質的に変化しない低透磁率強磁性層25、第2のGMR非磁性中間層24b、および第1のGMR強磁性層23aと同様に信号磁界で磁化が回転する第2のGMR強磁性層23bが順に積層形成されており、これらの積層構造によりGMR素子部26が構成されている。
【0050】
なおここでは、第1のGMR強磁性層23a、第1のGMR非磁性中間層24aおよび低透磁率強磁性層25を第1のGMRユニット27a、低透磁率強磁性層25、第2のGMR非磁性中間層24bおよび第2のGMR強磁性層23bを第2のGMRユニット27bとみなすことができる。さらに、GMR素子部26の両端には、センス電流をトラック幅方向(図中、y方向)に供給するための電極28a、28bが形成されており、これらにより差動動作型MRヘッド21が構成されている。
【0051】
第1および第2のGMR強磁性層23a、23bには、スピン依存散乱能力に優れるNiFe合金膜、CoFe合金膜、CoFeNi合金膜等を用いることが好ましい。GMR強磁性層23a、23bの厚さは、大きな抵抗変化率を得る上で 1〜20nm程度とすることが好ましい。また、第1および第2のGMR非磁性中間層24a、24bには、スピン依存散乱に適した低抵抗なCu膜、Au膜、Ag膜、これらを主成分とする合金膜等を用いることが好ましい。GMR非磁性中間層24a、24bの厚さは、大きな抵抗変化率を得る上で 1〜10nm程度とすることが好ましい。この第2の実施例においては、第1および第2のGMR強磁性層23a、23bには厚さ 8nmのNiFe合金膜、CoFe合金膜、CoFeNi合金膜等が、また第1および第2のGMR非磁性中間層24a、24bには厚さ 3nmのCu膜、Au膜、Ag膜、これらの合金膜等が用いられている。
【0052】
低透磁率強磁性層25には、スピン依存散乱能力に優れ、かつ高い保磁力や大きな一軸磁気異方性の付与が可能なCoやCoPtのようなCo系合金等の強磁性材料を用いることができる。また、その厚さは大きな抵抗変化率を得る上で 1〜40nm程度とすることが好ましい。この実施例では、厚さが20nm、保磁力が20kA/mのCoPt膜(透磁率=10)からなる低透磁率強磁性層25が用いられている。なおこのとき、低透磁率強磁性層25に代えて、仮にスピン依存散乱能力に劣る高抵抗の反強磁性膜が用いられると、ここでGMR素子部26のスピン情報が分断されるため、抵抗変化率が著しく低下する。これに対し、CoやCoPtのような低透磁率強磁性層25が形成される場合にはスピン情報が分断されることがなく、よって大きな抵抗変化率を得ることができる。
【0053】
図7に示すように、低透磁率強磁性層25の磁化Ma1の方向は、信号磁界の有無にかかわらず、概ねトラック幅方向に着磁されている。さらに、低透磁率強磁性層25の磁化Ma1は、保磁力を高くすることで、あるいは大きな一軸磁気異方性を付与することで、その方向が実質的に信号磁界により動かない。一方、第1および第2のGMR強磁性層23a、23bの磁化Ma2、Ma3の方向は、信号磁界がほぼ零の状態で、センス電流により発生する磁界によって、例えば第1のGMR強磁性層23aではプラスz方向に、また第2のGMR強磁性層23bではマイナスz方向に回転する。
【0054】
そこで、例えば第1および第2のGMR強磁性層23a、23bに同方向、例えばプラスz方向の信号磁界が流入すると、磁化Ma2と磁化Ma1との成す角度は増加するため、第1のGMRユニット27aでは抵抗変化は増加となる。しかし、磁化Ma3と磁化Ma1との成す角度は逆に減少するため、第2のGMRユニット27bでは抵抗変化は減少となる。従って、GMR素子部26全体としては抵抗は変化しない。
【0055】
一方、第1および第2のGMR強磁性層23a、23bに逆方向の信号磁界がが流入すると、磁化Ma2と磁化Ma1との成す角度および磁化Ma3と磁化Ma1との成す角度は両者とも増加または両者とも減少となり、第1のGMRユニット27aの抵抗変化、および第2のGMRユニット27bの抵抗変化はいずれも増加または減少となる。これにより、GMR素子部26としての抵抗が大きく変化する。すなわち、逆方向の信号磁界が第1および第2のGMR強磁性層23a、23bに加わる場合にのみ、信号磁界によりGMR素子部26の抵抗が大きく変化するので、差動動作による信号検出が可能になる。
【0056】
上述したような差動動作での線形応答領域を広くするためには、磁化Ma2と磁化Ma3のセンス電流による回転角度を、トラック幅方向(図中、y方向)からそれぞれ約 +45°および約 −45°に設定することが望ましい。この角度設定は、センス電流値や各層23a、23b、24a、24b、25の厚さや抵抗率等を適切に選定することで達成できる。
【0057】
このように、上記第2の実施例の差動動作型MRヘッド21は、磁気記録媒体9の磁化遷移領域で差動動作型の出力応答を示す再生ヘッドとして動作する。そして、従来のAMRエレメントを用いた差動動作型MRヘッドとは異なり、第1および第2のGMRユニット27a、27bにおける磁化の成す角度に応じて変化する抵抗を利用して差動動作させているため、従来のAMRエレメントでは不可能であった高感度で高S/N比の再生が実現できる。さらに、差動動作型MRヘッド21においては、 2つのGMR強磁性層23a、23bの間隔で、磁気記録媒体9の磁化遷移領域に応じた長さにギャップを規定することができる。 ここで、上記構成の差動動作型MRヘッド21では、スピン依存散乱能力を低下させることなく、低透磁率強磁性層25の磁化Ma1を信号磁界で変化させないようにすることが、差動動作により安定した高S/N比の信号検出を行う上で重要である。低透磁率強磁性層25の磁化Ma1は、以下に示す (a)〜 (c)の構成の少なくとも 1つを採用することで安定させることができる。
【0058】
(a) GMR素子部26を構成する各層23a、23b、24a、24b、25は、デプス(図中、z方向の幅)を媒体対向面からの研磨により最終的に調整する。そこで、第1および第2のGMR強磁性層23a、23bのそれぞれの外側に、研磨に対して削れ難い高硬度の軟磁性膜を配置する。このような構成にすると、少なくとも低透磁率強磁性層25は媒体対向面から後退する。これにより、低透磁率強磁性層25に加わる信号磁界強度は弱まるので、低透磁率強磁性層25の磁化Ma1の安定度が増加する。このような構成を採用する場合には、上述したように低透磁率強磁性層25にスピン依存散乱能力に優れた強磁性材料を用いる。上記高硬度の軟磁性膜としては、Fe系やCo系の窒化膜、Co系非晶質膜等が例示され、その厚さは 1〜50nm程度とすることが好ましい。
【0059】
このとき、媒体近傍に比べると多少は弱まるものの、上記高硬度軟磁性膜により必要な信号磁界をGMR素子部26まで引き込むことができるので、低透磁率強磁性層25の後退による感度低下は僅かである。ただし、高硬度軟磁性膜の抵抗が低いと、そこにセンス電流が流れるので、抵抗変化率が低下するおそれがある。従って、高硬度軟磁性膜にはGMR強磁性層23a、23bより高抵抗率の膜を用いることが好ましい。
【0060】
上述した低透磁率強磁性層25の媒体対向面からの後退は、低透磁率強磁性層25を選択的にエッチングすることによっても達成できる。このエッチングには、いわゆるCDE等のドライエッチングを利用することができる。
【0061】
(b) 一般に、高保磁力膜や大きな磁気異方性を有する強磁性膜は、スピン依存散乱能力が必ずしも十分ではない場合が多い。そこで、低透磁率強磁性層25と第1および第2のGMR非磁性中間層24a、24bとのそれぞれの界面に、スピン依存散乱能力に優れた強磁性膜を挿入する。このような構成とすることにより、スピン依存散乱能力を弱めることなく、低透磁率強磁性層25の保磁力や磁気異方性を増大させることができる。従って、高抵抗変化率を維持した上で、低透磁率強磁性層25の磁化が信号磁界で動くことが抑制できる。具体的には、例えば低透磁率強磁性層25をスピン依存散乱能力がさほど強くない厚さ20nm程度のCoNiTa合金膜、CoPtCr合金膜等の硬質強磁性膜により構成し、このような低透磁率強磁性層25と第1および第2のGMR非磁性中間層24a、24bとのそれぞれの界面に特にスピン依存散乱能力に優れた厚さ 1.5〜 5nm程度のCo膜を配置する。
【0062】
(c) 低透磁率強磁性層25を、強磁性膜と非磁性膜とを交互に積層し、非磁性膜を介して近接する強磁性膜間に反強磁性的な結合を生じさせた人工格子膜により構成する。上記人工格子膜は、飽和磁界以上となるように反強磁性結合の大きさを制御することが望ましい。具体的な構成としては、厚さ 0.5〜 5nm程度のCo膜と厚さ 0.5〜 5nm程度のCu膜やRu膜との交互積層膜が挙げられる。このような構成によっても、信号磁界に対する低透磁率強磁性層25の磁化方向の安定性を高めることができる。
【0063】
上述したような構成(a) 〜(c) を採用することによって、より一層安定した差動動作による高S/N比の再生が実現できる。
【0064】
次に、本発明の第3の実施例について図8を参照して説明する。
【0065】
図8に示す差動動作型MRヘッド31においては、基板32上に信号磁界で磁化が回転する第1のGMR強磁性層33a、第1のGMR非磁性中間層34a、信号磁界では磁化方向が実質的に変化しない第1の低透磁率強磁性層35a、両隣の強磁性層35a、35b間の強磁性的な磁気結合を弱める分離用非磁性中間層36、第2の低透磁率強磁性層35b、第2のGMR非磁性中間層34b、および第2のGMR強磁性層33bが順に積層形成されており、これらの積層構造によりGMR素子部37が構成されている。
【0066】
ここで、第1のGMR強磁性層33a、第1のGMR非磁性中間層34aおよび第1の低透磁率強磁性層35aは、第1のGMRユニット38aを構成しており、第2の低透磁率強磁性層35b、第2のGMR非磁性中間層34bおよび第2のGMR強磁性層33bは、第2のGMRユニット38bを構成している。さらに、GMR素子部37の両端には、センス電流をトラック幅方向(図中、y方向)に供給するための電極39a、39bが形成されており、これらにより差動動作型MRヘッド31が構成されている。
【0067】
第1および第2のGMR強磁性層33a、33b、第1および第2のGMR非磁性中間層34a、34bには、いずれも前述した第2の実施例と同様な材料および厚さが適用される。第1および第2の低透磁率強磁性層35a、35bについても同様に、第2の実施例における低透磁率強磁性層と同様な材料および膜厚が適用される。
【0068】
分離用非磁性中間層36は、第1および第2のGMR非磁性中間層34a、34bと同様なスピン依存散乱に適した非磁性膜がスピン情報を分断せずに大きな抵抗変化率を得る上で好ましいが、必ずしもスピン依存散乱に適した低抵抗である必要はなく、また第1および第2の低透磁率強磁性層35a、35b間の強磁性的な磁気結合を大幅に弱めるような非磁性膜を用いることが望ましい。従って、強磁性層35a、35b間の強磁性的な結合を弱めることを重視するなら、例えば分離用非磁性中間層36を SiO2 膜やAl2 O 3 膜等の非磁性絶縁膜で構成することも可能であり、ギャップ長を適正化する上で分離用非磁性中間層36の層厚を厚くすることが望まれる場合、これによりセンス電流の分離用非磁性中間層36への分流による抵抗変化率の低下を防ぐことができる。また、分離用非磁性中間層36は低透磁率強磁性層35bの下地となるため、低透磁率強磁性層35bの高保磁力化や高い一軸磁気異方性の付与に適したCr膜やTa膜等の非磁性金属膜を用いてもよい。分離用非磁性中間層36の厚さは、選択した材質等によって適宜設定すればよく、ギャップ長の適正化のために例えば 0.5〜 100nm程度とすることが好ましい。
【0069】
上記した差動動作型MRヘッド31において、高記録密度がそれほど必要ない場合には、ギャップ長を大きくしたほうがGMR素子部37全体に信号磁界が及ぶので、再生感度が向上するという利点がある。ただし、分離用非磁性中間層36の抵抗率が低いと、そこにセンス電流が流れやすくなり、一方では再生感度が低下する問題が発生する。このため、分離用非磁性中間層36の厚さを厚くする場合には、抵抗率の高い材料で分離用非磁性中間層36を形成することが望ましい。
【0070】
図9に示すように、第1の低透磁率強磁性層35aの磁化Mb1は、媒体対向面に対して垂直方向(図中、プラスz方向)に着磁されている。一方、第2の低透磁率強磁性層35bの磁化Mb2は、第1の低透磁率強磁性層35aとは 180°異なる方向(図中、マイナスz方向)に着磁されている。このような 180°方向が異なる着磁は、以下のようにして実現できる。
【0071】
まず、成膜条件を変化させたり、異なる膜上に成膜する等によって、 2つの低透磁率強磁性層35a、35bの保磁力Hc1、Hc2を異ならせる。なおこの実施例では、非磁性層34a上に形成された低透磁率強磁性層35aでは高保磁力が得られにくいため、Hc1<Hc2となっている。そして、保磁力Hc2よりも大きな磁界を加えて着磁し、磁界を零に戻した後に、逆方向にHc1とHc2の中間の磁界を加えて着磁する。特に上述したように分離用非磁性中間層36として、第2の低透磁率強磁性層35bの高保磁力化や高い一軸磁気異方性の付与に適したCr膜やTa膜等を使用することによって、GMR非磁性中間層34a上の第1の低透磁率強磁性層35aに比べて、第2の低透磁率強磁性層35bの保磁力を容易に大きくすることができる。
【0072】
このように、第1および第2の低透磁率強磁性層35a、35bを着磁すると、それぞれの着磁方向を強める方向に静磁結合磁界が発生するので、より信号磁界に対する安定性が向上するという利点がある。さらに、第1および第2の低透磁率強磁性層35a、35bをプラスz方向およびマイナスz方向に着磁した場合には、第1および第2のGMR強磁性層33a、33bの磁化Mb3、Mb4が信号磁界に応じてトラック幅方向からプラスz方向またはマイナスz方向に回転し、この回転に応じて抵抗が図10に示すように線形に変化する。図10において、Hs + はプラスz方向に磁化が向く磁界を、Hs − はマイナスz方向に磁化が向く磁界を示す。
【0073】
従って、センス電流による磁界で概ね±45°方向に第1および第2のGMR強磁性層33a、33bの磁化Mb3、Mb4を回転させなくても、線形な抵抗変化が得られ、歪みの少ない高S/N比の信号検出が可能となる。換言すれば、広い線形応答範囲を得るためには、形状磁気異方性や磁界中成膜等により形成される誘導磁気異方性等を利用して、さらに必要に応じて図2ないし図5に示される差動動作型MRヘッドと同様にバイアス膜を設置する等して、第1および第2のGMR強磁性層33a、33bの磁化Mb3、Mb4を媒体からの信号磁界が零の状態で概ねトラック幅方向(図中、y方向)に向けることが好ましい。
【0074】
上述した構成によると、図10から明らかなように、第1および第2のGMR強磁性層33a、33bに同方向、例えばプラスz方向の信号磁界が加わると、第1のGMRユニット38aでは第1のGMR強磁性層33aと第1の低透磁率強磁性層35aの磁化が強磁性的に配列するため、抵抗が減少する。一方、第2のGMRユニット38bでは、逆に第2のGMR強磁性層33bと第2の低透磁率強磁性層35bの磁化が反強磁性的に配列するため、抵抗が増大する。従って、 2つのGMRユニット38a、38bによる抵抗変化は相殺し、GMR素子部37全体としては抵抗が変化しない。
【0075】
一方、第1および第2のGMR強磁性層33a、33bに逆方向、例えば第1のGMR強磁性層33aにプラスz方向、第2のGMR強磁性層33bにマイナスz方向の信号磁界が加わると、第1のGMRユニット38aでは第1のGMR強磁性層33aと第1の低透磁率強磁性層35aの磁化が強磁性的に配列して抵抗が減少する。また、第2のGMRユニット38bでも、第2のGMR強磁性層33bと第2の低透磁率強磁性層35bの磁化が強磁性的に配列して抵抗が減少する。これらにより、GMR素子部37全体としての抵抗が大きく変化するため、差動動作型の磁界検出が可能になる。
【0076】
このように、上記第3の実施例の差動動作型MRヘッド31は、磁気記録媒体9の磁化遷移領域で差動動作型の出力応答を示す再生ヘッドとして動作する。そして、前述した第2の実施例の差動動作型MRヘッド21と同様に、第1および第2のGMRユニット38a、38bにおける磁化の成す角度に応じて変化する抵抗を利用して差動動作させているため、従来のAMRエレメントでは不可能であった高感度で高S/N比の再生が実現できる。さらに、差動動作型MRヘッド31においては、 2つのGMR強磁性層33a、33bの間隔を例えば分離用非磁性中間層36の厚さで任意に調節できるため、線記録密度に応じた適切なギャップ長を設定することができる。
【0077】
また、上記構成の差動動作型MRヘッド31においても、前述した第2の実施例の差動動作型MRヘッド21と同様に、スピン依存散乱能力を低下させることなく、第1および第2の低透磁率強磁性層35a、35bの磁化Mb1、Mb2を信号磁界で変化させないように、前述した (a)〜 (c)の構成の少なくとも 1つを採用することが好ましい。具体的な構成は前述した通りである。
【0078】
なお、前述した第2および第3の実施例の差動動作型MRヘッド21、31は、GMR強磁性層のそれぞれ外側に、第1の実施例と同様に信号磁界検出用強磁性層を配置した構成としてもよい。
【0079】
次に、本発明の第4の実施例について図11を参照して説明する。
【0080】
図11に示す差動動作型MRヘッド41においては、基板42上に第1の低透磁率強磁性層43a、第1のGMR非磁性中間層44、第1のGMR強磁性層45a、分離用非磁性中間層46、第2の低透磁率強磁性層43b、第2のGMR非磁性中間層44b、および第2のGMR強磁性層45bが順に積層形成されており、これらの積層構造によりGMR素子部47が構成されている。
【0081】
ここで、第1の低透磁率強磁性層43a、第1のGMR非磁性中間層44aおよび第1のGMR強磁性層45aは、第1のスピンバルブユニット48aを構成しており、第2の低透磁率強磁性層43b、第2のGMR非磁性中間層44bおよび第2のGMR強磁性層45bは、第2のスピンバルブユニット48bを構成している。さらに、GMR素子部47の両端には、センス電流をトラック幅方向(図中、y方向)に供給するための電極49a、49bが形成されており、これらにより差動動作型MRヘッド41が構成されている。
【0082】
GMR素子部47を構成する各層の材料および厚さ等は、前述した第3の実施例の差動動作型MRヘッド31と同様である。また、第1の低透磁率強磁性層43aの保磁力や一軸磁気異方性を増大させるために、基板42と第1の低透磁率強磁性層43aの中間にCrやTa等からなる非磁性膜を挿入してもよい。
【0083】
この差動動作型MRヘッド41では、図12に示すように、第3の実施例の差動動作型MRヘッド31と同様に第1および第2の低透磁率強磁性層43a、43bの磁化Mc1、Mc2をプラスz方向およびマイナスz方向に着磁することによって、第3の実施例と同様な差動動作型の磁界検出が実現できる。この構成によると、第1の低透磁率強磁性層43aの下地膜、および第2の低透磁率強磁性層43bの下地となる分離用非磁性中間層46として、第1および第2の低透磁率強磁性層43a、43bの保磁力や一軸磁気異方性を高めるのに適したCr膜等を用いることができる。その結果、第1および第2の低透磁率強磁性層43a、43bの磁化が媒体磁界に対して安定となるという利点を有する。第1および第2の低透磁率強磁性層43a、43b間に静磁結合磁界が発生して、より信号磁界に対する安定性が向上する点も、第3の実施例と同様である。また、第1および第2の低透磁率強磁性層43a、43bの着磁方向を 180°異ならせるには、例えば第3の実施例と同様に、これら低透磁率強磁性層43a、43bの成膜条件を変化させるか、異なる下地膜上に形成すればよい。
【0084】
次に、本発明の第5の実施例について図13を参照して説明する。
【0085】
図13に示す差動動作型MRヘッド51では、基板52上に第1の信号磁界検出用強磁性層53a、中間層としてのグラニュラー型強磁性中間層54、第2の信号磁界検出用磁性層53bが順に積層形成されて差動動作型MRエレメント55が構成されている。さらに、差動動作型MRエレメント55の両端には、センス電流を供給するための電極56a、56bが形成されている。
【0086】
上記グラニュラー型強磁性中間層54は、磁性領域54aと非磁性領域54bとに相分離したものである。磁性領域54aで磁化が同方向に配列した成分が多い場合には抵抗は低く、反平行成分が増大すると抵抗が増大する。従って、この差動動作型MRヘッド51においては、グラニュラー型強磁性中間層54がGMR素子部として機能する。ここで、グラニュラー型強磁性中間層54は、例えば厚さが30nm程度で、磁性領域54aがCo、Ni、Fe等を主成分とする磁性体からなると共に、非磁性領域54bがCu、Au、Agおよびその合金等の非磁性体からなるものである。
【0087】
グラニュラー型強磁性中間層54は、強磁界で着磁させるか、あるいは図2ないし図5と同様にバイアス膜を配置して、信号磁界が零の状態で磁性領域54aの磁化を略同一方向に配列させることが好ましい。その結果、グラニュラー型強磁性中間層54が実質的なギャップに相当することになり、10〜 100nm程度の適切な長さのギャップを形成することが可能となる。
【0088】
そして、磁気記録媒体9の磁化遷移領域から離れたところに、ギャップとなるグラニュラー型強磁性中間層54が位置して同方向の信号磁界が第1および第2の信号磁界検出用強磁性層53a、53bに印加された場合には、これらの磁化は互いに同方向に回転するため、グラニュラー型強磁性中間層54内の磁性領域54aにおける磁化も同方向に回転して、結局磁化の成す角度は変化しない。従って、グラニュラー型強磁性中間層54で実質的な抵抗変化は生じない。一方、磁気記録媒体9の磁化遷移領域の直上にギャップとなるグラニュラー型強磁性中間層54が存在し、互いに逆方向の信号磁界が第1および第2の信号磁界検出用強磁性層53a、53bに印加された場合には、これらの磁化は強磁性層53a、53bの界面近傍で互いに反対方向に回転するため、グラニュラー型強磁性中間層54内の磁性領域54aにおける磁化についても反平行的成分が増大する。その結果、グラニュラー型強磁性中間層54の抵抗が増大して記録情報が検出される。
【0089】
このように、この第5の実施例の差動動作型MRヘッド51は、前述した各実施例と同様に、磁気記録媒体9の磁化遷移領域で差動動作型の出力応答を示す再生ヘッドとして動作する。そして、グラニュラー型強磁性中間層54内の磁性領域54aにおける磁化の成す角度に応じて変化する抵抗を利用して差動動作させているため、従来のAMRエレメントでは不可能であった高感度で高S/N比の再生が実現できる。さらに、上述したようにグラニュラー型強磁性中間層54の厚さで適切なギャップ長を設定することで、著しく線記録密度の高い、例えば 0.1μm 以下の再生を高感度に実現することが可能となる。
【0090】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の差動動作型MRヘッドによれば、差動動作型の出力応答を安定して得ることができ、高記録密度の再生を高感度および高S/N比で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例による差動動作型MRヘッドの要部構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す差動動作型MRヘッドにバイアス膜を付加した変形例を示す断面図である。
【図3】図1に示す差動動作型MRヘッドにバイアス膜を付加した他の変形例を示す断面図である。
【図4】図1に示す差動動作型MRヘッドにバイアス膜を付加したさらに他の変形例を示す断面図である。
【図5】図1に示す差動動作型MRヘッドにバイアス膜を付加したさらに他の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施例による差動動作型MRヘッドの要部構成を示す斜視図である。
【図7】図6に示す差動動作型MRヘッドの信号磁界零における磁化状態を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施例による差動動作型MRヘッドの要部構成を示す斜視図である。
【図9】図8に示す差動動作型MRヘッドの信号磁界零における磁化状態を示す図である。
【図10】図8に示す差動動作型MRヘッドの信号磁界による抵抗変化を示す図である。
【図11】本発明の第4の実施例による差動動作型MRヘッドの要部構成を示す斜視図である。
【図12】図11に示す差動動作型MRヘッドの信号磁界零における磁化状態を示す図である。
【図13】本発明の第5の実施例による差動動作型MRヘッドの要部構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
1、21、31、41、51……差動動作型MRヘッド
3、53……信号磁界検出用強磁性層
4、23、33、45……GMR強磁性層
5、24、34、44……GMR非磁性中間層
7、26、37、47……GMR素子部
25、35、43……低透磁率強磁性層
36、46……分離用非磁性中間層
54……グラニュラー型強磁性中間層
Claims (3)
- 一対のスピン依存散乱能を有する強磁性層と、前記一対の強磁性層間に介在された非磁性中間層とを有し、信号磁界が零の状態で前記一対の強磁性層の磁化が同一方向を向くように、前記一対の強磁性層間に前記非磁性中間層を介して強磁性的な結合力が働いている積層構造を有し、前記一対の強磁性層に同方向の信号磁界が印加される場合には信号磁界が零の状態から抵抗が変化せず、前記一対の強磁性層に互いに逆方向の信号磁界が印加される場合に前記一対の強磁性層の磁化の成す角度が変化することに基いて信号磁界が零の状態から抵抗が変化する磁気抵抗効果素子部を具備する差動動作型の磁気抵抗効果ヘッドであって、
前記磁気抵抗効果素子部の前記一対の強磁性層の磁化の成す角度の変化による巨大磁気抵抗効果に基く抵抗変化を利用して信号磁界を検出することを特徴とする磁気抵抗効果ヘッド。 - 請求項1記載の磁気抵抗効果ヘッドにおいて、
さらに前記一対の強磁性層の外側に配置された信号磁界検出用強磁性層を有することを特徴とする磁気抵抗効果ヘッド。 - 請求項2記載の磁気抵抗効果ヘッドにおいて、
前記一対の強磁性層は、前記信号磁界検出用強磁性層より媒体対向面から後退していることを特徴とする磁気抵抗効果ヘッド。
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