JP3551965B2 - 塗装ブース水の処理剤と処理方法 - Google Patents
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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、湿式塗装ブースから回収される塗装ブース水に含まれる塗料ミストを効果的に不粘着化し、その塗料ミストが凝集した塗料粕に分散性を付与して省力化の為の自動分離回収システムを導入可能とする、塗装ブース水の処理剤と、この処理剤を用いた塗装ブース水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車車体等の複雑な形状の物体の塗装には、スプレーガンを用いて塗料をミスト化して吹き付ける吹き付け塗装法が用いられる。吹き付け塗装では、被塗物に付着するのは平均して塗料の30%程度である。そのため、吹き付け塗装を行う際に、被塗物に付着しなかった未塗着のオーバースプレー塗料を湿式塗装ブースのウォーターカーテンにより捕捉して、塗料ミストとして水中に捕集するのが一般的である。水中に捕集された塗料ミストは凝集するので、遠心分離等の適当な固液分離法によりスラッジ状に凝集した塗料ミストを塗料粕として水から分離する。塗料粕が除去された水は、通常は塗装ブースに戻されて循環利用される。即ち、循環水として利用される。以下において、凝集した塗料ミストである塗料粕が除去されて循環使用される水を単に循環水と言う。
【0003】
塗装ブース水から塗料粕を分離する場合、従来は、作業者が手や網カゴ等を使用して分離除去していたが、近年では、省力化の為に、ポンプアップ、配管移送、遠心分離等の手段をシステムとして備えた自動分離回収装置の使用が増加している。
【0004】
かかる自動分離回収装置としては下記の2種があるが、最近では分散型処理システムが徐々に増加する傾向がある。
すなわち、分散型処理システムは、塗装ブース水に分散した塗料粕を遠心分離器等の固液分離システムを用いて、脱水・回収するシステムであり、そのメリットとしては次のような点を挙げることができる。
▲1▼循環水の収容槽の小型化が可能である。
▲2▼循環水の収容槽の清掃頻度の低減が可能である。
▲3▼塗料粕の自動連続回収が容易である。
▲4▼循環水の収容槽への塗料粕の堆積をなくすことにより、悪臭の発生が防止できる。
▲5▼排出される塗料粕の含水率を低下させることにより、廃棄物量の削減が可能である。
【0005】
これからも明らかなように、分散型処理システムに対応するために塗料粕の不粘着化効果に加えて優れた分散効果が必要である。したがって、それに使用する処理剤としても塗料粕を構成する塗料ミストの不粘着化とともに分散性を改善するものが要求される。
【0006】
ここに、分散型処理システムに対するものとしては浮上分離型システムがあり、これは塗料粕を分離浮上させた後に回収するシステムである。
循環水から分離されて回収された塗料粕は、従来は埋め立て処理で廃棄されることが多かったが、近年では、乾燥及び粉砕した後、助燃剤、コンクリート助剤、自動車のアンダーボディー用塗料や燃料タンク用の水性エマルジョン塗料等のフィラーとしてリサイクル利用されることも行われている。
【0007】
なお、本明細書において以下便宜上、塗料ミストと塗料粕を同義として用いる。
自動車車体等に使用される吹き付け塗料は、通常はアクリル系またはウレタン系の焼き付け型塗料である。循環水中に含まれる塗料ミストは、焼き付けを受けておらず、未硬化であることから、粘着性が高い。そのため、塗装ブース水中の塗料ミストの凝集物が循環ポンプ、配管、固液分離装置などに付着し、塗料ミストの回収や循環水の循環が困難になるといった厄介な問題があり、又、捕捉された塗料ミストがお互いに凝集して大きな凝集物になり、ポンプアップや配管移送ができるように塗料ミストの分散性が維持できず前述のような自動分離回収装置の導入ができないといった厄介な問題もあった。
【0008】
これまでも問題を解決するため、塗料ミストを不粘着化させたり、分散させたりする目的で、塗装ブース水の処理剤が使用されてきた。これまで知られている処理剤の例としては、ベントナイト等の粘土鉱物、セピオライト(特殊な繊維状鉱物)、アルカリ剤、両性金属化合物、カチオン性ポリマー、コロイダルシリカ等があり、これらの2種以上を組み合わせる提案もされている(特許文献1〜6を参照)。
【0009】
また、塗装ブースでの使用に限定されていないが、有機汚染物廃水や廃棄物質懸濁液処理において、スメクタイトを使用する提案もされている (特許文献7〜8を参照) 。
【0010】
このように、従来の塗装ブース水の処理剤としては、塗料ミストの不粘着化や分散性の両方の性能を付与しようとすると、水に不溶性の薬剤類はポンプによる注入が困難である、そして、少量では十分な効果を示さない、といった問題点があり、将来の省力化や低コストの要望を考えると、これまでの処理剤は満足できるものではなかった。
【0011】
【特許文献1】特許第2648351号明細書
【特許文献2】特開平8−259896号公報
【特許文献3】特開平10−180007号公報
【特許文献4】特開平11−672号公報
【特許文献5】特開平11−77061号公報
【特許文献6】特開平11−267659号公報
【特許文献7】特許第2506522号明細書
【特許文献8】特開平6−226264号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述したような問題点を解消した、塗装ブース水に少量添加するだけで塗装ブース水中の塗料ミストを不粘着化することができ、かつ、凝集した塗料ミストの分散性を付与することができる、塗装ブース水の処理剤およびそれを利用した塗装ブース水の処理方法を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、樹脂の架橋剤・改質剤として知られているポリカルボジイミド系化合物を湿式塗装ブースからの塗装ブース水に添加すると、0.025 〜0.05g/l といった低濃度でも塗料ミストを不粘着化し、分散性も付与できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
ここに、本発明は、水溶性ポリカルボジイミド樹脂を含有することを特徴とする、塗装ブース水の処理剤である。
別の面からは、本発明は、湿式塗装ブースにおける、またはそれから回収され、例えば焼き付け型塗料の塗料ミストを含有する塗装ブース水に、または塗装ブース水から塗料ミストを分離・回収して湿式塗装ブースに循環使用する循環水に、水溶性ポリカルボジイミド樹脂を添加させることを特徴とする、塗装ブース水の処理方法である。これらの塗装ブース水および循環水を単に「塗装ブース水」と総称することもある。
【0015】
好適態様において、本発明にしたがって処理した後の塗装ブース水から塗料ミスト、つまり塗料粕を分離した後、残りの水を塗装工程に循環使用し、この循環水に処理剤を添加するのである。塗料ミストは、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有する化合物から選ばれた少なくとも1種の塗料ミストである。
【0016】
本発明の場合、雲母、スメクタイトなどの粘土鉱物をさらに含有させることで、またカチオン性ポリマーをさらに含有させることで、カルボジイミド化合物の作用効果はさらに改善される。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明では、湿式塗装ブースにおける塗装ブース水または湿式塗装ブースから回収された塗装ブース水 (以下、単に「湿式塗装ブースからの塗装ブース水」ともいう) の処理剤として、ポリカルボジイミド系化合物を使用する。
【0018】
ポリカルボジイミド系化合物はカルボジイミド基を含むノニオン性ポリマーであり、−N=C=N−の構造を有する。ポリカルボジイミド系化合物はこれまで、樹脂の物性改良等に用いられており、架橋剤・改質剤と考えられている。
【0019】
本発明で使用するのが好ましいポリカルボジイミド系化合物は、ポリカルボジイミド樹脂に親水性を付与した水溶性ポリカルボジイミド樹脂である。
塗料ミストを含有する塗装ブース水にポリカルボジイミド系化合物を添加すると、塗装ブース水中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有するような塗料ミストの粘着性が低下し、粘着性のない塗料ミストが得られ、塗装ブースを循環する間に塗料ミストやその凝集物が配管系、循環ポンプ等に付着することが防止され、かつ、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有するような塗料ミストが大きく凝集することを抑制し、分散性が付与でき、省力化のための自動分離回収装置が導入できるようになる。
【0020】
ポリカルボシイミド系化合物が塗料ミストの不粘着性や分散性の付与ができる理由は解明されていないが、図1に示すようにカルボキシル基、水酸基、アミノ基と反応してカルバモイルアミド、イソウレア、グアジニンを形成する反応が関係しているものと推測される。例えば、塗料がアクリル系やウレタン系である場合には、ポリカルボジイミド系化合物が架橋反応により、カルボキシル基や水酸基と反応して硬化することが考えられる。
【0021】
ポリカルボジイミド系化合物の循環水への添加は、ポリカルボジイミド系化合物の濃度が0.001 〜50g/l となるように行うことが好ましく、より好ましい濃度は0.01〜1g/lである。最初の建浴時にポリカルボジイミド系化合物の循環水中の濃度が上記範囲内となるようにしても、塗装ブース水中の塗料ミストの成分と反応してポリカルボジイミド系化合物が消費されるので、必要に応じて、塗装ブース水にポリカルボジイミド系化合物を補給して、処理水中のポリカルボジイミド系化合物の濃度を上記範囲内に保持するようにすることが好ましい。このように、従来の処理剤に比べて、ポリカルボジイミド系化合物の添加量は非常に少量でよい。
【0022】
本発明の処理剤を塗装ブース水または循環水に含有させることで、塗料ミストを不粘着化し、分散性も付与することができるのであるが、そのときの塗料は、焼き付け型塗料であり、好ましくはカルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有する塗料材料である。
【0023】
湿式塗装ブースからの塗装ブース水には、ポリカルボジイミド系化合物に加えて、ポリカルボジイミド系化合物との反応性が著しくなければ、従来技術で塗料ミストの不粘着化目的に使用されてきた各種処理剤を併用してもよい。そのような処理剤の例としては、例えば、粘土類、セピオライト、両性金属化合物、カチオン性ポリマー、アルカリ剤がある。それらの添加量は、従来技術と同様でよい。
【0024】
従来にあって、粘土鉱物として各種のものが使用されてきたが、雲母は使用されることがなかった。また、スメクタイトは有機系廃水の排水処理で提案されているだけであった。
【0025】
本発明の場合、雲母および/またはスメクタイトはポリカルボジイミド系化合物と併用することで、特に顕著な効果を発揮する。
本発明の別の態様にあっては、さらにカチオン系ポリマーとして、ポリイミン、ポリアミン、ポリアリルアミンとその塩、ポリジアリルアミン四級アンモニウム塩、およびアクリルアミドのカチオン変性物より選ばれる化合物の少なくとも1種を含有させることにより、特に顕著な効果を発揮する。
【0026】
より具体的には、表1に示すポリアクリルアミドアンモニウム塩コポリマー、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン塩コポリマー、ポリアリルアミン塩などのカチオン性ポリマーについても同様に併用による効果がある。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明に従ってポリカルボジイミド系化合物を添加することにより処理された塗装ブース水は、その後、従来と同様に、遠心分離等の適当な固液分離手段により、循環水と塗料粕とに分離する。ポリカルボジイミド系化合物によって塗料ミストが不粘着化され、かつ、分散性も付与されているため、分離された塗料粕は粘着性がなく、粉砕性も良好で、取り扱いが容易である。
【0029】
この塗料粕は、そのまま乾燥して埋め立て処分で廃棄してもよいが、乾燥後に粉砕して、樹脂としてリサイクルすることも可能である。リサイクル可能な用途としては、助燃剤、コンクリート助剤、自動車のアンダーボディー用塗料や燃料タンク用の水性エマルジョン塗料等のフィラーがある。
【0030】
塗装ブース水の処理に際して添加する本発明にかかる処理剤は塗装ブース内の塗装ブース水に、あるいはそれから回収された塗装ブース水に、もしくはそれから塗装ミストを分離・回収した残りの水、つまり循環水に添加して含有させてもよい。
【0031】
本発明による塗装ブース水の処理剤には、必要に応じて、適宜防錆剤、消泡剤、消臭剤、抗菌剤等を添加することができる。
【0032】
【実施例と比較例】
本例は本発明による塗料ミストの不粘着化効果と分散性効果を確認するものであるが、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
本例で使用した簡易型の試験用の湿式塗装ブースの断面図を図2に示す。
簡易型の試験用の湿式塗装ブース10において、塗装スプレー12により表2の条件でアクリルウレタン系の焼き付け型クリアー塗料各5グラムを鋼板14に吹き付け塗装した。塗装ブース10の下部に未塗着塗料ミストを捕集するために塗装ブース水16として水約1.5 リットル保持した。この水には、表3に示す量の各化合物を含有させた。図示の簡易型装置では塗装ブース10は、せき18によっていくつかに区画され、最終的に塗料ミストが分離された水はポンプPにより循環使用される。実際の大型装置のときには上記塗装ブースから塗装ブース水を別の装置に回収して遠心分離などの手段により塗料ミストを分離してから循環水として利用してもよい。塗装ブース水中の塗料ミストを採取して、粘着性、分散性を比較した。結果を表3にまとめて示す。なお、表3には参考までに回収された塗料ミスト、つまり塗料粕の脱水後の含水率を示す。
【0034】
粘着性試験
○ 触れても粘着しない
△ 触れるとやや粘着する
× 触れると粘着する
分散性試験
◎ 撹拌により塗料ミストが再分散
○ 撹拌により塗料ミストが大部分分散
△ 撹拌により塗料ミストが一部分分散
× 撹拌しても1つの塊状で再分散しない
アクリルウレタン系のクリアー塗料についても、塗料ミストを捕集する水にポリカルボジイミド系化合物を含有させることによって、塗料ミストの不粘着性、分散性が著しく改善され、実質的に粘着性のない、分散性に富んだ、取り扱い容易な塗料ミストを回収することができた。回収された塗料ミストの外観は、水にポリカルボジイミド系化合物を含有させなかった場合と同じであった。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【発明の効果】
本発明により、湿式塗装ブースにおける塗装ブース水に、あるいは塗装ブースからの塗装ブース水に、あるいはそれから塗料ミストを分離・回収した循環水に、ごく少量のポリカルボジイミド系化合物を含有させるという安価で簡便な手段により、この化合物が持つ塗料ミストの不粘着化効果、分散性効果という効果を塗料ミストに付与することができ、塗料ミストの凝集分である塗料粕の廃棄またはリサイクルを行う上での省力化できる自動分離回収装置の導入ができると同時に、循環水の配管系や循環ポンプ、固液分離装置への塗料ミストの付着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】カルボジイミド基の反応式を示す説明図である。
【図2】簡易型の湿式塗装ブースの断面図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、湿式塗装ブースから回収される塗装ブース水に含まれる塗料ミストを効果的に不粘着化し、その塗料ミストが凝集した塗料粕に分散性を付与して省力化の為の自動分離回収システムを導入可能とする、塗装ブース水の処理剤と、この処理剤を用いた塗装ブース水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車車体等の複雑な形状の物体の塗装には、スプレーガンを用いて塗料をミスト化して吹き付ける吹き付け塗装法が用いられる。吹き付け塗装では、被塗物に付着するのは平均して塗料の30%程度である。そのため、吹き付け塗装を行う際に、被塗物に付着しなかった未塗着のオーバースプレー塗料を湿式塗装ブースのウォーターカーテンにより捕捉して、塗料ミストとして水中に捕集するのが一般的である。水中に捕集された塗料ミストは凝集するので、遠心分離等の適当な固液分離法によりスラッジ状に凝集した塗料ミストを塗料粕として水から分離する。塗料粕が除去された水は、通常は塗装ブースに戻されて循環利用される。即ち、循環水として利用される。以下において、凝集した塗料ミストである塗料粕が除去されて循環使用される水を単に循環水と言う。
【0003】
塗装ブース水から塗料粕を分離する場合、従来は、作業者が手や網カゴ等を使用して分離除去していたが、近年では、省力化の為に、ポンプアップ、配管移送、遠心分離等の手段をシステムとして備えた自動分離回収装置の使用が増加している。
【0004】
かかる自動分離回収装置としては下記の2種があるが、最近では分散型処理システムが徐々に増加する傾向がある。
すなわち、分散型処理システムは、塗装ブース水に分散した塗料粕を遠心分離器等の固液分離システムを用いて、脱水・回収するシステムであり、そのメリットとしては次のような点を挙げることができる。
▲1▼循環水の収容槽の小型化が可能である。
▲2▼循環水の収容槽の清掃頻度の低減が可能である。
▲3▼塗料粕の自動連続回収が容易である。
▲4▼循環水の収容槽への塗料粕の堆積をなくすことにより、悪臭の発生が防止できる。
▲5▼排出される塗料粕の含水率を低下させることにより、廃棄物量の削減が可能である。
【0005】
これからも明らかなように、分散型処理システムに対応するために塗料粕の不粘着化効果に加えて優れた分散効果が必要である。したがって、それに使用する処理剤としても塗料粕を構成する塗料ミストの不粘着化とともに分散性を改善するものが要求される。
【0006】
ここに、分散型処理システムに対するものとしては浮上分離型システムがあり、これは塗料粕を分離浮上させた後に回収するシステムである。
循環水から分離されて回収された塗料粕は、従来は埋め立て処理で廃棄されることが多かったが、近年では、乾燥及び粉砕した後、助燃剤、コンクリート助剤、自動車のアンダーボディー用塗料や燃料タンク用の水性エマルジョン塗料等のフィラーとしてリサイクル利用されることも行われている。
【0007】
なお、本明細書において以下便宜上、塗料ミストと塗料粕を同義として用いる。
自動車車体等に使用される吹き付け塗料は、通常はアクリル系またはウレタン系の焼き付け型塗料である。循環水中に含まれる塗料ミストは、焼き付けを受けておらず、未硬化であることから、粘着性が高い。そのため、塗装ブース水中の塗料ミストの凝集物が循環ポンプ、配管、固液分離装置などに付着し、塗料ミストの回収や循環水の循環が困難になるといった厄介な問題があり、又、捕捉された塗料ミストがお互いに凝集して大きな凝集物になり、ポンプアップや配管移送ができるように塗料ミストの分散性が維持できず前述のような自動分離回収装置の導入ができないといった厄介な問題もあった。
【0008】
これまでも問題を解決するため、塗料ミストを不粘着化させたり、分散させたりする目的で、塗装ブース水の処理剤が使用されてきた。これまで知られている処理剤の例としては、ベントナイト等の粘土鉱物、セピオライト(特殊な繊維状鉱物)、アルカリ剤、両性金属化合物、カチオン性ポリマー、コロイダルシリカ等があり、これらの2種以上を組み合わせる提案もされている(特許文献1〜6を参照)。
【0009】
また、塗装ブースでの使用に限定されていないが、有機汚染物廃水や廃棄物質懸濁液処理において、スメクタイトを使用する提案もされている (特許文献7〜8を参照) 。
【0010】
このように、従来の塗装ブース水の処理剤としては、塗料ミストの不粘着化や分散性の両方の性能を付与しようとすると、水に不溶性の薬剤類はポンプによる注入が困難である、そして、少量では十分な効果を示さない、といった問題点があり、将来の省力化や低コストの要望を考えると、これまでの処理剤は満足できるものではなかった。
【0011】
【特許文献1】特許第2648351号明細書
【特許文献2】特開平8−259896号公報
【特許文献3】特開平10−180007号公報
【特許文献4】特開平11−672号公報
【特許文献5】特開平11−77061号公報
【特許文献6】特開平11−267659号公報
【特許文献7】特許第2506522号明細書
【特許文献8】特開平6−226264号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述したような問題点を解消した、塗装ブース水に少量添加するだけで塗装ブース水中の塗料ミストを不粘着化することができ、かつ、凝集した塗料ミストの分散性を付与することができる、塗装ブース水の処理剤およびそれを利用した塗装ブース水の処理方法を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、樹脂の架橋剤・改質剤として知られているポリカルボジイミド系化合物を湿式塗装ブースからの塗装ブース水に添加すると、0.025 〜0.05g/l といった低濃度でも塗料ミストを不粘着化し、分散性も付与できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
ここに、本発明は、水溶性ポリカルボジイミド樹脂を含有することを特徴とする、塗装ブース水の処理剤である。
別の面からは、本発明は、湿式塗装ブースにおける、またはそれから回収され、例えば焼き付け型塗料の塗料ミストを含有する塗装ブース水に、または塗装ブース水から塗料ミストを分離・回収して湿式塗装ブースに循環使用する循環水に、水溶性ポリカルボジイミド樹脂を添加させることを特徴とする、塗装ブース水の処理方法である。これらの塗装ブース水および循環水を単に「塗装ブース水」と総称することもある。
【0015】
好適態様において、本発明にしたがって処理した後の塗装ブース水から塗料ミスト、つまり塗料粕を分離した後、残りの水を塗装工程に循環使用し、この循環水に処理剤を添加するのである。塗料ミストは、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有する化合物から選ばれた少なくとも1種の塗料ミストである。
【0016】
本発明の場合、雲母、スメクタイトなどの粘土鉱物をさらに含有させることで、またカチオン性ポリマーをさらに含有させることで、カルボジイミド化合物の作用効果はさらに改善される。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明では、湿式塗装ブースにおける塗装ブース水または湿式塗装ブースから回収された塗装ブース水 (以下、単に「湿式塗装ブースからの塗装ブース水」ともいう) の処理剤として、ポリカルボジイミド系化合物を使用する。
【0018】
ポリカルボジイミド系化合物はカルボジイミド基を含むノニオン性ポリマーであり、−N=C=N−の構造を有する。ポリカルボジイミド系化合物はこれまで、樹脂の物性改良等に用いられており、架橋剤・改質剤と考えられている。
【0019】
本発明で使用するのが好ましいポリカルボジイミド系化合物は、ポリカルボジイミド樹脂に親水性を付与した水溶性ポリカルボジイミド樹脂である。
塗料ミストを含有する塗装ブース水にポリカルボジイミド系化合物を添加すると、塗装ブース水中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有するような塗料ミストの粘着性が低下し、粘着性のない塗料ミストが得られ、塗装ブースを循環する間に塗料ミストやその凝集物が配管系、循環ポンプ等に付着することが防止され、かつ、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有するような塗料ミストが大きく凝集することを抑制し、分散性が付与でき、省力化のための自動分離回収装置が導入できるようになる。
【0020】
ポリカルボシイミド系化合物が塗料ミストの不粘着性や分散性の付与ができる理由は解明されていないが、図1に示すようにカルボキシル基、水酸基、アミノ基と反応してカルバモイルアミド、イソウレア、グアジニンを形成する反応が関係しているものと推測される。例えば、塗料がアクリル系やウレタン系である場合には、ポリカルボジイミド系化合物が架橋反応により、カルボキシル基や水酸基と反応して硬化することが考えられる。
【0021】
ポリカルボジイミド系化合物の循環水への添加は、ポリカルボジイミド系化合物の濃度が0.001 〜50g/l となるように行うことが好ましく、より好ましい濃度は0.01〜1g/lである。最初の建浴時にポリカルボジイミド系化合物の循環水中の濃度が上記範囲内となるようにしても、塗装ブース水中の塗料ミストの成分と反応してポリカルボジイミド系化合物が消費されるので、必要に応じて、塗装ブース水にポリカルボジイミド系化合物を補給して、処理水中のポリカルボジイミド系化合物の濃度を上記範囲内に保持するようにすることが好ましい。このように、従来の処理剤に比べて、ポリカルボジイミド系化合物の添加量は非常に少量でよい。
【0022】
本発明の処理剤を塗装ブース水または循環水に含有させることで、塗料ミストを不粘着化し、分散性も付与することができるのであるが、そのときの塗料は、焼き付け型塗料であり、好ましくはカルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルボニル基を有する塗料材料である。
【0023】
湿式塗装ブースからの塗装ブース水には、ポリカルボジイミド系化合物に加えて、ポリカルボジイミド系化合物との反応性が著しくなければ、従来技術で塗料ミストの不粘着化目的に使用されてきた各種処理剤を併用してもよい。そのような処理剤の例としては、例えば、粘土類、セピオライト、両性金属化合物、カチオン性ポリマー、アルカリ剤がある。それらの添加量は、従来技術と同様でよい。
【0024】
従来にあって、粘土鉱物として各種のものが使用されてきたが、雲母は使用されることがなかった。また、スメクタイトは有機系廃水の排水処理で提案されているだけであった。
【0025】
本発明の場合、雲母および/またはスメクタイトはポリカルボジイミド系化合物と併用することで、特に顕著な効果を発揮する。
本発明の別の態様にあっては、さらにカチオン系ポリマーとして、ポリイミン、ポリアミン、ポリアリルアミンとその塩、ポリジアリルアミン四級アンモニウム塩、およびアクリルアミドのカチオン変性物より選ばれる化合物の少なくとも1種を含有させることにより、特に顕著な効果を発揮する。
【0026】
より具体的には、表1に示すポリアクリルアミドアンモニウム塩コポリマー、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン塩コポリマー、ポリアリルアミン塩などのカチオン性ポリマーについても同様に併用による効果がある。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明に従ってポリカルボジイミド系化合物を添加することにより処理された塗装ブース水は、その後、従来と同様に、遠心分離等の適当な固液分離手段により、循環水と塗料粕とに分離する。ポリカルボジイミド系化合物によって塗料ミストが不粘着化され、かつ、分散性も付与されているため、分離された塗料粕は粘着性がなく、粉砕性も良好で、取り扱いが容易である。
【0029】
この塗料粕は、そのまま乾燥して埋め立て処分で廃棄してもよいが、乾燥後に粉砕して、樹脂としてリサイクルすることも可能である。リサイクル可能な用途としては、助燃剤、コンクリート助剤、自動車のアンダーボディー用塗料や燃料タンク用の水性エマルジョン塗料等のフィラーがある。
【0030】
塗装ブース水の処理に際して添加する本発明にかかる処理剤は塗装ブース内の塗装ブース水に、あるいはそれから回収された塗装ブース水に、もしくはそれから塗装ミストを分離・回収した残りの水、つまり循環水に添加して含有させてもよい。
【0031】
本発明による塗装ブース水の処理剤には、必要に応じて、適宜防錆剤、消泡剤、消臭剤、抗菌剤等を添加することができる。
【0032】
【実施例と比較例】
本例は本発明による塗料ミストの不粘着化効果と分散性効果を確認するものであるが、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
本例で使用した簡易型の試験用の湿式塗装ブースの断面図を図2に示す。
簡易型の試験用の湿式塗装ブース10において、塗装スプレー12により表2の条件でアクリルウレタン系の焼き付け型クリアー塗料各5グラムを鋼板14に吹き付け塗装した。塗装ブース10の下部に未塗着塗料ミストを捕集するために塗装ブース水16として水約1.5 リットル保持した。この水には、表3に示す量の各化合物を含有させた。図示の簡易型装置では塗装ブース10は、せき18によっていくつかに区画され、最終的に塗料ミストが分離された水はポンプPにより循環使用される。実際の大型装置のときには上記塗装ブースから塗装ブース水を別の装置に回収して遠心分離などの手段により塗料ミストを分離してから循環水として利用してもよい。塗装ブース水中の塗料ミストを採取して、粘着性、分散性を比較した。結果を表3にまとめて示す。なお、表3には参考までに回収された塗料ミスト、つまり塗料粕の脱水後の含水率を示す。
【0034】
粘着性試験
○ 触れても粘着しない
△ 触れるとやや粘着する
× 触れると粘着する
分散性試験
◎ 撹拌により塗料ミストが再分散
○ 撹拌により塗料ミストが大部分分散
△ 撹拌により塗料ミストが一部分分散
× 撹拌しても1つの塊状で再分散しない
アクリルウレタン系のクリアー塗料についても、塗料ミストを捕集する水にポリカルボジイミド系化合物を含有させることによって、塗料ミストの不粘着性、分散性が著しく改善され、実質的に粘着性のない、分散性に富んだ、取り扱い容易な塗料ミストを回収することができた。回収された塗料ミストの外観は、水にポリカルボジイミド系化合物を含有させなかった場合と同じであった。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【発明の効果】
本発明により、湿式塗装ブースにおける塗装ブース水に、あるいは塗装ブースからの塗装ブース水に、あるいはそれから塗料ミストを分離・回収した循環水に、ごく少量のポリカルボジイミド系化合物を含有させるという安価で簡便な手段により、この化合物が持つ塗料ミストの不粘着化効果、分散性効果という効果を塗料ミストに付与することができ、塗料ミストの凝集分である塗料粕の廃棄またはリサイクルを行う上での省力化できる自動分離回収装置の導入ができると同時に、循環水の配管系や循環ポンプ、固液分離装置への塗料ミストの付着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】カルボジイミド基の反応式を示す説明図である。
【図2】簡易型の湿式塗装ブースの断面図である。
Claims (7)
- 水溶性ポリカルボジイミド樹脂を含有することを特徴とする、塗装ブース水の処理剤。
- さらに、雲母、および/またはスメクタイトを含有することを特徴とする、請求項1記載の塗装ブース水の処理剤。
- さらに、カチオン系ポリマーとして、ポリイミン、ポリアミン、ポリアリルアミンとその塩、ポリジアリルアミン四級アンモニウム塩、およびアクリルアミドのカチオン変性物より選ばれる化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1または2記載の塗装ブース水の処理剤。
- 湿式塗装ブースにおける塗料ミストを含有する塗装ブース水に、または塗装ブースから回収される塗装ブース水に、または塗装ブース水から塗料ミストが分離・回収されて湿式塗装ブースに循環使用される循環水に、水溶性ポリカルボジイミド樹脂を含有させることを特徴とする、塗装ブース水の処理方法。
- 前記塗装ブース水にまたは循環水に、さらに雲母、および/または、スメクタイトを含有させることを特徴とする、請求項4記載の塗料ブース水の処理方法。
- 前記塗装ブース水にまたは循環水に、さらに、カチオン系ポリマーとして、ポリイミン、ポリアミン、ポリアリルアミンとその塩、ポリジアリルアミン四級アンモニウム塩、およびアクリルアミドのカチオン変性物より選ばれる化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項4または5記載の塗装ブース水の処理方法。
- 塗装ブース水から塗料ミストを塗料粕として分離した後、残りの水を塗装工程に循環使用する、請求項4〜6のいずれかに記載の処理方法。
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