JP3551809B2 - ステンレス鋼板の脱スケール方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ステンレス鋼板の製造過程で鋼板表面に生成した酸化スケールを効率よく除去するための脱スケール方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼板を製造する際には、熱間加工や焼鈍処理等の工程で鋼板表面に酸化スケールが生成する。この酸化スケールを除去する方法には幾つかの方法があるが、ステンレス鋼帯の仕上げ焼鈍後のように酸化スケールが薄い場合にはアルカリ溶融塩処理や中性塩電解法のようにスケール自体を溶解して除去する方法が一般に採用されている。
【0003】
一方、熱間圧延後のステンレス鋼板のようにスケールが厚い場合には、酸洗によってスケール直下の地金を溶解して剥離する方法が採られている。この場合、酸洗液としては鋼種やスケール付着程度などによって硫酸、塩酸、硝酸および弗酸等を単独あるいは数種類を混合した酸洗液が用いられている。
【0004】
工業的には、連続酸洗ラインで上述の酸洗液にステンレス鋼板を浸漬して脱スケールする方法が採られているが、この浸漬する方法では脱スケールに要する時間が長くなるためライン速度を速くすることができないので生産性を上げることができない。ライン速度を速くして生産性を上げるためには、連続酸洗ラインにおける酸洗槽の長さを長くしなければならないので、設備費が嵩むという問題があった。
【0005】
一方、被酸洗材表面に酸洗液をスプレー噴射して酸洗する場合があるが、この方法では酸洗効率が高まるという利点はあるものの,単純にスプレー酸洗するだけでは多数のスプレーノズルが必要となり、設備費やメンテナンスの点で問題がある。それを解決するための方法も提案されている。
【0006】
特開昭54−81162号公報には、スプレー酸洗方法として、被酸洗材の上面には被酸洗材の進行方向と逆向き、下面には進行方向と同じ向きにプレーノズルを傾斜させて酸洗液を噴射する方法が開示されている。この方法により比較的少数のスプレーノズルで脱スケール効率を向上させることができるものの、酸洗ライン全体にスプレーノズルを配置することを前提とした方法であるためやはり多くのノズルが必要となり、設備費が嵩む。
【0007】
特開昭63−192882号公報には、被酸洗材に酸洗液をスプレー噴射する方法と酸洗液中に浸漬する方法を併用する連続酸洗方法が開示されている。この方法では、スプレー噴射する時間を全酸洗時間のうち30%以上とすれば酸洗処理時間を最小にすることができるとされている。
【0008】
しかしながら、この方法でも鋼板の酸化スケールの付着状態やスプレーノズルからの酸洗液の噴射条件によっては、逆に酸洗処理時間が長引いてしまう場合があり、酸洗時間が不安定となり脱スケールを高速化するのに問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ステンレス鋼板の製造過程で鋼板表面に生成した酸化スケールを高速に除去するための連続酸洗方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)表面に生成した酸化スケールに機械的手段によりクラックを発生させたステンレス鋼板を走行させながら、その鋼板表面にスプレーノズルから酸洗液を噴射し、次いで鋼板を酸洗液に浸漬または浸漬に相当する状態にして地金を溶解することによって脱スケールする方法であって、酸洗液の温度を50〜90℃とし、酸洗液の噴射量を鋼板表面1cm2当たり0.05リットル/分以上とし、かつステンレス鋼板が酸洗液噴射帯を通過する時間を、酸洗液による全脱スケール時間の20%以上とすることを特徴とするステンレス鋼板の脱スケール方法。
【0012】
(2)酸洗液噴射用のスプレーノズルとして、扇形ノズルを用いる上記(1)記載のステンレス鋼板の脱スケール方法。
【0013】
なお、全脱スケール時間とは、ステンレス鋼板が、スプレーノズルからの酸洗液の噴射帯を通過する時間と、脱スケールする目的で浸漬する区間または浸漬に相当する状態にした区間(以下、浸漬帯と記す)を通過する時間との合計した時間をいう。後述するが実際の酸洗ラインでは、第2、第3酸洗槽が設けられて脱スケール後のステンレス鋼板を浸漬して酸洗する場合もあるが、これらは脱スケールを主目的としたものでないから、これらの酸洗時間は含まないものとする。
【0014】
また、浸漬に相当する状態とは、鋼板全表面が酸洗液に接触している状態をいう。
【0015】
本発明者らは、スプレーノズルから酸洗液を噴射して酸洗する方法(以下、スプレー酸洗と記す)に着目し、ステンレス鋼板の酸洗速度を高速化する方法について鋭意実験、検討した結果、以下の知見を得て本発明を完成するに至った。
【0016】
a)ステンレス鋼板表面に生成した酸化スケールは非常に強固であるため、酸化スケールに向けて、酸洗液を単にスプレーノズルから噴射しても地金が溶解し始めるまでに長時間を必要とし、脱スケールの高速化はできない。しかし、噴射前に酸化スケールに微細なクラックを発生させておけば、クラック内に酸洗液がよく浸透して噴射中にも地金が溶解し始め酸洗時間の短縮化が可能となる。
【0017】
b)スプレー酸洗では、地金の溶解を十分に進行させる必要はなく、連続的にステンレス鋼板を酸洗液に浸漬した状態にすることにより、地金の溶解が進み脱スケール時間が大幅に短縮され、またスプレーノズル数を少なくすることができる。
【0018】
c)酸化スケールにクラックを発生させたステンレス鋼板に酸洗液を噴射する場合に必要なスプレーノズルからの酸洗液の噴射量は、鋼板1cm2当たり0.05リットル/分以上である。
【0019】
d)ステンレス鋼板を酸洗液噴射帯を通過させる時間は、全脱スケールに要する時間の20%以上であれば、酸洗液の噴射効果が得られる。
【0020】
e)使用するノズルは、扇形ノズルが好適である。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の脱スケール方法を実施するのに用いる装置例を示す縦断面図である。
【0022】
この装置では、ステンレス鋼板5は搬送ロール11により、ショトブラスト装置1、第1酸洗槽2、ブラッシングおよび水洗装置3、さらに第2酸洗槽4内を順次連続的に搬送されて脱スケールされる。
【0023】
第1酸洗槽2内には、ステンレス鋼板5の上面と下面に酸洗液を噴射するためのスプレーノズル6が設置されており、酸洗液噴射帯9が形成されている。その下流には浸漬ロール7により鋼板が酸洗液8a内に浸漬される浸漬帯10が形成されている。
【0024】
以下、本発明の脱スケール方法において規定した各条件について説明する。
【0025】
1)酸化スケールにクラックを発生させる手段
ステンレス鋼板表面に生成した酸化スケールにクラック(割れ目)を発生させるのは、酸洗液を噴射したときに酸化スケールへの酸洗液の浸透を容易にするためで、浸透した酸洗液により地金を溶解することができる。したがって、クラックはできるだけ微細なものが好ましい。クラックのない酸化スケールに酸洗液を噴射したのでは酸洗時間を短縮することができない。
【0026】
また、このクラックの発生を機械的手段としたのは、この手段であれば、強固な酸化スケールに簡単にクラックを発生させることができるからである。機械的手段としては、千鳥状に配置した複数のロール間をステンレス鋼板を通過させて、繰り返し曲げ加工を施す方法、金属ワイヤによるブラッシングおよびショットブラスト等でよい。
【0027】
2)スプレーノズルによる酸洗液の噴射
スプレーノズルから酸洗液を噴射するのは、常に新鮮な酸洗液を酸化スケールのクラック内に供給するため、および酸洗液の衝突力でスケールクラック内への酸洗液の浸透を加速するためである。クラック内に浸透した酸洗液が地金を溶解し始めて脱スケールが速く進行する。
【0028】
また、スプレーする酸洗液の温度を50〜90℃とした理由は以下の通りである。
【0029】
オーステナイト系ステンレス鋼板の場合の好適な温度は50〜70℃、またフェライト系ステンレス鋼板の場合の好適温度は70〜90℃である。これらの下限温度未満では、ステンレス鋼板と酸洗液との化学反応が緩慢となり、脱スケールの高速化が図れない。一方、双方の上限の温度を超えると、酸洗液の蒸発が激しくなると共に、鋼板の肌荒れを引き起こすことから、酸洗液の温度は50〜90℃とした。
【0030】
酸洗液の噴射量は、鋼板1cm2当たり0.05リットル/分以上の量で、クラックへの酸洗液の供給が顕著となり、優れた脱スケール効果が得られるので下限を0.05リットル/分とした。この流量は多い程よいので上限はとくに規定しないが、設備費を下げる観点から、0.2リットル/分以下程度が好ましい。それ以上増加させても脱スケールの効果はほとんど上がらない。
【0031】
ノズルからの酸洗液の噴射量をV(リットル/分)とすると、鋼板表面1cm2当たりに噴射される流量v(リットル/分)は下記式で求められる。
【0032】
v=V/S
ただし、Sはノズルから噴射された酸洗液が鋼板表面に当たる面積とする。
【0033】
図2は、スプレーノズルから噴射されたスプレー液の形状を示す図で、図2(a1)〜(c1)は、スプレーノズル6からの酸洗液の噴射状態の側面図、(a2)〜(c2)は噴射部の断面形状を示す。図2(a1)、(a2)は扇形ノズルの線状型、同図(b1)、(b2)は扁平型を示す。また、同図(c1)、(c2)は充円錐広がり型ノズルの場合である。
【0034】
充円錐広がり型ノズルは、噴射された液が広範囲に広がるため単位面積当たりの噴射流量は少なくなってしまうので、鋼板表面1cm2当たり0.05リットル/分以上の噴射量にするのは困難である。それに対して、扇形ノズルは噴射の広がりが絞り込まれるので、同じ流量の液体を噴射した場合に充円錐広がり型ノズルに比べて単位面積当たりの噴射量を多くすることができるという利点があるので、扇形ノズルを用いるのが好ましい。
【0035】
次に、ノズルの好ましい配置について説明する。
【0036】
図7は、ノズルの配置を説明するための図で、図7(a)は平面図、同図(b)は側面図である。
【0037】
図7(a)に示すように、扇形ノズルを用いる場合は、ノズルからの酸洗液が鋼板の幅W方向に広がるように配置し、鋼板の幅方向におけるノズルとノズルとの間隔wは下記式で示す範囲内にするのが好ましい。
【0038】
a<w<2a
ここで、aは図7(a)に示すように酸洗液の幅広がり(mm)を示す。
【0039】
ノズルとノズルとの間隔wが小さくなると、多数のノズルが必要となる。逆にwが大きくなり過ぎると酸洗液の当たらない部分がおおくなる。ノズルの鋼板5の進行方向(矢符方向L)への配置は、図7(a)に示すようにノズルを千鳥状に配置するのが好ましい。このような配置により、少ないノズルで鋼板の幅方向全面に酸洗液を噴射することができる。
【0040】
なお、ノズルからの酸洗液の噴射広がり幅aは、ノズル噴射角度をθ(図2参照)、鋼板からノズルまでの高さをhとすると、下記式で求めることができる。
【0041】
a=2×h×tan(θ/2)
鋼板の走行方向におけるノズルとノズルの間隔L1は、下記式で示す範囲にするのが好ましい。
【0042】
0.5×R<L1<5×R
ここで、Rは鋼板の走行速度(mm/秒)とする。
【0043】
所定の温度に加熱した酸洗液を鋼板表面にスプレー噴射すると、ノズル直下の酸洗液が直接当たる部分の鋼板は酸洗液と同じ温度にまで昇温されるが、酸洗液の当たらない部分の鋼板温度は低下する。鋼板の走行方向に複数配列したスプレーノズルから酸洗液を噴射する場合は、鋼板に繰り返し酸洗液が噴射されることになる。スプレー噴射される間隔が5秒以上になると、その間に鋼板の温度が大幅に低下して十分な脱スケール効果が得られない。下限を0.5秒とするのは、ノズルの配列数が多くなりすぎ設備費が高くなるためである。
【0044】
ノズルの鋼板からの高さhは、酸洗液の鋼板への衝突力等から100〜300mm程度が好適である。
【0045】
ステンレス鋼板が酸洗液噴射帯を通過する時間を、全脱スケール時間の20%以上としたのは、20%未満では、スプレー酸洗の効果が十分に得られず、脱スケール時間は浸漬酸洗方式に比べてほとんど改善されないからである。酸洗液噴射帯は長い程よいので上限は特に限定しないが、連続酸洗ラインの全体をスプレー噴射方式にすることは、スプレーノズル数を増やしたりポンプ設置数の増加など、多大な設備投資が必要になる。このような理由から、ステンレス鋼板が酸洗液噴射帯を通過する時間は全脱スケール時間の50%以下にとどめておくことが望ましい。
【0046】
酸洗液としては、SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼では硝酸と弗酸の混酸(以下、弗硝酸と表記)を、SUS430などのフェライト系ステンレス鋼の場合には弗硝酸あるいは硫酸を用いることができる。
【0047】
3)酸洗液に浸漬または浸漬に相当した状態での脱スケール
スプレー酸洗のみにより脱スケールするには、多数のスプレーノズル、ポンプ等が必要となり、設備費が高くなるので、適当なスプレー酸洗を施した後は酸洗液に浸漬した状態にして地金を溶解する。
【0048】
ステンレス鋼板を酸洗液に浸漬した状態にする方法としては、図1に示すように浸漬ロール7により鋼板を酸洗液中に連続的に浸漬させる方法が最もよい。
【0049】
また、浸漬以外の方法であっても下記するように鋼板全表面が酸洗液に接触している状態が維持されていればよい。
【0050】
図3は、ステンレス鋼板への酸洗液の噴射帯9、酸洗液に浸漬した状態に相当する状態を具現化させるようにした浸漬帯10を示す。図3(a)は、噴射ノズル6が並んだ噴射帯9を通過した後の鋼板に噴射面積の広い充円錐型ノズル6aを並べた場合である。また、同図(b)は酸洗液をシャワー状に供給できるノズル6bを並べた場合を示す。
【0051】
このように、ステンレス鋼板表面の酸化スケールのクラック内に酸洗液を噴射した後、鋼板表面に酸洗液が存在するように、言い換えれば鋼板全表面が酸洗液に接触するようにノズル6aまたは6bから酸洗液を供給することにより鋼板温度の低下を防止して地金の溶解を促進させる方法でもよい。
【0052】
浸漬または浸漬に相当する状態にして地金を溶解するのに用いる酸洗液は、スプレーノズルから噴射する酸洗液と同じ温度および組成でよく、供給量は鋼板表面1cm2当たり0.05リットル/分以下でよい。
【0053】
なお、第1酸洗槽を通過した鋼板は、ブラッシングおよび水洗装置3により鋼板表面がブラッシングされ鋼板表面に残存している酸化スケールが除去され水洗される。必要により第2酸洗槽内に搬送され酸洗液8bに再度浸漬される場合がある。第1酸洗槽を通過した時点で、酸化スケールはほぼ鋼板表面から分離しており、ブラッシングすることによりほぼ完全に脱スケールが完了する。しかし、製造工程中で発生する表面欠陥を溶解除去する必要があれば、上述のブラッシング装置3の後段に1〜2槽の酸洗ゾーン4を設けて地金に残った表面欠陥を溶解除去してしまうことが望ましい。
【0054】
上述のごとく酸洗液をスプレーしてスケールクラックへの酸洗液の浸透が進行した段階で、ステンレス鋼板の全表面を酸洗液に接触させながら鋼板の温度低下が生じないような状態を維持しておくことでスケール直下の地金が溶解して脱スケール時間が短縮される。
【0055】
【実施例】
(実施例1)
板厚が3.2mmのSUS304のオーステナイト系ステンレス熱延鋼板に、下記の条件でショットブラスト処理を施し、鋼板表面の酸化スケールに微細なクラックを発生させた。この熱延鋼板から、酸洗試験片(幅60mm、長さ60mm)を切り出し、以下に示す酸洗試験をおこなった。
【0056】
ショットブラス条件:
粒径0.5mmのスチール製ショットを投射密度100kg/m2で投射
図2(a2)に示す噴射形状が線状である扇形ノズル、図2(b2)に示す噴射形状が扁平型である扇形ノズル、および図2(c)に示す噴射形状が円状の充円錐形ノズルを用い、60℃の弗硝酸酸洗液(2%弗酸+8%硝酸水溶液)を0秒間試験片表面に向けてスプレーノズルから噴射量1〜8リットル/分・cm2で種々変化させて試験した。使用した各スプレーノズルの使用は以下の通りあった。試験片表面とノズル先端間はいずれも150mmとした。
【0057】
噴射形状が線状である扇形ノズル:
噴射角度80度、噴射幅(図2(a2)のb)10mm
噴射形状が扁平広がり型である扇形ノズル:
噴射角度80度、噴射幅(図2(a2)のa)24mm
噴射形状が円状の充円錐形ノズル:
噴射角60度
噴射終了後、試験片を水洗してスケールの残存状況を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。なお、比較のためショットブラス処理を施していない熱圧鋼板から切り出した試験片を上記と同じ酸洗液に30秒間浸漬し、水洗後表面の残存スケールを観察した。
【0058】
スケール残存状況を下記の5段階の点数で評価した。この場合に、脱スケール判定点が4以上(すなわち脱スケール面積率が90%以上)であれば、次工程以降で表面品質としても問題の生じないレベルである。
【0059】
5:スケールが完全に除去された(脱スケール面積率が100%)
4:30倍で観察して僅かにスケール残りあり(90%以上、100%未満)
3:目視で観察して僅かにスケール残りあり(80%以上、90%未満)
2:目視で観察してスケール残りあり(50%以上、80%未満)
1:目視で観察して著しいスケール残りあり(50%未満)
図4は、評価結果を示す図である。スプレー噴射量が0は、浸漬酸洗の場合である。同図から明らかなように、浸漬酸洗の場合および噴射量が試験片1cm2当たり0.05リットル/分に満たない場合は、ほとんど脱スケールされていない。一方、本発明例である噴射量が0.05リットル/分以上の場合にはいずれも脱スケール判定点が4点以上であった。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同じ条件のオーステナイト系ステンレス鋼の酸洗試験片を用意し、扁平広がり型の扇形ノズルから実施例1と同様の酸洗液を試験片1cm2 当たり0.05リットル/分の流量で、噴射時間を種々変化させながら酸洗し、次いで直ちに噴射した酸洗液と同じ組成および温度の酸洗液に浸漬して酸洗処理をおこなった。この場合、酸洗による全脱スケール時間を28秒、42秒および56秒の3種とし、酸洗液の噴射時間を種々変化させることにより、酸洗液による全脱スケール時間に対する酸洗液噴射による酸洗時間の比率を変えた。
【0061】
さらに、実施例1同じ条件で酸化スケールにクラックを入れた板厚が3.2mmのSUS430のフェライト系ステンレス熱延鋼板からも同様に試験片を切り出し、上記オーステナイト系ステンレス鋼による試験と同じ条件で酸洗試験をおこなった。ただし、この場合酸洗による全脱スケール時間は56秒のみとした。
【0062】
浸漬酸洗が終了した後、各試験片を水洗し、実施例1と同じ基準で脱スケール状態を評価した。
【0063】
図5は、評価結果を示す図で、図5(a)はオーステナイト系ステンレス鋼の試験結果、図5(b)はフェライト系ステンレス鋼の試験結果である。
【0064】
これらの図から明らかなように、オーステナイト系およびスフェライト系ステンレス鋼帯とも本発明例であるスプレー酸洗時間の比率が20%を超える場合には、脱スケール判定が4点以上に達している。
【0065】
また、本発明例のごとくスプレー酸洗と浸漬酸洗を併用することで酸洗時間が28秒間であっても、56秒間浸漬酸洗した場合(スプレー酸洗比率が0の場合)と同等以上の脱スケール効果が得られ、脱スケール時間の短縮がはかられた。
【0066】
(実施例3)
板厚が3.2mmのSUS430のフェライト系ステンレス熱延鋼板に、実施例1と同じ条件でショットブラスと処理を施し、鋼板表面の酸化スケールに微細なクラックを発生させた。この熱延鋼板から、酸洗試験片(幅60m、長さ60mm)を切り出し、下記の酸洗試験をおこなった。
【0067】
すなわち、80℃の20%硫酸水溶液を扇型ノズルから噴射量を種々変化させ噴射した場合に脱スケール面積率が90%に達したときの時間を測定した。
【0068】
図6は、測定結果を示す図で、酸洗液の噴射量と90%スケールが除去されるのに要した時間との関係を示す。同図から明らかなように、本発明例である噴射量が0.05リットル/分以上でほぼ50秒間の噴射で脱スケール面積率が90%に達しており、0.05リットル/分以下の場合に比べて脱スケール時間が短縮されている。
【0069】
【発明の効果】
本発明の脱スケール方法によれば、ステンレス鋼板に対してスプレーノズルから高流量の酸洗液を噴射してスケールクラック内への酸洗液の浸透をおこない、次いで、鋼板全表面を酸洗液に接触させて地金の溶解を促進してスケールを剥離することで脱スケールを高速化することができ、生産性が高まるばかりでなく、ライン長を短くすることができ設備的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を実施するための酸洗装置の一例を示した縦断面図である。
【図2】スプレーノズルから噴射された酸洗液の状態を示す図である。
【図3】酸洗液の噴射状態を示す図である。
【図4】スプレー噴射量と脱スケール性との関係を示す図である。
【図5】全脱スケール時間に対するスプレー酸洗時間の比率と脱スケール性との関係を示す図である。
【図6】酸洗液噴射量と脱スケール面積率が90%に達するに要する時間との関係を示す図である。
【図7】ノズルの配置を説明するための図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
1 ショットブラスト装置
2 第1酸洗槽
3 ブラッシング/水洗装置
4 第2酸洗槽
5 ステンレス鋼板
6 酸洗液噴射用スプレーノズル
7 浸漬ロール
8a、8b 酸洗液
Claims (2)
- 表面に生成した酸化スケールに機械的手段によりクラックを発生させたステンレス鋼板を走行させながら、その鋼板表面にスプレーノズルから酸洗液を噴射し、次いで鋼板を酸洗液に浸漬または浸漬に相当する状態にして地金を溶解することによって脱スケールする方法であって、酸洗液の温度を50〜90℃とし、酸洗液の噴射量を鋼板表面1cm2当たり0.05リットル/分以上とし、かつステンレス鋼板が酸洗液噴射帯を通過する時間を、酸洗液による全脱スケール時間の20%以上とすることを特徴とするステンレス鋼板の脱スケール方法。
- 酸洗液噴射用のスプレーノズルとして、扇形ノズルを用いる請求項1記載のステンレス鋼板の脱スケール方法。
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