JP3551676B2 - 微小磁性デバイス - Google Patents

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    • H01F10/08Thin magnetic films, e.g. of one-domain structure characterised by magnetic layers

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、STM(走査トンネル顕微鏡)およびその周辺の原子レベルでの微細加工技術や集積技術を用いて、固体表面上に原子サイズまで小さい微小磁気デバイス装置を構成し、磁気ディスク装置を構成する磁気記録ヘッドとして利用するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気ディスク装置の小型化、高記録密度化が急速に進んでおり、高記録密度化に対応して、微小サイズの磁気記録ヘッドが必要とされている。現在、広く用いられている磁気ヘッドは電磁誘導形であり、主に Mn−Zn フェライト・コアの周りにCu などの導体コイルを巻線として巻いた電磁石である。
【0003】
ここで記録方式としては、記録電流を導体コイルに流したとき現れる誘導磁界によって、磁性記録媒体に記録を書き込む方式を採用している。
【0004】
ところが、磁気記録密度の高密度化に伴い、磁気記録媒体の将来像としては数個から数百個の原子からなる微小サイズの磁気クラスターが記録単位を担うと予想される。しかし、従来の電磁誘導形磁気ヘッドの書き込みサイズの最小限界は0.1 マイクロメータ程度にあり、これ以下の空間サイズの微小な導体コイルを加工・作製することは困難である。従って、電磁誘導形磁気ヘッドでは、将来の高密度磁気記録媒体の記録単位である個々の微小サイズ・磁気クラスターに対して磁気的情報を記録することが非常に困難となる。
【0005】
一方、原子サイズ・レベルを実現した非磁気的な記録方式としては、例えば ネイチャー 第344巻(1990年)第524頁から第526頁 (Nature, Vol. 344 (1990),pp. 524−526)に見られるように、STMを用いて、Ni 固体表面上に複数個以上のXe 原子を人工的に並べ、原子1個1個を構成要素とした文字や図形を書く技術が開発されている。
【0006】
さらに、STMによる微細加工技術の最近の進歩によると、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・アプライド・フィジックス・レターズ第35巻(1996年)の第1085頁から第1088頁(Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 35 (1996) pp. L 1085−L 1088) に報告されているように、Si 基板表面上に Ga 原子を1次元方向に並べることにより、導電性が期待できる構造安定な Ga原子細線を作製することが可能となっている。
【0007】
しかしながら、これらの極微細表面構造において強磁性機能すなわち自発磁化を引きだし、さらには強磁性(自発磁化が非ゼロの状態)/常磁性(自発磁化がゼロの状態)のスイッチングを人工的に制御し、それらを磁気記録ヘッドとして利用できる原子サイズの磁気デバイスは、これまで実現されていないのが現状である。とくに、原子操作技術を、積極的に磁気記録方式の一部ないしは全体に応用した技術は存在しない。
【0008】
Fe, Co, Ni などの自発磁化が非ゼロであるバルク強磁性体を説明するためのモデルとして、ストーナー(Stoner)モデルがよく用いられている。物性科学辞典(東京大学物性研究所編、東京書籍、1996年)の第198頁から第200頁に記載されているように、このモデルでの強磁性発現の条件(ストーナー条件)は、電子相関エネルギーあるいは電子間のクーロン斥力をあらわすエネルギー Uとフェルミ準位での電子状態密度 D(Ef)を用いて、U×D(Ef)>1 によって表される。従って、ある物質が強磁性体であるには、フェルミ面上で非常に大きな状態密度 D(Ef) をもつ必要がある。
【0009】
しかし、Fe, Co, Ni など、バルクで上記ストーナー条件を満たす強磁性体を用い、微小サイズの原子クラスター系あるいは原子細線系を構成したとしても、原子サイズと同様な空間サイズの小さな系では、有限サイズ効果により状態密度D(Ef)が極端に低下するためストーナー条件が満たされなくなり、系の自発磁化は消失する可能性がある。従って、原子サイズで強磁性を得るには、必ずしもバルクで強磁性体となる物質群を用いることは、適切ではないと言える。逆に、バルクでは強磁性を示さない物質群であっても、ストーナー条件 U×D(Ef)>1 を満足させるように原子を配列し構成すれば、原子レベルで強磁性を発現させることができると期待できる。
【0010】
例えば、グラファイトはバルクで自発磁化を持たないにもかかわらず、ジャーナル・オブ・フィジカル・ソサエティ・オブ・ジャパン、65巻(1996年)、第1920頁から第1923頁において記載されているように、リボン状にしたグラファイトの端では原子スケールで自発磁化が現れることが理論的に予言された。しかしながら、この炭素原子構造はまだ実際に合成されるに至っていない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、STM等による微細加工技術により、固体基板表面上に原子をある程度任意の位置に制御して配列させることが可能であるから、この原子操作技術を利用し、非磁性原子からなる基板/表面原子の組み合わせにおいて、フェルミ準位近傍に大きな電子状態密度をもつように表面原子を配列・構成することができると期待される。さらには、人工的かつ強制的に原子レベルの強磁性体としての機能を引き出すことが期待できる。フェルミ準位は 通常の電界効果型トランジスターと同様なゲート電極構造を付加することにより、ゲート電圧 Vg 印加によりフェルミ準位 Ef の高低を変化させることができる。従って、Vg を変化させることにより、ストーナー条件 U×D(Ef)>1 を満足させ強磁性(磁化が非ゼロの状態)を得ること、あるいは逆にストーナー条件を強制的に破り、系を常磁性(磁化がゼロの状態)とするような変化を人工的に制御することが可能となる。
【0012】
すなわち、不変な原子構造において、電界効果だけで磁化の大きさを人工的に制御が可能であると期待される。
【0013】
本発明の目的は、STM、リソグラフィー等の微細加工技術により、非磁性の固体表面上に非磁性原子から成る原子クラスターや原子細線を配列して構成し、この極微小な表面構造に強磁性を人工的に発現させた微小磁性デバイスを提供することにある。
【0014】
本発明では、配列に用いる非磁性原子とは、元素周期率表の中で、単体として強磁性を示す Cr, Mn, Fe, Co, Ni、および ランタノイド系列にある Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm 、さらには不活性元素である He, Ne,
Ar, Kr, Xe, Rh を除いた元素群であると定義する。
【0015】
【課題を解決するための手段】
ここでは、電磁誘導形磁気ヘッドの電流印加による記録方式に対比して、固体表面上の原子クラスターや原子細線からなる微小磁気ヘッドの磁界を、固体表面に印加した電圧により制御する方式をとる。
【0016】
まず、非磁性の結晶基板表面上に、STM等の微細加工技術を利用して、非磁性原子から構成される原子クラスターまたは原子細線を作製する。この場合、表面構造の電子状態として、一部分または全体がほぼ平坦であるようなエネルギーバンドがフェルミ準位近傍に出現するように、原子を配列して構成する。このとき、電子状態密度(DOS)を電子エネルギー(E)の関数として見ると、フェルミ準位近傍に鋭いピークが存在することが
特徴である。次に、基板の他の部分にゲート電極部分を設ける。
【0017】
このような構造において、ゲート電極部分に電圧を印加することにより、原子クラスターまたは原子細線を含む表面構造に電界をかける。このゲート電極による電界効果を用い
フェルミ準位を上下させることにより、磁化を制御する。ここで、図1に示したように、フェルミ準位がちょうど平坦バンド(DOSの鋭いピーク)を横切るとき、表面構造には強磁性(磁化)が発現し、フェルミ準位が平坦バンド(DOSの鋭いピーク)をはずれると強磁性(磁化)が失われ常磁性状態となる。こうして、電界効果により 強磁性(磁化)発現の制御をすることが可能となる。
【0018】
ここで、基板に配列させる原子は非磁性原子であることを主要な特徴とするが、非磁性原子以外の原子が不純物として含まれる場合でも、強磁性発現のストーナー条件が破れない限り、自発磁化は発現しうる。
【0019】
磁気記録ヘッドとしての動作は、ゲート電圧の変化により、表面構造に人工的に強化を発現または消去させて、磁気記録媒体の記録単位にビット情報(磁化の向き)を書き込むことによる。
【0020】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
図2は本発明に係る微小磁性デバイスの原子配列構造を示すものである。本例では、同図(a)のように、非磁性のSi基板を用い、Si(100) 表面上の Si原子21の未結合ボンドすべてを水素原子22により終端する。これにより、化学的に不活性で安定した表面構造が得られる。基板は、Si 以外にも Ge 半導体結晶を用いても良い。次に、ジャパニーズ・ジャーナル・アプライド・フィジックス・レターズ第35巻(1996年)の第1085頁から第1088頁(Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 35 (1996) pp. L 1085−L 1088) に記載されているように、STMの探針を水素終端されたSi基板表面に近付け、探針に適当な電圧パルスを印加することにより、水素原子列を1列分だけ抜き取り、一次元の細線形状の水素未結合型のSiボンド列を作った。この水素未結合Siボンド列は、他の水素結合したSi 表面構造に比べて、化学的に活性である。そこで、本実施例では、イオン価が3価の金属原子である Ga 原子23を、上記の水素未結合Siボンド列に対して、熱蒸発源を用いて吸着させた。吸着原子は、他の3価の金属原子 B, Al, In, Tl でもよく、3価以外の原子や、これら複数種類の原子の組み合わせでもよい。
【0021】
本実施例では、基板表面に吸着させたGa原子23の個数は、未結合ボンド数の1.5倍とした。以上の原子操作・蒸着操作によって得られた原子スケールでの表面構造の例を図2(b)に示す。本実施例では、図2(c)に示すように、基本単位は、2つの Si 原子21と3つのGa 原子23から構成される一つの原子集団である。この基本単位から構成される任意の Ga原子細線が本実施例の対象である。
【0022】
また、このGa原子細線に対して、STMの探針を用いて走査トンネル・スペクトロスコピー(STS)を行ない、電子状態密度を電子エネルギーの関数として調べたところ、フェルミ・エネルギー近傍に図1に示したような鋭いピーク構造があることがわかった。
【0023】
図3は本発明に係る微小磁性デバイスの例である。同図に示したように、Ga原子31の細線が蒸着された Si(100) 基板32の背面部分にAu薄膜を蒸着し、このAu薄膜を背面ゲート電極33とした。
【0024】
図4は本発明に係る微小磁性デバイスの他の例である。本例では、ゲート電極43を基板42の背面部分ではなく、Ga原子41の細線近傍の基板表面上に構成している。図5は、このゲート電極に−10 ボルトから+10 ボルトの範囲で電圧Vg を印加した場合に、 Ga原子細線がもつ磁化の値 M が変化する様子を走査型磁気力顕微鏡(MFM)によって測定した例を示すものである。図5から明らかなように、ゲート電圧 Vg を適当に選ぶことにより、Ga原子細線の磁化の有無を制御することができる。また、このとき自発磁化(スピン)の向きは Ga原子細線に沿った方向にあることがわかり、原子サイズ・レベルの微小磁石として動作可能であることがわかった。
【0025】
以上のゲート電圧効果による磁化制御方法を用い、通常のバルクな磁気記録ヘッドと同様な操作によって、磁気記録媒体表面上に数百オングストローム程度の微小な 磁気記録スポットを書き込むことができた。この事実は 走査型磁気力顕微鏡(MFM)またはスピン走査型電子顕微鏡によって、書き込み操作後の磁気記録媒体表面を走査することにより確認された。
【0026】
(実施例2)
図6は本発明に係る微小磁性デバイスの原子配列構造を示すものである。本実施例では、同図(a)に示すように、完全に水素終端した Si (111) 表面を用い、実施例1で記載されたような未結合ボンド列を形成せずに強磁性デバイスを構成する。まず、水素終端 Si 原子61の表面を80Kの温度に保ち、ここにGa原子62を供給した後にSTMの探針を用いて個々のGa原子を動かし、Ga原子クラスターを形成する。本実施例における基本単位は、図6(b)に示したように、基板原子である2つの Si 原子と吸着原子である1つのGa 原子である。これらを基本単位として、任意の基本単位の組み合わせによって構成される原子クラスターが本実施例の対象となる。
【0027】
この Ga原子クラスターに対して、STMの探針を用いて、Ga 原子クラスターに対する走査トンネル・スペクトロスコピー(STS)を行ない、当該クラスターの電子状態密度を電子エネルギーの関数として調べたところ、フェルミ準位近傍に図1に示したような鋭いピーク構造があることがわかった。さらに、この原子クラスター構造に対して、図3に記したと同様な背面ゲート電極、または図4に記したと同様な側面ゲート電極を構成し、ゲート電圧印加により、磁化実施例1と同様な自発磁化の制御をすることができた。また、この場合には、自発磁化(スピン)の向きは、Si表面に対して垂直な方向であった。
【0028】
このように、自発磁化を得るためには、固体表面に吸着原子は、必ずしも一次元的な原子細線構造をとる必要はなく、原子クラスター形状であってもよい。むしろ、重要なことは、フェルミ・エネルギー近傍に電子状態密度の鋭いピーク構造をとるように、吸着原子を配列して構成することが肝要であり、これにより電界効果型の磁化制御が容易となる。
【0029】
さらに述べれば、電子状態密度の鋭いピーク構造を得るには、表面構造の電子状態として、一部分または全体が平坦であるようなエネルギーバンドがフェルミ準位近傍に出現するように、原子を配列して構成することが肝要である。
【0030】
また、本実施例の場合にも、基板と吸着原子の組み合わせは、Si と Ga に限るものではない。
【0031】
【発明の効果】
原子サイズまで微小な構造を有する本発明の磁気デバイスを用いれば、適当な磁気記録媒体において、記録単位の空間サイズが 2オングストロームから500オングストローム
の範囲内にあるような極微小領域に対しても、磁気的な書き込み記録が可能である。
【0032】
これにより、10ギガ・ビット/平方インチから1ペタ・ビット/平方インチ以上の超高密度の磁気記録が可能となる。また、この磁気デバイスは、通常の磁気ディスク装置を構成する磁気記録ヘッドとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電子状態密度(DOS)を電子エネルギー(E)の関数として見た図。
【図2】(a)は本発明に係る微小磁性デバイスのSi(100)表面上の原子の配列構造図、(b)は表面近傍の原子配列構造の断面図、(c)は自発磁化を発現をさせる基本単位を示す図。
【図3】背面ゲート電極を有する微小磁性デバイスの実施例を示す図。
【図4】側面ゲート電極を有する微小磁性デバイスの実施例を示す図。
【図5】Ga原子細線の磁化 M(Ga原子2個当たり)とゲート電圧 Vg との関係を示す図。
【図6】(a)は本発明に係る微小磁性デバイスのSi(111)表面上の原子の配列構造図、(b)は自発磁化を発現をさせる基本単位を示す図。
【符号の説明】
Ef:フェルミ・エネルギー、DOS: 電子状態密度、
21:シリコン(Si)原子、22:水素(H)原子、23:ガリユム(Ga) 原子、
31:ガリユム(Ga) 原子、32:シリコン(Si)結晶基板、33:背面ゲート電極、
41:ガリユム(Ga) 原子、42:シリコン(Si)結晶基板、43:側面ゲート電極
61:シリコン(Si)原子、62:ガリユム(Ga) 原子。

Claims (1)

  1. 非磁性基板の表面上に非磁性原子からなる原子細線または、非磁性原子からなる原子クラスターが吸着させられ、
    前記非磁性基板にゲート電極を設けられ、
    前記ゲート電極に印加する電圧を変化させることにより、前記原子細線または前記原子クラスターの磁化を強磁性と常磁性の間で制御するよう構成されたことを特徴とする微小磁性デバイス。
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