JP3544901B2 - 光信号電界の時間波形測定方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光信号電界の時間波形測定方法及び装置に関し、特に、現在の高速光検出器あるいは高速電子回路の応答時間よりも遥かに高速に変化し、それらを用いる通常手段によっては、時間波形を測定できないような高速の光信号の強度及び位相の時間変化を正確に測定する手段に適用して有効な技術に関する。
一般に、強度と位相とを同時に測定できれば、古典的電磁波としての光信号の特性を余すところなく決定できる。したがって、この種の測定方法は、光信号電界の時間波形測定方法と呼ぶことができる。
【0002】
【従来の技術】
ピコ秒からフェムト秒領域の超高速光信号に対しては、十分な時間分解能を有する光検出器が存在しないので、その強度波形を直接観測することは困難である。そこで、いきおい間接的な測定法に依らざるを得ず、光信号の自己相関データを採取し、それから繰返し演算によって、被測定信号光の強度と位相とを算出する方法が行われてきた。しかしながら、繰返し演算に依拠する光信号電界の時間波形測定方法には、複雑な波形を有する光信号に対応できず、また、繰返し演算に関わるかかる本質的な曖昧さ故に、測定器の品質・精度を保証し難いという問題がある。
【0003】
そこで、光信号のスペクトル位相を直接観測することで、繰返し演算に頼ることなしに、光信号電界の時間波形を求める、所謂、スペクトル位相の直接測定法への関心が高まっている。これには、周波数シアリング干渉計と周波数フォールディング干渉計の2つの種類が知られている。特に、後者は、著しく薄い非線形媒質を要求しないので、実質的に感度の低下を免れることができ、また、パラメトリック混合に基づく構成と、4光波混合に基づく構成があり、このそれぞれに、さらに、適宜、光増幅器を導入することで、感度を高めることができ、構成の自由度が高いといった特徴を有している。この周波数フォールディング干渉計は、特願平11−139087の明細書に記載されている。
【0004】
図5、図6及び図7は、この従来例の光信号電界の時間波形測定方法を説明するための図である。図5は、パラメトリック混合を用いる場合の構成を示し、被測定光信号は、被測定光信号入力401として図5の従来例の構成に入射する。この被測定光信号入力401は、分岐鏡402により2分され、その一方は、濾波器403及び光増幅器404を通過し、第1の2次の非線形媒質405に入射・結焦される。前記第1の2次の非線形媒質405において第2高調波が発生され、局発光が得られる。この発生した局発光は、濾波器406及び光増幅器407を通過し、反射鏡408を経て、合波鏡411に達する。前記被測定光信号入力401の2分された他方は、反射器409を通過し、反射鏡410を経て、合波鏡411に達する。
【0005】
以上、前記合波鏡411に達した局発光と光信号は、合波され、位相調整器422を経た後に、第2の2次の非線形媒質413に入射・結焦される。この第2の2次の非線形媒質413中で、パラメトリック混合が生じる。この第2の2次の非線形媒質413からの出射光のパワースペクトルが、光スペクトル観測器423によって観測される。
【0006】
前述の濾波器403としては、被測定光信号のスペクトルの一部を抽出する帯域透過濾波器を用いる。続く光増幅器404は、この抽出された光のパワーを増し、第1の2次の非線形媒質405中での第2高調波発生の効率を高める目的で挿入される。一方、第1の2次の非線形媒質405後段の濾波器406は、第2高調波光に変換されずに残った抽出光を除去するとともに、必要に応じて、発生された局発光の帯域を制限するために設けられる。続く光増幅器407は、発生された局発光のパワーを増し、第2の2次の非線形媒質413中でのパラメトリック混合の効率を高める目的で挿入される。
【0007】
以上の構成のうち、光増幅器404、光増幅器407については、入射被測定光が強力で、それ自体ですでに十分なパワーの局発光を発生し得る場合には、当然、これらの一方または両方を省略できる。また、第1の2次の非線形媒質405中での第2高調波発生自体の位相整合帯域幅制限により、被測定光信号のスペクトル幅に比して、十分狭い線幅の局発光が得られる場合には、前段の濾波器403を省略でき、かつ、後段の濾波器406も、高域(短波長)透過濾波器で十分となる。ここで、合波鏡411に高域(短波長)反射特性を持たせることで、本機能を担務させ、濾波器406を完全に省略することも可能である。
【0008】
前記位相調整器422は、2次の非線形媒質413に入射する時点での、局発光と光信号の間の相対位相を調整する目的で挿入される。この場合、局発光と光信号の波長(周波数)が2倍も離れているため、厚みを変化できる任意の分散媒質をこれに宛てることができる。このような位相調整が意味を持つためには、合波鏡411を出射した局発光と光信号の相対位相が安定していることが必要である。このためには、2つの光路の光路長差が、波長精度で安定していなければならない。これは、通常の干渉計構築手段によって達成し得る。必要ならば、光路長差監視機構を付加し、反射鏡409の位置に帰還をかけて動的な安定化を図ることもできる。これらは全て、標準的な干渉計安定化手段に属する。
【0009】
次に、図6は、4光波混合を用いる場合の構成を示し、被測定光信号は、被測定光信号入力401として本従来例構成に入射し、分岐鏡402により2分される。2分されたうち一方は濾波器403によってスペクトルの一部が抽出され、局発光となる。局発光は、光増幅器404を通過し、反射鏡408、位相調整器422を経て、合波鏡411に達する。他方は、反射器409を通過し、反射鏡410を経て、合波鏡411に達する。以上、合波鏡に達した局発光と光信号は、合波され、3次の非線形媒質414に入射・結焦される。この3次の非線形媒質414中で、4光波混合が生じる。前記3次の非線形媒質414からの出射光のパワースペクトルが、光スペクトル観測器423によって観測される。
【0010】
前述の濾波器403としては、被測定光信号のスペクトルの一部を抽出する帯域透過濾波器を用いる。続く光増幅器404は、この抽出された局発光のパワーを増し、前記3次の非線形媒質414中での4光波混合の効率を高める目的で挿入される。以上のうち、光増幅器404については、入射被測定光が強力で、濾波器403で抽出された一部それ自体ですでに十分なパワーの局発光となっている場合には、これを省略できることは言うまでもない。
【0011】
位相調整器422は、局発光の位相を調整する目的で挿入される。これには、屈折率が変化できる光学素子、または波長板を用いる方法がある。反射器409は、分岐鏡402で2分された後、合波鏡411に至る2つの光路の間で、光路長の平衡をとるために設けられ、またこの2光路の光路長差の安定化が、既知の技術を以て達成し得ることは、前記と同様である。
【0012】
図7は、前記光スペクトル観測器423よって観測される混合スペクトルの容態を示す図である。光周波数νの関数として通常観測されるパワースペクトルS(ν)に対して、光子流スペクトルs(ν)=S(ν)/(hν)を導入するとき、得られる混合スペクトルは、数1の式で表される。
【0013】
【数1】
【0014】
ここで、s1,s2はそれぞれ周波数νl,ν2における被測定光信号の光子流スペクトル、φ1,φ2は同スペクトル位相であり、これら周波数は縮退周波数νpに対し、関係ν1+ν2=2νpを満たすとする。パラメトリック混合による構成では、縮退周波数は局発光周波数の2分の1(ν3=2νp)となり、一方、4光波混合の場合は、縮退周波数は局発光周波数に等しい。位相φpは、パラメトリック混合の場合には、局発光位相の半分(φ3=2φp)、また、4光波混合の場合には、局発光位相そのものである。
【0015】
このように混合スペクトルには、光信号のスペクトル位相が、縮退周波数νpに関して対称化された形、φ1+φ2で含まれている。この対称化位相φ1+φ2は、干渉位相φ=φ1+φ2−2φp+δを求めることができれば、定数を除いて得ることができる。しかしながら、一般に、一つの混合スペクトルだけからでは、干渉位相φを求めることはできない。干渉位相φを、混合係数mの値如何に拘わらず、混合スペクトルから正確に求めるには、位相φpを変えて、複数回、混合スペクトルを採取する。前述した位相調整器412は、かかる位相調整に用い、このとき、位相2φpを90°刻みで変えて測定を行うのがよい。
【0016】
まず、基準となる位相2φpについて、混合スペクトルsaを採取する。次に、位相2φpが90°減じるように位相調整器を操作した後、混合スペクトルsbを採取し、さらに、位相2φpが最初の基準値から180°減じるところまで位相調整器を操作し、再び混合スペクトルscを採取する。これら3つの混合スペクトルから、干渉位相φを、数2の式に従って求めることができる。
【0017】
【数2】
【0018】
図7には、このような90°法求位相計算に用いる3つの混合スペクトルの例を示した。
【0019】
前述したように、対称化位相中に、スペクトル位相部分は、常にφ1+φ2による対称化を受けた形で含まれている。したがって、対称化位相を得ただけでは、一般の非対称なスペクトル位相を求めることはできない。この問題は、縮退周波数νp、すなわち、対称化の中心を異にする条件で測定して得る2つの対称位相を用いることで、解決できる。
【0020】
縮退周波数νpを変えた混合スペクトルを採取のためには、図5の構成では、濾波器403及び濾波器406の透過帯域をずらし、必要に応じて、第1の2次の非線形媒質405の位相整合波長を同調すればよい。後段の第2の2次の非線形媒質413は、十分高帯域なので、位相整合波長の再同調は通常要しない。図6の構成では、濾波器403の透過帯域をずらせば事足りる。
【0021】
こうしてスペクトル位相が求まれば、後は極く標準的な処理を残すのみである。すなわち、局発光を遮った状態で、通常にスペクトルを採取し、被測定光信号のパワースペクトルを得る。このスペクトルデータに平方根演算を施してスペクトル振幅データを得る。これに前のスペクトル位相を付与して複素化した上で、逆フーリエ変換を行えば、光信号電界の時間波形が算出される。かくして、前述した従来例により、繰返し演算に拠ることなしに、超高速光信号電界の時間波形が測定できるのである。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来の光信号電界の時間波形測定方法には、以下のような問題がある。
前記数2の式による90°法求位相計算においては、3つの混合スペクトル
sa,sb,scの相対的大きさの厳密な正確さが要求される。これが、あまたの問題を懐胎している。
現実の光信号では、強度の揺らぎは常にゼロではない。複数の混合スペクトルを採取する合間に、被測定光信号の強度が変動すると、3つの混合スペクトルの間での相対的大きさの関係が損なわれてしまう。ここで許容される強度変動は、前記の混合係数mとの兼合いとなるが、通例の値m=0.1〜0.05に対しては、1%の強度変動ですら、はなはだ大きな誤差に通ずる。ところが、強度変動が1%といった光パルス源は、現在、変動の少ない部類に属し、これ以下の強度変動は期待し難いのである。この結果、従来の測定方法では、現実に測定可能な光信号が、極めて強度変動の少ない一部のものに限られていた。
【0023】
また、図5に示したようなパラメトリック混合を用いる構成においては、局発光強度、ひいては混合係数mが、入射する被測定光信号の偏光方向に大きく依存する。従って、たとえ光信号の強度変動が皆無であっても、入射光の偏光が揺らぐと、強度変動と等価な結果を生ずることとなる。これは、特に、光ファイバ等を経由して被測定光信号を入射する場合に大きな問題となる。
【0024】
さらに一般には、光スペクトル観測器423自体にも、通例、弱いながらも偏光依存性がある。この結果、入射光の偏光の変動は、それだけで、3つの混合スペクトルの間での相対的大きさの関係を損ない得る。これは、図5及び図6の構成の両者に共通する問題である。
【0025】
次に、3つの混合スペクトルの相対的大きさを保つためには、位相調整器412にも、厳しい条件が課される。すなわち、位相調整器412は、図5の場合には局発光と光信号の間の相対位相、もしくは、図6の場合には局発光の位相を調整するが、これら位相の調節に、損失の変化が伴なってはならない。前述の図5の場合に用いた厚みを変化できる分散媒質による位相調整器412においては、位相を変化させるために、楔状の分散媒質をスライドさせる。すなわち、異なる位相は、分散媒質の異なる位置での入出射を伴なう。かかる位相調整器にあって、損失の変化をゼロとするためには、表面が極めて一様・清浄に保たれることが必要であり、これを長期に亘って実現するためには、特に空気が清浄に管理・維持された環境に、測定器が保管されることが必要となる。
【0026】
他方、図5及び図6の構成の両者とも、そもそも、局発光と光信号の相対位相が安定していることが必要であり、これが充たされて初めて、位相調整器412による調整が意味を持つ。このためには、前述したように、2つの光路の光路長差が、波長精度で安定していなければならない。現在、このような光路長差の安定化は、実験室環境での達成は容易であり、日常茶飯事的に実施することができる。しかしながら、外界からの振動・騒音、あるいは気流・温度変化の多い一般環境での実現には、多くの困難が伴う。この結果、従来例による測定器は、設置場所が限定され、例えば、フィールドでのサービスに供することができなかった。
【0027】
以上述べたように、従来の光信号電界波形測定方法には、以下の解決すべき課題があった。
(1)被測定光信号の強度の変動、また、入射偏光の変動により、大きな誤差を招き、また、
(2)損失変動のない位相調整器を必要とし、また、装置内の光路長差に波長精度の安定性が要求され、これらにより、長期に亘る性能の維持が容易でなく、また設置環境が制限される。
【0028】
本発明の目的は、従来技術におけるこれらの困難な課題を解決し、被測定光信号の強度変動、または偏光の変動に高い耐性を有し、しかも、位相調整器や安定な干渉計を必要とせず、その結果、性能が長期間維持され、設置環境も選ばず測定が行える測定方法及び装置を提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【0029】
【課題を解決するための手段】
本願において開示される発明の概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
(1)被測定光に対し、位相が固定された局発光を得、該局発光を前記被測定光に作用させて前記被測定光に対する位相共役光を生成し、前記被測定光と前記位相共役光とが合波して生じる混合光のスペクトルを観測し、前記被測定光の光信号電界の周波数領域での位相を測定する方法であって、前記局発光と前記被測定光との相対位相の変化に伴う前記混合光中の2つ以上のスペクトル成分の強度の変化を比較し、2つ以上のスペクトル成分の間の相対的位相を測定することを特徴とする光信号電界の時間波形測定方法である。
【0030】
(2)前記手段(1)の光信号電界の時間波形測定方法であって、前記相対位相の変化に伴う2つ以上のスペクトル成分の強度変化を比較する方法として、相対位相をランプ(直線勾配)状に変化させ、得られる正弦波状の強度変化について、基準とする一つのスペクトル成分の強度変化に対して、これと90°位相のずれた信号を生成し、他のスペクトル成分の強度変化に対し、前記スペクトル成分の強度変化と、これと90°位相のずれた信号をそれぞれを乗算し積分して得る2つの量の比から、スペクトル成分の間の相対的位相を求める方法である。
【0031】
(3)前記手段(2)の光信号電界の時間波形測定方法であって、前記積分における積分範囲を、前記基準とする一つのスペクトル成分の強度変化の周期の整数倍にとる方法である。
【0032】
(4)被測定光に対し、位相が固定された局発光を得る手段と、該局発光を前記被測定光に作用させて前記被測定光に対する位相共役光を生成する手段と、前記被測定光と前記位相共役光とが合波して生じる混合光のスペクトルを観測する手段を備え、前記被測定光の光信号電界の周波数領域での位相を測定する装置であって、前記混合光中の2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段と、前記局発光と被測定光信号との相対位相を変化させる手段と、前記相対位相の変化に伴う前記2つ以上のスペクトル成分の強度の変化を比較して2つ以上のスペクトル成分の間の相対的位相を測定する手段を備えたことを特徴とする光信号電界の時間波形測定装置である。
【0033】
(5)前記手段(4)の光信号電界の時間波形測定装置であって、前記2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段として、2つの分光器とそれぞれに装着した光検出器及び前記混合光を2分して2つの分光器に分配する分岐鏡を宛てる装置である。
【0034】
(6)前記手段(4)の光信号電界の時間波形測定装置であって、前記2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段として、線型光検出器列を装着したスペクトログラフを宛てる装置である。
【0035】
すなわち、本発明の光信号電界の時間波形測定方法及び装置は、被測定光信号に対し、局発光を作用させて位相共役光を生成し、前記被測定光と前記位相共役光の合波の結果生ずる混合光のスペクトルを観測して、前記被測定光の光信号電界の周波数領域での位相を測定する方法及び装置において、前記混合光中の2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段と、前記局発光と被測定光信号との相対位相を変化させる手段を備え、前記相対位相の変化に伴う2つ以上のスペクトル成分の強度の変化を比較して2つ以上のスペクトル成分の間の相対的位相を測定することを特徴とする。
【0036】
ここで、前記2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段の一つとして、2つの分光器とそれぞれに装着した光検出器、及び前記混合光を2分して2つの分光器に分配する分岐鏡を宛てることができる。
また、前記2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段の他として、線型光検出器列を装着したスペクトログラフを宛てることもできる。
【0037】
前記相対位相の変化に伴う2つ以上のスペクトル成分の強度変化を比較する方法としては、相対位相をランプ(直線勾配)状に変化させ、得られる正弦波状の強度変化について、基準とする一つのスペクトル成分の強度変化について、これと90°位相のずれた信号を生成し、他のスペクトル成分の強度変化に対し、前記強度変化と、これと90°位相のずれた信号をそれぞれを乗算し積分して得る2つの量の比から、スペクトル成分の間の相対的位相を求めるのがよい。
【0038】
さらに、有限の相対位相変化から、スペクトル成分の間の相対的位相を正確に検出するためには、前記積分における積分範囲を、前記基準とする一つのスペクトル成分の強度変化の周期の整数倍にとるのがよい。
【0039】
従来の光信号電界の時間波形測定方法では、混合光のスペクトルsaを観測・採取し、次に、位相2φpが90°減じるように位相調整器を操作した後、混合光のスペクトルsbを観測・採取し、さらに、位相2φpがさらに90°減じるところまで位相調整器を操作し、再び混合光のスペクトルscを観測・採取する。これら3回のスペクトルの観測・採取の間に、被測定光信号の強度変化、または、光路長差の変動が生じると、前記数2の式による干渉位相φの計算に誤差が生じた。
【0040】
しからば、混合光の一つのスペクトル成分の強度を観測しつつ、90°ステップでの位相調整器の切替を行う方法は、如何であろうか。この場合、被測定光信号の強度変化への耐性には、少々の改善が見られよう。しかしながら、依然として、前述の手順をすべてのスペクトル成分について繰り返す間にわたって、2つの光路の光路長差が、波長精度で一定に維持される必要があることには、変わりがない。
【0041】
かかる光路長差の安定化の必要を撤廃するためには、少なくとも、2つのスペクトル成分について、前述の手順による観測を同時に実行すればよい。一般に、光信号電界の時間波形測定の目的には、各スペクトル成分の間の相対的な位相が測定できればよく、一様な絶対位相は、光信号電界の時間波形に影響しない。
【0042】
また、光路長差の変動は、全てのスペクトル成分に等量の干渉位相の変動を与える。これらから、2つのスペクトル成分の干渉位相を同時に得れば、それらの相対値は、光路長差の変動の如何に拘わらず常に正確であり、かつ、光信号電界の時間波形測定のために十分な情報を与えることとなるのである。
【0043】
一旦、2つ以上のスペクトル成分について、それらの強度変化を観測するならば、位相調整器を用いて、校正された形で90°ステップ毎の切替を行う必然性はなくなる。なんとなれば、位相2φpの変化量は、観測される強度変化から原理的に検知できるからである。それ故、ここでは、位相調整器が不要となり、これを、局発光と被測定光信号との相対的な位相2φpを変え得る所定の手段をもって置き換えることができる。
【0044】
以上の考察から、本発明の目的を達成するためには、混合光中の2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段と、前記局発光と被測定光信号との相対的な位相を変化させる手段を備えることが、本質的な要件となる。
以下、本発明について、図面を参照して、本発明による実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。
【0045】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
図1は、本発明による実施形態1の光信号電界の時間波形測定装置のパラメトリック混合を用いる構成の概略を示すブロック構成図である。本実施形態1の光信号電界の時間波形測定装置は、2つのスペクトル成分の強度を同時に観測する構成に相当している。
【0046】
本実施形態1の光信号電界の時間波形測定装置は、図1に示すように、分岐鏡102、濾波器103、光増幅器104、第1の2次の非線形媒質105、濾波器106、光増幅器107、反射鏡108、反射器109、反射鏡110、合波鏡111、変位器112、第2の2次の非線形媒質113、3次の非線形媒質114、分岐鏡115、分光器116、光検出器117、分光器118、及び光検出器119で構成されている。
【0047】
前記本実施形態1の光信号電界の時間波形測定装置においては、図1に示すように、被測定光信号101は、分岐鏡102に入射され、前記分岐鏡102により2分される。この分岐鏡102によって2分された被測定光信号101の一方は、濾波器103及び光増幅器104を通過し、第1の2次の非線形媒質105に入射・結焦される。この第1の2次の非線形媒質105において、第2高調波が発生され、局発光が得られる。発生した局発光は、濾波器106及び光増幅器107を通過し、反射鏡108を経て、合波鏡111に達する。
【0048】
前記分岐鏡102によって2分された被測定光信号101の他方は、反射器109を通過し、反射鏡110を経て、合波鏡111に達する。反射器109には、変位器112が装着され、分岐鏡101から前記反射器109を経て、合波鏡111に至る光路の光学長を変化させる構成になっている。
【0049】
以上、合波鏡111に達した局発光と光信号は、合波された後、第2の2次の非線形媒質113に入射・結焦される。前記第2の非線形媒質113から出射する混合光は、分岐鏡115により2分され、そのうち一方から分光器116によってスペクトル成分が抽出され、この抽出されたスペクトル成分の強度が光検出器117によって電気信号に変換される。前記分岐鏡115によって2分されたうちの他方から、分光器118によってスペクトル成分が抽出され、この抽出されたスペクトル成分の強度が光検出器119によって電気信号に変換される。
【0050】
前記濾波器103、光増幅器104、濾波器106、及び光増幅器107の仕様・機能については、図5に示す従来例における説明に準ずる。
【0051】
前記本実施形態1の光信号電界の時間波形測定装置の動作は、1つの縮退周波数νpについて、基準となる光周波数νrを適当に定め、分光器118を前記光周波数νに設定する。ここで、前記基準となる光周波数νrは光信号のスペクトル強度が大きいスペクトルの中央付近に設定するのがよい。次に、干渉位相を測定したい光周波数νに分光器116を設定する。ここにおいて、変位器112を駆動し、反射器109をほぼ一定の速さで後退させる。この後退運動の間、光検出器119、及び光検出器117の出力電圧値をそれぞれ時系列的に、測定・記録する。しかる後、両光検出器出力の時系列データに現れる正法波状の変化を比較して、光周波数νにおける干渉位相の基準光周波数νrに対する相対値を得る。分光器116の設定以下の手順を、必要なだけの光周波数測定点νに対して、繰り返して行う。
【0052】
次に、縮退周波数νpをνp’に変えて、同様に干渉位相の測定を実行する。この際の基準とする光周波数νr’は、先回の基準光周波数νrと等しくてもよいし、異なっていても構わない。縮退周波数νpを変えるためには、濾波器103及び濾波器106の透過帯域をずらし、必要に応じて、第1の2次の非線形媒質105の位相整合波長を同調すればよい。後段の第2の2次の非線形媒質113は、十分高帯域なので、位相整合波長の再同調は通常要しない。
【0053】
前記得られた2つの干渉位相データの各々に、位相アンラップと呼ばれる標準的な操作を施して、2つの対称化位相データを得る。これらを連立すれば、スペクトル位相が求まる。このようにして、スペクトル位相が求まれば、後は極く簡単な操作を残すのみである。すなわち、局発光を遮った状態で、分光器116、または、分光器118を通常に掃引して検出器出力を記録し、被測定光信号のパワースペクトルを得る。このスペクトルデータに、平方根演算を施してスペクトル振幅データを得、これに前に得たスペクトル位相を付与して複素化した上で、逆フーリエ変換を行えば、光信号電界の時間波形が算出される。
【0054】
(実施形態2)
図2は、本発明による実施形態2の光信号電界の時間波形測定装置の4光波混合を用いる構成の概略を示すブロック構成図である。本実施形態2の光信号電界の時間波形測定装置では、光検出器列を用いて、全てのスペクトル成分の強度を一挙(同時)に観測している。
【0055】
本実施形態2の光信号電界の時間波形測定装置は、図2に示すように、分岐鏡102、濾波器103、反射鏡108、反射器109、反射鏡110、合波鏡111、変位器112、3次の非線形媒質114、スペクトログラフ120、及び線型光検出器列121で構成されている。
【0056】
前記本実施形態2の光信号電界の時間波形測定装置においては、図2に示すように、被測定光信号101が、分岐鏡102に入射され、前記分岐鏡102により2分される。この分岐鏡102によって2分された被測定光信号101の一方は、濾波器103によってスペクトルの一部が抽出され、局発光となる。この局発光は、光増幅器104を通過し、反射鏡108を経て、合波鏡111に達する。
【0057】
前記2分された被測定光信号101の他方は、反射器109を通過し、反射鏡110を経て、合波鏡111に達する。前記反射器109には、変位器112が装着され、分岐鏡102から前記反射器109を経て、合波鏡111に至る光路の光学長を変化させる構成になっている。この合波鏡111に達した局発光と光信号は、合波され、3次の非線形媒質114に入射・結焦される。この3次の非線形媒質114中で、4光波混合が生じる。前記3次の非線形媒質414から出射する混合光は、スペクトログラフ120に入射され、スペクトル成分が分離され、全てのスペクトル成分の強度が、線形光検出器列121によって一挙(同時)に観測される。
【0058】
前記濾波器103、及び光増幅器104の仕様・機能については、図6に示す従来例における説明に準ずる。
【0059】
前記本実施形態2の光信号電界の時間波形測定装置の動作は、1つの縮退周波数νpについて、変位器112を駆動し、反射器109をほぼ一定の速さで後退させる。この後退運動の間、線形光検出器列121の出力電圧値を繰り返し読出し、時系列的に記録する。しかる後、基準となる光周波数νrを適当に定める。ここで、前記基準光周波数νrは、前記と同様、光信号のスペクトル強度が大きいスペクトルの中央付近に設定するのがよい。
【0060】
次に、線形光検出器列121の各画素の出力変化と、前記基準光周波数νrに対する画素の出力変化、各々の時系列データに現れる正弦波状の変化を比較して、各画素に対応する光周波数νにおける干渉位相の基準光周波数νr’に対する相対値を得る。
【0061】
次に、縮退周波数νpをνp’に変えて、同様に干渉位相の測定を繰り返す。この際の基準として選ぶ光周波数νr’は、先回の基準光周波数νrと等しくてもよいし、異なっていても構わない。本実施形態2の構成で縮退周波数を変えるには、濾波器103の透過帯域をずらせば事足りる。
【0062】
このようにして、得られた2つの干渉位相データから、前記と同様にして、スペクトル位相が求まる。加えて、局発光を遮った状態で、線形光検出器列121の出力電圧値を読出し、被測定光信号のパワースペクトルを得る。このスペクトルデータに、前記と同様、平方根演算を施してスペクトル振幅データを得、これにスペクトル位相を付与して複素化した上で、逆フーリエ変換を行うことで、光信号電界の時間波形が算出される。
【0063】
前記図1では、パラメトリック混合を用いて得た混合光を、2つの分光器と光検出器をもって観測し、一方、図2では4光波混合を用いて得た混合光をスペクトログラフと光検出器列をもって観測している。言うまでもないが、混合光を得る手段と、それを観測する手段とは、任意の組合せが可能である。例えば、パラメトリック混合を用いて得た混合光を、スペクトログラフと光検出器列をもって観測してもよい。
【0064】
図1及び図2中、反射器109に、変位器112が装着され、これにより、分岐鏡101から前記反射器109を経て合波鏡111に至る光信号の光路の光学長を変化させることができる。これに対して、両図中、反射鏡108に変位器を装着し、前記反射鏡108を経て合波鏡111に至る局発光側の光路の光学長を変化させても、同様の効果が得られる。
【0065】
前記変位器112としては、種々のデバイスが適用できる。一般に、変位器により反射鏡109が、xだけ後退するとき、干渉位相φの変化分△φは、数3の式で与えられる。
【0066】
【数3】
【0067】
ここで、νpは縮退周波数、cは空気中の光速であり、xの前の係数2は、反射器109上で光信号が折り返す効果による。一方、前述したように、反射鏡108に変位器を装着した場合、反射鏡108の後退量xに対する干渉位相φの変化分は、数4の式で与えられる。
【0068】
【数4】
【0069】
ここで、係数√2は、反射器108に局発光が、角度45°をもって入出射していることにより、また、先頭の負号は、この場合、局発光側の光学長を変化させているためである。
【0070】
本発明の目的を達成するためには、前記干渉位相φの変化分△φが少なくとも2πを超えることが望ましい。例えば、1.5μm帯の光信号に対し、これに最低必要な変位量xは、前記数3の式によれば0.38μm、前記数4の式では0.53μmであり、より短波長の光信号に対しては、波長に比例してさらに減少する。この程度の変位量は、圧電アクチュエータを用いて容易に与えることができる。勿論、より行程の大きい変位器、例えば、電磁的な変位器(行程:0.1〜1mm)、あるいは、クランクシャフト式の変位器(行程:〜数cm)を用いてもよい。
【0071】
以下、基準光周波数νrと測定光周波数ν、各々の出力時系列データから、干渉位相の相対値を得る計算法について詳細に説明する。
測定光周波数νに対するスペクトル出力データV(ν)は、数5の式で表される。
【0072】
【数5】
【0073】
ここで、S、S’はそれぞれ周波数ν、ν’における被測定光信号のパワースペクトルであり、これら周波数は縮退周波数νpに対し、関係式2νp=ν+ν’を満たすとする。また、φは干渉位相であり、ηは光検出系の効率・変換係数である。
【0074】
基準光周波数νrに対するスペクトル出力データV(νr)についても、同様の数6の式が成り立つ。
【0075】
【数6】
【0076】
ここで、Sr、Sr’はそれぞれ周波数νr、νr’における被測定光信号のパワースペクトルであり、これら周波数は縮退周波数νpに対し、関係式2νp=νr+νr’を満たすとする。また、φrは干渉位相であり、ηrは光検出系の効率・変換係数である。
【0077】
まず、理想的な場合について考察する。この場合、数5の式、数6の式の右辺中、△φ以外の量は、全て定数であり、かつ、△φは時間に関して線形に変化する。この場合、V(νr)データから、△φが互いに90°ずつ異なる3つの時間点を容易に見出すことができる。即ち、例えば、まず、V(νr)の微分において隣り合う零点をとれば、これらの間には、180°の△φの差がある。続いて、これらの時間点の中点を作れば、最初の零点から、丁度90°分の△φの増分を与える時間点が得られる。このようにして得られた3つの時間点におけるV(ν)の値を読取り、sa、sb、scの代わりに前記の数2の式に代入すれば、干渉位相が求まる。このような算法は、正に、本発明の構成により得られるデータに基づいて、従来例に習った90°法求位相計算を行うことに相当する。
【0078】
ところが、前述したような単純極まる算法は、現実のところ実用的でない。なぜならば、現実のデータにおいては、数5の式、数6の式の右辺中、△φ以外の量も完全な定数とは見なせず、また、△φも、時間に関して厳密に線形に変化することが期待できない。前者は、被測定光信号の強度の変動、また、入射偏光の変動に起因する非理想性であり、一方、後者は、装置内の光路長差に対する、外乱による不可避の揺動に因る。
【0079】
これらの不都合要因は、いずれも、本発明が元々解決を目指しているところのものであった。本発明では、これら要因の作用を、変位器112の後退運動の間に生ずる分だけに限ることにより、従来例に比すれば、ここまでで既に、その影響は大幅に軽減されている。しかしながら、後退運動が行われる時間は、あくまで有限であり、その間の、それら作用の影響が全然無いとするのも、楽天的に過ぎる。そこで、このような影響に、より耐性の強い位相差計算法が望まれるのである。
【0080】
また、前記の算法は、データの利用効率の点でも、満足すべきものとは言えない。すなわち、前記では、測定光周波数νに対するスペクトル出力データV(ν)の時系列データのうち利用されるのは、畢竟(要するに)3点に過ぎない。これに対し、時系列データ点の総数は、通常、桁違いに多数であり、その結果、極めて非効率的なデータ処理となっている。言うまでもなく、より多くのデータ点を利用することにより、例えば、光検出器の暗電流等、雑音の影響を軽減できることが期待される。
【0081】
ここで、以下のような、よりよい位相差計算法が想到される。
前記の出力時系列データは、より簡単に、V(ν)=b+a sin(φ+△φ)、及びV(νr)=br+ar sin(φr+△φ)と書き表せる。ここで、b、a、br、及びarは、理想的には定数であるが、現実には、 sin 関数に比して、時間的に緩やかに変化する量である。△φは時間に関してほぼ線形に変化する。
【0082】
いま、V(νr)を元にして、V(νr)’=br+ar cos(φr+△φ)という時系列を生成できたとする。積V(ν)V(νr)、V(ν)V(νr)’の、区間△φL<△φ<△φHでの積分を、各々IS、ISと置く。
【0083】
係数b、a、br、及びarが定数の場合、これら積分は極く初等的に実行でき、以下の数7の式及び数8の式の結果を与える。
【0084】
【数7】
【0085】
【数8】
【0086】
ここで、以下の数9の式及数10の式の2つの原関数を導入した。
【0087】
【数9】
【0088】
【数10】
【0089】
前記数7の式及び数8の式を見るに、積分区間(△φL、△φH)が長くなれば、第2項は、第1項に対して、幾らでも大きくなる。または、区間の端点△φL、△φHが、2πを法とする剰余系において等しい場合、第1項はゼロとなる。これは、2つの原関数が、2πを周期とする周期関数だからである。
【0090】
さらに、前記数7の式及び数8の式において、第2項の中括弧の中は、係数bまたは、brがゼロの場合、位相差φ−φrを含む三角関数のみとなる。ここにおいて、前記位相差を、以下の式から求めることができる。
【0091】
【数11】
【0092】
以上、簡単のために、係数b、a、br、及びarが定数の場合について立式したが、数11の式による位相差算出は、それら係数が、sin 関数の周期内で定数と見なせる程度に緩やかに変化する場合にも、妥当するものである。
【0093】
ここで、前記の位相差算出に必要であった要件をまとめると、(a)基準時系列に対し90°位相の異なる時系列を得る、(b)積分区間が長いか、または(b’)周期の整数倍である、(c)少なくとも基準時系列がDC成分を含まない、の3点となる。
【0094】
前記のような位相差算出法は、実のところ、既に、ロックイン増幅器を始めとする位相検波器において、電子回路を用いて実装されているところのものである。そのような機器において、前記の3要件は、それぞれ、(a)90°移相器、(b)参照周波数に対して十分な低域濾波器、(c)AC結合の信号入力によって実現されている。
【0095】
本発明において、かくの如き従来機器の構成に、直接的に範を仰ぐことは、非常に困難である。この理由の根本は、変位器112における制約に帰される。すなわち、90°移相器が機能するほど迅速に、かつ条件(b)を満たせるほどの長行程を実現できる変位器は、現実に存在しない。一般に、速さと行程は、変位器において両立し難いためである。
【0096】
そこで、本発明者は、ソフトウェア的手法によって、前記3要件を充当する方策を案出するに至った。
【0097】
すなわち、条件(a)のために、V(νr)からHilbert変換によるV(νr)’の生成を行い、困難な条件(b)の替わりに条件(b’)に拠ることとし、この条件(b’)のために、V(νr)の周期を検出して、積分範囲の決定を行う。条件(c)に対しては、V(νr)内のDC成分を数値的に除去する。勿論、従来機器に習って、スペクトル出力時系列データV(νr)及びV(ν)を、初めからAC結合で採取すれば、更に効果的である。
【0098】
図3は、以上述べた本発明による実施形態の位相差計算手順を示す流れ図である。
【0099】
まず、基準光周波数νに対するスペクトル出力時系列データV(νr)を複素化した後、複素時系列データについてのフーリエ変換を施す。こうして得られる周波数領域で、負の周波数成分を全てゼロに置きかえる。これを逆フーリエ変換すると、その実部は、元の時系列データV(νr)を与えるが、同時にその虚部から、90°位相の異なる時系列V(νr)’が得られる。以上は、フーリエ変換を用いたHilbert変換の計算法となっている。
【0100】
前記得られた周波数領域で、零周波数を除去する帯域濾波を行えば、V(νr)内のDC成分の除去も同時に行え、効率的である。こうして得られたDC成分を含まないV(νr)データの零点を検索することで、周期を正確に求めることができる。時系列データV(νr)に含まれる周期の整数倍の区間のうち、最長の区間を積分区間とする。測定光周波数νに対するスペクトル出力時系列データV(ν)にV(νr)を掛けた後、いま決めた積分区間に対して積分を実行して、ISを得る。同様に、をV(νr)’掛けた後、積分を実行してICを得る。最後に、これらの比から、前記数11の式に従って、位相差φ−φrを計算する。
【0101】
以下では、本発明の実施例について、その動作条件を数値的に示し、あわせて前記の位相差計算手順の実施結果を述べる。
【0102】
(実施例1)
1.5μm波長帯のフェムト秒光源として、Cr.YAGレーザが知られている。この光源の生成するパルスを被測定光信号とした。本実施例1において、2次の非線形媒質105としては、周期16.9μmの分極反転を施した結晶に、周期構造の波数方向と24°角度をもって入射することで波長可変化したQPM−LN結晶を用いた。結晶長は、8mmとし、入射・結焦は、焦点距離50mmのレンズによった。このとき、繰り返し周波数200MHz、平均パワー20mW、中心波長1.53μm、50fsのパルス列からなる被測定光101に対して0.4mWの平均パワー、0.7nm(0.4THz)のスペクトル幅を持つ局発光が得られた。この局発光のピークパワーとしては、1.7Wが見積もられた。後段の2次の非線形媒質113にも、同種の波長可変化QPM−LN結晶を用い、厚さは2mmのものを用いた。この結晶の位相整合バンド幅としては、55.7THzが期待でき、50fsの光信号の測定に十分な広さとなっている。これに対し、焦点距離20mmのレンズによって、入射・結焦を行ったところ、混合係数m=0.10をもって、混合スペクトルが得られた。変位器112としては、長さ10mmの積層型圧電アクチュエータを用いた。分光器116及び118は、波長分解能2Åの25cmチェルニターナ型のものを用い、それぞれ、InGaAs光検出器117及び119を装着した。これら光検出器の出力電圧値をAC結合で観測・採録した。
【0103】
基準となる光周波数νrを195.95THzに選び、対応する波長1530nmに分光器118を設定した。この光周波数νrは、被測定光入力のスペクトルの中央付近に採ってある。次に、干渉位相を測定したい光周波数νに分光器116を設定した状態で、変位器112を振れ幅−70V、持続時間300msのランプ(直線勾配)電圧をもって駆動した。これにより反射器109が、ほぼ一定の速さで後退する間、光検出器119及び光検出器117の出力電圧値をそれぞれ時系列的に、512点測定・記録した。
【0104】
図4(本発明の位相差計算例)は、こうして得られた時系列データの例を示している。図中、破線は光検出器119からの基準光周波数νrに対するスペクトル出力時系列データV(νr)であり、実線は、光検出器117からの測定光周波数νに対するスペクトル出力時系列データV(ν)である。
【0105】
図4(a)は、分光器116を波長1530nmに設定した場合のデータであり、一見して、V(νr)、V(ν)に現れている干渉振動は同相である。このデータに前述の位相差計算手順を実施した結果も、−0.4°とこれを裏付けている。この位相差計算は、クロック周波数70MHzのPentiumプロセッサ搭載の小型計算機によって、0.1秒程度で実行でき、十分高速に計算が行えた。
【0106】
なお、出力電圧値はAC結合されていたが、その後の増幅器にDCオフセットが残っているために、時系列データV(νr)には、かなりのDC成分が重畳している。それにも拘わらず、位相差計算が正しく行えているのは、前記計算手順中の、DC成分の除去が奏効していることの証左である。
【0107】
図4(b)は、分光器116の波長をより短波長側の1490nmに移動して得られたデータである。この場合、V(ν)の振動の振幅が減少しているが、これは、被測定光入力のスペクトルの裾部で、スペクトル強度が落ちるためである。図中、V(ν)の干渉振動は、V(νr)に対して遅れており、位相差計算の結果も、−42.4°と符合している。
【0108】
図4(c)は、分光器116の波長をより長波長側の1565nmに設定した場合であり、同様に、V(νr)に対して遅れたV(ν)の干渉振動について、位相差計算の結果は、−45.2°を与えている。以上の如き測定を繰り返して、干渉位相の測定が行えた。
【0109】
さらに、前段のQPM−LN結晶の温度を36℃変えて、局発光の波長を2nm変え、再び干渉位相を測定した。これらを組合せて、周波数刻み0.5THzをもってスペクトル位相が得られた。
【0110】
(実施例2)
本実施例2においては、前記実施例1の混合スペクトル検出に、スペクトログラフ120及び線形光検出器列121を用いた。スペクトログラフ120は、線刻数600/mmの回折格子を備えた12cmチェルニターナ型のものを用い、また、線形光検出器列121として、画素数256、画素間隔50μmのInGaAs線形光検出器列を装着した。このとき、スペクトログラフ120の分散能は、13nm/mmであり、166nm範囲の混合スペクトルを、6.5Å間隔で一挙に観測・採録できる。
【0111】
本実施例2では、変位器112を振れ幅−70V、持続時間524.3msのランプ(直線勾配)電圧をもって駆動した。これにより反射器109が、ほぼ一定の速さで後退する間、線形光検出器列121を、一回当たり1024μsの読出し時間をもって読出し、256×512点の二次元データとして記録した。
【0112】
かくして得られた二次元データから、被測定光入力のスペクトル中央付近の画素についての出力時系列をV(νr)として選び、これに対して、他の画素の出力時系列を、3つおきに、V(ν)として位相差計算手順に与えて、干渉位相を計算した。この位相差計算の総時間は、前記小型計算機で、概略7秒であった。勿論、より高速の計算機を用いれば、この計算時間は短縮可能である。これを、上のデータ採取時間0.5秒と合わせて、僅か7秒強で、必要な全スペクトルに対する干渉位相が求められ、迅速な測定が実現した。
【0113】
さらに、前段のQPM−LN結晶の温度を35℃変えて、局発光の波長を1.95nm変え、再び干渉位相を測定した。ここにおける局発光波長の変化量は、スペクトログラフ120と線形光検出器121の組合せで決まる画素間の波長間隔の整数倍とするのが望ましい。ここでは、3倍を選んでおり、この結果、上の干渉位相計算も、3つおきの画素について行えば十分であった。これらを組合せて、周波数刻み0.5THzをもってスペクトル位相が得られた。この場合、全測定時間は20秒未満と、極めて迅速であった。
【0114】
以上、本発明を実施形態(実施例)に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態(実施例)に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更し得ることは勿論である。
【0115】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、被測定光信号の強度変動、または偏光の変動に高い耐性を有するので、測定の精度・信頼性が向上する。また、位相調整器や安定な干渉計を必要とせず、その結果、性能が長期間維持され、設置環境を選ばず測定が行え、かつ低価格化できる。
また、線形光検出器列によるマルチチャンネル測光を採り入れた迅速な測定が実現できる。
また、本発明の位相差検出は、計算機上の計算手順として実装され、この点でも極めて安価に行えるので工業的に大きな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による実施形態1の光信号電界の時間波形測定装置のパラメトリック混合に基づく構成の概略を示すブロック構成図である。
【図2】本発明による実施形態2の光信号電界の時間波形測定装置の4光波混合に基づく構成の概略を示すブロック構成図である。
【図3】本発明の位相差計算手順を示す図である。
【図4】本発明の位相差計算の例を示す図であり、(a)は被測定光信号スペクトルの中央付近における信号例、(b)は短波長側における信号例、(c)は同長波長側における信号例である。
【図5】従来例の光信号電界の時間波形測定装置のパラメトリック混合に基づく構成例を示す図である。
【図6】従来例の光信号電界の時間波形測定装置の4光波混合に基づく構成例を示す図である。
【図7】従来例の光信号電界の時間波形測定装置により観測されるスペクトルの容態を示す図である。
【符号の説明】
101…被測定光信号、102…分岐鏡、103…濾波器、104…光増幅器、105…第1の2次の被線形媒質、106…濾波器、107…光増幅器、
108…反射鏡、109…反射器、110…反射鏡、111…合波鏡、
112…変位器、113…第2の2次の非線形媒質、114…3次の非線形媒質、115…分岐鏡、116…分光器、117…光検出器、118…分光器、
119…光検出器、120…スペクトログラフ、121…線型光検出器列、
401…被測定光信号入力、402…分岐鏡、403…濾波器、404…光増幅器、405…第1の2次の非線形媒質、406…濾波器、407…光増幅器、
408…反射鏡、409…反射器、410…反射鏡、411…合波鏡、
413…第2の2次の非線形媒質、414…3次の非線形媒質、422…位相調整器、423…光スペクトル観測器。
Claims (6)
- 被測定光に対し、位相が固定された局発光を得、該局発光を前記被測定光に作用させて前記被測定光に対する位相共役光を生成し、前記被測定光と前記位相共役光とが合波して生じる混合光のスペクトルを観測し、前記被測定光の光信号電界の周波数領域での位相を測定する方法であって、前記局発光と前記被測定光との相対位相の変化に伴う前記混合光中の2つ以上のスペクトル成分の強度の変化を比較し、2つ以上のスペクトル成分の間の相対的位相を測定することを特徴とする光信号電界の時間波形測定方法。
- 前記相対位相の変化に伴う2つ以上のスペクトル成分の強度変化を比較する方法として、相対位相をランプ(直線勾配)状に変化させ、得られる正弦波状の強度変化について、基準とする一つのスペクトル成分の強度変化に対して、これと90°位相のずれた信号を生成し、他のスペクトル成分の強度変化に対し、前記スペクトル成分の強度変化と、これと90°位相のずれた信号をそれぞれを乗算し積分して得る2つの量の比から、スペクトル成分の間の相対的位相を求めることを特徴とする請求項1に記載の光信号電界の時間波形測定方法。
- 前記積分における積分範囲を、前記基準とする一つのスペクトル成分の強度変化の周期の整数倍にとることを特徴とする請求項2に記載の光信号電界の時間波形測定方法。
- 被測定光に対し、位相が固定された局発光を得る手段と、該局発光を前記被測定光に作用させて前記被測定光に対する位相共役光を生成する手段と、前記被測定光と前記位相共役光とが合波して生じる混合光のスペクトルを観測する手段を備え、前記被測定光の光信号電界の周波数領域での位相を測定する装置であって、前記混合光中の2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段と、前記局発光と被測定光信号との相対位相を変化させる手段と、前記相対位相の変化に伴う前記2つ以上のスペクトル成分の強度の変化を比較して2つ以上のスペクトル成分の間の相対的位相を測定する手段を備えたことを特徴とする光信号電界の時間波形測定装置。
- 前記2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段として、2つの分光器とそれぞれに装着した光検出器及び前記混合光を2分して2つの分光器に分配する分岐鏡を宛てることを特徴とする請求項4に記載の光信号電界の時間波形測定装置。
- 前記2つ以上のスペクトル成分の強度を同時に観測する手段として、線型光検出器列を装着したスペクトログラフを宛てることを特徴とする請求項4に記載の光信号電界の時間波形測定装置。
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