JP3543884B2 - 高摺動鏡筒部品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学機器に使用されるレンズ等の光学素子を保持するプラスチック製の鏡筒部品の製造方法に関するものであって、特に、高摺動性を有する鏡筒部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、光学機器においては、遮光および生活防水等は必須の機能となりつつあり、特にカメラ等のズーム機構を有する光学機器の鏡筒部品では、遮光用の部品や生活防水用部品との摺動性向上も同時に求められる。
さらに、鏡筒部品、例えば、レンズ鏡枠のような部品では、高い真円度や、高強度であることが望まれる。また、成形性のよい材料にて生産することが、経済性を考慮する上でも重要となっている。
【0003】
これらの要求を満足する具体的な手法として、比較的安価で成形性もよいポリカーボネート樹脂に有機珪素化合物、例えばシリコーンオイルを添加する方法がある。この技術に関しては、ポリカーボネートハンドブック(81ページ 本間精一 編 日刊工業新聞社刊)に記載されているが、前記文献記載の方法を本発明者らが実践したところ、成形品である鏡筒部品の摺動性は、動摩擦係数で0.13と不十分であった。
【0004】
そこで、本発明者らは、十分な摺動性が得られるよう鋭意研究した結果、成形して金型から取り出した後、鏡筒部品をその構成材料であるポリカーボネート樹脂のガラス転移点付近の温度まで昇温してアニーリング処理を施すことにより、十分な摺動効果を発現させ得ることを見出した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、アニーリング処理にて鏡筒部品の摺動性を向上させると、熱により成形時の応力緩和が起こるため、鏡筒部品の真円度が低下するという問題点があった。
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、真円度を損なうことのない、高摺動な鏡筒部品の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決する手段】
本発明は、主にポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂の複合材100重量%に対して有機珪素化合物を1.0〜5.0重量%添加した成形材料を溶融状態にして金型内のキャビティに充填し、キャビティの温度を前記複合材のガラス転移点以上の温度に加熱した後、キャビティ温度を前記複合材のガラス転移点以下の温度に冷却してから成形品である鏡筒部品を取り出すことを特徴とする。
【0007】
ここで、有機珪素化合物の添加量を1.0〜5.0重量%としたのは、1.0重量%未満の場合においては摺動効果が十分に付与されず、また、5.0重量%を越える場合においてはさしたる摺動性の向上が望めずに経済的でないためである。
添加する有機珪素化合物の種類としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、有機変性シロキサン等があり、これらを単体、あるいは、必要に応じて2種類以上を混合して用いてもよい。
【0008】
また、上記有機珪素化合物の状態としては、レジン、エラストマー、オイルでもよく、オイル以外の場合は、粒径5μm以下の球状であることが望ましい。
また、有機珪素化合物は、成形時に前記ポリカーボネート複合材のペレットと十分に攪拌混合して使用しても、予め前記樹脂と高濃度に溶融混練した高濃度樹脂材料(マスターバッチ)を調製してから用いても、どちらでもよい。
【0009】
尚、前記ポリカーボネート複合材は、ガラスやカーボンのファイバーやパウダーを含有してもよい。
(作用)
金型のキャビティ内に溶融状態の前記成形材料を充填した後、成形品である鏡筒部品をキャビティ内に残したまま、キャビティの温度を前記複合材のガラス転移点以上の温度に加熱することにより、鏡筒部品に対してアニーリング処理を行ったのと同様の作用を与える。
【0010】
つまり、前記複合材に添加した有機珪素化合物の分散性、及び移行性が向上し、複合材に添加した有機珪素化合物が鏡筒部品の表面近傍へ移行し、摺動性が向上し、同時に、充填時に生じた残留応力が開放されるのである。
また、キャビティ温度を前記複合材のガラス転移点以下の温度まで冷却した後に鏡筒部品を取り出すため、良好な真円度の高摺動鏡筒部品が得られる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の具体的な実施の形態について、以下、数種の例を挙げて説明する。
(実施の形態1)
本実施の形態について、図1〜図2および表1を用いて説明する。
図1は本実施の形態にて成形する鏡筒部品であるレンズ鏡筒を示すものであって、(a)は正面より見た図、(b)は側面より見た半断面図、(c)は背面より見た図、図2はレンズ鏡筒を成形するための成形機の概略構成図である。
【0012】
図1(a)〜(c)に示す通り、レンズ鏡筒1は、異なる複数の内径寸法および外径寸法を有する筒形状であって、レンズ(図示省略)を保持するためのレンズ挿入部A,Bを有する。レンズ挿入部Aの内径はφ20mm、レンズ挿入部Bの内径はφ45mmである。
このレンズ鏡筒1を成形する成形機は広く一般に用いられる射出成形機であり、本実施の形態では、住友重機(株)製のネスタールSG−125を用いた。
【0013】
図2に示す通り、この射出成形機10には、レンズ鏡筒1(図1参照)の形状を反転した形状の空間であるキャビティ(図示省略)を有する金型2を装着している。
この金型2の内部には、低温用および高温用の温度調整用媒体の流路(図示省略)を各々設けており、これら流路は、ホース5を介して低温用温調機3および高温用温調機4に接続している。
【0014】
各ホース5の中ほどには自動バルブ7を備えており、この自動バルブ7は制御装置6に接続してある。
制御装置6は、射出成形機10の型開き、型締め、射出等のやりとりを行い得るよう、上記射出成形機10の制御部(図示省略)と信号ケーブル9にて接続しているとともに、金型2のキャビティ内の温度を検知するための温度センサ8を接続している。
【0015】
温度センサ8は、キャビティ内に充填される溶融状態の成形材料の温度を正確に検知できるよう、可能な限りこのキャビティに近接させてある。
次に、熱可塑性樹脂である成形材料の生成順序について述べる。
まず、ガラスフィラーを30重量%含有するポリカーボネート複合材(商品名:パンライトBP7330R/帝人化成(株)製)100重量%に、シリコーンオイル(商品名:BY16−140/東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を50.0重量%添加したものをマスターバッチとして調製する。
【0016】
このマスターバッチを、上記のものと同様のポリカーボネート複合材(シリコーンオイルを添加していないもの)と共に射出成形機10のホッパー11内に投入し、マスターバッチとポリカーボネート複合材とを混合する。
この際、マスターバッチとポリカーボネート複合材との配合割合を変化することで、ポリカーボネート複合材100重量%に対するシリコーンオイルの割合を変化し、配合比の異なる数通りの成形材料を得る。
【0017】
本実施の形態では、ポリカーボネート複合材100重量%に対するシリコーンオイルの割合を、6.0重量%、5.0重量%、3.0重量%、1.0重量%、および0.5重量%の5種類用意した。
次に、上記成形材料を用いてのレンズ鏡筒1の成形順序について、図2を用いて説明する。
【0018】
まず、上記ポリカーボネート複合材のガラス転移点を測定する。
ガラス転移点は、リガク(株)製の示差走査熱量計DSC8230を用い、JIS K7121に準拠して行った。
その結果、140.2℃であった。
この結果を受け、射出成形後のレンズ鏡筒1のアニール処理時の金型2の温度を設定するのであるが、本実施の形態では、上記ポリカーボネート複合材のガラス転移点より高い145℃とした。
【0019】
また、成形終了後に金型2からレンズ鏡筒1を取り出す都合上、上記ポリカーボネート複合材のガラス転移点より低い温度にする必要があるという点と、バリ発生の有無を考慮し、レンズ鏡筒1を取り出す時、および、射出成形時の金型2の温度を125℃とした。
このようにして設定した金型2の温度から、低温用温調機3および高温用温調機4よりホース5を介して金型2へ送り出す温調媒体の温度を設定する。
【0020】
金型2の温度は、低温用温調機3からの温調媒体の温度と高温用温調機4からの温調媒体の温度とのバランスによってある一定の温度の保つものであるが、本実施の形態では、上は145℃から下は125℃まで可変である必要があるため、低温用温調機3からの温調媒体の温度を115℃、高温用温調機4からの温調媒体の温度を180℃とした。
【0021】
各温調媒体の温度が決まった後、金型2を型開き状態から型締め状態とし、制御装置6より自動バルブ7に信号を送って自動バルブ7を開き、低温用温調機3および高温用温調機4の温調媒体が金型2を循環する環境が整った後、ホース5を介して金型2に各温調媒体を送り、金型2を昇温する。
金型2の温度が125℃に達し、安定したら、ホッパー11内に投入したマスターバッチとポリカーボネート複合材とを、射出成形機10のスクリュ(図示省略)にて攪拌混合しつつ加熱して可塑化する。
【0022】
この時点で、ホッパー11内にて混合したマスターバッチとポリカーボネート複合材とは、十分に混ざり合い、1つの成形材料と成る。
この成形材料が十分可塑化し、1回射出成形に必要な計量が終了した後、のキャビティに対して成形材料を射出、充填し、一定時間保持する。
このとき、金型2の温度がポリカーボネート複合材の転移点温度以下の温度であるため、キャビティ内の成形材料は、一端冷却固化される。
【0023】
従って、この時点では、レンズ鏡筒1に応力が残留する。
しかる後、制御装置6より自動バルブ7へ信号を送り、低温用温調機3からの温調媒体と高温用温調機4からの温調媒体の流量のバランスを変化し、金型2の温度を145℃まで上げ、一定時間保持する。
この間、温度センサ8によって逐次検知される金型2の温度は制御装置6に送られ、制御装置6は、検知された温度の変化に応じて自動バルブ7の開閉度を変化し、設定した金型2の温度(145℃)を維持する。
【0024】
つまり、成形したレンズ鏡筒1をキャビティ内に残して、レンズ鏡筒に圧力をかけたまま、レンズ鏡筒1をアニール処理する。
このとき、射出成形時に発生したレンズ鏡筒1の残留応力は解放されるとともに、ポリカーボネート複合材に添加したシリコーンオイルはレンズ鏡筒1の表面近傍に移行する。
【0025】
一定時間保持後、制御装置6より自動バルブ7へ信号を送り、低温用温調機3からの温調媒体と高温用温調機4からの温調媒体の流量のバランスを変化し、レンズ鏡筒に圧力をかけたまま金型2の温度を125℃まで下げ、保持する。
125℃で一定時間保持し、成形材料が冷却、固化した後に、金型2を開き、レンズ鏡筒1を取り出す。
【0026】
次に、レンズ鏡筒1の性能を確認する。真円度は、JIS B0621に準拠して測定し、動摩擦係数は、JIS K7125に準拠して測定した。
測定結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
真円度は、レンズ挿入部A、Bともに良好であった。
摺動性については、シリコーンオイルの添加量が0.5重量%以下であると動摩擦係数が0.18以下と不良であり、6.0重量%であると動摩擦係数が0.06と良好であったが、5.0重量%の結果と変わらず、5.0重量%以上の添加量では、添加量の増加に伴う摺動性の向上は認められなかった。
【0029】
本実施例のように、レンズ鏡筒を射出成形後、金型を閉じたままガラス転移点以上の温度で一定時間保持するため、レンズ鏡筒に残留応力が発生しないので、レンズ鏡筒の真円度が良好となる。
また、射出成形したレンズ鏡筒をキャビティ内に残したまま、ガラス転移点以上の温度で一定時間保持するため、ポリカーボネート複合材に添加したシリコーンオイルの分散性及び移行性が向上して鏡筒部品の表面近傍に移行するので、摺動性が向上する。
【0030】
(比較例1)
実施の形態1における真円度の比較例として、アニーリングによる真円度低下を確認した。
具体的には、金型2の温度を125℃(ガラス転移点以下の温度)に設定し、実施の形態1にて用いた数種の成形材料の内の1つと同じ、シリコーンオイル5.0%添加のポリカーボネート混合樹脂材料でレンズ鏡筒1を成形し、成形後、120℃に設定したオーブンにいれ、1時間保持するアニーリングを行い、終了後、実施の形態1と同様の方法で真円度を測定した。
【0031】
測定結果は、表2に示す通りである。
【0032】
【表2】
【0033】
尚、併せて動摩擦係数を測定したので、真円度と共に表2に示す。
本比較例によると、動摩擦係数は良好であるが、真円度が不良であった。
(比較例2)
実施の形態1における動摩擦係数の比較例として、シリコーンオイル無添加の場合の動摩擦係数低下を確認した。
【0034】
具体的には、前記ポリカーボネート複合材のみを成形材料とし、実施の形態1と同様の構成によりレンズ鏡筒1を成形し、実施の形態1と同様の評価法にて動摩擦係数を測定した。
測定結果は、比較例1と共に表2に示す。
尚、併せて真円度を測定したので、動摩擦係数と共に表2に示す。
【0035】
本例によると、動摩擦係数、真円度共に不良であった。
(実施の形態2)
本実施の形態では、ガラスフィラー30.0%を含むポリカーボネート複合材(商品名:G3130PH/帝人化成(株)製)に、有機珪素化合物として平均粒径5μm以下の球体からなるシリコーンレジン(商品名:KMP/信越シリコーン(株)製)を添加し、これらを混合したものを成形材料としてレンズ鏡筒1を成形した点以外は上記実施の形態1と同様の構成であるため、重複する点についての説明は省略する。
【0036】
また、成形したレンズ鏡筒1の真円度と動摩擦係数については、実施の形態1と同様の方法で測定し評価した。
表3に示すとおり、本実施の形態においても、上記実施の形態1と同様に、添加量1.0重量%未満では十分な摺動効果を得ることができず、5.0重量%を越えると、添加量の増加にみあうだけの摺動性の向上が見られなかった。
【0037】
また、真円度も良好であった。
【0038】
【表3】
【0039】
(比較例3)
本比較例は、実施の形態2に用いたポリカーボネート複合材に対して有機珪素化合物を添加せずに、実施の形態2と同様の構成により図1に示すレンズ鏡筒1を成形し、評価したものである。
結果を表3に示す。
【0040】
表3に示す通り、有機珪素化合物を添加しなかったため、摺動性の向上は認められなかった。
(実施の形態3)
本実施の形態は、有機珪素化合物として平均粒径2μm以下のシリコーンエラストマー(商品名:KMP594/信越シリコーン(株)製)を添加したこと以外は、上記実施の形態1と同様の構成により図1に示すレンズ鏡筒1を成形し、実施の形態1と同様の評価方法により、成形したレンズ鏡筒1の真円度と動摩擦係数の測定を行った。
【0041】
表4に結果を示す。なお、前記有機珪素化合物添加で成形した場合は、比較例2と同様である。
【0042】
【表4】
【0043】
表4に示す通り、前記有機珪素化合物の添加量が1.0重量%未満では十分な摺動効果が認められず、また、前記有機珪素化合物の添加量が5.0重量%を越えると添加量の増加に伴う摺動性の向上が認められなかった。
尚、実施例に記載した事象は、本発明を限定するものではなく、用途によって樹脂組成や添加する有機珪素化合物等、種々変形可能なのは言うまでもない。
【0044】
【発明の効果】
本発明によると、溶融状態の成形材料を金型内のキャビティに充填した後、キャビティの温度を前記樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱し、その後、キャビティ温度を前記樹脂のガラス転移点以下の温度に冷却してから成形品を取り出すことにより、真円度を損なうことなく高摺動の鏡筒部品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態において成形したレンズ鏡筒の形状を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における成形装置の概略構成図である。
【符号の説明】
1 レンズ鏡筒
2 金型
3 低温用温調機
4 高温用温調機
6 制御装置
Claims (1)
- 主にポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂の複合材100重量%に対して有機珪素化合物を1.0〜5.0重量%添加した成形材料を溶融状態にして金型内のキャビティに充填し、キャビティの温度を前記複合材のガラス転移点以上の温度に加熱した後、キャビティ温度を前記複合材のガラス転移点以下の温度に冷却してから成形品である鏡筒部品を取り出すことを特徴とする高摺動鏡筒部品の製造方法。
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JP33204895A JP3543884B2 (ja) | 1995-12-20 | 1995-12-20 | 高摺動鏡筒部品の製造方法 |
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JP33204895A JP3543884B2 (ja) | 1995-12-20 | 1995-12-20 | 高摺動鏡筒部品の製造方法 |
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JPH09169040A JPH09169040A (ja) | 1997-06-30 |
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JP33204895A Expired - Fee Related JP3543884B2 (ja) | 1995-12-20 | 1995-12-20 | 高摺動鏡筒部品の製造方法 |
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1995
- 1995-12-20 JP JP33204895A patent/JP3543884B2/ja not_active Expired - Fee Related
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