JP3542522B2 - 発酵促進物質及びその製造方法 - Google Patents

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  • Distillation Of Fermentation Liquor, Processing Of Alcohols, Vinegar And Beer (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビール又は発泡酒の製造に用いられる酵母を活性化させ、発酵速度を向上させて、発酵期間を短縮させることのできる発酵促進剤に係り、更に詳しくは、ビール、発泡酒等、穀類を使用した発酵酒の製造過程で得られる使用穀類の穀皮を含む粕等の残渣由来の(トルーブを含む)発酵促進剤、その製造方法、その発酵促進剤を使用したビール又は発泡酒の製造方法、並びにその発酵促進剤を使用した酵母の活性回復方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、ビール粕を、ビール製造等の発酵工程において添加し、発酵を促進させることは、本出願人による先の出願(特願平7−273732号、特開平9−94085号公報参照)により既に知られている。
【0003】
また、ビール粕では、発酵促進に寄与しない不要物が多く、ビール粕を直接添加する場合、発酵促進効果を得るためには、被発酵対象(例えば、麦汁)量に対して、多量のビール粕を投入する必要があり、ビールのように大量生産するものでは、製造設備を変更したり、或いは新たに大型設備を導入しなければならず、さらに、発酵工程終了後には、これら不要物を除去する工程を追加する必要がある。
このため、その対策として、ビール粕を乳酸処理して、その上澄液(抽出液)を得、これを発酵促進物質として添加することも本出願人による先の出願(特願平7−273732号、特開平9−94085号公報参照)に開示されている。
【0004】
しかしながら、この抽出液を用いた場合、発酵促進成分が即座に酵母に取り込まれ、酵母が一気に活性化されて、結果として香味等のビール品質が変化してしまう可能性があり、更にかかる抽出液の保存及び取扱いが容易でなく、未だ十分なものではなかった。
すなわち、抽出物とはいっても、多量の水分等、発酵促進に寄与しない成分が残存しており、ビール粕同様、工業生産に使用する場合、多量の添加をするための製造設備が必要となり、さらに、これの保管スペースも必要であり、まとまった量の運搬に適する形態ではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した問題点を解決するものであり、酵母を経時的に安定して活性化させ、発酵の一時的な急激な進行を十分に防止しつつ、発酵速度を向上させて、発酵期間を短縮することを可能とし、更に保存及び取扱いが容易な発酵促進剤並びにその製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、短期間で、かつ安定してビール又は発泡酒を製造することを可能とする方法並びに酵母の活性を安定して回復させることが可能な方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
すなわち、本発明は、ビール粕等の使用穀類を含む残渣から発酵促進に寄与する成分を抽出して、発酵促進に不要な物質を除去した発酵促進剤を得ることにあり、また、該発酵促進剤を使用したビール又は発泡酒の製造方法及び酵母の活性回復方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、ビール,発泡酒等の香味品質に悪影響を与えるおそれのない、ビール、発泡酒等の発酵酒の製造過程で得られる残渣由来の発酵促進剤、その製造方法、その発酵促進剤を使用したビール又は発泡酒の製造方法、並びにその発酵促進剤を使用した酵母の活性回復方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
さらに、本発明は、発酵促進に不要な物質の除去された、発泡酒の製造過程で得られる残渣由来の発酵促進剤、その製造方法、その発酵促進剤を使用したビール又は発泡酒の製造方法、並びにその発酵促進剤を使用した酵母の活性回復方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、ビール粕等の残渣に特定の処理を施すことにより、残渣から発酵促進に寄与する物質を選択的に抽出することができ、同時に、発酵促進に関係せず、むしろ悪影響を及ぼす蛋白質や脂質等の不要物質を効果的に除去し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、第1に、請求項1記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣を酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和してなる固形状の発酵促進剤を提供するものである。
【0010】
第2に、請求項2記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣を酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和することを特徴とする固形状の発酵促進剤の製造方法を提供するものである。
【0011】
第3に、請求項3記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和してなる固形状の発酵促進剤を提供するものである。
【0012】
第4に、請求項4記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和することを特徴とする固形状の発酵促進剤の製造方法を提供するものである。
【0013】
第5に、請求項5記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和した後、乾燥してなる発酵促進剤乾燥物を提供するものである。
【0014】
第6に、請求項6記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和した後、乾燥することを特徴とする発酵促進剤乾燥物の製造方法を提供するものである。
【0015】
第7に、請求項7記載の本発明は、ビール又は発泡酒を製造するにあたり、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を、発酵工程において添加するか、或いは発酵に使用する酵母中に予め添加しておくことを特徴とするビール又は発泡酒の製造方法を提供するものである。
【0016】
第8に、請求項8記載の本発明は、使用前の酵母について、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を添加することを特徴とする酵母の活性回復方法を提供するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、請求項1記載の本発明から説明する。
請求項1記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣を酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和してなる固形状の発酵促進剤を提供するものである。
【0018】
このような請求項1記載の本発明の固形状の発酵促進剤は、請求項2に記載した方法により製造することができるので、以下、請求項2記載の方法に従って説明する。
【0019】
請求項2記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣を酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和することを特徴とするものである。
請求項2記載の本発明の製造方法においては、原料として、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣を用いる。
【0020】
残渣としては、採取したもの(例えば、麦汁を搾り終えたビール粕)をそのまま使用してもよいが、必要に応じてこれを脱水機により脱水した脱水品や、さらに乾燥機により乾燥させた乾燥品を使用することができる。
【0021】
本発明における残渣とは、ビール粕、発泡酒等の製造過程で得られる粕類と、麦汁煮沸後の沈殿処理時に得られるトルーブも原料として用いることもできる。
【0022】
請求項2記載の本発明においては、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた上記残渣について、まず初めに酸処理(酸添加処理)を行う。
ここで酸処理に使用する酸としては、乳酸、リン酸、塩酸、酢酸等を単独で、若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
上記酸処理においては、添加後の残渣のpHが、好ましくは4以下、より好ましくはpH3〜4となるように酸を添加する。添加後の残渣のpHが4より大きいと、発酵促進物質の抽出量が減り、結果として後の中和処理工程において有効成分(亜鉛、マンガン等)の沈澱量が減少する傾向にあるため好ましくない。他方、添加後の残渣のpHが3未満では、乳酸、リン酸等の酸の量が多くなり、結果的に後の中和処理工程において多量のアルカリが必要となり、また、カルシウム塩等の不要な沈澱物が増加するため、相対的に有効成分の含有量が低くなる傾向にある。そのため、実際上は、添加後の残渣のpHが3から4の間となるように酸を使用することがより好ましい。なお、酸の添加は、pHメーター等でpHを計りながら酸を滴下する等の常法を採用することができる。
【0024】
上記酸は、残渣を攪拌しながら添加し、酸を添加した後も暫く攪拌して抽出を促進させることが望ましい。酸を添加する際の温度は特に制限されず、約0℃〜100℃の温度範囲で可能であり、一般的には、約0℃〜室温程度の範囲の低温域が好ましい。
攪拌を停止すると、不溶物である固体成分が速やかに沈殿する。
そこで、請求項2記載の本発明では、不要成分を不溶物として除去し、この上澄液である液体成分のみ分離する。この分離方法は、例えば篩、さらには必要に応じて遠心分離機を用いて固体成分を除去し、上澄液である液体成分のみ分離する(固液分離する)方法、或いは上澄液のみサイフォンの原理を利用して分離する方法等がある。
【0025】
このようにして分離された上澄液である液体成分、つまり抽出液中には、酸処理によりビール又は発泡酒の製造過程で得られる残渣中の亜鉛、マンガン、マグネシウム、リン酸等の酵母の活性化に必須の無機塩類がイオン化して溶解状態で抽出される。
このようにして、酵母の活性化に有効な発酵促進成分が溶解状態で含有されている、液状の発酵促進物質が得られる。
【0026】
請求項2記載の本発明では、上記のようにして得られた液状の発酵促進物質を、さらに中和する。
すなわち、上記液状の発酵促進物質(抽出液)は、先の酸添加処理により酸性となっているため、これにアルカリを加えて中和する。中和することによって、上記した如き無機塩類(発酵促進物質)が溶解状態で含有されている液状の発酵促進物質(抽出液)から、発酵促進物質が不溶性塩の状態で沈澱、固形化される。この沈澱物を回収することにより、固形状の発酵促進剤を得ることができる。このようにして得られる固形状の発酵促進剤が、請求項1記載の本発明の固形状の発酵促進剤である。
【0027】
中和は、例えば、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等の通常用いるアルカリ溶媒を添加することにより行うことができ、これらのアルカリを単独で、若しくは2種以上組合せて使用することができる。上記中和処理では、添加後のpHが好ましくは6以上の中性、より好ましくはpH6〜7.5となるようにアルカリを添加する。添加後のpHが6未満では、発酵促進成分(亜鉛、マンガン等)の沈澱量が減少する傾向にあるため好ましくない。他方、添加後のpHが7.5を超えると、不要な沈澱物の生成が起こる可能性があるため好ましくない。なお、アルカリを添加する方法としては、pHメーター等でpHを計りながらアルカリを滴下する等の常法を採用することができる。また、アルカリを添加する際の温度は特に制限されず、約0℃〜100℃の温度範囲で可能であり、一般的には、約0℃〜室温程度の範囲の低温域が好ましい。上記沈澱物を回収する方法としては、例えば遠心分離機、篩等を用いて固形成分を液体成分から分離する固液分離方法が挙げられる。
【0028】
但し、実際上は、請求項3に記載したように、請求項1記載の固形状の発酵促進剤において、酸処理前に、残渣の少なくとも蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去してなるものが好ましい。
【0029】
このような請求項3記載の本発明の固形状の発酵促進剤は、請求項4に記載した方法により製造することができるので、以下、請求項4記載の方法について説明する。
請求項4記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和することを特徴とするものであって、請求項2記載の固形状の発酵促進剤の製造方法において、酸処理前に、残渣の少なくとも蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去する処理(一次処理)を施す点を特徴とする。
【0030】
この一次処理は、蛋白質や脂質等、発酵後に得られるビール,発泡酒等の発酵品の香味に悪影響を与える不要成分を予め除去するために行うものである。
このような一次処理としては、物理的処理と化学的処理、さらにはこれらを併用した処理を挙げることができる。
【0031】
物理的処理としては、残渣中に付着する蛋白質、脂肪等の不要成分を物理的衝撃により剥離することのできる手段であれば、いずれの手段も採用することができる。
まず、物理的処理としては、例えば高速攪拌機による処理が挙げられる。具体的には、高速攪拌機で1分間〜60分間、物理的衝撃を与えた後、水洗しつつ篩処理し、洗浄除去する方法が挙げられる。この方法によれば、穀皮以外の不要な蛋白質、脂質を効果的に除去することができる。
その他、加圧処理、剥離処理などの物理的手段によっても、同様の目的を達成することができる。
【0032】
一方、化学的処理としては、アルカリ処理、有機溶媒処理、さらには炭酸ガスを用いた超臨界抽出処理等が挙げられ、これらを単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここでアルカリ処理は、例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等を用いて行われ、有機溶媒処理は、例えばメタノールなどのアルコール類、クロロホルム,アセトン,ヘキサン等の有機溶媒を単独で、若しくはそれらを組み合わせて行われる。
さらに、物理的処理と化学的処理とを併用した処理とは、上記2種類の処理を併用した処理を指す。
【0033】
この一次処理によって、蛋白質や脂質等、発酵後に得られるビール,発泡酒等の発酵品の香味に悪影響を与える不要成分の全部又は一部を予め除去する。例えば、高速攪拌粉砕機による処理を行うことにより、残渣中の粗蛋白質は半分乃至3分の1程度に、脂質(粗脂肪)については4分の1乃至5分の1程度にまで低下させることができる。一方、発酵促進剤の含有量は、一次処理後も殆ど変わらない。
このように、残渣に本来含まれる蛋白質、脂肪など、発酵品の香味等の品質に悪影響を及ぼす物質が、事前に効率良く除去されるため、発酵品の品質の変化が防止される。
【0034】
さらに、請求項5記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和した後、乾燥してなる発酵促進剤乾燥物であって、上記請求項3により得られた固形状の発酵促進剤を乾燥してなる発酵促進剤乾燥物である。
【0035】
そのような請求項5記載の本発明の発酵促進剤乾燥物は、請求項6に記載した方法により製造することができるので、以下、請求項6記載の方法について説明する。
請求項6記載の本発明は、ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和した後、乾燥することを特徴とするものであって、上記した請求項4記載の本発明において、中和処理後に得られた固形状の発酵促進剤を、さらに乾燥することを特徴とするものである。
【0036】
ここで乾燥の条件は特に制限はなく、常圧加熱乾燥,噴霧乾燥,凍結乾燥等、いずれの乾燥方法をも用いることができる。
このようにして、目的とする発酵促進剤乾燥物、つまり請求項5記載の本発明の発酵促進剤乾燥物が得られる。このように乾燥状態とすることにより、取扱い、保存が容易となる。
【0037】
以上のようにして得られる請求項1,3記載の本発明の固形状の発酵促進剤、請求項5記載の本発明の発酵促進剤乾燥物は、いずれも原料の残渣に含まれていた粗蛋白質、粗脂肪等の不要成分が除去される一方、マンガン、マグネシウム、リン酸、亜鉛等の酵母の活性化に必須の無機塩類を豊富に有している。
そのため、該発酵促進剤は、ビール、発泡酒等のアルコール飲料製造の他、製パン等の食品製造など、各種発酵品の製造工程において有効に利用することができ、発酵期間の短縮を図ることができる。
【0038】
次に、請求項7記載の本発明は、ビール又は発泡酒を製造するにあたり、上記請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を、発酵工程において添加するか、或いは発酵に使用する酵母中に予め添加しておくことを特徴とする。
すなわち、上記発酵促進剤を、発酵工程において添加するか、或いは発酵に使用する酵母中に予め添加する。
【0039】
上記発酵促進剤の添加量は、例えば発酵酒としてビール又は発泡酒の製造に使用する場合において、麦汁に対して添加する場合には、その添加量は、加工形態、即ち有効成分の含量により大きく異なるが、請求項5記載の発酵促進剤乾燥物の場合、麦汁1000Lに対して、1g〜20gの範囲、つまり1ppm〜20ppmの割合で添加することが望ましい。また、発酵に使用する酵母中に予め添加しておく場合には、麦汁に添加する量に対応する量を用いれば良い。いずれも上記下限未満であると、発酵期間を短縮させることができない。一方、上限より多く加えても、発酵期間短縮の程度は殆ど変わらないため、実用的ではない。
なお、発酵期間の短縮の要因は、上記発酵促進剤に含まれる亜鉛、マンガン、リン酸、マグネシウム等の無機塩類からなる発酵促進成分が、ビール,発泡酒等の発酵品の製造時に溶出し、酵母がこの発酵促進成分を摂取するためであると考えられる。
【0040】
発酵に使用する酵母中に予め添加しておく場合、いわゆる長期保存酵母に対しても有効である。
すなわち、発酵に使用する酵母中に予め添加しておく場合の添加時期は、発酵に使用する予定日の前日でもよいし、発酵促進成分を添加して保存することもできる。
【0041】
最後に、請求項8記載の本発明は、酵母の活性回復方法に関し、使用前の酵母について、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を添加することを特徴とするものである。
【0042】
請求項8記載の本発明によれば、酵母の活性を著しく回復することができる。特にビール,発泡酒等の発酵品製造用の酵母について、その使用前(保存前或いは保存中)に、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を添加することにより、そのような発酵品製造用の酵母の活性を著しく回復することができる。
【0043】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
【実施例】
実施例1
図1に示す製造工程図に沿い、下記のようにして発酵促進剤を製造した。
(1)一次処理
まず、仕込工程において麦汁を搾り終えたビール粕144.5kg(脱水品、乾燥物換算54kg)に水870リットル(L)を加えたものについて、高速攪拌機を用いて10分間高速攪拌した後、水洗しつつ篩にかけて、穀皮以外の不要成分(蛋白質、脂質等)を洗浄除去した。
得られた一次処理物について、一次処理を施す前の乾燥ビール粕(乾燥SG)に対する回収率と、一次処理物中の粗蛋白質、粗脂肪、及び有効成分の一つとして亜鉛の割合を調べた。結果を乾燥ビール粕(乾燥SG)中の粗蛋白質、粗脂肪、亜鉛の割合と共に第1表に示す。
【0045】
【表1】
Figure 0003542522
Figure 0003542522
【0046】
第1表によれば、一次処理による生成物は、一次処理を施す前の乾燥ビール粕(乾燥SG)と比べて、粗蛋白質が21.7重量%から8.6重量%へと大幅に減少し、粗脂肪も10.0重量%から2.2重量%へと大幅に減少しており、発酵時に不要な物質が効率的に除去されたことが分かる。一方、有効成分の一つである亜鉛の含有量は、66重量ppmとあまり変わらず、処理後も有効成分を高率で含有していることが分かる。
【0047】
(2)酸処理
上記(1)の一次処理による生成物100kg(乾燥物換算11kg)に、水100リットル及び50%乳酸を最終pHが3.42となるように添加した(終濃度95w/w%)。酸添加後、室温下3日間攪拌して反応を促進させ、その後静置して、不溶物(固形物)を沈殿させ、液体部分(上澄液)のみを分離して、液状の発酵促進物質を得た。
【0048】
(3)中和
上記(2)の酸処理の後、得られた液状の発酵促進物質300リットルに48%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、最終pHが7.18になるように調整した。アルカリ添加後、得られた混合物を室温下で1日間攪拌して反応を促進させ、その後、静置して不溶物(固形物)を沈澱させ、固形分のみを分離回収して、固形状の発酵促進剤を得た。
【0049】
(4)乾燥
さらに、上記(3)の中和処理により得られた固形分を凍結乾燥し、灰色で固形状の発酵促進剤275gを得た。
【0050】
得られた固形状の発酵促進剤について、外観を肉眼で観察した他、含有成分の分析を行った。結果を第2表に示す。
なお、第2表中に示す含有成分の数値は、風乾物中の重量%を表したものである。また、Ca,Mg,PO 4 及びZnは、灰分中に包含される成分であるが、数値は全体に対する重量%で示した。
【0051】
【表1】
第2表〔固形状の発酵促進剤の分析結果〕
Figure 0003542522
【0052】
第2表から明らかな通り、上澄液(液状の発酵促進物質)には、原料であるビール粕中の亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の酵母の活性化に有効な無機塩類(発酵促進成分)が高濃度に抽出されていることが分かる。
特に亜鉛は、一次処理物が66重量ppm含有していたのに対して、この酸処理後には0.65重量%、つまり6500重量ppm含まれており、約100倍に濃縮されていることが分かる。また、本発明の固形状の発酵促進剤においては、上記発酵促進成分が中性の冷麦汁には不溶である不溶性塩(乳酸亜鉛、リン酸亜鉛等)の状態で含有されていた。
【0053】
(5)発酵試験〔麦汁及び酵母に添加した場合〕
次に、上記(1)〜(4)の処理を行って得られた固形状の発酵促進剤を使用し、以下のようにして発酵試験を行った。
400L発酵タンクを使用し、上記(4)で得られた固形状の発酵促進剤8gを、麦汁400L(エキス分11重量%)に対し、▲1▼発酵試験の前日(使用前日)に酵母に添加、▲2▼発酵試験時に麦汁に直接添加、▲3▼無添加(対照)、の3つの状況で発酵試験を行い、発酵経過を調べた。その結果を図2に示す。また、エキスは振動式密度計を使用し、浮遊酵母数はトーマの血球計により顕微鏡観察して調べた。
【0054】
図2から、発酵経過に関し、▲1▼及び▲2▼の条件のいずれの場合も、▲3▼無添加の場合と比較して、2日間早く発酵が完了し、しかも発酵状態が経時的に安定していることが確認された。
このことから、固形状の発酵促進剤を、発酵試験の前或いは発酵試験と同時に添加することにより、酵母を経時的に安定して活性化させ、発酵の一時的な急激な進行を十分に防止しつつ、発酵速度を向上させて、無添加の場合よりも発酵期間を短縮することができることが分かる。
【0055】
このことから、本発明の発酵促進剤を添加することにより、酵母が活性化され、発酵が促進されることが明らかである。
【0056】
(6)発酵試験〔使用前の酵母に添加した場合〕
上記(4)で得られた固形状の発酵促進剤を、使用前の酵母に対して、▲1▼その酵母を0℃で14日間保存した後に使用する際の酵母使用前日に添加、つまり酵母を保存してから13日目に添加、▲2▼その酵母を0℃で14日間保存するときに添加、つまり酵母保存時に添加、▲3▼その酵母に発酵促進剤を添加することなく0℃で14日間保存、つまり無添加(対照)、の3つの状況で、前記(5)と同様の発酵試験を行い、発酵経過を調べた。また、参考として、▲4▼通常酵母についても同様に試験を行った。その結果を図3に示す。
【0057】
その結果、図3に示すように、発酵促進剤を添加した▲1▼、▲2▼の場合には、▲3▼の無添加の場合と比較して、2日間の期間短縮となり、▲4▼の通常酵母を使用した場合と同等の発酵日数となった。
このことから、本発明の発酵促進剤は、保存酵母及び使用前の酵母に添加することによって、酵母の活性を回復することができることが分かる。
【0058】
【発明の効果】
請求項1記載の本発明の固形状の発酵促進剤によれば、ビール,発泡酒等の発酵品の製造時において、酵母を経時的に安定して活性化させ、発酵の一時的な急激な進行を十分に防止しつつ発酵速度を向上させ、発酵期間を短縮させることができる。
【0059】
また、請求項1記載の本発明の固形状の発酵促進剤によれば、固形状であり、しかも発酵促進成分が高濃度に含有されているため、その保存及び取扱いが容易なものとなっている。
【0060】
次に、酸処理前に残渣の少なくとも蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去してなる請求項3記載の本発明の固形状の発酵促進剤によれば、ビール,発泡酒等の発酵品の製造時において、酵母を活性化させ、発酵速度を向上させ、発酵期間を短縮させることができると共に、発酵促進に不要な物質が有効に除去されている。さらに、残渣に本来含まれている蛋白質,脂肪等、ビール,発泡酒等の発酵品の香味に悪影響を及ぼす物質も効率良く除去されているため、発酵品の香味品質に悪影響を与えるおそれもない。
しかも、請求項3記載の本発明の固形状の発酵促進剤は、発酵促進に寄与しない物質を含まないため、発酵工程終了後にこれらの不要物を除去する必要がなく、操作を簡略化することもできる。
【0061】
さらにまた、上記請求項3記載の本発明の固形状の発酵促進剤を乾燥してなる請求項5記載の本発明の発酵促進剤乾燥物によれば、より一層取扱、保存が容易なものとなっている。
【0062】
次に、請求項2或いは4記載の本発明の方法によれば、それぞれ請求項1或いは3記載の本発明の固形状の発酵促進剤を効率良く製造することができ、さらに、請求項6記載の本発明の方法によれば、請求項5記載の本発明の発酵促進剤乾燥物を効率良く製造することができる。
【0063】
また、請求項7記載の本発明の方法によれば、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を使用して発酵を行うことにより、酵母を活性化させ、発酵速度を向上させ、発酵期間を短縮させることができる。
【0064】
さらに、請求項8記載の本発明の方法によれば、酵母の活性を著しく回復することができる。特にビール,発泡酒等の発酵品製造用の酵母について、その使用前(保存前或いは保存中)に、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を添加することにより、そのような発酵品製造用の酵母の活性を著しく回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における本発明の発酵促進剤の製造工程図である。
【図2】実施例1(5)における発酵経過を示すグラフである。
【図3】実施例1(6)における発酵経過を示すグラフである。

Claims (8)

  1. ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣を酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和してなる固形状の発酵促進剤
  2. ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣を酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和することを特徴とする固形状の発酵促進剤の製造方法。
  3. ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和してなる固形状の発酵促進剤
  4. ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和することを特徴とする固形状の発酵促進剤の製造方法。
  5. ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和した後、乾燥してなる発酵促進剤乾燥物。
  6. ビール又は発泡酒の製造工程より得られた残渣について、少なくともその蛋白質及び脂質の全部若しくは一部を除去した後、酸処理し、酸処理後の上澄液を分離し、得られた液状の発酵促進物質をさらに中和した後、乾燥することを特徴とする発酵促進剤乾燥物の製造方法。
  7. ビール又は発泡酒を製造するにあたり、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を、発酵工程において添加するか、或いは発酵に使用する酵母中に予め添加しておくことを特徴とするビール又は発泡酒の製造方法。
  8. 使用前の酵母について、請求項1,3及び5のいずれかに記載の発酵促進剤を添加することを特徴とする酵母の活性回復方法。
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