JP3541572B2 - 園芸作物の栽培方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は園芸作物の栽培方法に関する。更に詳しくは育苗容器において所定の被覆粒状肥料を使用して播種育苗し、得られた苗を本圃に移植する園芸作物の栽培方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその問題点】
植物の生育にとって必要な栄養素は窒素、燐酸、加里をはじめとする多量必須元素9種類と、鉄、マンガン、銅などの微量必須元素7種類が現在までに知られている。これら元素は土壌にイオンの状態で吸着・保持されており、そこで吸着されている様々な養分を根から吸収して生育する。数種の陰陽両イオンを含む溶液から養分吸収が行われる場合には、互いに吸収を抑制し合う拮抗作用が起こるケースが見られる。
この代表としては加里とカルシウムまたは/及びマグネシウム、鉄とマンガン、塩素と臭素等が挙げられる。作物においてはイオン価が小さい物ほど吸収されやすい傾向があり、同時に存在する場合、特に吸収しやすいイオン価の小さいもの(加里、アンモニウム等の1価のイオン)が多く存在する場合には、イオン価の小さいイオンが優先的に吸収され、イオン価の大きいイオンは吸収が抑制される。
園芸作物の栽培において、この拮抗作用により本来吸収されるべき量のカルシウムやマグネシウムが吸収されず欠乏症を起こし商品果収量が低下したり、施肥したカルシウムやマグネシウムの利用がほとんどされず、無駄な施肥になってしまうケースが多発している。特に農業における経済性追求により多肥多収型農業が営まれる日本や北米、ヨーロッパをはじめとする今日の農業先進国においては、加里肥料、窒素肥料共に施肥量が多く、上記問題が顕著に発生し更なる生産性向上の妨げとなっている。
カルシウム、マグネシウムの吸収効率から考えれば加里肥料や窒素肥料の施肥量を抑えればよいが、作物の収穫効率を維持するためには現行の施肥量が必要でありその方法は採用できない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
作物は主として根から養分を吸収する。根は土壌中に深く伸びて地上部を支持し、また周囲の土壌から養分や水分を吸収して地上部へ送っている。養分吸収における拮抗作用は地中の根の部分で発生している。養分の吸収は根以外に葉面からも養分を吸収されており、施肥の方法としては欠乏元素の葉面散布も拮抗作用を回避する方法として考えられるが、しかしながら葉面からの吸収量は非常に少量であり、かつ元素によっては吸収されても葉面から作物全体に移動しにくいものもあり、やはり養分吸収は根からの吸収に頼らざるを得ないのが実状である。本発明者らはかかる作物栽培上の問題点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、作物の根の部分を加里肥料や窒素肥料を旺盛に吸収する部分とそれ以外の部分に区分し、それぞれの部分に養分吸収機能を分担させることにより上記問題点が解決されることを発見した。
更にこの知見を実際の栽培の場で発現できる新しい栽培方法について日夜鋭意研究を重ねたところ、播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の肥料分と育苗培土の混合物を育苗容器に充填し、この育苗容器で播種・育苗して得られた苗を本圃に移植する園芸作物の栽培において、播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間の加里肥料の溶出が、育苗培土100mlあたり20mg以下1mg以上になるように被覆粒状加里肥料を育苗培土と混合して栽培することを特徴とする園芸作物の栽培方法が、極めて優れた効果を有することを認めた。そして更に驚くべきことに本発明の栽培方法で育苗し栽培した作物は老化しにくく、更に病虫害に犯されにくいため、通常の栽培期間を越える長期の栽培も可能であることを発見して本発明を完成した。
以上の記述からも明らかなように本発明の目的は、収穫効率を良好に維持するのに必要な量の加里及び窒素肥料を施しつつ、カルシウム及びマグネシウムの吸収を妨げない健全な園芸作物の栽培方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は以下に記載の構成を有する。
【0005】
(1)播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の肥効成分として少なくとも加里を含有する肥料と育苗培土の混合物を育苗容器に充填し、この育苗容器で播種・育苗して得られた苗を本圃に移植する園芸作物の栽培方法であって、前記肥料につき播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の加里肥料成分の溶出が、育苗培土100mlあたり20mg以下1mg以上になるように調整された被覆粒状加里肥料を育苗培土と混合して栽培することを特徴とする園芸作物の栽培方法。
【0006】
(2)播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の肥効成分として少なくとも加里を含有する肥料と育苗培土の混合物を育苗容器に充填し、この育苗容器で播種・育苗して得られた苗を本圃に移植する園芸作物の栽培方法であって、前記肥料につき播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の加里肥料及び窒素肥料の溶出が、育苗培土100mlあたりそれぞれ20mg以下1mg以上になるように、調整された被覆粒状加里肥料及び時限溶出型被覆粒状窒素肥料を育苗培土と混合して栽培することを特徴とする園芸作物の栽培方法。
【0007】
(3)播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の被覆粒状加里肥料の溶出が、育苗培土100mlあたり10mg以下1mg以上である前記(1)に記載の園芸作物の栽培方法。
【0008】
(4)播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の被覆粒状加里肥料及び被覆粒状窒素肥料の溶出が、育苗培土100mlあたりそれぞれ10mg以下1mg以上である前記(2)に記載の園芸作物の栽培方法。
【0009】
(5)被覆粒状加里肥料として、育苗期間以上の長さである初期溶出抑制期間とそれ以後の溶出期間とを有する時限溶出型の溶出パターンを示す被覆粒状肥料を使用する前記(1)から(4)に記載の園芸作物の栽培方法。
【0010】
(6)被覆粒状窒素肥料として、育苗期間以上の長さである初期溶出抑制期間とそれ以後の溶出期間とを有する時限溶出型の溶出パターンを示す被覆粒状肥料を使用する前記(2)及び(4)に記載の園芸作物の栽培方法。
【0011】
(7)被覆粒状加里肥料が、時限溶出型被覆粒状加里肥料であり、被覆粒状窒素肥料が、時限溶出型被覆粒状窒素肥料である前記(1)、(2)、(3)、(5)若しくは(6)のいづれかに記載の栽培方法。
【0012】
本発明の構成と効果につき以下に詳述する。
本発明は、播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の加里肥料を育苗培土と混合し、この混合物を育苗容器に充填して栽培することにより、作物の根を加里肥料や窒素肥料に接触・担持し旺盛に吸収する部分と、本圃の土壌中に深く伸長して地上部を支持する部分とに分け、前者に養分吸収機能を分担させることを可能とした栽培方法である。
本発明において播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の肥料分とは、生育及び収穫に必要十分な量であることが望ましいが、必ずしもその通りで無くとも本発明の目的は達成される。つまり、厳密に生育及び収穫に必要十分な量を指すものではなく、育苗期間に必要な量以外に本圃においても用いられる肥料分を含むと云う意味である。例えば育苗培土と混合する被覆粒状加里肥料の加里成分は収穫直前までの成長に必要な量にしておき、収穫時に必要な分は移植時に時限溶出型の被覆粒状加里肥料の形態で基肥として、窒素、燐酸と共に本圃に施用しても良い。
または収穫時に必要な分を追肥として施用しても良い。また、育苗培土に収穫までの溶出期間を有する被覆粒状加里肥料と被覆粒状窒素肥料を入れ、移植後の定着性促進のため移植時に速効性の加里及び窒素肥料を少量施用するなどしても構わない。この様に本発明においては作物の種類や品種、地域、栽培方法の違いなどによって基肥や追肥を行っても構わないが、当然のことながらその際の施肥は本発明の効果を損なうものであってはならない。
【0013】
本発明に係る育苗培土は特に限定されるものではなく、土壌や一般に用いられている保水性資材を用いて構わない。保水性資材としてはバーミキュライト、パーライト等の無機多孔質物質、ピートモス、バーク堆肥、水苔等の天然有機物、種々の合成有機ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。本発明において播種から収穫までに必要な量の肥料と育苗培土を混合するとは、単なる混合を意味するだけではなく、育苗培土層の上に時限溶出型被覆粒状肥料(以下、時限式肥料ということがある)をのせ時限式肥料層とし、その上に再度育苗培土をかけても良い。また、最下層に該時限式肥料を入れ、その上に育苗培土を入れ育苗培土層を作っても良い。但し、その際種子と該時限式肥料は接触している方が望ましく、種子と該時限式肥料が混合してあるか、若しくは加里を有効成分とする時限式肥料層の上に種子を置くか、若しくは該時限式肥料層の下に種子を置けばよい。
【0014】
本発明の栽培方法においては作物の根と肥料とが極めて接近した状態であり、実際にはかなり高い確率で根と肥料とが接触した状態になっていると考えられる。この様な状態においては通常肥焼けや徒長等の、肥料による濃度障害が極めて容易に発生する可能性が高いので、育苗容器内における肥料の溶出許容量と、この溶出許容量以内の溶出制御が可能な肥料形態の選択が、本発明にとって重要なポイントである。
先ず本発明における育苗期間中の加里肥料の溶出許容量は、育苗培土と混合する播種から収穫までに必要な量の肥料が加里肥料のみの場合には、育苗培土100mlあたり20mg以下1mg以上が好ましい。この範囲以下であれば育苗期間中に加里欠乏となり充分な生育が得られず、この範囲以上であれば肥焼けや徒長等の濃度障害が発生する。園芸作物の栽培における施肥量は品種や地域、栽培法などの違いによって様々であり、通常の場合前述の範囲で問題はないが、一般的な施肥量よりも多めに施肥する場合には育苗培土100mlあたり10mg以下1mg以上の範囲である方が安全である。
また、育苗培土と混合する播種から収穫までに必要な量の肥料が加里肥料のみの場合の溶出許容量は上述の通りであるが、加里肥料と共に窒素肥料も用いる場合にも、加里肥料及び窒素肥料はそれぞれ育苗培土100mlあたり20mg以下1mg以上の範囲にすべきである。更に好ましくは育苗培土100mlあたり10mg以下1mg以上であり、この際加里単独よりもかなり多く施肥されることになるため、肥料の溶出精度の正確なものを用いる必要がある。
但し、培土に本圃の土壌や、市販の育苗培土の中には加里肥料や窒素肥料を予め含んでいるものもある。この様な培土を用いる場合には、本発明における肥料の溶出量は、上記許容量から予め培土が含有している肥料量を引いた量にすべきである。
【0015】
本発明においては被覆粒状肥料を用いる。栽培期間中に必要な量の肥料を育苗培土と混合した場合、通常の化成肥料では溶解速度が速すぎ濃度障害を起こす。濃度障害を回避する為には前述の溶出許容範囲以内になるように施肥すればよいが、これでは本圃で必要な肥料分を育苗容器内に入れることは不可能である。
一方、窒素肥料の中にはアセトアルデヒド縮合尿素やイソブチルアルデヒド縮合尿素等の有機合成の緩効性肥料もあるが、これらの肥料は合成法や造粒法によって溶出が抑えるれるが、その溶出はこれら肥料の分解条件、例えばpHや微生物活性の影響が大きく、安定して施用出来ない。また、バーク堆肥や麦わら堆肥等の天然有機肥料も同様に分解速度が土壌条件によって大きく異なるため、本発明に使用することは出来ない。
この様に様々な肥料の形態について研究・探索を行った結果、粒状肥料の表面を肥料の溶出を制御する目的で、様々な被覆材で被覆したいわゆる被覆粒状肥料が本発明にとって最適な肥料形態である。
【0016】
被覆材は栽培期間中に必要な量を育苗容器に施用しても、育苗期間中の溶出が上記範囲のものであれば、何れの被膜材によるものであっても使用することが出来る。被膜材や膜構造は特に限定するものではなく、硫黄等の無機物を有効成分とするもの、フェノール樹脂やアルキド樹脂等の熱硬化性樹脂を有効成分とするもの、ポリオレフィンやポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を有効成分とするものの何れであっても本発明に用いることが出来る、単層構造のもの、2層のもの、それ以上の複数層のものであっても本発明に使用することが出来る。
これら被覆粒状肥料は有機合成や天然有機の緩効性肥料とは違い、その溶出速度は被膜の水蒸気透過性によって決定され、水蒸気透過性は温度による影響以外はほとんど受けない。よって使用する場所の温度の推移が判れば、若しくは温度を一定に管理できれば極めて安定した溶出が得られる肥料形態である。
本発明においては播種から収穫までに必要な量の加里肥料、若しくは加里肥料と窒素肥料を一度に育苗容器内に施肥し、且つ育苗期間中の肥料の溶出を育苗培土100mlあたり20mg以下1mg以上の溶出量にするため、被覆粒状肥料の育苗期間の溶出を極度に抑えることが可能な被膜材料を用いることが望ましく、この面からポリオレフィンやポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を有効成分とする被膜が好ましい。熱可塑性樹脂としてはポリオレフィン及びその共重合体及びポリ塩化ビニリデン及びその共重合体が挙げられ、ポリオレフィン及びその共重合体としてはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・一酸化炭素共重合体、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体、エチレン・アクリレート共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、ゴム系樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート等が挙げられる。更にポリ塩化ビニリデン及びその共重合体としては、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体等が挙げられる。
【0017】
作物1個体から複数回収穫する果菜類においては、本圃において長期にわたって肥料分を必要とする。この間に必要な肥料分は、葉菜類のように作物1個体あたり収穫が1回の作物よりも多量の肥料分を必要とする。この多量の肥料分を前述の溶出許容量の範囲を維持しつつ施肥する場合には、施用後一定期間溶出しない期間(誘導期間)と、一定期間経過後速やかな溶出をする期間(溶出期間)を有する、いわゆる時限溶出型の被覆粒状肥料が好ましい。
【0018】
この時限溶出型の被覆粒状肥料は何れの被膜組成のものであっても本発明に用いることができる。例えば特開平2−275792号、特開平4−202078号、特開平4−202079号、特開平5−201787号、特開平6−87684号、特開平6−191980号、特開平6−191981号に示される時限溶出型被覆粒状肥料を用いることが出来る。
しかし、実際の栽培の場面においては様々な溶出速度、パターンのものが要求されるので、初期溶出抑制期間と溶出期間の長さを任意に且つ独立に制御できる組成のものが好ましく、その点で特開平6−87684号、特開平4−202078号、特開平4−202079号は推奨される被膜である。特に特開平6−87684号に開示された方法は、初期溶出抑制期間及び溶出期間の溶出制御が厳密、且つ容易に出来るため最も推奨される時限溶出型被覆粒状肥料である。
【0019】
本発明に使用される被覆粒状加里肥料は、重炭酸加里、塩化加里、硫酸加里、硝酸加里、硫酸加里ソーダ、硫酸加里苦土、燐酸1加里、燐酸2加里等の無機態加里の何れの粒状物を使用してもよく、栽培作物、栽培条件、栽培方法、被膜組成、及び要求される溶出速度、溶出パターンによって決定されるべきものである。
本発明に使用される被覆粒状窒素肥料は、硫酸アンモニア、硫酸苦土アンモニア、塩化アンモニア、硝酸アンモニア、硝酸ナトリウム、尿素等の何れの粒状物も使用できる。使用の際には栽培作物、栽培条件、栽培方法、被膜組成、及び要求される溶出速度、溶出パターンによって決定されるべきものであるが、これらのうち尿素は最も窒素成分量が高くまた安価であり、更に溶出した直後は有機態であることから、本発明においては最も推奨される窒素肥料である。
【0020】
カルシウムやマグネシウムは、肥料の3要素である窒素や加里に比べ施肥量も少量で良く、当然作物による吸収量も少ない。通常であれば前作の残査や、酸性土壌改良材として施用される分で必要な量が賄われており、本発明の栽培方法を用いた場合には敢えてカルシウム、マグネシウムの施肥はしなくても良い場合がほとんどであるが、作物の種類や品種によって更に吸収を促進したい場合には、移植時に基肥としてカルシウムやマグネシウムを施用し、作土中におけるカルシウム、マグネシウム濃度を上げておけばよい。
【0021】
本発明は育苗容器にて播種育苗し、得られた苗を本圃に移植する栽培法をとる園芸作物であれば、如何なる作物に対しても有効である。イチゴ、メロン、トマト等の果菜類、ハクサイ、キャベツ等の葉菜類の何れであっても本発明の優れた効果を得ることが出来る。
【0022】
本発明は、播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の加里肥料を育苗培土と混合し、この混合物を育苗容器に充填して栽培することにより、作物の根を加里肥料や窒素肥料に接触・担持し旺盛に吸収する部分と、本圃の土壌中に深く伸長してゆく部分とに分け、養分吸収機能を分担させることを可能とした栽培方法である。
加里肥料や窒素肥料は育苗時に生育した根によって接触・担持していることにより、溶出した肥料分は直ちに吸収されることから、本発明の栽培方法においては溶出した肥料分の利用率が高く、施肥量の減量、省力施肥が可能となる。
更に、カルシウムやマグネシウムは一般に根の成長点からの吸収効率が高いことから、機能分担した一方の根(本圃の土壌深く伸長した根)から効率よく吸収される。これによって本発明の目的であるカリウムとカルシウム及びマグネシウムとの吸収における拮抗作用が回避できる。また、窒素を併用する場合においても同様に拮抗作用による欠乏症を起こすことなく栽培することが可能である。
【0023】
更に、本発明の栽培方法によって栽培された作物は老化しにくく、また病虫害に犯されにくく、通常の栽培期間を越えて長期にわたる栽培を行うことが可能である。老化しにくい原因は現在のところ不明であるが、本発明者らは以下のように推測している。先ず第1の要因は細胞壁の主要な構成要素であるカルシウムの吸収が促進されたことによって細胞壁が強化され、この細胞壁の強化により病原菌及び害虫の侵入が妨げられた事によると思われる。
更にカリウム、カルシウム、マグネシウム等のカチオンが多量に吸収されたことにより、アニオンであるリン酸の吸収量も増えたと考えられる。リンはエネルギー転換を司るATPなどの構成元素であり、また、光合成、呼吸における炭素代謝では随所でリン酸化(糖リン酸エステルの形成)に大きく寄与している。一方、マグネシウムは光合成における活性化因子であり、この様にマグネシウムとリン酸の吸収が旺盛に行われることにより、炭素の同化と代謝も更に活発になっている事が第2の要因として考えられる。
以下に実施例をもって本発明の効果を説明するが、本発明は以下の実施例に記載の内容に制限されるものではない。
【0024】
【実施例】
実施例1:被覆粒状肥料の製造
本発明に使用した該時限式加里及び該時限式窒素は、特開平6−87684号に示される方法で製造した。具体的な製造法を以下に示す。
図1は製造例において用いた噴流カプセル化装置を示す。1は噴流塔で塔径250mm、高さ2000mm、窒素ガス噴出口径50mm、円錐角50度で肥料投入口2、排ガス出口3を有する。噴流用窒素ガスはブロアー10から送られ、オリフィス流量計9、熱交換器8を経て噴流塔に至るが、流量は流量計、温度は熱交換器で管理され、排気は排ガス出口3から塔外に導き出される。カプセル化処理に使用される粒状肥料は肥料投入口2から所定の熱風を(N2 ガス)を通し乍ら投入し噴流を形成させる。
熱風温度はT1 、カプセル化中の粒子温度はT2 、排気温度はT3 の温度計により検出される。T2 が所定の温度になったら、被覆液を一流体ノズル4を通して噴霧状で粉粒に向かって吹き付ける。被覆液は液タンク11で攪拌しておき、粉体使用の場合は粉体が被覆液中に均一に分散されているように攪拌しておく。所定の被覆率に達したらブロアーを止め、被覆された肥料を抜き出し口7より排出する。
【0025】
本製造例では下記の基本条件を維持しつつ、被覆率が12%になるまで被覆を行なった。
一流体ノズル:開口0.8mmフルコン型
熱風量:4m3 /min
熱風温度:100±2℃
肥料の種類:6〜7meshの粒状硫酸加里、若しくは粒状尿素
肥料投入量:10kg
供試溶剤:トルエン
被覆液濃度:固形分2.5重量%
被覆液供給量:0.5kg/min
*被覆液はポンプ6より送られてノズルに至るが、100℃以下に温度が低下しないように配管を二重管にして蒸気を流しておく。
以下に記載の栽培例で使用した被覆粒状肥料の肥料と被膜組成を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例2:本発明の栽培試験に用いた被覆粒状肥料の栽培期間中の溶出測定
栽培試験で使用された被覆粒状肥料を、実施例3と同じ条件で育苗培土に混合若しくは圃場に施用した。栽培開始後10日毎に土壌中からサンプリングし、被膜内に残留している尿素、加里を測定し溶出率を算出した。尿素はPDAB法で測定し、加里は炎光法で測定した。溶出率の累計と日数の関係をグラフ化して溶出速度曲線を作成し、80%溶出率に至る日数を知ることが出来る。測定結果を図2および図3に示す。更に、実施例3において育苗培土に混合して使用したサンプルについては、育苗期間中の溶出量を表2に示した。
【0028】
【表2】
【0029】
実施例3:栽培試験−1
水俣市袋の第三紀土壌を原土とし、これに燻炭トピートモスを5:3:2の割合で混合したものを育苗培土とした。この育苗培土に予め育苗用の肥料として窒素:燐酸:加里を表2に示した量だけ混合し、更に各区毎に表2に示した圃場用肥料分を混合した後、4号黒ポリ鉢、容積800ccに入れ、6月1日ランナーを挿芽し育苗を開始した。
9月15日育苗終了日とし、本圃に定植前に生育及び生理障害(カルシウム、マグネシウム欠乏)発生の調査を行った。調査結果を表4に示す。
この様にして得られた苗を、9月15日に畦幅120cm、条間40cm2条、株間23cm、7000株/10aの栽植密度で、水俣市袋の圃場(第三紀土壌)に移植した。移植の際にも表3に示した肥料分を基肥として作土に施用した。更に、追肥は表3に示した肥料分を施用した。追肥は以後30日おきに硫酸アンモニア、重焼燐、硫酸加里をそれぞれ水に溶解、若しくは分散させたもので行った。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
比較例2のみ、カルシウムの欠乏症が認められた場合には、0.3%の塩化カルシウム溶液を、マグネシウムの欠乏症が認められた場合には1%の硫酸マグネシウム溶液の葉面散布を7日毎に行った。
生育調査は定植30日後、及び4月30日に生育及び生理障害(カルシウム、マグネシウム欠乏)発生の調査を行った。生育調査の結果を表4に示した。また、収穫は12月1日から翌年4月30日まで行った。収量はその都度記録し表5に示した。定植前の生育調査の結果から、本発明の実施例においては、慣行の施肥法である比較例1、2と同等の生育結果が得られた。
一方、育苗期間中に本発明で示した溶出許容範囲を超えて肥料が溶出した比較例3、4、5では、枯死、若しくは加里及び窒素肥料の過剰溶出による生育障害が認められた。更に比較例4及び5ではカルシウム、マグネシウムの欠乏症も認められた。比較例4及び5では育苗期間中に受けた生育障害の影響が大きく、生育期間全般、更に収穫期にまで影響し商品果の収量を著しく低下させている。
また、比較例1及び5においても生育は問題ないものの、カルシウム及びマグネシウムの欠乏症の発生により、商品果の収量を下げている。比較例2は慣行の欠乏症対策を施したことにより、欠乏症の発生を最小限に抑えることが出来、収量への影響も最小限に止めることが出来た。
【0033】
【表5】
【0034】
これに対し本発明の栽培法である実施例の各区においては、カルシウム及びマグネシウムの欠乏症はもちろのこと、その他肥料の過剰による生育障害も無く、慣行の施肥法である比較例1及び2の総収量、商品果量共に上回る良好な結果が得られた。
【0035】
一方、月別の1果重を見てゆくと、比較例1〜6の各区においては4月の重量が極端に減少している。これは苺の株本体が老化してきたためと考えられる。これに対し本発明の実施例1〜4の各区においては、4月に入って果重は低下しているものの、低下率は僅かであり依然として高い代謝活性を維持していると思われる。
更に比較例1、3、4、5においては2月中旬頃から線虫の害が認められ、2月以降の収量を著しく低下させている。また、比較例2においても3月初旬から線虫害が認められ、3、4月の収量を低下させている。これに対し本発明の実施例である1から4の各区においては、収穫終了まで線虫害は全く認められず、収穫終了まで高い収穫効率が維持できた。
【0036】
【発明の効果】
本発明は、播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の加里肥料を育苗培土と混合し、この混合物を育苗容器に充填して栽培することにより、作物の根を加里肥料や窒素肥料に接触・担持し旺盛に吸収する部分と、本圃の土壌中に深く伸長してゆく部分とに分け、養分吸収機能を分担させることを可能とした栽培方法である。
加里肥料や窒素肥料は育苗時に生育した根によって接触・担持していることにより、溶出した肥料分は直ちに吸収されることから、本発明の栽培方法によって、収穫効率を維持するのに必要な量の加里及び窒素肥料を施しても、カルシウム及びマグネシウムの欠乏症を起こさず、健全な栽培が可能となった。更に本発明の栽培方法で栽培した作物は老化しにくく、更に病虫害に犯されにくいため、通常の栽培期間を越える長期の栽培も可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用する被覆粒状肥料製造のフローシートである。
【図2】実施例2の説明図である。
【図3】実施例2の説明図である。
【符号の説明】
1:噴流塔
2:肥料投入口
3:排ガス出口
4:一流体ノズル
5:ブロアー
6:ポンプ
7:抜き出し口
8:熱交換器
9:オリフィス流量計
10:ブロアー
11:液タンク
12:ブロアー
13:液タンク
T1 :温度計
T2 :温度計
T3 :温度計
Claims (7)
- 播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の肥効成分として少なくとも加里を含有する肥料と育苗培土の混合物を育苗容器に充填し、この育苗容器で播種・育苗して得られた苗を本圃に移植する園芸作物の栽培方法であって、前記肥料につき播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の加里肥料成分の溶出が、育苗培土100mlあたり20mg以下1mg以上になるように調整された被覆粒状加里肥料を育苗培土と混合して栽培することを特徴とする園芸作物の栽培方法。
- 播種から収穫までの栽培期間中に必要な量の肥効成分として少なくとも加里を含有する肥料と育苗培土の混合物を育苗容器に充填し、この育苗容器で播種・育苗して得られた苗を本圃に移植する園芸作物の栽培方法であって、前記肥料につき播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の加里肥料及び窒素肥料の溶出が、育苗培土100mlあたりそれぞれ20mg以下1mg以上になるように、調整された被覆粒状加里肥料及び被覆粒状窒素肥料を育苗培土と混合して栽培することを特徴とする園芸作物の栽培方法。
- 播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の被覆粒状加里肥料の溶出が、育苗培土100mlあたり10mg以下1mg以上である請求項第1項に記載の園芸作物の栽培方法。
- 播種から本圃への移植に至るまでの育苗期間中の被覆粒状加里肥料及び被覆粒状窒素肥料の溶出が、育苗培土100mlあたりそれぞれ10mg以下1mg以上である請求項第2項に記載の園芸作物の栽培方法。
- 被覆粒状加里肥料として、育苗期間以上の長さである初期溶出抑制期間とそれ以後の溶出期間とを有する時限溶出型の溶出パターンを示す被覆粒状肥料を使用する請求項第1項から第4項に記載の園芸作物の栽培方法。
- 被覆粒状窒素肥料として、育苗期間以上の長さである初期溶出抑制期間とそれ以後の溶出期間とを有する時限溶出型の溶出パターンを示す被覆粒状肥料を使用する請求項第2項及び第4項に記載の園芸作物の栽培方法。
- 被覆粒状加里肥料が、時限溶出型被覆粒状加里肥料であり、被覆粒状窒素肥料が、時限溶出型被覆粒状窒素肥料である請求項第1、2、3、5若しくは第6項のいづれかに記載の栽培方法。
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