JP3541184B2 - 光造形による鋳型の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミ鋳造品等の金属鋳造品の製造に用いる鋳型の光造形による製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車、航空機、建造物、家電、玩具、日用雑貨等の各種工業分野における製品や部品の設計・デザイン構成をCAD、CAM、CAE等のコンピュター上で行う手法が広く普及している。そして、このようなコンピュター上で設計された三次元モデルを具象化した実体モデルを製作する最新の手段として、光造形法が登場している。
【0003】
この光造形法は、コンピュター上で設計モデルを厚さ数十〜数百μm単位の多数層に平行スライスした時の各断面パターンのデータを作成し、このデータを光造形装置のコントローラーに入力し、造形材料に各層の断面パターンに沿ってレーザービームを照射することにより、前記スライスした多数層を最下層から順次一層ずつ積層形成してゆき、最終的に設計モデルに対応した実体モデルを形成するものであるが、使用する造形材料によって溶液造形方式と粉体造形方式とに大別される。
【0004】
前記の溶液造形方式は、紫外線硬化型樹脂等の光硬化性樹脂の溶液を造形材料とし、レーザー光にて該樹脂成分を反応硬化させて樹脂造形物とするものである。一方、粉体造形方式は、造形材料として型砂や金属粉等の固形粉末を用い、レーザービームの熱により、粉体粒子自体を焼結させるか、混入されたバインダー成分を介して融着させ、もって粉体粒子が結着硬化した造形物とするものであり、形態確認用の実体モデルの製作のみならず、鋳造用の鋳型や樹脂成形用の金型等として実際の製品製造に用いる成形型枠の製作に利用することが期待されている。
【0005】
しかして、光造形による鋳型製作は、従来のような製品形態の木型から鋳造用砂型を製作する方法に比較し、低コストで手間を要さずに極めて短時間で行える上、非常に複雑な形状のものでも連続する部位があれば一体物として形成できるから、とりわけ流体を取り扱う様々な中空物品の鋳造に用いる中子等の製作に適している。
【0006】
例えば、図8に示すようなノズル部20a,20bを有するインゼクタ20の鋳造においては、従来の鋳型では蒸気管21、吸水室22、混合管23、溢水室24、送水管25の各空間部に対応した複数の中子を製作し、これら中子を組み付けて主型間に配置させるのが普通である。しかるに、光造形によれば、図9に示すように、全ての空間構成部31〜35を一体化した単一の中子30を容易に製作できるから、鋳造前段階の型組みに際し、該中子30を主型間に配置するだけで済み、もって作業に要する労力と時間を大幅に低減できる上、組付けの精度が高くなると共にばらつきも少なくなるため、鋳造品質及び歩留りが向上することになる。なお、図9に示す中子30は、インゼクタ20の蒸気管21,吸水室22,溢水室24,送水管25の各外側開口部となる部位に、主型に支承させるための受け部31a,32a,34a,35aが突設されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、型砂を用いた光造形による中子は、非常に複雑な形状のものでも一体物として作製できる反面、脆くて耐圧強度に劣るため、例えば前記図9に示す中子30における縊れ部30a〜30cのように局所的な断面縮小部があるもの、全体ないし部分的に細長い棒状をなすもの、全体の大きさの割に主型による受け部(はばき)が小さいもの等では、鋳造時の注湯圧によって折損や破損を生じいという難点があった。しかして、このような難点は、中子に限らず、光造形にて製作される主型の細長い突起部や薄肉部等でも同様であり、複雑な形状の立体物を短時間で容易に製作可能な光造形法が現状においては鋳型製作に活用されにくい要因となっている。
【0008】
本発明は、上述の情況に鑑み、型砂を用いた光造形による鋳型の製造方法として、耐圧強度に優れ、鋳造時の注湯圧による折損や破損を生じにくく、もって複雑な形状の立体物を短時間で容易に製作できるという光造形法の利点を最大限に活かし得る手段を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る光造形による鋳型の製造方法は、図面の参照符号を付して示せば、鋳型を構成する型部材1A〜1Cの三次元モデルM0 に線材挿通孔3A〜3Cを設定し、この三次元モデルM0 を多数層に平行スライスした際の各層を、型砂S層へのレーザービームLの照射による結着硬化層として順次に積層形成し、得られた光造形物Mの前記線材挿通孔3A〜3Cに、表面に熱硬化性樹脂液を塗布した補強線材2A〜2Cを挿入し、この光造形物Mにポストキュアを施すことを特徴としている。すなわち、この請求項1の製造方法では、光造形法の特徴を活かし、補強線材2A〜2Cを埋入するための線材挿通孔3を光造形時に同時に形成するから、後加工にて光造形物Mに該線材挿通孔3A〜3Cを形成する手間が省ける上、後加工では穿孔困難な縊れた部位や細長い部位つまり最も補強が必要な部位に対しても支障なく該線材挿通孔3A〜3Cを形成できる。しかも、ポストキュアにより、線材挿通孔3A〜3Cに挿入した補強線材2A〜2Cが予め表面に塗布していた熱硬化性樹脂の硬化を伴って光造形物Mと強く一体化するから、型部材1A〜1Cとしての耐圧強度がより向上する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1〜図5は第一実施例、図6は第二実施例、図7は第三実施例をそれぞれ示す。
【0016】
図1は、本発明の第一実施例に係る鋳型の型部材である中子1Aを示す縦断側面図である。この中子1は、図8で示すインゼクタ20の鋳造に用いるものであり、図9で示す既述の中子30と同様に、造形材料に型砂Sを用いた光造形物Mからなり、インゼクタ20における蒸気管21に対応する空間構成部11、同吸水室22に対応する空間構成部12、同混合管23に対応する空間構成部13、同溢水室24に対応する空間構成部14、同送水管25に対応する空間構成部15が一体化すると共に、インゼクタ20の蒸気管21,吸水室22,溢水室24,送水管25の各外側開口部に対応する部位に、受け部11a,12a,14a,15aが突設されている。しかして、この中子1においては、受け部11aから受け部15aに至る全長にわたり、縊れ部10a〜10cを通る中心軸に沿って直線状の補強線材2Aが埋入されている。
【0017】
インゼクタ20の鋳造に際しては、図2に示すように、主型をなす下型4と上型5との間に、上記構成の中子1Aを受け部11a,12a,14a,15aで支承されるように組み込む。そして、これら下型4及び上型5と該中子1Aとの間に構成されるキャビティ6に、アルミやその合金等の金属溶湯を注湯する。なお、6a,6bはインゼクタ20の蒸気管21及び送水管25のフランジ部21a,25a(図8参照)に対応した環状空間である。次に、注湯した金属溶湯の冷却固化後、鋳造品のインゼクタ20と一緒に該中子1Aを取り出し、振動を与えることによって該中子1Aの光造形物Mを砂粒に崩壊させ、その砂粒と補強線材2Aとを除去する。なお、下型4と上型5については、必ずしも鋳造後に壊す必要はないから、その材質及び製作手段に制約はなく、反復使用可能な金型とすることも可能である。
【0018】
この鋳造において、中子1Aの光造形物M自体は特に断面積の小さい縊れ部10a〜10cの耐圧強度が弱いが、当該中子1Aではこれら縊れ部10a〜10cを通る中心軸に沿って埋入された補強線材2Aによって耐圧強度が増大していることから、注湯圧による折損が回避される。
【0019】
このような中子1Aを製造する上で、補強線材2Aを挿入する孔を光造形物Mに後加工で設けることも不可能ではないが、本発明では、光造形法の利点を活かして予め線材挿通孔を有する光造形物Mを製作する。すなわち、中子1Aの三次元モデルをコンピュター上で設計する際、図3に示すように、予め縊れ部10a〜10cを通る中心軸に沿って受け部11aから受け部15aまで全長にわたる線材挿通孔3Aを設定し、この設計モデルを厚さ数十〜数百μm単位の多数層に平行スライスした時の各断面パターンのデータを作成し、このデータを光造形装置のコントローラーに入力し、樹脂バインダーを含む型砂を造形材料とした粉体造形方式により、自動的に光造形する。そして、図4に示すように、得られた光造形物Mの線材挿通孔3Aに補強線材2Aを挿入すればよい。
【0020】
上記の光造形は、図5(イ)に示すように、箱型の造形枠7内に配置した昇降台8上にべースプレート9を載置し、図示を省略した粉体散布装置及び均しブレードの駆動により、樹脂バインダーを含む極めて細かい型砂Sを前記平行スライスした一層分の厚みでべースプレート9上に載せ、この型砂S層の表面にレーザービームLを最下層の断面パターンに沿って照射して結着硬化層を形成し、次いで昇降台8を前記一層分の厚みだけ下降させ、新たに型砂Sを前記平行スライスした一層分に相当する厚みで載せ、同様にレーザービームLを照射して結着硬化層を形成し、以降同様にして順次一層分ずつ昇降台8を下降させて型砂Sの供給とレーザービームLの照射を繰り返し、最終的に図5(ロ)に示すように前記平行スライスした全ての層を積層一体化し、もって設計した三次元モデルを具象化した光造形物Mとする。
【0021】
この光造形では、型砂S層のレーザービームLが照射されない領域は型砂Sが未硬化でさらさらした状態であるから、造形後に線材挿通孔3A内にある未硬化の型砂Sも簡単に排出して除去できる。また、図4では光造形物Mの線材挿通孔3Aが垂直になる向きで光造形を行うようにしているが、この光造形の方向(設計モデルの平行スライスの方向)は任意に設定できる。
【0022】
かくして得られた光造形物Mは一般的にバーナーで炙って表面硬度を高めた上で加熱炉内で一定時間のポストキュアを施すが、線材挿通孔3に対する前記の補強線材2Aの挿入はポストキュアの前に行うことが望ましい。すなわち、ポストキュアに伴う熱収縮により、線材挿通孔3に挿入した補強線材2Aが光造形物Mと強く一体化し、中子1Aとしての耐圧強度がより向上する。そして、この場合に、予め補強線材2Aの表面に熱硬化性樹脂液を塗布した状態で線材挿通孔3に挿入しておくことにより、ポストキュアの熱で該樹脂を硬化させて一体化強度を更に高めることができる。
【0023】
補強線材としては、金属線材、セラミック線材、硬質合成樹脂線材等を使用できるが、強度面より特に金属線材が好適である。なお、溶湯の高熱は鋳型の表面部にしか及ばないので、硬質合成樹脂線材でも支障はない。しかして、補強線材は、前記第一実施例のように直線状のものに限らず、後述の第二実施例のような円弧状を始めとして、線材挿通孔に挿通できる範囲であれば、光造形物Mの形状に応じて緩やかな曲線状のものでも使用可能である。
【0024】
第二実施例の中子1Bは、図6の仮想線で示す曲管状の配管部材40の鋳造に用いるものであり、前記第一実施例の中子1Aと同様に光造形物Mより構成されている。しかして、配管部材40は両端にフランジ部41a,41bのある略1/4円弧状の曲管部41の途中にタンク部42が介在した構造であり、中子1Bは、該配管部材40の内側空間構成部16の両端に、主型に支承させる受け部16a,16bが突設されると共に、両受け部16a,16b間にわたって曲管部41の中心線に沿うように円弧状の補強線材2Bが埋入されている。なお、この補強線材2Bは、予め光造形時に形成していた光造形物Mの線材挿通孔3Bに挿入し、ポストキュアを経て当該光造形物Mに一体化させたものである。
【0025】
この中子1Bは、全体に細長い形状であるために光造形物Mのみであれば全体として耐圧強度が弱いが、その全長にわたって埋入された補強線材2Bによって耐圧強度が増大していることから、鋳造時の注湯圧による折損が回避される。
【0026】
図7に示す型部材1Cは、主型の一方の下型17Aに中子18が一体化された光造形物Mからなる。その鋳造対象は、該中子18周囲のキャビティ空間19から明らかなように、タンク部51の両側にノズル管52と短管53とが同心状に連結した形状の配管部材50である。しかして、型部材1Cには、光造形物Mの造形時に中子18の中心線に沿って貫設した線材挿通孔3Cを利用し、当該中子18と下型17Aの全体にわたって直線状の補強線材2Cが埋入されている。
【0027】
この型部材1Cは、図示仮想線で示す上型17Bと合わせて鋳型を構成するが、中子18が全体に細長い形状である上に、鋳造対象の配管部材におけるタンク部とノズル管との連結部位に対応する縊れ部18aを有するから、全体が光造形物Mのみであれば中子18の耐圧強度が弱い。しかるに、該中子18を貫通して下型17に至る補強線材2Bの存在によって耐圧強度が増大していることから、鋳造時の注湯圧による該中子18の折損が回避される。
【0028】
本発明は、第一〜第三実施例に例示した鋳型に限らず、様々な形状の鋳造品の製造に使用する鋳型に適用可能であり、鋳型を構成する少なくとも1個の型部材が光造形物Mからなり、この光造形物Mが構造的な脆弱部分つまり注湯圧によって折損や破損を生じ易い部分を有する場合に、その脆弱部分の耐圧強度を増大させるように補強線材を埋入した形態とするものである。しかして、型部材の内でも中子は特に注湯圧の影響を受け易いため、型砂を用いた光造形による中子に対して本発明の適用効果が大きいが、同様の光造形にて製作される上型や下型の如き主型についても、型内面側の細長い突起部や薄肉部等の耐圧強度を向上させる手段として本発明が有効である。
【0029】
一方、補強線材は、第一〜第三実施例に例示した型部材1A〜1Cでは全体を貫通するように配置しているが、型部材の脆弱部分を補強する形で部分的に埋入した配置形態としてもよい。また、鋳造対象の物品の構造から必要とあれば、一個の型部材に対して2本以上の補強線材を用いてもよい。
【0033】
【発明の効果】
請求項1に係る鋳型の製造方法によれば、型部材の光造形時に予め線材挿通孔を設け、得られた光造形物の線材挿通孔に補強線材を挿入することから、後加工にて光造形物に該線材挿通孔を形成する作業が不要となる上、後加工では穿孔困難な縊れた部位や細長い部位のように最も補強が必要な部位に対しても支障なく該線材挿通孔を形成でき、複雑な形状の立体物を短時間で容易に製作できるという光造形法の利点を最大限に活かし得る。しかも、この製造方法では、線材挿通孔に補強線材を挿入した光造形物に加熱によるポストキュアを施すと共に、予め補強線材表面に熱硬化性樹脂液を塗布しておくことから、該補強線材が光造形物と強く一体化し、型部材の耐圧強度がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施例に係る鋳型の中子を示す縦断側面図である。
【図2】同第一実施例の鋳型の組付け状態を示す縦断側面図である。
【図3】同第一実施例における中子の光造形用の三次元モデルを示す縦断側面図である。
【図4】同中子の光造形物を示す縦断側面図である。
【図5】同中子の光造形操作を示し、(イ)は造形途上の縦断側面図、(ロ)は造形終了時の縦断側面図である。
【図6】同第二実施例に係る鋳型の中子を示す縦断側面図である。
【図7】同第三実施例に係る鋳型の型部材を示す縦断側面図である。
【図8】前記第一実施例に係る鋳型の鋳造対象とするインゼクタの縦断側面図である。
【図9】同インゼクタの鋳造に用いる光造形物からなる中子の従来例を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
1A,1B 中子(型部材)
1C 型部材
2A〜2C 補強線材
3A〜3C 線材挿通孔
4,17A 下型
5,17B 上型
6,19 キャビティ
18 中子
20 インゼクタ(鋳造品)
40,50 配管部材(鋳造品)
M 光造形物
L レーザビーム
S 型砂
Claims (1)
- 鋳型を構成する型部材の三次元モデルに線材挿通孔を設定し、この三次元モデルを多数層に平行スライスした際の各層を、型砂層へのレーザービームの照射による結着硬化層として順次に積層形成し、得られた光造形物の前記線材挿通孔に、表面に熱硬化性樹脂液を塗布した補強線材を挿入したのち、この光造形物に加熱によるポストキュアを施すことを特徴とする光造形による鋳型の製造方法。
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