JP3539107B2 - 鋼材の非金属介在物評価方法 - Google Patents

鋼材の非金属介在物評価方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材、つまり圧延、鍛造や引き抜きなどの各種の方法で所要の形状に加工された鋼の非金属介在物評価方法に関するものである。より詳しくは、鋼材の非金属介在物、なかでも鋼材の製品としての特性に悪影響を及ぼす高融点の非金属介在物を効率的に精度良く評価することが可能な鋼材の非金属介在物評価方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼材中の非金属介在物(以下、単に介在物ともいう)には、MnSなどのように快削鋼中に存在して被削性を高めるなど有用な作用を有する介在物も一部存在するが、介在物の大部分は疲労寿命を低下させたり、加工性を阻害したり、破壊の起点となるなど有害なものである。例えば、自動車のラジアルタイアの補強材として用いられるスチールコード用鋼、エンジンなどのバルブ周りに用いられるバルブスプリング用鋼、軸受部品に用いられる軸受鋼などの高清浄度鋼における介在物は、伸線性や冷間加工性、耐疲労特性などの著しい低下を招く。このため、介在物を極力低減する鋼材の製造過程が採られてきた。
【0003】
鋼材中に存在する介在物の評価方法(検査方法)としては、JIS法、ASTM法や仏国のMICHELIN(ミシュラン)社が開発したMICHELIN法などが知られている。しかし、これらの従来法はいずれも光学顕微鏡による目視検査であるため、検査速度が遅く、又、測定の精度や誤差の面でも問題があるものであった。
【0004】
更に、近年の高清浄度鋼製造技術の進歩により高清浄度鋼中の介在物量は激減し、上記した光学顕微鏡による通常の評価方法では、その被検面での介在物の出現頻度が低いため、鋼材間の介在物評価指数には差が認められないのに、製品としての特性、例えば伸線加工性や冷間加工性には大きな差が認められるというように、光学顕微鏡による介在物評価指数と製品特性との間の相関が認め難くなってきた。被検面積を増やすことによって光学顕微鏡による介在物評価指数と製品特性との間には相関が認められるようになるものの、これには膨大な被検面積が必要となるので、多大な検査時間及び費用が必要となってしまう。
【0005】
一方、例えば「鉄と鋼」第75年(1989)第10号の1897〜1904ページには、電子ビーム溶解法(以下、電子ビームをEB、電子ビーム溶解法をEB法という)を用いると、上記の光学顕微鏡による検査方法の105 を超える測定視野数と同等の情報を得ることができることが報告されている。なお、EB法とは1〜3g程度の試料にEBを照射することによって短時間に試料を溶解し、試料表面に浮上した介在物を評価(検査)する方法である。
【0006】
EB法では膨大な被検面積を必要としない。このため上記の光学顕微鏡による検査方法の問題点の原因となる試料の代表性を高めることが可能であり、更に、短時間で検査を終えることができる。
【0007】
このEB法を用いた介在物評価方法に関連して、例えば、特開平5−40082号公報や特開平7−151749号公報が開示されている。
【0008】
上記のうち特開平5−40082号公報には、試料中に含まれる介在物を試料表面に効率よく浮上させることが可能な「介在物分析試料溶解方法」が提案されている。しかし、この公報で開示された技術は単にEB溶解時のエネルギー供給速度を規定しただけのものである。このため、前記公報で提案された溶解法で作成した試料を用いた場合には、鋼材の製品特性に悪影響を及ぼすアルミナ、スピネルなどの高融点系の介在物ばかりではなく、鋼材の製品特性にあまり悪影響を及ぼさないMnSやSiO2 などの低融点系の介在物をも含めた評価となってしまう。つまり、製品としての鋼材に求められる特性に悪影響を及ぼす前記の高融点の介在物に的を絞った情報が得られるというものでは必ずしもなかった。
【0009】
特開平7−151749号公報には特定のC濃度を有する鋼材をEB溶解する「線材の介在物評価方法」が開示されている。しかし、この公報に記載の技術においてはEB溶解時のエネルギー供給のための条件についての配慮が全くなされていない。このため、この公報で提案された介在物評価方法にも前記の特開平5−40082号公報で提案された技術におけると同様な問題がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みなされたもので、試料の代表性を高めるとともに短時間で測定(検査)が可能で、且つ、鋼材にとって真に有害な高融点介在物を評価できる鋼材の非金属介在物評価方法を提供すること、つまり、鋼材の製品としての特性に悪影響を及ぼす高融点の介在物を効率的に精度良く評価することが可能な鋼材の非金属介在物評価方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記の鋼材の非金属介在物評価方法にある。
【0012】
すなわち、「EB法による鋼材の非金属介在物評価方法であって、試料1g当たり、200〜600J/秒のエネルギー供給速度及び10〜25秒の照射時間で5000J以上の供給エネルギーとする条件で試料をEB溶解し、溶解浮上させた非金属介在物の面積値を測定することを特徴とする鋼材の非金属介在物評価方法」である。
【0013】
なお、非金属介在物の面積値は、例えば、試料が凝固した後に走査電子顕微鏡で非金属介在物の反射電子像を観察し、この反射電子像を画像処理装置に取り込み画像解析することによって測定すれば良い。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、EB溶解時のエネルギー供給速度及び照射時間を種々変えて介在物面積、介在物の試料表面への浮上の状況、低融点介在物の分解の状況について検討した。その結果の一例を図1、図2に示す。
【0015】
図1は、通常の方法で脱酸処理して溶製した表1に示す化学組成(とりべ分析値)を有する鋼を鋼塊としたものに、通常の方法で分塊圧延、鍛造を施して直径30mmの鋼材とし、この鋼材のR/2部(Rは鋼材の半径)から直径5.5mmで長さが5mmの試料を切り出し、試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度及び照射時間をそれぞれ150〜800J/秒、5〜30秒の範囲で種々変えて試料表面に浮上した介在物の面積を測定した結果である。
【0016】
【表1】
Figure 0003539107
【0017】
図2は、上記において照射時間を15秒とした場合の介在物の組成と試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度との関係を示したものである。
【0018】
図2にはCaとAlの酸化物が示されているが、このCaとAlは精錬時に添加するフラックスから供給されたものである。なお、図2中の「製品中介在物」は、製品から切り出して研磨した試料を用いてEPMAで定量し、組成を求めたものである。なお、図2における介在物CaO、Al23及びSiO2 の融点はそれぞれ2572℃、2050℃、1702℃であるが、CaO、Al23及びSiO2 からなる複合介在物の場合には温度を上げて行くと、SiO2 、CaO及びAl23の順に分解して行く。
【0019】
図1及び図2から下記の事項が明らかになった。
【0020】
▲1▼試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度が200J/秒未満の場合には、EBの照射時間を長くしてもエネルギーが不足するので試料は完全には溶解せず、介在物はその一部が浮上するだけである。つまり、試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度が200J/秒未満では試料中の介在物は完全には浮上しない。
【0021】
▲2▼どの照射時間においても、浮上した介在物の面積値は、あるエネルギー供給速度をピークとして漸次減少する傾向が認められ、このピーク値は試料1g当たりの供給エネルギーがほぼ5000JとなるEB照射条件に対応する。
【0022】
▲3▼試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度、つまり供給エネルギーが大きくなる程浮上した介在物の組成は高融点側にシフトする。これは試料中の介在物が一旦表面に完全に浮上した後(ピーク位置)、電子ビームによって鋼中のCによる還元反応が促進され、低融点介在物が順次分解して行くためである)。
【0023】
▲4▼上記▲1▼〜▲3▼から、試料が完全に溶解するエネルギー供給速度範囲、つまり試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度が200J/秒以上の範囲では、照射時間によってエネルギー供給速度は異なるものの、試料1g当たりの供給エネルギーがほぼ5000Jで浮上した介在物の面積が最大となり(以下、浮上した介在物の面積が最大となるところを「ピーク位置」という)、このピーク位置を境に介在物浮上状態は下記の(a)〜(c)に分類できることがわかる。つまり、(a)ピーク位置に至るまでの介在物が完全に浮上しきっていない状態、(b)ピーク位置である試料中の介在物が完全に浮上した状態、(c)ピーク位置を超え浮上した介在物が低融点のものから順次分解していき、高融点介在物が残った状態に分類できる。
【0024】
更に、本発明者らの検討の結果、試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度には上限を設ける必要があることが判明した。これは、エネルギー供給速度が大きくなりすぎると、試料溶解の初期段階で溶け始めた試料の一部に飛散(スプラッシュ)が生ずるためである。試料の溶解中に飛散が起こると、(イ)試料中に含まれる介在物も飛散してしまう、(ロ)溶解した部分の流動が激しくなって一旦表面に浮上した介在物が流動により試料内部に巻き込まれてしまう、といった問題が生じるため適切な情報が得られなくなる。したがって、上記した飛散を抑えることが重要となる。
【0025】
表2に、試料1g当たりのEB溶解時の照射時間(t)を5〜25秒とした場合のエネルギー供給速度(Ev)と飛散率(飛散が認められた試料数/溶解した全試料数)の関係を示す。
【0026】
【表2】
Figure 0003539107
【0027】
この表2から、飛散はエネルギー供給速度が600J/sを超えると顕著に現れ、飛散率で50%を超えてしまうことがわかった。
【0028】
以上の知見から、本発明においては試料1g当たりのEB溶解時のエネルギー供給速度を200〜600J/sとした。
【0029】
更に、本発明の目的が鋼材の製品としての特性に悪影響を及ぼす高融点の介在物を効率的に精度良く評価することにあることから、少なくとも既に述べた浮上介在物の面積におけるピーク値に対応するエネルギーを供給することが必要である。
【0030】
したがって、試料1g当たりの供給エネルギーを5000J以上とした。なお、この供給エネルギーの上限値は特に規定する必要はなく、15000Jであっても良い。
【0031】
試料1g当たりのEB照射時間が10秒未満の場合には、所望の5000Jの供給エネルギーを付与するのために高いエネルギー供給速度が必要となって試料溶解の初期段階で溶け始めた試料の一部に飛散が生じてしまう。一方、試料1g当たりのEB照射時間が25秒を超えると供給エネルギーが大きくなりすぎて、高融点介在物が分解を始めるようになるので適切な情報が得られなくなる。したがって、試料1g当たりのEB照射時間を10〜25秒とした。
【0032】
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。
【0033】
【実施例】
表3に示す化学組成を有する鋼を通常の方法で脱酸処理して3トン試験炉溶製し鋼塊としたものに、通常の方法で分塊圧延、線材圧延を施して直径5.5mmの線材を作製した。
【0034】
【表3】
Figure 0003539107
【0035】
上記のようにして得た線材を、EB溶解試料とするために約1gずつに切断し、通常の方法で酸洗して表面に付着している圧延スケールを除去した。次いで、アルコールによる超音波洗浄を行い、乾燥させた後EB装置(日本電子製:JEBM−3IAI)に設置した。EB装置内を1×10-5〜10-6torr程度の高真空状態にしてから、本発明例としてエネルギー供給速度を550J/秒、照射時間を15秒として試料を溶解し、通常の方法で浮上した介在物の画像を走査型電子顕微鏡にて取り込み、汎用の画像処理装置を用いてその面積値を測定した。比較例として、照射時間10秒、エネルギー供給速度450J/秒で試料をEB溶解し、前記の本発明例の場合と同様に面積値を測定した。
【0036】
一方、上記のようにして得た直径5.5mmの各線材は通常の方法で直径0.2mmまで冷間伸線した。
【0037】
図3及び図4に、測定した非金属介在物の面積値と直径5.5mmから0.2mmに冷間伸線した工程での線材1トン当たりの非金属介在物断線指数(回/トン)との関係を示す。図3は、本発明例の介在物面積値と非金属介在物断線指数との関係を示す図である。又、図4は、比較例の介在物面積値と非金属介在物断線指数との関係を示す図である。
【0038】
本発明で規定する条件から外れた比較例の方法でEB溶解した図4の場合には、非金属介在物面積値はバラツキが大きく非金属介在物断線指数との間に相関は認められない。
【0039】
これに対して、本発明で規定する条件でEB溶解した本発明例の図3の場合には、非金属介在物面積値と非金属介在物断線指数との間に明確な相関が認められる。これは、本発明の方法によれば鋼材中の高融点介在物が評価できるので、この高融点介在物に起因した伸線加工性を評価することが可能なためである。
【0040】
以上、鋼材中の高融点介在物に起因した伸線加工性の評価に関して述べたが、本発明の方法による鋼材中の高融点介在物評価は、鋼材の製品としての他の特性である冷間加工性や耐疲労特性とも良い相関を有することを確認した。
【0041】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、試料の代表性を高めるとともに短時間で測定(検査)が可能で、且つ、鋼材の製品としての特性に悪影響を及ぼす高融点の介在物を効率的に精度良く評価することができるので、迅速な製品の品質管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】EB溶解時のエネルギー供給速度と照射時間が浮上する介在物面積値に与える影響を示す図である。
【図2】EB溶解条件と浮上する介在物の組成変化の関係を示した図である。
【図3】実施例における本発明例の介在物面積値と非金属介在物断線指数との関係を示す図である。
【図4】実施例における比較例の介在物面積値と非金属介在物断線指数との関係を示す図である。

Claims (1)

  1. 電子ビーム溶解法による鋼材の非金属介在物評価方法であって、試料1g当たり、200〜600J/秒のエネルギー供給速度及び10〜25秒の照射時間で5000J以上の供給エネルギーとする条件で試料を電子ビーム溶解し、溶解浮上させた非金属介在物の面積値を測定することを特徴とする鋼材の非金属介在物評価方法。
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