JP3530378B2 - 海藻の培養方法及び培養装置 - Google Patents

海藻の培養方法及び培養装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海藻,特に高増殖
で知られる海藻の一種である不稔性アオサを海洋上で効
率よく培養する方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】アオサは海水中で成長する緑藻の一種で
比較的栄養に富む海域には顕著に見られる海藻である。
このため、従来からアオサの存在は海域の富栄養化状態
の指標の一つとされているが、応用的にも食品添加物と
して一部利用されている他、蛋白、ビタミン、ミネラル
等の栄養成分に着目し、養殖魚や家畜の飼料添加物、医
薬品等の原料等への利用技術が開発されつつある。ま
た、成長する過程で海水中の窒素、燐を吸収するため、
富栄養化海域の浄化手段として利用の可能性がある。特
に、不稔性アオサと称する変異種は従来のものに比べ、
特定の季節に成熟、世代交代することがなく、周年の培
養生産が可能になるため、大量生産種として期待され
る。
【0003】しかしながら、不稔性アオサの特徴を生か
した効率的な大量培養法は従来確立されておらず、水槽
にアオサを投入しその成長量が調査されている程度であ
った。また、不稔性アナアオサ変異種の陸上生産方法が
特開平7−203789号公報に提案されているが、こ
の方法は陸上に設置したコンクリート製等の水槽に有孔
かごを浸漬し、このかごの中に同アオサを高密度に浮遊
させ、水槽に海水をポンプで供給しながら窒素源などを
添加し培養生産するものである。しかし、この方法では
窒素源などの栄養を添加することによりアオサの成長速
度を高めようとすると、排水中の栄養流出により海域を
汚染、富栄養化させる恐れがあり、一方、窒素源などを
添加せずに培養しようとすると、不稔性アオサの成長に
必要な窒素、燐などの栄養供給のため大量の海水を供給
する必要があるが、大量の海水を水槽に流通させると有
孔かご中の不稔性アオサが水流により絡み合いながら一
個所に集積しやすくなり、海水中の栄養源や光との接触
が円滑に進まず成長が遅くなるなどの問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記技術水準
に鑑み、少ない動力費で、栄養源の添加に伴う周辺海域
の汚染、富栄養化を引き起こすことなく、海藻、特に不
稔性アオサ(不稔性アナアオサと類似の性質を有する
が、株は異なる)を効率よく培養生産することができる
方法及び装置を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は(1)上部が開
口し、周囲が外壁で囲まれ、海水面から30〜300c
mの水深の底部全面設けられた、周囲海水と連通する
口径が3〜50mmの複数の開口孔部を有する有孔壁
と、該有孔壁の下部に設けた複数の吐出孔を通じて、炭
酸ガス発生源からの供給により炭酸ガス濃度が0.5V
/ V%以下に高められた、炭酸ガス含有ガスを供給する
通気手段と、前記外壁で囲まれた内部を海水と共に海藻
が周回しうるように中央部隔壁及び周回駆動装置を設け
てなることを特徴とする海藻の海洋上培養装置及び
(2)上記(1)に記載の培養装置を海洋上に浮遊さ
せ、海藻を前記有孔壁の下部より前記複数の吐出孔を通
じて、炭酸ガス発生源からの供給により炭酸ガス濃度が
0.5V / V%以下に高められた、炭酸ガス含有ガスを
通気させながら周回させることを特徴とする海藻の培養
方法。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、図1、図2により、本発明
の不稔性アオサの培養方法及び装置の実施態様を説明す
る。図1はその平面配置を示し、図2は図1のA−A断
面を示す。図1、図2において、1は培養部10を取り
囲む外壁、2は培養部10の中央部に位置する隔壁であ
る。この隔壁2の存在により、培養部10は競争路のよ
うに周回する水路の形態をなす。外壁1、隔壁2は防錆
処理した鉄などの材料や塩化ビニルやプラスチック素材
等で製作することができる。また、海水交換を促進する
手段として外壁1の海面下の任意の位置にアオサが逸脱
しない程度の複数の小穴を設置した有孔壁6が設けられ
ている。
【0007】6は培養部10の底面を形成する有孔壁
で、培養部10の海水と窒素等の栄養が豊富な外部の海
水の交換を容易に行わせる。有孔壁の孔の口径は小さす
ぎると海水中の汚れ等により目詰まりし易く、大きすぎ
ると不稔性アオサ11の一部が外海に流出する恐れがあ
るので、3〜50mmが望ましい。有孔壁は樹脂繊維
ネットや耐海水金属性ネット等により外壁1と隔壁2に
固定される。
【0008】3は攪拌機(駆動手段)で、培養部10の
海水に一方向の緩やかな水流9を発生させ、不稔性アオ
サ11と海水中の栄養分及び太陽光との高効率な接触を
促進するとともに、有孔壁6を介して培養部10内の海
水と外部の栄養源に富む海水との交換を促進する作用を
有する。4は攪拌機3の駆動部である。攪拌は光照射量
が多く成長が速い条件では強めに、光照射量が少なく成
長が遅い条件では弱めに行い夜間は停止する。攪拌強度
の目安としては培養部10の水平方向の水流9の平均速
度として、上記効果を得るため3cm/秒以上が望まし
く、動力費低減の面より30cm/秒以内に抑えるのが
よい。
【0009】5は培養装置全体を海水に浮遊させる浮遊
体で外壁1に固定される。浮遊させた状態での海水面1
2から有孔壁6までの水深は浅すぎると海水のうねり等
により水深が安定せず不稔性アオサ11が均一に浮遊し
にくく、深すぎると装置の大型化、所要攪拌動力の増加
につながるばかりでなく、底部では光の減衰もあって成
長に寄与しにくいことから、水深は少なくと30cm以
上で300cm以内、望ましくは50cmから150c
mである。
【0010】8は有孔隔壁6とほぼ同じ水位または直下
部に設置された通気ラインで、多数の吐出孔13を有し
培養槽10内の海水を緩やかに攪拌し、不稔性アオサ1
1の栄養源である炭酸ガスを補填するとともに、培養部
10と外部の栄養源に富む海水との交換を促進する作用
を有する。7は通気手段で、電動式又は内燃エンジン式
のコンプレッサ等を用いることができる。内燃エンジン
においては、排気ガス中の炭酸ガスの一部または全部を
通気ライン8に供給し、通気ライン8の炭酸ガス濃度を
高めることにより、不稔性アオサ増殖の促進作用をもた
せることができる。また、他の炭酸ガス発生源より炭酸
ガスを引き込み、利用することもできる。通気量は培養
部10の海水1m3 当たり毎分0.01〜0.2m3
望ましく、不稔性アオサ11の成長速度が高いほど通気
量も高めに設定する。また、培養部10の下部全面に常
時通気する必要は必ずしもなく、通気部を複数区画に分
けて間欠的に通気することもできる。また、夜間は通気
を停止する。通気中の炭酸ガス濃度を高める場合は海水
のpHを大幅に変動させないため0.5V/V%以下が
望ましい。
【0011】11は培養する不稔性アオサで、攪拌機3
による水流9と、通気ライン8からの炭酸ガス含有ガス
供給により緩やかに攪拌され、培養部10内を周回しな
がら培養生産される。成長した不稔性アオサ11は適当
な孔径を有する網状の収穫手段等を用いることにより容
易に収穫できる。
【0012】
【実施例】上記構成の培養手段を用いた不稔性アオサの
培養実験例を以下に示す。海水温度:20〜28℃の富
栄養化した海水域で培養装置を海上に浮遊させた。図1
の培養部10の有孔壁までの水深を100cm、培養部
の幅を2m、長さ5mとし、中央部に隔壁2を設けて外
壁1との間に挟まれた水路部分の幅を1mとした。有孔
壁には5mm四角の開口部を有する魚網を用いた。攪拌
機として幅0.8m、長さ0.8mの長方形の羽根6枚
を中心軸に取り付けたパドルを用い、モーターで軸を回
転させ海水を攪拌した。水流9の平均流速を10cm/
秒とし昼間のみ攪拌した。通気は電動コンプレッサを用
い、有孔壁の下部より10分間毎に2分間ずつ、培養部
海水1m3 につき毎分0.05m3 で昼間のみ通気し
た。炭酸ガスはボンベより供給し、0.1V/V%の濃
度とした。
【0013】不稔性アオサ(長崎産)は培養部10内の
初期投入量として、約20g−乾燥藻体/m3 −海水と
し培養を開始した。この結果、不稔性アオサは良好に成
長し、毎日1回培養部10内の全不稔性アオサ量を回収
し、ほぼ同じ条件で水切りした状態で湿重量を測定し
た。初期の湿重量より増加した量を収穫除去して乾燥藻
体重量を測定した。残りのアオサは培養部に戻し培養し
た。これより、増加分のアオサの乾燥藻体は培養部1m
3 当たり1日に7から9gであった。
【0014】一方、対照実験Aとして、上記と同じ構成
の培養手段を陸上に設置した。ただし、底部は無孔壁と
し通気ラインは底部に設置した。この水槽に同じ海域の
海水をくみ上げて加え、温度、攪拌、通気、不稔性アオ
サの初期投入量を上記と同一の条件にして培養した。海
水は1日1回新しい海水に更新した。上記と同様にアオ
サの成長を調べた結果、増加分の不稔性アオサの乾燥藻
体は培養部1m3 当たり1日に1から3gであった。ま
た、1回/日の海水更新ごとに栄養源として硫酸アンモ
ニウムを10g/m3 添加すると、増加分のアオサの乾
燥藻体は培養部1m3 当たり1日に7から8gであり、
1回/1日の海水更新では栄養不足が成長への律速にな
ることがわかった。
【0015】別の対照実験Bとして、対照実験Aの装置
よりパドル攪拌装置を取り除いたものを用いた。水槽の
側面に海水を注入するラインを設け、反対側面より海水
を排水するラインを設置した。この注入、排出ラインを
用い、1日当たり培養部の5倍の体積に相当する海水量
が交換されるように昼間に連続的に流通させ水深は一定
に維持した。水槽の上部に長さ90cm、幅40cm、
深さ40cmで上部が開口した直方体の網かごを4個設
置した。この網かごは5mm四角の開口部を有する魚網
で製作し、発砲スチロールの浮遊体を取り付け、かご内
水深が30cmになるよう浮かせた。温度、通気を上記
実験Aと同一の条件にして培養した。不稔性アオサの初
期投入量は上記実験Aと同一であるが、その量を4個の
網かごに均等に割り付けた。この結果、増加分のアオサ
の乾燥藻体は培養部1m3 当たり1日に3から4gであ
った。
【0016】上記実験結果より、本発明の効果を以下に
説明する。本発明の実施例と対照実験Aとの比較より、
従来の方法では海水中の窒素などの栄養源が少ないため
に不稔性アオサの成長速度が低く、速度を高めるために
は栄養源の添加が必要となる。しかし、本発明の方法に
よれば栄養に富む外部海水と培養部海水との交換が効率
よく行えるため、栄養源を添加しなくても高い成長速度
を得ることができる。
【0017】対照実験Bは栄養源添加の替わりに栄養に
富む外部海水をポンプにより多量に供給する方法を用い
るものである。この方法では不稔性アオサが海水ととも
に培養部から流出するのを防ぎ、かつ藻体を高密度に保
つために有孔かごが用いられている。この方法では、対
照実験Aで栄養源添加しない条件に比べると成長速度は
高いが、有孔かご中の不稔性アオサが水流により絡み合
いながら一個所に集積しやすくなり、光や栄養源との接
触が円滑に行われず、成長速度は本発明による方法の方
が高かった。
【0018】
【発明の効果】以上のことから、本発明の海藻、特に不
稔性アオサの培養方法及び装置により、簡便な装置構成
になり、また、陸上設置型培養装置で必要となるポンプ
等に比べ少ない動力費で、栄養源の添加に伴う周辺海域
の汚染、富栄養化を引き起こすことなく、不稔性アオサ
を効率よく培養生産することができるようになった。ま
た、海水中の栄養源を利用して不稔性アオサを成長させ
るため、これを収穫することにより、富栄養化した海水
域からの栄養除去効果を併せもたせることが出来るの
で、アオサの飼料や医薬品等への適用に加え環境浄化効
果も有し経済効果にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の不稔性アオサの培養装置の一実施例の
平面配置図。
【図2】図1のA−A断面図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 菅田 清 神奈川県横浜市金沢区幸浦一丁目8番地 1 三菱重工業株式会社 基盤技術研究 所内 (72)発明者 須藤 広明 神奈川県横浜市金沢区幸浦一丁目8番地 1 三菱重工業株式会社 横浜研究所内 (72)発明者 宮坂 政司 神奈川県横浜市中区錦町12番地 三菱重 工業株式会社 横浜製作所内 (56)参考文献 特開 平5−176653(JP,A) 特開 昭54−55781(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A01G 33/00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 上部が開口し、周囲が外壁で囲まれ、
    水面から30〜300cmの水深の底部全面設けられ
    た、周囲海水と連通する口径が3〜50mmの複数の開
    口孔部を有する有孔壁と、該有孔壁の下部に設けた複数
    の吐出孔を通じて、炭酸ガス発生源からの供給により炭
    酸ガス濃度が0.5V / V%以下に高められた、炭酸ガ
    ス含有ガスを供給する通気手段と、前記外壁で囲まれた
    内部を海水と共に海藻が周回しうるように中央部隔壁及
    び周回駆動装置を設けてなることを特徴とする海藻の海
    洋上培養装置。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の培養装置を海洋上に浮
    遊させ、海藻を前記有孔壁の下部より前記複数の吐出孔
    を通じて、炭酸ガス発生源からの供給により炭酸ガス濃
    度が0.5V / V%以下に高められた、炭酸ガス含有ガ
    スを通気させながら周回させることを特徴とする海藻の
    培養方法。
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