JP3500239B2 - 析出強化型銅合金製品の電解エッチング液および電解エッチング方法 - Google Patents

析出強化型銅合金製品の電解エッチング液および電解エッチング方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、析出強化型銅合金
からなるリードフレームやコネクタ等、各種電子部品の
ための電解エッチング液および電解エッチング方法に関
するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体製品のリードフレームやコネクタ
の素材としては、当初、42アロイ、コバール等の鉄−
ニッケル合金や、スズ、ニッケル、鉄等と銅との合金が
使われていたが、これら従来の銅合金は機械的強度が不
十分であるという問題点があったため、近年はその点を
改良されたいわゆる析出強化型銅合金が広く使われるよ
うになった。
【0003】析出強化型銅合金は、銅マトリックス中に
ベリリウム、ジルコニウム、チタン、ニッケル、鉄、ケ
イ素、スズ、リン等の元素を微細に析出させてなり、一
般的な銅合金なみの導電性を有しながら機械的強度がき
わめて優れているという特長がある。特にコルソン系合
金と呼ばれるCu−Ni−Si系合金は、電子部品材料と
して高い評価を得ている。
【0004】しかしながら、この合金で作られた電子部
品は表面清浄化のためのエッチングがかなり困難であ
る。すなわち、リードフレーム等の電子部品にはシリコ
ンチップの装着やプリント配線基板への実装を容易にす
るために、あるいは接触電気抵抗を低くするために、ハ
ンダめっき、金めっき、銀めっき等を施されるが、その
前処理の、表面酸化物層および加工変質層の除去のため
のエッチング処理に一般的な銅合金用のエッチング液を
使用すると、スマットと呼ばれる嵩高で不溶性の酸化物
を表面に生じやすい。スマットが生じたものは、その後
のめっき処理においてめっき皮膜の密着不良や異常析出
を起こし、使用に耐えない不良品となる。物性的には現
在最も好ましい材料とされるコルソン系合金はとりわけ
エッチングが困難であって、大量のスマットを生じやす
い。
【0005】析出強化型銅合金製品をエッチング処理す
る方法としては、従来、フッ化物を加えた酸性液に浸漬
する方法が知られているが、フッ素イオンを含む排水の
処理費用が嵩むほか、リードフレームにフッ素イオンが
残留するとICパッケージ内の電子回路に損傷を与える
という問題点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、フッ
化物含有エッチング液を用いる場合のような不都合がな
くスマット発生のおそれもない、改良された析出強化型
銅合金製品用のエッチング液およびそれを使用するエッ
チング方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明により提供された
析出強化型銅合金製品の電解エッチング液は、アルカリ
金属炭酸塩および錯化剤を含み、pHが9〜13であり、
その組成が、5〜50%の陽極電流効率で進行する電解
エッチング処理を可能にするものであることを特徴とす
る。
【0008】本発明はまた、上記本発明による電解エッ
チング液の中でも特に優れたものによる電解エッチング
方法、すなわちアルカリ金属炭酸塩および錯化剤を含
み、pHが9〜13であり、前記錯化剤がクエン酸、グル
コン酸、酒石酸、リンゴ酸、ピロリン酸、トリポリリン
酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、2-ヒドロキシエチル
エチレンジアミントリ酢酸、ジエチレントリアミンペン
タ酢酸、ニトリロトリ酢酸、トリエチレンテトラミンヘ
キサ酢酸、およびこれらの酸のアルカリ金属塩からなる
群から選ばれたものである電解エッチング液を用い、陽
極電流密度1〜30A/dm2、陽極電流効率5〜50%の
電解エッチング処理を施すことを特徴とする析出強化型
銅合金製品の電解エッチング方法を提供するものであ
る。
【0009】
【発明の実施の形態】錯化剤を含むアルカリ性の電解エ
ッチング液は公知であるが、本発明の電解エッチング液
の最も特徴とするところは、析出強化型銅合金製品の電
解エッチングに使用したときの陽極電流効率が5〜50
%となるように組成が選ばれることである。従来の銅合
金製品用エッチング液による電解エッチングでは陽極電
流効率が70〜95%程度になるから、本発明ではこれ
を意図的に低く抑えることになる。
【0010】これは、陽極電流効率が50%以下で進行
する析出強化型銅合金製品の電解エッチングにおいては
スマットがほとんど生じないという本発明者らによる知
見に基づくものである。陽極電流効率が50%以下に抑
制された状態でなぜスマットが生じなくなるのかはよく
判っていないが、スマットの主成分がケイ素、ニッケル
等の析出合金元素の酸化物であることを考えると、陽極
電流効率が高い状態では銅イオンの溶出が優先的に進行
したあと残された他の合金元素が酸化物に酸化されてス
マットを形成するのに対し陽極電流効率が低い状態では
銅以外の合金元素も銅と並行してイオン化し溶出するの
でスマットにならないものと思われる。
【0011】もっとも、陽極電流効率が5%未満になる
と、エッチングそのものが著しく低能率になり、また、
陽極酸化による外観ムラやコゲと呼ばれる着色酸化物が
生じたりするので、必要以上に陽極電流効率を低下させ
る組成を選ぶことは避けなければならない。したがっ
て、特に望ましいのは、陽極電流効率が約10〜40%
になるように組成を選ぶことである。
【0012】陽極電流効率は、エッチング液の組成、特
に錯化剤の種類と濃度に依存する。したがって、本発明
の電解エッチング液に用いる錯化剤は、電解エッチング
処理における陽極電流効率に及ぼす影響を考慮して選択
することになる。
【0013】多くの使用条件において前記好ましい陽極
電流効率によるエッチングを可能にする錯化剤の具体例
としては、次のようなものがある。 オキシカルボン酸類:クエン酸、グルコン酸、酒石
酸、リンゴ酸等、およびこれらの酸のアルカリ金属塩。 リンのオキシ酸:ピロリン酸、トリポリリン酸等、
およびこれらの酸のアルカリ金属塩。 アミノカルボン酸類:エチレンジアミンテトラ酢酸
(EDTA)、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミント
リ酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢
酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、トリエ
チレンテトラミンヘキサ酢酸(TTHA)等、およびこ
れらの酸のアルカリ金属塩。
【0014】エッチング液におけるこれらの錯化剤の濃
度は、約10〜200g/lが適当である。10g/l未満で
はエッチングの進行がきわめて遅く、表面の酸化物層や
加工変質層を除去しきれない。また、200g/lを超え
る高濃度にすることは、200g/lに近い濃度ですでに
添加効果が飽和しているので経済的に不利になるだけで
ある。なお、錯化剤の中には濃度が高くなるとエッチン
グ処理中の陽極電流効率を高くするものがあるので、そ
のような錯化剤の場合は陽極電流効率を50%以下に抑
えることができる範囲で用いることが必要になる。
【0015】本発明の電解エッチング液に錯化剤と共に
含有させるアルカリ金属炭酸塩は、錯化剤がその錯化合
物形成能を発揮し得るpHに液を保つ作用、および、本
発明による好ましい電解エッチングを可能にする適度な
導電性を液に付与する作用をする。pHを好適範囲に調
整するだけであれば他の炭酸塩や炭酸塩以外のアルカリ
金属塩、苛性アルカリ等も使用することができるが、本
発明の目的達成を可能にするためには電離定数が一定の
範囲内にあり且つアンモニウム塩のように錯化作用を有
するものではないことが必要である。pH調整剤として
アルカリ金属炭酸塩を使用することはかかる意味で必須
となる。
【0016】アルカリ金属炭酸塩としてはナトリウム
塩、カリウム塩、リチウム塩等をいずれも使用すること
ができ、その濃度は、5〜200g/lが適当である。5g
/l未満では十分な導電性が得られず、200g/lを超え
る多量を含有させることは意味がない。実用上望ましい
濃度は10〜100g/lである。なお、アルカリ金属の
重炭酸塩と苛性アルカリを併用することによりエッチン
グ液中でアルカリ金属炭酸塩を生じさせ、同じ効果を期
待してもよいことは言うまでもない。
【0017】本発明のエッチング液を用いる析出強化型
銅合金製品の電解エッチングは、常温〜約55℃の温度
で、陽極電流密度を1〜30A/dm2程度とし、エッチン
グ量が約0.1〜1μmとなるように行うことが望まし
い。陽極電流密度が大きいほど、酸化物層や加工変質層
の除去速度すなわちエッチング速度が大きくなり、処理
に要する時間が短縮されるが、30A/dm2を超えるよう
な大きな電流密度にすると電流効率が低下してエッチン
グ速度は変わらなくなるので、電流密度を上げる利益が
ない。一方、電流密度が1A/dm2未満では、エッチング
速度が小さすぎて実際的でない。また、必要以上にエッ
チング量を大きくすることも処理結果を悪くするので避
けなければならない。なお、陽極電流効率は処理温度が
低くなるにつれて高くなる傾向があり、実際の処理温度
において5〜50%という制限範囲内に維持されること
が必要である。
【0018】本発明の電解エッチング液には、本発明の
目的達成を妨げない限り、ミスト防止、湿潤性向上等の
ための界面活性剤、その他任意の添加剤を含有させるこ
とができる。
【0019】
【実施例】表1に記載した組成の電解エッチング液を用
い、温度50℃、陽極電流密度5A/dm2または10A/d
m2で、析出強化型銅合金のテストピースを陽極にして1
分間電解エッチングを行なった。エッチング試験に用い
たテストピースは、板状のコルソン系合金KLF−12
5(Ni 3.2%,Si 0.7%,Zn 0.3%,Sn 1.25%;神戸
製鋼所製品)を180℃で10時間加熱してその表面に
酸化皮膜を生じさせたものである。
【0020】処理結果を表2に示した。なお、試験結果
の評価方法は次のとおりである。 エッチング量:重量法 陽極電流効率(%)=エッチング前後の重量差÷理論
エッチング量×100 ただし、理論エッチング量=電流値(A)×処理時間(秒)
×31.5÷96500 半田濡れ性:不活性型ロジン系フラックスを使用
し、230℃の共晶半田にテストピースを浸漬したとき
半田で被覆された面積を浸漬部面積に対する百分率で表
した。 めっき密着性:エッチング処理したテストピースに
厚さ10μmの半田めっきを施し、175℃で24時間
加熱した後、フクレの有無を顕微鏡により観察した(フ
クレを生じなかったものを“良好”、フクレが発生した
ものを“不良”と表示した。)。
【0021】
【表1】 エッチング液組成および電解条件 陽極電流密度 アルカリ 錯化剤 (A/dm2 (濃度 g/l) pH 濃度 (g/l) 実施例1 10 炭酸Na(50) 11.4 リンゴ酸Na(50) 〃 2 10 炭酸K(50) 11.4 クエン酸Na(50) 〃 3 5 炭酸Na(50) 11.3 グルコン酸Na(80) 〃 4 10 炭酸Na(50) 10.4 トリポリリン酸Na(100) 〃 5 5 炭酸K(100) 11.1 ピロリン酸K(50) 〃 6 10 炭酸Na(100) 11.6 EDTA・4Na(50) 〃 7 10 炭酸Na(100) 11.5 NTA・3Na(50) 比較例1 10 NaOH(20) 13.2 EDTA・4Na(50) 〃 2 10 メタケイ酸Na(100) 13.0 EDTA・4Na(50) 〃 3 10 炭酸Na(50) 11.4 DL-アラニン(50) 〃 4 10 炭酸NH4(50) 11.4 クエン酸Na(50)
【0022】
【表2】 処理結果 電流効率 エッチング量 半田濡れ性 エッチング めっき (%) (μm) (%) 外観 密着性 実施例1 23 0.51 100 良好 良好 〃 2 16 0.35 100 良好 良好 〃 3 22 0.24 100 良好 良好 〃 4 34 0.74 100 良好 良好 〃 5 47 0.52 100 良好 良好 〃 6 20 0.44 100 良好 良好 〃 7 36 0.79 100 良好 良好 比較例1 2 0.04 0 水酸化銅皮膜生成 不良 〃 2 0 0.00 0 茶褐色無光沢 不良 〃 3 91 2.04 0 スマット発生 不良 〃 4 52 1.12 0 スマット発生 不良
【0023】
【発明の効果】上述のように、本発明によれば析出強化
型銅合金製品のめっき前処理としての電解エッチングを
比較的安価で安全な薬剤のみを使用して容易に行い、被
処理物の表面をきわめて好ましい状態に清浄化すること
が可能になる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C25F 1/00 - 7/02

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 析出強化型銅合金製品の電解エッチング
    液において、アルカリ金属炭酸塩および錯化剤を含み、
    pHが9〜13であり、その組成が、5〜50%の陽極
    電流効率で進行する電解エッチング処理を可能にするも
    のであることを特徴とする析出強化型銅合金製品の電解
    エッチング液。
  2. 【請求項2】 析出強化型銅合金製品の電解エッチング
    液において、アルカリ金属炭酸塩および錯化剤を含み、
    pHが9〜13であり、前記錯化剤がクエン酸、グルコ
    ン酸、酒石酸、リンゴ酸、ピロリン酸、トリポリリン
    酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、2-ヒドロキシエチル
    エチレンジアミントリ酢酸、ジエチレントリアミンペン
    タ酢酸、ニトリロトリ酢酸、トリエチレンテトラミンヘ
    キサ酢酸、およびこれらの酸のアルカリ金属塩からなる
    群から選ばれたものであり、それにより5〜50%の陽
    極電流効率で進行する電解エッチング処理を可能にする
    ものであることを特徴とする析出強化型銅合金製品の電
    解エッチング液。
  3. 【請求項3】 アルカリ金属炭酸塩および錯化剤を含
    み、pHが9〜13であり、前記錯化剤がクエン酸、グ
    ルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、ピロリン酸、トリポリリ
    ン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、2-ヒドロキシエチ
    ルエチレンジアミントリ酢酸、ジエチレントリアミンペ
    ンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸、トリエチレンテトラミン
    ヘキサ酢酸、およびこれらの酸のアルカリ金属塩からな
    る群から選ばれたものである電解エッチング液を用い、
    陽極電流密度1〜30A/dm2、陽極電流効率5〜50%
    の電解エッチング処理を施すことを特徴とする析出強化
    型銅合金製品の電解エッチング方法。
  4. 【請求項4】 エッチング量が0.1〜1μmとなる範囲
    で電解エッチング処理を施すことを特徴とする請求項3
    記載の析出強化型銅合金製品の電解エッチング方法。
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