JP3475621B2 - 溶接部の靱性に優れた高強度フェライト系耐熱鋼 - Google Patents

溶接部の靱性に優れた高強度フェライト系耐熱鋼

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JP3475621B2 JP34271195A JP34271195A JP3475621B2 JP 3475621 B2 JP3475621 B2 JP 3475621B2 JP 34271195 A JP34271195 A JP 34271195A JP 34271195 A JP34271195 A JP 34271195A JP 3475621 B2 JP3475621 B2 JP 3475621B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フェライト系耐熱
鋼に係わり、特に良好なクリープ破断強度を有し、かつ
溶接ままで溶接部の靱性に優れるフェライト系耐熱鋼に
関する。
【0002】
【従来の技術】近年、火力発電プラントにおいては、熱
効率向上の観点から蒸気条件の高温高圧化が図られてい
る。また、火力発電、原子力発電などのエネルギープラ
ントや化学プラントなどの既存プラントでは、ガスター
ビンを付帯したコンバインド発電が一部のプラントにお
いて運転されている。これに伴い、ボイラ管のみならず
燃焼排ガス出側のダクトや脱硝設備などの材料について
も適正な鋼種の選定が必要となる。
【0003】現在、上記ダクトや脱硝設備などの排ガス
出側設備用材には、SUS304鋼などのオーステナイ
ト系ステンレス鋼が適用されている。しかし、オーステ
ナイト系ステンレス鋼は熱膨張係数が大きく、構造上熱
応力の点で不利なことからオーステナイト系ステンレス
鋼に比べて熱膨張係数の小さいフェライト系耐熱鋼への
代替が図られつつある。
【0004】排ガス出側設備用のフェライト系耐熱鋼と
しては、550℃もしくは600℃を超えるような高温
において、ボイラ管のように高強度である必要はないも
のの比較的高いクリープ強度を有す鋼であることが要求
される。また、その適用部位の構造および大きさが複雑
かつ大きいので、溶接後に後熱処理(Post Weld HeatTr
eatment:以下、単にPWHTという)を施すことが事実
上できないため、PWHTの省略が可能であることも要
求されている。
【0005】高強度フェライト系耐熱鋼に関しては、こ
れまでボイラ管などで2・1/4Cr−1Mo鋼が多く
適用され実績を有している。また、高温高圧化に対処し
得るフェライト系耐熱鋼としては、例えば特公昭56−
34628号公報、同57−36341号公報、特公平
3−654289号公報に示されるように、高耐食な9
〜12%Cr含有鋼にMoやWなどを添加して固溶強化
を図ることによってクリープ破断強度を向上させた鋼が
ある。しかし、これら9〜12%Cr含有鋼は、優れた
クリープ特性を有するものの靭性、特に溶接熱影響部の
靭性に乏しく、PWHTの省略が不可能であるという欠
点を有している。
【0006】靭性の向上を図ったフェライト系耐熱鋼と
しては、特開平2−232345号公報、同2−294
452号公報、同3−97832号公報に示されるよう
に、Cu添加によって靭性改善を図った鋼がある。ま
た、特公平3−75622号公報、特開平2−3103
40号公報、同3−53047号公報、同4−3715
51号公報に示されるように、Co添加により析出物の
安定化を図り、これによって靭性改善を図った鋼があ
る。しかし、これらの改良鋼についても、PWHTを省
略した場合、充分な溶接部靭性が得られないという欠点
を有している。
【0007】一方、溶接性に優れたフェライト系ステン
レス鋼としてSUS405鋼、さらには特公昭51−1
3463号公報、同61−23259号公報に示される
ステンレス鋼がある。しかし、これらのステンレス鋼は
いずれも充分なクリープ強度を有していない。
【0008】このように、従来のフェライト系耐熱鋼お
よびステンレス鋼は、650℃での耐食性に優れるこ
と、650℃でのクリープ破断強度が高いこと、P
WHTを省略しても充分な溶接部靭性を有すること、の
3つを同時に満足するものは見当たらないのが実情であ
る。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記した実
情に鑑みなされたもので、その課題は上記3つの条件、
具体的にはPWHTの省略が可能で、2・1/4Cr−
1Mo鋼と同等以上の溶接ままでの溶接部靭性と2・1
/4Cr−1Mo鋼を凌ぐ650℃でのクリープ破断強
度を有し、9〜12%Cr含有鋼と同等の650℃での
耐食性を備える8〜13%Cr含有のフェライト系耐熱
鋼を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を満たすフェライト系耐熱鋼の開発を目指し、広範囲に
わたって化学成分を種々変化させた材料について、特に
組織学的観点より系統的な調査、研究を重ねた結果、以
下の知見を得て本発明を完成するに至った。
【0011】すなわち、本発明者らは、上記のこれまで
に提案されている9〜12%Cr含有のフェライト系耐
熱鋼を用い、これら従来のフェライト系耐熱鋼がPWH
Tを必要とする原因を検討した。その結果、PWHTの
要否は、溶接後の熱影響部の最高硬さと溶金部の靭性低
下との間に強い相関関係があることを見い出し、これに
着目した。
【0012】従来からPWHTを省略しても充分な溶接
部靭性を有する2・1/4Cr−1Mo鋼の溶接ままの
溶接熱影響部の最高硬さがビッカース硬度Hv(1k
g)で350程度であるのに対し、9〜12%Cr含有
のフェライト系耐熱鋼では、Cr含有量が多いために焼
入れ性がよく、その溶接ままの溶接熱影響部の最高硬さ
がビッカース硬度Hv(1kg)で400〜450と高
く、これが溶接ままの溶接部靭性低下の原因となってお
り、この硬度を低くするためにPWHTが不可欠であっ
た。
【0013】一方、2・1/4Cr−1Mo鋼と同等以
上の溶接ままでの溶接部靭性を確保するためには、本発
明が対象とする8〜13%のCrを含有するフェライト
系耐熱鋼では、その溶接ままの溶接熱影響部の最高硬さ
をビッカース硬度Hv(1kg)で360以下に抑制す
ればよいことがわかった。
【0014】そこで、その軟質化のための手段について
種々検討した結果、溶接ままの溶接熱影響部の最高硬さ
は溶金の冷却時に鋼中に過飽和に固溶するC量に依存
し、C含有量を低減するのが最も効果的であることか
ら、そのC含有量と最高硬さとの関係を詳細に調査し
た。その結果、図1に示す関係が得られた。
【0015】図1は、C含有量を種々変化させた9%C
r−2%W−0.03%N−残部Feおよび不可避的不
純物からなる鋼を対象に、後に詳述する再現熱サイクル
試験によって製作した試験片の熱影響部の硬度を調べた
結果を示す図であり、この図からわかるように、溶接ま
まの溶接熱影響部の最高硬さをビッカース硬度Hv(1
kg)で360以下にするたには、C含有量を0.05
%以下にする必要のあることが明らかとなった。
【0016】また、鋼中に不可避的に含くまれるPおよ
びSは、溶金部および溶接熱影響部の粒界に偏析し、靭
性に悪影響を及ぼすので、これらPおよびSの含有量は
極力低く抑えることが必要であり、それぞれ0.05%
以下、0.01%以下に制限する必要があることも明ら
かとなった。
【0017】このように、鋼中に含まれるC、Pおよび
Sを同時に適正化すると、溶接ままの溶接部靭性が向上
し、PWHTの省略が可能であることがわかった。
【0018】ところが、PWHT省略のためにC含有量
を低減すると母材の強度を低下し、目標とするクリープ
強度の確保ができなくなる。しかし、固溶強化作用を有
するWを単独、あるいはMoと複合して適量、具体的に
は0.50〜2.5%(ただし、Moと複合の場合のW
は0.05%以上)を添加含有させる場合には、C含有
量の低減による溶接部靭性に何等の悪影響も及ぼすこと
なく、目標とするクリープ破断強度を確保できることが
明らかとなった。
【0019】また、オーステナイト生成元素であるCo
およびCuの1種以上を合計で0.01〜2.5%添加
含有すると、溶接時のδ−フェライト析出が効果的に抑
制され、溶接部の靭性、特に溶金部の靭性およびクリー
プ破断強度をより向上させ得ることも明らかとなった。
【0020】上記の知見に基づく本発明の要旨は、次の
(1)および(2)の溶接部靭性に優れたフェライト系
耐熱鋼にある。
【0021】(1)質量%で、C:0.01〜0.05
%、Si:0.01〜0.8%、Mn:2%以下、P:
0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:8〜13
%、Ni:0.1〜2.0%、W単独またはWとMoを
複合で:0.50〜2.5%(ただし、Moと複合の場
合のWは0.05%以上)、V:0.05〜0.30
%、Nb:0.02〜0.20%、B:0.001〜
0.01%、Al:0.005〜0.20%、N:0.
01〜0.06%を含有し、残部Feおよび不可避的不
純物からなることを特徴とする溶接部の靭性に優れた高
強度フェライト系耐熱鋼。
【0022】(2)質量%で、C:0.01〜0.05
%、Si:0.01〜0.8%、Mn:2%以下、P:
0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:8〜13
%、Ni:0.1〜2.0%、W単独またはWとMoを
複合で:0.50〜2.5%(ただし、Moと複合の場
合のWは0.05%以上)、V:0.05〜0.30
%、Nb:0.02〜0.20%、B:0.001〜
0.01%、Al:0.005〜0.20%、N:0.
01〜0.06%、CoおよびCuの1種もしくは2種
を合計で0.01〜2.5%含有し、残部Feおよび不
可避的不純物からなることを特徴とする溶接部の靭性に
優れた高強度フェライト系耐熱鋼。
【0023】なお、前述したいずれの公報にも、本発明
で対象とする8〜13%のCrを含有するフェライト系
耐熱鋼のPWHT省略時における溶接部の靭性改善のた
めの手段について示唆する記載は見当たらない。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明にいて各成分範囲を
上記のごとく限定した理由について述べる。
【0025】C:0.01〜0.05% Cは、本発明において最も重要な元素の一つであり、本
発明で対象とする8〜13%のCrを含有するフェライ
ト系耐熱鋼では、前述したように、高Crであるために
焼入性がよいことので溶接熱影響部の硬化が著しく、そ
の硬化の程度は鋼中のC含有量が高ければ高いほど著し
い。そして、C含有量が0.05%を超えると、PWH
T省略時における溶接熱影響部の最高硬さがビッカース
硬度Hv(1kg)で360を超え、溶接ままでの所望
の溶接部靭性を確保することができなくなり、本発明の
重要課題であるPWHTの省略が不可能になる。一方、
C含有量が0.01%未満になると、所望の高温強度が
得られなくなる。従って、C含有量は0.01〜0.0
5%とした。望ましい範囲は、0.01〜0.04%で
ある。
【0026】Si:0.01〜0.8% Siは、鋼の溶製時に脱酸剤として添加される元素であ
るとともに、耐食性の改善に寄与する元素でもあり、こ
れらの効果を確実に発揮させるためには0.01%のS
i含有量が必要である。一方、Si含有量が0.8%を
超えると、靭性が著しく劣化する。従って、Si含有量
は0.01〜0.8%とした。望ましい範囲は、0.0
5〜0.6%、さらに望ましい範囲は0.05〜0.5
%である。
【0027】Mn:上限2% Mnは、Siと同様、鋼の溶製時にに脱酸剤として添加
される元素であるとともに、オーステナイト組織の安定
化に寄与して強度改善に寄与する元素である。
【0028】しかし、2%を超えて過剰に含有量させる
と、著しい靭性低下を招く。従って、Mn含有量は2%
以下とした。望ましい上限は1.5%である。
【0029】なお、Mn含有量の下限は特に定める必要
はない。しかし、上記の効果を確実に発揮させるために
は、その含有量を0.2%以上、望ましくは0.5%以
上とするのが好ましい。
【0030】P:上限0.05% Pは、上記Cと同様に、本発明において最も重要な元素
の一つであり、鋼中に不可避不純物として含まれる元素
で、溶接後の溶金冷却時に粒界に偏析して靭性を劣化さ
せるが、その含有量が0.05%以下であれば何等の問
題もない。従って、P含有量は0.05%以下とした。
望ましい上限は0.04%、さらに望ましい上限は0.
035%である。
【0031】なお、P含有量は少なければ少ないほどよ
く、その下限を特に定める必要はない。しかし、低P化
には費用が嵩むので、経済性を考慮すると、その下限は
0.01%程度に留どめるのが好ましい。
【0032】S:上限0.01% Sは、上記CおよびPと同様、本発明において最も重要
な元素の一つであり、鋼中に不可避不純物として含まれ
る元素で、溶接後の溶金冷却時に粒界に偏析して靭性お
よび熱間加工性を著しく劣化させるが、その含有量が
0.01%以下であれば何等の問題もない。従って、S
含有量は0.01%以下とした。望ましい上限は0.0
05%、さらに望ましい上限は0.003%である。
【0033】なお、S含有量は少なければ少ないほどよ
く、その下限を特に定める必要はない。しかし、低S化
には費用が嵩むので、経済性を考慮すると、その下限は
0.001%程度に留どめるのが好ましい。
【0034】Cr:8〜13% Crは、耐食性を確保するのに必須の元素である。Cr
含有量が8%未満では所望の耐食性を確保することがで
きない。一方、Cr含有量が13%を超えると溶接時の
高温割れ感受性が高くなるのに加え、靭性が著しく低下
する。従って、Cr含有量は8〜13%とした。望まし
い範囲は9〜12.5%である。
【0035】Ni:0.01〜2.0% Niは、オーステナイト組織を安定化して靭性改善に寄
与する元素であり、この効果を得るためには0.01%
以上のNi含有量が必要である。しかし、Ni含有量が
2.0%を超えるとクリープ強度の低下が著しくなる。
従って、Ni含有量は0.01〜2.0%とした。望ま
しい範囲は0.1〜1.5%である。
【0036】WおよびMo:W単独またはMoと複合で
0.50〜2.5%(ただし、Moと複合の場合のWは
0.05%以上) Wは、固溶強化および微細炭化物の析出と凝集粗大化を
抑制して高温、長時間側のクリープ強度の向上に寄与す
る元素であり、C量を低く抑制した本発明鋼において所
望のクリープ強度を確保する上で必須の元素である。し
かし、W含有量が0.50%未満では所望のクリープ強
度を確保することができない。一方、W含有量が2.5
%を超えると靭性および熱間加工性が著しく劣化する。
【0037】このWは、その一部をWと同様の作用効果
を有するMoに置換することができるが、この場合、W
含有量を0.05%以上とする必要がある。その理由
は、所望のクリープ強度を確実に確保するには、Wより
もその固溶強化作用が大きいMoの効果と、Wによる微
細炭化物の析出効果を同時に発現させ必要があるためで
ある。
【0038】従って、W単独の場合の含有量またはWと
Moの複合の場合の合計含有量を、いずれも0.50〜
2.5%とし、複合の場合のW含有量を0.05%以上
とした。いずれの場合も、望ましい範囲は0.7〜2.
5%、さらに望ましい範囲は0.7〜2.2%である。
また、複合の場合の望ましいW含有量は0.2%以上、
より望ましくは0.3%以上である。
【0039】V:0.05〜0.30% Vは、鋼中のC、Nと結合して微細炭窒化物を形成し、
高温強度の向上に寄与する元素である。この効果を確実
に発揮させるためには0.05%以上のV含有量が必要
である。しかし、V含有量が0.30%を超えると靭性
低下を招くのに加え、析出物を粗大化させて高温強度を
低下させる。従って、V含有量は0.05〜0.30%
とした。望ましい範囲は0.05〜0.25%である。
【0040】Nb:0.02〜0.20% Nbは、上記Vと同様に、鋼中のC、Nと結合して微細
炭窒化物を析出し、高温強度の向上に寄与する元素であ
る。この効果を確実に発揮させるためには0.02%以
上のNb含有量が必要である。しかし、Nb含有量が
0.20%を超えると母材の焼きならし時にNbCを完
全固溶させることができず、著しい強度低下を招く。従
って、Nb含有量は0.02〜0.20%とした。望ま
しい範囲は0.03〜0.15%である。
【0041】B:0.001〜0.01% Bは、微量を含有させることにより粒界の結合を強化す
る作用がある他、炭窒化物を安定化し、クリープ強度の
向上に寄与する元素である。この効果を確実に発揮させ
るためには0.001%以上のB含有量が必要である。
しかし、B含有量が0.01%を超えると硼化物や多量
の窒化物を形成し、靭性および熱間加工性、さらには強
度を著しく低下させる。従って、B含有量は0.001
〜0.01%とした。望ましい範囲は0.001〜0.
008%、さらに望ましい範囲は0.001〜0.00
6%である。
【0042】Al:0.005〜0.20% Alは、鋼の溶製時に強力な脱酸剤として添加される元
素であり、その効果を確実に発揮させるためには0.0
05%以上のAl含有量が必要である。他方、Al含有
量が0.20%を超えると窒化物の粗大化による強度低
下と靭性劣化が著しくなる。従って、Al含有量は0.
005〜0.20%とした。望ましい範囲は0.005
〜0.15%、さらに望ましい範囲は0.005〜0.
12%である。
【0043】N:0.01〜0.06% Nは、基地に固溶あるいは窒化物、炭窒化物として析出
し、クリープ強度の向上に寄与する元素であり、この効
果を確実に発揮させるためには0.01%以上のN含有
量が必要である。一方、N含有量が0.06%を超える
と靭性が低下し、さらに溶接性に対しても悪影響を及ぼ
す。従って、N含有量は0.01〜0.06%とした。
望ましい範囲は0.01〜0.05%である。なお、N
含有量を0.05%以下とする場合には、溶接部の靭性
をより高め得る。
【0044】本発明鋼は、上記の成分の他、必要に応じ
てCoおよびCuのうちの1種または2種を選択して添
加含有させることができる。
【0045】CoおよびCu:1種以上を合計で0.0
1〜2.5% これらの元素は、いずれもオーステナイト生成元素で、
靭性を改善する作用を有している。よって、より一層の
靭性改善を図りたい場合には、いずれか一方または両方
を複合して添加含有させることができる。しかし、その
含有量が合計で0.01%未満では上記の効果は得られ
ない。一方、その合計含有量が2.5%を超えると析出
物の凝集粗大化を招き、強度および靭性が著しく低下す
る。従って、添加含有させる場合の含有量を合計で0.
01〜2.5%とした。望ましい範囲は0.05〜2.
0%、さらに望ましい範囲は0.1〜2.0%である。
【0046】なお、Coは炭化物を安定化し、高温強度
を高める作用もある。
【0047】以上詳述したように、本発明は、PWHT
省略時に優れた溶接部靭性を有すフェライト系耐熱鋼を
提供するものである。よって、本発明は使用目的に応じ
て種々の製造方法および溶接前熱処理を施すことが可能
であり、これらの相違によって本発明の効果は何等妨げ
られるものではない。また、本発明の鋼は通常の方法に
よって容易に製造することができる。
【0048】すなわち、まず溶製手段として転炉(L
D)、電気炉(EF)、真空誘導溶解炉(VIM)など
を用いて溶製することができ、またこれらを用いて溶製
するのが有効である。次いで、ESR(Electro Slag R
emelting)、AOD(Argon Oxyen Decarbrization)、
VAD(Vacuum Argon Decarbrization )、VOD(Va
cuum Oxyen Decarbrization )、LF(Ladle Furnac
e)およびその他の真空脱ガスあるいは粉体吹き込み装
置(例えば、RH、DH、CASなど)などの炉外設備
を用いるプロセスを単独もしくは併用して溶鋼を清浄化
することができ、またこれらを用いて溶鋼を清浄化する
のが有効である。
【0049】清浄化後の溶鋼は、鋳型への鋳造によるイ
ンゴットまたはスラブ、あるいは連続鋳造装置によって
スラブあるいはビレットの鋼塊となした後、分解圧延、
熱延などの適宜な製造工程を通して、例えば厚板、熱延
鋼板、さらには冷延鋼板などの使用目的に適した最終製
品形状に加工することができる。また、最終製品として
管製品を得たい場合には、上記鋼塊を分解圧延するなど
して得られたビッレトを素材として傾斜ロール穿孔圧延
機あるいは熱間押出プレスによって継目無管に加工する
か、もしくは上記熱延鋼板などの板材を素材として溶接
管に加工することができる。
【0050】このようにして加工された厚板、熱延鋼板
および冷延鋼板あるいは管製品は、圧延まま、あるいは
その目的、用途に応じて各種最終熱処理を施して製品と
することができる。通常、製品の最終熱処理としては、
焼準あるいは焼入れ(950〜1100℃×10分〜2
時間)+焼戻し(700〜800℃×10分〜10時
間)の熱処理を施すことが多いが、これに加えて熱延直
後に上記同様の焼準あるいは焼入れ+焼戻しの熱処理を
施すことも可能であり、また有効である。また、これら
の熱処理工程は、材料特性を充分に発現させるために、
必要な範囲で各処理を複数回繰り返して施すことも可能
であり、また有効である。
【0051】
【実施例】表1に示す化学成分を有する本発明鋼(No.
1〜15)と比較鋼(No. A〜H)を真空炉(高周波電
気炉)を用いて溶解し、25kgの鋼塊(インゴット)
に鋳造した後、鍛造、熱間圧延によって厚さ15mmの
板材を製造した。
【0052】なお、表1中、比較鋼のNo. A鋼はJIS
−STBA24相当鋼であり、またNo. B鋼はASTM
−A213−T91相当鋼であり、これらはいずれも従
来の代表的なフェライト系耐熱鋼である。
【0053】得られた各板材に1050℃に1時間加熱
保持後水冷する焼入れ処理を施し、次いで760℃に1
時間加熱保持後空冷する焼戻し処理を施した。ただし、
No.A鋼およびNo. B鋼については、通常行われている
条件の焼準+焼戻しを施した。すなわち、1050℃に
20分間加熱保持する焼準と、760℃に1時間加熱保
持後空冷する焼戻し処理を施した。
【0054】クリープ特性は、熱処理後の板材の圧延方
向と平行に直径6mmφ×G.L.30mmのクリープ
破断試験片を切り出し採取し、650℃×8kgf/m
2にてクリープ破断試験を行い、クリープ破断時間を
求めて評価した。
【0055】一方、PWHTの省略可否は、次に述べる
再現熱サイクル試験を行って形成させた熱影響部の最高
硬さ[ビッカース硬度Hv(1kg)]と、試験温度0
℃でのシャルピー衝撃試験により求めた衝撃値の両方を
用いて評価した。
【0056】すなわち、上記クリープ破断試験片と同様
に、熱処理後の各板材からその圧延方向と垂直に厚さ8
mm×幅12mm×長さ80mmの硬度測定用試験片
と、JIS−Z2202に規定の4号試験片で、幅のみ
を5mmにした2mmVノッチのサブサイズ試験片を切
り出し採取し、これらの試験片を図2に示すヒートパタ
ーンで高周波加熱して熱影響部を形成させた後、それぞ
れの試験を行った。なお、衝撃試験片については、その
熱影響部の中央がVノッチ部分に位置するように作成し
た。
【0057】そして、熱影響部の最高硬さが360以
下、衝撃値が50J/cm2 以上である場合をPWHT
の省略が可能、最高硬さが360超の場合をPWHTの
省略が不可能と判定した。また、最高硬さが360以下
であっても衝撃値が50J/cm2 未満である場合につ
いても、PWHTの省略が不可能と判定した。
【0058】なお、上記の再現熱サイクル試験は、溶接
熱影響部の靭性低下が厳しい側、すなわち溶接継手部の
シャルピー衝撃試験における衝撃値が最も小さく現れる
評価方法である。
【0059】これらの結果を、表2に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】表2に示す結果から明らかなように、本発
明鋼(No. 1〜15)は、いずれも再現熱サイクル試験
によって形成させた熱影響部、すなわち溶接熱影響部の
最高硬さは360以下、かつ該部の衝撃値も50J/c
2 以上であり、PWHTの省略が可能であった。ま
た、いずれもクリープ破断時間は970時間以上であっ
た。
【0063】これに対し、比較鋼中、2・1/4Cr−
1Mo鋼であるNo. A鋼は、C含有量が0.102%と
高いものの、Cr含有量が少なく焼入れ性が低いために
溶接熱影響部の最高硬さが360以下、かつ該部の衝撃
値も50J/cm2 以上であって、PWHTの省略は可
能である。しかし、Cr含有量が少なく、かつV、N
b、BおよびAlを含有しないためにクリープ破断時間
が245時間と短くクリープ強度が劣っている。また、
Cr含有量が少ないことから本発明鋼と同等の耐食性を
備えない。
【0064】また、Cr含有量が本発明の範囲内である
他の比較鋼中、No. B鋼はクリープ破断時間が5080
時間とクリープ強度に優れるものの、C含有量が0.1
10%と高いために溶接熱影響部の最高硬さが425と
高く、かつ該部の衝撃値が15J/cm2 と小さいた
め、PWHTの省略は不可能であった。さらに、No. C
鋼は、溶接熱影響部の最高硬さが277、該部の衝撃値
が136J/cm2 で、PWHTの省略は可能であった
が、C含有量が0.003%と少な過ぎるためにクリー
プ破断時間が42時間と極めて短くクリープ強度が著し
く劣っている。
【0065】また更に、No. DおよびE鋼は、溶接熱影
響部の最高硬さが360以下と低く、クリープ破断時間
も1100時間以上で本発明鋼と同等であるが、No. D
鋼についてはP、No. E鋼についてはSが本発明で規定
する上限値を超えて多すぎるために溶接熱影響部の靭性
が35J/cm2 以下と小さく、PWHTの省略は不可
能であった。No. F鋼は、クリープ破断時間も1300
時間以上で本発明鋼と同等であるが、W+Mo含有量が
本発明で規定する上限値を超えて多すぎるために溶接熱
影響部の最高硬さが378と高く、かつ該部の靭性が1
6J/cm2 と極めて低く、PWHTの省略は不可能で
あった。No. G鋼は、溶接熱影響部の最高硬さは336
と低いものの、NiおよびSの含有量が本発明で規定す
る上限値を超えて多すぎるために溶接熱影響部の靭性が
32J/cm2 と低く、PWHTの省略は不可能であっ
た。また、そのクリープ破断時間は、W、VおよびBの
含有量が本発明で規定する下限値より少なく、かつNb
を含有しないので、667時間と短くクリープ強度が劣
っている。No. H鋼は、溶接熱影響部の最高硬さは32
8と低いものの、Si、NおよびCo+Cuの含有量が
本発明で規定する上限値を超えて多すぎるために溶接熱
影響部の靭性が46J/cm2 と低く、PWHTの省略
は不可能であった。また、そのクリープ破断時間は、W
+Mo含有量が本発明で規定する下限値より少ないため
に142時間と極端に短くクリープ強度が著しく劣って
いる。
【0066】
【発明の効果】本発明のフェライト系耐熱鋼は、溶接熱
影響部の硬度および靭性が2・1/4Cr−1Mo鋼と
同等であるので、溶接施工後に施されるPWHTを省略
することが可能である。また、そのクリープ強度は従来
の9〜12%のCrを含有するフェライト系耐熱鋼に比
べて劣るものの、2・1/4Cr−1Mo鋼を遥かに凌
ぐクリープ破断強度を有している。従って、火力発電、
原子力発電および化学プラントなどの既存プラントにガ
スタービンを付帯したコンバインド発電設備の燃焼排ガ
ス出側ダクトや脱硝設備などで、溶接施工後にPWHT
を施すことが事実上不可能な550〜600℃となる耐
圧部材用材料として用いて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】再現熱サイクル試験により得られた熱影響部の
最高硬さとC量の関係を示す図である。
【図2】再現熱サイクル試験で用いたヒートパターンを
示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】質量%で、C:0.01〜0.05%、S
    i:0.01〜0.8%、Mn:2%以下、P:0.0
    5%以下、S:0.01%以下、Cr:8〜13%、N
    i:0.1〜2.0%、W単独またはWとMoを複合
    で:0.50〜2.5%(ただし、Moと複合の場合の
    Wは0.05%以上)、V:0.05〜0.30%、N
    b:0.02〜0.20%、B:0.001〜0.01
    %、Al:0.005〜0.20%、N:0.01〜
    0.06%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物か
    らなることを特徴とする溶接部の靱性に優れた高強度フ
    ェライト系耐熱鋼。
  2. 【請求項2】質量%で、C:0.01〜0.05%、S
    i:0.01〜0.8%、Mn:2%以下、P:0.0
    5%以下、S:0.01%以下、Cr:8〜13%、N
    i:0.1〜2.0%、W単独またはWとMoを複合
    で:0.50〜2.5%(ただし、Moと複合の場合の
    Wは0.05%以上)、V:0.05〜0.30%、N
    b:0.02〜0.20%、B:0.001〜0.01
    %、Al:0.005〜0.20%、N:0.01〜
    0.06%、CoおよびCuの1種もしくは2種を合計
    で0.01〜2.5%含有し、残部Feおよび不可避的
    不純物からなることを特徴とする溶接部の靱性に優れた
    高強度フェライト系耐熱鋼。
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