JP3453244B2 - 抗酵母剤 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、医薬品、化粧料、
食品等の分野で酵母の好ましくない増殖を阻止するため
に使用可能な、天然物系抗酵母剤に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】酵母は細菌類が生育しにくい低水分、低
pＨの食品中でも繁殖する能力を有し、その期待されて
いない増殖が食品の風味を著しく悪化させたり腐敗させ
たりすることがある。このため、酵母の繁殖による変
質、腐敗を起こしやすい食品のほか、医薬品、化粧料等
にも抗酵母剤を配合して保存性を向上させたり病原性酵
母による疾病を予防したりすることが行われている。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】人の口や皮膚を経由し
て体内に入ることが多い上記用途の抗酵母剤としては、
合成化学物質よりも天然物由来のものが好ましいことは
いうまでもない。また、天然物由来のものも、添加対象
物の色、匂い、味、物性等に及ぼす影響がなるべく少な
いものであることが望ましい。

【０００４】このような要望に応えるため、本発明者ら
は多くの天然物構成成分について抗酵母活性を調べ、そ
の結果、ツバキ科植物に属するチャ（Camellia sinensi
s）およびユチャ（Camellia oleifera）の種子に含まれ
ているサポニンが優れた抗酵母活性と有利な特性を有す
ることを見いだし、本発明を完成した。

【０００５】

【課題を解決するための手段】すなわち、本発明はチャ
の種子より得られたサポニンまたはそれを含有する上記
種子の抽出物を有効成分とする抗酵母剤、および、ユチ
ャの種子より得られたサポニンまたはそれを含有する上
記種子の抽出物を有効成分とする、サッカロミセス（Sa
ccharomyces）属、ハンセヌラ（Hansenula）属、クレッ
ケラ（Kloeckera）属またはチゴサッカロミセス（Zygos
accharomyces）属に属する酵母の生育阻止のための抗酵
母剤を提供するものである。

【０００６】チャの葉および種子にサポニンが含まれて
いることは早くから知られており、抽出されたサポニン
が界面活性剤として写真工業で利用されたこともある。
最近の研究によれば、葉の主サポニンと種子の主サポニ
ンは構造が異なることがわかっている（日本薬学会第４
０回年会要旨集，８８頁）。しかしながら、従来、種子
サポニンの生物活性に関する報告はなく、もちろん抗酵
母活性も知られていなかった。一方、ユチャの種子から
抽出されたサポニンについては、Candida属酵母に対し
て抗菌作用を有することが報告されている（Chemical A
bstracts,1994,Vol.121,No.5,pp.53899)。

【０００７】

【発明の実施の形態】チャまたはユチャの種子が含有す
るサポニンは、水、親水性有機溶剤またはこれらの混合
物で抽出することができる。チャおよびユチャの種子は
搾油原料として利用されることがあるが、搾油によって
サポニンが失われることはないので、それらの種子の搾
油粕も本発明の抗酵母剤の原料として利用することがで
きる。

【０００８】抽出用の親水性有機溶剤としては、メタノ
ール、エタノール等の低級アルコール、グリセリン、1,
3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価
アルコール、アセトン等が適当である。抽出方法に制限
はなく、簡単には、粉砕した種子を常温ないし沸騰点付
近の温度に維持した溶剤中に浸漬することにより有効成
分を抽出することができる。

【０００９】得られた種子抽出物に、液−液分配抽出、
各種クロマトグラフィー、膜分離等、サポニンを濃縮す
るのに有効な精製操作を施せば、本発明の抗酵母剤とし
て利用可能なサポニン含有抽出物が得られる。さらに精
製を重ねて純度の高いサポニンとすれば、より強い抗酵
母活性を有し着色やにおいも少ない抗酵母剤となる。

【００１０】チャまたはユチャの種子のサポニンからな
る本発明の抗酵母剤は、菓子や米飯上で増殖して有機溶
媒臭を産生する Hansenula anomala，Kloeckera apicul
ata等、および漬物調味液に産膜を生成して商品価値を
低下させる Zygosaccharomyces rouxii 等の各酵母に対
して特に強い抗菌作用を示す。

【００１１】一方、チャまたはユチャの種子のサポニン
は有効量を食品に添加しても風味の劣化を招くことがな
く、また化粧料に添加しても皮膚刺激性を示すなどの不
都合がない。

【００１２】したがって、本発明の抗酵母剤は酵母増殖
による食品の変質、腐敗や中毒事故等を防止したり、医
薬品や化粧品の効果と品質安定性を高めるための添加剤
として好適のものである。

【００１３】本発明の抗酵母剤の有効成分であるサポニ
ンは熱やpＨ変化に対して安定な化合物であり、また水
への溶解性もよいので、これを製剤化したり食品、医薬
品、化粧品に添加したりするのに格別の困難はない。製
剤化に当たっては、サポニン単独で、あるいは他の抗菌
剤、保存料その他任意の補助成分と共に、粉剤、粒剤、
乳剤、水和剤等、任意の剤形に製剤化することができ
る。サポニンと共に製剤化することができる抗菌剤の具
体例を挙げると、合成品では安息香酸またはその塩類、
オルトフェニルフェノールまたはその塩類、ソルビン酸
またはその塩類、チアベンダゾール、デヒドロ酢酸また
はその塩類、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、プ
ロピオン酸またはその塩類、さらし粉、次亜塩素酸また
はその塩類等があり、天然物由来のものではε−ポリリ
ジン、リゾチーム、コウジ酸、しらこ蛋白、ベニコウジ
エキス、アチートエキス、アニスエキス、イチジク葉エ
キス、ウーロン茶エキス、エゾウコギエキス、オレガノ
エキス、カルダモンエキス、カワラヨモギエキス、柑橘
種子エキス、カンゾウエキス、キャラウェイエキス、キ
ンマエキス、クローブエキス、クミンエキス、クランベ
リーエキス、クワエキス、ケイヒエキス、ササエキス、
サフランエキス、サンショウエキス、シソエキス、シナ
モンエキス、ショウガエキス、セージエキス、ダイズエ
キス、タイムエキス、（ヤナギ）タデエキス、タマリン
ド種皮エキス、ターメリックエキス、ティーツリーエキ
ス、トウガラシエキス、ナツメグエキス、ニンニクエキ
ス、バジルエキス、ハッカエキス、バニラエキス、パプ
リカエキス、ヒノキエキス、ヒバエキス、ピメンタエキ
ス、フェンネルエキス、ブドウ果皮エキス、ペパーエキ
ス、ペパーミントエキス、ホオノキエキス、ホコツシエ
キス、ホップエキス、マジョラムエキス、ムクロジエキ
ス、メースエキス、モウソウチクエキス、モミガラエキ
ス、ユーカリエキス、ユッカエキス、緑茶エキス、レン
ギョウエキス、ローズマリーエキス、ローレルエキス、
ワサビエキス等がある。

【００１４】食品の保存性向上のために使用する場合
は、その食品の製造原料に混合するか、製造工程の任意
の段階で半製品もしくは製品に塗布、噴霧、浸漬等の方
法により付着させるか混入する。

【００１５】本発明の抗酵母剤の好適使用量はその抗酵
母剤の組成、剤形、添加対象物の種類等によって異なる
が、一般的には、作用状態におけるサポニン濃度が約
０.０００１〜０.１重量％程度になるようにすることが
望ましい。

【００１６】

【実施例】

製造実施例１ チャ種子１kgに５０％メタノール１０リットルを加え、
還流下に２時間加熱してサポニンを抽出した。得られた
抽出液を減圧下に濃縮し、さらに乾燥して、チャ種子抽
出物１９０ｇを得た。

【００１７】このチャ種子抽出物１００ｇを水１リット
ルに溶解し、３リットルの塩化メチレン、３リットルの
n-ブタノールを順次用いて分配抽出を行い、塩化メチレ
ン可溶性画分７ｇ、n-ブタノール可溶性画分２９ｇを得
た。抽出されずに水層に残った固形分は６４ｇであっ
た。

【００１８】製造実施例２ 脱脂ユチャ種子１kgに９０％アセトン１０リットルを加
え、還流下に２時間加熱してサポニンを抽出した。得ら
れた抽出液を減圧下に濃縮し、さらに乾燥して、ユチャ
種子抽出物３５０ｇを得た。

【００１９】このユチャ種子抽出物１００ｇを水１リッ
トルに溶解し、イオン交換樹脂・ダイヤイオンＨＰ−２
０（三菱化成；３リットル）のカラムに流した。次いで
水および濃度２５％、５０％、７５％および１００％の
メタノール各１０リットルを順次通液して、水溶出画分
（４０.８ｇ)、２５％メタノール溶出画分（１６.３
ｇ)、５０％メタノール溶出画分（１０.１ｇ)、７５％
メタノール溶出画分（１９.９ｇ）および１００％メタ
ノール溶出画分（９.８ｇ）を得た。

【００２０】試験例１ 上記製造実施例１，２で得られた抽出物およびその分画
物について、薄層クロマトグラフィーによるサポニンの
確認、および下記の方法による抗酵母活性の確認試験を
行なった。また、参考例として、茶葉の５０％エタノー
ル抽出物（サポニンを含まない）についても同様の試験
を行なった。

【００２１】抗酵母活性確認試験：下記Ａ〜Ｈの酵母に
ついて、ポテトデキストロース寒天培地を用いた寒天培
地希釈法における最小生育阻止濃度・ＭＩＣを求める。
なお培養は温度３０℃で３日間行い、生育の有無は肉眼
で判定した。

【００２２】Ａ：Saccharomyces cerevisiae Ｂ：Candida albicans Ｃ：Candida famata Ｄ：Hansenula anomala Ｅ：Kloeckera apiculata Ｆ：Pichia nakazawae Ｇ：Pichia carsonii Ｈ：Zygosaccharomyces rouxii

【００２３】試験結果を表１および表２に示す。なお、
製造実施例２によるユチャ抽出物およびその分画物につ
いてのCandida属酵母２種類（Ｂ,Ｃ）およびPichia属酵
母（Ｆ，Ｇ）に対する試験結果は参考値である。サポニ
ンは、“＋”の数が多いほど含有量が多く、“−”はサ
ポニンが検出されなかったことを示す。表中の数値・Ｍ
ＩＣが小さいほど、抗菌活性が強い。“Ｘ”は、最高濃
度５００μg/mlでも菌の生育が認められたこと（抗菌活
性がないこと）を示す。

【００２４】

【表１】 最小生育阻止濃度・ＭＩＣ（μg/ml) 酵 母 サポニン Ａ Ｂ Ｃ Ｄ 製造実施例１ ５０％メタノール抽出物 ＋ 62.5 250 250 62.5 塩化メチレン可溶画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ n-ブタノール可溶画分 ＋＋ 31.3 125 125 31.3 分配抽出残渣 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 製造実施例２ ９０％アセトン抽出物 ＋ 62.5 250 250 62.5 ＨＰ-２０樹脂カラム処理 水溶出画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 25％メタノール溶出画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 50％メタノール溶出画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 75％メタノール溶出画分 ＋＋ 62.5 250 250 62.5 100％メタノール溶出画分 ＋＋＋ 31.3 125 125 31.3 茶葉50％エタノール抽出物 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ

【００２５】

【表２】 最小生育阻止濃度・ＭＩＣ（μg/ml) 酵 母 サポニン Ｅ Ｆ Ｇ Ｈ 製造実施例１ ５０％メタノール抽出物 ＋ 125 62.5 500 125 塩化メチレン可溶画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ n-ブタノール可溶画分 ＋＋ 62.5 31.3 250 62.5 分配抽出残渣 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 製造実施例２ ９０％アセトン抽出物 ＋ 125 62.5 500 125 ＨＰ-２０樹脂カラム処理 水溶出画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 25％メタノール溶出画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 50％メタノール溶出画分 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ 75％メタノール溶出画分 ＋＋ 125 62.5 500 125 100％メタノール溶出画分 ＋＋＋ 62.5 31.3 250 62.5 茶葉50％エタノール抽出物 − Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.⁷，ＤＢ名) A61K 35/78 A23L 3/3472

Claims (4)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 チャの種子より得られたサポニン含有抽
   出物を有効成分とする抗酵母剤。
2. 【請求項２】 チャの種子より抽出されたサポニンを有
   効成分とする抗酵母剤。
3. 【請求項３】 ユチャの種子より得られたサポニン含有
   抽出物を有効成分とする、サッカロミセス（Saccharomy
   ces）属、ハンセヌラ（Hansenula）属、クレッケラ（Kl
   oeckera）属またはチゴサッカロミセス（Zygosaccharom
   yces）属に属する酵母の生育阻止のための抗酵母剤。
4. 【請求項４】 ユチャの種子より抽出されたサポニンを
   有効成分とする、サッカロミセス（Saccharomyces）
   属、ハンセヌラ（Hansenula）属、クレッケラ（Kloecke
   ra）属またはチゴサッカロミセス（Zygosaccharomyce
   s）属に属する酵母の生育阻止のための抗酵母剤。